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またやるのかマイナポイント
1兆8千億円の無駄遣い

●マイナポイント第2弾の予定が明らかに

 2021年12月で終了したマイナポイント第1弾に続いて、2021年度補正予算で1兆8134億円の費用をかけて実施が決まったマイナポイント第2弾の予定が固まってきたようだ。
 マイナポイント第2弾は下図のように、
(1)第1弾と同様にマイナンバーカードの新規取得者に、最大5000円相当(キャッシュレス決済利用額の25%)のポイント
(2)マイナンバーカードの健康保険証利用登録をした者に7500円相当のポイント
(3)公金受取口座の登録を行った者に7500円相当のポイント
を付与するというものだ。
 (1)は第1弾と同じ仕組みで2022年1月から始まった。マイナンバーカードを以前取得していてマイナポイント第1弾を利用しなかった人も対象としている。
 (2)(3)は新たな仕組みが必要で実施時期が未確定だったが、2022年1月20日の参議院本会議で岸田首相が「6月ごろ」からポイント付与の予定と明らかにした。翌日金子総務大臣は記者会見で、 (2)(3) は6月ごろから申込受付・ポイント付与をスタートし、ポイントの申込期間は2023年2月末までとすること、第2弾の対象者は本年9月末までにマイナンバーカードを申請した人とすることを明らかにした。

  2021年12月23日総務省自治行政局説明会資料2より

●予算の半分しか利用されなかったマイナポイント

 マイナポイント第1弾は、予算の増額や期間の延長を繰り返して、最終的に5000万人分の予算で2021年12月まで実施された(下図参照)。しかし利用申込したのは約2531万人にとどまり、予算の半分に終わった(朝日デジタル2022年1月7日)。
 にもかかわらず 利用されなかった理由を検証することもなく、 9500万人が利用すると想定して、第1弾で利用しなかった6950万人×5000円の予算を付けてしつこく継続しようとしている。

  2021年12月23日総務省自治行政局説明会資料2より

●お金で釣らないと普及しないマイナンバーカード

 2020年11月のスタッフブログに「お金で釣らなければ普及しない「マイナンバーカード」って何?」を掲載した。その後の経過を見ても、下図のようにお金で釣ったときしかカードの申請は増えていない。
 低迷していた申請が2020年5月に増加したのは、10万円の特別定額給付金をマイナンバーカードを使いマイナポータルでオンライン申請すると早く支給されるかのよう政府が宣伝したためだった。第1回の緊急事態宣言下で三密回避を求めていたにもかかわらず、市町村窓口は大混雑になった。しかし結果的には郵送で申請した方が早くなり、次々とオンライン申請は中止になった。
 2020年7月からは、9月利用開始のマイナポイントの申込がはじまり申請が増加し、利用のためのマイナンバーカード取得締切りの 2021年3月(4月に延長)に月684万件と申請が急増した。しかし5月以降は申請が急低下してしまう。。
 それが突然2021年11月に申請増加したのは、マイナポイント2万円分付与が自民・公明で合意した報道がされたためだ。マイナンバーカードを取得すると2万円もらえると誤解したためか市町村窓口に殺到したが、すぐにもらえるわけではないとわかり申請はまた元の水準に戻った。
  マイナンバーカードを全国民に所持させる、ということが目的化してしまって、お金で釣るという邪道で普及を図ろうとしている。

  2021年12月23日総務省自治行政局説明会資料2より

●「便利になる」保険証利用や口座登録になぜ付与

 さらに第2弾では、マイナンバーカードの保険証利用登録をしたり、公金振込口座登録をすると、各7500円のポイントも付与することにしている。
 政府はマイナンバーカードの保険証利用も、公金振込口座の登録も便利になると宣伝している。本当に便利だとしたらポイント付与という利益誘導をしなくても利用は広がるはずで、この1兆8千億円は無駄な費用だ。普及のためにポイントをばらまこうと考えていること自体、魅力のない保険証利用不安が広がる口座登録を無理やり押しつけようとしていることを認めているようなものだ。市民が嫌がることを鼻先に7500円の餌をぶら下げて、一つ一つ受け入れさせようとしている。

 1兆8千億円は大変な金額だ。住民税非課税世帯に対する1世帯10万円給付の補正予算が1兆4323億円だ。18歳以下を対象とした1人10万円給付の補正予算分が1兆2162億円だ。約2兆円あったらどれだけコロナに苦しむ困窮者の支援ができるのか、国会審議でも指摘されていた。
  2023年3月までに全国民にマイナンバーカードを所持させるという国策遂行(下図参照)のために、しゃにむに利益誘導することしか考えていない。なぜ便利だと感じられないのか、なぜ不安を抱いているのか、制度の見直しからはじめるべきだ。

2021年1月22日全国都道府県財政課長・市町村担当課長合同会議資料16より

ポイントをエサに普及を図る
不人気なマイナンバーカード

●2兆円かけてマイナポイント2万円のバラマキ

 11月10日の自民党と公明党の与党協議で、新たな経済対策として18歳以下への10万円相当の給付とともに、上限2万円の新たなマイナポイント付与が合意された。19日に決定し、年内の成立をめざす補正予算案に盛り込む方針とされている。
 マイナポイントの付与は マイナンバーカードの保有が条件で、これから新規に取得したりマイナポイントを利用していない保有者に上限5000円、健康保険証の利用登録をした時に7500円、預貯金口座とマイナンバーのひも付けをすると7500円と、段階的な付与で一致したという。
 市民が望んでいないマイナンバーカードや預貯金口座へのマイナンバーのひも付けを、エサを鼻先にぶら下げて少しずつ受け入れさせようとする、動物の調教のような不愉快なやり方だ。そのために2兆円も使おうとしている
 日弁連が5月7日に「個人番号カード(マイナンバーカード)普及策の抜本的な見直しを求める意見書」で指摘しているように、こうまでしないと普及しないマイナンバーカードは見直すべきだ。

●利用が広がらなかったマイナポイント事業

 マイナポイントは消費税増税に伴う消費活性化策として、キャッシュレス決済のポイントサービスの終了に続いて、2020年9月から2021年3月までの予定で始まった。一人2万円の支払いに対して上限25%5000円分のポイントを付けるもので、4000万人分の予算を措置していた。
 しかしマイナンバーカードの取得が前提で、マイナポイントの予約・申込みのためにはマイナンバーカードの電子証明書を読み込むカードリーダーを購入して「マイキーID作成・登録準備ソフト」をインストールするか、マイナポイントに対応したスマホにアプリをダウンロードするなど面倒な手間がかかり、利用が広がらないのではないかと予想されていた
 案の定2020年末になっても、予算の1/4程度の申込しかなかった(下図参照)。にもかかわらず政府は予算を5000万人分に増額し、利用対象期間を3月から9月まで延長。その後さらにマイナポイントの対象となるマイナンバーカードの申請受付を4月末まで延長し、利用対象期間も今年12月末まで延長しているが、9月2日時点で手続きしたのは約2265万人で予算の半分にも達していない。

令和3年度全国都道府県財政課長・市町村担当課長合同会議(2021年1月22日)資料22より

●効果に限界があると総括されたマイナポイント

 マイナポンイトの経済効果は、実施前から疑問視されていた。 2020年9月3日の記者会見で麻生財務大臣(当時)も、ポイント還元しても消費が活性化するか今の段階ではわからないと延べていた。その後新型コロナ流行で状況が大きく変わったにもかかわらず、見直すどころか予算増額し延長までした。
 結局、2021年10月11日の財政制度等審議会財政制度分科会では、効果に限界があったと総括されている。そのようなマイナポイントを、なぜ巨額の予算を投じてまたやろうとしているのか。

「マイナンバーカードの普及促進に向けて、国はマイナポイント事業を実施(本年4月までにカードを申請した者が対象)。カードの申請増加に一定の効果はみられたが、本年8月末時点でカードの申請率は全国民の40%、交付率は38%にとどまっており、ポイント付与施策の効果には限界がある。」(財政制度等審議会財政制度分科会資料3 19頁)  

●不公平な普及事業を中止した自治体も

 国のマイナポイント事業とは別に、自治体が普及のためにマイナンバーカード取得者に商品券やポイント付与などを行っている。
 最近の報道でも亀山市でマイナンバーカード申請先着1500人に千円分のQUO カード(10/1伊勢新聞配信)、浜松市で来年 1 月 1 日からキャッシュレス決済を利用した市民に上限 1 万~ 2 万円相当のポイント還元(10/5静岡新聞配信)、平塚市で条件を満たすマイナンバーカードの新規取得者先着2万人に、地域限定マネー「ひらつか☆スターライトマネー」 2000 円分追加付与(10/1BCN配信)、新潟県がカード新規取得者に抽選で5千円分の県内特産品をプレゼント(10/31新潟新報)など報じられている。
 総務省が7月末に補助金交付要綱を改正し、昨年度はマイナンバーカード申請1件につき最大1000円だったのを1件最大2000円に倍増したことを利用したものだ(8/30読売オンライン)。なりふり構わず自治体を普及拡大に誘導しようとしている。

 そのような中、 山梨県笛吹市は、マイナンバーカード取得をした市民に1万円分の商品券を配る補正予算案を撤回した。カード取得にひもづけた商品券配布に反対する市民の署名活動や、議会の「対象者を限定することは不公平だ」との意見を受けて取り下げ、全市民への配布に切り替えた(9/30朝日デジタル)。
 この「がんばろう笛吹!応援商品券事業」は、新型コロナで影響を受けている市民や事業者を応援するとともに、マイナンバーカードの普及拡大を目的として、12月から市内の中小規模事業者で使える7千円分と市内の大型店舗でも使える3千円分、合計1万円分の商品券を交付するもので、マイナンバーカード取得者および申請者を対象として5億1492万円を補正予算で計上していた。
 しかしマイナンバーカード取得を条件にすることは不公平感があるとの議会や市民の声を受けて「より市民生活の支援につながる予算編成が必要であると考え」、「がんばろう笛吹!応援商品券事業」の歳出予算の全額を減額し、当該事業の特定財源となる国庫補助金8827万円を減額する補正予算の訂正を行った (令和3年笛吹市議会第3回定例会会議録より) 。

  国もこの市民と議会の見識を見習い、義務ではないマイナンバーカードの取得の有無によって不当な差別をするマイナポイントは撤回すべきだ。 

共通番号いらないネットのサイトで、
Q&Aマイナポイントなんかいらない!
を掲載しています。
マイナポイントの仕組みについては こちら
マイナポイントの問題点については こちら
ご覧ください。

普及せず、行き詰まりつつある
マイナンバーカード保険証利用

●これで10月20日から本格運用開始できるのか

 厚生労働省は「マイナンバーカードの健康保険証利用」を、2021年10月20日から本格運用すると9月22日公表した。しかしこのシステムを利用できる医療施設は1割に満たない。
 そのため国民向けには「受診する際、マイナンバーカードで受付できる医療機関・薬局かどうか事前に確認して下さい」と説明するという。このような状態で「運用開始」をPRすれば、医療機関の窓口でトラブルが起きるだけだ。

第145回社会保障審議会医療保険部会( 2021.9.22)資料2より

●今後も健康保険証はそのまま使える

 本格運用が始まっても、現在の健康保険証はそのまま使うことができる。マイナンバーカードがなくても受診は可能だ。
 システムとしても、自治体の行っている公費負担、柔道整復等や訪問看護、生活保護の医療扶助などの扱いは未定や検討中で、「本格運用」とは名ばかりの見切り発車だ。保険医の団体も、これまでどおり健康保険証を持参することを呼びかけている(右図 全国保険医団体連合会のポスター参照)。
 政府の計画でも、概ね全ての医療機関等での導入は 2023年3月末を目指すとなっており、受診のためにあわててマイナンバーカードを申請する必要はまったくない。
 いずれ健康保険証はなくなると流布されているが、そのような決定を政府はしていない。マイナンバーカード利用の普及状態をみながら検討していくことになっており、普及しなければ健康保険証は廃止できない。 

