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「加計学園」問題、もはや忖度ではなく首相の直接指示か

2017/06/05(月) 17:12

現地で「今治加計獣医学部を考える会」共同代表の黒川氏(左から3人目、白シャツの人)から説明を受ける民進党議員団。(撮影/横田一)

民進党の「加計学園疑惑調査チーム」(共同座長は今井雅人衆院議員と桜井充参院議員)の衆参議員6名は5月19日、獣医学部が設置される愛媛県今治市の加計学園の建設現場などを現地視察した。

調査チームは、『朝日新聞』が安倍首相の指示を示唆する内部文書を報じた17日に発足。関連部署の官僚からヒアリングを17日と18日に行ない、発足3日目には疑惑の現場を訪ねたのだ。愛媛県庁で桜井氏は視察の狙いをこう語った。

「一番大きいのは知事の発言。『国家戦略特区で出したらどうか』というアドバイスが内閣府からあって、それからトントン拍子で進んだ(許可がおりた)という知事の発言がありました。ところが、昨日(18日)に私が農水委員会で(内閣府で国家戦略特区担当の)藤原豊審議官に質問をした時には『内閣府からそういう働きかけをしたことはない』と答弁。知事発言と食い違っていたの
で、確認をさせていただきに来ました」

実際、中村時広・愛媛県知事は4月12日の会見で内閣府の助言について、次のように明言していた。

「(加計学園の獣医学部予定地は)今治が古くから教育機関の誘致を図って、幾度となく挫折をし、私も就任以降、構造改革特区で提出をし続けて、ことごとくだめで、途中で『これはもう無理じゃないか』と感じた」「途中で内閣府
から助言があって、『国家戦略特区で出したらどうか』ということだったので、出したら許可が下りた」

また桜井氏は、民進党の福田剛県議からも「内閣府の方から県地域政策課の担当者に説明があった」という情報を得ていた。そこで調査チームは県知事や地域政策課の担当者と面談、藤原審議官の国会答弁との食い違いについての事実確認をしようとしたのだ。

しかし知事も副知事も担当者も不在で話を聞けず、文書で質問状を送って回答を得ることになった。なお県は当初は「調整中」だったが、最後は「会えない」と対応が変わったという。「官邸から圧力がかかったのだろう」(桜井
氏)。

続いて今治市役所を訪問したが、ここでも市長や副市長や担当者から話が聞けず、文書での質問状を送ると告げるにとどまった。

【“官製談合事件”の様相】

最後に調査チームは、獣医学部の建設現場を視察。駆け付けた市民団体「今治加計獣医学部を考える会」の黒川敦彦・共同代表らから、驚くべき実態を告げられた。

(1)市民の半数以上が「国が大学を作ってくれるから嬉しい。大半のお金を出してくれる」と思っているが、実際は「市税96億円を拠出(歳出の12%)」。一方、獣医学部開学の税収増は年間3000万円程度で回収には320年もかかる。しかも市民への説明会は、工事が始まった後だった。

(2)獣医学部には細菌などの生物災害の危険度(BSL)3施設を設置する計画だが、市民には「危険度2程度の研究しかしない」と一段階低いリスクのように説明。

(3)市役所のどの担当課に聞いても「『急げ』『急げ』と言われてきている」「平成30年開学をしないといけないから、この日程なのです」と話している。急がせている主体は内閣府しか考えられない。

(4)市有地が加計学園に無償譲渡される前にボーリング調査を実施。

黒川氏は「『だまし討ちを受けた』という気持ちを持っている。96億円を地場産業振興に使う選択肢もあったはず」とも説明。加計疑惑は“国家的詐欺事件”の性格を帯びると同時に、首相主導の“官製談合”事件の様相も呈してきた。

視察後の囲み取材で今井氏は「官邸の意向が働いて内閣府主導で話が進んだ疑念がある」「森友は官僚の忖度だろうが、加計学園疑惑は首相の直接指示の可能性がある」と強調。朴槿恵前韓国大統領事件とも重ね合わせた。

木内孝胤衆院議員も、加計学園の競合相手だった京都産業大学が新たな条件付加で排除された選考過程を「公正中立な決定とは言えない」と問題視。国家戦略会議トップ(議長)の安倍首相が「天の声」を発して本命が決まった“官製談合”疑惑が浮上したといえる。中央と地方、両面からの追及が期待される。

(横田一・ジャーナリスト、5月26日号)

黒田氏の次の日銀総裁は?(鷲尾香一)

2017/06/04(日) 19:06

黒田東彦(くろだはるひこ)・日本銀行総裁の2018年4月8日の任期終了まで1年を切った。日銀総裁人事は国会同意人事のため、根回し期間を考えれば次期総裁候補者の名前がそろそろ挙がってきてもよさそうなものだが、本命不在の状態だ。

過去の日銀総裁人事は、日銀プロパーと旧大蔵省(現財務省)OBの“たすき掛け人事”が慣例だったが、1997年の日銀法改正とともに、たすき掛け人事は終焉を迎え、黒田総裁の前の日銀総裁は、速水優氏、福井俊彦氏、白川方明(しらかわまさあき)氏と日銀OBが3代続いた。

白川総裁誕生の時には、旧大蔵省OBの武藤敏郎・元事務次官が総裁候補として最有力だったが、当時の民主党(現民進党)などの反対により国会同意を得ることができず、日銀OBで副総裁の職にあった白川方明氏が総裁に就任している。黒田総裁は98年まで総裁を務めた松下康雄氏以来、実に15年ぶりの旧大蔵省OBの日銀総裁誕生だった。

