関東大震災朝鮮人・中国人虐殺100年の取り組みを振り返って

渡辺健樹(日韓民衆連帯全国ネットワーク)

今年は関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺から100年の年であり、あらためて歴史の事実に真摯に向き合い、未だに虐殺の事実すら認めない日本政府や小池都政を追及する多様な取り組みが繰り広げられた。

その一つ、関東大震災朝鮮人・中国人虐殺100年犠牲者追悼大会実行委員会は、8月31日に犠牲者追悼大会、9月2日に国会キャンドル集会、9月3日にはヘイト攻撃にもっともさらされている川崎での国際シンポジウムなどが連続行動として繰り広げられた。
ここには朝鮮半島の虐殺犠牲者遺族、中国の虐殺犠牲者遺族らが一堂に会し、また韓国・中国・米国などからさまざまな運動体を代表する海外ゲストも駆けつけた。

ここでこれらの取り組みの報告をしておきたい。

1800人が結集した8/31追悼大会の詳報

8月31日、文京シビック大ホールで開かれた犠牲者追悼大会には1800人が集まり、朝鮮半島と中国の遺族と共に虐殺犠牲者を追悼した。

始めに開会挨拶を、実行委員会共同代表の田中宏・一橋大名誉教授、在日韓国・朝鮮人として慎民子・一般社団法人ほうせんか理事、在日中国人として林伯耀・関東大震災中国人受難者を追悼する会共同代表がそれぞれの立場からおこなった。

韓国・中国の犠牲者遺族の証言と想い

続いて朝鮮半島と中国の遺族代表が登壇した。
韓国の遺族として登壇したのは、関東大震災時に群馬・藤岡警察署の前で自警団によって虐殺された南成奎さんの孫の権在益さん。「朝鮮人が放火している」などの流言は群馬県にも伝わり、祖父は警察署に避難したものの押し寄せた自警団に他の朝鮮人と共に虐殺された。祖父の南さんは当時38歳、建設労働者として日本に出稼ぎに行き、藤岡、新川の砂利採取場で働き始めて2カ月しか経っていない時に虐殺された。南さんは他の労働者と共に藤岡の成道寺に埋葬されているという。2017年に遺族会を結成した権さんは、虐殺された祖父の気持ちに思いを馳せながら「日本政府は謝罪してほしい」と訴えた。

中国からは、東京都江東区で虐殺された周瑞楷さんの孫で、700人近くの遺族会「温州遺族聯誼会」会長である周江法さんが登壇。祖父の周瑞楷さんは同じ村の人たちと20人で日本に労働者として渡り、うち18人が江東区大島で軍人と青年団主体の自警団によって殺害されたという。周瑞楷さんの3人の弟も同時に殺された。周瑞楷さんの妻は翌年に病死し、周江法さんの父親は、3歳で父を4歳で母を失い、苦難の生活を送ったという。
権在益さんや周江法さんは他の遺族たちと共に、連日開かれた集会や記者会見などに出席。真相究明、日本政府の謝罪と賠償を求め、訴え続けている。

さらに海外ゲストとして、韓国の「関東虐殺100周忌追悼事業推進委員会」共同代表で「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」理事長でもある李娜栄さん、震災時に虐殺された中国の社会運動家王希天の孫である、中国「王希天研究会」の王旗会長(代読)、米国「サンフランシスコ『慰安婦』正義連盟」のジュディス・マーキンソン会長の連帯挨拶があり、日本政府による真相究明と公式謝罪を求めた。

4つの特別報告と草の根市民団体の報告

日本からは4人の特別報告と、早くから犠牲者を追悼し、調査に取り組んできた4つの草の根市民団体から報告があった。

専修大学教授の田中正敬さんは、現政権が「(虐殺の記録が)調査した範囲では見当たらない」と国会で答弁し、また政府が国家の関与を認めたことがないことこそが問題だとした。「誰でも閲覧可能な史料があるにもかかわらず、事実を認めない。虐殺が忘れられ、責任追及をする人々がいなくなるのを待っているのだろう。史料に基づいて政府に虐殺の事実を認定せざるをえないように追い詰めると同時に、人権抑圧を当たり前のように日本が行ってきたことが虐殺を招いたと、現在の社会がきちんと認識することが大事だ」と話した。

ノンフィクションライターの安田浩一さんは「メディアと民衆の責任」について、「本来デマを否定し、人の命と尊厳を守るべきメディアが虐殺に加担し、朝鮮人への憎悪を煽った。いま、メディアの一部は隣国の脅威と恐怖を煽り、外国籍市民の増加を〝治安〟の問題にすりかえているし、ネットではヘイトスピーチがあふれている。虐殺を過去の話にできない時代を私たちは生きている」と指摘した。

「ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク」の崔江以子さんは、「ヘイトクライムのターゲットにされている私は、100年経った今、再び殺されるかもしれません」と切り出し、ヘイトスピーチや脅迫状、誹謗中傷の被害に遭っていると語った。安倍元首相の銃撃事件の時は、「日本から出て行け」と脅迫電話があったという。「今はあのジェノサイドから地続きです。差別禁止法制定は待ったなしです。皆さんと共に実現したい」と訴えた。

