「マイナンバー制度」カテゴリーアーカイブ

マイナ保険証を押し付けるな!健康保険証をなくすな!! (6)

 今使っている健康保険証は、最長で今年(2025年)12月1日まで使用することができる。しかし後期高齢者医療では7月末に保険証の有効期限が切れ、多くの市区町村の国保保険証も7~9月末に有効期限切れになる。マイナ保険証のない人には資格確認書が申請不要で送られる予定だが、マイナ保険証を持っていると「要配慮者」以外は利用登録を解除しないと資格確認書を受け取れない。
 利用登録解除は加入している医療保険者(協会けんぽ、健保組合、共済組合、市区町村等)に申請が必要だ。昨年10月末から申請がはじまり4月末で10万件近く解除されているが、政府も医療保険者もほとんど宣伝しないため解除手続きを知らない人が大部分だ。
 さらに厚労省は5月13日に「要配慮者」の関係団体に対して、福祉施設や在宅の要配慮者がこれまでどおり保険診療を受けられるよう、マイナ保険証保有の有無にかかわらず資格確認書の申請を呼びかけるよう求める通知をしている。

「今後、国民健康保険の各保険者で発行している従来の健康保険証の有効期限が順次到来していく中で、マイナ保険証を保有していない方だけでなく、マイナ保険証を保有する要配慮者についても、これまでどおり保険診療を受けられるよう、福祉施設の利用者や、在宅の要介護者なども含め、必要な場合には資格確認書の申請を行っていただく必要があります。」

 健康保険証の有効期限前後に、マイナ保険証を使いたくない住民や利用が困難な「要配慮者」から、マイナ保険証の利用登録解除申請や資格確認書の交付申請が殺到したら、市区町村は対応できるのか。
 東京の渋谷区や世田谷区では、国保加入者が適切に保険診療を受けられるよう、国保加入者全員に資格確認書を一斉交付することを発表した。いらないネットでは地方自治体議員に、国保加入者全員に資格確認書送付を実現するよう呼びかけをしている(こちら参照)。

 マイナ保険証の利用が増えない。2024年12月2日に健康保険証の新規交付が終了し、「マイナ保険証を基本とする仕組み」に移行したはずだった。しかし11月に18.52%だったマイナ保険証の利用率は12月に25.42%に増えたものの、以後、1月25.42%⇒2月26.62%⇒3月27.26%⇒4月28.65%と、ほとんど横ばいだ。大部分の受診者は健康保険証を使っている。
 国家公務員ですら利用率は29.57%(2025年4月)で、自分たちも利用したくないマイナ保険証を、市民に押し付けようとしている。
 厚労省がいくら医療機関に利用促進の圧力をかけても、市民が使いたくないから利用率が向上しないという現実を政府は率直に認め、制度設計を見直し健康保険証の利用継続を可能にすべきだ。

保団連2025.5.8記者会見資料より

 とくに「電子証明書」の期限切れによるトラブルが増加している。マイナカードに内蔵の電子証明書の有効期限が切れると、マイナ保険証は使えない。
 厚労省は電子証明書の5年間(5回目の誕生日)の有効期限が切れる3ヶ月前には更新の連絡を送り、期限が過ぎても3ヶ月間はマイナ保険証としては利用可能にし、電子証明書の更新がされない場合は資格確認書を申請なしに職権交付するなどの対策をとっている(下図参照)。
 しかしそもそも電子証明書など理解されていない。久しぶりに受診してマイナ保険証を提示したら、期限切れのため窓口で10割支払うことが起きている。
 また更新手続のために市区町村窓口に行くことが難しい場合がある(手続はこちら)。代理手続も可能だが、代理で更新手続をすると言ってマイナンバーカードと暗証番号をだまし取ろうとする不審な電話に注意するよう、電子証明書を管理するJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)は注意喚起している
 こんな状態で、医療機関も市民も頼りにしている健康保険証が使えなくなったら、どういうことが起きるだろうか。

第194回社会保障審議会医療保険部会(2025年5月1日)資料2より
第193回社会保障審議会医療保険部会(2025年4月3日)資料1より

 昨年(2024年)9月に厚労省は、新たに75歳到達で後期高齢者医療の対象者になった人などには、2025年7月末まで資格確認書を全員に交付すると発表していた。「後期高齢者は、IT に不慣れなどの理由で、マイナ保険証への移行に一定の期間を要すると考えられるほか、75 歳到達や転居に伴う後期高齢者医療への加入に際し資格取得届出の提出が省略されている。」ため、本人が十分認識しないまま、現行の保険証が失効しマイナ保険証のみになるケースがあると考えられるとの理由だ(2024年9月30日第183回社会保障審議会医療保険部会資料2)。
 それをさらに「後期高齢者の利用率は相対的に低い状況。後期高齢者の発行済み保険証は今年7月末に一斉に有効期限を迎えるため、そのタイミングで、資格確認書の交付を求める方からの申請が、市町村の窓口に集中する恐れがある。」との理由で、今年4月に後期高齢者医療加入者全員に資格確認書を一斉交付することに方針転換した。

 厚労省は75歳以上の後期高齢者だけに一斉交付する理由を、「ITに不慣れ」「利用率が低い」などと説明している。しかしマイナ保険証の利用率がもっとも高いのは65~69歳の前期高齢者で、若者ほど利用率は低い。75~79歳でも40歳台と利用率は大差ない(下図厚労省資料参照)。

厚労省「社会保障分野におけるマイナンバー制度の活用について」より

 有効期限を迎えるタイミングで、資格確認書の交付申請が市町村の窓口に集中する恐れは、国保でも同様だ。むしろ解除申請が集中する恐れは、国保の方が高いのでないか。にもかかわらず、厚労省は5月30日に都道府県を通して、国民健康保険は「全員一律に資格確認書を交付する状況ではない」ことを市区町村に周知徹底しろという依頼を出している(こちら参照)。
 後期高齢者は「新たな機器の取扱いに不慣れである等の理由」があり、国保被保険者とは違うという理屈だ。しかし後期高齢者が一律に機器の取扱いに不慣れではないことは、利用率を見れば明らかで理屈になっていない。
 後期高齢者は「被保険者が電子資格確認を受けることができない状況にあるかを一切考慮することなく」一律に資格確認書を交付するが、国保被保険者に対しては一律交付は不要という厚労省の主張には、何の説得力もない

 東京の渋谷区は2025年2月28日に、国民健康保険の資格確認書を令和7年7月に一斉発送することをホームページで明らかにした。渋谷区はすでに昨年11月6日の区議会区民環境委員会で、健康保険証の発行終了に伴う対応として、医療機関で医療にかかれないという状況をつくらないため、資格確認書を来年7月中旬に3年間を有効期限として全ての方に交付し、その間にマイナ保険証の意義や使うことのメリット等を周知していくとの考えを示していた。

 世田谷区は5月1日のホームページで、9月30日の国保証の有効期限切れ後に使用できる資格確認書を、マイナ保険証の保有の有無にかかわらず一斉発送することを発表した。4月24日の区議会福祉保健委員会では、「制度移行後においても適切に保険診療を受ける機会の確保、また、多くの「資格確認書」の交付申請が予想され、それに伴う被保険者への交付期間により受診機会を逃す恐れ等を考慮」して資格確認書を全被保険者へ特定記録郵便で一斉交付することを報告している。
 保坂区長は5月26日の記者会見で、「保険証からマイナ保険証を基本とする制度への移行中であり、新たな制度の理解が浸透し、潤滑に切り替えられているとは言い難い状況」であり、「国民健康保険に加入する区民の皆さんが、医療を受ける機会を逸失することがあってはならない」と考えての措置であると説明している。またマイナカードの普及に努めたことで窓口が非常に混雑してきたことをふまえ、世田谷区の国民健康保険加入者は約16万人で日々異動があり、マイナ保険証を持っているか判別するにはシステム改修が必要で、大規模な自治体がどのような事務を抱えるのかということについて国は自治体の意見をよく聞くべきではないかと述べている。

 渋谷区や世田谷区に限らず、転入・転出・退職等の異動や、マイナ保険証申請・登録解除によって刻々と変わるマイナ保険証の保有状況に対応して、マイナ保険証と資格確認書を切り替える事務は大変だ。健康保険証ならそんな手間は不要だった。大変さの中で保険診療が受けられないという事態を万が一に起こしてはいけないという責任から、マイナ保険証の保有に左右されずに資格確認書を一斉交付したいと考えた市区町村は少なくない。
 5月の愛知県保険医協会の市町村聞き取り調査でも、現状は事務負担が大きく一斉交付できれば効率的との意見が出されている。
 しかし厚労省は資格確認書を一斉交付したいとの市区町村からの問い合わせに対して、2024年11月22日に「資格確認書の運用等に関するQ&Aについて(その3)」でQ17-12を新たに追加し、「国民健康保険法第9条において、被保険者が「電子資格確認を受けることができない状況にあるとき」に資格確認書を交付することとされており、被保険者が電子資格確認を受けることができない状況にあるかを一切考慮することなく、一律に資格確認書を交付することは認められません。」と市区町村に通知していた。そのため厚労省を刺激したくないと、市区町村は一斉交付をあきらめていたのが実情だ。

 6月6日の衆議院厚生労働委員会で柚木委員から、資格確認書の全員送付について各自治体の意見を踏まえて対応するよう求められた厚労大臣は、さんざん答えをはぐらかしたあげく、国民健康保険の事務は「自治事務でございますので自治体の判断」になると答弁をした。当たり前の話だ。
 「資格確認書は法律上、被保険者が電子資格確認を受けることができない状況にある時に交付されるもの」で、厚労省はその必要性があると考えていないと繰り返したが、法律で資格確認書の交付判断を委ねられている保険者である市区町村が、制度移行期に保険資格確認ができない事態を回避しようと資格確認書を一律交付することについて、現場を知らない厚労大臣がその必要性を云々するのは越権行為だ。