さて、次期日銀総裁については、巷間さまざまな憶測が出ている。黒田総裁の続投、日銀プロパー総裁の復活、そして、当然のことながら旧大蔵省OBも虎視眈々と椅子を狙っている。

それでも、有力候補者の名前が挙がらず、本命不在の状況なのは、次期日銀総裁に課せられるだろう困難な命題にあると思われる。

それは、取りも直さず、黒田総裁が推し進めた「異次元の金融緩和政策」の変更にある。今や国債発行残高に占める日銀の保有比率は4割を超えているのだ。

次期総裁は、この日銀依存となっている国債消化を従来(黒田総裁が行なっている金融緩和以前)の市中消化に戻していかなければならない。加えて、すでに日銀が保有している400兆円を超える国債の処理も問題となってくる。

国債だけではない。日銀は16年度にETF(上場投信)を5兆5870億円も買い入れた。

当然、国債やETFのように価格が変動する商品では、日銀の金融政策次第で価格が大きく変動する可能性がある。価格が下落すれば日銀が巨額の含み損を抱えることになる。それにも増して、国債の場合には価格の下落は金利の上昇となり、急激な長期金利の上昇に結びつく可能性を秘めている。

つまり、次期総裁は黒田総裁とはまったく違った金融政策を立案・実行し、金融市場を本来の姿に戻すという使命を帯びている。

中央銀行総裁である以上、政府・政権の経済政策に協力するのは致し方ない部分もある。しかしそれは、政権におもねる政策を行なうのとは意味が違う。

米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)議長にイエレン氏が就任したのは14年。任期は18年2月3日までだ。黒田総裁よりも先に任期を終えることになるが、イエレン議長はあれだけ強烈な個性のトランプ大統領が誕生しても、何らおもねることなく、淡々と中央銀行として必要な政策を進めている。

高い資質を持った人物であればグローバルな人材の活用も選択肢の一つだろう。たとえば海外では、カナダ銀行総裁を務めたカーニー氏がイングランド銀行総裁に、イスラエル銀行総裁を務めたフィッシャー氏がFRB副議長に就任しているのである。

(わしお こういち・経済ジャーナリスト。5月19日号)

「原爆の図」と僕(小室等)

2017/06/04(日) 18:52

原爆の図丸木美術館で開館五〇周年特別展示「本橋成一写真展〈ふたりの画家 丸木位里・丸木俊の世界〉」が七月一七日まで開かれている。五月五日の開館記念日のイベントでは、八〇年代に美術館に通い夫妻の日常を撮り続けた本橋さんと僕の対談があり、その後、僕のライブも。会場では、五〇周年を期に立ち上げられた「原爆の図保存基金」の呼びかけもあった。

〈「自然豊かな環境の中、作品を間近で見てほしい」という丸木夫妻の意向に沿い、ケースには入れずに展示。しかし、虫食いの白い部分が点在するなど、表面の劣化が進んでいるため、5億円を目標とした寄付を募っている。基金は温度・湿度管理や防虫機能を充実させた新館の増築費用や、デジタルアーカイブの整備に充てる〉(『毎日新聞』)。実現を切に願う。僕も基金呼びかけ応援メッセージを書かせてもらった。一部、再録。

「あれほどの個性と才能を持った者同士の合作など考えられようもないことなのに、なぜ位里先生と俊先生の合作はあり得たのだろうか。互いの表現を激しく受け止め合い、激しく否定し合うことから生じる厳しい批評性が、作品をさらに強固な芸術作品に高めたのかもしれないと、僭越にも思う」

「原爆の図」をはじめて間近に見たとき、僕はひるんだ。

「徹頭徹尾リアルに描こうと思った…」(『スライド ひろしまを見たひと─原爆の図丸木美術館─』解説より)と位里先生は言う。おふたりが身内の安否をたずねて広島に帰ったのは、原爆投下の三日あと。「爆心地を証言する人は死んだ。ふたりは、辛うじて生きのこった被爆者の話しを聞き、想像と写実のギリギリの接点で、あの日のヒロシマを描いた」(同)ことに僕はたじろいだのだろうか。

五月五日、相変わらずたじろぎがなかったわけではないが、しかし、おふたりが描かれた目をそむけたくなる光景の、久しぶりの「原爆の図」は、同時にすごく美しくもあった。愛などという言葉を安直に使うことを避けたいと思っているけれど、おふたりの描かれた「原爆の図」は愛に溢れていた。

あの日、広島、長崎で起きたことを持ち運ぶことはできないけれど、「原爆の図」は持ち運びが、たやすいことではないが可能だ。持ち運び可能な広島、長崎をおふたりは芸術作品として残してくださった。完成される新館で大切に収蔵していただき、ときどき、日本の優れた運搬技術で世界へも訪れ、その悲惨と美と愛を、とくに子どもたちに見てもらえたらどんなにいいだろう。そして、世界の要人たちにも見せたい。駆け付け警護より、百万倍も平和のためになる。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、5月19日号)

「あの戦争は負けてよかった」(佐高信)

2017/06/02(金) 19:28

17歳で海軍に“志願”して少年兵となった城山三郎は、同じ昭和2年生まれの作家、吉村昭との対談で、吉村に、
「城山さん、あの戦争、負けてよかったですね。負けたのが一番の幸せ、そう思いませんか」
と問いかけられ、
「元少年兵としては、負けてよかったとは言いたくないけどね(笑)。でも、あのまま行ったら、大変だったろうね」
と答えている。