●普及しないマイナンバーカードの健康保険証利用

  「マイナンバーカードの健康保険証利用」と言われているオンライン資格確認等システムのためには、医療機関はカードリーダーを設置するだけではなくシステム改修やネットワーク環境の整備などの準備が必要だ。
 その準備の2021年9月12日時点の進捗状況が、9月22日の第145回社会保障審議会医療保険部会に報告されている。それによれば利用準備が完了している施設は、5.6%にすぎない。3月から始まった試行(プレ)運用に参加している施設は、わずか1.5%だ。
 マイナンバーカードをかざす顔認証付きカードリーダーの申込施設数は128,794施設で56.3%になっているが、前回7月29日の第144回医療保険部会の130,429施設(57.0%)からなんと減少している。7月9日に「集中導入開始宣言」をして、9月末までの集中導入を目指したにもかかわらずの減少だ。
 厚労省はこのオンライン資格等の導入のために消費税から1000億円近い基金を用意し、カードリーダーの無償提供のほか、導入費用も1台あたり42.9万円を上限に3/4を補助することにしていた。しかし普及が進まないため「加速化プラン」として、2021年3月までに申し込めば4/4を補助することにしたため、申込だけはして様子見をしている状況だ。

第145回社会保障審議会医療保険部会( 2021.9.22)資料2より

●医療機関にメリットは乏しく負担がかかる

(東京保険医新聞2021年9月5日号より)

 厚労省のサイトに掲載された10月10日時点の状況でも、利用準備完了施設は7.9%にとどまり、カードリーダー申込施設は56.2%とさらに減っている。厚労省は 「直近の導入ペースは、約900施設/週の増加となっており、10月の本格運用開始に向け確実に加速している」などと強弁しているが、停滞は明らかだ。
 進まない原因として厚労省は、新型コロナ対応や半導体不足によるパソコン等の調達困難、システム事業者の改修対応能力などをあげているが、医療機関にメリットが乏しくセキュリティ対策等の負担もあり費用対効果に見合わないことが最大の原因だ。

●進まないマイナンバーカードの利用登録

  マイナンバーカードを使ってオンライン資格確認をするためには、事前にマイナポータルで利用登録(初期設定)をしておく必要がある。その利用登録をした人も、9月12日時点でカード交付枚数に対し10.9%しかいない。人口比では5%にも満たない。市民もメリットを感じていない。
 マイナンバーカード自体の申請も、一時的に増加したがまた低迷している。
 マイナンバーカードは政府が2023年3月までにほぼ全ての住民に保有させることを目標に、一人上限5000円のマイナポイント付与などの利益誘導で普及をはかってきた。2021年4月までにマイナンバーカードを申請した人をマイナポイントの付与対象としたことや、2020年12月から約8000万人のカード未申請者に申請の案内を郵送したことなどにより、2021年1月には24.2%だった交付率が増加し、3月には月700万枚近い申請数になった。しかしその後は減少し、以前のような一日1万枚程度の申請数に戻っている(下図参照)。
 申請が急増したことでカードの交付に数カ月を要する事態になったため、交付数はしばらく増えているが、このままでは4割程度の交付率で頭打ちになる。保険証として利用する人が増える見込みも立っていない。

財政制度等審議会財政制度分科会(2021年10月11日)資料3P.19

●マイナンバーカードの保険証利用とは何か

 昨年8月、このスタッフブログ「マイナンバーカードの保険証利用 このままはじめていいのか」で、制度の概要を紹介した。
 マイナンバーカードの保険証利用とは、医療機関等を受診するときに健康保険証(被保険者証)の代わりに、窓口のカードリーダーにマイナンバーカードをかざせば保険資格確認をできる、という「オンライン資格確認」制度だ。マイナンバーカードの中に保険資格が記録されているわけではない。この制度のために保険資格を一括管理する「オンライン資格確認等システム」が、社会保険支払基金と国保中央会によりつくられた。
 オンライン資格確認等システムへの問合せにはマイナンバーは使わず、マイナンバーカードに内蔵(任意)の「公的個人認証サービス」の電子証明書を使う。そのために利用開始前に初期設定として、利用者証明用電子証明書の発行番号(シリアル番号)と保険資格を管理する個人単位化した被保険者番号のひも付けを行う必要がある。これは一度やればいいが、漏洩等で住民票コードを変更した場合は、再設定が必要とされている。

マイナンバー 社会保障・税番号制度概要資料(令和2年5月版)43頁

 この初期設定にはマイナポータルを使うほか、医療機関窓口や薬局の顔認証付きカードリーダーでも手続きができるが、不慣れな窓口に負担をかけることになる。また電子証明書が5年間の有効期限切れだったり、転居等で失効していると手続はできない。
 なおマイナンバーカードを使わずに、医療機関等の窓口で被保険者証の記号番号を入力して保険資格確認をすることもできる。

●健診結果や投薬情報なども提供される

「オンライン資格確認【等】システム」となっているように、提供される情報は健康保険資格だけでなく、薬剤情報や特定健診情報なども提供される。
 特定健診とはいわゆる「メタボ健診」で、40~74歳を対象に保険者(健保組合、協会けんぽ、市町村等)が腹回りのサイズや脂質や血糖などの検査をして、生活習慣病の発症リスクが高いと判断されると特定保健指導を受けることを求められる健診だ。
 保険者が検査結果や喫煙・飲酒・運動など生活習慣情報を管理するが、2015年の番号利用拡大法によりマイナンバーで情報管理し保険者が代わった場合はそのデータを引き継ぐことになった。さらにオンライン資格確認導入に合わせて、保険者の委託によりオンライン資格確認等システムがデータを一括管理する。
 また投薬情報は、診療報酬請求書(レセプト)に記載された情報が提供される。

第141回社会保障審議会医療保険部会(2021年3月4日)資料2 p.10

 これらの情報は、マイナポータルにより本人に開示されるだけでなく、本人の同意があれば医療機関や薬局に提供される。同意は提供の都度明示的に行いログ管理やアクセス制限をするなど、形式的にはプライバシー保護に配慮している。しかし医療機関に知られたくない健診結果や投薬内容や病歴も含まれているときに、はたして受診の際に医師から提供の同意を求められて患者の立場で断ることはできるだろうか。
 さらに提供する情報は厚労省のデータヘルス計画により、今後電子カルテによる診療内容全体やその他の健診にも拡大し、民間事業者のサービス活用のために連携することも計画されている(下図参照)。厚労省はメリットばかり宣伝するが、医師との信頼関係を損なったり、知られたくなくて受診を躊躇したり、民間企業からの「サービス」の押し売りを受ける事態も考えられる。

第129回社会保障審議会医療保険部会(2020年7月9日)資料3 P.11

●目的は医療・健康情報の共有化と利活用

 メリットの疑わしいマイナンバーカードを使ったオンライン資格確認システムを、政府が多額の費用を投じて整備しようとしているのは、それが医療情報を健康産業の育成など成長戦略に利活用する基盤になるからだ。
 2021年6月18日に閣議決定された「成長戦略実行計画」では、ライフサイエンスをデジタルやグリーンと並ぶ重要戦略分野として医薬品産業の成長戦略があげられ、「データヘルス改革を推進し、個人の健康医療情報の利活用に向けた環境整備等を進める。また、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の充実や研究利用の際の利便性の向上を図る。」となっている(28頁~)。
 同じ6月18日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」でも、医療や教育という「準公共分野」のデジタル化が重視され、個人の健康・医療情報の記録・管理と医療機関等への共有、個人・保険者・医療機関等・国・地方公共団体・民間事業者の情報連携やレセプト情報の活用を求めている。
 9月に発足したデジタル庁は、「医療、教育、防災、モビリティ、契約・決済等の分野において、デジタル化やデータ連携を推進する体制を構築し、実装を進める。」ことを、当面のデジタル改革における主な項目の一つとしている。
 もともと医療保険のオンライン資格確認の構築は、下図報告のように、市民や医療機関の利便性ではなく、医療・健康分野の情報連携の基盤整備が目的だった。

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医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会 報告書概要/参考資料(2015年12月10日)4頁

●個人情報保護を置き去りにした利活用

 医療や健康情報はプライバシー性が高く、個人情報保護法でも「要配慮個人情報」として、不当な差別や偏見その他の不利益が生じないように取扱いに特に配慮を要する情報とされている。本人の明示的な同意がなければ提供しないのが原則だ。
 しかし法令に定めがあれば提供が認められることを逆手にとって、法改正により本人同意なしに提供を広げていこうとしている。オンライン資格確認等システムからの特定健診の情報提供のために、事業主健診の結果を本人同意なく保険者に提供できるようにするための下図の法改正は、今年2月に国会提出され6月4日成立した。

第138回社会保障審議会医療保険部会( 2020年12月23日)資料3

 マイナンバー制度をつくるにあたり、特に医療分野の情報についてはマイナンバー制度開始時には利用対象とせず、 そのプライバシー侵害性を考慮して特別の立法措置を整備していくことが「社会保障・税番号大綱」 に特記されていた(55頁)。しかしその立法措置は講じられないまま、利活用だけが進行している。
 このような個人情報の利活用ばかりを優先する仕組みを、市民は利用する気にならないだろう。

●追記 (2021.10.28)  本格運用開始時の状況

 10月20日、オンライン資格確認等システムの「本格運用」が開始された。本格運用開始時点の状況について、10月22日に開催された第1回「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」の資料1で報告されているので、追記する(厚労省のサイトにも掲載)。
 相変わらず顔認証付きカードリーダーの申込施設は増えず、システム改修など準備が完了した施設が8.9%、実際に運用開始した施設は5.1%で、1割にも満たない。

        抜本改善WG資料1 14頁

●いったい何が便利になるのか

  「本格運用」を受けてメディアでも利用されていない実態が報じられているが、同時に「利用が進めば便利になる」というコメントが多い。政府も8月下旬から「マイナンバーカードが保険証利用で便利になる」などのテレビCMを流している。しかし市民にとって何が便利になるのか。
 政府の説明は、たとえば転職等があっても保険証として使えるので新しい保険証が届くのを待たなくていい、というものだが、「医療保険者等が変わる場合は、加入の手続が引き続き必要です」と注記されているように手続が必要で、自動的に切り替わると誤解して手続しないと保険診療が受けられない(いったん10割全額が請求され、あとで保険で負担する7割分等を返す扱いになる)。
  また特定健診情報や薬剤情報のデータが自動で連携されるので、口頭で医師や薬局に伝える必要がないというが、伝えたくない病歴なども伝わることになる。
 「限度額適用認定証がなくても、限度額を超える支払いが免除されます」というが、限度額は地方税額により決まるので、収入状況を医療機関等に伝えることを意味する。病院への入院時ならともかく、かかりつけ医にまで家計状況を知られたいだろうか。
 これら健診情報や薬剤情報、限度額の医療機関等への提供には本人同意が必要となっているが、同意しないとかかりつけ医と気まずい関係になるのが不安だ。
 受診の際の手間も増える。健康保険証であれば毎月はじめに保険証を見せるだけで受診できる運用が多いが、マイナンバーカードを利用すると受診の都度資格確認が必要だ。また具合が悪くて代理が窓口に行くと顔認証での本人確認はできず、代理人にマイナンバーカードの暗証番号を教えなければならない。

 一言でいえば、患者目線の利便性で作られているのではなく、医療・健康の個人情報を利用したい側が作ったシステムだ。その結果、自分が知らないうちに病歴や健康状態等が、いろいろなところに伝わることを心配しなければならない。
 マイナンバーカードの利用は拡大し様々な個人情報をひも付けしようとしており、持ち歩いて紛失したり悪用されるリスクも高まる。マイナンバーカードと暗証番号があれば、マイナンバーを付けて行政等が管理しているあらゆる「特定個人情報」がマイナポータルで見れるようになるだけでなく、本人に成りすまして手続することも可能だ。
 「便利になる」代償はプライバシー侵害だ。マイナンバーカードの保険証利用手続はしないで、健康保険証を持参しよう。

発足前にはやくも露呈する
民間主導のデジタル庁の危うさ

 2021年9月1日に発足するデジタル庁について、早くも官民癒着の疑惑が表面化している。デジタル庁の母体となる内閣官房IT総合戦略室 (IT室) が開発したオリンピック・パラリンピックの観客管理システム(オリパラアプリ)の入札で、8月20日に内閣官房が調達経過の疑惑に対して不適切だったと認める報告を公表した

