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保険証廃止は決まっていない!薬局はマイナ保険証強要するな

 健康保険証の交付義務を削除しようとする省令改正に対して、6月5日に「健康保険証なくすな」の声をパブコメで届けようとこのブログで呼びかけて以降、関心が大きく広がっている。締め切り間際は混雑して意見が届かないことがある。早めの投稿を呼びかける。
 パブコメはこちらから。提出方法は、共通番号いらないネットのサイト(こちら)や保団連(全国保険医団体連合会)のサイト(こちら)の参照を 。

 昨年の健康保険法改正で、「資格確認書」の規定が新設された。しかし保険者(健保組合、全国健康保険協会)が健康保険証(「被保険者証」)を交付する義務は省令(施行規則)で規定されているため、省令が改正されるまでは保険証の交付は廃止されていない(詳しくはこちら)。
 今回の意見募集(パブリックコメント)は、健康保険法の施行規則からの保険証交付義務の削除などを内容としている。省令改正の公布日は7月上中旬が予定されており、それまでは法的には健康保険証廃止は決まっていない
 他方、国民健康保険法などは法律に保険証交付が規定されており(国保法第9条等)、昨年の法改正で保険証交付の規定は削除され、2024年12月2日に廃止予定となっている。
 とかくパブコメは形式的な手続きと見られがちだが、「政令や省令等を定めようとする際に、事前に、広く一般から意見を募り、その意見を考慮することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てることを目的」としており(e-govサイト)、行政手続法では提出意見を十分に考慮することが定められている(第42条)。
 パブコメ実施中で省令改正されていないにもかかわらず、「12月2日に現行の健康保険証は発行されなくなります」と決定しているかのように断定する厚労省のチラシは、法令を逸脱している。ただちに医療機関から回収・撤去すべきだ。

 マイナ保険証のためのオンライン資格確認等システムの実施義務についても、裁判で争われている最中だ。
 厚労省は厚生労働省令(療養担当規則)により、医療機関に対し2023年4月からの原則義務化を「決定」した。しかし健康保険法70条1項が省令に委任しているのは「療養の給付」であり、被保険者の「資格確認」方法については委任の内容に含まれていない。健康保険法の委任がないにもかかわらず、省令で保険医療機関に対してオンライン資格確認を義務づけているのは、憲法41条に違反し違法かつ無効だ。
 現在、保険医1,415人が原告となって、東京地裁で「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」が争われている(こちらを参照)。原告が勝訴すれば、マイナ保険証の利用を医療機関に押し付けることもできなくなる。注目を。

 マイナ保険証の利用率が6%程度で低迷しているため、厚労省は5~7月をマイナ保険証利用促進集中取組月間として、医療機関に圧力をかけてマイナ保険証利用率向上に力を入れている。医療機関の利用状況を調査して、表彰したり、利用率の低い医療機関にメールを送ったりしている。
 利用促進すると10~20万円の支援金(報奨金)を医療機関に給付したり、6月からは診療報酬を改訂し初診で80円(歯科60円、調剤40円)の「医療DX推進体制整備加算」を新設した。患者は利用の有無にかかわらず、マイナ保険証のおかげで24円、18円、12円の値上げだ(3割負担の場合)。
 利用促進のための問答集(マイナ保険証利用促進トークスクリプト)やチェックリストを配布して、受診者への「説得」に医療機関を駆り立てている。

社会保障審議会医療保険部会第177回(2024年4月10日)資料1

 私たち市民にマイナ保険証の利用を義務付ける法律は、どこにもない。それどころかマイナンバーカードの取得は番号法で任意であり、それは今年12月以降も変わらないことを、政府は何回も言明している。マイナ保険証の利用を強要することは許されない。
 しかし政府の圧力によって、一部の薬局で健康保険証では薬がもらえなかったり、マイナ保険証を使わないと診療が後回しにされるなどの異常な事態が報じられている(6月6日報道ステーション等)。
 当事者に取材した6月9日の東京新聞のサイトによれば、東京都の40代男性が5月30日、薬をもらおうと都内薬局に処方箋と一緒に現行の保険証を差し出したところ、「マイナ保険証のみの受け付けになります」と言われ保険証を突き返され、Xに怒りの投稿をした。この大手薬局は「マイナ保険証がなくても受付が可能」「誤解を招く説明」と謝罪したが、昨年12月から、全国に約900ある全系列店で薬を処方する際、現行の保険証での資格確認を取りやめていたそうだ。
 法令(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第3条)では、薬局が薬を処方する場合、処方箋かマイナ保険証(電子資格確認)か現行の健康保険証かのいずれかで資格確認すれば良いことになっている。たいていは処方箋を示せば薬はもらえる。厚労省も薬剤師会も、問われれば健康保険証で良いと説明している。

 またマイナ保険証の利用で優先して受付するのは差別的扱いだ。厚労省が医療機関や薬局にマイナ保険証用の専用レーンの設置を求めている(右図)ために、そのようなことが起きている。
 マイナ保険証の方が受付が速くできるから、とか説明されているが、実際はマイナ保険証の方が時間がかかっている。マイナ保険証を推進している日本保険薬局協会でも、カードリーダーの読み取りや本人確認、暗証番号の入力などを行う必要があるため、マイナ保険証の受付率が高い薬局では患者の待ち時間が発生していると指摘しているそうだ(CBnews5月13日)。

 マイナ保険証の利用率は低迷しつづけている。強圧的な普及策をやっても月1%程度しか増えず、5月の利用率も7.73%だ(厚労省サイト)。これで半年後に健康保険証を廃止できるのか。
 マイナ保険証のメリットと政府が説明してきたことは、ことごとく事実に反していることが露呈し、厚労省は「医療DXのため」「より良い医療のため」と、繰り返すしかできなくなっている。
 マイナ保険証を忌避する患者と厚労省の板挟みになって、医療機関・薬局は望んでもいないマイナ保険証のセールスを強いられ、患者との関係を悪化させている。患者に迫るのではなく、厚労省に対して保険証廃止の撤回を迫るべきだ。
 保険者(健保組合、協会けんぽ、国保等)は、健康保険証交付費用の削減を期待していた。しかし協会けんぽの前理事長は、保険証発行費用の年15億円削減や職員の業務量の大幅削減を皮算用していたが、いままで有効期間のなかった保険証の代わりに5年毎に資格確認書の発行が必要になったために余分なコストが発生してしまうと述べている(日経私見卓見6月12日)。
 もはや誰にもメリットのない健康保険証廃止は止めるべきだ。厚労省も「医療DX」のイメージを悪くするマイナ保険証の押し付けは止めて、健康保険証とマイナ保険証の選択を市民に委ねればいい。厚労省の言うように、マイナ保険証がより良い医療に資するなら、市民はそちらを選ぶはずだから。
 パブコメで「健康保険証廃止するな」の声を集中し、保険証廃止のための健康保険法施行規則改正を止めさせよう。そして国民健康保険法等を改正し健康保険証交付の規定を復活させて、健康保険証を存続させよう。

「健康保険証なくすな」の声をパブコメで届けよう

 厚生労働省は5月24日、健康保険法などの省令(施行規則)から、健康保険証を交付しなければならないとする規定を削除する意見募集(パブリックコメント)をはじめた。
 昨年(2023年)6月2日に健康保険法等の改正が成立し、資格確認書の新設は規定されたが、健康保険証の交付義務は省令事項のため法律上は規定されていない。つまり今年12月2日から健康保険証の発行を終了することは、法律的にはまだ決まっていない

例:健康保険法施行規則第47条(被保険者証の交付)
 協会(=全国健康保険協会)は、厚生労働大臣から次に掲げる情報の提供を受けたときは、様式第九号による被保険者証を被保険者に交付しなければならない

 今回、この省令を改正し、被保険者証(健康保険証)の交付義務の規定を削除しようとしている。
 意見の募集期間は令和6年5月24日(金)~6月22日(土)(必着)となっている。「健康保険証をなくすな」の声を、パブコメで政府に集中しよう。
※パブコメ(「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令案(仮称)に関する御意見の募集について」)のサイトはこちら。 

 省令改正案の概要によれば、改正内容
 (1)健康保険法施行規則
 (2)船員保険法施行規則
 (3)国民健康保険法施行規則
 (4)高齢者の医療の確保に関する法律施行規則
の、被保険者証に係る規定を削除するとともに、資格確認書の申請方法及び記載事項を定め、被保険者の資格に係る情報の通知に係る規定を新設する等となっている。

 その他、(3)国民健康保険法施行規則の一部改正では、法改正で保険料を滞納している世帯主が住所を有する市町村又は組合は、保険料納付の勧奨及び当該保険料の納付に係る相談の機会の確保その他厚生労働省令で定める保険料の納付に資する取組を行ってもなお納付しない場合に特別療養費を支給することとされたことに伴い、当該保険料の納付に資する取組を定める等、所要の規定の整備する。

 経過措置として(1)(2)の施行の際、現に交付されている被保険者証については、この省令の施行日から起算して1年間はなお従前の例によることとするとともに、(1)(2)の施行のために必要な行為は、施行日前においても行うことができるとなっている。
 省令改正の公布日は令和6年7月上中旬(予定)、施行期日は令和6年12 月2日だ。

 意見の提出方法は、
(1) 電子政府の総合窓口(e-Gov)の意見提出フォームを使用する場合(こちら
 「パブリック・コメント:意見募集案件」における各案件詳細画面の「意見募集要領(提出先を含む)」を確認の上、意見入力へのボタンをクリックし、「パブリック・コメント:意見入力」より提出
(2) 電子メールを使用する場合
(3) 郵送する場合
 〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2
 厚生労働省保険局国民健康保険課企画法令係宛て
となっている。詳しくは意見募集要領を参照。

 昨年9月28日、共通番号いらないネットは福島みずほ参議院議員事務所を通じて、厚労省などにヒアリングを行った(ヒアリング内容の報告はこちら)。
 その際、厚生労働省からは健康保険証の廃止について以下の説明を受けている。省令改正できなければ、保険証の交付は続けざるを得ない。

(質問)
 番号法関連法で6月2日成立した健康保険法改正では、資格確認書の新設は規定されているが、健康保険証の交付義務は省令事項のため法律上は規定されていない。
(1) 法改正で健康保険証の廃止が決定したとの説明がされているが、その法的根拠を明らかにされたい。

(回答要旨)
 国民健康保険法や高齢者の医療の確保に関する法律には、被保険者証の交付自体が定められており、2023年6月2日成立の番号法関連の法改正の中て、その規定を法律から削除している。
 健康保険法では、被保険者証の交付を法律ではなく省令(施行規則)で規定しているので、健康保険法に基づく健康保険証に限れば、まだ法律上の措置はなされていない
 仮に省令改正をしなかった場合には、国保や高齢者は施行日を定めて廃止されるが、健康保険法だけ交付が残りつづけることになる。 

 マイナポイントで利益誘導した結果、マイナンバーカードの保有数は9200万枚余、人口比の保有率は約73.7%になった(2024年4月30日時点総務省サイト)。しかし2023年3月までにほぼ全ての住民に保有させるという政府方針は、達成できなかった。
 そのうちマイナ保険証の利用登録をしているのは7254.8万人、マイナカード保有者の78.5%となっている(2024年4月30日時点デジタル庁ダッシュボード)。
 ところが医療機関窓口でマイナ保険証を利用したのは、わずか6.56%しかいない。93%以上は健康保険証を提示している(2024年4月、下記厚労省資料参照)。マイナ保険証登録をしている大部分の人は、利用せずに健康保険証を提示しているのが現実だ。

2024年5月15日社会保障審議会(医療保険部会)厚労省資料1

 政府は健康保険証が使われないのは医療機関が利用を勧めないためだと曲解し、今年に入ってから医療機関に対してマイナ保険証の利用率による支援金や診療報酬加算、窓口でのマイナ保険証利用の勧誘マニュアルや勧誘状況の調査など利用促進策を次々と示している(下図)。河野デジタル大臣は保険証の提示を求める医療機関を「密告」するよう、自民党国会議員に文書を送って物議をかもした。
 このような強圧的な「利用促進」により利用率は今年になり増えたが、しかし毎月1%程度の微増にとどまっている。
 マイナ保険証が利用されないのは、健康保険証より不便で、依然として保険資格の誤表示など誤りが続き、健康情報の自己情報コントロールが保障されず個人情報の扱いに不安を抱いているからだ(いらないネットのリーフ13参照=こちらからダウンロード)。この現実を直視し、制度設計を見直さないかぎり、患者はマイナ保険証を利用したいとは思わない。

2024年1月19日社会保障審議会(医療保険部会)厚労省資料1

 政府は利用促進策の一つとして、医療機関で右記のチラシを配布・掲示するよう求めている。しかし保険者(健保組合、協会けんぽ)に健康保険証の交付を義務付けている省令は、まだ改正されていない(現在パブコメ中)。
 まだ決まっていないにもかかわらず「本年12月2日から現行の健康保険証は発行されなくなります」という記載は誤りだ。厚労省はこのチラシの掲示・配布を中止し、謝罪・回収すべきだ。

今国会の番号法改正の問題点

   法案概要より抜粋

 2024年4月19日の衆議院本会議で、マイナンバー法の改正を含むデジタル社会形成基本法等の一部改正法案の、河野デジタル大臣による趣旨説明が行われ、地・こ・デジ特別委(地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会)で審議が予定されている。
 3月5日に閣議決定され第213回国会に提出されたこの法案の中で、マイナンバー法の改正は3点ある(デジタル庁サイト)。
 共通番号いらないネットは、地・こ・デジ特別委の委員に下記の要請をおこなった。