「第一、軍人が威張ってどうしようもなかったでしょう」
という吉村のさらなる問いかけに、
「軍人が威張る、警官が威張る、町の警防団長も威張る」
と応じ、以下、こんなやりとりをしている。

「鉄道員まで威張る」
「愛国婦人会の会長も威張る。在郷軍人会も威張る」
「今は、お巡りさんもやさしいものね。『すみませんが』とくるものねぇ」
「昔は汽車に乗っても検札の時、客は被疑者扱いだった」

これは1995年の対談で城山の『よみがえる力は、どこに』(新潮文庫)に収められているが、つまり、教育勅語が生きていた時代は、「愛国」を叫ぶ者がわがもの顔に振る舞っていたのである。

軍需工業の前払い金制度

私がしばしば読み返す城山の『わたしの情報日記』(集英社文庫)に次のような述懐がある。

「『強制』なのに『志願』とすりかえたのをはじめとする戦中のおそるべき欺瞞の数々。そうした高級軍人たちが、戦後は戦史家となって、相変わらずの『虚像固守』で、せっせと一方的な資料を書き残す。『美化』という形での情報汚染が続いているのでは、死者たちも浮かばれまい」

「言論統制が一度はじまれば、とめどなく拡大する。軍刀をにぎって『黙れ!』とどなる横暴な軍人の姿が、目に見えるようである。
元号の法制化・教育勅語の再評価など、このところ、政府の露骨な右傾化が目立つ。一般消費税の導入などというのも、国民に背を向けるという点では、同根である」

これは1980年の日記だが、その後、個人情報保護法という名の権力者疑惑隠し法制定の時には城山は鬼気迫る勢いで反対した。櫻井よしこと並んで記者会見に臨んだ姿もあったが、櫻井は城山に合わせる顔があるのか。

結局、「あの戦争に負けてよかった」と考える者は憲法改変に反対し、「負けてよくなかった」と思う安倍晋三たちは、憲法を変えて、いま一度雪辱の戦争をと考えているのである。そこでも「戦争はすべてを失わせる。戦争で得たものは憲法だけだ」という城山の言葉が光る。

田中伸尚の『ドキュメント昭和天皇』(緑風出版)第1巻に、それに関連して興味深い指摘がある。

軍需工業が肥大化した理由の一つに前払い金(仮払い金)制度があった。発注と同時に価格の50%から80%の代金が現金か小切手で支払われ、企業はこれを資金として運用することができた。しかも、受注さえすれば金が転がり込むので、軍の担当官と癒着するケースも少なくなかった。

それがどれだけだったかは、たとえば1942年の上半期で川崎重工が8億2400万円で総資本の54・5%、立川飛行機が3890万円で42・6%を占めた。また、1943年からの2年間に800台の車輛受注を受けて前払い金をもらいながら敗戦までに31台しか納車しなかったという信じられない話もある。これらの払込金の70%が三菱、三井、住友等の5大銀行に集中していたから、財閥にとっては「戦争さま、さま」だった。彼らには「負けてよくなかった」のである。誰もが戦争を忌避しているわけではない。

(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、5月19日号)

安倍首相と『読売』の「ずぶずぶの関係」(西川伸一)

2017/06/02(金) 19:19

「読売新聞を熟読してほしい」(5月9日付『読売新聞』)──5月8日の衆院予算委員会で、安倍晋三首相は憲法9条に3項を加えて自衛隊の根拠規定を明記するとした自らの改憲案の説明を求められて、このように述べた。一国の首相が国会の場で一私企業が発行する新聞の販促を行なう気か。

首相が熟読を勧めた記事とは、5月3日付同紙掲載の、『読売』が「4月26日、首相官邸で約40分間行った」首相への単独インタビューである。前木理一郎・政治部長が聞き手を務めた。

実は首相はその前々日にも前木氏と会っている。4月25日付『読売新聞』「安倍首相の一日」に、24日夕方に都内のホテルで「読売新聞グループ本社の渡辺恒雄主筆、読売新聞東京本社の前木理一郎編集局次長兼政治部長と会食」とある。ナベツネ主筆を交えて事前の打ち合わせをしたのだ。

90歳のナベツネ氏の正確な肩書は「読売新聞グループ本社代表取締役主筆」である。ご本人はこの「主筆」にたいそうご執心だ。「僕は死ぬまで主筆だと言っている。主筆というのは『筆政を掌る』のが役目。(略)社論を決めるということ。読売では、僕が主筆なんだ。僕は社長を辞めても、主筆だけは放さない。読売の社論は僕が最終的に責任を持つ」(渡邉恒雄『天運天職』光文社、17頁)。

社論の私物化にほかなるまい。そのナベツネ主筆と首相の面会はこの1年で6回にも及ぶ。

上述の衆院予算委での「読売読め」発言に先立ち、首相は民進党議員から昭恵氏と森友学園の「ずぶずぶの関係」を質された。首相は「『ずぶずぶの関係』とか、そんな品の悪い言葉を使うのはやめた方がいい」と激怒した(5月9日付『朝日新聞』)。それでも、首相と『読売』とは「ずぶずぶの関係」という以上に品のよい言葉は思いつかない。

さて、ジャーナリストの田原総一朗氏は『週刊読書人』5月12日号掲載の「田原総一朗の取材ノート」で興味深いことを書いている。彼は昨年8月31日に首相と2人きりで90分以上懇談した(2016年9月1日付『読売新聞』「安倍首相の一日」)。その内容のオフレコを解いたのだ。そこで首相は「実は、憲法改正をする必要がなくなったのです」と述べたという。