 健康保険証の有効期限切れが迫っているなかで、市区町村は保険診療を保障するためにできるかぎり柔軟に対応すべきだ。
 「資格確認書の運用等に関するQ&Aについて」で厚労省も認めているように、新規加入者について、マイナ保険証の利用登録状況が加入手続き時に正確に把握できない場合、暫定的に資格確認書を交付することは差し支えない(Q5)。マイナ保険証を利用登録しても資格確認書の返還は求めなくていい(Q2)。
 市区町村はマイナ保険証の解除手続のPRをするとともに、郵送・オンラインなどできるかぎり簡便な方法での申請受付を用意すべきだ。厚労省の「解除申請書」の例示には、「解除を希望する理由」の記入欄があるが不要だ。マイナ保険証の申請には理由を求めないのに、なぜ解除には理由を書かせるのか。
 また厚労省が通知しているように、「要配慮者」に資格確認書の交付申請の案内を急ぐ必要がある。「要配慮者」かどうかを判断する基準については、「要介護の高齢者や障害をお持ちの方など、様々な困難を抱える方が想定され、一律の基準を定めるのは困難」と厚労省は説明し、判断は市区町村に委ねられている(Q3)。児童についても、児童本人や親権者等による資格確認が難しいなどマイナ保険証の利用が困難な場合には、個別の状況に応じて資格確認書の申請交付の対象となる(通知参照)。
 必要を感じて資格確認書を希望する住民に対しては、速やかな交付が望まれる

マイナ保険証を押し付けるな!健康保険証をなくすな!! (5)

医療データの共有と
プライバシー保護を考える院内集会
●日時:2025年5月27日(火)14時〜
●会場:衆議院第二議員会館
    地下1階 第8会議室
●お話:武藤糾明弁護士(福岡県弁護士会)
※院内集会のための通行証を、13時45分ころから衆議院第二議員会館ロビーで配布。詳しくは、いらないネットのサイトを。

 2024年12月2日に健康保険証の新規交付を終了し、厚労省のいう「マイナ保険証を基本とする仕組み」に移行して5ヶ月が経過した。しかしマイナ保険証の利用率は、2024年11月の18.52%から12月に25.42%に上昇したものの、その後は1月25.42%、2月26.36%、3月27.26%と低迷し、4人に3人は健康保険証を使い続けている。
 なぜ皆マイナ保険証を使いたくないのか。かつてマイナ保険証の利用登録をしない理由として 、(1)メリットを感じない (2)手続が面倒 (3)個人情報が不安の3点が言われていた。(1)はマイナポイントの利益誘導によって、(2)は医療機関やコンビニでの利用登録の簡便化などで「改善」され、マイナカードの保有率は約78%、そのうちマイナポイントの登録率は約85%になっている(デジタル庁ダッシュボード2025/3/31時点)。
 にもかかわらず利用されないのは、マイナカードを持ち歩く不安のほか、資格情報が正しく表示されないことへの不信、個人情報の集積と漏洩の恐れ、望まない医療情報や受診歴の提供など個人情報の扱いへの不安があるからだ。

 政府はマイナ保険証を基盤として医療DXと称する医療・健康・介護情報の共有と利活用の仕組み(全国医療情報プラットフオーム)を作ろうとしている。医療情報の共有でより良い医療を提供するために健康保険証を廃止すると説明してきた(昨年の厚労省ヒアリング)。
 しかしこの医療情報の共有への不安から、少なくない人がマイナ保険証を使いたくないと思っている。また医師からは、守秘義務に反して提供されることで患者との信頼関係を損なうことが危惧されている。

 共通番号いらないネットでは、医療情報の利活用を望む側によって推進されているこの医療DXを、医療データを利活用される患者や医療機関の立場から検証するために、学習会を開催している。
 第1回は4月24日に「マイナ保険証と「医療DX」を考える院内集会」として行った(こちら参照)。第2回を5月27日に「医療データの共有とプライバシー保護を考える院内集会」として行う。

 4月24日の院内集会では、衆議院厚生労働委員会の柚木道義委員(立憲)、長谷川嘉一委員(立憲)、院内集会の便宜をはかっていただいた参議院の福島みずほ議員(社民)から挨拶をいただいた。また衆議院本村伸子議員(共産)、参議院厚労委員会の倉林明子委員(共産)、天畠大輔委員(れいわ)の秘書が参加された。

 集会の内容は、ビデオ配信で公開されている(こちら)。
 まず共通番号いらないネットより、「マイナ保険証と医療法改正案」の状況について、以下の点を報告した(報告資料はこちら)。
1)マイナ保険証の個人情報の扱いについて、政府の調査でも私たちに対しても「個人情報の集中管理は不安」「医療機関に受診経過を見られるのが嫌」などの声が寄せられている
2)医療機関の医療情報閲覧の本人同意画面が改悪され、「同意しない」の選択肢がわかりにくくなった

▼もともと、手術歴・診療薬剤情報・特定健診の3項目について、それぞれ閲覧に「同意する」「同意しない」の選択画面だった。
▼医療機関窓口で同意手続に手間取るとの理由で、2024年10月7日から初期画面が3項目をまとめて「全て同意する」「個別に同意する」の選択に変更され、「同意しない」は「個別に同意する」を選択した後でないと選べなくなった(こちらの13頁参照)。
▼さらに2025年2月1日から、初期画面で「個別に同意する」を選ぶと「現在の同意状況をみる」「現在の同意状況を引き継ぐ」「選択しなおす」の画面になり、「選択しなおす」を選ばないと「同意しない」画面が出てこなくなった(こちらの7頁参照)

3)国会提出中の医療法改正案で、本人同意不要での医療情報収集や個人情報の連結を広げようとしている
4)この方向は医療に限らず、今後個人情報保護法改正や教育・こどもなど準公共分野に広がる

 講師の吉田章さん(東京保険医協会副会長)からは、「医療現場からみた情報共有化の問題点」が話された(講演資料はこちら)。

●「より良い医療」の現実-救急医療を例に
 政府がマイナ保険証による「より良い医療」の例として宣伝する救急医療での利用では、薬名や既往歴で病名を即断する医学的には首をかしげる事例があがっている。

●医療法改正で、医療情報の取扱いに関して大変動がおころうとしている
 古代ギリシャの「ヒポクラテスの誓い」や1948年のジュネーブ宣言以来、個人の医療情報は医療機関でのみ保管し、転院など他の医療機関への提供は必要な記録を選択して個別に伝達してきた。
 それを今後は、医療情報を医療機関から患者の同意なく収集し、生涯の記録を共有化し、医療情報以外の情報とも連結され評価される危険性がある。医学研究のための情報収集なら、患者に期待される利益と予測されるリスク等を説明し同意を得るインフォームドコンセントが必要だ。
 過去の病歴・診療歴がわかることは、取扱いによっては人の一生を左右しかねず、患者さんにとっていい面ばかりではない。
 こういう医療情報の扱いという原点の議論が不十分なまま、利活用のための制度だけが進行している。

●マイナ保険証を望んでいるのは政府と企業(IT企業、製薬会社など)
2020年11月17日 経団連新成長戦略
 新たな経済成長にとって死活的に重要なのがデータの活用。マイナンバー制度を活用して胎児期から亡くなるまで生涯のライフコースデータをつなげる仕組みを整備する必要がある。
2021年4月13日 経済財政諮問会議提言(中西宏明経団連会長、新浪剛史経済同友会代表幹事、他2名)
 重点課題(1)マイナンバー制度の徹底活用 各企業の健保組合において、単独の健康保険証交付をとりやめ、完全な一体化を実現すべき
▼医療データ 開国迫る巨大IT (日経新聞2022/2/20
 日本の医療データを早く出せとGAFAなど巨大ITが日本に迫っていると報じられている
2022年4月8日 経済同友会の提言「データの利活用による経済成長と豊かな社会の実現に向けて~政府は重点計画に将来ビジョンと工程表を定めマイナンバーを基盤としたデータ連携を急げ」
 まず健康保険証とマイナンバーカードを統合することにより、すべての国民が常時マイナンバー及びマイナンバーカードを携行する体制を作る
▼2022年6月7日 骨太の方針2022
 2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す。「全国医療情報プラットフオームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」及び「診療報酬改定DX」の取組を行政と関係業界が一丸となって進めるとともに、医療情報の利活用について法制上の措置等を講ずる。
▼2022年6月 PHRサービス事業協会活動開始(PHR=パーソナルヘルスレコード=個人健康記録)
 全国医療情報プラットフオームの公的医療・健康情報と民間事業者のライフログデータをつなぐ。医療機器、製薬、保険、NTTなどが構成企業。

(事業構想オンライン2023年3月号より)

▼2022年9月22日 日本製薬工業協会「製薬企業における健康医療データの利活用に関する期待と課題」
 次世代医療基盤法では、医療データの利活用にあたっては個人を特定できないよう匿名加工する必要がある。しかし、同協会としては、データそのものが加工されており真正性が失われるため、不十分であるとし、次の事項を要望
1:クラウドベースの電子カルテを普及させ、創薬にも資するデータ項目の標準化をはかること。
2:データ連携にはマイナンバーを活用する。
3:データ基盤(国が一括で管理し利活用できる基盤構築、ライフコースデータの利活用基盤構築(健診、検診、死亡情報及び死者データ、PHR 等も)
▼2022年10月13日河野デジタル大臣記者会見「保険証を2024年秋までに廃止」
 ※10月13日以前に保険証廃止を検討・決定した政府の正式な会議はないのに、記者会見で発表
2023年8月15日東京新聞 経済同友会の新浪剛史代表幹事「納期を守れ」発言
 政府が健康保険証の廃止を目指す2024年秋を「納期」と位置付け、「民間はこの納期って大変重要で、必ず守ってやり遂げる。これが日本の大変重要な文化」と発言

●日本のDXの根本的問題点
 2013年6月14日「世界最先端IT国家創造宣言」で、IT戦略を成長の柱とし今後5年で世界最先端のIT国家になると宣言したが、日本はデジタル技術が育たないまま制度を進めたため、スイスの国際経営開発研究所(IMD)の国際デジタル競争ランキング2024では世界67か国中総合31位の惨状。自治体システム標準化では運用経費が増大したりや会計検査院報告ではマイナンバー情報連携の利用実績がないことが指摘されている。
 また政府の情報基盤(ガバメントクラウド)はアマゾン(AWS)、オラクル(OCI)、マイクロソフト(Azure)、グーグル・クラウドの外国企業が運営しており、日本は「デジタル小作人」と言われている。DXが進むほど、国民のプライバシーが外国にわたる危険性もある。
など具体的な指摘がありました。