「9・1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会」委員長で日朝協会の宮川泰彦さんは、東京都の責務について言及した。1973年に両国の横網町公園内に、当時の都議会全会派の賛同・協力のもと「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑」が建立され、翌年から追悼碑の前で、追悼式典が行われてきた。東京都は追悼碑の所有・管理者であり、都知事は追悼式典に追悼の辞を送付していたが、小池都知事は就任2年目以降、追悼の辞送付を拒否している。

宮川さんは「小池都知事は『全ての被災者を追悼している』と回答しているが、天災で命を失った犠牲者と、人災で命を奪われた被害者を一緒にして虐殺の事実を消し去ろうとするもので、大きな問題」とし、「都の責任は何なのかをきちんと考えるべき」と述べた。

草の根報告は、「千葉県における関東大震災と朝鮮人犠牲者追悼・調査実行委員会」の平形千恵子さん、「一般社団法人ほうせんか」の落合博男さん、「関東大震災時朝鮮人虐殺の事実を知り追悼する神奈川実行委員会」の山本すみ子さん、「関東大震災中国人受難者を追悼する会」の川見一仁さんが登壇し、各地の長い間の取り組みや現在の活動状況などを語った。

この中で神奈川実行委員会の山本さんは「『証拠はゼロ』などと回答する政府に騙され続けてきた私たちは、このゼロの怒りを大きな課題としたい」と強調し、当時の神奈川県知事が作成したとみられる朝鮮人虐殺に関する文書が新たに見つかったことを報告した。

追悼大会は最後に、「歴史に誠実に向き合い、国家の責任を問い、再発を許さない共生社会への第一歩を」とする大会宣言を全体で採択して終了した。

このほか追悼大会では、中国「東方文化芸術団」と韓国「京畿民芸総」の歌・演奏・舞踊のほか、崔善愛さんによるピアノ演奏、李政美さんと在日中国人の紫金草合唱団とのコラボによるミニコンサートもあり盛りだくさんの大会だった。また夜の追悼大会に先立ち、この日午後には当時の資料のパネル展も開かれ平日にもかかわらず多くの人が訪れた。

9/2国会キャンドル行動にも1700人が結集

9月2日は国会正門前でキャンドル集会が取り組まれ、1700人が結集した。

関東大震災朝鮮人・中国人虐殺の国家責任を問い、朝鮮半島と中国の遺族、各国のゲストとともに、100年目にして初めて日本の国会前に一堂に会し、日本政府に虐殺の事実を認め、謝罪・賠償を要求する大衆的な行動に立ち上がったものだ。

集会では、はじめに実行委員会を代表して私(渡辺)が主催者挨拶。

続く韓国と中国遺族の訴えでは、震災後に群馬県の藤岡で朝鮮人17人が地元の自警団に虐殺された「藤岡事件」遺族の曺光換(チョ・グァンファン)さんは、「日本は全く反省してない。資料を公開し、100年前に何があったか明らかにするべきだ。今日ここに集まった人、全員が英雄です」と訴えた。

中国人遺族の周松権さんは、今年日本政府に2回目の督促状を提出し、①歴史を語り継ぐため殺害された現地に記念碑を建立、②中国人と朝鮮人の歴史を含む記念館建設、③日本の歴史教科書にこの事実を書き、日本の若い世代に歴史を知ってもらう——などを求めている。

集会では在日朝鮮人、在日中国人の訴えのほか、韓国「関東虐殺100周忌追悼事業推進委員会」の金鍾洙執行委員長、「サンフランシスコ『慰安婦』正義連盟」の代表がそれぞれの取り組みを報告。また各政党国会議員も連帯と決意を述べた。

最後に、集会参加者全員で国会に向かってシュプレヒコールを挙げて終了した。

虐殺隠蔽とヘイトクライム・戦争国家の道は表裏一体

これらは小さな市民団体が結集しておよそ1年半をかけて準備してきた取り組みであったが、3日間で延べ4000人近い人々が結集したことは、虐殺の隠蔽と排外主義、新たな戦前への動きがひと繋がりであり、危機感を感じている人が広がっていることを実感させた。

この間、日本政府は国会での野党議員の質問に対しても、虐殺に「関連する資料は見当たらない」などとその事実すら認めていない。この中で。他民族への嘲りと蔑視、ヘイトクライムは今も後を絶たない。朝鮮学校の「無償化」からの排除など国レベルでの「他民族への公的な差別」が継続していることと、日本政府が関東大震災での大虐殺を一世紀にわたり隠蔽し続けていることは表裏一体である。

しかし、首相が会長を務める中央防災会議の報告書(2009年)でさえ、「大震災の死者・行方不明者約10万5000人のうち虐殺の犠牲者を1~数%」とし、「過去の反省と民族差別の解消の努力が必要」と指摘している。さらに多くの資料や証言も存在している。

関東大震災での虐殺を隠蔽し歴史を改ざんする政府の責任を放置したままでは、再び加害の側へ動員されてしまう。今こそ、多民族・多文化が共生できる社会へ踏み出すため、日本社会の隅々から立ち上がろう。いま再び隣国への敵愾心を煽り「敵」基地攻撃を正当化する政府の戦争動員に立ち向かおう。

 

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