●民間主導の異例の官庁=デジタル庁

 デジタル庁は民間主導の異例の官庁として、事務全体を監督する「デジタル監」などの人材を民間から登用する。職員の約1/3が民間から採用され、民間企業に在籍したまま非常勤公務員として勤務できる。
 そのため法案採決にあたり国会では「デジタル庁設置法の施行に関し、デジタル庁への民間からの人材確保に当たっては、特定企業との癒着を招くことがないよう配慮すること」が、附帯決議されていた

デジタル庁組織体制(2021年6月4日時点予定 )デジタル庁サイトより

●平井デジタル大臣の「脅す、干す」発言が発端

 この「オリパラアプリ」をめぐる官民癒着の疑惑は、6月11日朝日新聞の報道が発端だった。平井デジタル担当大臣がオリパラアプリの事業費削減をめぐり、4月のIT室の会議で同室幹部らに契約金額の減額交渉にあたり請負先の NECに対し、「NECには(五輪後も)死んでも発注しない」「今回の五輪でぐちぐち言ったら完全に干す」「どこか象徴的に干すところをつくらないとなめられる」などと発言し、さらに、NEC会長の名をあげて幹部職員に「脅しておいて」となどと発言していたことを報じた。
 平井大臣は「強気で減額交渉するよう求めた発言だったが、ラフな表現で不適切だった」と釈明したが、朝日新聞は会計検査院OBの弁護士の「国が不当な圧力をかけて請負金額の減額を迫ったとすれば優越的地位を背景とした事実上の強要で問題」との見解を紹介している。

●週刊文春、週刊新潮が相次ぎ続報

 その後週刊文春6月24日号がこの発言に関連して、デジタル庁の入退室管理システム導入にあたり平井大臣が自身と関係の深いベンチャー会社のシステムの方がNECより優秀と発言した報じ、平井大臣発言の音声データを公表した。個別の社名まで出して指示すると「官製談合防止法に違反する疑いがある」との元会計検査院局長の有川博日本大学客員教授の指摘を報じている。
 これに対して平井大臣は、4月7日の会議では「大手ベンダーのシステムに拘ることなく、ベンチャー企業を含めてしっかり勉強していくようにという趣旨で事務方に話をした 」もので社名は発言していないと否定している。その証拠として6月22日に音声データを公表したことを6月25日の記者会見で説明した。
 週刊文春は7月1日号でオリパラアプリを受注したNTTの平井大臣に対する接待疑惑を報じたが、平井大臣は割り勘で払っていると反論しているという。

 このオリパラアプリの契約についてはさらに7月1日号の週刊新潮が、オリパラアプリの開発を担当した民間出身のIT室幹部(室長代理)がNECが癒着し平井大臣と対立していたことが「脅す」発言の背景にあると報じた。

●訪日外国人監視のためのデータ連携基盤構築

 この疑惑を受けて7月8日にIT室は、4名の弁護士による 「統合型入国者健康情報等管理システムの調達に係る調査チーム」を設置し、8月20日に65頁の調査報告書を公表した。
 この報告書によれば「統合型入国者健康情報等管理システム」は、 オリ・パラを利用して訪日外国人管理のために関連する情報システムのデータを恒久的に連携する基盤を構築しようとするものだ。

「主に訪日外国人観客を対象として、CIQ(税関・入管・検疫)手続の利便性向上、国内滞在中の健康情報の登録、登録された健康情報と顔認証技術による競技会場への入場の効率化、帰国時に必要となる陰性証明書の取得支援をワンストップで実現するスマートフォンアプリ(オリ観アプリ)を開発して、訪日外国人観客に提供するとともに、外国人観客によって同アプリに入力される顔写真や各種情報を、関係する各省庁等の情報システム(eVISA システム(外務省)、空港検疫業務システム(厚生労働省)、入管システム(出入国在留管理庁)、税関システム(財務省)、HER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム、厚生労働省)、入場管理システム(オリンピック・パラリンピック組織委員会)等)と紐付けするデータ連携基盤の開発・運用・保守を内容とする・・・」(報告書p.7-8)
「東京オリンピック・パラリンピック終了後も多くのインバウンド観光客用のプラットフォームとして活用することが予定されていた 」 (報告書p.21)

 2021年1月14日の入札でこのシステムを受注したのは、 NTTコミュニケーションズを代表幹事とするJBS(日本ビジネスシステムズ株式会社)、NEC(日本電気株式会社)、アルム、ブレインの5社で構成されるコンソーシアムで、その分担は以下のようになっていた (報告書p.47) 。なお入札に参加したのは本コンソーシアムのみだ。

NTTコミュニケーションズ:プロジェクト全体管理/統括・管理、全体統括/プロジェクトマネジメント、アプリ設計・開発・保守、サポートシステム設計・開発・保守、システム運用、コールセンター、情報セキュリティ管理、GDPR等海外法規制対応
JBS:関係省庁等データ連携基盤及び業務アプリ設計・開発・保守
NEC:顔認証連携システム設計・開発・保守
アルム:医療機関向け連携支援設計・開発・保守
ブレイン:多言語対応、コンソーシアム事務局

 しかし新型コロナ流行で外国人観光客を受け入れない方針が3月20日に決定されたため、 eVISAシステムとの連携は行わず、顔認証連携システムを利用せず、オリ・パラ終了後は CIQ(税関・入管・検疫)データの連携機能に絞ってシステムを利用することが決定された (報告書p.57)。
 それにともない5月31日に、契約額が73億1500万円から38億4840万8366円に変更された。平井大臣の「干す、脅す」発言の原因となったNECが担当していた顔認証サブシステムの契約額は0円とされたが、報告書では「IT室とNECが、それぞれ、本契約内容に関する法的観点からの検討等を十分に行った上で、両者の協議によって合意されたものであり、特段の問題を含むものではない。」(p.57-58)としている。それではあの平井大臣の「干す、脅す」の暴言は何だったのだろうか。

●調査報告も認めた不適切なシステムの調達

  このシステムはIT総合戦略室の神成淳司室⾧代理(K大学環境情報学部教授)を管理者とする、いずれも民間企業からの出向者等によるPTが開発にあたった (報告書p.10) 。
 報告書では、「守秘義務を負わない民間事業者をプロジェクト管理等の体制に組み込んでいたことは、秘密保持の観点からも問題」とか、入札にあたり予定価格を業者に漏らしたり他社が出した見積もりを別の会社に渡すという職務違反や、民間出身のIT室幹部の関与する企業に再委託する利益相反などの不適切な行為があったことを指摘している。
 ただIT室の事務室移転やパソコン更新で2月以前のメールのやりとりなどのデータが失われていたり、「限られた時間の中で、飽くまでも任意に協力を求めるかたちで行われた」などの制約があり、「本調査の結果は、関係者の法的責任及び職責を追及する上で万全の根拠となるものではない」としており (報告書p.3-4)、平井大臣発言との関係も触れておらず、法令違反も認めていない 。

●「公正性に国民の不信、秘密保持からも問題

 まず指摘しているのは、 IT室の仕様書作成作業に深く関与していた民間事業者が社長を務めるネクストスケープ社が、JBS(日本ビジネスシステムズ株式会社)からの再委託先としてシステム開発に関与していた点だ。守秘義務も負わない純然たる民間事業者を組み込んでいたことは秘密保持の観点からも問題であり、調達手続の公正性に対して国民の不信を招くおそれもあり、不適切だったとしている。

 「本システムにおいて、CIQ関係のデータや外国人観客の健康情報に関するデータなどの複数のデータをクラウド上でやり取りするデータ連携が必要となると考えられたことから、神成室⾧代理と親しく、クラウドサービス分野の第一人者であり、マイクロソフト社が実施しているコンテストの入賞歴もある株式会社ネクストスケープ代表取締役社⾧の(F社⾧)らに協力を依頼し、「本システムの具体的内容を含め、相当に機微にわたる情報を提供しながら、仕様書の作成への協力を仰いだ・・・あたかも(F社⾧)らを神成PT の一員とするような体制を構築していた。」 (報告書p.11-12)

 しかし秘密性の高い情報が漏洩された事実は確認できず、ネクストスケープが受注において有利な立場となった事実も確認できなかったとして済ませている。
 デジタル庁で民間人材を登用する理由として、公務員ではデジタル技術の専門的知識が不足していることが言われているが、民間人材で構成されたPTでも専門知識が足りずに関係する企業の力を不適切な形で借りていたということは、民間主導のデジタル庁の将来を暗示している。

●「利益相反が問題となり得る状況

  神成IT室⾧代理については、利益相反の問題も指摘されている。このシステムのデータ連携基盤には、神成室⾧代理 が開発責任者となり、ネクストスケープ社にプログラミング・コード化を委託して開発されたWAGRI(農業データ連携基盤)が採用されている。
  WAGRIの著作権は発注元の農業・食品産業技術総合研究機構にあるが、神成室⾧代理は著作者として実施料収入の一定割合の配分を受ける権利を持っているため、 WAGRIが使用されると神成室⾧代理は経済的利益を得ることが可能だ。
 報告書は、仕様書はWAGRIを利用せざるを得ないものにはなっておらず、API(外部とのデータ連携)の構築が簡易に行える WAGRIの利用は妥当としている (報告書p.23-28)。また神成室⾧代理は実施料収入の一定割合の配分を受ける権利の放棄を申し出て約107万円の配分を受けておらず、「WAGRI の利用によって、神成室⾧代理が経済的な利益を得たことはなく、将来的にその利益を得る見込みもない」という。
 しかし配分放棄を申し出たのは、週刊新潮7月1日号が疑惑を報じた後の7月6日頃だ。報告書は「週刊誌報道を受けて、これを放棄したのではないかとの国民の疑念を招くおそれがあるといわざるを得ない」 (p.51-52)と書いているが、報道があったから放棄したとみるのが自然だろう。

●入札にあたっての職務違反

 このシステムの調達は、2020年12月28日入札公告、2021年1月8日提案書提出期限、1月14日入札・開札の日程で行われた。年末年始を挟んだ短期間の手続では公正さに疑義が生じることは、デジタル法案の国会審議でも問題になっていた(2021年3年31日衆院内閣委川内委員質問)。
 報告書では、「法令違反は認められないものの、年末年始の休業日を挟んだことによって入札に参加することができない民間事業者が生じ、競争性が阻害されるおそれがあった面があることは否定できない」と指摘しながら、やむを得なかったとしている (p.31)。

 報告書が問題にしているのは、不適切な見積もりのとり方だ。3社から見積もりを聴取しようとしたところ、 NTTコミュニケーションズからは提出されたが、参考見積提出を打診した他2社からは、不確定要素が多く見積困難とか応札の意思がない案件に見積もりは出せない等断られていた。しかしなんとか見積もりを得ようと、見積額の概要を示して作成を依頼したり、他社の見積書を別の会社に示して参考にしながら作成するよう依頼するという、あり得ない依頼を行い予定価格を決定していた (p.32-41) 。
 報告書は、「見積もりに発注者側が関与することがあってはならない」とか「参考見積を徴取する趣旨を根本から没却するものであるし、場合によっては、適正な予定価格の作成を阻害するおそれすらある」とか「民間事業者が独自の積算に基づいて作成した参考見積書を他社に交付することは、自社の積算のノウハウを他社に掌握されてしまうという点において競争上大きな不利益を被らせかねない行為」と、当然の指摘をしている。
 しかし具体的な金額を教示していたと認定することはできないと判断し、「法令違反とはいえないものの、不適切な行為」「職務違反が認められ、公の入札方式による調達手続に関わる者としての意識を欠いたもの」と言うにとどめてる。

 このような調達の進め方は、今回、たまたまマスコミ報道があったために実態が明らかになったが、従来から行われていたのではないかという疑念が生じる。このような調達をしてきたことが「デジタル化の遅れ」の一因ではないのか。 

