土方美雄
最後のヤスクニ・レポート その6
(前回よりの続きです)
たとえば、同年末の「共同通信」による世論調査では、首相の靖国参拝に賛成43.2%、反対が47.1%と、それでも後者が前者を若干、上回っているものの、ほぼ同時期に、「朝日新聞」が20代・30代の若者に対して行った調査では、20代では賛成60%に対し、反対15%、30代でも賛成59%に対し、反対22%と、いずれも、首相の靖国参拝を支持する声が、圧倒的に大きなものになっているのである。
その背景には、確かに、今の若者が、靖国神社が歴史的に果たした役割について、ほとんど何も知らないということもあるかもしれないが、もちろん、それだけでなく、「国のために戦って死んだ人が祀られている神社に、首相が参拝するのは当然」、それに対し、「中国や韓国がいちゃもん(不当な内政干渉)をつけるのは、許し難い」という、極めて感情的な反発が、とりわけ、若者の中では、極めて大きなものになりつつあるのではないかということをも、私たちはやはり、キチンと見ておく必要があるのではないか。
つまり、近隣諸国の反発は、少なくとも、首相の靖国参拝へのブレーキにはならず、それとはまったく反対に、かえって、若者の排外主義を助長するベクトルへと、働きつつあるのである。こうしたことを、安倍首相は見据えているのだといったら、それは彼に対する過大評価になるのだろうか?
安倍政権は今、集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、また、その法的整備としての安保関連法案11本を、衆議院で、与党の圧倒的数の力で、問答無用とばかり、強行採決するなど、明確に「戦争の出来る国」へと、大きく、踏み込もうとしている。これは実質的な改憲以外の、何者でもない。
日本が「戦争の出来る国」、否、「戦争をする国」になれば、戦死者が出るような事態も、当然、想定される。これまでの戦後の靖国問題は、ある意味、リアルな「新たな戦死者」を想定して来なかったが、これからは違う。新たな戦死者(具体的には、自衛隊員)が出て、その「みたま」が、仮に靖国神社に合祀されるという状況下で、首相や閣僚が、文字通り、国を代表して、靖国神社に参拝することに対し、一体、どれだけの人が、反対の声をあげるだろうか?私たちは、いずれ、そうした問題に、必ず、直面するとになるのである。
これが、今日の靖国問題の、核心点である。
天皇が靖国神社に参拝しない理由
靖国推進勢力の最終目的は、靖国神社の国家護持と、天皇の靖国公式参拝の実現である。ところが、天皇の靖国参拝は、1975年以降、ただの一度も行われていない。それは、一体、何故なのかという点について、最後にごく簡潔に、記しておこう。
その一番大きな、第一の理由は、1979年、その前年の78年に、靖国神社に密かにA級戦犯が合祀されたことを、マスコミが報じたことである。当時の富田宮内庁長官が記した「富田メモ」によれば、そのことを知った昭和天皇は、「親の心子知らず」だと、強い「不快感」を示したのだ、そうである。これは同時期の、卜部侍従の日記にも、「靖国神社の御参拝をお取りやめになった経緯 直接にはA級戦犯合祀が御意に召さず」云々との記載があり、昭和天皇がそのことに不快感を示し、以降の靖国参拝を取りやめたことは、どうやら、事実のようである。
ただ、そのことを昭和天皇の平和主義の現れだなどと考えるのは、大きな間違いで、実は、占領軍の判断如何では、当然、自らがA級戦犯視されたであろうことへの、昭和天皇の強い恐怖心の現れと考えるべきだろうと、私としては、そう考える。A級戦犯を祀った靖国神社に参拝することで、その共犯者視され、自らの戦争責任を追及されることを、彼は何よりも、恐れたのである。
その理由の第二は、各地で提訴された政教分離裁判の影響である。特に、一九九一年の岩手靖国訴訟の高裁判決では、首相・閣僚のみならず、天皇の公式参拝も「違憲」であると、明確に断じている。
この問題で司法の判断がわかれ、その一部ではあれ、「違憲」判断が出ている状況下では、とても天皇に参拝などさせられないという判断が、宮内庁サイドにも、あるのである。
つまり、情況が変われば、天皇や宮内庁の考えもまた、変わる。この期におよんで、安倍のファシズムへの、あたかも対抗軸であるかのように、明仁天皇や皇太子の「護憲」思想などに期待する人もいるが、天皇制は制度であって、天皇や皇太子その人の思想・信条の問題などでは、断じて、ない。明仁天皇や皇太子が、どのように「好人物」かなどと、論議してみても、どうしようもないのである。
(以下、続く)
この最後のヤスクニ・レポートは、次回で終了し、あとは、まとめに入ります。長々と続いた、この連載も、もう少しで、終わります。その後は、各地の靖国訴訟や政教分離訴訟の担い手や、現役世代の反靖国運動の活動家に、可能であれば、バトンタッチさせていただきたいと、そう考えています。
本稿は、土方美雄「戦争の出来る国・ニッポンと死せる自衛隊員の合祀、その時、果たして、天皇は靖国神社に参拝するのか」(『リプレーザ』第2期第8号, 2015年、発売元・社会評論社)の転載です。
