またやるのかマイナポイント(3)
危険なマイナポイントとカード

●マイナンバーカードの危険性は「誤解」か

 政府はマイナポイントやマイナンバーカードについて、安全性を強調している。デジタル庁の担当者は、マイナンバー制度やカードが安全ではないという誤解を払拭すると語っているようだ
 しかしマイナンバーカードの危険性は誤解ではない。共通番号いらないネットでは、リーフレットNo8などでマイナンバーカードの危険性を指摘してきた。政府の説明は、自ら語ってきた危険性も曖昧な表現でごまかしながら、なんとかマイナンバーカードを普及させようとするものでしかない。
 このようなことを続けるかぎり、市民のマイナンバー制度に対する不信は払拭されないだろう。そればかりか、このような政府の姿勢はマイナンバー制度の危険性を一層増大させる。リスクを隠すことは最大のリスクだ。

●国に情報が知られないシステムだから安心?

 政府のマイナポイントのサイトでは、「マイナポイントを利用することにより、国に自分の氏名や住所等の個人情報が知られてしまうことはありません。 」「このシステムを通じて総務省や民間企業にマイナンバーが渡ることはなく、キャッシュレス決済サービスで取り扱う個人情報やお買い物情報についても、国が管理、保持できない仕組みとなっています。」と説明している。
 またやるのかマイナポイント(2)で書いたように、マイナポイントは総務省が設置し自治体が運用協議会を作る「マイキープラットフォーム」で、一人一つのマイキーIDとマイナンバーカード内蔵の電子証明書のシリアル番号とをひも付けて管理されている。法的な根拠はなく、当然、個人を特定識別し利用状況を管理できる。
 政府の説明は「マイナンバーは使っていない」というだけのことで、法律で利用が規制されているマイナンバーの代わりに、法律で規制のないマイキーIDと電子証明書のシリアル番号で管理するという、ある意味もっと危ない仕組みだ。「個人情報やお買い物情報」の管理についても、なんの法的規制もない。
 国は下図のように、法律で利用が限定されているマイナンバーの代わり、民間も含め幅広く利用が可能な電子証明書のシリアル番号を、個人の識別・追跡に利用を勧めるという「脱法マイナンバー」的な利用を推進してきた。
  ちなみにマイナンバーも電子証明書のシリアル番号も、生成・管理しているのは地方公共団体情報システム機構(J-LIS)だ。2021年5月に成立したデジタル改革関連法により、J-LISはいままでの地方自治体の共同管理法人から国と地方の共同管理になり、国の関与が強化されている。

    マイナンバー概要資料平成20年5月版より

●マイナンバーを知られることは危険

  マイナポイントのサイト は「 マイナンバーを知られても、他人は悪用できません」などと、無責任な情報をばらまいている。悪用できないなら、なぜマイナンバーの取扱いを厳しく規制しているのか。その規制を守るために事業者も行政機関も自治体も、大変な努力と費用を払っている。「個人番号が悪用され、又は漏えいした場合、個人情報の不正な追跡・突合が行われ、個人の権利利益の侵害を招きかねない。」(個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」)からではないのか。
 マイナンバーを利用する手続で「マイナンバーだけで悪用できない仕組み」と説明しているが、マイナンバーだけが漏洩するということはない。かならずマイナンバーと個人情報が付いた「特定個人情報」が漏洩する。日本弁護士連合会は、その危険性を次のように指摘している。

 個人番号カードの裏面に記載されている個人番号は、悉皆性、唯一無二性を持ち、原則生涯不変の個人識別情報である。・・・・・個人番号が不正利用されれば、個人データが名寄せされデータマッチング(プロファイリング)されてしまう危険がある。・・・・・個人番号カードを携帯して利用できるとすることで、厳重に管理されるべき個人番号が第三者に知られる危険が大いに高まる(日弁連2021年5月7日「個人番号カード(マイナンバーカード)普及策の抜本的な見直しを求める意見書」

 「特定個人情報」が知られることの危険性は、マイナンバー制度を中心になって推進してきた向井治紀内閣官房内閣審議官(現デジタル庁参与)も、マイナンバーをいろんな人が知るとプロファイリングの危険性があるから提供を制限している、と国会で説明していた。(2019年5月9日第198回国会参議院厚生労働委員会での説明)