 最後に、医療DXはいったん中止し見直すべき、私たちができることとしてマイナ保険証を作らない・使わない、保険証復活法案を成立させようと話されました。

マイナ保険証を押し付けるな!健康保険証をなくすな!! (4)

 2024年12月2日に「健康保険証」の新規発行が終了し、「マイナ保険証を基本とする仕組み」に移行したはずだった(政府広報)。しかし相変わらず、マイナ保険証の利用は広がらず、みな健康保険証を使っている。
 厚労省の医療介護連携政策課課長は昨年暮れ、「来年はマイナ保険証と資格確認書のどちらを使うのかを決めてもらう1年になる。」(NHKニュース2024年12月28日)と述べたそうだが、私たちが健康保険証→資格確認書を選べば、マイナ保険証の押し付けをはね返すことは可能だ。
 健康保険証交付終了後の状況を見てみよう。

 福岡厚労大臣は2024年12月13日の記者会見で、マイナ保険証の直近の利用状況について「11月のマイナ保険証利用件数は3,998万件、利用率は18.52%」と報告したあとに、「その上で、12月2日から8日までの利用状況について、移行当初の状況を把握するため速報値として特別に集計したところ、マイナ保険証の利用件数は1,747万件、利用率は28.29%となっております。」とわざわざ補足していた。
 28.29%は「瞬間風速」のような数値だが、今年1月21日、厚労省は12月分の利用率が25.42%だったと公表した。増加したとはいえ、利用はわずか1/4にとどまった。

誤解させるチラシ

 増加した理由は厚労大臣が「マイナ保険証の利用促進に向けて、これまでも各種媒体を通じた広報を継続的に実施」した効果だと述べているように、あたかも12月以降は健康保険証が使えなくなると誤解させるような宣伝を大量に行ってきた結果だ。マイナ保険証の「メリット」が理解されたためではない。
 マイナンバーカードの申請も、下記総務省の集計のように12月を前に一時的に一日当たりの申請が増加したが、その後は減少している。12月2日以降も健康保険証が使えることや、マイナ保険証がなくても資格確認書で受診できることが徐々に知られてきた結果だろう。
 当分、マイナ保険証の利用が大きく増える見込みはない。

 総務省マイナンバーカード申請・交付状況(2025年1月12日時点)

 12月31日現在、マイナ保険証の利用登録者は約8065.7万人(厚労省サイト)、人口比の登録率は約64.5%になる。
 マイナ保険証の利用登録者は、資格確認書で受診するためにはまずマイナ保険証の利用登録解除をしておく必要がある。例外としてマイナンバーカードでの受診が困難な要配慮者(高齢者、障害者等)やマイナカードを紛失・更新中の者、DV被害者などは、マイナ保険証登録をしていても申請により資格確認書も交付される(「資格確認書の様式等について」厚労省令和5年12月22日)。

 昨年10月28日から厚労省は、利用登録解除システムの運用をはじめた(「マイナ保険証の利用登録解除の運用について」令和6年10月9日)。
 その申請状況について、厚労大臣は2024年11月12日の記者会見で「11月8日時点で、マイナ保険証の解除申請がなされ、サーバーに登録された件数は792件」と公表した。
 さらに国会で申請状況を問われ、12月18日に速報値として11月30日までの申請件数が13,147件と報告し、翌日の社保審医療保険部会で公表している。
 今年1月21日には、12月分の解除申請受付件数を32,067件と公表した。11月分と合わせて45,214件になる。

厚労省サイト最下部に小さく解除申請件数が表示)

 協会けんぽでは10月22日から受付を開始したが、市町村などは準備が整わず12月から申請受付開始したところも多い(保団連のサイト参照)。東京新聞の調査では、東京23区は半数が12月からの申請となっている(東京新聞デジタル2024年11月15日)。
 また申請方法も、窓口に来所しての申請を求めるところも多い。オンラインや郵送申請は広がってきているものの、保険者毎に申請方法はバラバラで、マイナ保険証の利用登録が医療機関窓口やコンビニで簡単にできるのに比べ、面倒な手続きになっている。
 そもそも厚労省は利用登録解除をほとんどPRせず、保険者まかせにしている。このような「悪条件」にもかかわらず申請が増加しており、解除希望者は相当数いることが明らかだ。

 このまま夏に市町村国保の健康保険証の有効期限が到来すると、大混乱になりかねない。厚労省が「加入者が切れ目なく保険診療を受けられる環境の整備」を真剣にしようとしているのであれば、厚労省による利用登録解除申請の積極的なPRと、統一的で簡単な利用登録解除の申請方法の設定が必要だ。申請書類に「解除を希望する理由」を書かせるのも余計であるばかりか、思想調査を疑わせる。
 さらにマイナ保険証の利用が広がらず、制度変更についての理解が不足し、オンライン資格確認等システムで正しい医療保険情報などが表示されない現状が改善されない間は、マイナ保険証の有無にかかわらず全加入者に「資格確認書」を送るようにすべきだ。

 現在、「資格確認書」はマイナ保険証を保有していない全ての人に、申請によらず交付されることになっている。有効期限も「加入者に安心して医療機関を受診していただきたいとの考え」(協会けんぽ回答)で、5年以内と長く設定されている。健康保険証が使えなくなっても、これで受診ができる。
 しかしこれは、2023年のマイナンバーひも付け誤りトラブルと健康保険証廃止に対する世論の反発を考慮して、「当分の間」、法律上の根拠もなく政策的な判断で行われている措置にすぎない(下図「マイナンバー制度及びマイナンバーカードに関する政策パッケージ」参照)。

第2回マイナンバー情報総点検本部(2023/8/8)
資料2「政策パッケージ」14頁

 「資格確認書」は2023年6月の健康保険法等の改正で新設されたが、法律上は私たち被保険者が、「電子資格確認を受けることができない状況にあるとき」に、保険者(協会けんぽ、健保組合、市区町村等)に所定の書面で申請したときに交付されることになっている(健康保険法第51条の3)。ただ法律の附則で、当分の間保険者が必要があると認めるときには職権で(申請によらず)交付することができる、となっている(健康保険法附則第15条)。
 「電子資格確認を受けることができない状況」とは、マイナンバーカードの紛失再発行や更新などで一時的にマイナ保険証が利用できないとか、要介護等でマイナンバーカードを取得していない者などが示されていた(下図法案説明)。
 自らの意思でマイナ保険証の利用登録をしていないとかマイナンバーカードを所持していない者は、交付対象にならないと思われ、所持が義務ではないマイナンバーカードの所持や利用を前提としていると批判を浴びた。利用期間も、マイナンバーカードが発行されるまでを想定した短期間(1年を限度)とされていた。
 それに対して、健康保険証は保険資格ある全ての人に、申請によらず交付され、法令で保険者には交付義務が規定されていた。資格確認書は「マイナ保険証を基本とする仕組み」の補完でしかなく、健康保険証とは別物だ。

 第164回社会保障審議会医療保険部会(2023年3月23日)資料3

 1月24日から通常国会がはじまった。前国会で立憲民主党は健康保険証廃止の延期を求める法案を提出し、閉会中審査となっていた(こちら参照)。
 昨年10月の衆議院議員総選挙にあたりNHKが行った候補者アンケートによれば、与党も含めた当選者の55.1%が健康保険証を「廃止すべきでない」「廃止時期を延期すべき」と答えている(保団連による集計)。
 昨年12月2日に健康保険証交付終了となっているため、この法案の文言のままというわけにはいかないだろうが、この民意をふまえてなんらかの方法で「健康保険証を残す」判断をすべきだ。

※2025年1月29日追記:立憲民主党は1月28日「保険証復活法案」を国会に提出した(末尾の概要参照)

 「電子資格確認を受けることができない状況にある」とか「保険者が必要があると認めるとき」などの判断次第で交付が左右される不安定な制度ではなく、誰もが安心して受診できる仕組みが必要だ。
 健康保険証の有効期間が続いている間、とくに国民健康保険や後期高齢者医療の被保険者証の有効期限が終了する夏(国保は市区町村により7月末や9月末、後期高齢者は7月末)までに、マイナ保険証がなくても健康保険証と同様に、申請なしで保険資格ある全ての人に、保険者の義務として交付される仕組みを法律を改正して整える必要がある。

立憲民主党「保険証復活法案(概要)」(法案はこちらを参照)

マイナ保険証を押し付けるな!健康保険証をなくすな!! (3)

 健康保険証の廃止に対して世論は「反対」「延期」が大多数で、マイナ保険証は依然トラブルが続いて医療現場は困っている、それでも政府は12月2日に健康保険証の新規発行を終了する方針を変更しようとしない。
 そんな状況を打破するために、9月以降、様々な団体と力を合わせて反対の声をさらに広げ盛り上げようと努めてきた。

 マイナンバー制度反対連絡会は私たちと同様にマイナンバー制度がスタートした2015年から、個人参加中心の私たち共通番号いらないネットに対して、番号制度の廃止を求める全労連、東京地評、土建労組、自治労連などの労働組合や、全商連(全国商工団体連絡会)、税経新人会などの団体によって活動してきた。
 マイナンバー制度反対連絡会主催の健康保険証廃止を阻止するための一連の行動に、10万人を超える医師・歯科医が加盟する保団連(全国保険医団体連合会)などの医療団体、中央社保協や高齢期運動連絡会障全協(障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会)などの社会保障団体とともに私たちも参加してきた。
・10月9日 デジタル庁・厚生労働省抗議行動
・10月24日 国会前屋外集会
・11月7日 省庁要請行動~日比谷野音集会~銀座デモ
・11月28日 一日行動(保団連院内集会~国会正門前行動~厚労省・デジタル庁抗議行動)
 11月7日の日比谷野音集会~銀座デモは、私たちも広く参加を呼びかけ、日比谷野音を埋める2300名以上の参加があった(集会の模様は保団連こばと通信で)。

