●8割保有していてもマイナーなカード
政府は3月2日から、アイドルタレントを起用した「まだまだマイナー?マイナカード」というテレビCMを始めた。マイナカードを「持つ」から「使う」への転換促進を図ることを目的とした政府広報キャンペーンということだ。
マイナンバーカードは昨年(2025年)12月に保有枚数が1億枚を超え、人口の8割を超えたと総務大臣が公表していた。二度のマイナポイント交付によって保有が増加し8割が保有しても、「まだまだマイナー?」と自虐的に言わざるをえない利用状況に低迷しているところに政府の苦悩が現れている。
●半数に達しないマイナ保険証の利用状況
利用されない見本がマイナ保険証だ。厚労省は3月19日に、2026年1月のマイナ保険証の利用率を「64.62%」と発表した。あたかも昨年12月の利用率47.73%から、12月の健康保険証利用の原則終了によって利用率が大幅に上昇したように見せている。しかしこれは統計操作だ。
ブログに書いたように今年から厚労省は、公表する利用率を「レセプト件数ベース利用率(マイナ保険証利用人数 ÷ レセプトの発行件数)」に変えた。従来公表してきた「オンライン資格確認件数ベース利用率」では、利用率が1月が48.78%、2月が49.89%と厚労省は発表している。12月から毎月1%程度しか上昇せず、依然として5割にも達していない。
「マイナ保険証を基本とする仕組みに移行した」といっても、実態はマイナ保険証と資格確認書・健康保険証の併用状態が続いている。
●いまだ解決しないマイナ保険証トラブル
マイナ保険証が利用されない一因は、正しい保険資格情報が未だ表示できないからだ。そもそもマイナ保険証は、転職や転居をしても正しい医療保険資格が正確・迅速に確認できるというのが宣伝文句だった。
ところが2023年にマイナンバーのひも付け誤りで別人の医療情報が表示されるトラブルが大問題になった。政府はマイナンバー情報総点検本部を設置し、2023年8月8日に再発防止対策と国民の信頼回復に向けた「政策パッケージ」をまとめ、2024年1月16日にすべての点検が終了したと公表していた。
しかし依然として正しい医療保険資格が表示されていない。保団連(全国保険医団体連合会)は1月29日、2025年10月14日~12月1日の間の33都府県10,519医療機関のトラブル状況について調査した結果を発表した。

顔認証カードリーダー(CR)の不良の他、「氏名が●で表示されて確認できない」「資格情報が無効」「名前や住所の不一致」「該当の被保険者番号がない」など保険資格が確認できなかったり、「負担割合の齟齬」「限度額認定の誤り」など資格情報の誤りが続いている。これらは「ひも付けあやまり」の点検では解決できない様々な原因による。
さらには、解消したはずの「他人の情報紐付け」も発生している。そして増加しているのが、5年の更新期を迎えている電子証明書の有効期限切れによりマイナ保険証が使えない事態だ(記者会見資料参照)。
●トラブルのときは健康保険証が頼り
厚労省は、このようなマイナ保険証で「何らかの事情でオンライン資格確認を行えなかった場合」は、マイナ保険証(マイナンバーカード)+「資格情報のお知らせ」か、マイナ保険証+スマホでマイナポータルに資格情報を表示させたもので確認するか、または過去の受診の際の資格情報で確認するよう求めている。それでもわからなければ「被保険者資格申立書」を書いてもらえば、3割負担などの保険診療が受けられると説明している。
しかし実際には持ち合わせていた健康保険証や資格確認書で確認しているケースが依然として多く、確認できずに10割請求せざるをえない事例も少なくないことが、調査で明らかになっている。
そもそも「マイナンバーカード1枚で済むので便利」が宣伝文句なのに、健康保険証一枚で済んでいたのがマイナ保険証と「資格情報のお知らせ」やスマホを一緒に持ち歩かなければならなくなっていること自体、制度設計の失敗だ。

●2026年7月まで健康保険証で受診可能に
このような状況をうけ、上野厚生労働大臣は3月19日の記者会見で、期限切れの保険証を持参した際にこれまでどおりの窓口負担で受診できるとする暫定措置の期限を、今年3月末までから7月末までに延長延長すると表明した。記者会見ではその理由として、次のように述べている。
「期限切れの保険証を持参した際にこれまでどおりの窓口負担で受診できるとする暫定措置については、昨年8月から始まったものですが、さらに円滑な受診を担保したい・・・・・・私どもでアンケート調査をし、やはり医療機関では、今でも数パーセントですが、そうした方がいらっしゃるということもあるようですので、もう少し期限を延長して、円滑な受診を担保していきたい・・・」
3月25日には医療関係団体に対して、「マイナ保険証の円滑な利用に向けた対応について」を通知し、次のように周知している(こちらを参照)。
昨年 12 月以降、加入している保険者によらず、期限切れに気がつかずに健康保険証を引き続き持参してしまった患者等に対する資格確認の暫定的な対応については、本年3月末を期限としてお示ししておりましたが、マイナ保険証や資格確認書への切り替えに当たり、受診等の頻度が少ない方をはじめ、期限切れの健康保険証を持参される方も一部では見られるところであり、まだ受診時等に提示する書類の準備が整っていないおそれ等もあることから、本年7月末までの間は、これまでの暫定的な対応を継続する
厚労大臣は、この「暫定的な対応」期間の間にマイナ保険証の利用促進を着実に進め、7月末以降も延長することは考えていないと説明している。しかしマイナ保険証、「資格確認書」「資格情報のお知らせ(資格情報通知書)」「被保険者資格申立書」の区別もわからず、自分がマイナ保険証の利用登録をしているのか、有効期限がどうなっているのかなどもよくわからない状況が、あと4ヶ月で解消するのか。電子証明書の有効期限切れは、これから増加する。毎月1%程度しかマイナ保険証の利用率が増えない状況で、7月になったら「受診時等に提示する書類の準備」が整うのか。
●法にない暫定措置でなく健康保険証継続を
2024年12月に健康保険証の交付が終了した。しかし2025年6月27日に厚労省は2025年夏の国民健康保険の利用期限終了を前に、期限切れの国保保険証や「資格情報のお知らせ」だけを持参した患者も、オンライン資格確認システムで資格情報を照会して3割等の負担で受診を認める「暫定的な対応」を、今年3月末まで認めることを医療関係団体に通知した。
さらに2025年11月12日には、12月1日の健康保険証の利用終了を前に「移行期における暫定的な取扱い」として、全ての健康保険証で同様の対応を今年3月末まで認めることを、医療関係団体に通知していた。今回、さらにこの暫定的な対応を7月末まで延長した。これらは医療関係団体に通知するだけで、患者には周知していない。
期限切れの健康保険証で保険診療を行うことも、「資格情報のお知らせ」だけで保険資格を確認することも、法律に規定のない措置だ。医療現場の混乱回避や患者の負担軽減のためとはいえ、このようなやり方は好ましくない。
衆議院解散で前国会に立憲民主党が提出していた健康保険証の利用継続法案は廃案になったが、健康保険証の利用延長の間に、健康保険証を復活・継続する法改正をし、マイナ保険証と併用すべきだ。厚労省が言うようにマイナ保険証にメリットが多いのなら、押し付けなくても利用が増えていくはずだ。どちらにメリットがあるかは、患者と医療機関が判断することだ。
そして健康保険証の継続が実施できるまでは混乱を避けるために、渋谷区や世田谷区が実施し杉並区議会で導入が可決されたように、すべての保険者が被保険者全員に資格確認書を交付すべきだ。