 改正案の1点目は、マイナンバー情報総点検を踏まえ、マイナンバーと個人情報の紐付け誤りの再発防止のために、デジタル庁(内閣総理大臣)が特定個人情報の正確性の確保のための必要な支援をおこなうというものだ。
 しかし昨年(2023年)次々と明らかになった一連の紐付け誤りを引き起こした原因は、政府(デジタル庁)の性急なマイナンバー制度の推進にある。たとえば昨年10月10日に情報システム学会マイナンバー制度研究会が発表した『「マイナンバー制度の問題点と解決策」に関する提言』では、紐付けのためには作業開始前に住所表記のゆらぎはどこまでを同一とみなすかなどの名寄せ基準を作成し、その後に名寄せ作業を実施することが必須であったにもかかわらず、「マイナンバー制度では、マイナンバーカードの普及を急がせ過ぎたため、前述したような名寄せ基準が曖昧なままの状態で 、名寄せ作業を開始してしまった。」(3頁)ことが原因と指摘している。
 デジタル庁は、このような性急なマイナンバー制度推進を、さらに性急に推進しようとしている。マイナ保険証を利用すると、保険資格が誤って表示されるなどのトラブルが続いているにもかかわらず(全国保険医団体連合会のサイト参照)、今年12月にあくまで健康保険証を廃止しようとしていることはその一例だ。

 さらに昨年9月20日には、個人情報保護委員会が公金受取口座の誤登録による漏えいの発生に対して、デジタル庁に番号法や個人情報保護法にもとづく指導を行っている。その中ではデジタル庁が公金受取口座の誤登録の責任は市区町村がマイナポイント申請支援窓口を正しい手順で行わなかったことが原因と責任転嫁してきたことに対して、責任は市町村ではなくデジタル庁にあると指摘している。
 「デジタル庁に対する特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律及び個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について」では、「誤登録の直接原因となった端末操作の実施場所が市区町村であったとしても、公金受取口座情報が漏えいした場合は、デジタル庁の保有個人情報の漏えい(個人情報保護法第68 条第1項)に該当する。」(7頁)と指摘し、「職員及び担当管理職に、デジタル庁の保有する特定個人情報及び保有個人情報の漏えいであるとの意識が欠如していた」(11頁)などデジタル庁の組織的安全管理措置の改善をも求めている。
 デジタル庁はこの指導に対して2023年12月6日に「改善状況報告書」を提出しているが、漏えい発生の責任はとっていない。河野デジタル大臣は公金受取口座の誤登録に対して、2023年8月15日記者会見で閣僚給与を3カ月分自主返納すると発表したが、それは庁内の情報共有体制が不十分で報告されるまで時間がかかって初動が遅れたということに対してにすぎない。
 マイナ保険証のトラブルが続いているのに健康保険証を予定通り廃止すると言っているデジタル庁が、「マイナンバーと個人情報の紐付け誤りの再発防止のために、特定個人情報の正確性の確保のための必要な支援」など行うことなどできるのだろうか。法改正の前にトラブルが解消するまでマイナ保険証の利用を医療機関に押し付けず、健康保険証廃止の延期を表明することが必要だ。

 改正案の2点目は、マイナンバーカード(個人番号カード)の記載事項から性別を削除し(第二条第七項)、代わりに個人番号利用事務等実施者は、性別に係る情報を利用している事務等のために個人番号の提供を受ける場合は、個人番号カードのICチップに記録された性別に係る情報を電磁的方法により確認する措置をとらなければならない(第十六条本人確認の措置)というものだ。
 そのために、「次期個人番号カードタスクフォース最終とりまとめ」(2024/3/18)では、「ICチップに記録した性別の情報を必要な者が負担なく読み出すことができるよう、スマホ等により個人情報保護に配慮しつつ、使いやすい UI で読み取ることができるアプリを国が開発し、無償で配布する」としている。
 マイナンバーカードの券面に性別を記載することに対して、私たちは番号法制定時から反対し、マイナンバー違憲差止訴訟でも性同一性障害者らの人格権侵害を指摘してきた。券面からの削除は遅きに失したとはいえ改善だ。しかしその代わりにICチップに記録する券面情報をスマホなどで容易に読み取れるアプリが、誰にでも配布されれば券面から削除した意味はなくなる。
 アプリを性別情報の利用が必要な個人番号利用事務等実施者に限定して配布し、利用事務を限定して確認できる仕組みにすることが必要で、どのような個人情報保護措置をとるのか国会審議の中で明らかにされなければならない。

 3点目は、マイナンバーカードの機能をスマートフォンに搭載可能にし、スマートフォンだけでマイナンバーカードと同様にマイナンバー法上の本人確認ができる仕組みを設けるというものだ。
 すでに2021年のデジタル社会形成整備法案で、ICチップに搭載しているマイナカードの機能のうち電子証明書については、スマートフォンに搭載する電子証明書として「移動端末設備用電子証明書」が創設されていた。マイナカードの所持が前提で、マイナカードの署名用電子証明書を用いてオンラインで発行申請し、署名用・利用者証明用を一人一つずつ発行可能で、個人番号カード用電子証明書と紐付けて管理する。ただ利用できるのはアンドロイドのスマホのみで、日本で利用者の多いiPhoneでいつから利用できるか目途はたっていない。

デジタル改革関連法案について」(2021年3月26日デジタル・ガバメント分科会資料1より)

 今回の法案は、マイナンバーカードのICチップに記録している券面情報(住所・氏名・生年月日・性別・マイナンバー・顔写真)と電子証明書が一体化した「カード代替電磁的記録」を新設し、個人番号利用事務等実施者が行う本人確認の措置で「カード代替電磁的記録」の提供を受けて確認を行えるようにするものだ。個人番号カード保有者は申請によりスマホに搭載するカード代替電磁的記録の発行を受けることができる。それにより、現在は顔写真等を添付して行わなければならない電子申請が、カード代替電磁的記録の送信だけで可能になる。

「マイナンバーカードの普及・利活用拡大」(デジタル庁)より

 便利になるようだが、スマホを紛失したり盗難にあった場合に、本人に成りすまして手続きをされる危険性が増大する。またスマホを機種変更などで廃棄する際に初期化だけでは電子証明書が残ってしまうため、スマホ用電子証明書を登録しているスマートフォンの利用をやめるときは、利用者が電子証明書を失効させることが義務づけられている(デジタル庁サイト参照)。
 このようなリスクだけでなく、電子証明書の利用が広がる中で、電子証明書の発行番号(シリアル番号)を使って個人情報が紐付けされていくリスクに関心が高まっている(朝日新聞2023年5月2日等)。政府は官民のID(個人識別番号)と電子証明書の発行番号との紐付け利用の拡大に力を入れている。マイナ保険証のためのオンライン資格確認等システムや、マイナポイントのためのマイキー・プラットフォームはその一例だ。
 電子証明書の発行番号は本来電子証明書の管理のための番号で、電子証明書が5年毎に更新されると番号が変更されるが、公的個人認証の電子証明書を管理するJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)が新旧の発行番号の紐付けサービスをはじめたために、あたかも個人を識別する番号のように利用することが可能になっている。ただこの紐付けについては、2022年に500件以上の重複が発生しマイナポイントが複数回申し込まれるトラブルが発生していた(2023年9月28日のいらないネットの総務省ヒアリング参照
 今年4月から政府がはじめたマイナンバーカードを使った「デジタル認証アプリ」に対しては、誰がどのサービス利用において認証したかの情報がデジタル庁に記録蓄積されることで、プライバシー侵害になるのではないかとの指摘がされている(日経コンピュータ2024年3月7日号)。
 電子証明書の利用拡大のまえに、まず個人情報保護のための法的規制を検討すべきだ。

マイナンバー制度を問う
日弁連の取り組みを紹介

●日弁連、マイナ保険証に意見書を提出
●プライバシー保障に問題があるマイナ保険証
●2月3日埼玉弁護士会学習会

 「マイナンバー制度を再考する」
●2月10日愛知弁護士会シンポジウム
 「問題だらけのマイナ保険証を斬る!」
●「日本のデジタル社会と法規制」出版

●日弁連、マイナ保険証に意見書を提出

 日弁連(日本弁護士連合会)は昨年(2023年)11月14日、「マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行保険証の発行存続を求める意見書」を取りまとめ、関係機関や自治体に提出した(意見書はこちら参照)。
 意見書では、
*マイナ保険証への一本化は、マイナンバーカードの「任意取得の原則」に反する
*マイナ保険証の取得・管理が困難である人を置き去りにしている(申請手続をしないと取得できない、介護施設入居者等にとって対応困難、紛失時の再発行に時間と手間がかかる、保険資格証明手段や本人確認手段を喪失させる、資格確認書のプッシュ型配布など政府の対応策の不合理性)
*マイナ保険証未取得者に医療費負担格差をつける不合理性
*政府のあげるマイナ保険証の利便性の不合理(重複投薬防止等の利点は現実と齟齬、システム化に対応できない医師の廃業等)
*マイナ保険証はプライバシー保障との関係で問題がある
*現場に過度の負担を押し付けているマイナンバーカード
などの問題点を指摘し、

1 政府は、マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行の健康保険証の発行を存続するべきである。

2 政府は、マイナンバーカードの利活用については、カードを取得しない自由を保障するとともに、カードの取得を希望する者に対してプライバシーを最大限保障し、さらに、地方自治体等の意向を踏まえて現場に過度の負担をかけないようにするべきである。

と求めている。

●プライバシー保障に問題があるマイナ保険証

 指摘されている医療や介護現場での問題等は、保団連(全国保険医団体連合会)や各地の保険医協会などの実証的な調査により指摘されている(こちら参照)。
 ここでは市民・患者にとって看過できないプライバシー保障の不備についての日弁連の指摘を紹介したい。

(1) 診療・薬剤情報、特定健診情報等との結合が当然の前提とされている
 マイナ保険証を使ったオンライン資格確認等システムでは、医療機関等は医療保険資格情報だけでなく、他院での薬剤情報や受診歴と手術情報も含む診療情報、特定健診等情報を見ることができる(こちら参照)。なお閲覧可能な情報は、今後の「医療DX」によってさらに拡大が予想される。
 医療機関が閲覧する際には、患者本人の同意が必要とされている。しかしそもそもマイナ保険証と診療・投薬情報、特定健診情報等との結合が当然の前提とされ、本人がこれに同意しない手続がなく、患者の自己情報コントロール権が保障されていない。医療機関も、センシティブ情報である診療情報等の結合自体を拒むことができない。
 診療・薬剤情報、特定健診情報等との包括的連携を拒む手続が保障されていない現在のマイナ保険証のシステムは、プライバシー保障に欠ける。

  厚労省資料(令和4年1月)より

(2) オンライン資格確認時に説明なしの同意を求めるシステム
 医療機関等がマイナ保険証で診療情報等を閲覧する際には、本人の同意が必要とされている。しかしその同意は、医師からその情報を閲覧する必要性等について何も説明を受けないうちに、受付窓口でカードリーダーを操作する際に求められる。患者は自らの治療のために医師との信頼関係の中で自らの状態を情報提供しているが、このような形式的同意ではこの信頼関係も損なう。
 さらに同意は、薬剤情報、特定健診等情報、診療情報の3区分で行われ、それぞれについて一括して過去数年分の情報が提供される。例えば腕の怪我の治療に際して、その治療とは関係のない1年前に性病にかかって服用した薬についての情報まで一括して提供するよう求められるのであり、患者は提供範囲の選択ができないシステムとなっている。
 このことについては法改正の国会審議でも、障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会の家平参考人からは「特に難病や内部疾患、精神障害者などからは、見られたくない個人情報が医療を受けるときにいつも見られてしまうことへの懸念や不安の声が多く寄せられています」と指摘されている(2023年5月17日参議院地デジ委)。
 医療DXによる医療情報の共有についての質問にも、家平参考人は「よく懸念されているのが、やっぱり障害とか疾患による差別というか、今まで長年そういう状況が続いてきているというのは、障害者にはたくさんあると思うんですね。そういう中では、例えば精神疾患だとかいう場合に、例えば歯医者に行くというときに、そういう関係のない情報まで、医療情報まで見られるということについての懸念だとか、そういうことが、知られたくない情報まで知られるんじゃないかと。しかも、そこの受付の人も含めてそういう情報が閲覧するというようなことになりかねないんじゃないかというのはいろいろありますし、それは障害者側にもストレスと、精神的苦痛にもなりかねないし、やる側、医療の側にもそういうことはあるんじゃないかなというふうに思う」と答えられている
 自己の医療情報にかかる「コントロール権」をないがしろにするシステムであるといわなければならない。

(3) マイナンバーカードの多目的利用とプライバシー保障
 国は利便性を重視して、マイナポータルで閲覧できる情報をどんどん増加させている。しかし、閲覧できる情報が多くなるということは、マイナンバーカードとパスワードが第三者の手に渡れば、なりすましによりマイナポータルにアクセスされ、極めて広範なプライバシーに関する情報を不正閲覧されてしまうなど様々な危険に直面させられる可能性が生じる。

●2/3市民学習会「マイナンバー制度を再考する」

 マイナンバー制度そのものが持つ問題点、さらにはマイナンバーカードの利用場面の拡大によって生じる私たち一人ひとりの権利侵害の可能性について、多彩な講師をお招きして、様々な角度からみなさまと学んでいきたい。