 監視社会に反対する取り組みを従来からともに行ってきた「秘密保護法」廃止へ!実行委員会・共謀罪NO!実行委員会とともに、国会審議に向けて院内集会や国会前行動に取り組んできた
・10月1日 能動的サイバー防御と健康保険証廃止に反対する市民の集い(オンライン配信はこちら
・11月6日 国会前行動、院内集会「警察の市民監視や情報収集は違法!ー大垣警察市民監視事件裁判から学ぶ」(オンライン配信はこちら
 また「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」の10月1日臨時国会開会日行動、11月11日国会開会日行動、12月19日議員会館前行動などで発言してきた。

 2024年9月27日に行われた自民党総裁選挙の結果を受けて、10月1日第1次石破政権が誕生後、10月9日衆議院を解散し、10月27日投票の結果自民・公明が過半数割れし、11月11日第二次石破政権が少数与党政権として発足した。
 立憲民主党は前国会に議員立法で提案していた健康保険証廃止の延期を求める法案を、第215回国会(特別会)に改めて提案し、11月13日衆議院地・こ・デジ特別委員会に付託された(議案審議経過情報はこちら)。

立憲民主党提案の法案(要綱)
衆法 第215回国会 1
行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の一部を改正する法律案

一 被保険者証の廃止に関する改正規定の施行期日の改正(番号利用法等改正法附則第一条新第五号及び新第一条の二関係)
 1 番号利用法等改正法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律(令和五年法律第四十八号)をいう。)のうち、被保険者証の廃止に関する改正規定の施行期日を「公布の日〔令和五年六月九日〕から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日〔令和六年十二月二日〕」から「公布の日から起算して一年六月を経過した日以降において別に法律で定める日」に改めること。

 2 1の「別に法律で定める日」については、医療保険各法等の規定による電子資格確認による被保険者及び被扶養者(以下「被保険者等」という。)であることの確認が安全かつ確実に行われるための環境整備の状況、被保険者等が療養を受ける際の医療保険の被保険者証等の利用の状況、医療保険の被保険者証等の廃止が高齢者及び障害者をはじめとする被保険者等に支障を及ぼさないようにするための施策の策定の状況、医療保険の被保険者証等の廃止に関する国民世論の動向その他の事情を勘案して検討し、その結果に基づいて定められるものとすること。

二 施行期日等  (附則等関係)
 1 この法律は、公布の日から施行すること。
 2 その他所要の規定の整理を行うこと。
※ 法案はこちら

 私たちは11月28日の第216回国会(臨時会)開催日に、法案審議が付託された衆議院地・こ・デジ特別委の委員を議員会館に訪問し、下記の要請を行った。


 
 

マイナ保険証を押し付けるな!健康保険証をなくすな!! (2)

 厚労省は2024年5月24日から6月22日まで、健康保険法の省令から健康保険証の交付義務を削除するための意見募集(パブリックコメント)を行った。私たちは「健康保険証なくすな」の声をパブコメで届けようと呼びかけた(こちら参照)。
 このパブコメでは、当初、7月上中旬に結果を公表し省令改正を行う予定になっていたが(概要参照)、1カ月以上遅れて8月30日に結果が公表された(こちら)。寄せられた53,028件もの意見のほとんどは、改正内容に反対する意見だった。
 公表された結果一覧は、現行の被保険者証は継続するべき、マイナンバーカードと被保険者証の一体化に反対、高齢者等の通院では顔認証は負担が大きい、資格確認書の交付条件である「電子資格確認が受けられない状況」に本人の意思によりマイナンバーカードの交付を受けていない場合や登録を解除した場合も含まれることを明示的に規定すべき、資格確認書は被保険者の申請によらずに保険者が交付する義務を負うべき、などの意見で埋めつくされている。

 しかし厚労省はこの反対の声を受け止めず、8月30日、健康保険証の交付義務を削除する省令改正を行った(令和六年厚生労働省令第百十九号:行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令)。
 同日、厚生労働省保険局長名で公布通知が各都道府県知事、各指定都市市長、地方厚生(支)局長、都道府県後期高齢者医療広域連合長、社会保険診療報酬支払基金理事長、全国健康保険協会理事長、健康保険組合理事長宛に発出されている(令和6年8月30日保発0 8 3 0 第1号)。

 私たちはこのような厚労省に対して、2024年9月26日、福島みずほ参議院議員事務所を通して
・健康保険証廃止反対の意見が多いことや、マイナ保険証の利用率が低いことを、どう考えているのか?
・マイナ保険証の利用登録解除は、いつから、どのようにおこなうのか?
・「資格確認書」の交付対象を広げるべきではないか?
・医療保険資格が正しく表示されないトラブルは、12月までに解決できるのか?
・マイナ保険証でも、他人が成りすますことはできるのではないか?
・マイナ保険証が一因となって医療機関が閉院していることを、調査し対策しているか?
などのヒアリングを行った(こちら参照)。
 なお同日総務省に対しても、携帯電話契約時の本人確認にマイナカードの公的個人認証しか認めなくすると報じられていることに対するヒアリングを行っている(回答はこちら)。

 厚労省の回答は、いらないネットのサイト(要旨はこちら、質疑内容はこちら)で報告している。またヒアリングの模様は「こばと通信 -声を上げる市民」の協力によりこちらで見ることができる。
 厚労省はパブコメに寄せられた意見は省令改正に反対する内容が圧倒的に多かったことを認めつつ、「より良い医療の提供のためにマイナ保険証を基本とする仕組みに移行する」ため省令改悪を見直す考えがないことを回答した。
 ただ寄せられた意見を無視はでぎず、今後は指摘された不安を解消するための宣伝を行っていくと説明した。実際10月24日以降新聞各紙に下記広報を掲載するなど、マイナ保険証がなくても資格確認書で受診できることや健康保険証も最大1年間利用できることなど、それまでのマイナ保険証の利用促進一辺倒を若干修正した宣伝を行うようになった。
 市民の声が、政府の姿勢を変えさせた。

マイナ保険証有効登録数
(デジタル庁ダッシュボード11月30日時点)


 しかしマイナ保険証利用促進に比べ宣伝量は圧倒的に少ない。また10月28日から可能になるマイナ保険証の利用登録解除(10月9日厚労省事務連絡参照)について、ヒアリングでは周知すると答えながらまったく触れないなど、「不安解消」にはほど遠い内容だ。
 実際12月2日から健康保険証が使えなくなると誤解して、市区町村窓口にマイナンバーカードの申請が押し寄せ(総務省公表資料)、マイナ保険証登録が増加した。人々を不安に駆り立てることで利用促進を図る、こんな手法でどんなデジタル社会を作ろうというのだろうか。

 なおこのヒアリングでは、最近政府がマイナ保険証を促進する理由として「健康保険証では成りすましがある」と強調していることに対してマイナ保険証でも「技術的には」成りすましが可能と認め、また医療機関・薬局は患者にマイナ保険証利用を勧める義務はないと認めるなど、注目すべき回答があった。

 「資格確認書」の交付やマイナ保険証の利用登録解除は、保険者(健保組合、協会けんぽ、自治体=国保・後期高齢者医療、共済組合、国保組合等)が行うことになり、保険者の姿勢が重要になる。
 一部の健保組合では、2024年度入社した新人に健康保険証を交付せずマイナ保険証の手続きを義務づけた(日経2024年9月25日)とか、資格確認書の有効期限を3カ月にして有効期限内にマイナ保険証の手続きを催促したり、資格確認書をマイナカードの紛失や子の出生によりマイナ保険証が取得できない場合のみ発行すると案内している例(東京新聞2024年11月19日)が報じられている。
 そこで加入者約4000万人の最大の保険者である協会けんぽ(全国健康保険協会:健保組合に加入していない企業の従業員対象)に対し、9月30日次の質問書を送り、10月12日までの回答を求めた(いらないネットのサイトに掲載)。
 また公立学校共済組合に対して、全国学校事務労働組合連絡会議(略称「全学労連」)が9月13日に提出した要請書も、いらないネットのサイトに掲載している。

協会けんぽへの質問項目(全文はこちら
(1)「資格情報のお知らせと加入者情報」について
(2)「資格確認書」について
(3)マイナ保険証の利用登録解除について
(4)マイナ保険証のトラブルへの対応について

 しかし協会けんぽからは期日をすぎても回答も連絡もなく、協会けんぽ本部を訪問するなど再三求めた結果、すでに質問した事項が実施されはじめた12月3日にやっと回答がメールで送られてきた(回答の経過と回答内容はこちら)。政府は「国民の皆様の不安には迅速に応え、丁寧に対応する」(11月30日石破首相所信表明)と繰り返しているが、その実態がこの遅延だ。
 
 「資格情報のお知らせ」は、券面で保険資格情報がわからないマイナ保険証の利用登録者を対象に送ることになっていた。マイナ保険証を登録していない加入者は、券面で保険資格がわかる「資格確認書」が交付されるので、本来必要がない。ところが協会けんぽは9月から全加入者に送付している。なぜ全加入者に送っているのか、9月26日のヒアリングで厚労省は「なぜ協会けんぽが全加入者に送っているかわからない」と回答していたが、協会けんぽからは厚労省の指示(令和6年1月9日付事務連絡)にしたがい送ったと、矛盾する回答があった。

 「資格確認書」については「加入者に安心して医療機関を受診していただきたいとの考え」で有効期限を4年から5年の範囲で設定しているとの回答があった。厚労省は加入者を不安にさせる一部の健保組合の不当な対応を是正させるべきだ。

 マイナ保険証の利用登録解除については、早期に回答を得て周知したかったが、実施後の回答になった。当初はまずコールセンターに連絡しないと解除申請用紙が送付されなかったが、保団連が再三要望した結果、12月1日から申請書類がウェブサイトからダウンロードできるようになった(保団連医療ニュース参照)。私たちは申請の提出先が勤務先になると提出しにくくなることを心配したが、加入している協会けんぽ都道府県支部にて受付することになっている。
 なおマイナ保険証の利用登録解除をする際には、下記の申請書を提出するとともに、あわせてマイナ保険証の代わりになる「資格確認書交付申請書」を提出する必要があるので注意が必要だ(詳しくは協会けんぽサイト参照)。

