天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議

天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議の開催について

平成28年9月23日
内 閣 総 理 大 臣 決 裁

1.趣旨
 天皇の公務の負担軽減等について、様々な専門的な知見を有する人々の意見を踏まえた検討を行うため、高い識見を有する人々の参集を求めて、天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議(以下「有識者会議」という。)を開催する。

2.構成
(1)有識者会議は、別紙に掲げる有識者により構成し、内閣総理大臣が開催する。
(2)有識者会議の座長は、出席者の互選により決定する。
(3)有識者会議は、必要に応じ、関係者の出席を求めることができる。

3.庶務等
(1)有識者会議の庶務は、内閣官房において処理する。
(2)内閣官房は、必要に応じ、宮内庁、内閣法制局その他関係省庁の協力を求めるものとする。

4.その他
 前各項に定めるもののほか、有識者会議の運営に関する事項その他必要な事項は、座長が定める。


(別紙)

天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議メンバー

今井敬  日本経済団体連合会名誉会長
小幡純子 上智大学大学院法学研究科教授
清家篤  慶應義塾長
御厨貴  東京大学名誉教授
宮崎緑  千葉商科大学国際教養学部長
山内昌之 東京大学名誉教授   (五十音順)

 第 1回  2016年10月17日 
 第 2回  2016年10月27日
 第 3回  2016年11月 7日 
 第 4回  2016年11月14日 
 第 5回  2016年11月30日 
 第 6回  2016年11月 7日
 第 7回  2016年11月14日 
 第 8回  2017年 1月11日 
 第 9回  2017年 1月23日 
第10回  2017年 3月22日 
第11回  2017年 4月 4日
第12回  2017年 4月 6日 
第13回  2017年 4月13日  
第14回  2017年 4月21日  


最 終 報 告

2017年4月21日
天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議

目 次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

I 最終報告の取りまとめに至る経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

II 退位後のお立場等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
 1 退位後の天皇及びその后の称号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
 2 退位後の天皇及びその后の敬称・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
 3 退位後の天皇の皇位継承資格の有無・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
 4 退位後の天皇及びその后の摂政・臨時代行就任資格の有無・・・・・・・・・・7
 5 退位後の天皇及びその后の皇室会議議員就任資格の有無・・・・・・・・・・・8
 6 退位後の天皇及びその后の皇籍離脱の可否・・・・・・・・・・・・・・・・・9
 7 退位後の天皇が崩御した場合における大喪の礼の実施の有無・・・・・・・・10
 8 退位後の天皇及びその后の陵墓・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

III 退位後の天皇及びその后の事務をつかさどる組織・・・・・・・・・・・・・12

IV 退位後の天皇及びその后に係る費用等・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
 1 退位後の天皇及びその后に係る費用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
 2 天皇の退位に伴い承継される由緒物への課税の有無・・・・・・・・・・・・13

V 退位後の天皇の御活動のあり方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

VI 皇子ではない皇位継承順位第一位の皇族の称号等・・・・・・・・・・・・・15
 1 称号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
 2 事務をつかさどる組織・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
 3 皇室経済法上の経費区分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
 4 その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

別添 今後の検討に向けた論点の整理(平成29年1月23 日)・・・・・・・・21
「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」について
別添はこちら→

はじめに

 「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」は、内閣総理大臣から、今上陛下の御公務の負担軽減等のために、どのようなことができるのか検討を行うよう要請を受け、平成 28 年10 月以来、14回の会合を開き、議論を重ねてきた。
 当会議としては、この度の問題が、国家の基本に関するものであるとともに、長い歴史とこれからの未来にとって極めて重い課題であると受け止め、天皇の国政への関与を禁じている日本国憲法の規定等にも留意しつつ、様々な分野の専門的な知見を有する方々の意見や、世論の動向等も参考にしながら、国民に広く受け入れられるような結論を得るべく、慎重に議論を進めてきた。
 議論の中では、現行の法制度の立法趣旨や法解釈、御公務の現状やこれまでの見直しの推移、歴史上の事例、諸外国における関連制度や事例など、様々な観点から本件を分析してきた。昨年11月には、天皇の御公務の負担軽減等を図る方策について、皇室制度、歴史、憲法などの分野の専門的な知見を有する 16 名の方々から幅広く意見を伺った。また、本年3月からは、更に、医学、皇室史などの分野の専門的な知見を有する4名の方々から意見を伺うとともに、退位を実現する場合における退位後のお立場等のあり方について、議論を深めてきた。
 この最終報告は、こうした議論を積み重ね、本年1月の中間的な論点整理を経て、今上陛下の退位が実現した場合におけるお立場や称号等についての当会議での議論を最終的に取りまとめたものである。