日時 2024年2月3日(土)午後6時00分~(開場17時45分)
場所 さいたま共済会館 601・602号室
   (埼玉県さいたま市浦和区岸町7丁目5-14)
費用 無料
定員 200名(先着順)
講師 稲葉一将 名古屋大学教授 
   實原隆志 南山大学教授  
   長久保宏美 東京新聞デジタル編集部編集委員
共催 埼玉県保険医協会・埼玉弁護士会・日本弁護士連合会
チラシ こちら 
※当日はYou Tubeによる配信を予定 URL: https://saitama-hokeni.com/
埼玉弁護士会   https://www.saiben.or.jp/event/001311.html
埼玉県保険医協会 https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2024-01-21/

●2/10シンポ「問題だらけのマイナ保険証を斬る!」

第1部 基調講演「マイナ保険証の先に何があるか?」
講師:斎藤貴男氏(ジャーナリスト)
第2部 パネルディスカッション
 パネリスト 斎藤貴男氏
       杉藤庄平氏(愛知県保険医協会理事・歯科医師)
       加藤光宏(愛知県弁護士会情報問題対策委員会委員長)
 コーディネータ 新海 聡(愛知県弁護士会情報問題対策委員会委員)
日時 2024年2月10日(土) 13:30~16:00
開催方法 Zoomウェビナーによるオンライン開催
申込方法 以下のURLまたはチラシのQRコードから申込フォームにアクセスし、必要事項をご記入の上、お申し込みください。
 ■ウェビナー事前登録URL
 https://us06web.zoom.us/webinar/register/WN_MecyhbLOTqyN-PYY9Momig
参加費 無料
  どなたでもご参加いただけます。
主 催:愛知県弁護士会
協 力:愛知県保険医協会
お問合せ 愛知県弁護士会
  名古屋市中区三の丸1-4-2
  ☎052-203-4410(平日9:00~17:00)
 https://www.aiben.jp/about/katsudou/jyouhou/news/2024/01/210.html

●「日本のデジタル社会と法規制」出版

 日弁連は2022年9月29日、第64回人権擁護大会シンポジウムの第2分科会「デジタル社会の光と陰~便利さに隠されたプライバシー・民主主義の危機~」を開催した
 このシンポジウムの内容を紹介した「日本のデジタル社会と法規制-プライバシーと民主主義を守るために」が2023年10月出版された(花伝社、2750円税込)。
 日弁連は2010年、「デジタル社会における便利さとプライバシー~税・社会保障共通番号制、ライフログ、電子マネー~」をテーマに、第53回人権擁護大会第2分科会を開催している。2010年は「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」が設置され、マイナンバー制度構築が開始された年だ。「日本のデジタル社会と法規制」の第3章では、その後のマイナンバー制度の利用拡大や日本のデジタル化の経過を概観しながら、デジタル庁の「包括的データ戦略」がめざす「行政自身が国全体の最大のプラットフォームとなる」デジタル化政策の問題点やプライバシー保護の欠如がコンパクトにまとめられている。

 昨年2023年、マイナンバー制度は大きな転換期を迎えた。マイナンバーの利用範囲を社会保障・税・災害対策の3分野以外に拡大するとともに法改正によらずに利用や提供を拡大可能にする番号法の改正、2019年から推進してきた全国民に2023年3月までにマイナンバーカードを所持させる政策の失敗、マイナ保険証等のひも付け誤りなど制度の欠陥の露呈、健康保険証廃止に対する反対とマイナ保険証に対する市民の忌避の広がり、その一方でマイナンバーカードの次期個人番号カードへの転換の検討開始、など(こちら参照)。
 デジタル化政策の中で、マイナンバー制度は発足当初とは異なる展開をはじめている。本書はこの変貌しつつあるマイナンバー制度に、市民がどのように対していくかを検討する素材として最適だ。第2分科会の基調報告書(423頁、PDF10.5MB、こちらからダウンロード)の第3編では、本書第3章についての詳しい説明がされており、さらに理解を深めることができる。

第1章 二〇一〇年以後のデジタル社会の進展
第2章 顔認証システム、AIによる情報処理、フェイクニュース
パネルディスカッション①デジタルプラットフォーマーに対し、世界はどのように取り組んでいるか
第3章 政府が目指しているデジタル社会とは?
コラム①地方自治体における個人情報保護をめぐる問題点
パネルディスカッション②我が国のデジタル化はどうあるべきか
第4章 プライバシー権保障のための仕組み
コラム②主権者の幸福に資するデジタル社会とは?

 なお2010年の第53回人権擁護大会第2分科会の基調報告書も、こちらからダウンロードできる。またその報告も「『デジタル社会のプライバシー-共通番号制・ライフログ・電子マネ-』」(航思社2012年2月、本体3,400 円+税)が出版されている。

マイナンバー制度の監視を
個人情報保護委はできるのか

 個人情報保護委員会は9月20日の第254回委員会で、コンビニ交付サービスの誤交付と公金受取口座の誤登録について審議し、指導文書を公開した。

「コンビニ交付サービスにおける住民票等誤交付事案に対する個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について」

「公金受取口座誤登録事案に対する特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律及び個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について」

 今回は指導文書だけでなく、調査内容も公表していることは評価したい。指導を受けて、デジタル庁の対応に改めて批判が高まっている。しかしそれとともに、個人情報保護委員会の対応も検証が必要だ。
 公表された文書の内容は、そもそもマイナンバー制度による基本的人権の侵害の危険性に対する個人情報保護措置として設置された個人情報保護委員会が、その役割を果たしているのか疑問を感じざるをえない。

●トラブルはマイナンバー制度の失敗を示す

 マイナンバー制度は、個人を識別特定し(個人番号の付番)、分野を超えて生涯にわたり個人情報を正確・効率的にひも付ける社会基盤として作られた。そのために情報提供ネットワークシステムなど情報連携の仕組みをつくり、その際に成りすましを防止する本人確認手段としてマイナンバーカード(個人番号カード)を新設した(下図参照)。
 一連のトラブルはさまざまな原因があるが、総体としてマイナンバー制度の目的である個人を特定して個人情報を分野を超えて正確にひも付けることの失敗を示している。「制度の開始当初はトラブルが付きもの」という話もされているが、スタートして7年以上たっているのだ。制度の仕組みそのものの検証が必要だ。

マイナンバー概要資料平成28年8月版(内閣官房・内閣府)より
マイナンバー概要資料平成28年8月版(内閣官房・内閣府)より

●マイナンバー制度の監視機関としての委員会

 個人情報保護委員会は、2015年10月の番号法施行を前に2014年1月に「特定個人情報保護委員会」としてスタートした。その名のように、特定個人情報(=個人番号を含む個人情報)の漏えい、悪用、成りすまし、国家による一元管理、プライバシー侵害などの危険性のあるマイナンバー制度に対して、個人情報保護のための制度上の保護措置として設置された(下図参照)。
 特定個人情報を取り扱う行政機関・事業者に対する監視・監督(報告の求め・立入検査、指導・助言、勧告・命令)を行うとともに、利用される情報システムの安全性・信頼性を確保するために総理大臣その他の関係行政機関の長に対し必要な措置の実施を求める権限を持ち、総理大臣に対し特定個人情報の保護に関する施策の改善について意見具申ができる。
 それとともに、もう一つの個人情報保護措置の柱である「特定個人情報保護評価」の指針を作成し、「評価書」を審査し承認する役割も持っている。
 その後2015年の法改正により、2016年1月に個人情報保護法をも所管する機関として個人情報保護委員会に改組されたが、マイナンバー制度に対する監視・監督は引き続き個人情報保護委員会の役割とされている(現番号法第27~38条)。この役割を果たせているのか、問われている。

マイナンバー社会保障・税番号制度概要資料(平成26年2月内閣官房社会保障改革担当室・内閣府大臣官房 番号制度担当室)14頁

●委員会はトラブルをどう捉えているか

 一連のマイナンバーをめぐるトラブルについて、個人情報保護委員会は5月31日の第244回委員会で、対応方針として「マイナンバー及びマイナンバーカードを活用したサービスを利用する国民が不安を抱くきっかけになり得るといった影響範囲の大きさに鑑み、・・・詳細な事実関係を把握するとともに、今後、確認された問題点に応じて、指導等の権限行使の要否を検討する」と決定した。
 7月19日の第249回委員会で、コンビニでの住民票等誤交付、マイナンバーの紐付け誤り、公金受取口座等の誤登録についての対応状況を公表するとともに、公金受取口座登録における別人の口座情報等の紐付け事案についてデジタル庁への立入検査を決め実施した。
 言葉尻をとらえるようだが、「国民が不安を抱くきっかけになり得る」から対応するという姿勢で、マイナンバー制度にとって深刻な問題であるという認識が薄い印象を受ける。マイナンバー制度を推進するために不安の広がりを鎮静化しようというのでは、監視機関の役割は果たせない

 7月19日に公表した対応状況の整理では、問題の所在を個人情報の漏えいとしてのみ取り上げ、誤った情報のひも付けにより治療・投薬・処遇が行われる危険や財産的被害の発生という、情報連携を目的としたマイナンバー制度の問題として捉える視点が希薄だ。
 今回の指導もコンビニ誤交付と公金受取口座誤登録に対するもので、もっとも市民の関心が高いマイナ保険証などの紐付け誤りについては「権限行使の要否等の対応方針を検討」として行っていない。
 また「最高位の身分証明書」「デジタル社会のパスポート」と政府が重視するマイナンバーカードについて、総務省が6月20日にマイナンバーカードの交付誤りが2件あることを報告し、6月には連日のようにマイナンバーカードの顔写真を別人と取り違え交付した報道が各地であるなど、マイナンバーカードによる本人確認の危うさが露呈しているにもかかわらず、なぜか対応方針で取り上げられていない。

マイナンバーカードの顔写真の取り違え交付の報道例
▽6/2夕刊三重 三重県松阪市
▽6/6岐阜新聞 岐阜県各務原市
▽6/9京都新聞 京都市    
▽6/10静岡第一テレビ 浜松市
▽6/14HTB北海道ニュース 旭川市
▽6/15YBS山梨放送 富士吉田市
▽6/16神戸新聞 神戸市   
▽6/21khb東日本放送 宮城県大崎市
▽6/21北陸放送 福井市   
▽6/21神戸新聞 兵庫県加西市
 ▽6/21朝日 大分県佐伯市   
▽6/22NHK 埼玉県加須市
▽6/22TBS 奈良県桜井市  
▽6/22読売 大分県臼杵市

公金口座誤登録の責任はデジタルと認定

 今回の委員会の対応で注目されるのは、公金受取口座の誤登録の責任はデジタル庁にあることを明確にした点だ。政府は市区町村がマイナポイント申請支援窓口を正しい手順で行わなかったことが原因と責任転嫁してきたが、個人情報保護委員会はデジタル庁の責任と判断した。

⑵ デジタル庁は、公金受取口座情報の取扱いに関し、番号法上の個人番号利用事務実施者の義務を負うとともに、マイナンバーを含まない保有個人情報の取扱いについては個人情報保護法上の行政機関等の義務を負う。
 具体的には、デジタル庁において、口座情報登録・連携システムを開発し運用する上で誤登録を防ぐためのマイナンバー取得時の本人確認の措置や、漏えい防止等の安全管理措置等を講ずる義務を負う。

⑶ なお、マイナポータル経由での公金受取口座登録の事務において、デジタル庁は、その提供する口座情報登録・連携システムを本人に直接利用させていた(市区町村に設置された支援窓口においても、支援員は本人の登録補助を行う旨定められていた。)。すなわち、誤登録の直接原因となった端末操作の実施場所が市区町村であったとしても、公金受取口座情報が漏えいした場合は、デジタル庁の保有個人情報の漏えい(個人情報保護法第68 条第1項)に該当する。
(「デジタル庁に対する特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律及び個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について」7頁)

 河野デジタル大臣は公金受取口座の誤登録に対して、8月15日記者会見で閣僚給与を3カ月分自主返納すると発表したが、それは庁内の情報共有体制が不十分で報告されるまで時間がかかって初動が遅れたという理由だ。改めて情報漏えいの責任者として処分されるべきだ。

●「対策は十分」とした特定個人情報保護評価

 個人情報保護委員会は上記「対応について」の13~15頁で、支援窓口での共用端末の使用というリスク変動に伴う特定個人情報保護評価の見直しをデジタル庁が行っていなかったことを問題と指摘しているが、委員会の対応に関わる重要な経過が欠落している。
 デジタル庁は、マイナンバーで公金受取口座を管理するために必要な特定個人情報保護評価書を、2021(令和3)年10月に個人情報保護委員会に提出し、委員会は10月20日にそれを審査し承認していた。
 この「評価書」では、入力の際の本人確認措置として、マイナポータルにおいてマイナンバーカードおよびパスワード入力により本人確認を行う旨記載して、リスク対策は十分であるとしていた。それに対して委員会は、記載されたリスク対策の不断の見直し・検討が重要と指摘して承認した。