協会けんぽの利用登録解除申請書(協会けんぽサイトより)

 

マイナ保険証を押し付けるな!健康保険証をなくすな!! (1)

 多くの市民や医療・介護の関係者等の反対にもかかわらず、政府は2024年12月2日、健康保険証の新規交付を終了した。共通番号いらないネットは8月31日の「どうなる保険証 どうする私たち」集会の論議を受けて、健康保険証の廃止阻止に向けて3ヶ月間全力で取り組んできた。
 新規交付は終了したが、健康保険証は有効期限まで最長1年間利用できる。マイナ保険証の利用率は11月末でも18.52%に低迷している。
 私たちは1月以降も
・健康保険証をなくすな! 健康保険証を使おう!
・マイナ保険証の押し付けを許さない!
・マイナ保険証を登録解除して資格確認書を使おう!
と訴え続けるとともに、今後の取り組みを検討することにしている。
 この間の取り組みと現状を概観する。

 8月31日「どうなる保険証 どうする私たち」集会では、医療や地方自治体、保険者の立場から問題提起を受けた。(当日の資料やビデオはこちら
 マイナ保険証に対しては、保団連(全国保険医団体連合会)による大規模な調査活動と、加盟する各地の保険医協会による医療現場からの問題指摘によって、厚労省が説明してきたマイナ保険証のメリットが実現できていないことが明らかになってきた(5月以降のトラブル調査報告はこちら)。
 医療機関では効率化するはずの窓口事務は、かえって手間がかかり患者とのトラブルが起きている。マイナ保険証で正確な医療保険資格を確認できるはずが、表示の誤りが多発して健康保険証を使って確認している。地域医療を長年支えてきた診療所では、経済的負担やセキュリティ確保への不安からシステム導入を機に廃業するところもでている。
 高齢者・障害者・施設入所者・DV等被害者などにとっては、マイナンバーカードの取得・利用・管理そのものが困難だ。「誰一人取り残さないデジタル化」のはずが、申請が必要なマイナ保険証や「資格確認書」では保険医療から排除されかねないことが浮き彫りになってきた。

 その一方、12月2日の健康保険証新規交付終了が迫る中で、マイナンバーカードの実務を担うとともに国民健康保険や後期高齢者医療制度の保険者でもある地方自治体や、資格確認書交付やマイナ保険証の登録解除の実務を行う保険者への取り組みが重要になってきた。
 そこで集会では「地方自治体から健康保険証の存続の声を」のアピールを作成し(こちらを参照)、

・政府に対して健康保険証利用の存続・延長を求めること
・マイナ保険証を利用せずに保険診療が受けられることを住民に周知すること
・保険者として資格確認書の交付やマイナ保険証の登録解除を確実に行うこと

などの取り組みを地方自治体に訴えた。
 その後私たちは、自治体議員の研究会(こちら)や首都圏各地の学習会で問題提起を行ってきた。

 なお同じく8月31日には「地方自治と地域医療を守る会」によるシンポジウム「マイナカードと保険証の一体化による実害を考える」も開催され、自治体からの問題提起もされた(当日の模様はこちら)。当日の議論は弁護士JPニュース(こちら)で紹介されている。

 9月2日には木村真豊中市議・高木隆太高槻市議・難波希美子能勢町議の呼びかけで、各地の自治体議員200名以上が連名で総務・デジタル・厚労の各大臣に対し、「現行の健康保険証の廃止・マイナ保険証への一本化を強行しないよう求める申し入れ」を行った。
 現行保険証とマイナ保険証の併用を続けるとともに、12月以降も手元にある健康保険証は有効期限まで使えることや、資格確認書で保険診療を受けることができることなどの周知・広報を求めた。
 しかし厚労省・デジタル庁の担当者は、「マイナ保険証は医療DXのパスポートとしてより良い医療を可能にするもので、このメリットを早期に最大限発揮するため12月2日からマイナ保険証を基本とする仕組みに移行する」「マイナ保険証への移行は、マイナカードを持たない人も含め全ての人が安心して確実に保険診療が受けられるよう対応する」という説明に終始した。

 自治体からは健康保険証の存続等を求める意見書が、共通番号いらないネットの調査で2024年11月15日現在、自治体の1割を超える213議会から国に提出されている(自治体や意見書概要はこちら)。

 政府は12月以降も最大1年間健康保険証が使えるとか、マイナ保険証がなくても「資格確認書」で保険診療が受けられると言いながら、もっぱらマイナ保険証の利用促進ばかりをPRしてきた。2024年10月から開始予定とされたマイナ保険証の登録解除については、政府・保険者からほとんど宣伝もされなかった。
 そのため、12月からマイナ保険証がないと保険診療が受けられなくなる、との誤解が広がっていた。
 私たちは緊急の取り組みとして、「マイナ保険証はなくても大丈夫!」と訴えるチラシを作成し、各地での配布を訴えた(こちらからダウンロード)。

  ↑ マイナ保険証チラシNo1(2024年9月16日発行)
  ↑ マイナ保険証チラシNo2(2024年10月25日発行)


 チラシの裏面には8月31日集会の資料「これで安心!12月からどうなる保険証?あなたどうすれば?」を掲載し、マイナ保険証の所持の有無など一人一人の状況に応じて、マイナ保険証の登録解除、健康保険証新規交付終了、健康保険証の有効期限終了や失効、そして来年12月の健康保険証の利用終了の時期に応じて、どのようにすればマイナ保険証を利用せずに保険診療が受けられるかを説明した。

 共通番号いらないネットでは、毎月新宿駅南口で宣伝活動を行ってきた。活動の模様は「こばと通信 -声を上げる市民」の協力によってユーチューブで公開されている。
 今年は各地の団体とも協力しながら、5/19横浜駅7/21新橋駅9/29中野駅10/27王子駅11/17蒲田駅などにも宣伝活動を広げ、また健康保険証廃止に賛成・反対のシール投票なども行ってきた。


 

「健康保険証の存続を」の声を地方自治体から

 厚労省サイトより利用率

 政府が健康保険証の交付を終了しようとしている12月2日まで、あと3ヶ月に迫ってきました。
 マイナ保険証の利用は低迷し、政府が5月から7月まで「マイナ保険証利用促進集中取組月間」を設定してさまざまな利用率向上策を実施しても、利用率は毎月1~2%しか増えず、7月の利用率は11.13%にとどまっています。
 その一方で政府が医療機関等にマイナ保険証の利用をゴリ押しした結果、健康保険証を示しても薬を処方しないなどのトラブルが相次ぎ、厚労省も「健康保険証を受け付けずマイナ保険証の提示を求めることは適切でない」と注意喚起する事態になっています(こちら参照)。

 改めて述べるまでもなくマイナンバーカードの申請は任意であり、マイナンバーカードの所持を前提とするような施策は番号法違反です。
 国民皆保険制度のもとでマイナ保険証に一元化しようとする政府は世論の批判を受けて「資格確認書」が新設され、さらに申請によらず交付するなど修正を加えていますが、「資格確認書」はあくまで当面の措置で健康保険証の代わりにはなりません。

社会保障審議会医療保険部会第166回(2023年8月24日)資料2

 医療機関では、マイナ保険証導入の負担も一因となって閉院が発生し、地域医療に悪影響が出ています。政府はひも付け誤りは解消したとしますが、保険資格が正しく表示されない状態は続いています。その一因として会計検査院は今年5月15日に、医療保険関係情報の登録の遅延が解決していないことを報告しています(「マイナンバー制度における地方公共団体による情報照会の実施状況について」59頁~ 下図参照)。
 保険者(健保組合、協会けんぽ、市町村国保等)にとっては、新たに資格確認書を交付する事務や費用の負担がのしかかっています。施設等は、利用者のマイナンバーカードの取得・更新・管理に困っています。利用者にとっても、マイナ保険証は健康保険証では不要な申請・更新が必要で、資格確認書の交付の遅れや漏れが心配されています。
 健康保険証を存続した方が合理的であることは、誰の目にも明らかです。

 社会保障審議会医療保険部会第179回(2024年6月21日)資料1より

 マイナ保険証が利用されないのは、「情報漏洩が不安」「健康保険証の方が使いやすい」などの理由です。政府がメリットとしてあげる「医療情報の閲覧でより良い医療がうけられる」に対しても、逆に使いたくない理由として「病歴や薬歴を明かしたくないため」と答える人が少なくありません。
 日弁連が2023年11月14日の意見書で指摘するように、マイナ保険証はプライバシー保護に問題があるためです。

 自治体は、住民福祉の増進を図るために地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担っています。政府の姿勢に追従することなく、マイナンバーカードの所持を任意とする番号法を踏まえて、健康保険証の存続と住民の不安の解消のため、以下[1]~[3]の取り組みを行ってください。

[1]政府に対して、健康保険証利用の存続・延長を求めてください。

 共通番号いらないネットの調べでは、2024年8月6日現在、全国自治体の1割を超える少なくとも184の地方議会が健康保険証の存続等を求める意見書を国に提出しています。(意見書の概要は こちら に掲載)。
 健康保険証廃止に懸念を示す首長も出ています。2022年10月の河野デジタル大臣記者会見以降に意見書が採択されなかった自治体も改めて現状を直視し、健康保険証の存続や、住民理解が得られない現状で健康保険証の交付終了をしないよう、政府に求めてください。

[2]マイナ保険証を利用せずに保険診療が受けられることを、住民に周知してください。

 政府は「マイナ保険証の利用を基本とする」として利便性ばかり宣伝し、利用しない場合の保険診療について積極的に周知していません。その結果、マイナ保険証を希望しない住民や利用困難な住民は、12月以降の保険診療がどうなるのか不安を募らせています。
 マイナ保険証を利用しない場合の保険診療方法や、10月に開始予定のマイナ保険証の利用登録解除手続きについて、住民が不安を感じないよう積極的に広報してください。
 またマイナ保険証を登録していても、マイナ保険証での受診等が困難な高齢者、障害者等「その他保険者が必要と認めた方」には、保険者に申請すれば資格確認書が交付され受診できることを周知してください。