●コンプライアンス委員会は設置されたが

  8月20日の「統合型入国者健康情報等管理システム(オリパラアプリ)の調達に係る調査結果報告をうけて、 6月2日に設置されていた「デジタル庁における入札制限等の在り方に関する検討会」の取りまとめが 8月25日に報告され、それを踏まえて8月27日にコンプライアンス委員会が設置されている。
 8月27日には見積もりで不適切な行為をしたIT室の参事官と戦略調整官が訓告、 PT管理者だった神成室長代理が監督責任があるとして訓告、IT室の三輪昭尚室長と審議官、別の参事官も監督責任が問われて厳重注意の処分がされ、平井卓也デジタル改革相は決裁ルートに入っていなかったが 一定の監督責任があるとして大臣給与1カ月分を自主返納すると発表した
 軽い処分で幕引きということのようだ。

 しかしこの調査報告書は、意図的かどうかはわからないが肝心のところで指摘が甘くなっている。とくに発端である平井デジタル担当大臣の「暴言」の背景には、まったく触れていない。そればかりか、会議での平井大臣の音声データが外部に流出したことの「犯人探し」をしたが確定できなかったなどと書いている (p.60-61) 。調査の方向が逆ではないか。

●個人情報保護措置が空洞化する危惧

 この報告書を受けたコンプライアンスの方向にも危惧がある。例えば 「デジタル庁における入札制限等の在り方に関する検討会」の取りまとめでは、柔軟な調達契約の選択として民間で流行の「アジャイル型」の開発手法の採用を求めている。これは従来の「要件定義-設計-開発-テスト-運用開始」というシステム開発ではなく、機能単位の細かな「設計-開発-実装-テスト-修正」のサイクルを繰り返しながら開発していく手法だ。
 しかしこのやり方は、マイナンバー制度の個人情報保護措置の柱の一つである特定個人情報保護評価制度が、「要件定義-設計」段階で事前に評価書を作成して第三者評価やパブコメを行うことを求めていることと整合しない。
 すでに新型コロナワクチン接種記録システム(VRS)や公的給付のための預貯金口座へのマイナンバー付番・管理法案のマイナンバーの利用では、個人情報保護委員会は事前に実施することが原則である特定個人情報保護評価を「緊急時の事後評価」の規定を適用して事後でよいとするなど、政府の施策に追随して個人情報保護措置の空洞化を容認している。
 デジタル庁はマイナンバー制度を含む行政システムの再構築をしようとしているが、 個人情報保護措置が形骸化することが危惧される。

デジタル国会で何が議論され
 何が議論されなかったのか

学習会 7.17(土)13:30~

 2021年5月12日に成立したデジタル改革法の、国会審議を検証する学習会を7月17日に行います。法案を受けて、9月1日のデジタル庁発足・デジタル社会形成基本法施行を見据えた動きも具体化してきました。多岐にわたる法案により何が変わるのか、不十分だったとはいえ国会審議での解明と活用できる質疑を探り、今後の運動の進め方を討論します。
 学習会の案内はこちらをごらんください。

●日時●2021年7月17日(土)13時30分〜 16時30分
●会場● ふれあい貸し会議室渋谷No30 »Map
渋谷区渋谷2-22-7 渋谷新生ビル 803号室
●報告●原田富弘さん(共通番号いらないネット)
●主催●共通番号いらないネット
●会場費・資料代など●500円
●メモ●どなたでも参加できます。オンラインでも参加できます。
 会場参加は予約不要です。
 オンライン参加の方は事前に予約をしてください。予約方法は »こちら に。

  学習会記録(2021.7.20追記)
(1) 報告部分 映像(youtube)1時間32分 こちら
(2) 質疑部分 映像(youtube)1時間16分 こちら

↓学習会資料(68頁、左上の矢印で頁がめくれます)
    ダウンロードは こちら から(PDF 6.2MB)

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地方自治は「許容されない」?!
個人情報保護委員会の条例対応

 個人情報保護委員会は2021年7月1日、 「令和3年改正法の規律に関する考え方」 を公表した。国や地方自治体に、この内容で施行準備を促している。

●改正個人情報保護法施行に向けた今後の予定

 5月12日に成立し5月19日に公布されたデジタル社会形成整備法で、個人情報保護法が全面改正された(令和3年改正法)。官民の保護法の統合(整備法50条)については公布日から1年以内(来年春)に、地方自治体の条例の「リセット」と国基準化について(整備法51条)は、公布日から2年以内に施行予定となっている。
 施行に向けて5月19日の第174回個人情報保護委員会は、「個人情報保護委員会の今後の取組」を決めている。それによれば、官民の統合やそれに含まれる学術研究関係については、今年の夏~秋に政令・規則やガイドラインの意見募集(パブリック・コメント)を行い、自治体の条例改正の政令規則やガイドラインについては、冬に意見募集を予定している。

    「 個人情報保護委員会の今後の取組 」7頁

 6月23日の第176回個人情報保護委員会では、「予め現時点における公的部門全体を通じた規定の解釈等の概略を示す」ことで国・地方の施行に向けた着実な対応を促すために、
(1)公的部門(国の行政機関等・地方公共団体等)における個人情報保護の規律の考え方
(2)学術研究分野における個人情報保護の規律の考え方
を決め、7月1日に公表した。

●地方の独自性を「許容しない」規律

 このうち「(1)公的部門(国の行政機関等・地方公共団体等)における個人情報保護の規律の考え方」では、自治体の条例の国基準への統一について、争点となっていた国の法律を上回る条例の「上乗せ横出し」規定をことごとく「許容されない」としている。
 要配慮個人情報については、自治体は地域特性に応じて「条例要配慮個人情報」を条例に設けることはできるが、令和3年改正法の個人情報保護に関する全国共通ルールを法律で定めるという目的から、「法の規律を超えて、地方公共団体による取得や提供等に関する独自の規律を追加することや、民間の個人情報取扱事業者等における取扱いを対象に固有の規律を設ける等の対応は、許容されない。」
 オンライン結合制限についても、「改正後の個人情報保護法においては、オンライン化や電子化を伴う個人情報の取扱いのみに着目した特則を設けておらず、法が求める安全管理措置義務等を通じて、安全性確保を実現することとしており、条例でオンライン化や電子化を伴う個人情報の取扱いを特に制限することは許容されない。」
 自治体の個人情報保護審議会に諮問することについても、専門的な知見に基づく意見を聴くことが「特に必要である」場合に限って諮問することはできるが、「個人情報の取得、利用、提供、オンライン結合等について、類型的に審議会等への諮問を要件とする条例を定めることは、今回の法改正の趣旨に照らして許容されない。」
 死者に関する情報の扱いについても、「条例により個人情報に含めて規律することは、改正後の個人情報保護法の下では許容されない。」
としている(下図参照)。

  「公的部門における個人情報保護の規律の考え方」 8頁

 さらに個人情報や要配慮個人情報の定義については、「令和2年改正後の個人情報保護法で定める定義に統一することとし、条例で独自の定義を置くことは許容されない。」
 開示、訂正及び利用停止関係の規定については、 地方公共団体毎に定められている情報公開条例との整合性を確保するため、非開示情報、開示等手続細則及び審査請求手続については、法律の範囲内で独自規定を条例で定めることができるが、情報公開条例との整合確保と無関係な非開示情報を追加することや、法で定める開示決定等の期限を延長することは「許容されない
としている。

●条例の「リセット」を迫る平井デジタル大臣

 政府は国会審議では当初、自治体は保有する情報に一般的な管理権があり、地域の特性に配慮した要配慮個人情報の内容は自治体が条例で定めることができるとしているので、全てが画一的な制度になっているものではないと、 条例で独自の規定をすることを認めるかのような説明をしていた(3月17日衆議院内閣委員会塩川委員への答弁)。
 しかし3月19日の衆議院内閣委で平井デジタル担当大臣は、「現行の地方公共団体の条例の規定は、基本的には改正法の施行までに一旦リセットしていただくことになり、独自の保護措置として存置する規定等については改めて規定していただくことになる 」と答弁した。存置できる事項について政府参考人が説明したが、事務的な手続に関することばかりだった。
 この「リセット」発言には、野党だけでなく与党委員からも「自治体が熟議を重ね、独自に築き上げてきた個人情報保護条例をいとも簡単にリセットという、こういった表現をされるというのは、地方議会出身の私としましてはいささか釈然としない」など批判が集まった。

●地方自治の最大限尊重を求めた国会

 平井大臣も答弁しているように、日本の個人情報保護法制は地方公共団体の先進的な取組により主導されてきた(下記経過年表参照)。平井大臣は「今後、法の施行のためのガイドラインの策定や個人情報保護法の定期的な見直しを行う際は、住民に密着した行政を行う地方公共団体の意見や提案を積極的に反映していくことが重要である」とも答弁している
 デジタル改革法を審議した国会では、個人情報の利活用と連携・標準化・共同化の拡大にともなう個人情報保護の危うさが指摘され、多くの付帯決議が付された。その中で自治体の個人情報保護条例の制定にあたっては地方自治の本旨の最大限尊重や、全国共通ルールについて国の法令を押しつけるのではなく法令の見直しも検討すべきことを求めている。
 個人情報保護委員会の条例による「上乗せ横出し」を「許容されない」と拒み国の法令を押しつける姿勢は、このような国会の意思を軽視するものだ。

     衆参両院の内閣委員会の付帯決議
「四 2 地方公共団体が、その地域の特性に照らし必要な事項について、その機関又はその設立に係る地方独立行政法人が保有する個人情報の適正な取扱いに関して条例を制定することができる旨を、地方公共団体に確実に周知するとともに、地方公共団体が条例を制定する場合には、地方自治の本旨に基づき、最大限尊重すること。また、全国に適用されるべき事項については、個人情報保護法令の見直しを検討すること。」
 ※衆議院内閣委員会の付帯決議全文はこちら
 ※参議院内閣委員会の付帯決議全文はこちら 

         (筆者作成年表)

●個人情報保護条例の多様性は自治の証

 住民に信頼される行政を進めるために、自治体は国に先行して住民参加で個人情報保護に努めてきた。その結果、下記総務省調査のように条例の規定には多様性がある。

           総務省提出資料

 政府はこの条例の多様性を「2000個問題」として、自治体毎の相違がデータ流通の支障だと問題視している。しかし改正前の個人情報保護法第5条は自治体の責務として、その区域の特性に応じて個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な施策を策定し実施することを求めてきた。条例の多様性は、自治体がその責務を果たすために努力してきた結果であり、それを「2000個問題」などと批判する資格は国にはない。
 相違をなくすだけなら、規制の厳しい自治体の基準に共通ルールを揃える方法もある。しかし政府は下図のように、条例の独自保護措置の「上乗せ横出し」をカットして国の法律の枠内に揃えようとしており、自治体の意見や提案を積極的に反映させる姿勢はない。

「個人情報保護制度の見直しに関する最終報告」概要より

 今回の法改正は「保護水準の低い地方公共団体がある」とか、GDPRなどとの国際的な制度調和など個人情報保護の向上を装っている。しかしその意図は、いままで住民情報の保護を目的として作られてきた条例を、国や企業が住民個人データを利用するのに支障になるとしてリセットし、「デジタル化に対応した個人情報保護とデータ流通の両立」と称して利活用を進めようとするものだ。
 私たちは行政手続の必要や行政サービスを受けるために、個人情報を提供している。その情報を勝手に提供して他の目的に利活用することは、プライバシーの侵害であるだけでなく、行政に対する信頼を損ない、行政への手続を躊躇わせることになる。

●「地域の特性」を判断するのは自治体

 改正法は要配慮個人情報については「条例要配慮個人情報」を新設して、「地域の特性その他の事情」により「取扱いに特に配慮を要するもの」を条例で定めることを認めている。
 要配慮個人情報とは、差別の原因になるなど慎重な取扱いを要する個人情報で、2015年の個人情報保護法改正で新設され、人種、信条、社会的身分、病歴、前科、犯罪被害の他、政令で障害、健診結果、保険指導・診療調剤情報、刑事事件手続や少年の保護手続が規定されている。本人同意なしに提供できないなどより厳しく保護される。
 しかしこの条例要配慮個人情報について「個人情報保護制度の見直しに関する最終報告」(40頁)では、地方公共団体の施策により保有する情報で国の行政機関では保有が想定されず国の法律に規定のない情報、例えば「LGBTに関する事項」「生活保護の受給」「一定の地域の出身である事実」等に限定し、国の法律を上回る規定は認めていない。

