●7月末で多くの国保証が有効期限
マイナ保険証の利用登録解除を早急に
7月末で75歳以上の後期高齢者医療証(約2000万人)と、多くの市区町村の国民健康保険証の有効期限が終了した。市町村国保で7月末に有効期限を迎える被保険者数は約1,700万人で、市町村国保の全被保険者数、約2,400万人の約7割にあたると福岡厚労大臣は説明している(2025年7月29日記者会見)。
そのため各メディアも健康保険証の有効期限終了後の受診方法について報じているが、マイナ保険証の利用登録解除という重要な手続き(厚労省の通知はこちら)については、ほとんど報じられていない。
また国民健康保険では、厚労省は有効期限が切れても来年3月までは保険診療が受けられるとする通知を出しているが(こちら参照)、PRはしていない。
加入している医療保険により、8月から保険診療を受けるために必要となる手続きの概要は、次のようになる(例外あり。渋谷区・世田谷区の国保は、マイナ保険証の有無にかかわらず加入者全員に資格確認書を暫定的に交付)。
協会けんぽではマイナ保険証を持っていない人に、7月下旬より地域に分けて資格確認書を送付するスケジュールを公表している(こちら)。

●利用が増えないマイナ保険証

7月23日に厚労省が公表した6月のマイナ保険証利用率は30.64%。7月末が近づいても、利用率は1月から月1%ずつしか増えず、7割は健康保険証を提示している状況が変わらない(1月25.42%⇒2月26.62%⇒3月27.26%⇒4月28.65%⇒5月29.30%)
マイナンバーカードの保有率も6月末で78.7%に微増で(総務省サイト)、マイナンバーカード保有者に対するマイナ保険証の登録率も86%(人口比の登録率は約2/3)と微増だ(デジタル庁ダッシュボード)。
その一方で、政府や保険者がほとんどPRをしていないが、マイナ保険証の登録解除は昨年11月から今年6月までで124,003件に達している(厚労省サイトの末尾に6月分掲載)。
※登録解除の各月の件数は、11月(10/28~11/30)13,147件+12月32,067件+1月13,212件+2月10,724件+3月15,082件+4月14,593件+5月12,915件+6月12,263件。
●マイナ保険証普及のため医療機関にさらに圧力
マイナ保険証の利用が増えないのは、患者が不便で危険なマイナ保険証を使いたくないからだ(いらないネットのリーフ14参照)。しかし厚労省はマイナ保険証が忌避されている現実を直視せず、その改善をはかるのではなく、医療機関等に利用の圧力をかけて普及させようとしている。
2025年7月23日の中医協(中央社会保険医療協議会)総会では、マイナ保険証の利用率等により医療機関等の収入(加算)にさらに差をつけることを決めている(加算により患者の負担は増える)。
たとえぱ医療DX推進体制整備加算1は、現在はマイナ保険証の利用率が45%であれば医科12点・歯科11点・薬局10点(1点=10円)を付けられるが、2025年10月からは7月以降の利用率が60%以上ないと同額の加算を得られなくなる(下図参照)。
マイナバーカードの所持は任意であり、マイナ保険証を使うかどうかは患者の自由だ。医療機関等が収益を減らさないために患者にマイナ保険証の利用を迫らざるを得なくなるような、番号法を逸脱するマイナ保険証強要は直ちにやめるべきだ。

●電子証明書を更新しなければ資格確認書を交付

いま政府が頭を悩ませているのは、マイナ保険証の利用に必要なマイナンバーカード内蔵の電子証明書の有効期限切れだ。5月19日、デジタル庁、総務省、厚生労働省、警察庁などにより第1回「マイナンバーカード、健康保険証、運転免許証の一体化・活用普及に関する検討会」が行われた(資料はこちら)。
今年は、2016年1月のマイナンバーカード交付開始から10年目、マイナポイント第1弾から5年目にあたり、大量のカード本体(10年周期)や電子証明書(5年周期)の更新が発生するため、更新手続を省庁連携して円滑・確実に進めるための検討会だ。
厚労省は、マイナ保険証の電子証明書の有効期限が切れても3カ月間は医療資格情報の確認には使えるが、その間に更新しなければ資格確認書を職権交付(申請なく交付)する扱いにしている(下図)。マイナ保険証を持っている人は、利用登録解除をしなくても電子証明書の更新をしなければ、資格確認書を受け取って受診することが可能になる。

●加入者全員に資格確認書を!保険証の継続を!
健康保険証であれば、なにもしなくても加入者全員が受け取れ、安心して保険診療を受診できた。
マイナ保険証によって「資格確認書」「資格情報のお知らせ」など耳慣れない書類が生まれ、次々と新たな手続きが加わって、もはや患者も医療機関も何が正しいのかわからなくなってきている。
こんな状態で、政府は12月1日に健康保険証の利用を終了しようとしている。
私たちは安心して保健医療を受けられるようにするために、健康保険証の利用を引き続き可能にする法改正とともに、法改正までの暫定的な措置としてマイナ保険証の有無にかかわらず「資格確認書」を申請なく一律交付することを呼びかけてきた(こちら参照)。
各地で資格確認書の一律交付について要請が行われている(たとえば東京では国立市、府中市、三鷹市)。6月17日には神奈川県海老名市で「マイナ保険証の有無や年齢にかかわらず、国保加入者全員に資格確認書を発行する対応を求める意見書」が、6月27日には滋賀県東近江市議会で「県内の国民健康保険被保険者全員に資格確認書の交付を求める意見書」が採択されている。
しかしすでにマイナ保険証の有無により「資格確認書」と「資格情報のお知らせ」を振り分けて送付する手配を業者にしていたり、都道府県単位で国保を運営しているために県内で合わせる必要があるなどで、一律交付は広がっていない。
厚労省も来年3月末までは、期限切れの国保証でも医療機関が被保険者番号等によりオンライン資格確認等システムに資格情報を照会して、10割負担ではなく3割負担等でレセプト(診療報酬)請求して差し支えないと通知せざるを得ない状況だ。このようなイレギュラーなやり方でなく、国会で健康保険証の利用を延長する法改正を早急に行う必要がある。