保団連サイト「12月以降に資格確認書(=現行の健康保険証)がもらえる人」より

[3]資格確認書の交付やマイナ保険証の登録解除を確実に行ってください。

 地方自治体は国民健康保険や後期高齢者医療の保険者です。政府が健康保険証の廃止を強行した場合、住民(被保険者)の保険診療を確実に保障しなければなりません。
 厚労省は資格確認書の切れ目のない交付のために、必要なシステム改修等を実施して対象者に以下の対応をするよう保険者に求めています。

A.マイナンバーカードを取得していない方、健康保険証の利用登録をしていない方
 オンライン資格確認等システムから対象者情報を月次で受け、申請不要で資格確認書を交付
B.マイナンバーカードの健康保険証利用登録を解除した方
 解除申請を受けて申請者に資格確認書を交付するとともに、対象者情報をオンライン資格確認等システムへ連携
C.電子証明書の更新を失念した方、マイナンバーカードを返納した方
 オンライン資格確認等システムから対象者情報を月次(返納者情報は日次)で受け、対象者に資格確認書を申請不要で交付
※カード返納者に対しては、返納手続の際に保険者への資格確認書の申請を併せて案内

 社会保障審議会医療保険部会第176回(2024/3/14)資料4より

 しかし岩手県や長野県の保険医協会が県下の自治体にアンケート調査を行ったところ、
・国保加入でマイナ保険証登録者の、有効期間や電子証明書の失効時期を把握していない
・マイナ保険証の利用登録解除のシステム構築について、「まだ検討していない」「国の財政支援が分からず検討できない」「他システムとの連携で改修が難しい」「内容が複雑すぎて見通しがたたない」
などの回答がありました。
 またマイナ保険証登録者以外には申請なく交付することになっている資格確認書について、「申請があった方のみに送付する」とした自治体や、送付対象者の把握が困難なためか「全加入者に送付」とした自治体も少なからずありました。
※岩手県の調査(5月20日~5月31日 33自治体) 集計結果
※長野県の調査(5月13日~7月19日 77市町村)調査結果
 現行の健康保険証は、12月2日以降も最大1年間利用可能ですが、転居・転職等により失効します。「資格確認書」の切れ目のない速やかな交付のために、必要なシステム改修や事務執行の体制を整備するとともに、整備が困難な場合は健康保険証廃止の延期を求めてください。

保団連サイト「マイナ保険証の登録解除が可能に―2024年10月申請受付開始」より
  詳しくは、いらないネットサイト

携帯電話取得も銀行口座開設もマイナンバーカードが必要に?!

●マイナンバーカードなしでは生活できなくなる?
●「国民を詐欺から守るための総合対策」の内容
●マイナカードの普及・利用の推進を狙う
●携帯電話取得ではすでにマイナカードを強要
●総務省有識者会議では「非電子的方法」の存置も
●マイナンバーカードがない人はどうするのか?
●カード情報読取アプリの問題点
●マイナカードは誤交付や不正取得が発生

 2024年6月18日、犯罪対策閣僚会議が「国民を詐欺から守るための総合対策」を公表した。
 特殊詐欺やロマンス詐欺などの増加を理由に、
・携帯電話取得等や預貯金口座開設の際の本人確認を、非対面(オンライン)ではマイナカードの公的個人認証に原則一本化し、対面(窓口)でもマイナカード等のICチップの情報の読み取りを義務付ける
・マッチングアプリ事業者に対しアカウントの開設時に公的個人認証サービス等による厳密な本人確認を求める
など、マイナンバーカードの所持を前提とするような対策が打ち出されている。
 メディアやSNSではもっばら携帯電話の取得が話題になっているが、預貯金口座の開設でもマイナンバーカードの利用を求めている。生活に欠かせない携帯電話や銀行口座でマイナンバーカードの利用が必須になれば、マイナンバーカードの所持を任意とする番号法に反することになる。
 詐欺対策は誰もが望むが、だからといって携帯電話が取得できなくなったり口座が開設できなくなれば、社会生活が営めなくなり本末転倒だ。マイナンバーカードによらない確認方法を残す必要がある

 「国民を詐欺から守るための総合対策」では、3「犯罪者のツールを奪う」ための対策として、(1) 犯罪者グループ等が用いる電話に関する対策(19頁)と、(2) 預貯金口座等に関する対策(21頁)で、以下の同じ対策が書かれている。なお4「犯罪者を逃さない」ための対策(2) マネー・ローンダリング対策でも、3(2) と同じ対策が再掲されている(25頁)。

犯罪収益移転防止法、携帯電話不正利用防止法に基づく非対面の本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証等を送信する方法や、顔写真のない本人確認書類等は廃止する。
対面でもマイナンバーカードのICチップ情報の読み取りを犯罪収益移転防止法及び携帯電話不正利用防止法の本人確認において義務付ける。
また、そのために必要なICチップ読み取りアプリ等の開発を検討する。さらに、公的個人認証による本人確認を進める。

 このような対策は昨年から打ち出されていた。2023年6月9日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、(3)マイナンバーカードの普及及び利用の推進 ⑤ 様々な民間ビジネスにおける利用の推進の中で、以下が書かれていた。

「犯罪による収益の移転防止に関する法律、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(携帯電話不正利用防止法)に基づく非対面の本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証等を送信する方法や、顔写真のない本人確認書類等は廃止する。対面でも公的個人認証による本人確認を進めるなどし、本人確認書類のコピーは取らないこととする。」(54頁)

 非対面は今回の対策と同じで、対面が「公的個人認証による本人確認を進める」から、マイナンバーカード等のICチップ情報の読み取りの義務付けに変わっている。ちなみに6月21日閣議決定の本年度の「重点計画」では、犯罪対策閣僚会議の対策と同じ内容が「重点政策一覧」の[No.1-36]として記載されている。
 犯罪対策として今回の対策は必要だという評論が多いが、そもそもマイナンバーカードの普及・利用推進のための民間ビジネスでの利用推進として書かれているように、犯罪対策を利用したマイナカードの普及を意図していた。
 政府は健康保険証を廃止してマイナ保険証に一本化すると脅せば、みなマイナカードを所持すると期待していた。しかしマイナポイントが終了するとマイナカードの新規申請は激減し(下図参照)、カード保有率は74%(6/30現在)と低迷し1/4は所持していない。マイナ保険証の利用率は医療機関・薬局に強要や利益誘導をしても、5月末で7.73%にとどまる。そこでマイナカードの普及のさらなる策として、本人確認での利用の強要を考えているのではないか。

デジタル庁「自治体向けマイナンバーカードご参考資料」(2024年3月6日更新)より

 携帯電話では、すでに昨年からマイナンバーカードがないと取得が困難になっている。
 2023年春、携帯電話3社は相次いで本人確認書類として健康保険証などの取り扱いを終了した(NTTドコモ2023年5月24日以降終了=3月22日発表、KDDI2023年5月31日終了=5月9日発表、ソフトバンク2023年6月13日終了=5月31日発表)。
 終了後の本人確認書類について各社若干の違いはあるが、マイナンバーカード(個人番号カード)や運転免許証等(運転免許証、障がい者の手帳、パスポート、在留カードなど)がサイトに記載され、運転免許証等を取得できない市民にとっては、マイナンバーカードの提示が求められている。
 共通番号いらないネットは、2023年8月17日に携帯電話3社に対して質問・要望を送付
1) マイナンバーカード等を利用しない場合の契約等の手続きを保障すること
2) マイナンバーカード等を所持・利用しない場合の契約方法について、サイトやパンフレット等に掲載するとともに、販売店に周知すること
を求めた。
 各社より回答があった。NTTドコモは、マイナンバーカードの取得を強制するものではなくサイト記載の書類以外での申込は問い合わせを、と回答したが、KDDI(au)は、サイト記載の本人確認書類の提出がない場合は契約手続きを受けられないと回答した。KDDIに対しては10月27日にマイナンバーカード等を所持・利用しない場合の契約方法を検討するよう求める要望を送付したが、回答はなかった。
 ただこれらは各事業者の判断によるもので、携帯電話不正利用防止法の施行規則では健康保険証等も本人確認書類として現在も認められている。2023年9月28日の省庁ヒアリングで総務省は、以下の説明(要旨)をしている。

 制度上、携帯電話不正利用防止法という特殊詐欺対策の法律があり、契約時の本人確認義務があり、確認書類として使用可能なものは施行規則に記載されている。この中に健康保険証は現在も定められており、省令上は現在も本人確認書類して認められているが、省令では「使用することが可能な本人確認書類」を定めており、この全部を使わなくてはいけないということにはなっていない。各事業者でリスクを判断して、どの本人確認書類を使うか判断すると理解している。質問の気持ちはよくわかるので、今の意見は意見として承って検討したい。

 総務省は今年2月に「ICTサービスの利用環境の整備に関する研究会」を設置し、「不適正利用対策に関するWG」で携帯電話不正利用防止法の本人確認方法の見直しを検討しているが、なぜか検討結果が出る前(6/18)に犯罪対策閣僚会議が対策を示した。
 6月20日の「不適正利用対策に関するWG中間とりまとめ(案)」では、非対面・対面ともに電子的な確認の義務化を見直しの方向としているが、犯罪対策閣僚会議の対策にはない「例外的な確認方法としての非電子的な確認方法の存置」も書かれている。また見直しスケジュールとしては、本年度中に省令改正のパブコメを行い、来年度から再来年度にかけて十分な準備期間を確保したうえで施行となっている。

「不適正利用対策に関するWG中間とりまとめ(案)」より

 犯罪対策閣僚会議の総合対策では、非対面の本人確認手法はマイナンバーカードの公的個人認証に「原則として」一本化、対面ではマイナンバーカード「等」のICチップ情報の読み取りを義務付けとなっていることで、例外や他の方法も認められるのではないかという「期待」も言われている。しかし「例外」を極小化してマイナカードを押し付ける手法は、マイナ保険証のゴリ押しで経験済だ。
 河野デジタル大臣は6月25日の記者会見で、取得が義務ではないマイナンバーカードの実質義務化ではないか、マイナンバーカードを持っていない人に対してどのように対処する予定かとの質問に対して、次のように答えている。