 2022(令和4)年6月30日からマイナポイント第二弾がはじまり、それに伴い公金受取口座登録がはじまった。市区町村では自分で申請が困難な住民に対して、役所の窓口に共用端末を置いて申請支援を行った。誤入力はこの申請支援窓口で、入力途中でログアウトせずに中断した状態で、次の人が口座情報を入力したために別人に口座がひも付き発生したとされている。
 委員会は、デジタル庁が当初想定していなかった市区町村の支援窓口で共用端末を用いて多数の者が手続を連続して行うことにより、「共用端末におけるログアウトが徹底されていないという実務上の実態から生じる誤登録のリスクと、これが頻発することにより大規模な漏えい事態を発生させるリスクを、正しく認識した上でその対策等の見直し・検討を行うべきであった」(15頁)が、これを実施せず委員会が求めた不断の「評価書」の見直し・検討を行わなかったことを指導事項としている

●「保護評価書」を審査できない委員会

 しかし委員会は書いていないが、デジタル庁は2022(令和4)年10月に「評価書」の変更を委員会に提出している。そこでは委員会が引用している2021(令和3)年「評価書」の「開示システムにおいて、マイナンバーカードおよびパスワード入力により、当該預貯金者の本人確認を行う」の記載を、「マイナポータル(利用者証明用電子証明書及び券面事項入力補助AP)でマイナンバーカード及びPIN入力により、当該預貯金者の本人確認を行う」などの変更をしている。これら変更に対して委員会は「リスク及びリスク対策が具体的に記載されており、特段の問題は認められない」として承認しているのだ(10月26日第221回委員会)。
 すでに2022年7月から誤登録の発生が続いていることを把握しているにも関わらず、2022年10月にリスク対策は十分であると記載して提出しているデジタル庁はひどいが、それをチェックできない個人情報保護委員会の審査も問題だ。
 「特定個人情報ファイルの適正な取扱いを確保することにより特定個人情報の漏えいその他の事態の発生を未然に防ぎ、個人のプライバシー等の権利利益を保護することを基本理念とする」(「特定個人情報保護評価指針」1頁)特定個人情報保護評価制度の機能不全が露呈している。

●個人情報の漏えいとの意識が欠如

 委員会は市区町村の支援窓口で公金受取口座の誤登録が発生した仕組みと経過について詳しく報告しているが、そもそもなぜ940件もの誤登録が1年近く発生し続けたのか、その原因に迫っていない。
 委員会は誤登録の経過として2022年7月に豊島区、8月に盛岡市、その後4市区町村で発生していたが、報告を受けたデジタル庁職員が管理職に報告せず、2023年4月に誤登録が発生した福島市から住民に注意喚起するため周知したいと依頼され、職員がはじめて管理職やデジタル庁統括官に連絡したが、デジタル大臣には5月に福島市が対外的に公表するとの情報を得てはじめて連絡したと整理している。

 委員会が指摘しているのは「(誤登録事案が)職員及び担当管理職に、デジタル庁の保有する特定個人情報及び保有個人情報の漏えいであるとの意識が欠如していた」(11頁)ために報告が遅れたということだ。
 デジタル庁は、マイナンバー制度の推進と日本のデジタルシステム再構築の司令塔として、他の行政機関に監督権を行使する別格の省庁だ。そこがマイナンバー情報や個人情報を保護する意識が欠如していたのなら、報告体制の改善の指導で済ませていいのか。日本のデジタル化全体に関わる問題であり、委員会はなぜ是正の勧告やこのような実態の改善を総理大臣に意見具申しないのか。

●マイナカード普及優先が原因ではないか

 委員会の報告には書かれていないが、国会審議でデジタル庁は発生原因として、当初は手続の最後にマイナンバーカードをかざして終了する仕組みにしていたが、マイナポイント第一弾でマイナンバーカードをかざす回数が多過ぎるという批判を受けて、最後にかざすことをやめる改修をしたことで別人の登録が発生してしまい、2023年4月に再び最後にかざす仕組みに改修した、と説明している。
 委員会の報告も触れているように、2022年6月30日のマイナポイント第二弾開始により、公金受取口座の登録数は2022年6月までの月間30~90万件から7月は670万件に急増した。市区町村窓口は押し寄せる住民への対応におわれ、共用端末のログアウト処理の漏れが発生した。
 奇しくも2023年2月末にマイナポイントのためのマイナンバーカードの申請が終了した後、仕組みを改修し、誤登録が発生していることを公表した。2023年3月末までに全住民にマイナンバーカードを所持させるという無理な普及策を実施するため、安全性よりも処理の効率化を優先したことが誤登録の発生につながったのではないか。2023年3月までは普及の支障になる公表や改修を避けようとする意識が現場にあったのではないか。

●普及のために家族口座登録を黙認?

 家族口座等への登録の問題について、委員会は不適切だが個人情報の漏えいには該当しないと軽く扱っているが、意図的な別人へのひも付けが可能ということは、まさに個人を識別して正確に個人情報をひも付けるというマイナンバー制度の前提が崩れている事態だ。
 7月14日には所沢市が別人口座へのひも付け誤りによって高額介護合算療養費57,516円が誤って別人の公金受取口座に振り込まれたことを公表しているように、この公金受取口座登録は財産的被害につながる重大な問題だが、なぜか所沢市の事例は委員会の報告には触れられていない。

 公金受取口座に家族口座等が約14万件も登録された問題も、法律で一人一口座と定められているにも関わらず、マイナポイントとマイナカードの普及のためにデジタル庁は黙認していたのではないかという疑いを持つ。メディアでは「マイナポイント、一家4人で8万円」のような報道がされていて、家族口座を登録する事態は当然予見できたはずだ。
 委員会の報告は「口座登録法において・・・本人が公金受取口座に家族口座等を登録する行為は想定されていなかった」(8頁)と書きながら、「デジタル庁は、家族口座等の問題を中長期的に解消すべき課題として認識していたところ、本件の発覚を受け、・・・具体的な再発防止策を実施していくことを予定している」(8頁)という矛盾した記載をしている。「中長期的」とはマイナポイントが終了した後に、というつもりだったということだろう。

 家族口座登録の発生も、2023年2月末締め切りのマイナポイントを利用したマイナンバーカードの申請を、最優先に普及をはかってきた結果ではないか。
 申請は任意のマイナンバーカードを令和4年度中に全住民に所持させるという、法を逸脱した政府方針こそトラブルの原因であり、それに触れない個人情報保護委員会ではマイナンバー制度の監視の役割は果たせない。

マイナ保険証やめろ!
マイナカード強制するな!
7.15新宿デモ

2023.7.15新宿デモ

●際限のない利用拡大に道を開く番号法改悪

 6月2日、改悪番号法が参議院本会議で成立した。マイナンバーの利用事務を社会保障・税・災害対策の3分野以外に拡大するとともに、法律に規定がなくても「準じている」と行政が判断すれば利用を可能にし、法律の規定なしに情報連携を可能にする改正だ。
 3月9日の最高裁判決は、番号法が利用範囲を3分野に限定し、利用・提供を法令で限定していることを合憲理由の一つとしていたが、これにも抵触する。利用や提供の手始めに、国家資格の管理システムや在留外国人の適正管理のためにマイナンバーを利用拡大する(法改正内容についてはこちら、反対の取組はこちら、審議経過はこちら)。

 国会審議では、健康保険証廃止に向けて資格確認書を新設する法改正に対して、申請主義のマイナ保険証や資格確認書では高齢者や障がい者が保険診療を受けられなくなることや、施設入所者ではマイナンバーカードの管理が困難であることが、5月17日の参議院参考人質疑で明らかにされた。また医療現場ではマイナ保険証では保険資格が正しく表示されなかったり顔認証を誤る事例が多発し、その結果マイナ保険証で受診すると窓口でいったん10割支払う事態が起きていることが、保団連の調査で明らかになった。

 共通番号いらないネットは、4月25日5月8日5月19日5月31日と国会前行動や議員への要請行動などを取り組み、5月25日に声明「マイナンバーカードのトラブルは政府の責任 健康保険証は廃止するな! 番号法「改正」案は撤回を!」を発表した。保団連(全国保険医団体連合会)やマイナンバー制度反対連絡会などによる国会行動も連日のように取り組まれた。
 その結果、当初5月19日に予定されていた参議院の委員会採決は延期され、5月31日の委員会でも委員長から一時採決延期の考えが示されるほど反対世論が高まったが、残念ながら採決を阻止することはできなかった。参議院では20項目の附帯決議が付いている。

トラブル続出はマイナンバー制度の破綻を示す

 この国会審議の最中、マイナンバー制度のトラブルが次々と明らかになった。証明書コンビニ交付での誤交付、マイナポイントの別人口座への誤ひも付けや家族口座へのひも付け、マイナンバーカードへの別人の顔写真記載や別人への発行、公金受取口座の誤登録、マイナ保険証の誤ひも付けと別人の医療情報の閲覧、地方職員共済年金や障害手帳のデータの誤ひも付け。それらが終息に向かうというより、さらに新たなトラブルが発覚するという状態だ。
 当初、マイナンバーシステムの問題ではないと軽視してきた政府も、デジタル大臣、総務大臣、厚労大臣がそろって謝罪会見するハメになったが、しかしそれでも政府の責任は認めず、業者のミス、自治体や保険者の事務処理の誤り、意図的に家族口座にひも付けた市民のせいと、責任転嫁を続けている。

 それらの原因はさまざまだが、一連のトラブルで指摘できるのは、
 一つは、2023年3月までにほぼ全ての住民にマイナンバーカードを所持させるという2019年6月に策定した方針を、市民のニードと無縁にごり押しした無理の顕在化。
 第二に、マイナポイントの誤ひも付けは昨年(2022年)8月に総務省が確認し、公金受取口座の誤ひもつけは今年2月に国税庁から連絡され、マイナ保険証では2021年3月の開始予定が誤ひも付けが約35000件把握されて10月に実施延期された後も、誤ひも付けが発生していることが2021年11月には把握されていながら、それら事実を市民に公表しないまま、マイナンバーカードの普及やマイナポイントの申請やオンライン資格確認の義務化を推進し、トラブルを拡大してきたこと。
 第三にデジタル庁が庁内の連絡体制の不備によりこれらの事実を把握できなかったと説明しているように、2021年9月に発足した官民一体のデジタル庁が予想されたとおり統制がとれず、このような組織がマイナンバー制度の推進をはじめ私たちの個人情報の共有政策を推進するという危険な暴走状態にあること。
 そしてこれらのトラブルが5月以降一斉に顕在化したのは、2023年3月までのマイナンバーカード普及や国会での番号法改正案成立を最優先して、その支障になる不都合な事実は隠蔽しようとしてきたのではないかという疑惑などだ。

 これらでも、政府の責任は明らかだ。しかしさらに重要なのは、この一連のトラブルが示しているのは「個人を一意に識別して、個人情報を分野を超えて生涯ひも付ける」ことを目的とした社会基盤として2015年につくられたマイナンバー制度が、数兆円の税金を投じて7年以上運用されてきたにもかかわらず、その目的達成に失敗しているということだ。

●マイナカード押しつけを強化する「対応策」

 しかし政府はそのようなマイナンバー制度を推進してきた自らの責任を認めるどころか、このトラブルを利用してマイナンバーによる市民の管理をさらに強化しようとしている。
 6月21日に発足したマイナンバー情報総点検本部は、再発防止策の方向性として「各種申請時のマイナンバー記載義務化」をあげている。点検し検証する前に、今後の方向性は決めており、「総点検」はそのための口実づくりだ。
 早くも厚労省は6月1日から、資格取得届等にマイナンバーの記載を求める省令改正を施行している。いちおうマイナンバーの記載がない場合は、5情報(漢字氏名、カナ氏名、生年月日、性別、住所)によって地方公共団体情報システム機構(J-LIS)にマイナンバーを照会する扱いを保険者に示しているが、5情報が一致しない場合は本人に確認することとしている。

 注意すべきは、本人からマイナンバーの提供を受ける際には、かならず本人確認(身元確認と番号確認)を行うことが、番号法16条で義務づけられていることだ。

 本人確認はマイナンバーカードの提示のほか、運転免許証やパスポートと番号通知カードの組み合わせなどが認められてきたが、番号通知カードの新規・更新発行は2020年5月で終了し、住所氏名等に変更があれば番号確認書類として使えなくなっている。したがってマイナンバーの提供が「義務化」されれば、事実上、マイナンバーカードを提示するか、マイナンバーが記載された住民票写し・住民票記載事項証明書を提出せざるをえなくなっている(提供先によって若干の例外あり)。

 私たちは基本的人権を侵害する個人情報の利活用制度であるマイナンバー制度に反対し、「書かない番号!持たない(マイナンバー)カード!」と訴えてきた。それに対し各行政機関は、マイナンバーの提供を求めるが本人が拒んだ場合はそのまま申請を受理し、不利益なく手続きを行うことを認めてきた(厚労省国税庁金融庁)。
 政府のなすべきことは、なぜマイナンバー制度が目的達成に失敗したかを検証することであり、マイナンバー制度の失敗を糊塗するためにマイナンバーの提供とマイナンバーカードの取得を強要することは許されない。

マイナンバー制度改悪法案
早くも衆院通過-参議院へ

●拙速にすすんだ衆議院の委員会審議
●法案賛成だけの偏った参考人質疑
●「デジタルファシズムを思わせる」と立憲反対
●早くも参議院で審議入り
●疑問に答えず「メリット」を繰り返す答弁
●「より良い医療」を押しつけられるか
●行政判断で歯止めなき利用拡大へ
●政府のごまかし答弁
●いずれマイナポータルから招集令状?!

