ローラ・クランシー(Laura Clancy)
Transforming Society: Research, evidence and critique for positive social change
2025年4月25日
https://www.transformingsociety.co.uk/2025/04/25/what-would-a-future-without-the-british-monarchy-look-like/
翻訳:編集部
1992年の小説『ザ・クイーン・アンド・アイ』でスー・タウンゼンドは、王制が廃止されて王族がバッキンガム宮殿を 追い出され、市営住宅で生活を始めるという未来を描いた。彼らは、自分でジッパーやボタンを操作して服を着るといった基本動作を学ぶことになりショックを受ける。そして物語の終盤、女王は新しい生活を受け入れ、王制が復活しても王室の職務に戻りたくないと宣言するのだ。だが小説は、女王がバッキンガム宮殿の寝室で目覚め、すべてが夢だったと気づくシーンで終わる。
一方、Netflixのドラマ『ザ・クラウン』ではエリザベス2世が、当時の首相トニー・ブレアが自分の代わりに即位する悪夢を見る。女王は恐怖におののきながら、「キング・トニー」が即位し、ウェストミンスター寺院の合唱団が大衆音楽バンド「d:ream」のヒットソング『Things Can Only Get Better』(1997年の選挙で「ニューレイバー」政策を掲げた労働党の応援ソング)のクラシック・バージョンを歌うのを見守るのだ。
しかしこれらの物語は、共和制が実現した場合に社会的地位を失うことになる人々の視点から見た、架空のファンタジーだ。つまりこうした夢物語は、私たち市民にとって、王制廃止後の共和制の未来が実際にどのようなものになるのかを示してはいない。
エリザベス2世の死去後、反王制運動団体「リパブリック」の支持は急増し、実現可能な代替案への関心は高まっている。その代替案はどのようなものになるのか、そして我々は、どのようにしてそこにたどりつけるのだろうか?
王室の「スリム化」
一部の評論家は、王室の「スリム化」が解決策だと主張する。王室の「現役メンバー」の数を減らし、王室の運営コストを削減するというのだ。この案は、チャールズ国王自身が提唱しているとされるもので、王室を現代化・未来対応型にするための方策として位置付けられている。しかしこのアイデアは、「財布の紐を締める」ふりをするだけの漠然としたもので、それが構造的な変化を引き起こすことができるという具体的な根拠を示してはいない。いやそれどころか、そうはならないという明確な根拠さえあるのだ。メディアは、今回の戴冠式が短くなり、ほんの少し小さくなったことを根拠に「スリム化」されたと言いたがるが、歴史上の他の即位式と変わらない華やかな儀式だった。さらに2025年1月、王室の年間資金の主要な(主要、つまり唯一ではない)部分を占める「ソブリン・グラント」が、53%増加し1億3200万ポンドを超えると報じられた。この状況を理解するためにオランダ王室と比較してみよう。オランダ王室は2023年に11%増の資金を受けたことで批判にさらされたのだが、その総額は5500万ユーロ(約4600万ポンド)で、イギリス王室の半分にも満たない額である。私に言わせれば、王室の「スリム化」とは、王室批判をはぐらかし、現状を維持する意図が込められた曖昧な表現である。
君主制廃止の主張
君主制廃止の提案に対して最もよく聞かれる反論は、「ナイジェル・ファラージ大統領、トニー・ブレア大統領、あるいはその他の問題のある政治家を大統領にしたくない」というものだ。ドラマ『ザ・クラウン』で女王が熱にうかされて見た夢のように、このような考えは政治権力に対する恐怖を煽り、君主制以外の制度は、残念ながら現在私たちが目の当たりにしているように、大統領が並外れた行政権力を行使する米国の制度と同じになるだろうという仮定に基づいて、議論をストップさせてしまう。
しかし英国にとってより可能性の高いシナリオ、そして運動団体「リパブリック」が提案するモデルは、議院内閣制である。これは現在の制度と大きくは変わらず、最も近い隣国であるアイルランドの制度と同様のものだ。
現行の英国の制度では、国王が議会の権限を弱めている。国王は政府に、議会の同意なしに決定を下す権限を与えているし、国王が存在しているために、公平性を確保する「チェックアンドバランス」の役割を果たす独立した国家元首が存在しない結果となっている。2019年にボリス・ジョンソン首相が議会を解散し、自身のブレグジット合意を強行しようとした事例が、このシステムの弊害を如実に示している。
もし議院内閣制を採用すれば、君主制は廃止され、政治制度内の各主体の役割を明確に定める、文字で書かれた憲法が制定されるだろう。(現行の非選挙制で時代遅れの貴族院とは正反対の)選挙で選ばれる上院と、選挙で選ばれる独立した国家元首を設置することができるだろう。王室の維持費は公共サービスに再配分されるだろう。大統領は国王よりはるかに安価だ。アイルランドの大統領事務所の運営費は、2021年には480万ユーロ(約400万ポンド)だった。
どうすれば実現するのか?
ごく最近、我々はこのシナリオが実現する一例を目撃した。バルバドスが2021年に共和国となったのだ。バルバドス労働党は議会で三分の二を超える過半数を獲得し、国民投票なしで政治制度を変更する権限を得た。その移行モデルは1996~98年の憲法審査委員会を参考にしており、バルバドスは議会制共和国となり、国家元首が大統領に任命された。カリブ海の他の国々も、同様の改革モデルに従って植民地支配からの脱却を表明している。2024年12月、ジャマイカは議会に王制廃止法案を提出した。
だが英国では違った展開になるかもしれない。スコットランドが独立すれば、王制廃止に関する国民投票を実施する可能性がある。これはあり得ないことではない。スコットランドでは長年にわたり、王制の支持率が低いからだ。アイルランドの状況をみると、共和国ではシン・フェインが左派的な政策を掲げて人気を伸ばしている。もしもシン・フェインがアイルランドの統一を目指すならば、大英王国の再編が議題となり、英国という国家とその憲法に関し、他国と似たような議論が持ち上がるだろう。
紙の上では、王制廃止はまだまだ先の話のように見えるかもしれないが、これらの要因が議論を一夜にして変える可能性がある。エリザベス2 世の長く安定した統治のために、過激な議論や欲求が起こりにくかったことは確かだ。しかし、チャールズ3 世はすでに76 歳で、その統治は間違いなくエリザベス2世より短くなる。近年、アンドルー王子の性的暴行疑惑や、制度的な人種差別への注目を惹いたハリー王子とメーガン・マークルの「離脱」など、君主制は広範な批判にさらされている。今こそが、別の未来について考え始める良い機会だ。
参考:ローラ・クランシー『王制は何のためにあるのか?』ブリストル大学出版会
編集部注:Transforming Societyは英国のブリストル大学出版局と同大学のポリシー・プレスが運営するウェブサイト。最新の研究成果や研究動向などを紹介している。