続けて言うには、「実は集団的自衛権の行使を決めるまでは、アメリカがやいのやいの煩(うるさ)かった。ところが、行使を決めたら、何もいわなくなった。だから改正の必要はない。ただ日本の憲法学者の七割近くが、自衛隊は憲法違反だと主張しているので、憲法九条の三項に自衛隊を認めると書き込んではどうか、と考えています」。

「アメリカが煩い」からとは。田原氏の記事が事実なら、首相の改憲意欲はその程度の浅薄なものということになる。また、9条に3項を新設し「日本国の自衛権の行使とそのための戦力の保持」を謳う改正案は、すでに1999年に小沢一郎・自由党党首(当時)が主張していた(『文藝春秋』99年9月号、98頁)。

首相はなぜいま唐突に、しかも小沢氏が20年近く前に提唱した加憲案を言い出したのか。これは自民党の改正草案とは整合しない。「森友」さらには加計学園問題から世間の関心をそらす煙幕ではないか。首相の保身のために改憲ムードが醸成されつつある。

(にしかわ しんいち・明治大学教授。5月19日号)

朝日新聞社阪神支局襲撃30年で追悼式典 支局前では攻撃街宣も

2017/06/02(金) 17:41

『朝日新聞』攻撃の街宣に対し「ヘイトスピーチ反対」の看板を掲げる市民。朝日新聞社阪神支局前。(撮影/平野次郎)

朝日新聞社阪神支局(兵庫県西宮市)に男が侵入、小尻知博記者(当時29歳)が凶弾に倒れてから30年になる5月3日、最近、建て直された支局に次々と偲ぶ人が訪れ献花した。展示室では小尻記者が座っていたソファ、穴の開いた同記者のブルゾンや血染めの原稿、重傷を負った犬飼兵衛記者の命を救った穴だらけの金属製ボールペンなどに見入っていた。

午後からは事件翌年から恒例のシンポジウム「言論の自由を考える5・3集会」(朝日新聞労働組合主催)が神戸市中央区の神戸朝日ホールで開かれ、約500人が参加した。

テーマは「『不信』『萎縮』を乗り越えて」。事件当時のテレビ映像が流されて全員で黙した後、登壇者4人が活発に議論した。作家の高橋源一郎氏は「以前なら口に出せなかったような『反日』という言葉を著名人が平気で使い、あの人が言うなら仕方がないかのような雰囲気になるのは怖い」などと語った。東京工業大学の西田亮介准教授(政策・メディア)は「情報量が多すぎて何が正しいのか判断がつかないのがフェイク(偽)ニュース横行の背景」と懸念した。

『朝日新聞』政治部次長の高橋純子記者は「決して記者たちは萎縮していないと思うがネットなどと違い新聞は多くのチェックを経て記事が出る。複数ソースの確認をいつも上司に求められる」などと話した。ジャーナリストの池上彰氏は「米大統領選を日本のテレビで見れば全米が選挙一色に見えるが現地は違う。集会ばかり報じるから勘違いする」とテレビ報道の落とし穴を紹介。シンポは仏大統領選のさなか、池上氏は「フランス人はアメリカ人よりも新聞を読むからネット情報などもすぐ信じない」と分析した。池上氏は「憲法記念日に新聞社が攻撃されたことを忘れてはならない」と締めくくった。この日、演壇と満員の客席の間に警備員が配置されていたのが気になった。

(粟野仁雄・ジャーナリスト)

【テロ煽動とヘイト一体化】

当日、小尻知博記者追悼の拝礼所が設けられた阪神支局周辺は、日の丸を掲げて『朝日新聞』を攻撃する街頭宣伝の男性と、それに抗議する市民らが対峙し、警察官数十人が警備する物々しい空気に包まれた。

「30年前の赤報隊による『朝日新聞』襲撃は義挙だ」。こう切り出した男性は「慰安婦」問題などは『朝日新聞』の捏造によるものが多いとし、「言論によるテロは散弾銃による報復を受けた」と決めつけた。そのなかで在日韓国・朝鮮人に対する蔑称を繰り返し、市民から「ヘイトスピーチやめろ」の声が飛んだ。男性は「この日本を否定するものを許さない」「反日分子には極刑あるのみ」とする赤報隊の犯行声明で締めくくった。

赤報隊を名乗る犯行は、1987年1月の朝日新聞東京本社銃撃をはじめ阪神支局襲撃など朝日新聞社への4件の襲撃のあと、88年3月の中曽根康弘元首相への脅迫状など3件、90年5月の愛知韓国人会館放火事件の計8件で終わる。最後の犯行声明には「反日的な在日韓国人を、さいごの一人まで処刑していく」とあり、いまのヘイトスピーチを予感させる。

時代背景はどうか。当時、中曽根首相は「戦後政治の総決算」を掲げて靖国神社への公式参拝を実現するなどした。こうした動きに反対する論調を主導したのが『朝日新聞』だった。中曽根首相は「近隣諸国への配慮」から翌年に参拝を見送り、復古調と批判された日本史教科書の修正を指示するなどし、赤報隊から「靖国参拝や教科書問題で日本民族を裏切った」との脅迫状を突きつけられる。

そしていま、「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍晋三首相。「近隣諸国への敵視」から言論統制を強め排外主義をあおることで、言論へのテロ煽動とヘイトスピーチを一体化させ右翼を勢いづかせる。30年前、闇から発せられた「反日」攻撃が、いま街頭で公然と発せられることに恐怖を覚える人は多い。

(平野次郎・フリーライター、5月19日号)

最低賃金、平均823円の現実(雨宮処凛)

