鯨が増え過ぎて生態系を破壊する「反捕鯨」の大嘘(その15)

環境保護運動の育成は「新道徳武装」CIA謀略だった!

米英に踏み躙られたハワイとカリブ諸国と日本の悲しい歴史に鯨を巡る因果

2001.1

 今回は悲しい歴史の物語である。しかも、またまた、『産経新聞』である。反捕鯨に関するアメリカの謀略の歴史に関しては最も詳しい『動物保護運動の虚像/その源流と真の狙い』の著者、梅崎義人(よしと)に聞いたところ、やはり、この問題では『産経新聞』が断然、他紙に比べて抜き出ているし、「親しい友人が沢山いる」とのことだった。

 なお、記事の題名の中心の「男でござる」に関しては、それこそ、「異見」が殺到しそうだが、それもまた、この問題を深める上では、重要な刺激かと存じ、私見は披瀝しない。ハワイについては、記事中に鯨との関係が記されてないが、本シリーズ(その4)に、現在のハワイが「鯨の聖獣化」の拠点として記されている。

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『産経新聞』(1999.6.5.夕)

異見自在

●国際捕鯨委「外伝」

カリブの国々は男でござる

 明治14年、日本に初めて外国元首が訪れた。ハワイ王朝のカラカウア国王である。

 当時の日本はやっと近代国家としてよちよち歩きを始めたころになるが、国王の受け止め方は違って、ハオリ(白人)の力を借りずに国家建設を急ぐ姿に大きな感銘を受けたという。そして親善訪問の最後の夜、国王は極秘に明冶天皇に面会を求めてきた。

 国王の姪、カイウラニ王女と東伏見宮依仁親王との結婚の儀をととのえたい、というものだった。それが王朝を救う唯一の道だからとも。

 実際、国王にはひたひたと迫る“亡国”の足音が聞こえていた。王朝の高官はいつの間にかハオリ、つまり米国人に占められ、今度の旅をアレンジした在東京ハワイ総領事もR.アーウィンという米国人だった。

 彼らはすでにハワイ島民から選挙権を奪い、経済も外交も独占していた。放っておけばいつかは米国に呑み込まれる……  国王がアーウィンにさえ知らせずにこっそり皇居を訪ねた理由もそこにあった。

 しかし、日本はこの申し出を断った。「この婚儀によって米国の勢力圏に立ち入ることは好ましくない」(宮内省からの親書)、下手をすれば米国と戦う羽目に陥ると読んだのだ。

 その読み通り、次のリリオカラニ女王のとき、米国人グループは米戦艦ボストンを擁してクーデタ-を起こし、「アロハ・オエ」の作詞者として知られる女王を退位させてしまった。王朝は消滅し、その国土は米国に併合された。

 それでもカリブの島々よりはましだ、という見方がある。

 インディオの住むカリブの島々、いわゆる西インド諸島は15世紀以降、スペインや英国などによってハワイと同じように王朝を潰されだだけでなく、約1,800万人の島民すべてが殺された。

 無人と化した島々にはアフリカの黒人奴隷が運び込まれ、コーヒ-や砂糖の栽培が行われた。今、西インド諸島の人々といえば黒人を意味する。壮大な人種の淘汰と移植の実験場だったのである。

 20世紀。奴隷制が廃され、うまみがなくなると、新しいカリブの住人となった黒人たちはうち捨てられるが、彼らは独力で国を作っていった。八丈島ほどのセントビンセントやアンテイグア・バーブダ、セントルシアなどだ。

 地下資源もなく、特別な輸出産品もない国々だから、例えば電話も隣の超大国、米国が面倒をみている。これらの国の国際電話の国番号が米国と同じ「1」で、米国からは市外局なみにかけられるのもそういう理由からだ。

 その小さな国々がそれでも時々、国際舞台に出てくる。1982年の国際捕鯨委員会(IWC)で、商業捕鯨を10年間禁止するいわゆるモラトリアムが採択されたときもその1つだった。前述の国々は米国の意向に沿って、科学的根拠のない、ただ情緒だけからのモラトリアムを成立させている。

 それも当然で、例えばセントルシア代表は米国人教授だし、アンティグア・バーブダはフランス人海獣保護論者、セントビンセント代表も米国人活動家だった。

 1994年のIWC総会では例の南氷洋の捕鯨禁止(サンクチュアリ-)が議題になったが、このときも米活動家がアンティグア・バーブダの代表としてでてきた。

 彼らはこうした貧しい国々を時に脅し、時に懐柔して外交官の信任伏をとり、IWCに臨んで米国やフランスのために働く。ちょうど、ハワイ王朝のアーウィン総領事と同じようなものだ。

 ところが今年、グレナダでのIWC総会は少し様子が違った。前述したカリブの国々がよその国の環境活動家を排して自前の代表を派遣してきた。実はこれは驚くべきことだった。

 というのもIWCに参加するには年次会費2万ポンド、約300万円を支払わなくてはならない。よその環境団体が“代表”するときは彼らが払うが、自前の代表だから自腹になる。貧しい国には大いなる負担だ。おまけにこれらの国々は非捕鯨国家。金を払って参加する意義が見つけにくいからだ。

 しかし、彼らは参加してきた。ばかりでなく、米国と対決する日本に堂々、賛成票を投じた。「どうみても日本の主張が正しいからだ」というが、これはもっと驚くべきことだった。カリブは「米国の裏庭」にある。逆らえば厳しく報復される。事実、命の網の「観光客を差し止める」といった脅しもあった。それでも彼らは日本に味方した。ただいまの敵票22、味方票は10票。うちカリブ票は6票にもなる。

 米国は日本がODAでカリブ票を買ったと非難した。しかしアンティグア・バーブダのODA総額は70万ドル、反日本のブラシルには12億ドルも出している。

 ODAのあり方の反省にもなるが、同時に踏み付けられ、いじめられながらも、大国の脅しにも動じない小さな国々の根性に頭が下がる思いがする。(編集委員)

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 以上の記事について、3つだけ私見を述べる。

 第1に、文中の「ただ情緒だけからのモラトリアム」という表現は、不正確である。アメリカの得意、というよりも、陳腐極まる魂胆見え見えの図々しい「お涙頂戴」作戦による「1石4鳥」ぐらいの「情緒刺激愚民政策」だったのである。

 第2に、私は、上記のような悪辣な世界支配を、いまだに続けているアングロ・サクソン連合への歴史的な批判は、あらゆる機会をとらえて、積極的に行うべきであると考えている。「鬼畜米英」という表現そのものについても、彼らの世界侵略と植民地支配の表現として、間違いではなかったと主張するものである。しかし、この短い記事の中では無理とも言えようが、やはり、すでに明治時代から、日本は「鬼畜」の仲間入りをしてしまったのだという歴史認識も不可欠である。これを抜かすと、折角の執筆意図が理解し難くなる。

 第3に、「日本がODAでカリブ票を買った」可能性は否定し得ないと思う。日本政府は、国民から直接、税金を巻き上げるだけではなくて、銀行から将来の税金前倒しの借金をしてまで、世界中にODAなどの「援助」をばらまき、その見返りを受ける大手企業への奉仕を続けているのである。捕鯨に関しても、この「業界」だけが清潔なわけはないのである。しかし、どうせ、どの業界も不潔なのだから、それを批判して捕鯨反対などと叫ぶのであれば、無人島で自活するか、断食して死ぬ他ないのである。


(その16)『産経』21世紀/まずこれをやろう/捕鯨再開/土俵広げて論議の場を
「反捕鯨」の大嘘の目次
『憎まれ愚痴』62号の目次