東京アプリを考える(2)個人情報はどのように使われるか

 東京アプリは、マイナカードとスマホを持っていない人が「生活応援」から排除されるという問題だけではない。アプリ利用により蓄積されていく個人情報の扱いも問題だ。
 例えば中国の「社会信用システム」では、税金や公共料金などの滞納がないとか、ボランティア活動に参加しているとかいったことで個人信用スコアに「プラス」をつけ、交通違反や反政府的な活動や義務履行違反などに「マイナス」をつけて、スコアが高いとローンの優遇や手続を優先的に行ったり、スコアが低いと旅行や子の進学が制限されるなどのペナルティを課すことで、政府の意図する方向に人々を誘導しようとしていることが言われている。
 東京アプリも「社会的意義のある活動」への参加によってポイントが付与される仕組みで、例えば高齢者向けスマートフォン体験会参加で500ポイント、とうきょう林業サポート隊参加で1000ポイント、保活ワンストッププロジェクト回答で100ポイントなどが並んでいる(ポイント取得の対象事業一覧)。
 ポイント取得対象事業が増えれば、都政に協力的な都民とそうでない都民の識別も可能になっていく。そもそも「社会的意義のある活動」は個人が意義を感じて自発的に参加するもので、ポイントで誘導するという発想はおかしい。

 蓄積されていく個人情報の<悪用>をどう防止しているのか。
 東京都公式アプリの登録に当たっては、利用者は東京都公式アプリ利用規約及び東京都公式アプリ個人情報保護方針に同意する必要がある。
 利用規約では利用者が登録する情報はメールアドレス、携帯電話番号、パスワード、氏名、生年月日、性別、郵便番号、住所となっている。一方、アプリシステムが記録する個人情報の項目は記載されていない。
 東京アプリは、一般財団法人GovTech東京がアプリ開発し、東京都とGovTech東京の協働事業として実施されている。東京アプリの個人情報保護方針の第4条では、取得する個人情報を市場調査や研究、マーケッティングに利用可能とされ、そのために情報をGovTeck東京や委託業者、協定を結んだ自治体に提供するとなっている。
 2025年10月30日の都議会総務委員会での斉藤委員の質問への答弁によれば、主な委託事業者は、アプリの開発、運用、保守の一部をフェリカポケットマーケティング株式会社、運営の一部を株式会社エイチ・アイ・エスとなっている。斉藤委員は、フェリカポケットマーケティングはイオンやソニー、大日本印刷を出資会社とし、地域通貨などのアプリを自治体に提供する事業を行っている会社で、多くの企業に個人情報が共有される状況にあると指摘している。
 また利用規約では損害賠償について、「利用者の行為によって都及びGovTech東京が損害を被った場合、当該利用者は、都及びGovTech東京に対し、当該損害を賠償する」一方で、都及びGovTech東京は「本アプリに関連して利用者が被った損害につき、賠償する責任を一切負わない」となっている。

 ポイントサービスについては、かつてTカードを運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)をはじめSuica、dポイント、Ponta、楽天ポイントなどが、捜査令状なしの「捜査関係事項照会」によって警察に顧客情報を提供していることが問題になった(こちら)。
 東京都アプリ個人情報保護方針第8条では、東京アプリで取得・保存した情報を法令に定めがある場合を除き本人同意を得ずに開示・提供しないとされているが、この「法令に定めがある場合」に警察等からの捜査関係事項照会も含まれるのか明らかではない。
 個人情報保護委員会は刑事訴訟法第197条第2項による警察や検察等の捜査機関からの照会は、個人情報保護法第27条第1項第1号に該当するので、提供に本人同意は不要と説明している。また相手方に回答すべき義務を課すものと解されていると説明しているが、捜査関係事項照会は任意捜査であり回答する義務はなく、回答しないことに対する罰則もない。あくまで個人情報を記録する機関の判断で提供するものだが、東京都とGovTech東京の協働事業として実施している東京アプリで、どこが回答の可否を判断するのだろうか。