I 最終報告の取りまとめに至る経緯

天皇は、日本国及び日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づくものである。

 有識者会議においては、天皇の御公務の負担軽減等を図る方策について、このような天皇の地位に鑑み、多くの国民の意見を酌み取るため、様々な見解を有する専門家の意見も伺い、幅広い観点から議論を重ねた。この過程においては、憲法上の問題や、長い皇室の歴史を踏まえた論点など、多岐にわたる課題が浮き彫りとなり、また、国民の中にも様々な考え方があることが明らかとなった。
 天皇の御公務の負担軽減等を図る方策としては、運用による負担軽減、現行制度(臨時代行制度)の活用、設置要件拡大による摂政設置、退位など、様々な方策があることが明らかとなったが、当会議としては、予断を持つことなく、静かな環境で議論を重ねることに努めた。
 こうした中、当会議における議論で明らかとなった論点や課題を分かりやすく整理した上で、国民に公表することが重要と考え、本年1月、「今後の検討に向けた論点の整理」(別添参照)を取りまとめ、公表した。この論点整理は、本件に関する国民の理解と関心を深め、国民的な議論を喚起することとなったものと考えている。
 本年3月には、「「天皇の退位等についての立法府の対応」に関する衆参正副議長による議論のとりまとめ」が政府に伝えられた。この中で、今上陛下の退位を可能とするための立法措置として、皇室典範(昭和 22 年法律第3号)の附則に特例法と皇室典範の関係を示す規定を置くこととされた。退位の具体的措置等については、皇室典範の特例法であることを示す題名の法律で規定することとされるとともに、天皇の退位に関連して検討を要する主な法律の規定が示された。安倍晋三内閣総理大臣からは、「厳粛に受け止め、直ちに法案の立案に取りかかり、速やかに法案を国会に提出するよう、全力を尽くしたい」との発言があった。
 当会議においては、この発言を踏まえ、今上陛下の退位が実現した場合におけるお立場や称号等の残された法律上の措置を要する課題等について、本年3月以降、専門家からの意見も伺いながら、議論を進めてきた。
 以下、その議論を整理して述べることとする。

II 退位後のお立場等

退位後の天皇及びその后のお立場等のあり方について検討するに当たっては、まず、我が国の皇室の制度が長い歴史と伝統を有することを十分に踏まえる必要がある。

 同時に、現行の日本国憲法において、天皇が、日本国及び日本国民統合の象徴であって、国民の総意によるものと位置付けられていることに鑑み、国民の理解と支持が得られるものとすることが必要である。
 一方で、従来、退位の弊害として、退位後の天皇と新天皇の間で象徴や権威の二重性が生じるという問題が指摘されていることから、このような弊害を生じさせないようにすることが求められている。
 以下、このような観点に留意しつつ、退位後のお立場等が国民に広く受け入れられるものとなるよう、検討を行うこととする。

1 退位後の天皇及びその后の称号
(1)退位後の天皇の称号

【歴史及び現行制度の概要】
○律令において、退位後の天皇は「太上天皇」と称されている一方、「日本紀略」(平安時代に編纂された歴史書)などにおいて「上皇」の記載が見られる。
○皇室典範第5条は、崩御された先々代・先代の天皇の后に「太皇太后」、「皇太后」という称号を規定している。
○海外においては、ベルギーやスペインなどのように、退位後の国王が引き続き「国王」と称される例が多いが、オランダのように、退位後の女王が「王女」に戻る例も見られる。

