●保険証廃止のためのパブコメ 6月22日まで
厚生労働省は5月24日、健康保険法などの省令(施行規則)から、健康保険証を交付しなければならないとする規定を削除する意見募集(パブリックコメント)をはじめた。
昨年(2023年)6月2日に健康保険法等の改正が成立し、資格確認書の新設は規定されたが、健康保険証の交付義務は省令事項のため法律上は規定されていない。つまり今年12月2日から健康保険証の発行を終了することは、法律的にはまだ決まっていない。
例:健康保険法施行規則第47条(被保険者証の交付)
協会(=全国健康保険協会)は、厚生労働大臣から次に掲げる情報の提供を受けたときは、様式第九号による被保険者証を被保険者に交付しなければならない。
今回、この省令を改正し、被保険者証(健康保険証)の交付義務の規定を削除しようとしている。
意見の募集期間は令和6年5月24日(金)~6月22日(土)(必着)となっている。「健康保険証をなくすな」の声を、パブコメで政府に集中しよう。
※パブコメ(「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令案(仮称)に関する御意見の募集について」)のサイトはこちら。
●パブリックコメントの内容
省令改正案の概要によれば、改正内容は
(1)健康保険法施行規則
(2)船員保険法施行規則
(3)国民健康保険法施行規則
(4)高齢者の医療の確保に関する法律施行規則
の、被保険者証に係る規定を削除するとともに、資格確認書の申請方法及び記載事項を定め、被保険者の資格に係る情報の通知に係る規定を新設する等となっている。
その他、(3)国民健康保険法施行規則の一部改正では、法改正で保険料を滞納している世帯主が住所を有する市町村又は組合は、保険料納付の勧奨及び当該保険料の納付に係る相談の機会の確保その他厚生労働省令で定める保険料の納付に資する取組を行ってもなお納付しない場合に特別療養費を支給することとされたことに伴い、当該保険料の納付に資する取組を定める等、所要の規定の整備する。
経過措置として(1)(2)の施行の際、現に交付されている被保険者証については、この省令の施行日から起算して1年間はなお従前の例によることとするとともに、(1)(2)の施行のために必要な行為は、施行日前においても行うことができるとなっている。
省令改正の公布日は令和6年7月上中旬(予定)、施行期日は令和6年12 月2日だ。
意見の提出方法は、
(1) 電子政府の総合窓口(e-Gov)の意見提出フォームを使用する場合(こちら)
「パブリック・コメント:意見募集案件」における各案件詳細画面の「意見募集要領(提出先を含む)」を確認の上、意見入力へのボタンをクリックし、「パブリック・コメント:意見入力」より提出
(2) 電子メールを使用する場合
(3) 郵送する場合
〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2
厚生労働省保険局国民健康保険課企画法令係宛て
となっている。詳しくは意見募集要領を参照。
●保険証廃止には省令改正が必要
昨年9月28日、共通番号いらないネットは福島みずほ参議院議員事務所を通じて、厚労省などにヒアリングを行った(ヒアリング内容の報告はこちら)。
その際、厚生労働省からは健康保険証の廃止について以下の説明を受けている。省令改正できなければ、保険証の交付は続けざるを得ない。
(質問)
番号法関連法で6月2日成立した健康保険法改正では、資格確認書の新設は規定されているが、健康保険証の交付義務は省令事項のため法律上は規定されていない。
(1) 法改正で健康保険証の廃止が決定したとの説明がされているが、その法的根拠を明らかにされたい。
(回答要旨)
国民健康保険法や高齢者の医療の確保に関する法律には、被保険者証の交付自体が定められており、2023年6月2日成立の番号法関連の法改正の中て、その規定を法律から削除している。
健康保険法では、被保険者証の交付を法律ではなく省令(施行規則)で規定しているので、健康保険法に基づく健康保険証に限れば、まだ法律上の措置はなされていない。
仮に省令改正をしなかった場合には、国保や高齢者は施行日を定めて廃止されるが、健康保険法だけ交付が残りつづけることになる。
●忌避されるマイナ保険証
マイナポイントで利益誘導した結果、マイナンバーカードの保有数は9200万枚余、人口比の保有率は約73.7%になった(2024年4月30日時点総務省サイト)。しかし2023年3月までにほぼ全ての住民に保有させるという政府方針は、達成できなかった。
そのうちマイナ保険証の利用登録をしているのは7254.8万人、マイナカード保有者の78.5%となっている(2024年4月30日時点デジタル庁ダッシュボード)。
ところが医療機関窓口でマイナ保険証を利用したのは、わずか6.56%しかいない。93%以上は健康保険証を提示している(2024年4月、下記厚労省資料参照)。マイナ保険証登録をしている大部分の人は、利用せずに健康保険証を提示しているのが現実だ。
政府は健康保険証が使われないのは医療機関が利用を勧めないためだと曲解し、今年に入ってから医療機関に対してマイナ保険証の利用率による支援金や診療報酬加算、窓口でのマイナ保険証利用の勧誘マニュアルや勧誘状況の調査など利用促進策を次々と示している(下図)。河野デジタル大臣は保険証の提示を求める医療機関を「密告」するよう、自民党国会議員に文書を送って物議をかもした。
このような強圧的な「利用促進」により利用率は今年になり増えたが、しかし毎月1%程度の微増にとどまっている。
マイナ保険証が利用されないのは、健康保険証より不便で、依然として保険資格の誤表示など誤りが続き、健康情報の自己情報コントロールが保障されず個人情報の扱いに不安を抱いているからだ(いらないネットのリーフ13参照=こちらからダウンロード)。この現実を直視し、制度設計を見直さないかぎり、患者はマイナ保険証を利用したいとは思わない。
●法令違反の厚労省ポスターは撤去を
政府は利用促進策の一つとして、医療機関で右記のチラシを配布・掲示するよう求めている。しかし保険者(健保組合、協会けんぽ)に健康保険証の交付を義務付けている省令は、まだ改正されていない(現在パブコメ中)。
まだ決まっていないにもかかわらず「本年12月2日から現行の健康保険証は発行されなくなります」という記載は誤りだ。厚労省はこのチラシの掲示・配布を中止し、謝罪・回収すべきだ。