 3月7日に国会提出された番号法「改正」法案は、マイナンバー制度を大きく変える利用範囲や利用・提供の拡大、私たちの生活に直結する健康保険証廃止や戸籍氏名のフリガナ記載、預貯金把握に懸念が多い公金受取口座登録に通知に返答なければ登録する「行政機関等経由登録」の新設など、重要な変更がされようとしている。
 共通番号いらないネットは国会に対し徹底した問題点の解明と拙速に採決しないことを求めてきたが、急ピッチで衆議院を通過した。参議院では議論不十分なまま安易な採決が行われないよう、共謀罪・秘密保護法に反対する市民団体とともに、国会前行動を行う。

− マイナンバーカード強制反対! −
共謀罪廃止! 秘密保護法廃止! 監視社会反対!「12.6 / 4.6 を忘れない6日行動」
日時:2023年5月8日(月)12時〜12時45分
会場:衆議院第二議員会館前
詳しくは共通番号いらないネットのサイト

●拙速にすすんだ衆議院の委員会審議

 衆議院では4月14日の本会議で審議入りし、地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会で18日19日20日と急ピッチで審議が進み、共通番号いらないネットや中央社会保障推進協議会・全国保険医団体連合会マイナンバー制度反対連絡会などが国会前で反対行動を繰り広げる中、25日の委員会で採決された。
 この法案は約20の法改正の「束ね法案」で、その中には法務委員会で審議すべき戸籍の記載事項に氏名のフリガナを追加する戸籍法改正や、健康保険証廃止の条件整備として「資格確認書」を新設する医療保険各法改正のように厚生労働委員会と連合して審査すべき事項なども含まれていたが、特別委員会での13時間程度の審議により採決された。

●法案賛成だけの偏った参考人質疑

 20日に行われた参考人質疑では、日本医師会の長島公之常任理事、日本労働組合総連合会の冨田珠代総合政策推進局長、東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹、株式会社New Storiesの太田直樹代表取締役の4名が意見を述べた。
 森信、太田の両名はデジタル庁で法改正を検討してきたマイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループの構成員であり、日本医師会の長島参考人はマイナ保険証を基礎とした医療DXはぜひとも進めるべきという立場から、連合の富田参考人は納税者番号とマイナンバー制度を推進してきた立場からの意見だった。
 賛否のバランスをとることが多い参考人招致で、全員が法案推進の立場から意見を述べるという偏った質疑になり、マイナンバー制度や法案に対する市民の疑問や懸念は省みられなかった。

●「デジタルファシズムを思わせる」と立憲反対

 4月25日の委員会採決では、立憲民主党と共産党が反対討論を、維新の会が賛成討論を行った。自民・立憲・公明・国民の4会派提案の12項目の附帯決議が付いている。
 立憲の福田委員はデジタルファシズムを思わせるような改正案だとして、マイナ保険証の見切り発車は強引で国民皆保険を損なう、利用拡大は説明不足、公金受取口座登録の「行政機関等経由登録」はあまりに強引だなどを指摘し、健康保険証の存続と監視や統制の手段ではなく国民の利便性の向上に資するデジタル化を求めた。
 共産の塩川委員は、保険証を廃止して申請交付にするのは国・保険者の責任放棄でありマイナ保険証の押し付け・保険証の廃止は撤回すべき、利用範囲拡大と利用・提供の法定の緩和はプライバシー侵害の危険性をいっそう高める、「行政機関等経由登録」は国民不信を招く、戸籍氏名のフリガナを審査するのは命名権の侵害などを指摘し、マイナンバー制度は廃止すべきとした。
 これに対し維新の住吉委員はマイナンバーをより幅広くフル活用すべきとして、改正法案の方向をより一層のスピード感を持って取り組むように強く要望するとともに、附帯決議に対してマイナンバーの利用促進を妨げる条項もあるとして反対した。

●早くも参議院で審議入り

 改正法案は27日午後の衆議院本会議で、自民、維新、公明、国民、有志の会の賛成、立憲、共産、れいわの反対で可決され、早くも翌28日午前の参議院本会議で趣旨説明と質疑が行われた。参議院本会議では、岸真紀子(立憲)、猪瀬直樹(維新)、伊藤孝恵(国民)、伊藤岳(共産)の各議員が質問を行った。

 立憲からは、束ね法案の問題、マイナ保険証でなぜ健康保険証を存続できないのか、申請方式のマイナ保険証や資格確認書では国民皆保険に漏れが生じる、公金受取口座登録は明示的な同意にかぎるべきで便乗した特殊詐欺も懸念、戸籍へのフリガナ追加で市町村窓口でトラブルのおそれ、などの問題を指摘した。
 その一方で、国民のための行政と社会のデジタル化につながるマイナンバーの利用拡大は推進する立場で、民主党政権でマイナンバー制度がスタートした当初の給付付き税額控除のための正確な所得資産把握という目的が見失われていることを批判した。

 維新からは、マイナンバーとマイナンバーカードの利用拡大を求め、収入資産把握という制度の根幹を進展させずに枝葉の成果をアピールしていると政府を批判した。マイナ保険証も電子カルテとの連動など利用拡大を主張し、マイナカード取得・マイナ保険証・預貯金口座とマイナンバーのひも付けなどの義務化を求めた。

 国民民主は、デジタル化の前提としての人権保障の必要や、マイナカード・マイナポイントの費用対効果や随意契約の問題点、公金受取口座のみなし同意は疑問、利用拡大に対する国会等の関与などを指摘し、情報の自己決定権を憲法で保障することを提案した。

 共産は、利用拡大でプライバシー侵害の危険性が広がるとの日弁連会長声明や、マイナ保険証は地域医療を損ない国・保険者の責務を放棄、公金受取口座登録は明示的な同意によるべき、戸籍フリガナを本籍地市町村長が記載するのは命名権の侵害などを指摘し、個人情報保護の対策は後回しにしたまま保険証を人質にとってマイナンバーカードの取得を強制することはやめよ、と迫った。

●疑問に答えず「メリット」を繰り返す答弁

 国会審議における政府の答弁は、指摘された問題点に応えずに、政府の考えるメリットを何回も繰り返すというものだった。
 例えばマイナ保険証では、政府はマイナンバーカードの申請・管理が困難な高齢者等への対応として、マイナカードの申請・代理交付等について入所施設の職員や支援団体等が協力したり、入所者のマイナカードを施設長が管理することを求めているが、保団連の「健康保険証廃止に伴う高齢者施設等への影響調査」では94%の施設が対応できないと答えている。政府の「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」の関係団体ヒアリングでも、異口同音にマイナンバーカードや暗証番号の管理の困難や申請の意思確認や顔写真撮影などの難しさが指摘されていた。
 健康保険証なら申請なしに送られてきて施設で預かり管理できても、「実印レベル」であるマイナンバーカードを申請し管理することは過大な負担になる。健康保険証なら問題ないので存続させるべきではないかと問われても、政府は「マイナ保険証で医療データが共有されて患者にとってより良い医療が受けられるので、保険証は廃止する」との答弁を繰り返すばかりだった。

 公金受取口座登録についても、行政が把握する口座を本人に通知して不同意の返信がなければ登録するという「行政機関等経由登録」を新設し、本人が希望していないにもかかわらず登録するのは強引すぎると批判されても、登録により国民が不利益をこうむるものではないので登録すると答弁した。
 不利益を被るのではないかと不安を抱いている市民が少なくないことは、マイナポイントで釣っても4割の人が公金受取口座の登録をしていない(デジタル庁ダッシュボード2023.4.23)ことでも示されているが、政府は無視している。

●「より良い医療」を押しつけられるか

 マイナ保険証やオンライン資格確認のデメリットが明らかになってくるにつれて、政府はもっぱら「医療データが共有されて患者にとってより良い医療が受けられる」ということを強調している。しかし何が「より良い医療」かを判断するのは患者であり、政府に押しつけられることではない。
 そもそも市民はメリットを感じていない。マイナポイントで釣っても、マイナカード所持者の1/3は保険証利用登録をしていない(デジタル庁ダッシュボード2023.4.23)。しかも保険証登録した理由の約9割は「マイナポイントがもらえるから」だ(業種別政府ネット調査)。

 マイナ保険証での医療データの閲覧状況を見ても、2023年3月の厚労省データでマイナ保険証による資格確認利用件数2,670,743件のうち、特定健診情報を閲覧したのは519,600件(19%)、他医療機関の診察情報を閲覧したのは590,600件(22%)だ。薬剤情報の閲覧でも1,240,319件(46%)に留まっている。
 そもそもオンライン資格確認の利用件数118,042,845件のうち、多くは医療データの閲覧ができない健康保険証利用による確認で、マイナ保険証利用は2,670,743件(2.3%)だ。ほとんどの受診者は閲覧していない医療データの閲覧を理由に、「より良い医療」を受けられるからと窓口で加算(下図:中医協資料より作成)を請求されている。ぼったくりだ。

 当ブログ「「より良い医療」を理由にマイナ保険証を強要できるか」で述べているように、オンライン資格確認によって患者には望まない医療情報(厚労省も精神科や婦人科を例示)が医療機関に伝わる不安や、DV等被害につながるおそれなどのデメリットもある。医療者の職業倫理(守秘義務)からも問題だ。
 登録される医療情報や医療機関が閲覧できる情報の選択権など、自己情報コントロール権を保障する法制度が前提でなければならない。

●行政判断で歯止めなき利用拡大へ

 今回の改正法案は、当ブロク「個人情報保護措置を崩すマイナンバー法改正案」のように、社会保障・税・災害対策の3分野以外の行政事務にマイナンバーの利用を広げる。いままで政府は3分野に利用が限定されているので治安対策自衛官募集等にマイナンバーを使うことはできない、と答弁してきたが、その歯止めがなくなり際限のない利用拡大がはじまる。
 さらにマイナンバー制度の個人情報保護措置の一つであるマイナンバーの利用情報連携を法律で制限していることを崩し、法定の利用事務に準じると行政が判断すれば利用を可能にし、情報連携事務を規定していた別表第二を廃止して利用事務であれば情報連携による提供を可能にする。

 この利用が3分野に限定されていることや、利用・提供を法律で規定していることは、最高裁が3月9日の判決でマイナンバー制度を合憲と判断した理由の一つだった。政府はこの法定を崩していくことに対して
a.個別の法律の規定に基づく利用拡大は法定事項であり、改正は国会で審議される
b.準ずる事務について、事務の性質が同一であるといった基準を改正案に規定している
c.準ずる事務は主務省令で公表され、主務省令の改正にあたっては行政手続法でパブリックコメントを行う必要があり、国民にはわかる
d.情報連携事務の法定をなくしても、情報連携できる主体と利用事務は法令で限定されているので、政府の裁量が大きくなることはない
e.個人情報保護委員会による監視監督の対象となることや分散管理など個人情報保護に変更はない
など、論点をぼかした答弁をしている。

●政府のごまかし答弁

 a.3分野以外への利用拡大がその都度法定されるのは当然であり、問題はどこまで利用が広がるのか、なんの歯止めもないことだ。今回提案されている利用拡大が、国家資格の登録管理システムや在留外国人の適正管理であることをみると、いよいよ国民監視というマイナンバー制度の真の意図が露になってきた。個人の行動把握を可能にするマイナンバーカードを、全住民に所持させるための普及促進策も法改正に含まれている。
 国会審議の中では、マイナンバー制度の立法段階から中心になって制度構築をしてきた向井治紀(元)内閣府大臣官房番号制度担当室長・(現)デジタル庁参与の発言が問題になった。「霞が関の「上から目線」ではだめだ、ミスター・マイナンバーが語る課題と今後(日経クロステック2023.04.13)」のインタビューで向井参与は、マイナンバー利用事務を最終的には法律ではなく政令で書けば利用できるようにすべきだ、と主張し、今回の法改正で「準ずる」事務でも利用できるようにしたのは非常に一歩進んだ良い改正だが、利用事務を法の別表第一に規定しているのは住基ネット訴訟の最高裁における合憲判決で利用範囲を法令に書かれていることとされたのを踏まえたためで、別表第一をなくすことが(今回の法改正後に)残された課題だと述べていた。
 これが政府の本音ではないかという立憲・岡本委員の問いに河野デジタル大臣は、参与は非常勤でデジタル庁の意思決定には係わらず日本は独裁国家ではないから有識者がいろいろ発言することは自由だという答弁をしていたが(2023年4月25日衆議院ちこデジ委員会)、向井参与は単なる有識者ではなくマイナンバー制度を作ってきた中心人物であり、発言の重みが違う。(2023.5.6追記)

 b.「準ずる事務」について「事務の性質が同一」等の基準があるというが、それに合致するかを判断するのは行政だ。問題は、いままで国会が判断していた利用拡大を、行政が判断するということだ。
 本来個人情報の利用・提供は本人同意に基づき行われるべきだが、マイナンバーを利用する特定個人情報については国会で法律に規定することで本人同意なく利用・提供可能とされている(私たちはそれでも自己情報コントロール権の侵害と考えているが)。その原則が崩れることが問題だ。