 歴史上、律令においては、退位後の天皇は「太上天皇」と称されていた。しかしながら、新天皇との関係で、象徴や権威の二重性の問題を回避する必要があることを踏まえれば、退位後の天皇の称号に「天皇」という文言が含まれることは、別々の「天皇」が並び立つかのような印象を与えることから、避けることが望ましい。
 また、象徴や権威の二重性を回避する観点から、「前天皇」や「先の天皇」のような呼称とする意見もある。しかしながら、「太上天皇」と同様に「天皇」という文言が含まれていること、また、皇室典範が崩御した先々代・先代の天皇の后について「太皇太后」や「皇太后」の称号を規定していることと整合を欠くことから、避けることが望ましい。
 一方、「上皇」は、「太上天皇」の略称として用いられた経緯はあるものの、一般にはこれまで特に略称と意識されることなく、退位後の天皇の称号として広く受け入れられ、定着したものであったと考えられる。
 また、「上皇」には「天皇」という文言は含まれておらず、象徴や権威の二重性を回避する観点からは好ましい。
 「上皇」には、なお院政をイメージするとの意見もあるが、退位後の天皇の称号として定着してきた歴史と、象徴・権威の二重性回避の観点を踏まえ、現行憲法の下において象徴天皇であった方を表す新たな称号として、「上皇」と称することが適当である。
 なお、国際的にも、「上皇」の概念が正しく理解されるよう、適切な英訳が定められることが望ましい。

(2)退位後の天皇の后の称号

【歴史及び現行制度の概要】
○天皇の退位後において、その嫡妻 30方のうち、天皇在位時の称号を継続した方が 13方、女院号に変更した方が9方、「皇太后」に変更した方が6方、(「中宮」から)「皇后」に変更した方が2方おり、退位後の天皇の后の称号について、一般的なルールはなかった。
○皇室典範第5条は、崩御された先々代・先代の天皇の后に「太皇太后」、「皇太后」という称号を規定している。

 天皇の退位後、その后は、歴史上、「皇后」、「女院」、「皇太后」など様々な称され方をしており、称号に関する統一された考え方が存在するわけではない。
 皇室典範は、先代の皇后に当たる方の称号として、「皇太后」という称号を規定している。この「皇太后」という称号については、近代より前は、特段未亡人の意味合いを有していたわけではなかったが、明治の皇室典範の制定以降、皇位継承事由が崩御に限られたことから、崩御した先代の天皇の后、すなわち未亡人との意味合いを帯びたものとして受け止められるようになった。実際、皇室典範制定時に官報(昭和22年1月16 日)に掲載された英訳においても、「皇太后」は「the Empress Dowager(未亡人)」とされている。
 こうした背景を踏まえつつ、現代における退位後の天皇の后の称号を考える場合、「皇太后」の称号は、退位後の天皇の配偶者であることが分かりにくく、また、常に御夫妻として御活動を重ねられてきた天皇皇后両陛下に係る称号としてふさわしいものなのか疑問がある。
 退位後の天皇の称号については、現行憲法下でのお立場を踏まえた新たな称号として「上皇」が適当であることを踏まえれば、これまで天皇陛下と常に御活動を共にされてきた皇后陛下にふさわしい称号としては、「上皇」という新たな称号と一対になる称号とすることが望ましい。
 皇室典範及び皇室経済法(昭和22年法律第4号)は、天皇及び男性皇族との婚姻により皇族の身分を取得した女性皇族の称号は、「皇后」、「皇太子妃」、「親王妃」、「王妃」など、天皇及び男性皇族の称号と、その配偶者であることを表す文字(后、妃)を組み合わせたものとしている。
 これを踏まえれば、退位後の天皇の后については、退位後の天皇の称号と、その配偶者であることを表す文字を組み合わせた称号とすることとし、「上皇」の后として「上皇后」とすることが適当である。
 なお、「上皇后」という称号は、歴史上使用されたことのない称号であるため、この称号に込められた意義が国民に正しく理解されるよう努めていく必要がある。また、国際的にも、「上皇后」の概念が正しく理解されるよう、適切な英訳が定められることが望ましい。