2017/06/01(木) 11:48

4月、埼玉県のマンションで火事があり、留守番をしていた0歳から5歳の子ども3人が重症を負った。そのうち、4歳の女の子が死亡。この家庭は母子世帯で、30代の母親は仕事で家にいなかった。

この母親がどんな仕事をしていたのか、昼も夜も仕事を掛け持ちしていたのかなどはわからない。しかし、シングルマザーが0歳から5歳までの子どもを残して夜も働きに行かなければいけないというこの国の現実に、「ただの悲劇で終わらせてはいけない」と強く強く、思った。

この家族が住んでいた市には、24時間預けることのできる認可保育園はなかったという。シングルマザーたった1人に家計の担い手と子育て、家事負担がのしかかれば、このような事件が起きないことが「奇跡的な幸運」でしかない。毎晩、子どもだけを残して働きながら、母親はどれほど不安だったろう。

そんな事件が起きる数日前、「最低賃金1500円」を掲げるAEQUITAS(エキタス)の「上げろ最低賃金デモ」に参加した。

デモの前、そしてデモ中のスピーチで、最低賃金(最賃)全国平均823円のこの国の「現実」が紹介された。それは、エキタスがネットで呼びかけた「最低賃金が1500円になったら?」という問いへの回答だ。

一番多かったのが「病院に行ける」だったという。それ以外にも「ブラック企業をやめられる」「ダブルワークしなくて済む」「もやしと鶏肉以外の料理を食べられる」「薬を処方通り飲める」「貯金ができる」などの切実な声が紹介された。

もし、最賃が1500円だったら。

フルタイムで働いても年収300万円には届かないけれど、シングルマザーが子どもを置いて深夜働きに行くような、「綱渡り」の生活をしなくて済むかもしれない。

だけど、今の最賃823円では1日8時間、月に20日働いたとして13万1680円。一人暮らしだってギリギリの額だ。

最近、ダブルワークをして1日15時間働いているという女性に会った。

朝9時から夕方6時までラーメン店で働き、夜8時から深夜2?3時までキャバクラで働くという女性は、「どっちかをクビになってももうひとつあると思うと安心だから」とダブルワークの「利点」を話してくれた。

それくらい、「クビ」が当たり前の環境に生きているのだ。「保険」としてのダブルワーク。だけど、年を重ねれば1日15時間働くことはできなくなっていく。その時に、私たちに「保険」はない。

最賃823円の今を生きる多くの人が、「綱渡り」の現実を生きているのだと、改めて突きつけられた。

(あまみや かりん・『週刊金曜日』編集委員。5月12日号)

塩崎厚労相の会話メモ入手! 受動喫煙防止で自民が激烈な多数派工作

2017/06/01(木) 10:22

「幅は、厚労省案と分煙派の間の案です。まとまらなければ、自民党は今国会で出せなかったということになる。WHO(世界保健機関)基準はなんとか守れる法案を出したい。努力させてほしい」

5月15日の夕刻、約3カ月ぶりに開催された自民党の厚生労働部会(渡嘉敷奈緒美部会長)は、厚生労働省が示す受動喫煙防止強化案を自民党たばこ議連(会長は野田毅前税調会長)の溝が埋まらず、「原則禁煙」とする修正案は了承されぬまま終わった。上記の発言は、部会の終了間際、田村憲久政調会長代理がこぼした弁。

その田村氏は部会の冒頭、こう切り出していた。

「このまま受動喫煙防止の法律が提出できないことになれば、自民党は何もできない政党になる」

部会は最初から最後まで平行線をたどったということだ。

受動喫煙防止の対策強化案について、飲食店を全面禁煙とする案をかかげる厚労省と、それを阻止せんとする自民党たばこ議員連盟の攻防については小誌4月21日号等で詳説した。

両者一歩も譲らぬ状況が続く5月8日の昼、東京都内のホテルではインナー(重要メンバーだけの会議)が開催された。

茂木敏充政調会長、田村政調会長代理、渡嘉敷部会長に加え、厚労省案批判の急先鋒である野田たばこ議連会長、超党派の「東京オリンピック・パラリンピックに向けて受動喫煙防止法を実現する議員連盟」の尾辻秀久会長らだ。

ここで確認されたのは、屋内禁煙を原則としつつも、小規模飲食店については「喫煙」「分煙」の表示があれば喫煙を認めるという妥協案。厚労省は床面積30平方メートル以下のバーやスナック以外は屋内全面禁煙を掲げてきただけに、翌日の各紙には「厚労省案を骨抜き」という見出しが躍った。

インナーの結果について、田村氏が塩崎恭久厚労相に報告した際の電話記録を小誌は入手した。

塩崎大臣が「それは党としての決定か?」と聞くと、田村氏は「党というより、政調会長と両議連の代表が合意した」と答えに窮している。これに塩崎厚労相は「まともな議論をしたことがない」「部会もやっていないではないか」「部会を開くと約束したはずだ」と憤っている。最後は田村氏が「こんなことになると思っていなかった」とボヤき、電話は終了した。

ちなみに8日の夜、番記者から「受動喫煙はまとまりましたか?」と問われた菅義偉官房長官は、無愛想に一言、「知らない」とだけ言い放っている。

それから15日の部会開催まで、双方の多数派工作は激越を極めた。その模様を物語るやりとりメモがある。ある厚労族議員と厚労官僚で交わされた会話だ。

厚労族議員 自分は厚労省の案でいいと思っているんだが、田村先生から口封じの電話があった。表立った厚労省案賛成派に電話しまくっているのではないか。その電話の趣旨というのは、自民党の考えを作って固めれば厚労省は従わざるを得ないだろう、ということ。田村先生はそれでいいと思っている。恥をかくのは自民党だよ。