 c.マイナンバーの利用・提供の変更の際は、実施前に特定個人情報保護評価の実施が義務付けられている。国会答弁でそれに触れていないのは奇異だ。政府は改正理由として「情報連携を速やかに開始する観点」を強調しているが、法定を緩めても特定個人情報保護評価の実施(パブコメ、第三者評価)やシステム改修・運用テストなどが必要であることに変わりはない。「準ずる事務」は重要ではない変更として、特定個人情報保護評価の実施をスルーするつもりか?
 政府は速やかな開始が必要な例として、新型コロナ対策のワクチン接種システム(VRS)をあげている。このVRSはマイナンバーの利用拡大をしたいという平井元大臣の思惑によって、番号法に規定する個人情報保護措置をスルーして作られ、それを個人情報保護委員会が追認するという極めて重大な経過をたどった(コロナ予防接種で崩される!マイナンバーの個人情報保護(2)マイナンバー東京訴訟控訴審準備書面(3)20頁~参照)。特定個人情報保護評価の実施も、緊急時だから事後評価でよいとされて空洞化した(「新型コロナウイルス感染症対策に係る予防接種事務の特定個人情報保護評価の実施に係る解説」4頁)。このようなことを繰り返してはならない。

 d.個人情報保護において、利用と提供のプライバシーリスクは異なる。だからこそ番号法では利用(第9条、別表第一)と提供(第19条、別表第二)を分けて法定し、個人情報保護措置を規定していた。利用する主体と事務が法令で限定されているから、提供を限定しなくても政府の裁量は拡大しないというのは、利用と提供の違いを無視する暴論だ。
 しかも提供される事務の利用は法令で限定というが、この利用には「準ずる事務」(準法定事務)も含まれており(改正法第19条8で「準法定事務処理者を含む」と規定)、ますます政府の裁量は広がる。

 e.個人情報保護措置に変更がないのは当たり前だが、問題はこの個人情報保護措置が機能不全になっていることだ。
 とくに個人情報保護委員会に対しては、マイナンバー訴訟でも機能不全が問題になってきた。東京訴訟控訴審の準備書面(5)では、委員会の任務に個人情報の利活用推進も含まれている、委員会の監督権限が及んでいない重要な分野(刑事事件捜査など)がある、個人情報保護を専門とする常勤委員がいない、膨大な任務に比して委員会のマンパワーが不足などを指摘している。神奈川訴訟では個人情報保護委員会事務局長を証人申請した(個人情報保護委員会の現状と課題については、日弁連の第64回人権擁護大会第二分科会基調報告書219頁~参照)。

●いずれマイナポータルから招集令状?!

 国会審議の中で、改正後のマイナンバー制度の将来を暗示させるような発言があった。4月28日の参議院本会議で国民民主党伊藤参議院議員は質問の最後に、ロシア政府が給付金申請、ワクチン接種、住民登録など行政サービスを受けるために国民が登録していたシステムを使って、徴兵逃れ防止のために招集令状を個人アカウントに送りつけるニュースを紹介した。
 個人アカウントに通知すれば、対象者が招集令状を受け取ったことになり、出国が禁止され、出頭しなければ自動車運転やローン申込など社会活動が制限される。利用される政府のポータルサイトは「国のサービス」を意味する「ゴスウスルーギ」という名前で、「思ったより簡単」というキャッチフレーズで利用の呼びかけが行われてきたという(NHK解説委員室2023年04月27日「ウクライナに侵攻するロシアでデジタル招集令状導入 背景と影響」安間英夫解説委員など参照)。日本のマイナポータルとそっくりで、その将来を暗示させるようなニュースだ。
 4月25日の共通番号いらないネットの国会前行動で参議院沖縄の風の高良議員は、戦前の動員体制で役場に免許や技術など職業能力の申告をさせて徴兵の際の部隊配置などに活用してきたことを紹介し、マイナンバー制度の(改正法案で拡大される国家資格管理システムの)利用で同様のことができることを指摘され、利用拡大には軍事的な意味もあることを強調された。
 このような社会にしないためにも、マイナンバー制度の利用拡大に反対しなければならない。 

個人情報保護措置を崩す
マイナンバー法改正案

●番号法の改悪案を国会提出
●制度のあり方を変える改悪案の内容
●マイナンバーの利用「範囲」を拡大
●法律による利用・提供の制限をなし崩しに
●利用や提供の歯止めがなくなる
●有識者からも法改正に懸念の声が
●最高裁判決からも許されない改正案

●番号法の改悪案を国会提出 

 2023年3月7日、政府は番号法改正案を閣議決定し、国会に提出した。4月にも審議が始まろうとしている。共通番号いらないネットは、3月14日、マイナ保険証の強制と番号法改悪に反対する院内集会を開催した。

  集会決議

●制度のあり方を変える改悪案の内容

 この改正案は、いままでの改正が利用事務の拡大であったのに対して、利用範囲を社会保障・税・災害対策の3分野以外に拡大するとともに、個人情報保護措置とされていたマイナンバーの利用・提供の法律に定める原則を崩すなど、マイナンバー制度の仕組みそのものを変える今までにない改正になっている。
 デジタル庁による「法案概要」では、今回の法改正は
[1]マイナンバーの利用範囲の拡大
[2]マイナンバーの利用及び情報連携に係る規定の見直し
[3]マイナンバーカードと健康保険証の一体化
[4]マイナンバーカードの普及・利用促進
[5]戸籍等の記載事項への「氏名の振り仮名」の追加
[6]公金受取口座の登録促進(行政機関等経由登録の特例制度の創設)
がポイントとなっている。

    テジタル庁資料 法案「概要」

●マイナンバーの利用「範囲」を拡大

 「法案概要」の1では、改正案では法の理念として、社会保障制度、税制及び災害対策の3分野以外の行政事務もマイナンバーの利用の促進を図ることをうたっている。
 現行法では第3条(基本理念)2で、社会保障・税・災害の分野は利用の促進他の行政分野や行政以外の国民の利便性向上になる分野は利用の可能性を考慮して進めることになっていた。
 それが改正案では「その他の行政分野」が、「利用の可能性を考慮」から「利用の促進」に変わる。

【現行法】第三条2 個人番号及び法人番号の利用に関する施策の推進は、個人情報の保護に十分配慮しつつ、行政運営の効率化を通じた国民の利便性の向上に資することを旨として、社会保障制度、税制及び災害対策に関する分野における利用の促進を図るとともに、他の行政分野及び行政分野以外の国民の利便性の向上に資する分野における利用の可能性を考慮して行われなければならない。
   ↓ ↓ ↓
【改正案】第三条2 個人番号及び法人番号の利用に関する施策の推進は、個人情報の保護に十分配慮しつつ、行政運営の効率化を通じた国民の利便性の向上に資することを旨として、社会保障制度、税制、災害対策その他の行政分野における利用の促進を図るとともに、行政分野以外の国民の利便性の向上に資する分野における利用の可能性を考慮して行われなければならない。

●法律による利用・提供の制限をなし崩しに

 「法案概要」の2では、マイナンバーの利用と提供(情報連携)の法定主義をなし崩しに緩和しようとしている。
 現行法では、マイナンバーを利用できるのは法9条により別表第一に列挙する事務と自治体が条例で規定する事務のみであり、情報提供ネットワークシステムを使って情報連携できるのは法19条8・9により別表第ニに列挙する事務と個人情報保護委員会規則で認めた自治体の事務に限定されている。
 それを改正案では、第9条の別表第一に列挙されている利用事務に「準じる事務」として省令で定める事務を「準法定事務」として、法律に規定がない事務も行政の判断で国会に図ることなくマイナンバーの利用を可能にする。
 それとともに法19条を改正し、情報連携事務を限定列挙した別表第二を廃止して、別表第一(改正後は単に「別表」)による主務省令で利用を認めている「特定個人番号利用事務」であれば、行政機関等の判断で情報提供ネットワークシステムを使って提供できるようにしようとしている。

●利用や提供の歯止めがなくなると

 番号法が成立した2013年の国会審議では、個人番号の利用範囲あるいは提供範囲は、番号法で社会保障・税・災害と限定的に書いているので、警察や公安でのマイナンバー制度の利用は想定していない、と説明されていた(参議院内閣委2013年5月21日向井政府参考人)。
 自衛官募集業務について、DMを送る対象者を絞り込む際の情報収集にマイナンバー制度を使うことはないかと質問された際には、「社会保障、税、災害対策の分野で利用されるものでありまして、自衛官の募集の分野では利用することはできないものだと承知をいたしておりまして、自衛官の募集につきまして、現在のところマイナンバー制度を利用する予定はございません。」と中谷防衛大臣は答弁していた(参議院安保特別委2015年9月2日)。
 利用を3分野に限定する番号法の規定が、これら利用拡大を防ぐ歯止めとなっていた。
 政府はマイナンバー制度が「安心・安全」である根拠の一つとして、マイナンバーの利用範囲・情報連携の範囲を法律に規定し目的外利用を禁止していることを、私たちにも国会でも説明し、裁判でも主張してきた(下図)。その前提が崩れていく。

法制審議会戸籍法部会2017年10月20日参考資料3マイナンバー制度について

●有識者からも法改正に懸念の声が

 この法改正は、デジタル庁が設置した「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」で検討されてきた。
 2022年11月29日の第7回WGでは、デジタル庁の示した法改正事項に対して、有識者から「何かよく分からない間に利用範囲を広げたように伝わらないように」「便利になるから、ということだけで拡大するのではなく、国民の理解を得ることが不可欠」「なぜ歯止めが必要なのかというのは、幾つか懸念があった名寄せリスクですとか、いわゆる国民の情報が全て一元管理されるのではないかというリスクに対する答えだったということは忘れないでいただきたい」などの懸念が示されていた(議事録)。
 デジタル庁が提出した法改正の資料(11頁 下図)でも、「新たに追加されるマイナンバー利用事務や情報連携の状況について事後監視のあり方についても検討が必要か。」との記載がされているが、「事後監視」についての説明はされていない。個人情報保護の役割を果たせていないことがマイナンバー違憲訴訟で指摘されている個人情報保護委員会に、監視を委ねることはできない。
 そもそも「どこまでマイナンバーによるひも付けが広がってしまうのか」との不安に対して法律で明確に制限するための規定であり、「事後監視」すれば済む話ではない。

「マイナンバー法の改正事項」(2022年11月29日第7回WG資料)

●最高裁判決からも許されない改正案 

 この改正案が閣議決定された2日後の3月9日、最高裁は全国8カ所で争われているマイナンバー制度を憲法違反として利用差止等を求めた訴訟のうち、九州・仙台・名古屋訴訟を先行して棄却する判決を下した。大阪訴訟は最高裁に上告中であり、東京・神奈川・金沢訴訟はまだ高裁判決も出ていない段階での異例の最高裁判決だった。
 最高裁判決は争点であった憲法13条のプライバシー権について、15年前(2008年3月6日)の住基ネット最高裁判決と同じく「みだりに第三者に開示又は公表されない自由」と解し、情報化の進展に対応した自己情報コントロール権を認めなかった。また指摘してきた現実に起きている問題事例(いらないネットリーフ12参照)を検証せずに、法の規定をなぞるだけで漏洩や目的外利用等の「危険性は極めて低い」と判断するなど不当な判決だった。
 しかしこの最高裁判決でも、具体的な法制度や実際に使用されるシステムの内容次第では、芋づる式に外部に流出したり、不当なデータマッチングによって、個人情報がみだりに第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じ得ると認め、番号法が利用範囲を社会保障・税・災害対策に限定し、提供を制限列挙した例外事由に該当する場合にのみ認めていること等を、合憲理由の一つとしていることに注視しなければならない。
 政府が番号法改正で行おうとしているのは、これら個人情報保護措置をなし崩しにすることであり、この最高裁判決に照らしても認められるものではない。

2023年3月9日最高裁判決 第1(抜粋)
第1 2(2)個人番号及びその利用範囲イ(抜粋)
「番号利用法は・・・(利用することができる)上記一定の事務の範囲を、社会保障、税、災害対策及びこれらに類する分野の法令又は条例で定められた事務に限定することで、個人番号によって検索及び管理がされることになる個人情報を限定している。」(3頁)
第1 2(3)特定個人情報の提供に関する規制(抜粋)
「番号利用法は、特定個人情報の提供を原則として禁止し(同法19条)、その禁止が解除される例外事由を同条各号で規定している。」(9頁)

2023年3月9日最高裁判決 第2 1(2)(抜粋)
「・・・前記第1の2(2)イのとおり、番号利用法は、個人番号の利用範囲について、社会保障、税、災害対策及びこれらに類する分野の法令又は条例で定められた事務に限定することで、個人番号によって検索及び管理がされることになる個人情報を限定するとともに、特定個人情報について目的外利用が許容される例外事由を一般法よりも厳格に規定している。
 さらに、前記第1の2(3) 及び(5)イのとおり、番号利用法は、特定個人情報の提供を原則として禁止し、制限列挙した例外事由に該当する場合にのみ、その提供を認めるとともに、上記例外事由に該当する場合を除いて他人に対する個人番号の提供の求めや特定個人情報の収集又は保管を禁止するほか、必要な範囲を超えた特定個人情報ファイルの作成を禁止している。
 以上によれば、番号利用法に基づく特定個人情報の利用、提供等は、上記の正当な行政目的の範囲内で行われているということができる。」(9頁)

