「虚構」の存在のイメージ戦略:宮内庁が情報発信力強化へ

鉄火場宏

■宮内庁に「広報室」が新設

2023年度の政府予算案に、積極的な広報や新たな情報発信方法の検討などを担当する「広報室」を宮内庁に新設する費用が盛り込まれた。朝日新聞(2023年1月1日)によると、「広報室長を含め10人で構成される見込み。発信する内容は今後検討するが、同庁幹部によると、これまではホームページ上で、ほぼ日程のみを掲載していた皇室の日々の活動を、詳しい説明とともに、写真や動画を添えて速やかに発信することが考えられるという。まずはホームページの刷新を検討する」とのことである。

新設される「広報室」のために「積極的な広報展開のための体制整備」として3名の増員が計上されている。また産経新聞(2022年12月23日WEB版)は「ホームページ(HP)改修に向けた調査、分析のコンサルタント費用として、約400万円をデジタル庁予算案に計上。宮内庁は『HPのリニューアルを含め、広報室でどういう形の発信が適切なのか検討する』と説明している」とも伝えている。この関連でデジタル庁にも予算がついている。

宮内庁の情報発信力強化は、いわゆる「眞子結婚問題」に関連する秋篠宮の意向に沿うものである。朝日新聞の記事では、「同庁が積極的な広報展開に踏み切る背景には、秋篠宮さまの長女小室眞子さんの結婚をめぐる誹謗中傷などがある。21年10月の結婚発表に合わせ、同庁は眞子さんが複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されていたことを明らかにした。秋篠宮さまも同年11月の誕生日会見で、事実と異なる報道への対応について言及。同庁が情報発信のあり方を検討してきた」とある。

この問題に対して、宮内庁はホームページで、例えば、2020年12月8日付で「週刊新潮12月24日号の記事について」(https://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/taio/taio-r02-1218.html#TOP)と題するコメントを出し、週刊誌記事「小室圭・佳代さんに美智子さまからの最後通牒」にある「宮内庁長官を動かした上皇后」という見出と内容に対して、「上皇上皇后両陛下が首尾一貫して一切の発言を慎まれている」等の反論するなど合計3度の対応をしているが、週刊誌だけでなくネットでもあふれかえる眞子・小室、そして秋篠宮バッシングのなかではほとんど影響力をもてていないのは事実であろう。それゆえに、秋篠宮が誕生日の記者会見であえて問題として改革を求めた(実質的には「命じた」)のである。

■SNSの「解禁」はまだ先

秋篠宮は、誕生日の記者会見で、宮内庁HPの発進力強化とあわせてSNSの利用にも触れているが、報道によれば、今回の「広報室」の新設は、HPのリニューアルはするが、それ以外の発信(つまりSNS等での発信)については、「適切なのか検討する」という段階にとどまっている。

よく参照される英王室は、HPだけでなくSNSによる情報発信が盛んである。ダイアナの死に際しての英王室(エリザベス)バッシングの高まりが、王室の情報発信の見直し・強化の切っ掛けになったという。

現在では、ユーチューブ(開始2007年、チャンネル登録113万人)、ツイッター(同2009年、フォロワー575.2万人)、フェイスブック(同2010年、同658万人)、インスタグラム(2013年、同1311万人)で情報発信をしている(チャンネル登録、フォロワー数は、2022年12月現在)。こうした王室公式のSNSだけではなく、皇太子時代のチャールズやウイリアムやハリーといった王族個人のSNS発信も盛んになされている。

君塚直隆に言わせれば、ダイアナ危機の中で、「女王は王室が“人寄せパンダ”になることの大切さと、王室の活動をどんどん発信しないと国民にはわかってもらえず支持も得られない」ことに気づかされて、英王室はSNSでの発信をはじめた。このSNS戦略は、「20年近い時間をかけて、イギリス国民からの王室支持率を劇的に向上させた」(「イギリス王室の人気を支える“オープンすぎる”SNS戦略——日本の皇室が学ぶべき危機感とは「小室眞子さんの騒動があっても、何も変えようとしない」文春オンライン、2022.06.23)。

SNSは英王室では有効に機能しているようだ。しかし、英王室の公式ツイッターでは、例えば、2022年9月にエリザベス女王の葬儀の日程がツイートされた際に、エリザベス女王の王冠などの装飾品が世界中から略奪されたものであることを示した画像が、リプライされる、というようなことも起きている。

侵略戦争・植民地支配の責任を放置し続けている天皇制でも、何かを発信すればこうしたリアクションは当然に起こりうる。そうしたリスクを引き受ける覚悟は現在の宮内庁(天皇・皇族)にはないだろう。

■「虚構」と「誹謗中傷」

相手を傷つけることのみを目的とした「誹謗中傷」はネットやSNSに溢れている。たとえ皇室という公に属する人間に対してであったとしてもそれは許されることではない。しかし、ほぼすべての人間が、こうした「誹謗中傷」に泣き寝入りするしかない現状で、天皇・皇族は、不十分であるとはいえ、HPでの反論ができたし、秋篠宮は、記者会見で問題化することで、国を動かして今回のように予算(税金)をつけての対策をもたらすことができるのだ。天皇・皇族はそうした特別の地位に居る。そしてそこで行われるであろう対策は、これまで以上の発信情報の操作であり、いずれは、批判言論の抑圧につながるものになることは目に見えている。

天皇は、「皇孫(天照大神の子孫)」「万世一系」という「虚構」の上に築かれている。秋篠宮は、「あることないこと」で「誹謗中傷」されていることに怒りを表しているが、彼を含む天皇(家)の存在自体が、「あることないこと」の結晶なのだ。天皇(家)にとっては、自分たちに都合の良い「あることないこと」と不都合で不愉快な「あることないこと」があるにすぎない。

ネット社会で、天皇制にとって都合のいい「あることないこと」を選別し発信する、その強化のための予算が組まれたということである。

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