 東京都アプリ個人情報保護方針第6条では、利用者の操作で個人情報の全部または一部の変更、削除、利用停止ができることが書かれている。ただ市場調査や研究、マーケッティングでの利用や提供を拒む権利は記載されていない。利用規約第13条では、利用者は個人情報保護方針における利用目的の範囲内で都、GovTech東京、決済事業者等及び委託事業者が、本アプリの運営に必要な情報を連携及び使用することについて同意することになっている。付与するポイントは、市場調査や研究、マーケッティング等に個人情報を提供する対価ということだろう。
 また利用者はアカウント削除ができ、その場合そのアカウントに関する情報は全て消滅するが、「ただし、デジタル認証アプリを用いてマイナンバーカードから登録する氏名、生年月日、性別、住所及びデジタル認証アプリが本人確認時に発行する利用者識別子については、東京アプリ生活応援事業に係る東京ポイント付与の履歴管理や不正防止のため、都及びGovTech東京が引き続き、保有するものとする。」となっており、「全て消滅」するわけではない。
 個人情報を管理・利用する仕組みについて、透明性の確保が必要だ。

 東京アプリは、アプリ開発を担うGovTech東京と都が協働することで、アプリ・システムを自ら開発し柔軟かつスピーディに対応すると宣伝している。もっとも昨年2月に利用開始し予告していた「つながるキャンペーン」が、実施まで1年かかるなど遅れが指摘されてきた。「生活応援事業」のポイント付与は話題になっているが、東京アプリについては「目的不明で使う用事もない」という指摘もされている
 このアプリは都のデジタルサービス局を担任する宮坂学副知事が、みずからが理事長である一般財団法人GovTech東京と契約して開発している。利益相反やベンダーロックインにならないのだろうか。
 このような自治体で運用するポイントサービスとしては、総務省が作り2017年9月から運用開始し現在はデジタル庁のシステムとなっている「マイキープラットフォーム」があり、マイナポイントや図書館カードその他のポイントサービスに使われている。マイキープラットフォームの利用を推奨するわけではないが、なぜ独自に東京アプリを開発したのだろうか。
 またこの東京アプリは、デジタル庁の「デジタル認証アプリ」の利用が前提となっているが、この「デジタル認証アプリ」に対しては、その利用によりデジタル庁に照会情報が蓄積されていく問題が指摘されていた(こちらこちら)。なおデジタル庁は2026年夏を目標に、「デジタル認証アプリ」と「マイナポータルアプリ」との統合を予定している。
 東京アプリは今後市区町村との連携など予定している。将来的には東京アプリで行政サービスを一元化し、東京都や区市町村のさまざまなコンテンツのプラットフォームにするとしている。利用しない/利用できない都民が、ポイント付与だけでなく行政サービスから疎外されていかないか、警戒も必要だ。 

東京アプリを考える(1)マイナカードによる差別は許されるか

 東京都は2026年2月2日から、東京アプリ生活応援事業を開始した(こちら)。
 「東京アプリ」の更なる普及促進と「物価高騰など社会情勢の変化を踏まえて都民の生活をより一層応援する」目的で、マイナンバーカードを持つ15歳以上の都内在住者(住民登録者)を対象に、NFC対応スマートフォンに東京アプリとデジタル認証アプリ(デジタル庁が提供するアプリ)をダウンロードし、マイナンバーカードで本人確認して申し込むと、11,000ポイント(1pt=1円)受け取れる、というものだ。
 マイナンバーカードの所持に加えスマホが必須であり、タブレットやパソコンでは利用できない。このポイントは、自治体施設で使えるチケットや、いくつかの民間決済事業者のポイントなどと交換して使用できるとなっている。