2023年3月9日最高裁判決 第2 3(抜粋)
「もっとも、特定個人情報の中には、個人の所得や社会保障の受給歴等の秘匿性の高い情報が多数含まれることになるところ、理論上は、対象者識別機能を有する個人番号を利用してこれらの情報の集約や突合を行い、個人の分析をすることが可能であるため、具体的な法制度や実際に使用されるシステムの内容次第では、これらの情報が芋づる式に外部に流出することや、不当なデータマッチング、すなわち、行政機関等が番号利用法上許される範囲を超えて他の行政機関等から特定の個人に係る複数の特定個人情報の提供を受けるなどしてこれらを突合することにより、特定個人情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じ得るものである。
 しかし、番号利用法は、前記第1の2(2)イ及び(3)のとおり、個人番号の利用や特定個人情報の提供について厳格な規制を行うことに加えて、前記第1の2(5) 及び(6)のとおり、特定個人情報の管理について、特定個人情報の漏えい等を防止し、特定個人情報を安全かつ適正に管理するための種々の規制を行うこととしており、・・・・」(10頁)

「より良い医療」を理由に
マイナ保険証を強要できるか

<目次>
●健康保険証廃止の前提条件を検討
●メリットを感じないマイナ保険証
●「より良い医療」のためなら選択制を
●広がる医療・健診・介護情報の共有
●DV等対象者や機微な診療情報の取扱い
●自己情報コントロールの保障がない

 2月17日(2023年)、「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」は「中間とりまとめ」を公表した。これを受けて、マイナカードを持たない人への無料の「資格確認書」の発行や「特急発行・交付」の仕組み、1歳未満への顔写真がないカードの交付、対面での本人確認が難しい場合の代理人への交付などが報じられている。またそれ以外にマイナンバーカードから住所、性別、マイナンバーの記載を削除する方向で検討という、マイナカードのあり方も変える報道もある。

●健康保険証廃止の前提条件を検討

 昨年10月13日に河野デジタル大臣が2024年秋に健康保険証を廃止すると記者会見したが、廃止には前提条件があることを当ブログで指摘してきた。この検討会はその条件に対応するためにデジタル大臣、総務大臣、厚労大臣を構成員とし、昨年12月6日に第1回が行われ検討課題(案)を示したあと専門家WGで検討してきた。
 専門家WGの議事概要も2月17日に公表されているが、デジタル庁統括官を座長に総務省・厚労省の担当局長、医師会、歯科医師会、薬剤師会、健保連、国保中央会を構成員に、昨年12月22日23日に高齢者、障害者などの関係団体からヒアリングを行っていた。
 「中間とりまとめで具体化に至らなかった事項については、最終とりまとめに反映できるよう検討する」と記されているように、ヒアリングでは多くの課題が指摘され、その解決策を国は示すこともできなかったにもかかわらず、わずか2回(2月7日、16日)のWGで拙速にもまとめを公表したことに政府の焦りが感じられる。

●メリットを感じないマイナ保険証

 「中間とりまとめ」は冒頭、マイナンバーカードと健康保険証一体化の意義として、マイナ保険証のメリットを並べている。しかしメリットが感じられていないことは、政府の調査でも明らかになっている。
 昨年12月2日~12日の調査では、マイナンバーカードの健康保険証利用を申し込んだ理由の実に89.1%は「マイナポイントがもらえるから」であり、「利用できるから」14.3%、「メリットを感じたから」11.6%を大きく上回っている。昨年8月26日~9月2日の調査結果も同様だが、マイナ保険証を利用できる医療機関は増えているのにメリットを感じる人はさらに減っている。政府のメリット論の破綻は明らかだ。
 実際、マイナ保険証のメリットと言われていることに対しては、さまざまな疑問がある一方で、危険性も指摘されている(当ブログ「やっぱり負担増になるマイナカード保険証」参照)。

  2023年1月15日スペースエフ緊急学習会資料より

●「より良い医療」のためなら選択制を

 メリット論の説得力のなさを悟ったのか、最近政府は「データに基づいたより良い医療を受けるため」ということを強調している。マイナ保険証を利用することで、薬剤服用歴や特定健診(俗に言うメタボ健診)のデータ、さらに昨年9月からは受診した医療機関で他の医療機関の診療情報も見ることができるようになったことを、より良い医療を受けられると言っている(厚労省資料参照)。
 医療機関での閲覧は本人同意が必要となっているが、医師から閲覧を求められて患者が拒めるか、カードリーダーで「同意」を押すときに仕組みをどこまで患者が理解しているか、疑問だ。
 診療情報等を医師に提供することにメリットを感じる場合もあるだろうが、知られたくない情報が伝わるデメリットを感じる場合もあるだろう。閲覧を希望しない患者にまでマイナ保険証の利用を押しつけるのは、人権侵害ではないか。医療機関側はより多くの情報を欲するだろうが、そのために患者が受診をためらうようになっては元も子もない。少なくともマイナ保険証の利用は選択制にして、望まない患者には保険証を交付すべきだ。

 実際、オンライン資格確認の本格運用が始まった2021年10月から2022年12月までで、マイナンバーカードを使って資格確認した件数は4,941,102件だが、患者が医療機関の閲覧に同意したのは特定健診等情報が818,606件、薬剤情報が2,168,971件となっている(社会保障審議会医療保険部会2023年1月16日第162回資料1より)。閲覧は特定健診等が約16%、薬剤情報でも約44%しかなく、閲覧を望まない患者が少なくないことが推測できる。
 ちなみに同時期にオンライン資格確認は約7億件利用されているが、マイナカードによるものは約495万件、保険証によるもの約6億件、一括照会によるもの約9,200万件となっている。マイナカードを使わなければ健診情報等は閲覧できないが、閲覧できない場合でもオンライン資格確認を導入している医療機関で受診すると支払い(加算、下表参照)が増える。大部分の閲覧していない患者から、「より良い医療」を理由に加算を取るのはボッタクリだ。

●広がる医療・健診・介護情報の共有

 政府は医療DXとしてオンライン資格確認等システムを拡充して「全国医療情報プラットフォーム」をつくり、特定健診や服薬情報だけでなく電子カルテや自治体の健診、介護情報など医療・健康・介護情報全般を医療機関が閲覧できるようにしようとしている(「骨太の方針2022」32頁)。

「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム第1回2022年9月22日資料1より
2022年11月17日院内集会 神奈川県保険医協会藤田理事資料より

 共有情報が広がると、閲覧に同意するとどのような情報が医師に伝わるかわからなくなり、医師と患者の信頼関係を損なうことも出てくるだろう。医療情報の利活用によって産業振興につながることを期待してこのような共有を進めることは、医療者の職業倫理にも反する。

●DV等対象者や機微な診療情報の取扱い

 オンライン資格確認等システムの導入に向けて厚労省が検討した資料では、DV対象者の情報や機微な診療情報の取扱いをどうするかが検討課題となっていた。

オンライン資格確認等システムに関する運用等の整理案(概要)(令和元年6月版)104頁

 DV被害者等のマイナ保険証利用にあたっては、オンライン資格確認等システムの開始によりDVや虐待等の被害者の情報が加害者に閲覧されると身体・生命の危険につながるため、本人が「自己情報提供不可フラグ」の設定をすることを自治体は呼びかけている(たとえば船橋市和光市京都市いわき市瀬戸市浜松市松前町羽村市港区等)。
 機微な診療情報(精神科、婦人科等)については、受診履歴が第三者に知られることが心理的負荷やストレスにつながるため、現在は医療費の通知に記載しない扱いになっていることをふまえて、本人の申請により保険者が「自己情報提供不可フラグ」を設定するとなっている。

オンライン資格確認等システムに関する運用等の整理案(概要)(令和元年6月版)106頁

●自己情報コントロールの保障がない

 しかしフラグを設定すると「機微な診療情報項目だけではなく、情報全体を閲覧不可とする」扱いになる。健診・服薬・診療情報を医療機関が閲覧できるのがマイナ保険証のメリットだとすると、DV等被害者や機微な診療を受けている人は、マイナ保険証のメリットを享受できないという差別的扱いを受けることになる。また医療機関等に対しては、フラグを付けていることによって、DV等被害者や機微な診療を受けているということのカミングアウトを強いられる。
 誰もが、個々の診療内容毎に、誰に対して、どんな情報を提供するか、さらにはどんな情報をシステムに記録するか、決められる仕組みになっていれば防げる問題だ。マイナ保険証(オンライン資格確認等システム)も、マイナンバー制度も、このような自己情報コントロール権を保障する仕組みになっていない。
 マイナンバー制度の開始時には「医療分野等の特に機微性の高い医療情報等の取扱いに関し、個人情報保護法又は番号法の特別法として、その機微性や情報の特性に配慮した特段の措置を定める法制を番号法と併せて整備する」ことになっていた(「社会保障・税番号大綱」55頁)。そして「社会保障・税番号大綱」では、マイナンバー制度によって実現すべき社会として「国民の権利を守り、国民が自己情報をコントロールできる社会」もあげていた(5頁)。
 マイナ保険証や医療DXを進める前に、まず自己情報コントロール権を保障する法整備をすべきだ。

マイナ保険証はいらない!
マイナカードは義務ではない

 河野デジタル大臣が2022年10月13日の記者会見で突然、2024年度秋に現在の健康保険証の廃止を目ざすと表明して以降、「マイナカード、事実上の義務化」などと報じられていることの影響で「マイナンバーカードを申請しなければいけないのだろうか」という疑問が寄せられている。
 2022年11月9日の当ブログでも書いたように、マイナンバーカードの所持は義務ではない。健康保険証廃止でもそのことは変わらないと政府も明言しており、あわててマイナンバーカードを申請する必要はまったくない。マイナカードの普及率は6割程度だ。これからも健康保険証を使おう。

●マイナカードの所持は義務にならない

 番号法第16条の二で、個人番号カード(マイナンバーカード)は「政令で定めるところにより、住民基本台帳に記録されている者の申請に基づき」発行されることになっている。申請するかしないかは、個人の自由だ。
 総務省は「取得を義務付けるべきではないか」の問いに「マイナンバーカードは、本人の協力のもと、対面での厳格な本人確認を経て発行される必要があるが、カード取得を義務付ければ、この本人の協力を強要することとなり、手法として適当でない。」と答え(経済財政諮問会議の国と地方のシステムワーキング・グループ(2019年3月15日第17回)その考えは今も変わらないとしている。
 公務員へのカード取得強要が社会問題になったときにも、総務省は取得は義務なのかの問いに「マイナンバーカードは、本人の意思で申請するものであり、(公務員に限らず)取得義務は課されておらず、取得を強制するものではない」(総務省自治行政局公務員部福利課の令和元年9月20日付「地方公務員等のマイナンバーカードの一斉取得の推進に関するQ&A」)と説明していた。

●健康保険証廃止=マイナカード義務化ではない

 マイナ保険証を審議した第210回国会でも、政府は繰り返し「マイナンバーカードの取得は義務ではない」と明言し、健康保険証が廃止されてもそれは変わらないと答弁している。
 2022年10月20日参議院予算委では河野デジタル大臣が、マイナンバーカードを保険証として利用しても「以前と同様、申請に応じて、求めに応じてマイナンバーカードを交付する、その状況には変わりはございません」と述べ、そうはいっても保険証を廃止するということはほぼ義務化に近いので本来は法改正すべきではないかとの質問に、「法改正は必要ございません」と答えている。
 10月27日の衆議院総務委では、デジタル庁審議官が「マイナンバーカードはマイナンバー法におきまして、国民の申請に基づき交付されるものであるというふうに書いてございます。この点を今回変更しようとするものではございません。」と説明し、厚生労働省大臣官房審議官は「マイナンバーカードは国民の申請に基づき交付されるものでございまして、今回のマイナンバーカードと健康保険証の一体化、これはこの点を変更するものではないと承知しております。したがいまして、今回の取組によりまして、マイナンバーカードの保有が義務づけられるものではございません。」と説明している
 2022年10月28日の衆議院内閣委では、次のようなやりとりがされている。

○委員
 河野大臣が今般、マイナンバーカード保険証の実質義務化を前倒し実施する方針を示されたその意図
○河野国務大臣
 マイナンバーカードは、申請に応じて交付をするというところは変わっておりませんので、義務化ではございません。
○委員
 今、義務ではないとおっしゃいましたが、実質的には義務のように感じてしまう国民も多いかと思うんですね。反対される方の中で多いのが、マイナンバーカード取得は任意ではないのかということですね。マイナンバーカードの取得自体が、そもそもが任意であるのか義務であるのか、政府としての明確な御答弁を
○村上政府参考人(デジタル庁統括官)
 マイナンバーカードは、対面に加え、オンラインでも確実な本人確認ができる最高位の身分証であり、安全、安心なデジタル社会のパスポートということではございますが、先ほど大臣からも御答弁申し上げたとおり、その取得は本人の意思で申請するものであり、国民の皆様に取得義務は課されておらず、取得を強制するものではないということでございます。
○委員
 であれば、国民皆保険の我が国で、現行の保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化するということは、実質のマイナンバーカード取得義務化となり、法の趣旨に反することにはならないか
○村上政府参考人 
 マイナンバーカードは、趣旨、繰り返しになりますが、国民の申請に基づき交付されるものでございます。この点につきましては、マイナンバーカードと健康保険証の一体化に当たっても変更することはございません。したがって、マイナンバーカード保有を義務づけるということを申し上げているものではないということでございます。

●健康保険証廃止には前提条件がある

 「2024年秋に健康保険証廃止」だけがクローズアップされ、あたかも決定した既定方針であるかのように思われているが、10月13日の記者会見の内容をよく見る必要がある。
 記者会見で河野大臣は、岸田首相の指示で9月29日から河野大臣が議長の関係省庁の連絡会議で検討し首相に報告した内容を発表している。つまり河野大臣の「独走」ではなく岸田首相の指示によること、閣議決定を経ていない関係省庁の会議の結果、ということだ。
 そこで「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に向けた取組」について、以前の閣議決定を前倒しして、
①訪問診療、あんま、鍼灸などにおいてマイナンバーカードに対応するための補正予算の要求
②マイナンバーカードの取得の徹底
③カードの手続き・様式の見直し