 また国会審議で政府参考人は、オンラインの結合の禁止については地域的な特性ということではないので条例で基本的には禁止はできない、という説明をしていたが、これは政府の勝手な解釈でしかない。
 住基ネットに対して、横浜市と同様に「段階的参加」を認めることを求めて国を訴えた杉並区の当時の山田宏区長(現自民党参議院議員)は、東京地裁に提出した陳述書(第8回口頭弁論 甲第41号証 )で、杉並という地域の特性として、高い自治意識からプライバシーについて敏感な反応を示してきたことを、1978年の電算個人情報保護条例制定の際の住民直接請求運動や、情報公開や個人情報保護条例のいち早い制定などを例に主張していた。
 杉並区の電算条例制定の際の杉並区個人情報保護対策研究協議会は、「国民総背番号制に反対するという意味からも、・・・国や他の地方公共団体との結合はしない、ということを基本にすえる必要がある」と答申し、オンライン結合を制限する条例を制定している。

 住民情報を保護するのは自治体の責任であり、その地域の特性を判断するのは自治体だ。多様であるがゆえに足らざるところもある自治体の条例の保護水準の向上は、地方自治を尊重しながら漸進的に進めるべきであり、デジタル化への移行のために「ショック・ドクトリン」でリセットすることなど許されない。

↓法改正参考資料(矢印をクリックすると画面が変わります)

20210605-1

デジタル監視法案を廃案へ!
院内集会で衆議院審議を検証

 デジタル改革関連6法案は、2021年5月12日の参議院本会議で可決成立しました。共通番号いらないネットは、5月13日に声明「市民監視を強化するデジタル改革関連法案の採決に抗議する」を発表しました。
 声明はいらないネットのサイト(こちら)に掲載しています。(2021年5月14日追記)

 菅政権の目玉政策であるデジタル改革関連6法案は、5法案が4月6日の衆議院本会議で採決され、4月16日には地方自治体の情報システムを標準化する法案も衆議院本会議で採決され、連休明けにも参議院で可決・成立が目論まれています。
 付帯決議が衆議院の内閣委員会総務委員会で合わせて43本もついたように、問題だらけの法案です。デジタル化礼賛一色だった世論も、法案の問題が知られるにつれて批判的な意見が増えてきました。
 新型コロナ対応の失敗をデジタルの遅れのせいして、それを口実に行政の縦割りを打破する突破口として強力な権限を持つデジタル庁を創設し、マイナンバー制度を基盤に個人情報の利活用と国民監視強化を「一気呵成」に進めようという法案です。
 4月27日(火)午後、衆議院第二議員会館第3会議室で、デジタル法案の衆議院審議を検証する院内集会が、 共謀罪NO!実行委員会、「秘密保護法」廃止へ!実行委員会、NO!デジタル庁の共催で開催されました。
 当日の資料 「デジタル法案衆議院審議の検証」 を掲載します。(画像をクリックすると左上の矢印で頁がめくれます)
※この資料は、衆議院の内閣委員会・総務委員会での審議を、審議録が公開される前にインターネット中継等を参考に作成したものです。
 正確な答弁内容は国会会議録検索システム等で確認してください。
 参議院の内閣委員会での付帯決議はこちら、総務委員会での付帯決議はこちら (5月14日追記) 。

20210427

    資料のダウンロードはこちらから
    院内集会の録画はこちらから

デジタル監視法案廃案に向けた行動に参加を

5・6デジタル監視6法案に反対する行動
■日時: 5月6日(木)12時30分~13時
■場所: 衆議院第二議員会館前
■挨拶: 国会議員
■発言: 市民団体
■共催: 共謀罪 NO !実行委
     「秘密保護法」廃止へ!実行委員会
    NO !デジタル庁
■協賛:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委

5・6デジタル監視6法案に反対する院内集会
■日時:5月6日(木)13時30分~15時30分
■会場:衆議院第二議員会館多目的会議室
■挨拶:国会議員
■お話:個人情報<利活用>の課題
   -デジタル関連法で何が変わるのか-
     山田健太さん(専修大学=言論法)
■共催:共謀罪NO!実行委員会
    「秘密保護法」廃止へ! 実行委員会
    NO!デジタル庁  
■オンライン配信 https://youtu.be/Uqh4jzFMc08

共謀罪 NO !実行委 、秘密保護法」廃止へ!実行委
NO!デジタル庁  デジタル庁反対院内集会の記録

デジタル庁と監視社会
–オールデジタルにならない社会を目指して-

■日時:4月6日(火)13時30分〜15時 30分
■会場:衆議院第2議員会館第4会議室
■お話:小倉利丸さん (批評家)
    お話の資料はこちらから
 院内集会の録画はこちらから

個人情報保護法改正の問題点
■日時:2021年3月24日(水)15時〜
■会場:衆議院第一議員会館 地下1階 第5会議室
■お話:三木由希子さん(情報公開クリアリングハウス理事長)
  院内集会の録画はこちらから

デジタル化される医療と教育
-人間の生涯管理に道を開くデジタル化-

■日時:2021年 3月 9日(火)13時30分~15時30分
■場所:衆議院第 2議員会館第2会議室
■お話:人間の生涯管理に道を開くデジタル化<医療編>
    知念 哲さん(神奈川県保険医協会)
    お話の資料はこちらから
■お話:デジタル化で狙われる「教育データ」     
    伊藤拓也さん (全国学校事務労働組合連絡会議)
    お話の資料はこちらから
 院内集会の録画はこちらから

デジタル庁下のマイナンバー制度
-「利用拡大」から「再構築」ヘ-

■日時:2021年2月 8日(月)13時30分~15時30分
■場所:衆議院第 2議員会館第4会議室
■お話:原田富弘さん (共通番号いらないネット)
    お話の資料はこちらから
 院内集会の録画はこちらから

デジタル庁なんていらない1・18院内集会
■日時 2021年1月 18日 (月 )13時45分~16時00分
■会場 衆議院第2議員会館多目的会議室
■発言:海渡雄―さん(共謀罪対策弁護団)
    お話の資料はこちらから
■発言:原田富弘さん(共通番号いらないネ ット)
    お話の資料はこちらから
 院内集会の録画はこちらから

国会行動などの記録はこちらから
個人情報保護法改悪についてはこちらも参照

コロナ予防接種で崩される!
マイナンバーの個人情報保護(3)

●1億人のマイナンバーと個人情報を民間で一括管理

 4月12日から新型コロナの予防接種が、高齢者を対象に始まろうとしている。
 この予防接種の接種記録システム(VRS)は、本ブログ「コロナ予防接種で崩される! マイナンバーの個人情報保護」( )で指摘してきたように、マイナンバー制度の個人情報保護措置にことごとく反している。
 「全国民」のマイナンバーと住所・氏名・生年月日・性別、さらに接種の有無という要配慮個人情報を、社員約40名のベンチャー企業が一括管理し、データは外資系のクラウド(Amazon Web Services)で管理される。にもかかわらず、そのリスク評価や漏えい等の発生時の責任は曖昧だ。

●無視されるマイナンバー制度の個人情報保護措置

  「コロナ予防接種で崩される! マイナンバーの個人情報保護」で指摘したように、この接種記録システム( VRS )はマイナンバー制度の個人情報保護措置に反したシステムになっている。
 第1に、漏えい等のリスクを事前に自己点検する「特定個人情報保護評価」を、事後評価で構わないとしている。さらにその評価書の「ひな型」を国が用意して自治体が書き写すことを容認し、保護評価制度そのものを軽視している。番号法では特定個人情報保護評価を実施していなければ、マイナンバーの利用も情報提供も認められていない。
 第2に、自治体しか予防接種事務にマイナンバーを利用できないが、この VRS は国が開発し国のシステム内の論理的に区分された各市区町村の領域でマイナンバーにより接種記録を保管し管理する。利用事務の法定という番号法の個人情報保護措置に反している。
 第3に、「収集・保管」が認められない国に自治体からマイナンバーを含む個人情報を提供するために、国のシステムへの提供ではなく受託業者と市区町村の業務委託による提供だと説明している。委託業者のシステムへのアップロードだから国への提供ではない、という脱法的解釈だ。
 第4に、漏えい等のトラブルについて国が全責任を負うと言っているが、自治体は委託先である(株)ミラボに対して監督責任を負うことも明記し、番号法上は自治体が責任を負う。自治体は国のつくった内容も運用実態もわからないシステムを監督しなければならず、危うい監督体制になっている。
 第5に、番号法では市町村間の情報連携は安全措置として情報提供ネットワークシステムを使わなければならないが、 VRS では番号法19条15の意識不明者への緊急治療時を想定した例外規定を適用して、市町村間での提供を認めるという拡大解釈をしている。

●マイナンバー法を逸脱する状態は解決していない

 その後1カ月たったが、これらの問題点は解消しないままシステムが運用される。
 全国知事会は2月27日の緊急提言で、政府にマイナンバー法等との整合性を明らかにすることやトラブルについて国の責任で対応することを求めていた。しかし3月20日の下記資料の対応状況を見ても、国はまったく説得力のない拡大解釈しか示していない。

2021.3.20全国知事会新型コロナウイルス緊急対策本部資料4より

●自治体から寄せられる疑問の声

 このようなシステムには、自治体から多くの疑問が出されている。政府のワクチン接種記録システム(VRS)のサイトに掲載されている自治体の質問と回答の中からいくつか抜粋して紹介する(番号はFAQ一覧表のNo 。 日付は回答日)。

システムの利用は義務ではなく、マイナンバーを利用しないことも可能むしろマイナンバーを利用すると面倒

 No95「VRSを使用しないことは認められますか(使用は義務ですか)」の問いに「全自治体が利用することを前提としています( 3月18日)」と回答しているように、システムを利用することは義務ではなく、市町村が利用を判断しなければならない。
 またマイナンバーの利用については、No96「マイナンバーを除く運用での参加も可能でしょうか」に対し「マイナンバーを活用せず接種記録システムを使用することは想定しておりません(3月18日)」と回答し、想定はしていないができないとは回答していない。
 システム上もマイナンバーの利用は必須ではない。システムへのデータの記録(消し込み)は「自治体コードと接種券番号」により行う(2月24日 No29 )。マイナンバー以外の項目だけ登録することも可能だ (3月18日 No269) 。接種会場でマイナンバーやマイナンバーカードを扱うことはない(3月5日 No78 )。転入者の過去の接種歴の確認は「本人同意の上マイナンバーで検索するか、もしくは3情報(氏名・生年月日・性別)を用いる」 (3月18日 No243) のでマイナンバーがなくても可能だ。
 むしろマイナンバーで検索するためには本人同意が必要で、「書面での同意にするか、口頭での同意にするか」各自治体で判断する必要があり(2月24日 No20)、世帯員の同意ではダメであくまで本人が行う必要がある(3月18日 No246)など手間がかかるので、3情報での検索の方が簡便だ。
 しかもシステムには転入先自治体で本人同意をとっているかを転出元自治体が確認できる機能は実装されておらず(3月23日 No317)、接種情報を提供する転出元市町村は本人同意がないのに提供するリスクがある。「今回のマイナンバー法第19条第15号の適用は「本人の同意を得る」ことを前提とするという解釈」(3月18日 No286)になっており、同意なく提供すると番号法違反になる。

 市区町村コードと宛名番号で対象者を検索できるのに、わざわざマイナンバーが必要である理由として「異なる市町村間で迅速に照会・提供を行うために、マイナンバーを用いる」必要があるとしている(3月1日 No84)。市町村内では予防接種記録はマイナンバーがなくても宛名番号(住民を一意に特定するために自治体内部で付番している番号)等で確実に管理されている。3情報(氏名・生年月日・性別)で他自治体に照会可能なら、マイナンバーを必要とする理由がない。
 そもそも今回の予防接種の対象者の中は、マイナンバーのない者も含まれる。接種日に住民基本台帳に記録されている者を対象としているが、「戸籍又は住民票に記載のない者その他の住民基本台帳に記録されていないやむを得ない事情があると市町村長が認める者についても、当該者の同意を得た上で、接種を実施することができる。」(「新型コロナウィルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き」8頁)。システムも、住所が設定できない方についての登録は可能となっている(3月18日 No196)。