「マイナンバーが個人の名前とかではなくて番号であるがために非常に大量処理しやすいと。したがって、Aさんのマイナンバーをいろんな人が持っているという状態に、合法であれ違法であれ、そういう状態になってしまうとプロファイリングの危険性がございますので、そういうコンピューター処理にならないような状態にするために、大量の、何といいますか、マイナンバーがいろんな人がたくさん知っているという状態にはなってはいけない。 」

 プロファイリングの危険性というのは、たとえばいずれもマイナンバーの利用事務である世帯情報と年金情報と介護保険情報が漏洩した場合、個々の漏洩によるプライバシー侵害に止まらず、個人を正確・迅速に名寄せできるマイナンバーを使って漏洩した個人情報を結合することにより、犯罪者集団が「単身で年金が多い認知症の高齢者」という悪徳商法や振り込め詐欺の対象にしやすい「カモのリスト」を容易に生成できるという危険だ。
 漏洩した個人情報が増えるほど、危険性は加速度的に増大し、被害が出てから止めるのは困難になる。だから私たちは「共通番号」に反対している。

●分散管理だから個人情報はまとめて漏れない?

 マイナポイントのサイト は、マイナンバー制度では情報を「一元管理」する特定の共通データベースを作らないので、そこからまとめて情報が漏れることはないと説明している。
 「一元管理」と「分散管理」というのは国の常套文句だが、国が「一元管理」と言っているのは、個人情報を共通データベースという一カ所に集約するということだ(下図)。何十年前のコンピュータ化の初期ならともかく、今どき一カ所に集約する非効率なデータベースをつくることは、現実にはない。無意味な対比だ。
  個々の行政機関などで分散管理している個人情報を、必要に応じて照会し結合することができるのがマイナンバー制度であり、その情報照会-情報提供を「一元的に管理」する仕組みとして、総務省-デジタル庁が管理する情報提供ネットワークシステムが作られている。

●マイナポータルですべての特定個人情報がわかる

 この仕組みからマイナポータルによって、マイナンバーを付番して行政機関等で管理する個人情報をすべて知ることができる。下図がマイナポータルから取得できる個人情報の主なもので、いずれもプライバシー性の高い情報だ。
 個人情報保護のためには必要な仕組みだが、悪用されるとこれらの個人情報が<だだ漏れ>する危険がある。

デジタル時代における住民基本台帳制度のあり方に関する検討会2021.7.19有識者部会資料2

 かつて向井治紀内閣官房内閣審議官(現デジタル庁参与) も、マイナポータル(旧マイ・ポータル)は極めて危険度が高いと説明していた。

「マイ・ポータルというのは極めて危険度が高いです。逆に言うと自分の情報を全部見ることができてしまうというのは極めて危険度が高いので、そういう意味では代理をする場合でも、やはり一定の非常に高いセキュリティー、あるいは厳格な要件を設けざるを得ないと思っています。(番号制度シンポジウムin鳥取(平成23年11月25日)【議事録】45頁 )

●マイナポータルからの漏洩を防ぐのは自己責任

 マイナポータルは、マイナンバーカードと暗証番号によりアクセスする。カードと暗証番号を取得されてしまうと、他人が成り済ましてアクセスすることは可能であり国はリスクの軽視ではないか、と国会で指摘されたことがある
 マイナンバーカードの暗証番号は、6~16桁一つと4桁3つの計4種を設定する必要がある(下図)。4桁3種は同じでもよいと国は説明しているが(セキュリティ上は分けた方がいいに決まっている)、いずれにせよ記憶しておくのは大変で、番号をメモして持ち歩き、一緒に紛失・盗難することになりがちだ。手続きのために他人に預けることもあるかもしれない。
 それに対して政府(吉川浩民総務大臣官房審議官)は、「そもそも、成り済まし防止のための暗証番号というものは、マイナンバーカードとは別に適切に保管していただくことが前提でございます」と答えていた。仮にマイナンバーカードとともに暗証番号が漏えいしても、24時間365日体制のコールセンターに連絡すればカード機能の一時停止の措置を行うことが可能とも説明している。つまり暗証番号をマイナンバーカードと一緒に持ち歩いたり、すぐに連絡をしない本人の問題だ、というわけだ。
 しかし政府がマイナンバーカードの悪用は困難とか個人情報が漏れることはないとか宣伝している状態では、市民は紛失のリスクを認識できない。それで自己責任というのは、責任転嫁だ。

    マイナンバー概要資料平成20年5月版より