憎まれ愚痴入口木村書店戻る┃  “少年A”の物語自己紹介項目別案内

1946年、北京から引揚げ船で送還された“少年A”の物語

時代の始まり

(その9)帰還船の来る港への移動が始まった

 帰還船の来る港への移動が始まった。僕等は収容所では最后の組だった。妹を産んだばかりの母の身体を気づかって、父がそれを希望したのだ。僕は友達に別れを告げるのに忙しかった。友達は毎日へっていくのだった。ある朝、しばらく会わなかったチビが、息せききって駆けこんできた。タバコの空箱のメンコを持てるだけ手にしていた。

「みんなゴミダメに捨ててっちゃうんだ。まだ沢山あるよ。」

 僕は黙ってそれを受け取った。チビは無邪気に緊張して言葉を続けた。

「僕はこれからトラックに乗るんだよ。チカラさんは何処にいるの。」

 チビは何も知らされていなかったのだ。僕はそのことに気づくと、なおさら黙らざるを得なかった。しかしチビはひるまなかった。

「僕はね、クリークに落っこった時、チカラさんに助けてもらったんだって。お礼を言っていきたいんだ。」

 僕はやっとの思いで口を開いた。

「チカラさんはいまよそに行ってるんだ。」

 そして重々しくつけ加えた。

「チビ、お前も立派な大人になるように、って言ってたぜ。」


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2003.9.15