厚労官僚 官邸はどうなのでしょうか。

厚労族議員 官邸だって恥をかくだろうさ。

【丸川大臣を出席させず】

15日の厚労部会を議員だけのクローズ状態にした時点で自民党はすでに恥をかいている。

渡嘉敷部会長は部会終了後、メディアに向けて「今国会への法案提出はかなり厳しい状況になってきた」と他人事のように語ったが、部会が3カ月も開催されなかった理由は、渡嘉敷部会長に部会を開くだけの度量がなかったとしか言いようがない。

渡嘉敷氏は「部会に出席したい」と考えていた丸川珠代・東京オリンピック・パラリンピック担当大臣の出席をも拒んだ。「塩崎厚相を孤立させるためだろう」というのが周囲の一致した見方だ。

「閉ざされた自民党」が復活しつつある。

(野中大樹・編集部、5月19日号)

大阪万博とカジノの見返りか? 維新、「共謀罪」成立に“ゴマスリ”協力

2017/05/31(水) 10:54

“出来レース”の兆候は松井一郎大阪府知事の会見からあった。(撮影/横田一)

日本維新の会は、自公両党と「共謀罪(テロ等準備罪)」について、取り調べの可視化(録音・録画)やGPS(全地球測位システム)捜査の立法措置の検討を附則に盛り込む法案修正に合意。5月29日、同法案は衆院を通過した。現在、参院で審議が始まっている。

昨年12月に自公と維新の賛成で成立したカジノ法案と同じパターンだが、野党を標榜するものの実態は「第2自民党」「官邸別動隊」と呼ぶのがぴったりの維新の賛成で、「強行採決ではない」と与党が言い訳をすることが可能になる。維新を狂言回しにした官邸主導の“茶番劇”といえるのだ。

維新のブレーンだった元経産官僚の古賀茂明氏は、こう批判する。

「大阪の地域政党が国政に進出したことで、大事な政策を歪めてしまう。『大阪で万博をやります。そこにカジノを誘致しましょう』という地元への利益誘導のために、国政で譲ってしまうということです。大阪で維新が信任を得たのは『改革をします』という訴えが支持されたからで、安倍政権との連携が信任されたわけではない」

実際、松井一郎大阪府知事・維新の会代表は、悲願である「大阪万博誘致」と「カジノを含む統合型リゾート(IR)推進」で安倍政権と二人三脚を組んでいる。万博もIRも候補地は大阪湾の人工島「夢洲」(大阪市此花区)だが、南海トラフ地震の津波襲来想定区域で浸水や液状化が懸念されている。しかも交通手段が未整備であるため、液状化対策や地下鉄整備(約540億円)などの莫大なインフラ整備費が必要だ。

そこで安倍政権は「東京五輪後の経済対策は大阪万博」という錦の御旗を掲げることで、巨額の血税投入を正当化。一方、維新の悲願実現を後押しする安倍政権に恩返しするために、維新は前国会のカジノ法案や今国会の共謀罪などで協力しているに違いない。まさに「ギブ・アンド・テイク」の蜜月関係といえるのだ。

【終盤国会と都議選に注目】

両者の“出来レース”の兆候は、共謀罪法案が提出された先月から漂っていた。衆院での審議が始まった4月6日、府庁内の囲み取材で松井知事は「(共謀罪の)対案を出していきたい」と語る一方で、大阪万博立候補の閣議了解が予定よりも1カ月早まったことについて、感謝していたからだ。

「(閣議了解の前倒しについて)ありがたいと思っています。閣議決定をしていただければ、速やかにBIE(博覧会国際事務局)に申請をしたいと思います。開催地の組長として国とご一緒したいと思います」(松井知事)

政府が大阪への莫大な血税投入という“餌”をまき、それに地域政党の維新が食いつくという構図。この時点から「当初は反対する構えを見せ、最後は修正協議をして賛成に回る」という維新・官邸合作のシナリオが透けてみえた。

修正合意3日前の8日夜には、大阪万博誘致を目指す超党派議連会長の二階俊博自民党幹事長が、維新の馬場伸幸幹事長と遠藤敬国対委員長と会談。大阪誘致の機運醸成に向けたイベント開催の考えを示すと同時に、維新との修正協議の歩み寄りについても触れた。自民党が万博を後押しする見返りに、維新が共謀罪法案成立に協力する“癒着”を物語るものだ。

これに対して、民進・自由・社民の野党3党は11日、テロと組織犯罪対策を目的とした法案(「航空保安法案」「組織的犯罪処罰法改正案」)を衆院に共同提出。同日の会見で蓮舫民進党代表は「現実的なテロ対策の強化法案」と強調。修正協議の真っ最中であった「維新の政権補完勢力的な役割」について聞くと、直接的な批判は避けたものの、「国民の皆さんには各政党がこの『共謀罪』についてどのような対応をしたのかは、よく見ていただきたい」と答えた。

なお「共謀罪は都議選の争点」と会見で表明した蓮舫代表は7日、都議選予定候補の応援演説で共謀罪法案を批判、対案提出も予告。

終盤国会の動向とともに共謀罪反対の民意が、都議選や次期衆院選でどう現れるのかが注目される。

(横田一・ジャーナリスト、5月19日号)