2 退位後の天皇及びその后の敬称

【現行制度の概要】
○皇室典範上、天皇、皇后、太皇太后及び皇太后の敬称は「陛下」、それ以外の皇族の敬称は「殿下」とされている。
○海外においては、ベルギーやスペインなどのように、引き続き「陛下」とされる例が多いが、オランダのように「殿下」とされる例もある。

 皇室典範において、天皇・皇后の敬称が「陛下」であり、崩御された先々代・先代の天皇の后である太皇太后・皇太后の敬称も「陛下」とされていることと整合を図るべく、退位後の天皇及びその后の敬称は「陛下」とすることが適当である。

3  退位後の天皇の皇位継承資格の有無

【現行制度の概要】
○皇室典範第1条及び第2条は、全ての皇族男子を皇位継承資格者とし、皇位継承順位を付している。

 天皇御自身による御公務の継続が将来的に困難になるという状況を踏まえて退位を実現することとなるのであれば、退位後の天皇が再度皇位に就くことは、退位の理由と矛盾することから、退位後の天皇は、皇位継承資格を有しないこととすることが適当である。

4 退位後の天皇及びその后の摂政・臨時代行就任資格の有無

【現行制度の概要】
○皇室典範及び国事行為の臨時代行に関する法律(昭和39年法律第 83号)上、親王妃及び王妃を除く全ての成年皇族が摂政・臨時代行に就任できることとされている。

(1)退位後の天皇の摂政・臨時代行就任資格の有無
 天皇御自身による御公務の継続が将来的に困難になるという状況を踏まえて退位を実現することとなるのであれば、退位後の天皇が新たな天皇の代理たる摂政・臨時代行に就くことは、退位の理由と矛盾し、また、代行者として天皇と同等の御活動を行うことは、象徴や権威の二重性の問題が生じる可能性もあることから、退位後の天皇は、摂政や臨時代行に就任する資格を有しないこととすることが適当である。

(2)退位後の天皇の后の摂政・臨時代行就任資格の有無
 現行制度において、皇后、太皇太后、皇太后は、摂政・臨時代行に就任できるとされていることと整合を図るべく、退位後の天皇の后については、摂政や臨時代行に就任することを妨げないこととすることが適当である。

5 退位後の天皇及びその后の皇室会議議員就任資格の有無

【現行制度の概要】
○皇室典範上、皇室会議の皇族たる議員及び予備議員は、成年に達した皇族2人ずつを互選により選ぶこととされている。
○皇后、太皇太后、皇太后を含む全ての成年皇族は、皇室会議議員に就任できるとされている。

(1)退位後の天皇の皇室会議議員就任資格の有無
 天皇御自身による御公務の継続が将来的に困難になるという状況を踏まえて退位を実現することとなるのであれば、退位後の天皇が特別の制度的役割を担うことは、退位の理由と矛盾し、また、象徴や権威の二重性の問題が生じる可能性もあることから、退位後の天皇は、皇室会議議員に就任する資格を有しないこととすることが適当である。

(2)退位後の天皇の后の皇室会議議員就任資格の有無
 皇室典範上、皇后、太皇太后、皇太后を含む全ての成年皇族が皇室会議議員の就任資格を有することに鑑みれば、退位後の天皇の后については、皇室会議議員に就任することを妨げないこととすることが適当である。

6 退位後の天皇及びその后の皇籍離脱の可否

【現行制度の概要】
○皇室典範上、
・15歳以上の内親王、王及び女王は、その意思に基づき、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる
・親王(皇太子及び皇太孫を除く)、内親王、王及び女王は、上記のほか、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる
とされている。
○皇籍離脱後は一般国民と同じ身分となる。