市区町村は特定個人情報保護評価を行う必要がある

 事後でよいとされてはいるが、特定個人情報保護評価は実施する必要がある。個人情報保護委員会と調整した「特定個人情報保護評価関連の質問と回答」のQ1では、次のように評価の必要が説明されている。

 今般の新型コロナウイルスワクチンの接種に関する事務において、新システムを利用する場合、既存の予防接種に関する事務に加えて新型コロナウイルスワクチンの接種記録の管理等を行うため、特定個人情報等の取扱いについて、主に次の取扱いが新たに生じることが想定され、特定個人情報保護評価が必要となります。
①新型コロナウイルスワクチンの接種記録を特定個人情報ファイルとして取り扱う
②予防接種台帳を管理するシステム等から新システムへの特定個人情報の登録
③新システムを利用したワクチン接種記録の管理及び他市町村との接種記録の照会・提供(情報提供ネットワークシステムは使用しない)(2月17日更新)

 システムでマイナンバーを利用する限り、すべての市町村が特定個人情報保護評価の「基礎項目評価書」を作成し公表しなければならない。さらに人口(接種対象者)1万人以上の市町村では「重点項目評価書」を、10万人以上の市町村では「全項目評価書」を作成しなければならない。「全項目評価書」作成のためにはパブリック・コメントの実施が必須だ。事後評価であってもパブリックコメントは必要だ (3月22日 No316)。
※「接種対象者登録」の対象者は曖昧で、(1)全住民 (2)16歳以上の住民 (3)接種券発送者(初回は65歳以上の住民)のいずれとしてもいいとなっているが、「今後16歳未満も接種対象となりえますので、(1)で送っていただくことが望ましい」(3月22日 No290)とされている。

 特定個人情報保護評価を事後でも良いとしたり、そのひな型を国が示してコピペを容認することは、リスクを事前に自己点検する制度の趣旨に反し不当だ。事後評価でいいとする理由は、「実施機関が評価を事前に実施することが困難である場合には、緊急時の事後評価の規定の適用対象となる」というものだが、事後評価であっても「可及的速やかに評価を実施していただくことが必要」だ(2月24日 No80)。
 予防接種の開始がワクチン調達などにより遅れており、事前評価の趣旨からは「事後でいい」ではなく可及的速やかに実施する必要がある。しかし国は本日(4月11日)までに評価の再実施に必要な評価書のひな型を示しておらず、「できるだけ早くお示しできるよう、現在検討中です。」 (3月30日 No342)と回答している。

市区町村は個人情報保護条例での判断も必要

 市区町村の個人情報保護条例での対応も必要だ。「本接種記録システムにおけるマイナンバーの提供については、番号法第19条第15号(「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合において、本人の同意があり、又は本人の同意を得ることが困難であるとき」)に該当するため、自治体側での条例整備等は不要」(3月5日 No86)と回答している。しかし意識不明者への救急治療など緊急事態における特定個人情報の提供を想定した例外規定(「番号法逐条解説」47頁)を市町村間の情報連携に適用するという、こんなトンデモ解釈を自治体が認めるのかどうか、判断が必要だ。
 なおマイナンバーを登録するか否かに関わらず、ほとんどの自治体条例で規定しているオンライン結合の制限規定にシステムは抵触する。「一般に、地方公共団体の条例には、オンライン結合について原則禁止としつつ例外的にオンライン結合制限を可能とする規定を置かれております。その場合には、条例に基づき判断する必要があると考えます。 (4月1日 No348) 」と回答しているように、いずれにせよ市区町村の個人情報保護審議会などでの判断が必要になる。

責任分担の曖昧なセキュリティ対策

 このシステムは 「全国民」のマイナンバーと個人情報を、健康情報システムに実績のある社員約40名のベンチャー企業が一括管理し、データは外資系のクラウド(Amazon Web Services)で管理するという、マイナンバー制度では前例のないシステムだ。最近も年金情報の業務委託先からの中国への漏えいやLINEの個人情報が韓国で保管されたり中国から閲覧可能になっていた問題などが相次いで発覚している。接種記録システムから漏えいや不正利用が発生すれば、その影響はこれらの問題の比ではない。

 漏えいや不正利用などのセキュリティについて、国は 「ワクチン接種記録システム(VRS)への御協力のお願い 」(2021.3.5)で自治体に、「システムの利用に関する障害やシステムから個人情報の漏えいが発生する等のトラブルについては国が全責任を負う」(5頁)と通知しているが、同時に「各自治体は、特定個人情報の取扱いの委託を前提として、番号法第11条に基づき、ミラボ社を監督する立場になります。その際の具体的な実地検査又は報告要求の方法については、自治体の過大な負担にならないよう検討し、追って連絡致します。」(6頁)と、自治体の監督責任も明記している。
 しかし「接種記録システムは、国が(株)ミラボ社と契約して開発したシステムを提供」しており、市町村でセキュリティなどを判断することは困難だ。システム利用終了後のデータ消去方法やサーバ等の機器廃棄方法についての問いに、「 VRSはクラウドサービスとなっており、サービス終了とともにデータ消去されます」 (3月22日 NO307)と回答されているが、どうやって市区町村がアマゾン・ウェブ・サービスに調査確認できるのだろうか。

 情報提供等の記録について住民から開示請求があった場合の対応も、開示請求の受付は各自治体が行うが、各自治体はミラボ社から「情報提供等の記録」を入手し対応することとなり、当該記録の入手に当たっては内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室に連絡しミラボ社へ連絡することになっている (3月26日 No 341) 。提供記録は自治体にない。
 自治体はこのようなマイナンバー法からの逸脱に対して住民から訴訟を起こされることを心配しているが、国は「仮に各自治体に対し訴訟を提起された場合は、各自治体は国に訴訟遂行を求めることができます。」 (3月30日 No345) と回答している。 

なぜマイナンバー法に従ったシステムにしないのか

 この接種記録システムは恒久的なシステムではなく、「現時点においては、新型コロナウイルス感染症ワクチン接種用として構築を進めている」(3月18日 No98 )。本来、番号法では自治体間の情報連携は危険防止のために情報提供ネットワークシステムを使うことになっている(3月5日 No90)。
 このシステムについても「本来、予防接種情報については情報提供ネットワークシステムにおいて情報連携することとしており、新型コロナウイルス感染症対策ワクチンの接種情報についても、今後、データ標準レイアウトを定義の上、同システムを通じた情報連携を実施予定」(「 VRS)への御協力のお願い 」6頁)となっており、 R4.6のデータ標準レイアウト改版までに情報ネットワークシステム経由での情報連携に対応させる ( 3月18日 No151)と回答している。

 いままで番号法では可能になっているにも関わらず情報連携が利用されなかったのは、予防接種を医療機関に委託実施しているため接種結果を自治体が予防接種台帳に記録するまで一定の時間がかかっていたためだ(厚労省2017.10.26 事務連絡)。そのため母子手帳などでの確認を優先してきた。
 今回、48億円を使ってタブレットを接種会場にレンタルし、接種券を読み取ってシステムに接種記録を登録することにしている。このような方法で台帳への記録時間が短縮できるのであれば、 番号法のルールにしたがって情報提供ネットワークシステムを利用してもVRSと同様のことは可能になる。

 ただこのタブレットを使った入力が、とくに医療機関での個別接種で順調にいくかはわからない。自治体からの「個別接種の医療機関からVRSの協力が得られない場合、市職員がタブレットを持ちまわるのは現実的に難しいと思われるが、このような事態が生じた場合はどのように対処すればよいか?」の問いに、「個別接種の医療機関からどうしてもVRS登録の協力が得られない場合は、予診票を回収の上登録をお願いします(業務委託でも問題ありません)」 (3月22日  No293 )と回答している。これでは従来と大差なく、リアルタイムでの把握はできない。
 医療機関にとってもこのタブレットを使った入力は負担が大きいのではないか。とくに一つの医療機関で複数の市町村の住民が接種した場合、「タブレットと自治体の組み合わせはシステム上固定されていますで、それぞれのタブレットで接種券の読み取りを行ってください」 (3月25日 No324)となっており、これでは医療機関は各自治体のタブレットを用意する必要がある。

●デジタル庁に向けた脱法的システムづくり?

 そもそも新型コロナ予防接種にマイナンバーを使うというのは、1月19日の記者会見での平井デジタル担当大臣の「ワクチン接種に向けて、マイナンバーを使うことを強く私は要望したい」との突然の発言に端を発している。記者会見では、「今回使わなくていつ使うんだ」「マイナンバー担当として、マイナンバーは使えないというような状況だけは避ける」などと発言していた。
 すでに各自治体の予防接種管理台帳と厚労省が昨年夏から構築してきたワクチン接種円滑化システム(V-SYS)によって予防接種を準備してきた自治体医療機関は、このような唐突なマイナンバー利用に対して困惑していた。

 この接種記録システムを平井デジタル担当は「この情報の話というのはこれからいろんな分野のガバメントクラウドの話の前哨戦」と言い、「デジタル庁の試金石」と報じられている。新型コロナへの不安を利用して接種記録システムを突破口に、マイナンバー制度の個人情報保護措置を空洞化して個人情報の利活用と国家による管理を進めようとする意図も感じられる。それはまさにデジタル庁が目指していることだ。
 市区町村は国に先行して個人情報保護条例を制定し、住民の個人情報の保護に努力してきた。しかしその条例を国は「リセット」し、オンライン結合制限規定を廃止させ、個人情報保護審議会で情報の収集・提供・利用について審議することを認めないデジタル関連法案を国会に提出している。このシステムに市区町村がどう対応するかは、自治体がこれから住民の個人情報保護にどう取り組んでいくかの試金石だ。

マイナンバーの危険性を増す
デジタル法案衆院可決に抗議

 2021年4月2日の衆議院内閣委員会で採決されたデジタル改革関連法案は、4月6日の衆議院本会議で、デジタル改革関連6法案のうち総務委員会に付託される地方公共団体の情報システムの標準化法案を除く5法案を一部修正し可決した。審議は参議院に移ろうとしている。

●デジタル庁で現実化するマイナンバー制度の危険

 共通番号いらないネットは、マイナンバー制度をますます危険にするデジタル庁構想に反対し、リーフレットNo9を発行してその危険性を訴えるとともに、廃案に向けて共謀罪NO!実行委員会秘密保護法」廃止へ!実行委員会デジタル監視法案に反対する法律家ネットワークデジタル改革関連法案反対連絡会などとともに、国会行動に取り組んできた。

 2015年に始まったマイナンバー制度に危険性があることは、政府みずからマイナンバーを用いた個人情報の追跡・名寄せ・突合による人権侵害や、集積・集約された個人情報の大量漏えい、成りすましなどによる財産その他の被害、国家による個人情報の一元管理などを認めてきた。
 ただ利用事務の法定や個人情報保護委員会の設置、特定個人情報保護評価による事前チェック、罰則、分散管理や情報連携にマイナンバーを用いないシステムなどの個人情報保護措置によって、その危険性は現実化しないと説明してきた

 しかし利用が広がらないマイナンバー制度に危機感を募らせた政府は、これら個人情報保護措置が普及を妨げているとみて、保護から利活用への転換をコロナ禍を利用して一気に進めようとしてきた(「新型コロナ危機に便乗してデジタル変革推進の骨太方針」)。2020年6月にデジタル・ガバメント閣僚会議に設置された「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」の「報告」が、デジタル改革関連6法案の基になっている。
 問われているのはマイナンバー制度という個人を特定識別して個人情報を分野を超えて生涯にわたりひも付けて管理することを目的とした仕組みを基礎としたデジタル化の是非であり、デジタル化一般の是非ではない。
 デジタル庁は権限と予算を集中する強力な司令塔として、マイナンバー制度の個人情報保護措置を切り崩しながら個人情報の利活用の推進と個人情報の国家管理システムの再構築をするために設置されようとしており、マイナンバー制度の危険性が現実化する。

