２０２２年９月８日、英国のエリザベス女王が死去。その２日前には、新しく首相となったトラス首相を任命しました。その二か月前には安倍元首相が銃撃されました。その二人の死の対比は何やら意味深です。女王に対しては世界中から称賛の嵐の追悼……。
「エリザベス──女王陛下の微笑み Elizabeth A Portrait in Part（s）」（２０２１年／イギリス／９０分）
ここでは、日本では２０２２年に公開された英映画『エリザベス』を紹介しましょう。監督は「ノティングヒルの恋人」（１９９９）で知られるロジャー・ミッシェル。なお、彼はコロナ禍のなか２０２１年９月に映画の完成とほぼ同時に急逝。コロナ禍で撮影もままならない中、監督が記録映像でドキュメンタリー作品を撮ろうという企画から始まったそうです。記録映像といえば、即位７０年という長きにわたるエリザベス女王のアーカイブがたっぷりある、と。また９０歳を超えたエリザベス女王の年齢も考えたことでしょう。
簡単に内容を紹介しましょう。章立てになっています。「開幕」に続いて、「女王のスピーチ」の収録の様子。女王への謁見の映像。「ビートルズ 大英勲章第５位受勲」、１９６５年に受勲。ジョン・レノンは６９年に勲章を返却。「ローマ市民」、チャーチル首相（当時）とともにテームズ川を船で下る。エリザベス女王時代の始まり。女王は英連邦諸国を歴訪。かつて世界の４分の１を支配していた「大英帝国」も、第二次大戦後の相次ぐ旧植民地の独立で、今や英連邦のひとつにすぎない。彼女は「喪失の女王」とも。「モナリザ」に比較される女王。女王が開くガーデン・パーティ、７千人が参加する、と。
女王の人柄が垣間見えるのが、「馬上で」。女王の乗馬好き・競馬好きはよく知られている。映像は、王女時代、母エリザベス王妃とともに競馬見学。賭けた馬が優勝したことに飛び跳ねて喜ぶエリザベス。賞金の１６ポンドをじっと見つめる彼女。１９７７年の在位２５周年を祝う「シルバージュビリー」の様子。その他、さまざまな女王関係の映像満載。
一番の見どころは、「王冠の重み」。１キロにも及ぶとのこと。「うつむくと首が折れるか冠が落ちる」と女王。９０歳を超えれば１キロの王冠の重みに首の骨が折れると思うかも、です。その輝きをご覧あれ。世界中の、最高級の宝石を盗んで作られた王冠。大英帝国の本質を表しています。
彼女の跡を継いだチャールズ３世の前途は多難。トラス首相の後任のスナク首相は、英国初のインド系です。また、弟のハリーは、米人のメーガンと結婚し、王室の人種差別を暗に批判し、王室から離脱しました。王室は変われるか。「大英帝国」の運命やいかに……。
（近藤和子・批評家）