 現行制度において、天皇、皇后、皇太子、皇太子妃が皇籍を離脱することはないものとされていること、先代の天皇・皇后が一般国民として御活動をされることは、象徴としてお務めを果たされた天皇とその后のあり方としてふさわしいものではないことに鑑みれば、退位後の天皇及びその后については、皇籍を離脱することはないものとすることが適当である。

7 退位後の天皇が崩御した場合における大喪の礼の実施の有無

【歴史及び現行制度の概要】
○歴史上、退位後の天皇の御喪儀は、同時代の天皇のそれと概ね同等に行われていた。
○皇室典範上、「天皇が崩じたときは、大喪の礼を行う」とされている。
○大喪の礼は、戦後皇室典範に新たに規定された名称の儀式であり、昭和天皇崩御に際して、宗教性のない国の儀式として初めて挙行された。

 皇室典範の規定により、天皇が崩御した際に行われることとされている大喪の礼は、国の儀式として行われる天皇の御喪儀であり、日本国及び日本国民統合の象徴の崩御に際し、広く国民及び諸外国の代表と共に葬送申し上げる趣旨であると解される。
 このような観点からは、天皇であられた方が崩御した場合にも国の儀式として葬送申し上げることが適当であることや、歴史上も、退位後の天皇の御喪儀は、同時代の天皇のそれと概ね同等であったこと、海外においても、退位後の国王等の御葬儀は国葬として行われ、崩御した前国王等と関係の深い他国の国王・王族等が参列することが多いこと等に鑑みれば、退位後の天皇に対しても、大喪の礼を行うことが適当である。
 なお、昭和天皇の大喪の礼の具体的な内容は閣議決定等で定められていることに鑑み、退位後の天皇の大喪の礼の具体的な内容についても、その時々の状況を踏まえ検討し、閣議決定等により定められることになるものと考える。

8 退位後の天皇及びその后の陵墓

【歴史及び現行制度の概要】
○歴代天皇を葬る所は、退位の有無にかかわらず、例外なく「陵」と称している。
○近代以降、「陵」と「墓」は、その規模や形状の面で大きな違いがあり、大正天皇以降の天皇・皇后の「陵」は武蔵陵墓地(東京都八王子市)に、皇族の「墓」は豊島岡墓地(東京都文京区)に、それぞれ営建されている。なお、今後の天皇・皇后の「陵」については、「今後の御陵及び御喪儀のあり方について」(平成25 年 11月 14日宮内庁公表)に基づき、先代までよりも縮小したものとすることとされている。
○皇室典範上、天皇、皇后、太皇太后及び皇太后を葬る所は「陵」、その他の皇族を葬る所は「墓」とされている。

 歴史上、天皇を葬る所は、退位の有無にかかわらず、その規模・形状を問わず、例外なく「陵」と称されていることや、皇室典範上、皇后、太皇太后、皇太后を葬る所を「陵」としていることと整合を図るべく、退位後の天皇及びその后を葬る所は、「陵」とすることが適当である。

III 退位後の天皇及びその后の事務をつかさどる組織

【歴史及び現行制度の概要】
○歴史上は、退位後の天皇に奉事して院中の庶務を掌理し、あるいは雑務に従事する職員として「院司」が置かれていた。
○昭和天皇崩御後、宮内庁法(昭和22年法律第70号)が改正され、当時の皇太后陛下の事務をつかさどる組織として「皇太后宮職」が置かれた(皇太后陛下崩御により廃止)。
○宮内庁法に基づき、天皇・皇后の事務をつかさどる組織として「侍従職」、皇太子家の事務をつかさどる組織として「東宮職」が置かれ、宮内庁組織令(昭和27年政令第 377号)に基づき、宮家の皇族の事務をつかさどる組織として、宮内庁長官官房に「宮務課」が置かれている。