 東京アプリそのものは、2025年2月17日から「社会的意義のある活動への参加者にポイントを付与するサービス」が利用開始している。
 2025年秋頃を目途に、マイナンバーカードによる本人確認機能の実装を契機として、将来的に都の様々な手続やサービスとの連携を可能とする東京アプリを活用して多くの都民と都政をつなげるキャンペーンを展開する予定とされていた(東京都報道発表資料 2025年2月17日)。
 2025年4月25日には都デジタルサービス局が「「東京都公式アプリ(東京アプリ)」について ~都民と共に創るアプリ~」を公表し、2025年11月28日には、マイナンバーカードを利用した本人確認機能等の導入に向けて 都民参加型の最終検証を開始し、実施にいたっている(こちら)。

東京都サイトより

 東京アプリの主な機能として、「「東京都公式アプリ(東京アプリ)」について」では、マイナンバーカードでの本人確認によりひとつのIDで、行政手続のオンライン、AIによる行政手続サポート、給付金の申請・受領、都政への提案・アンケート、社会的意義のある活動にポイント付与、個人あてのお知らせ機能、災害時の活用、その他機能を追加していくとしている。
 もともと「つながるキャンペーン」として一人7000ポイントを付与する予定にしていたが、東京アプリ生活応援事業として都の12月補正予算で450億円を計上して4000ポイントを上乗せした。

 昨年2025年2月17日から開始した東京アプリについては、2025年3月3日の都議会総務委員会で質疑が行われている。そのなかから東京アプリの理解を補足する質疑をピックアップする。

 自民党の増山委員からの「つながるキャンペーン」の実施目的は、東京アプリを浸透させるためなのか、もしくは物価高騰対策なのかとの質問に対して、都はアプリの利用を広げていくためと答えている。また対象を15歳以上とした理由については「将来的に様々な手続で活用することを目指しており、行政手続を単独で行える年齢である十五歳以上の都民を対象」としたと答えている。
 つまりアプリ普及を目的とした7000ポイント付与に、今回「生活応援」としての4000ポイントが追加されたということになる。

 立憲の藤井委員からの、マイナンバーカードにより本人認証、本人確認を行うこととした理由の質問には、将来的に個人に最適化された情報発信や様々な行政手続を簡便に行えるようにしていく予定であり、本人確認にマイナンバーカードを活用することで書類による手続が不要でオンラインで確認が完了すること、国の公的個人認証サービス機能を利用するため安全で確実に本人確認を行うことが説明されている。

 公明党の古城委員からの、多くの人に利用してもらうために「本人確認についてマイナンバーカードに加えて、他の代替手段も考えるべき」の求めに対しては、オンラインによる本人確認の方法を複数検討した結果「利便性や効率性に加え、個人情報管理の安全性、なりすまし防止の観点から、マイナンバーによる本人確認機能を実装する」ことにしたとの答弁がされ、代替手段の予定はない。

 共産党の池川委員からの、そもそも社会的意義のある活動や利便性の向上を目的としたアプリが、なぜポイントで誘導しないとダウンロードされないと考えているかの質問には、他自治体を参考にしたとの説明しかなかった。またスマホ保有率が70代で64.4%、80歳以上では28.5%の現状で、スマホがない人は対象外かの質問には、区市町村のスマホ相談会への支援の拡充に加え、スマホを持たない高齢者の購入助成を検討するという答弁だった。
 結局マイナンバーカードもスマホも持たない都民は対象外ということだ。

 ミライ会議の田の上委員からの、東京アプリは都民以外も利用できるか、都民のみがキャンペーンの利益を享受できるかの質問には、アプリの利用は都民に限定されず、つながるキャンペーンではいったん民間決済事業者のポイントと交換するとどこでも使えるようになると答弁。共産党の池川委員からは、それでは都内事業者への支援に役立たないとの指摘もされていた。