「対面の場合、今までも、マイナンバーカードあるいは免許証、在留カード、そうしたものを提示いただいておりました。今までは券面で確認していただいておりましたが、ICチップの読み込みを義務化しようということです。券面を提示するか、提示されたもののICチップを読み込むかということで、本人確認を厳格にしようということですので、特に今までと変わることは利用者側からはございません。本人確認の書類を提示していただいて、お店の方に券面の確認だけでなく、ICチップの読み込みを義務化するだけですので、利用者側からは本人確認書類を提示していただくということで変わったことはありません。
(問)マイナンバーカードでなくてもいいということですか。
(答)マイナンバーカードあるいは免許証、在留管理カードというものを対面の場合には提示していただくということになります。 

 また松本総務大臣も6月25日の記者会見で、次のように答えている。

「非対面契約においては、原則としてマイナンバーカードの公的個人認証に一本化してまいります。(中略)対面契約におきましても、本人確認書類のICチップ情報の読み取りを義務付けること、的確な本人確認を行っていくことで、先ほど申しましたように不正な契約を防止し、犯罪につながる不正な契約を防止してまいりたいと思っております。
 マイナンバーカードをお持ちいただいてない場合でも、ICチップ付きの本人確認書類として、例えば運転免許証、在留カードもご利用いただける方針で検討させていただいております。
 具体的な本人確認方法、移行時期については、有識者会議において引き続き検討を進めておりまして、今年度中に、省令改正案をお示しすることができるように議論を進めてまいりたいと思っております。

 対面の場合はマイナンバーカード以外にICチップを内蔵している運転免許証や在留カードも認める方針と答えているが、これでは運転免許証や在留カードを持てない人はマイナンバーカードしか選択肢がない。
 しかも運転免許証は本年度からマイナカードとの「一体化」がはじまり、在留カードは6月14日に成立した入管法改正でマイナカードと一体化することになっている。いずれもマイナ保険証と違い、一体化するか否かは任意となっているが、今後の運転免許証の取扱いは改正法の施行状況を見ながら検討すると河野デジタル大臣は答弁(衆議院本会議令和5年4月14日)しており、在留カードについても河野大臣は「在留外国人が住所の届け出をする際に、確実に一体化した在留カードを申請していただくための仕組みについても措置」するよう2024年3月19日の関係省庁連絡会議で求めるなど、いつまで任意性が保障されるかわからない。
 マイナカードによらない「非電子的な確認方法」を、明確に存置すべきだ
 なお現行の携帯電話新規契約時の本人確認方法は、以下のようになっている。

「不適正利用対策に関するWG中間とりまとめ(案)」より

 政府や「識者」は目視確認という不完全な方法でなく、確実なマイナカードのICチップに記録されている電子的情報の利用を推奨している。そのため現在J-LIS(地方公共団体情報システム機構)で配布しているパソコン用の「個人番号カード対応版券面事項表示ソフトウェア」(ICカード化した運転免許証も読取可能)に加えて、スマホ利用のアプリを開発するとしている。
 今年6月の番号法改正で、マイナカードの券面記載から性別がやっと削除されたが、ICチップには記録され読み出し可能になっている。現在の「個人番号カード対応版券面事項表示ソフトウェア」では、券面の性別も表示されるようになっており、この表示のままアプリを配布すれば券面から性別を削除した意味がなくなる。
 今年から欧州デジタルID規則(eIDASⅡ)によりEU各国に導入された欧州デジタルIDウォレットのように、本人の意思で必要な個人情報だけを必要なところに提供できるという、個人のデータ主権を保障すべきだ
 また在留カードや特別永住者証明書のICチップ記録情報について、出入国在留管理庁が2020年から誰でもダウンロード可能で配布している「在留カード等読取アプリケーション」は、外国人監視に市民を動員するものだと批判をうけている。法令等で確認が認められている行政機関や事業者だけが、確認を認められている項目だけを読取可能にする必要がある

 たしかに偽造はICチップ情報の読取で防げるだろう(現時点では)。しかしマイナカードの成りすまし取得は、ICチップ読取では防げない。マイナカードなら安心と思うのは危険で、複数の確認方法の併用をリスクに応じて利用すべきだ。
 マイナカードの別人への交付や成りすまし取得は、少数だが(氷山の一角?)発生している。
 今年3月29日、総務省はマイナカードを別人に交付したことによりマイナポイントを別人に付与した事案が3件あることを公表した昨年9月の私たちのヒアリングでは、総務省は令和5年度に4団体4件で別人に交付していると答えている。
 2022年から23年にかけて、マイナポイントのためにマイナカード申請が殺到した時期には、連日のように別人の写真に取り違えてマイナカードを交付したことが報じられ、23年6月には総務省が誤交付防止のチェックリストを自治体に通知している。
 マイナカードの誤交付は2016年1月の交付開始以降続いており、事故事例を精力的に立証したマイナンバー違憲差止の神奈川訴訟では、2016年2月29日に栃木県塩谷町、2016年4月26日岡山県倉敷市、2019年11月29日川崎市高津区、2020年2月7日福岡県筑後市、2020年5月22日神奈川県南足柄市などの事例が書証で提出されている。

 誤交付だけでなく、意図的な成りすまし不正取得も発生している。
 2016年8月に報じられた埼玉県熊谷市の例では、親族名義のカード申請書を不正入手し自分の顔写真を貼ってマイナカードを申請してだまし取った。市役所は親族と住所が同じで年齢も似ていたために同一人と信じて交付したとされている。
 2017年11月に報じられた東京都江戸川区の例では、フィリピンに出国した男性が死亡後、男性になりすまして住民票の住所を自分の家に変更し自宅に届いた書類を使って自分の写真で申請している。
 2021年6月には埼玉県ふじみ野市で、知人男性に成りすまして自身の顔写真でマイナンバーカードを不正取得し、新型コロナウイルス対策の特別定額給付金をだましとった男が逮捕。
 2023年2月には新潟市で、長野県在住の男性が「個人番号カード交付通知書・電子証明書発行通知書兼照会書」の回答書を偽造し、新潟市在住者(故人)の身体障害者手帳の顔写真部分を偽造した物も用意し容疑者の顔写真が添付された偽のマイナンバーカードの交付を新潟西区役所で受けて逮捕。
 2023年9月には新潟県上越市で、インターネット上のマイナンバーカード交付申請サイトで何らかの方法で入手した他人の『マイナンバーカード交付申請書』に記された申請書IDと自身の顔写真を登録し、他人名義の個人番号カードを不正に取得し逮捕などが報じられている。
 さらに2023年10月には、架空の人物の戸籍を取得し正規の手続きでマイナカードを作成した女性が警視庁に逮捕されている。
 これらはたまたま別件によって発覚しており、他にも事例は起きていると思われるが、政府は不正取得事例の全体状況を公表していない(把握していない?)。マイナンバーカードの前身の住基カードでは、不正取得と防止対策のイタチゴッコを完全には防止できなかった(「マイナンバーは監視の番号」緑風出版102頁~参照)。マイナカードのICチップ読取を絶対視することはできない。

保険証廃止は決まっていない!薬局はマイナ保険証強要するな

 健康保険証の交付義務を削除しようとする省令改正に対して、6月5日に「健康保険証なくすな」の声をパブコメで届けようとこのブログで呼びかけて以降、関心が大きく広がっている。締め切り間際は混雑して意見が届かないことがある。早めの投稿を呼びかける。
 パブコメはこちらから。提出方法は、共通番号いらないネットのサイト(こちら)や保団連(全国保険医団体連合会)のサイト(こちら)の参照を 。

 昨年の健康保険法改正で、「資格確認書」の規定が新設された。しかし保険者(健保組合、全国健康保険協会)が健康保険証(「被保険者証」)を交付する義務は省令(施行規則)で規定されているため、省令が改正されるまでは保険証の交付は廃止されていない(詳しくはこちら)。
 今回の意見募集(パブリックコメント)は、健康保険法の施行規則からの保険証交付義務の削除などを内容としている。省令改正の公布日は7月上中旬が予定されており、それまでは法的には健康保険証廃止は決まっていない
 他方、国民健康保険法などは法律に保険証交付が規定されており(国保法第9条等)、昨年の法改正で保険証交付の規定は削除され、2024年12月2日以降廃止(=新規交付しない)予定となっている。
 とかくパブコメは形式的な手続きと見られがちだが、「政令や省令等を定めようとする際に、事前に、広く一般から意見を募り、その意見を考慮することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てることを目的」としており(e-govサイト)、行政手続法では提出意見を十分に考慮することが定められている(第42条)。
 パブコメ実施中で省令改正されていないにもかかわらず、「12月2日に現行の健康保険証は発行されなくなります」と決定しているかのように断定する厚労省のチラシは、法令を逸脱している。ただちに医療機関から回収・撤去すべきだ。

 マイナ保険証のためのオンライン資格確認等システムの実施義務についても、裁判で争われている最中だ。
 厚労省は厚生労働省令(療養担当規則)により、医療機関に対し2023年4月からの原則義務化を「決定」した。しかし健康保険法70条1項が省令に委任しているのは「療養の給付」であり、被保険者の「資格確認」方法については委任の内容に含まれていない。健康保険法の委任がないにもかかわらず、省令で保険医療機関に対してオンライン資格確認を義務づけているのは、憲法41条に違反し違法かつ無効だ。
 現在、保険医1,415人が原告となって、東京地裁で「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」が争われている(こちらを参照)。原告が勝訴すれば、マイナ保険証の利用を医療機関に押し付けることもできなくなる。注目を。

 マイナ保険証の利用率が6%程度で低迷しているため、厚労省は5~7月をマイナ保険証利用促進集中取組月間として、医療機関に圧力をかけてマイナ保険証利用率向上に力を入れている。医療機関の利用状況を調査して、表彰したり、利用率の低い医療機関にメールを送ったりしている。
 利用促進すると10~20万円の支援金(報奨金)を医療機関に給付したり、6月からは診療報酬を改訂し初診で80円(歯科60円、調剤40円)の「医療DX推進体制整備加算」を新設した。患者は利用の有無にかかわらず、マイナ保険証のおかげで24円、18円、12円の値上げだ(3割負担の場合)。
 利用促進のための問答集(マイナ保険証利用促進トークスクリプト)やチェックリストを配布して、受診者への「説得」に医療機関を駆り立てている。