 現行の宮内庁法においては、天皇及び皇太子については、世帯ごとに事務をつかさどる組織が置かれている。また、昭和天皇が崩御した際には、当時の皇太后陛下の事務をつかさどる独立した組織として「皇太后宮職」が置かれた。
 歴史的には、退位後の天皇に仕える特別の組織が置かれることが通例であった。
 このような歴史を踏まえれば、退位後の天皇及びその后の事務をつかさどる独立した組織を設けることが適当である。この場合、退位後の天皇の称号として「上皇」が適当であることを踏まえれば、組織の名称は「上皇職」とし、天皇及び皇后の事務をつかさどる組織である「侍従職」に倣い、「上皇侍従長」及び「上皇侍従次長」を置くことが適当である。

IV 退位後の天皇及びその后に係る費用等

1 退位後の天皇及びその后に係る費用

【現行制度の概要】
○皇室経済法上、天皇並びに皇后、太皇太后、皇太后、皇太子、皇太子妃、皇太孫、皇太孫妃及び内廷にあるその他の皇族が、内廷費の対象とされている。
○同法上、上記以外の皇族が、皇族費の対象とされている。

 皇室経済法において、太皇太后や皇太后に係る日常の費用は内廷費から支出されていることに鑑みれば、退位後の天皇及びその后についても、日常の費用は内廷費から支出することが適当である。

2 天皇の退位に伴い承継される由緒物への課税の有無

【現行制度の概要】
○皇室経済法上、「皇位とともに伝わるべき由緒ある物は、皇位とともに、皇嗣が、これを受ける」こととされている。
○相続税法(昭和25年法律第73号)及び地方税法(昭和25年法律第226号)において、由緒物は非課税とされている。

 天皇の退位に伴い、三種の神器(鏡・剣・璽)や宮中三殿(賢所・皇霊殿・神殿)などの皇位と共に伝わるべき由緒ある物(由緒物)は、新たな天皇に受け継がれることとなるが、これら由緒物の承継は、現行の相続税法によれば、贈与税の対象となる「贈与」とみなされる。
 一方、相続税法第 12 条は、由緒物の価額は相続税の課税価格に算入しない、すなわち非課税である旨を明示的に規定しており、昭和天皇の崩御に伴い今上陛下が由緒物を相続された際には、この規定の適用により由緒物に対する相続税は非課税とされた。
 このこととの均衡を考えれば、退位に伴う場合であっても、皇位継承に伴う由緒物の承継であることには変わりはないことから、相続の場合と同様に由緒物に対する贈与税も非課税とすることが適当である。

V 退位後の天皇の御活動のあり方

 天皇の退位については、従来、退位後の天皇と新天皇との間で、象徴や権威の二重性が生じる可能性が懸念されてきたところであるが、これは、退位後にどのような御活動をされるかによるところが大きい。
 退位後の天皇の御活動のあり方については、第8回会合において、宮内庁から、「仮に御代替わりがあった場合には、宮内庁としては、陛下が象徴としてなされてきた行為については、基本的に全て新天皇にお譲りになることになるものと理解している。したがって、象徴が二元化することはあり得ないと考えている」との説明があった。
 象徴や権威の二重性を回避する観点からは、このような整理が適切であると考えられる。