●性急な法案の一括審議で誤りが多発

 今回の法案は、60以上の法律を一括して改正する束ね法案だ。法律の中には2001年に施行されたIT政策の基本法の全面改正や、40年以上の歴史を持つ国と地方自治体の個人情報保護法制を統合し全面改正する法案など基本法の改正も含まれる。国のあり方、行政の仕組みを左右する法改正であり、27時間程度の内閣委員会の審議時間では到底は足りない。
 膨大な法案を「一気呵成」に改正しようとする菅政権の性急な姿勢は、法案資料のかつてない多数の誤りを生んだ。「地縁」を「地緑」とするなど字句の誤りが報じられているが、整備法案の正誤表のほとんどは個人情報保護法制関係の条文の誤りだ。昨年改正された個人情報保護法がまだ未施行の状態で、さらに国関係の保護3法を整備法第50条で統合し、その上地方自治体の条例を整備法第51条で国基準化するという、複雑な改正内容が誤りの原因だ。
 平井デジタル担当大臣は法案資料誤りの責任を職員に押しつけているが、性急な一括改正が原因であり、デジタル庁により一気呵成に改革を進めようとすれば、このような乱暴な法改正の続発が危惧される。

●崩れた「一括法案」にする根拠

 本来、個々に検討すべき重要な法案を一括審議する理由として、平井デジタル担当大臣は密接不可分に関係する法制上の措置だからと述べていた。しかし6法案の一つである地方自治体の情報システムの標準化法案はまだ審議も始まっておらず、なんと4月6日の衆議院本会議で5法案が採決された後に趣旨説明が行われ、これから総務委員会で審議が始まる。
 密接不可分だから束ね法案にしたのなら、なぜ地方自治体情報システム標準化法案の審議が終了してから本会議で一括採決しないのか。一括法案の理由は崩れている。一括審議が必要だと主張するのであれば、参議院での審議は衆議院で6法案の採決がされた後に始めなければおかしい。

 とくに問題は、整備法(デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案)の大部分を占める個人情報保護法制の改正だ。法案作成のプロである官僚も誤るような分かりにくい法改正であり、市民に理解困難な法改正で自らの個人情報の扱いが決められていくこと自体が、情報の自己決定権の侵害であり人権侵害だ。
 すくなくとも個人情報保護法制の改正は、参議院では一括法案から切り離して慎重に審議を進めるべきだ。

●内閣委で5本の修正案、28項目の付帯決議

 短期間の衆議院内閣委員会での審議だったが、そのなかでも多くの問題が明らかになった。内閣委員会採決にあたり28項目の付帯決議がされたことにも、いかに問題の多い法案かが示されている。採決の概要は以下のとおり。

デジタル社会形成基本法案について

デジタル社会形成基本法案に対しては、3本の修正案が出された。
1)立憲民主党後藤委員提案の自民・公明・立憲の3党修正案は、基本理念の第8条(利用の機会等の格差の是正)において、格差の要因の一つとして「身体的な条件」が記載されていることに対して、障害には知的障害や精神障害など様々な態様があり、「身体的な条件」を「障害の有無等の心身の状態」に改めるもの。
 採決の結果、賛成多数で修正された。

2)日本維新の会足立委員提出の自民・公明・維新の3党修正案は、基本理念の第9条(国及び地方公共団体と民間との役割分担)において、国と地方公共団体の役割として「国民の利便性の向上並びに行政運営の簡素化、効率化及び透明性の向上」が挙げられていることに対して、「公正な給付と負担の確保」も明記するよう求めるもの。
 提案趣旨は「所得と資産を捕捉した上で、取るべきところから取り、手を差し伸べるべき方々にしっかりと手を差し伸べる、そうした公正な給付と負担の確保というデジタル社会の理念」はマイナンバー法の目的でもあるので明記すべし、というもの。
 採決の結果、賛成多数で修正された。

3)立憲民主党後藤委員提案の修正案は、3点の修正を求めた。 趣旨は
・データ利活用の必要性に異論はないが、政府原案は国や企業によるデータの利活用推進に偏っており、個人情報保護の観点が欠落している
・政府原案では地方公共団体の情報システムの共同化・集約の推進が義務づけられているが、これでは自治体は国が用意する画一的なシステムを前提としたシステム改修を余儀なくされる
・政府原案では、デジタル社会の形成に関する重点計画の作成等に当たって、地方六団体の意見を聞くことになっているが、システムを利用する職員の意見にも耳を傾ける必要がある
というもの。

 修正案の内容は
①デジタル社会の形成に当たっては、情報の活用により個人の権利利益が害されることのないようにするとともに、高度情報通信ネツトワークの安全性及び信頼性の確保を図らなければならない
②国及び地方公共団体の情報システムの共同化及び集約の推進は、努力義務とする
③重点計画の案において地方自治に重要な影響を及ぼすと考えられる施策について定めようとする場合の意見聴取先として、地方六団体のみならず、地方公共団体の職員が組織する団体の全国的規模の連合体その他の関係者を追加する
 採決の結果、賛成少数で否決された。

 政府原案は自民・公明・維新・国民民主の賛成、立憲・共産の反対で、修正可決された。

デジタル庁設置法案について

 修正案はなく、政府原案が自民・公明・立憲・維新・国民民主の賛成、共産の反対で可決された。

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案について

 立憲民主党後藤委員より、5点の修正が提案された。趣旨は
・データ利活用の必要性に異論はないが、個人情報には性的マイノリティーに係る情報などセンシティブな情報もあり、これらは利活用にはなじまない
・政府原案では、行政機関等の間で「相当な理由」があれば個人情報の目的外の利用・提供が可能だが、目的外利用・提供は限定的かつ慎重に行われるべき
・憲法13条は自己の個人に関する情報の取扱いについて自ら決定できる権利も保障されているという考え方が多くの憲法学者に支持されているが、政府原案は国や企業のデータの利活用ばかりに目が向いて、個人に関する情報の自己決定権を認めないばかりか、そもそも個人情報保護法の目的に個人情報を保護することという文言すら入れておらず、個人の権利や利益の保護という観点が不十分
・地方公共団体は、デジタル化の進展に伴う個人情報の保護に対する住民からの懸念に対応するため、国に先んじて条例に基づく独自の個人情報保護制度を築き上げてきたが、委員会審議において政府は、地方公共団体が条例で規定できる独自の保護措置について、法律で特に認められた事項以外は基本的に認めないという立場を繰り返し示しており、重大な懸念を持つ
・政府原案では、マイナンバーカードの情報をスマートフオンに搭載できるようになるが、政府はマイナンバーカードの発行自体は必要であるとの立場を崩しておらず、マイナンバーカードの発行に係る地方公共団体や住民の負担は軽減されない。スマートフオンヘの搭載が行われてもマイナンバーカードを発行しなければならない理由が全く理解できない
と説明された。

 修正案の内容は
1)電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律について、地方公共団体情報システム機構が、署名利用者の同意がある場合において、署名検証者等の求めに応じて提供する特定署名用電子証明書記録情報の中から、当該署名利用者の性別に関する情報を除くこと(法案は下図参照)
2)個人情報保護法の目的に、憲法が保障する個人に関する情報の取扱いについて自ら決定する権利を確固たるものとする必要があること及び個人情報を保護することを明記すること
3)個人情報保護法の規定は、地方公共団体が、その機関と地方独立行政法人が保有する個人情報の適正な取扱いに関し、 地域の特性その他の事情に応じて、条例で必要な規定を定めることを妨げるものではない旨を明記すること
4)行政機関の長等が利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用できる場合について、行政機関等がその保有個人情報を利用しなければ法令の定める所掌事務又は業務の適正な遂行に著しい支障を及ぼす場合であり、かつ、他にこれに代わるべき方法がない場合であって、その保有個人情報の利用目的以外の目的を達成するために必要最小限度の範囲で利用するときに限定すること
5)政府は、マイナンバーカードの電子証明書をスマートフォンに搭載(移動端末設備用電子証明書)する際、マイナンバーカード用の電子証明書の発行の有無にかかわらずその発行を受けることができるようにするため、施行後一年以内を目途にその具体的な方策について検討し、その結果に基づいて法制上の措置その他の必要な措置を講ずること

 修正案は賛成少数で否決され、政府原案は自民・公明・維新・国民民主の賛成、立憲・共産の反対で可決された。

 民間の署名検証者へ個人情報提供(政府の法案説明資料より)

公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法案について

 預貯金口座へのマイナンバーの付番関連では、
1) 公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律(口座登録法案)
2) 預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律案 (口座管理法案)
2法案が提案されている。
 この口座登録法案では、預貯金者が公的給付の支給を受けるための預貯金口座を一つ、マイナンバーとともに登録し、 デジタル庁令で定める公的給付や資金貸付、税等の還付にマイナンバーを利用可能にするとされている。
 また口座管理法案では、 預貯金者がマイナンバーにより口座を管理されることを希望する旨の申出をすることができるとともに、預金保険機構を介して預貯金者の希望により他の金融機関の口座にもマイナンバーを通知可能にし、災害時や相続時に被災者や相続人に預貯金口座に関する情報を提供可能にしている。

 昨年6月、自民・公明・維新の3党が緊急時の迅速な給付のために任意でマイナンバーとひも付けた口座を登録する議員立法を提案するとともに、政府に全ての口座へのマイナンバーひも付け義務化について検討するよう求めていた。これに対し高市総務大臣(当時)は、給付のためにマイナンバーを付番した1人1口座の登録義務づけと、希望者について全口座にマイナンバー付番をする考えを示していた(「混乱するマイナンバーの口座への付番理由とその狙い」参照)。
 義務化について2015年に改正された現行法では、金融機関はマイナンバーで口座を管理できるようにする義務は負っているが、預貯金者がマイナンバーを提供するのは任意となっている。今回の法案では、政府は国民が番号を金融機関に告知する義務は引き続き規定しないものの、 金融機関が預貯金者に対してマイナンバーを利用して管理することを承諾するかどうかを確認することを新たに義務づけている(口座管理法案第3条2)。

 この預貯金口座の登録法案に対する修正案はなく、政府原案は自民・公明・立憲・維新・国民民主の賛成、共産の反対により可決された。

預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法案について

 国民民主党と日本維新の会より、マイナンバーの提供義務づけなど3点の修正案が提案された。
 提案趣旨は、政府原案は預貯金者の意思に基づきマイナンバーの口座付番を進めるものだが、情報の管理を効率化し情報を共有することで給付と負担の適切な関係の維持に資するとのマイナンバー制度の基本的な考え方からは、全ての預貯金口座への付番を強力に進めるべきであり、そのためには預貯金者の積極的な意思に基づくものではない場合でも預貯金口座への付番を進める必要があるというものだ。

 修正内容は、
1)金融機関に個人番号の提供を受ける義務を規定する。金融機関は少額の取引を除く金融に関する取引を行おうとする場合には、一定の事項を説明した上で、預貯金者の本人特定事項を確認するとともに、個人番号の提供を受けなければならない。
 預貯金者が本人特定事項の確認や個人番号の提供に応じないときには、金融機関は、預貯金者が確認に応じ、かつ、個人番号の提供をするまでの間、取引に係る義務の履行を拒むことができる
  また、金融機関が預貯金者の個人番号の提供を受けた場合には、 預貯金者の意思にかかわらず、他の金融機関の預貯金口座に預金保険機構を経由して付番がされる仕組みとする。
2)預貯金の内容等に関する情報の適切な管理について、金融機関が個人番号で管理している預貯金の内容等に関する情報について、漏えい、滅失又は毀損の防止などの適切な管理のための措置を講じなければならない
3)預貯金の内容等に関する情報の提供記録の作成及び保存の義務について、行政機関の長等は、金融機関に個人番号を利用して管理されている預貯金口座に係る預貯金の内容等に関する情報の提供を求め、又は金融機関から情報の提供を受けたときは、その記録を作成し保存しなければならない。
 また金融機関が行政機関の長等に対して個人番号を利用して管理している預貯金口座に係る預貯金の内容等に関する情報を提供する場合も、その情報提供に関する記録を作成し保存しなければならない

 この修正案は賛成が維新、国民、反対が自民、立憲、公明、共産で少数否決され、政府原案が自民・公明・維新・国民民主の賛成、立憲・共産の反対で可決された。なお立憲民主党は反対の理由として、預貯金者がどの金融機関に口座を持つかとの情報が預金保険機構に一元的に管理されることの懸念等を指摘している

コロナ予防接種で崩される!
マイナンバーの個人情報保護(2)

●コロナ予防接種システムはデジタル庁の前哨戦

 平井デジタル担当大臣が1月22日の記者会見で、このシステムがデジタル庁で進める「いろんな分野のガバメントクラウドの話の前哨戦 」と述べているように、 情報提供ネットワークシステムの基本設計の見直しなどデジタル庁でマイナンバー制度がどのように再構築されようとしているかを暗示するものとなっている。
 2月27日の本ブログ「コロナ予防接種で崩される?マイナンバーの個人情報保護」で指摘したように、政府が新たにつくろうとしている「ワクチン接種記録システム」には、自治体医療機関の負担を増加させるだけでなく、マイナンバー制度の個人情報保護措置のルールを逸脱する看過できない問題がある。
 3月5日には各市区町村向け事務連絡が発出され、よくある質問と回答 (FAQ)(特定個人情報保護評価関連は別紙)も更新された。指摘した問題のいくつかは説明されているが、その内容はますますルールからの逸脱を肯定するものになっている。「緊急時」「非常時」を口実にルール崩しを狙うシステム構築を認めてはならない。

コロナ予防接種で崩される?
 マイナンバーの個人情報保護( 2月27日 )
●具体化してきた接種へのマイナンバーの利用方法
●市長会「多くの都市自治体からは困惑する声が」
●マイナンバー制度をどう使おうとしているか
●増大する自治体や医療機関の負担
●「特定個人情報保護評価」の実施が必要と認める
●「有事」を理由に崩される個人情報保護措置
●マイナンバー制度のルールを外れた接種システム
●マイナンバーを使わない運用の検討を
●デジタル庁のマイナンバー再構築の前哨戦 ?

