反靖国〜その過去・現在・未来〜(45)

土方美雄

最後のヤスクニ・レポート その5

そして、「有識者」による「閣僚の靖国神社参拝問題に関する懇談会」による「(憲法の掲げる信教の自由等に)配慮すれば、合憲」との結論を、無理矢理引き出すと、1985年8月15日、初めての「公式参拝」実施に、踏み切った。

ところが、中曽根首相の公式参拝強行は、中国や韓国等、アジア各国の猛反発を呼び起こし、翌86年、政府は「公式参拝は合憲」という立場には何ら変化はないと、強弁しつつも、「近隣諸国への配慮」も必要……と称して、8月15日の首相の公式参拝を見送る方針を、打ち出した。以降、長い間、首相の公式参拝は、「近隣諸国への配慮」を理由に、毎年、見送り続けられることになる。

そうした、いわば閉塞情況を打ち破って、2001年以降、在任中、実に6度もの靖国神社への参拝を強行し、近隣諸国の猛反発にも、頑として耳を貸さなかったのが、小泉首相である。しかしながら、その結果として、国内でも各地で、小泉首相靖国参拝違憲訴訟が提訴され、福岡と大阪では「違憲」判断が出た。ちなみに、私も東京での違憲訴訟に、原告のひとりとして加わったが、残念ながら、「政府のお膝元」である東京の裁判所では「違憲」判断を引き出すことは、出来なかった。

それへの対応と共に、近隣諸国からの批判を何とかかわすため、政府は「小泉以降」を見据えて、水面下で密かに、様々な対応策を検討したが、そのいずれもが、頓挫することになった。

そのひとつは、A級戦犯分祀の策動と、その挫折である。1978年、靖国神社に密かに、東京裁判において、有罪となり、処刑された、東条英機ら14人のA級戦犯が、戦死でも、戦病死でもないのに、特例的に、「昭和受難者」として美化され、合祀されていたことが、マスコミによって暴露され、大騒ぎになった。このことを、中国等近隣諸国が、靖国神社=軍国主義の象徴として、大々的に批判したため、政府は姑息にも、A級戦犯のみを、靖国神社の祭神から取り下げることは出来ないかと、A級戦犯の遺族や靖国神社に水面下で働きかけ、いずれも、拒否された。

ここで、私たちが確認しておかねばならないことは、中国等が批判しているのは、靖国神社にA級戦犯が合祀されているからではなく、そのA級戦犯を「昭和受難者」として合祀するような靖国神社の歴史認識、同神社が果たしてきた、その歴史的役割そのものであるということである。

もうひとつは、その歴史性から、どうしても、完全には侵略讃美神社の痕跡を完全にぬぐうことが出来ず、また、神社である以上、どのように強弁しようとも、憲法の政教分離原則にも抵触せざるを得ない靖国神社にかわる、「新たな慰霊施設」の建設の検討である。

まずは、福田官房長官の私的諮問機関として、「追悼・平和祈念のための祈念碑等施設の在り方を考える懇談会」が、有識者を集めて設立され、同懇談会は2002年に、「国を挙げて追悼・平和祈念を行うための国立の無宗教の恒久的施設が必要」との報告書をまとめて、解散した。しかし、与党自民党内には、靖国神社国家護持を目指す勢力があまりにも多く、当然、その猛反発もあって、同懇談会の結論は、その後、完全に宙に浮いたままになった。

A級戦犯分祀もダメ、「新たな慰霊施設」もダメと、万策尽きた政府は、小泉以降、再び、「近隣諸国への配慮」のため、8月15日の首相の靖国参拝見送りへと、逆戻りするしか、方策がなかった。

もちろん、首相の参拝見送りを、いわば「隠れ蓑」に、多くの閣僚や国会議員の靖国参拝は、その後も、「個人の自由」をタテにとって、相変わらず、継続されていたのである。

安倍首相による靖国参拝と、「戦争の出来る国」づくり

そして、2013年12月26日、安倍晋三首相が、第2次安倍内閣成立ちょうど1年目の節目の日に、靖国神社への参拝を強行した。根っからの右翼軍国主義者で、靖国神社への参拝を、その悲願としていた安倍にとって、それは、文字通り、満を持した行動であったといえるだろう。

一応、8月15日は避けたものの、そうでなくても、領土問題や従軍慰安婦問題で悪化していた、中国や韓国との関係は最悪になり、これは安倍の想定外であったかもしれないが、アメリカ政府もまた、「日本は大切な同盟国であり友好国だが、日本の指導者が近隣諸国との関係を悪化させるような行動をとったことに、アメリカ政府は失望している」という声明を、駐日大使館を通して、正式に表明した。

文字通り、一見「針のムシロ」状態とでもいうべき安倍政権だが、これはあるいは、安倍にとって、いずれ乗り越えられる、織り込み済みの問題であったのかもしれない、とも思う。それは、首相の靖国参拝に対する「国民感情」の、大きな変化である。

(以下、続く)

本稿は、土方美雄「戦争の出来る国・ニッポンと死せる自衛隊員の合祀、その時、果たして、天皇は靖国神社に参拝するのか」(『リプレーザ』第2期第8号, 2015年、発売元・社会評論社)の転載です。

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