「ヘイトスピーチ解消法」成立1年だが、現場の「街頭宣伝に変化はない」

2017/05/30(火) 18:06

5月10日、参議院会館において「ヘイトスピーチ解消法成立1年」の院内集会が行なわれた。

同法の成立に多大な貢献をした有田芳生参議院議員は「法務省の人権擁護局長は休日にも拘わらずヘイトデモの現場に来ていたと聞いた」と個々の意識の高まりを評価する一方、同じ法務省がヘイトスピーチに関するパンフレットを作っておきながら、ほとんど広報宣伝をしておらず、その冊子の内容にも不備があることを指摘した。「『(パンフには)ヘイトスピーチに明確な定義はありません』と書かれていましたが、それこそヘイトスピーチ解消法を読めば理解できます」。北村聡子弁護士は施行後1年間のヘイトスピーチの実態を「デモは確かに減った。しかし、街頭宣伝については変化がない」と発言。「調査結果を受けて以前に戻ってしまうのではないかと思う」と危惧を表した。

法律ができた意義は大きく、かつてはまるでレイシストを守っていたかのような自治体や警察の対応が施行後は大きく異なってきたことはさまざまな地域で確認されている。しかし、それらもまた、全国的に統一がなされた対応ではなく、今後は有機的なつながりを持つことが課題として挙げられた。

主催した「人種差別撤廃基本法を求める議員連盟」の小川敏夫会長が冒頭のあいさつで「国民全体の意識の中で(差別やヘイトが)絶対に許されないことだということを高めていく上でも効果的だと考える」と語っていたが、その意味でも各省庁が一体となっての広範な啓蒙活動が必要と言えよう。

先般、Jリーグ川崎フロンターレのサポーターが韓国のチームとの試合において旭日旗を掲げたことで、AFC(アジアサッカー連盟)より「人種差別を禁止する倫理規程」に違反したものとして1万5000ドルの罰金が課された。Jリーグもヘイトデモで必ず振られるあの旗がどういう意味を持つかを認識してほしい。

(木村元彦・ジャーナリスト、5月19日号)

JKビジネス摘発で思わず本音? 上西小百合衆院議員を狙った警視庁

2017/05/29(月) 12:23

5月9日、女子高生を無理やり働かせたとしてJKカフェ経営者が児童福祉法違反容疑で警視庁に逮捕された。ところがこの経営者が社長を務める芸能プロダクションのホームページに所属タレントとして上西小百合衆議院議員の名前が掲載されていた。ネット上で一時物議を醸したが無断使用だったことが判明、名前は削除され騒動は一件落着した。しかし、この裏で警視庁の怪しげな動きが明らかになった。2年前にカフェの名義上責任者になっていたX氏が東京・秋葉原の万世橋警察署で取調べをうけた時のことだという。

「私を取り調べた刑事は、契約書を見ているからわかっている。そこはつつくつもりはないと言い、調書をとっていたノートパソコンを閉じると、『ところで上西さんとはどういう関わりなの? 何回会った? 給料はどうなっているの?』と、上西さんのことばかりしつこく聞いてきたんです。警察は上西さんが所属していると勘違いしていてなにかがほしい様子でした。所轄がそんなことやるんですか、と聞くと、ちょっと上が興味を持っていて、と言うんです。“上”とは本庁なんだと。警察の目的がなにかわかりませんが、私ではなく上西さんについて探るのが目的だったのかと思うと、不気味な感じがしました」(X氏)

上西議員は自民党と連携する日本維新の会を批判し、森友学園問題でも発信を続けている。政権にとって目障りな存在ではあるが……。上西事務所の秘書によると「森友問題以降、これまで付き合いのなかった官邸担当記者が探りにくるようになりました」という。

これを知った上西議員は「私に関係ない事件で警察はこのような捜査をしてくる。こんな警察が信頼できますか。警察の裁量が拡大する共謀罪なんてナンセンスです」と憤る。国民を監視したがる警察こそ監視しなければならない存在なのではないか。

(平井康嗣・編集部、5月19日号)

JR東海が住民無視のトンネル堀削 リニア事業の限界露呈

2017/05/26(金) 11:25

リニア中央新幹線の建設を進めるJR東海は、4月27日、2015年末の山梨県側での着手に続き、南アルプストンネルの長野県工区(8・4キロメートル)の掘削を開始した。現場は除山という大鹿村の釜沢集落の川向いの山の麓。長野県内で本体工事にかかる作業用トンネルの掘削は初となる。

しかし、難工事への挑戦にもかかわらず、掘削の連絡が大鹿村や釜沢地区の自治会になされたのは前日。釜沢への通知はメールで1行触れられていただけだ。私は釜沢の隣の上蔵地区に住むが、新聞記者から問い合わせを受けて当日午後はじめて着手を知り、いっしょに現地を見に行った。

掘削現場に通じる道路はゲートができ近づけないため、重機の騒音が響く釜沢集落の林道から急斜面の山中を10分ほど下り、工事現場の対岸に着いた。現場は山肌にトンネルの入り口が据えられていたものの、他に完成した建設物は見当たらない。掘削作業ではなく、川沿いに防音壁を作業員が1枚1枚設置していた。

もともとJR東海が、南アルプストンネルの掘削開始を予定していたのは、上蔵地区の小渋川非常口だ。ところが昨年11月の小渋川現地での起工式では、住民の抗議を受け社長と長野県知事も含め、来賓多数が会場に足止めされた。その上、掘削地の保安林の解除手続きが長引き、解除予定を林野庁が告示したのが今年2月。

それに対し住民から多数の異議意見書が提出されたためさらに遅れ、2番目に掘削する予定だった除山非常口で起工式から半年後の安全祈願祭となった。

現在長野県内で排出される974万立方メートルの残土の最終処分地が決定した場所はなく、今回の着手のあり方そのものが、むしろリニア事業の限界を示している。

南アルプスの自然破壊を懸念する登山者グループは、4月10日に都内で記者会見を開き、3912筆の賛同で工事への反対を表明している。

(宗像充・ライター、5月12日号)