VI 皇子ではない皇位継承順位第一位の皇族の称号等

【歴史及び現行制度の概要】
○歴史皇位継承については、江戸時代までは、次期皇位継承者が確定した時点等において、立太子の礼を行い、その方に皇太子の身分を授けることが通例であった。称号については、皇子(天皇の子)である場合だけでなく、兄弟やその他の親族である場合も、「皇太子」と称されることが大半であった。なお、弟宮が次期皇位継承者とされた例は18例あるが、このうち次期皇位継承者と定められる際に、天皇によって称号が「皇太弟」と定められたことが明らかな例は3例である。
 明治の皇室典範制定以降は、皇位継承順位が皇室典範に規定され、皇位継承順位第一位の皇族が儀式等を経ずに明らかになった。しかしながら、例えば昭和元年から昭和8年までの間は、即位当時25歳であった昭和天皇の弟宮である秩父宮雍仁親王殿下が皇位継承順位第一位であったものの、当時の皇室典範の規定するところの「儲嗣タル皇子(皇位継承順位第一位である天皇の子)」ではないことから、「皇太子」と称されず、次期皇位継承者であることを示す儀式等も行われなかった。その後、昭和8年に今上陛下が皇太子として御誕生になり、昭和27年に立太子の礼が行われた。
○皇太子の称号
・皇室典範上、皇嗣(皇位継承順位第一位の皇族)たる皇子を「皇太子」というとされている。皇嗣たる天皇の弟宮については、特段の称号がない。
○事務をつかさどる組織
・宮内庁法に基づき、皇太子に関する事務をつかさどる組織として、宮内庁に「東宮職」が置かれている。
・宮内庁組織令に基づき、皇族(内廷にある皇族を除く)に関する事務をつかさどる組織として、宮内庁長官官房に「宮務課」が置かれている。同課において、秋篠宮家・常陸宮家・三笠宮家・高円宮家のお世話を行っている。
○天皇及び皇族の御手元金
・内廷費:天皇並びに皇后、皇太子、皇太子妃及び内廷にあるその他の皇族の日常の費用その他内廷諸費に充てるために、毎年支出されるものである。現在、その額は、皇室経済法施行法(昭和22年法律第113号)第7条の規定に基づき、3億 2,400万円とされている。
・皇族費:皇族としての品位保持の資に充てるために、年額により毎年支出するものであり、独立の生計を営む親王に支出される額は、皇室経済法施行法第8条の規定に基づき、3,050万円とされている。また、その家族に支出される額についても、皇室経済法において計算方式が定められており、現在の秋篠宮家に対しては総額6,710万円が支出されている。

 今上陛下の退位が実現した場合、皇太子徳仁親王殿下が新たな天皇として即位し、文仁親王殿下が皇位継承順位第一位の皇族となる。皇室典範は、皇位継承順位第一位の皇族を「皇嗣」と呼んでいる。
 皇室典範第8条は、「皇嗣たる皇子を皇太子という」と規定し、皇位継承順位第一位の皇族であり、かつ天皇の子である方を「皇太子」と称することを定めている。皇太子については、宮内庁法において「東宮職」が事務をつかさどることとされるとともに、皇室経済法において内廷費の対象とされる。
 しかしながら、皇室典範第8条の規定の下では、文仁親王殿下は、皇位継承順位第一位ではあるものの、新たな天皇の弟宮というお立場であることから、皇室典範の「皇太子」には当たらず、今後、皇位継承順位第一位という特別なお立場に伴う様々な御活動をなさる必要があるにもかかわらず、事務をつかさどる組織や費用等については、これまでと何ら変わることがないこととなる。皇位継承順位第一位というお立場の重要性や御活動の拡大等に鑑みれば、文仁親王殿下については、事務をつかさどる組織や費用等を皇嗣のお立場にふさわしいものとすることが必要である。
 一方、文仁親王殿下は長年「秋篠宮家」の当主として御活動を重ねられ、「秋篠宮家」が国民に広く親しまれてきたことにも十分に留意し、そのお立場のあり方を考える必要がある。以下、皇子ではない皇位継承順位第一位の皇族の称号等について、具体的に検討を行う。