 昨年12月に成立した国の補正予算で、物価高対策として自治体が使い方を決める「重点支援地方交付金」2兆円が決まった(こちら)。それを受けて各自治体で様々な生活者支援メニューを検討しているが、いくつかの自治体でマイナンバーカードを利用したポイント事業が批判を受けていることが報じられている。

 京都市では、スマホに専用アプリをダウンロードしてマイナカードで本人確認することにより5000円のポイントを給付する。市長は普及率の低いマイナカードの取得促進も狙いとしている(産経2025/12/22)。これに対し市議会では、マイナカードを所持しない25%の市民約35万人が給付を受けられないのは市民差別だとして再検討を求める意見が出たが、市側は制度上は一律に全市民を対象にしなければならないものではないとして、対象外となる市民への対策は検討していなかった(京都民報Web2025/12/25)。市議会では、共産党が全市民を対象とした現金給付へ変更する予算組み替え動議を出したが否決された(京都民報Web2025/12/26)。その後1月15日に、京都市民255人が平等原則に反するとして差し止め請求をしたことが報じられている(京都新聞2026/1/15)。

 また仙台市では「せんだい生活応援!!ポイントキャンペーン」として、マイナンバーカードと連携したデジタル身分証アプリ『ポケットサイン』を利用して「みやぎポイント」3000円分を給付しようとしている。これに対して仙台市民オンブズマンが「市民全員が利用できず、合理的理由のない差別にあたり憲法14条(法の下の平等)に違反する」として、支出の差し止めを求める住民監査請求を行った(ミヤギテレビ2026/1/7)。これについて仙台市長は、いくつか用意している物価高対策の一つで問題はないとの認識を示しているという(tbc東北放送2026/1/21)。

 東京アプリでは、当初の「つながるキャンペーン」7000ポイント付与はアプリの普及を目的としていると説明されたが、補正予算450億円で追加された4000ポイントは「生活応援」が目的であり、東京アプリ生活応援事業として実施する以上、マイナカードやスマホのない都民を「排除」するのは法の下の平等に反する。
 補正予算を審議した昨年12月9日の都議会第4回定例会では、立憲民主党・ミライ会議・生活者ネットワーク・無所属の会から、直接家計を支える都民に対する支援の第一に東京アプリ生活応援事業が計上されているが、
「日々の生活に追われ手続の余裕がない人、スマートフォンやマイナンバーカードが使えない人、使わない人は除外をされてしまいます。生活応援というのであれば、さきに行った水道の基本料金の無償化のように、あまねく都民、特に困っている人が除外されない方法で実施すべき」との質問がされた。
 また共産党からも、
「都が行う物価高騰対策の六割以上が、東京アプリにポイントを付与する事業です。スマホにアプリをダウンロードしてマイナンバーカードと連携しなければ、ポイントはもらえません。初めから多くの人を排除することになります。生活応援の事業として不適切です。東京アプリの450億円は、支援を必要とする人全てに届く物価高騰対策に充てるべき」
との質問がされた。
 しかし都側は、出産後の家庭に対する支援を充実など他の施策も実施していると答弁しただけだった。

 公明党からのスマホを持たない高齢者へのスマホ購入費補助についての質問には、都の支援により現在21自治体が事業を実施しており、他の自治体にも事業実施を強力に働きかけていくと、あくまで全都民にスマホを利用させる方向が示された。
 1月16日の記者会見でも小池知事は、スマホ持ってない方は購入しないとポイントは受け取れないのか、代替手段等はないのか、との質問に「デジタルの活用によって、これまでにないスピードで支援を届けるということ。基本的にですね、東京アプリを使えないような皆様方には、その機器については3万円の補助などを含めて、そのような対応をさせていただく」と、スマホを使わない都民は排除する姿勢を強調した。
 ただ報道では、ポイント支給の対象外となる14歳以下の子どもには、1万1000円の支援金を毎月5000円を支給する子育て支援「018サポート」のシステムを活用して支給する方針とのことだ。(朝日2026/1/16日テレNEWS2026/1/16)。