自民区議の後援会に「ヤミ政治団体」の疑い 政治資金規正法違反か

2017/05/25(木) 12:07

葉梨康弘衆議院議員(自民)の親族にあたる葉梨俊郎杉並区議会議員(会派名・杉並区議会自民党)の後援会団体が法律で義務づけられた設立届出をしていないことが発覚、違法な「ヤミ政治団体」である疑いが浮上した。

2014年6月の区議補欠選挙に関連した葉梨氏の「選挙運動費用収支報告書」にこう記述がある。

「2014年6月21日/7万円/寄附/はなし俊郎後援会(政治団体)」

「はなし俊郎後援会」という政治団体から葉梨候補(予定者)に対して7万円の寄附をしたという意味である。だが、東京都選挙管理委員会や総務省政治資金課に照会したところ、「はなし俊郎後援会」の届出はなかった。葉梨俊郎氏に関連する政治団体は一つも存在しない。

政治資金規正法6条は、政治団体の活動について、都道府県選挙管理委員会や総務大臣への届出と収支報告書の提出などを義務づけている。また同8条は、無届出のまま寄附を受けたり支出をすることを禁止。違反者に対しては「5年以下の禁錮または100万円以下の罰金」という厳しい罰則をもうけている。

「はなし俊郎後援会」のヤミ政治団体活動がこれらの法律に抵触するのは明らかだ。

葉梨区議の自宅に質問状を送ったが締め切りまでに回答はなかった。

葉梨区議は2003年、自民党公認で杉並区議に初当選。一度落選したのちに14年の補欠選挙で再び議員となり、15年の統一選でも当選して現在にいたっている。

議長だった05年には政務調査費(当時)9万円で冷蔵庫を購入して批判された。15年には、区議選1カ月前の3月末に、杉並区広報を丸写しにしたチラシを2万5000部と大量に作成して配布、経費約80万円を政務活動費で支出した。現在一部返還を求める住民訴訟が東京地裁で続いている。

(三宅勝久・ジャーナリスト、5月12日号)

賃上げ闘争のため、新たに「秋闘」を(高橋伸彰)

2017/05/24(水) 20:10

黒田東彦・日本銀行総裁による異次元の金融緩和から4年を経ても、2%の物価安定目標を達成できないのは、デフレの真因が貨幣量の不足ではなかったからだ。1990年代後半以降20年近くにわたり、グローバル競争での生き残りを口実に大手輸出企業が先頭に立って賃金を抑制したからデフレに陥ったのである。

そのことに安倍首相も気づいたから、財界主導の「官製春闘」で賃上げを図ろうとしたのではないか。実際、2014年9月の経済財政諮問会議における榊原定征経団連会長の「法人実効税率を真水で2%下げれば、賃上げに回すことができる。今年の賃上げ、しかもベアが実行できたのは総理の御英断で、復興特別法人税を1年間前倒し廃止したことが、非常に大きな力になった」という発言を受け、安倍政権は早々に法人税率を従来の25.5%から15年度は23.9%、16年度に23.4%、18年度以降は23.2%への引き下げを決定した。

しかし、労働者にとっては脱デフレを図り、アベノミクスを成功に導くことが賃上げの目的ではない。現在の生活を守り、将来の安心を確保するのが目的である。それにもかかわらず、連合は主要企業の集中回答があった3月15日のアピールで今春闘を「『経済の自律的成長』実現に向けた労使の社会的責任や人への投資が企業の存続と成長に寄与することを訴え(中略)4年連続して賃上げの回答を引き出している」と総括する。

鉄鋼労連で長年にわたり春闘の賃上げ闘争を支え、連合の政策委員長も歴任した千葉利雄は、自戒も込めて日本経済の発展や企業の生き残りに対して労働組合が協力するのは、あくまで「例外的なもの、つまり危機管理的な、緊急避難的な手段と位置づけるべき」(『戦後賃金運動』)と述べ、危機が去れば「労働組合は機を失せずに本来の積極的な分配闘争に立ちもどって、主体性を強めていかないと、運動の生命力が弱くなっていく」(同)と警告する。

かつての石油危機とは異なり、現在のようにマクロ的にはプラス成長が続き企業収益も好調を示す中、労働組合があえて賃上げは経済成長や、人への投資を通して企業の成長や存続にも寄与すると訴えて春闘に臨む必要はない。

また、もしかりに大企業労組が中堅・中小労組や未組織労働者を気遣い、本来勝ち取れるはずの賃上げを自制しているなら、それこそ本末転倒である。なぜなら大企業労組が賃上げ要求を抑えたことで増える企業収益は、結果的に経営者の報酬や株主の配当に回り、日本全体で見れば階層間の格差が拡大するからである。

前出のアピールで連合が「すべての働く者の処遇の『底上げ・底支え』『格差是正』の実現をめざしている」と訴えるなら、傘下の大企業労組はむしろ可能なかぎり大幅な賃上げを獲得したうえで、身銭を切って中堅・中小労組や未組織労働者を支援すればよい。

賃上げの不足による個人消費の停滞は、労働者が現在の生活に苦しみ、将来の生活に不安を抱いているあらわれにほかならない。連合には春闘で取り残した分は、新たに「秋闘」を組織しても取り返すくらいの気概をもって賃上げ闘争に臨んでほしい。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。5月12日号。一部敬称略)

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