●問題1:特定個人情報保護評価制度が崩壊する

 マイナンバーを利用する事務では、漏えいや不正利用などのリスクを事前に自己点検する特定個人情報保護評価を、遅くともプログラミング開始前までに実施することが義務づけられている。
 しかし2月17日に更新されたFAQ(Q18、現「質問と回答」ではQ3)では、特定個人情報保護評価の実施が必要であることは認めたが、個人情報保護委員会との調整を行った結果として事後評価で良いとしている。システムの詳細が検討中で現状では評価を行えないことと、システム構築後に速やかに接種することが期待されていることから、特定個人情報保護評価の規則第9条第2項(緊急時の事後評価)の適用対象となり得るという解釈だ。
 しかし規則第9条第2項(緊急時の事後評価)は「災害その他やむを得ない事由」の場合であり、今回のような急な政策転換は理由にならない。事後評価ではリスクの未然防止にならず、「事前対応による個人のプライバシー等の権利利益の侵害の未然防止及び国民・住民の信頼の確保」という特定個人情報保護評価の目的が達成されない。

 しかもFAQ(Q17、現FAQではQ2)では、「評価書のひな型をIT総合戦略室で用意することを検討しています。」と注記している。従来からこの保護評価制度は、評価書をコピペしているのではないかと形骸化が指摘されていたが、ひな型を書き写すのでは自己点検にならない。それを個人情報保護委員会が認めてしまえば、特定個人情報保護評価制度は崩壊してしまう。

●問題2:番号法で認められない国のシステム

 番号法ではマイナンバーを利用できるのは、番号法別表第一に列挙されている機関か、条例を定めた自治体にかぎられる。この利用事務の法定主義は、マイナンバー制度の中心的な個人情報保護措置として国は裁判で説明してきた。予防接種事務にマイナンバーを利用できるのは都道府県か市区町村であり、国は利用できない(別表第一10)。
 3月5日付で内閣官房と厚労省が自治体に発出した「ワクチン接種記録システム(VRS: Vaccination Record System)への御協力のお願い」(以下「お願い」)では、このシステムは「国が(株)ミラボ社と契約して開発したシステムを提供し、各市区町村は、国のシステム内の論理的に区分された各市区町村の領域において各データを管理」(5頁)することになっており、責任区分としてシステム障害や漏洩等のトラブルには国が全責任を負うとしている。

  番号法20条では、19条各号で認められた提供以外で特定個人情報(マイナンバーを含む個人情報)を収集・保管してはならないとしている。 「保管」とは自己の勢力範囲内に保持することをいう(番号法逐条解説48頁))。 各市区町村の領域でデータを管理していようと、国のシステムに保管していることに変わりはない。
 同様に「論理的に区分された各市区町村の領域において各データを管理」している「中間サーバー・プラットフォーム」では、それを設置し運用しているのは地方公共団体の共同法人である地方公共団体情報システム機構(J-LIS)、つまり地方自治体だ(デジタル改革関連法案で、J-LISは自治体と国との共同管理に変質しようとしている)。今回のシステムは国のシステムで特定個人情報を保管するものであり、番号法に反している。

●問題3:国のシステムへの提供を業務委託で正当化

 「お願い」では、国のシステムに自治体がマイナンバーを含む個人情報を提供する法的根拠として、「各市区町村と接種記録システムの受託事業者との委託関係を前提として、アップロードについては、番号法第19条第5号により認められます」(6頁)という。
  番号法第19条第5号とは「委託又は合併その他の事由による事業の承継に伴い特定個人情報を提供するとき 」には、提供が例外的に認められるという規定だ。国に提供する法的根拠がないため、国に提供するのではなく委託業者のシステムにアップロードするから国への提供ではないという、屁理屈だ。
 その結果、国のシステムに特定個人情報が保管されるという違法状態が生まれる。脱法行為だ。

          ワクチン接種記録システム

●問題4:漏えいやトラブルの責任は自治体に

 このような屁理屈で提供を合法化しようとするために、自治体は委託先である (株)ミラボ社に対して監督責任を負うことになる。「お願い」では「各自治体は、特定個人情報の取扱いの委託を前提として、番号法第11条に基づき、ミラボ社を監督する立場になります。」(6頁)と説明している。
  番号法第11条は「委託先の監督」の規定で、番号法では再委託には委託元の許諾が必要で委託元は再委託先(再々委託先・・・)にまで監督責任を負う(10条)。 (株)ミラボ社は、国との契約でシステムを構築しており、自治体が契約しているわけではない。自治体は国のつくった内容も運用実態もわからないシステムを、実地検査など監督しなければならない。もし漏えいやトラブルが発生すると、「お願い」に国が責任を負うと書いてあっても、法的には自治体が責任を負うことになる。

 「お願い」では「具体的な実地検査又は報告要求の方法については、自治体の過大な負担にならないよう検討し、追って連絡致します。」(6頁)としている。しかし自治体が監督責任を果たそうとすれば実行不可能な「過大な負担」になり、「国が面倒見るから心配するな」ということでは自治体は番号法の求める監督責任を果たさないことになる。
 マイナンバー事務の委託では、年金機構の違法再委託による中国への漏洩の新証拠が国会で問題になっており、また税情報についても国税庁や自治体から500万件を超える違法再委託が発生しているなど、その管理のずさんさが露になっている。1億人のマイナンバー、住所、氏名、生年月日と「接種情報」という要配慮個人情報を集中管理するこのシステム(VRS)が、委託と曖昧な監督責任で運用されようとしていることは重大なリスクとなる。

●問題5:緊急性を理由に情報連携のルールを破壊

 このシステムでは住民が転入すると転入自治体は、本人の同意を得てシステムを使い転出市町村にマイナンバーまたは氏名・住所・生年月日によって接種歴を照会し、転入者情報を接種台帳に記録してからそのデータを「ワクチン接種記録システム」に送信することが求められている。
 このような自治体間の情報連携は、マイナンバー制度では情報提供ネットワークシステムを使って行うことを「システム面における保護措置」としてきた。

     マイナンバー制度概要資料2020年5月版 21頁

  よくある質問と回答 (FAQ) No90でも、「自治体間における特定個人情報の連携は、本来安全性の高い情報提供ネットワークシステムを用いて行うことが想定されている」と述べ、「 情報提供ネットワークシステムによる情報連携においては、マイナンバーを、個人を特定する識別子として用いず、機関ごとに個人を特定する識別子を作成し、情報連携を行っています。これは、万が一、情報提供ネットワークシステムにおける情報連携の情報が第三者に傍受された場合であっても、いもづる式に特定個人情報が漏えいすることを防止するためです。 」と説明している。
 しかし今回のワクチン接種記録システムは情報提供ネットワークシステムを使わずに、マイナンバーを含む個人情報を自治体間で情報連携するものであり前例はない。FAQ(No84,86,90)では「情報連携の必要性・緊急性に鑑み、緊急避難的に」番号法第19条第15号の「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合において、本人の同意があり、又は、本人の同意を得ることが困難であるとき」を根拠として、このような情報連携が特例的に認められると説明している。

 番号法では第19条に限定列挙されている場合以外では、マイナンバーの付いた個人情報の提供を禁止している。その第15号は番号法の逐条解説では「事故で意識不明の状態にある者に対する緊急の治療を行うに当たり、個人番号でその者を特定する場合など、緊急事態における特定個人情報の提供を認める」規定と説明されている (47頁、制定当時は第13号)。
 今回の提供は、誰が見てもこのような意識不明者の緊急治療とは違う。政府が必要性・緊急性を口実にすれば、いくらでも拡大解釈できるような個人情報保護措置では、マイナンバー制度における安心・安全は確保されない。

      マイナンバー制度概要資料2020年5月版

●マイナンバーを使うな!!

 1月29日のブログ「10万円給付金失敗の二の舞に  コロナ予防接種に番号利用?」や2月12日の「コロナ予防接種を受けるのに カードも番号も必要ありません」で書いたように、このシステムは平井デジタル担当大臣の「マイナンバーを今回使わなくていつ使うんだ」との1月19日の発言に端を発し、マイナンバー担当としてマイナンバーは使えないというような状況だけは避けるという強い思いから始まっている。昨年から準備してきた自治体は、急な政策転換で困惑している。
 この最初のボタンの掛け違いを辻褄あわせするために、無理な法律解釈が強いられ、その結果、マイナンバー制度の個人情報保護措置として説明されてきたことが崩されようとしている。

 そもそもこのシステムは必要なのか。
 システムの目的として、2回接種する間に転居した人への対応を言われているが、任意接種であり接種歴確認のために接種済証を持参するのは本人の責任だ。毎年の子どもの予防接種でも同様で、母子手帳への確認で対応している。
 また副反応の迅速な把握が言われるが、このシステムでは副反応情報は管理していないし、そもそも国は各個人情報データにアクセスすることはせず統計で利用するだけだと説明している(「お願い」6頁)。
 国際的な接種済証明の発行の必要も言われるが、現在のこのシステムに接種証明書の発行機能はない。

 少なくとも、マイナンバーの利用は止めるべきだ。接種結果を接種記録データベースに記録する際には、自治体コードと接種券番号によって照合することになっており、マイナンバーは不要だ。また転入者の接種歴は「マイナンバーまたは氏名・住所・生年月日」によって転出自治体に照会するとなっており、マイナンバーを使わなくてよい。このシステムへの登録はマイナンバーが未入力でも可能なようだ(「お願い」3頁に「準備ができた項目から順次登録をお願いします(例 マイナンバーについては時間がかかる場合、それ以外の項目から登録)」となっている)。
  よくある質問と回答 (FAQ) のNo84では、「市区町村コードと宛名番号で、対象者を検索することができると思いますが、マイナンバーが必要である理由を教えてください」の問いに、「統合宛名番号等は特定の市町村でのみ把握している番号であるため、異なる市町村間で迅速に照会・提供を行うために、マイナンバーを用いることとしています 」と答えている。これでは統合宛名番号と符号を使いマイナンバーは使わない情報提供ネットワークシステムでは迅速な照会・提供ができないと言っているようなもので、マイナンバー制度の自己否定だ。そもそも住民の転出入の際に前住地に照会すること自体、全国市長会は「3月から4月にかけては、住民の転出入が最も多い時期であり、多大な事務負担が見込まれる」と見直しを求めている。
  システムは中止し、少なくともマイナンバーの利用は止めるべきだ。