社会保障審議会医療保険部会第177回(2024年4月10日)資料1

 私たち市民にマイナ保険証の利用を義務付ける法律は、どこにもない。それどころかマイナンバーカードの取得は番号法で任意であり、それは今年12月以降も変わらないことを、政府は何回も言明している。マイナ保険証の利用を強要することは許されない。
 しかし政府の圧力によって、一部の薬局で健康保険証では薬がもらえなかったり、マイナ保険証を使わないと診療が後回しにされるなどの異常な事態が報じられている(6月6日報道ステーション等)。
 当事者に取材した6月9日の東京新聞のサイトによれば、東京都の40代男性が5月30日、薬をもらおうと都内薬局に処方箋と一緒に現行の保険証を差し出したところ、「マイナ保険証のみの受け付けになります」と言われ保険証を突き返され、Xに怒りの投稿をした。この大手薬局は「マイナ保険証がなくても受付が可能」「誤解を招く説明」と謝罪したが、昨年12月から、全国に約900ある全系列店で薬を処方する際、現行の保険証での資格確認を取りやめていたそうだ。
 法令(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第3条)では、薬局が薬を処方する場合、処方箋かマイナ保険証(電子資格確認)か現行の健康保険証かのいずれかで資格確認すれば良いことになっている。たいていは処方箋を示せば薬はもらえる。厚労省も薬剤師会も、問われれば健康保険証で良いと説明している。

 またマイナ保険証の利用で優先して受付するのは差別的扱いだ。厚労省が医療機関や薬局にマイナ保険証用の専用レーンの設置を求めている(右図)ために、そのようなことが起きている。
 マイナ保険証の方が受付が速くできるから、とか説明されているが、実際はマイナ保険証の方が時間がかかっている。マイナ保険証を推進している日本保険薬局協会でも、カードリーダーの読み取りや本人確認、暗証番号の入力などを行う必要があるため、マイナ保険証の受付率が高い薬局では患者の待ち時間が発生していると指摘しているそうだ(CBnews5月13日)。

 マイナ保険証の利用率は低迷しつづけている。強圧的な普及策をやっても月1%程度しか増えず、5月の利用率も7.73%だ(厚労省サイト)。これで半年後に健康保険証を廃止できるのか。
 マイナ保険証のメリットと政府が説明してきたことは、ことごとく事実に反していることが露呈し、厚労省は「医療DXのため」「より良い医療のため」と、繰り返すしかできなくなっている。
 マイナ保険証を忌避する患者と厚労省の板挟みになって、医療機関・薬局は望んでもいないマイナ保険証のセールスを強いられ、患者との関係を悪化させている。患者に迫るのではなく、厚労省に対して保険証廃止の撤回を迫るべきだ。
 保険者(健保組合、協会けんぽ、国保等)は、健康保険証交付費用の削減を期待していた。しかし協会けんぽの前理事長は、保険証発行費用の年15億円削減や職員の業務量の大幅削減を皮算用していたが、いままで有効期間のなかった保険証の代わりに5年毎に資格確認書の発行が必要になったために余分なコストが発生してしまうと述べている(日経私見卓見6月12日)。
 もはや誰にもメリットのない健康保険証廃止は止めるべきだ。厚労省も「医療DX」のイメージを悪くするマイナ保険証の押し付けは止めて、健康保険証とマイナ保険証の選択を市民に委ねればいい。厚労省の言うように、マイナ保険証がより良い医療に資するなら、市民はそちらを選ぶはずだから。
 パブコメで「健康保険証廃止するな」の声を集中し、保険証廃止のための健康保険法施行規則改正を止めさせよう。そして国民健康保険法等を改正し健康保険証交付の規定を復活させて、健康保険証を存続させよう。

「健康保険証なくすな」の声をパブコメで届けよう

 厚生労働省は5月24日、健康保険法などの省令(施行規則)から、健康保険証を交付しなければならないとする規定を削除する意見募集(パブリックコメント)をはじめた。
 昨年(2023年)6月2日に健康保険法等の改正が成立し、資格確認書の新設は規定されたが、健康保険証の交付義務は省令事項のため法律上は規定されていない。つまり今年12月2日から健康保険証の発行を終了することは、法律的にはまだ決まっていない

例:健康保険法施行規則第47条(被保険者証の交付)
 協会(=全国健康保険協会)は、厚生労働大臣から次に掲げる情報の提供を受けたときは、様式第九号による被保険者証を被保険者に交付しなければならない

 今回、この省令を改正し、被保険者証(健康保険証)の交付義務の規定を削除しようとしている。
 意見の募集期間は令和6年5月24日(金)~6月22日(土)(必着)となっている。「健康保険証をなくすな」の声を、パブコメで政府に集中しよう。
※パブコメ(「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令案(仮称)に関する御意見の募集について」)のサイトはこちら。 

 省令改正案の概要によれば、改正内容
 (1)健康保険法施行規則
 (2)船員保険法施行規則
 (3)国民健康保険法施行規則
 (4)高齢者の医療の確保に関する法律施行規則
の、被保険者証に係る規定を削除するとともに、資格確認書の申請方法及び記載事項を定め、被保険者の資格に係る情報の通知に係る規定を新設する等となっている。

 その他、(3)国民健康保険法施行規則の一部改正では、法改正で保険料を滞納している世帯主が住所を有する市町村又は組合は、保険料納付の勧奨及び当該保険料の納付に係る相談の機会の確保その他厚生労働省令で定める保険料の納付に資する取組を行ってもなお納付しない場合に特別療養費を支給することとされたことに伴い、当該保険料の納付に資する取組を定める等、所要の規定の整備する。

 経過措置として(1)(2)の施行の際、現に交付されている被保険者証については、この省令の施行日から起算して1年間はなお従前の例によることとするとともに、(1)(2)の施行のために必要な行為は、施行日前においても行うことができるとなっている。
 省令改正の公布日は令和6年7月上中旬(予定)、施行期日は令和6年12 月2日だ。

 意見の提出方法は、
(1) 電子政府の総合窓口(e-Gov)の意見提出フォームを使用する場合(こちら
 「パブリック・コメント:意見募集案件」における各案件詳細画面の「意見募集要領(提出先を含む)」を確認の上、意見入力へのボタンをクリックし、「パブリック・コメント:意見入力」より提出
(2) 電子メールを使用する場合
(3) 郵送する場合
 〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2
 厚生労働省保険局国民健康保険課企画法令係宛て
となっている。詳しくは意見募集要領を参照。

 昨年9月28日、共通番号いらないネットは福島みずほ参議院議員事務所を通じて、厚労省などにヒアリングを行った(ヒアリング内容の報告はこちら)。
 その際、厚生労働省からは健康保険証の廃止について以下の説明を受けている。省令改正できなければ、保険証の交付は続けざるを得ない。

(質問)
 番号法関連法で6月2日成立した健康保険法改正では、資格確認書の新設は規定されているが、健康保険証の交付義務は省令事項のため法律上は規定されていない。
(1) 法改正で健康保険証の廃止が決定したとの説明がされているが、その法的根拠を明らかにされたい。

(回答要旨)
 国民健康保険法や高齢者の医療の確保に関する法律には、被保険者証の交付自体が定められており、2023年6月2日成立の番号法関連の法改正の中て、その規定を法律から削除している。
 健康保険法では、被保険者証の交付を法律ではなく省令(施行規則)で規定しているので、健康保険法に基づく健康保険証に限れば、まだ法律上の措置はなされていない
 仮に省令改正をしなかった場合には、国保や高齢者は施行日を定めて廃止されるが、健康保険法だけ交付が残りつづけることになる。 

 マイナポイントで利益誘導した結果、マイナンバーカードの保有数は9200万枚余、人口比の保有率は約73.7%になった(2024年4月30日時点総務省サイト)。しかし2023年3月までにほぼ全ての住民に保有させるという政府方針は、達成できなかった。
 そのうちマイナ保険証の利用登録をしているのは7254.8万人、マイナカード保有者の78.5%となっている(2024年4月30日時点デジタル庁ダッシュボード)。
 ところが医療機関窓口でマイナ保険証を利用したのは、わずか6.56%しかいない。93%以上は健康保険証を提示している(2024年4月、下記厚労省資料参照)。マイナ保険証登録をしている大部分の人は、利用せずに健康保険証を提示しているのが現実だ。

2024年5月15日社会保障審議会(医療保険部会)厚労省資料1

 政府は健康保険証が使われないのは医療機関が利用を勧めないためだと曲解し、今年に入ってから医療機関に対してマイナ保険証の利用率による支援金や診療報酬加算、窓口でのマイナ保険証利用の勧誘マニュアルや勧誘状況の調査など利用促進策を次々と示している(下図)。河野デジタル大臣は保険証の提示を求める医療機関を「密告」するよう、自民党国会議員に文書を送って物議をかもした。
 このような強圧的な「利用促進」により利用率は今年になり増えたが、しかし毎月1%程度の微増にとどまっている。
 マイナ保険証が利用されないのは、健康保険証より不便で、依然として保険資格の誤表示など誤りが続き、健康情報の自己情報コントロールが保障されず個人情報の扱いに不安を抱いているからだ(いらないネットのリーフ13参照=こちらからダウンロード)。この現実を直視し、制度設計を見直さないかぎり、患者はマイナ保険証を利用したいとは思わない。

2024年1月19日社会保障審議会(医療保険部会)厚労省資料1

 政府は利用促進策の一つとして、医療機関で右記のチラシを配布・掲示するよう求めている。しかし保険者(健保組合、協会けんぽ)に健康保険証の交付を義務付けている省令は、まだ改正されていない(現在パブコメ中)。
 まだ決まっていないにもかかわらず「本年12月2日から現行の健康保険証は発行されなくなります」という記載は誤りだ。厚労省はこのチラシの掲示・配布を中止し、謝罪・回収すべきだ。