1 称号
 歴史上、次期皇位継承者と定められた方については、その大半は、天皇との続柄にかかわらず、「皇太子」と称されてきた。「皇太子」という称号は、次期皇位継承者の呼称として、広く国民に受け入れられており、国際的にもその身分が分かりやすい称号となっている。
 一方、皇室典範は、皇位継承順位を規定し、皇位継承順位第一位の皇族を皇嗣としている。このため、「皇太子」などの特別の称号を定めなくとも、皇嗣であれば、皇位継承順位第一位であることは同法上明らかである。
 仮に、皇位継承順位第一位となられる文仁親王殿下を皇太子とすることとすれば、皇室経済法上、文仁親王殿下とその御家族は内廷皇族となり、「秋篠宮家」は独立の宮家として存続しないこととなる。歴史上、宮家に属する方が皇位を継承されたことにより、その宮家が消滅したというケースは見当たらないこと、そして何より、「秋篠宮家」が30年近く国民に広く親しまれてきたことを踏まえれば、文仁親王殿下については、あえて「皇太子」などの特別の称号を定めることとはせず、「秋篠宮家」の当主としてのお立場を維持していただくことが適当である。
 その際には、文仁親王殿下が皇室典範上の「皇嗣」として皇位継承順位第一位であることが広く対外的にも明確となるよう、例えば「皇嗣秋篠宮殿下」、「秋篠宮皇嗣殿下」、「皇嗣殿下」などとお呼びすることが考えられる。
 これに加えて、「皇嗣」が皇位継承順位第一位の皇族を表すものであることについて国民の理解が深まるよう努めていく必要がある。併せて、国際的にもそのことが正しく理解されるよう、「皇嗣」の英訳について工夫を講じることが適当である。

2 事務をつかさどる組織
 皇位継承順位第一位の皇族(皇嗣)となられる文仁親王殿下については、現在の皇太子殿下と同様に、皇位継承順位第一位というお立場に伴う御活動の拡大等が見込まれる。このため、皇太子に関する事務をつかさどる組織である「東宮職」に相当するような、皇嗣に関する事務をつかさどる独立の組織として、新たに「皇嗣職」を設け、皇嗣職の長として、東宮職の長である「東宮大夫」に相当する「皇嗣職大夫」を置くことが適当である。

3 皇室経済法上の経費区分
 文仁親王殿下を皇太子としない場合、皇室経済法上の位置付けは、御家族を含め、引き続き内廷外皇族であり、皇族費の対象となる。
 ただし、この場合であっても、皇位継承順位第一位というお立場の重要性や御活動の拡大等に鑑み、皇族費の額を増額することが必要である。具体的には、皇室経済法において、摂政たる皇族に対する皇族費の支給について、その在任中は定額の3倍に相当する額の金額とする旨が規定されていることも参考とし、これに相当する程度に増額することが適当である。

4 その他
 皇室典範上、皇太子については、皇籍離脱と摂政となる順位等について特例が定められている(皇室典範第 11 条、第19 条等)。文仁親王殿下には、皇位継承順位第一位というお立場の重要性等に鑑み、皇太子と同様の特例が適用されることが適当である。

おわりに
 以上のように、当会議においては、退位後の天皇及びその后のお立場等のあり方や、皇子ではない皇位継承順位第一位の皇族の称号等について検討を行い、この最終報告を取りまとめた。政府においては、この最終報告も参考とし、今上陛下の御公務の負担軽減等のための適切な方策を実現していただきたい。
 今回、今上陛下の退位が実現され、皇太子徳仁親王殿下が新たな天皇に即位されることとなれば、皇族数の減少に対してどのような対策を講じるかは一層先延ばしのできない課題となってくるものと考えられる。
 皇室典範第12条によれば、「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」とされている。現在皇孫世代における皇族男子は、悠仁親王殿下お一方である。内親王殿下及び女王殿下は7方いらっしゃるが、天皇及び皇族以外の男性と婚姻された場合、皇族の身分を失うこととなり、将来、悠仁親王殿下と同年代の皇族がお一人もいらっしゃらなくなることも予想される。
 皇室典範は、皇族たる皇室会議議員及び予備議員として、4方以上の一定数の成年皇族の存在を前提としている。
 また、臨時代行制度は、今後も柔軟に活用されていく必要があると思われるが、この制度の円滑な活用を可能とするためにも、一定数の成年皇族が必要となる。
 したがって、国民が期待する象徴天皇の役割が十全に果たされ、皇室の御活動が維持されていくためには、皇族数の減少に対する対策について速やかに検討を行うことが必要であり、今後、政府を始め、国民各界各層において議論が深められていくことを期待したい。

カテゴリー: 基礎情報 パーマリンク