の3点の検討を行った上で、2024年度秋に現在の健康保険証の廃止を目指すと発表した。
 つまり①~③という前提条件をクリアして、はじめて保険証廃止を目指すことができる。
 さらに2022年10月24日の衆議院予算委員会で岸田首相は、2024年秋の後にマイナンバーカードを取得しない人はどうすればいいのか、資格証明書(窓口でまず十割全額自己負担して後でお金が振り込まれる)のように窓口全額負担になるのか、との質問に対し、保険証に代わる保険診療を受けられる制度を用意するという第④の条件を答弁している

条件④ 岸田首相答弁
 政府としては、マイナンバーカードを普及させ、そして、令和六年秋に健康保険証の廃止を目指すことといたしておりますが、何らかの理由によって取得ができない方取得されない方、こうしたことについては、保険料を納めておられる方については、一旦全額を負担していただくようなことはなく保険診療を受けられること、これは当然のことであると思います。そのための準備を進めるよう、担当大臣が今調整を進めている次第であります。・・・保険料を納めておられる方は、その仕組み(=資格証明書)ではなくして保険診療を受けられる、こうした制度を用意しますということを申し上げています。

 この①~④の条件がクリアできないと保険証廃止はできない。②マイナンバーカードの取得の「徹底」というが、カードの取得は義務ではなく、市民がマイナンバーカードと健康保険証の一体化などにメリットを感じて自ら取得しないかぎり「徹底」はされず、保険証は廃止できない。
 さらにマイナ保険証を使うためのオンライン資格確認等確認システムが全ての医療機関で整備されなければ保険証の廃止はできないが、中医協(中央社会保険医療協議会)の2022年8月10日の答申では、現在紙レセプトでの請求が認められている保険医療機関・保険薬局については、オンライン資格確認導入の原則義務付けの例外としている。
 また12月23日の中医協では、離島・山間や建物の制約でオンライン資格確認に必要な電気通信回線(光回線)が整備されていない医療機関等は、回線が整備されるまで延期とされている。そもそもオンライン資格確認の運用を開始している医療機関等は、2023年1月29日時点でも44.7%にとどまっている(医科診療所は32.7%、歯科診療所は36.1%)。

●閣議決定を覆す記者会見の内容

 政府は2022年6月7日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2022」で、マイナンバーカードと健康保険証の一体化について、2024年度中の「保険証発行の選択制の導入」と保険証の「原則廃止希望すれば保険証は交付)」という方針を決めていた。

 オンライン資格確認について、保険医療機関・薬局に、2023年4月から導入を原則として義務付けるとともに、導入が進み、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する支援等の措置を見直す(診療報酬上の加算の取扱いについては、中央社会保険医療協議会において検討)。
 2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す(加入者から申請があれば保険証は交付される)。(「骨太の方針2022」32頁)

 河野大臣は閣議決定の前倒しだと言うが、決定と記者会見とは内容が異なる。閣議決定を4カ月でひっくり返したわけだだが、その理由は説明はされていない。6月にはじめたマイナポイントで思ったほど健康保険証利用登録が増えないため、焦って健康保険証廃止を表明したことがうかがわれる。
 なお「保険証発行の選択制の導入」とは、現在は健康保険法施行規則(省令)の47条等で、保険者(協会けんぽ、健保組合等)には被保険者証を被保険者に交付することが義務付けられているが、これを選択制にするということだ。その結果保険証の有料化や期間の短い保険証などの問題が起きる可能性があり、選択制にするなら少なくとも保険証希望者に不利益や差別が生じないようにすべきだ。

●保険証廃止を表明してから条件整備を検討

 ①~④の条件をクリアするために、デジタル大臣を議長とする「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」が2022年12月6日から開催されている。河野デジタル大臣、松本総務大臣、加藤厚生労働大臣を構成員としているが、実質的な検討は村上デジタル庁統括官を座長とする専門家ワーキンググループで行い、第2回の検討会は専門家ワーキンググループの検討状況を踏まえて検討することになっている。廃止を表明してから課題を検討するという泥縄だ。
 この検討会の検討事項として、以下の事項をあげている。

マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会における検討事項(案)
(1)特急発行・交付の仕組みの創設等について
 ・特急発行・交付の対象者(新生児、紛失、海外からの入国など)
 ・発行・交付に要する期間のさらなる改善
(2)代理交付・申請補助等について
 ・代理交付を幅広く活用できるようにするための柔軟な対応、申請補助・代理での受取等を行う者の確保等の具体的な促進方法等
(3)市町村による申請受付・交付体制強化の対応
 ・出張申請受付等の拡大など効率的な実施方法等
(4)紛失など例外的な事情によりマイナンバーカード不所持の場合の取扱い
 ・不所持の場合の資格確認の方法
 ・子どもや要介護者等におけるマイナンバーカードの取り扱いについて
(5)保険者の資格情報入力のタイムラグ等への対応
 ・資格変更時のオンライン資格確認システムへの入力のタイムラグ
※その他、保険証廃止後のオンライン資格確認における実務上の課題
 ・発行済の保険証の取扱い
 ・災害時、システム障害時の対応
▼法律改正が想定される事項
(1)番号法
 ① 乳幼児の写真
(2)国民健康保険法等
 ① 資格の取得や喪失の事実関係、資格確認に必要な事項の証明に関する規定の整備
 ② 滞納対策の仕組み、滞納者への通知等に関する規定の整備
 ③ 保険証廃止に伴い不要となる規定の削除、これらに伴う技術的改正

●容易ではない保険証廃止の課題解決

 これら検討課題にはいずれも問題があり、果たして2024年秋までに解決するか検証しなければならない。
 (1)特急発行・交付の仕組みの創設が必要というのは、保険証であればすぐに発行できるが、マイナ保険証にするとマイナンバーカードの発行に1~2か月かかるため、紛失時・新生児・入国者等の受診に支障が出るためだ。
 寺田前総務大臣は10月27日の衆院総務委員会で「紛失等により速やかにこのカードを再発行する必要がある場合は、市町村の窓口で申請をすれば、長くても十日間程度でカードを、現実、取得をすることができる」ように取り組むと答弁しているが、その具体的方法は語っていない。紛失等がなくても、マイナカードは10年ごとに更新が必要で、その時の受診はどうするのか。
 市町村で発行していた住基カードでは即日交付も可能だったが、マイナンバーカードはJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)で発行しているためどうやって期間短縮するのだろうか。仮に十日間程度に短縮できても保険証よりは不便だ。

 (2)代理交付・申請補助等については、マイナンバーカードは「最高位の身分証」(牧島前デジタル大臣の弁)として自治体職員が対面で本人確認して交付することになっている。それを自治体職員の対面での本人確認が困難な施設入所や寝たきりの高齢者について、高齢者施設の施設長やケアマネジャーが自治体職員に代わって本人確認することを可能にするという検討だ(2022年12月6日読売オンライン)。
 高齢者や「障害者」の代理申請をどうするかは重要な課題で、現在でも本人が病気や身体の障がい、その他やむえない理由により交付場所に来るのが難しい場合は代理人にカードの受け取りを委任できる扱いがされている。だがここで言われているのは、全住民にマイナカードを保有させるという目標達成のために、普及の支障となっている本人確認の水準を下げるという話だ。
 カードを普及させるためという理由で本人確認を緩めていけば、成りすまし取得の可能性を高め、「最高位の身分証」として信用されなくなる事態も起こりうる。

(3)市町村による申請受付・交付体制強化の対応というが、すでに昨年、マイナンバーカードの交付率によって地方交付税に差をつけるという話が出て以降、市町村は国の方針に怒りを感じながらも交付税を減らされないためにカード申請を増やそうと出張受付などで忙殺されている。これ以上、どのような強化を求めようというのだろうか。

(4)紛失など例外的な事情によるマイナンバーカード不所持の場合の取扱いについては、そもそも課題の立て方が問題だ。マイナンバーカードの申請は任意であり、保険証として登録し利用するかどうかは自由だ。それをあたかも「紛失など例外的な事情」がなければ所持しているハズだとするような課題設定しているのはおかしい。検討するのであれば岸田首相が答弁しているように、「取得ができない方取得されない方」の扱いとすべきだ。
 「例外的な事情」も紛失だけでなく、例えば自身が病気で通院できない場合に親族等他人が代わりに処方箋や薬を受け取りにいく際に、マイナ保険証を顔認証で利用することはできず暗証番号を入力する必要がある。当ブログの「またやるのかマイナポイント(3) 危険なマイナポイントとカード」などで指摘してきたように、マイナンバーカードと暗証番号がセットになれば、マイナンバーで管理している世帯・税・健康・福祉・子育て・雇用など膨大な個人情報を他人が本人に成り済まして閲覧したりすることが可能になる。マイナンバーカードと暗証番号をいっしょに持ち歩いて紛失したり他人に委ねたりすればこの危険性が増大するが、どう対策するのか。

(5)保険者の資格情報入力のタイムラグ等への対応という検討課題は、これが課題にあがっていることのおかしさを感じるべきだ。
 政府はマイナンバーカードの健康保険証利用のメリットの一つとして、就職・転職・引越をしても新しい健康保険証を受け取るのを待たずにすぐ医療機関にかかれることをあげてきた。ところが保団連(全国保険医団体連合会)が昨年8月に行った実態調査では、オンライン資格確認を導入した医療機関で、登録データの不備や更新の遅れというデータ上のトラブルが多発していることが明らかになっている。そのため患者が提出した正しい保険証を無効と判断してしまうことも起きている。このタイムラグへの対応が検討課題に上がっているのは、国もこのトラブルを認識しているからだ。
 マイナ保険証を使用するためのオンライン資格確認は、下図のように保険者から資格情報を社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会が共同で設置した「オンライン資格確認等システム」に登録し、それを医療機関で読み出して確認する仕組みだ。保険者からの登録が遅れれば直近の資格情報が確認できない。

      厚生労働省のサイトより

 じつは保険者からの登録が遅れることは、以前からわかっている。市区町村では退職して国保に加入する場合、本来は情報提供ネットワークシステムで照会することで本人が健康保険資格喪失証明書などを提出しなくても手続ができることになっているが、照会対象となる情報の登録に時間がかかっているために情報連携(情報照会)が即時に行えず、必ず健康保険資格喪失証明書など届出に必要な書類を持参するように周知してきた。
 この問題が解決しないと、オンライン資格確認より保険証を受け取る方が早くなる場合も出てくる。

(6)番号法の改正事項として乳幼児の写真が上がっている。乳幼児(5歳まで?)は顔写真を不要にしたり、出生届の提出と同時にマイナンバーカードの手続きを完了させることが検討されるようだ(2022年11月1日朝日)。しかしマイナンバーカードが顔写真付きの身分証明書であることは、成りすましの防止のための本人確認手段というマイナンバー制度を成り立たせる根幹的な仕組みだ。普及のためにその前提を変えてしまっていいのだろうか。

●失敗した全住民へのマイナカード普及策

 政府は2019年6月4日、2023年3月末に「ほとんどの住民がカードを保有」を想定する「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」を決めた(下図)。「骨太の方針2021」では、それを「想定」ではなく「目指す」方針とした。
 政府はもともとマイナンバーカードの普及はめざしていたものの、マイナンバーカードの所持はマイナンバー制度において必須の要件ではなかったため、全住民に所持させることは想定していなかった。それがマイナンバーカードに内蔵されている電子証明書の発行(シリアル)番号を、法的な規制の厳しいマイナンバーの代わりに本人識別に利用して、民間も含めたさまざまなデータベースのIDと連携することを利用拡大の柱に据えたために、全住民に所持させる方針に転換した。
 しかし2023年1月末時点でもマイナンバーカードの交付率は60.1%しかない。約2兆円をかけたマイナポイント第二弾で2万円の餌で釣ったものの、9500万人分を予算化したにもかかわらず健康保険証登録は4392万人でマイナンバーカード所持者の約58%、公金振込口座登録は3750万人でカード所持者の49.8%と、予算の半分も利用されていない(デジタル庁ダッシュボード1月29日時点)。健康保険証登録も公金振込口座登録も、政府の調査で登録理由の88%は「マイナポイントがもらえるから」で、登録した人もメリットを感じていない。政府のマイナカード普及方針は失敗した。

デジタル・ガバメント閣僚会議(第6回)2019年12月20日資料1

●マイナカードの全住民所持方針の撤回を

 2022年10月13日の記者会見は、マイナンバーカードの利便性の強調やマイナポイントという利益誘導などの「アメ」ではこれ以上の普及は困難と判断し、マイナンバーカードを所持していないと生活に困るぞという「ムチ」による脅しに転換したことを意味する。その手段として、国民皆保険制度のもとで私たちの健康に不可欠な健康保険証を人質に使っている。
 岸田首相は、「マイナンバーカードはデジタル社会のパスポート」と繰り返しているが、このような脅しで所持させたカードを「パスポート」とするデジタル社会は誰一人取り残さない監視社会だ。政府は諸悪の根源である「全住民にマイナンバーカードを所持させる」方針を撤回し、失敗した最大の理由である市民のマイナンバー制度に対する不安に応えて制度を再検討すべきだ。