現在脅かされている諸権利について

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(日本仮訳PDF)
(裁判長: ヒアリングを再開します。まずマックス・デュ・プレシー教授に発言を求めます。教授、ご発言ください。)
(デュ・プレシー氏、登壇)
(保護が求められる権利の性格およびその権利と必要な措置との関係)
(序)
1. 裁判長閣下、列席判事各位、こうして発言する栄誉に預かりました。本手続において、南アフリカを代表することは、誠に名誉なことであります。私は、南アフリカが請求の中で保護するよう求めている権利の性格、および、その権利と必要な措置との関係について述べます。
2. ICJの確立した判例や最近のガンビア事件におけるICJの決定によれば、ICJが仮保全措置を命じる権限を行使するうえで、本案で南アフリカが主張し保護を求めた権利がそれに当たりますが、「少なくとも見込みのある」ことが必要とされます(160)。
3. この条件はICJに対し、「南アフリカが保護するよう求めている権利が存在するか否かについて確定的な判断」をするように要求してはいません(161)。
4. そうではなく、ここで主張している権利は、単にジェノサイド条約の「あり得る解釈の前提」であるべきで(162)、ICJはそのような方法によって、次の段階ではいずれかの当事者に帰属すると判断されるであろう権利の保護に主眼を置かなければなりません(163)。

(保護されるべき核心的権利)
5. ガザのパレスチナ人はパレスチナ国民・人種・民族的集団の重要な一部であり、それゆえに、また確かに、そこに存在する資格を有しています(164)。
6. 南アフリカ大使が冒頭で指摘したように、存在する権利とその権利に対する脅威を位置付けるため、ICJに対して、南アフリカのこの請求が特定の文脈の中にあることを認めるよう求めます。現在、ガザで起きていることを、単なる二当事者間の紛争として規定することは適切ではありません。むしろ、イスラエルという占領勢力による破壊行為を伴い、パレスチナ民族に対して、半世紀以上にわたり、深刻で永続的な自決権の侵害を強いてきた中に位置づけられます。パレスチナ占領地域に関する国連特別報告者が2022年に説明している通り、「イスラエルによる占領は国際法や数百の国連決議に対する著しい反抗であるが、国際社会はほとんど態度を示さなかった」のです(165)。
7. 南アフリカが請求の中で明確にしている通り、この文脈が重要であります。イスラエルが故意にパレスチナ人の権利を反故にしてきたにもかかわらず国際社会は長年にわたってパレスチナ人を裏切ってきた中で、いまこそ南アフリカはICJに対し、ジェノサイド行為やその未遂、直接かつ公然のジェノサイドの扇動、ジェノサイドに関与する共犯・共同謀議から保護されるべきガザのパレスチナ人の中核的権利を保護するよう求めます。ICJも関知しているように、ジェノサイド条約は、殺害、重大な肉体的・精神的危害を加えること、肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を課すこと等によって、集団やその一部を破壊することを禁じています。
8. さらに、これらの中核的権利によって、ジェノサイド条約は、集団構成員の物質的・精神的一体性への権利も保護しています。ガザのパレスチナ人は、女性も男性も子どもも、集団の構成員であるがゆえに、集団自体の保護と同様に条約による保護を受けます。
9. 他の南アフリカ代表が説明した事実にが示すように、また、南アフリカの請求の中で補強証拠を付して詳細を示しているような膨大な事実が示すように、この中核的権利が侵害され、脅威に晒されています。本日、ICJでのこの弁論においてお聴きの通り、南アフリカは映像や写真の提示を控えることにしました。ICJをスペクタクル劇場にしないために、そう決めたのです。列席判事各位と同じく南アフリカも、一般に紛争の当事者は衝撃を与えるために写真を見せたいという衝動があることを理解しています。しかし、本日、ICJへの南アフリカの請求は、画像ではなく明確な法的権利に基づくものです。裁判所に示した詳細な資料は、厳格に、ICJの仮保全措置の先例を示すために整理されたものです。さらに、南アフリカは、前例のない証拠に基づき、パレスチナ人の権利が、過去の仮保全措置決定によって、この権威ある裁判所が保護した被害者集団の権利と同等に保護されるべきであることを基礎に、本件を提起しています。
10. 資料は、争点となっている権利とそれに対する侵害を、すなわちイスラエルは「集団殺害」とされるに足る行為に関与してきたこと、現在も関与していること、を裏付けています。ハシーム氏からお聴きになった通り、昨年10月7日以来、ガザのパレスチナ人は子どもを含む数千人が直接に絶滅させられようとしているだけでなく、ガザの人口の85%以上が故郷からの避難を強制され、適切な避難所や医療もないまま一層狭い地域に押し込められ、そこで攻撃・殺害され、あるいは危害を加えられています。南アフリカと世界は、ともに、このことの証人になっています。イスラエルによる生存に必要な条件の否定が現在進行中である以上、パレスチナ人の権利は、早急かつ緊急の保護を必要としています。これ以上に明確かつ緊急の事案を想定することは困難であります。国連世界食糧計画のチーフ・エコノミストであるアリフ・フセイン氏は、1週間前の1月3日、次のような鬼気迫る警鐘を鳴らしました:
「20年間この仕事をし、あらゆる種の紛争やあらゆる種の危機に直面してきた。そして、私にとって、ガザは前代未聞である。その理由は、1つにはその重大性、規模、特定の場所の全人口に及んでいること、2つ目は過酷さであり、3つ目は、事が起こり、展開し、異例のものになる早さである。深刻さ、規模、展開の速さのいずれをとっても、これほどのものは見たことがない(166)。」
11. 裁判長閣下、列席判事各位、南アフリカが請求の中で示している通り、中核的権利が侵害されていることは明らかです。南アフリカの請求の中に示されているように、国連機関の専門家(167)や種々の人権機関・組織(168)、あるいは国家(169)による弁論の全てが、そのことを裏付けています。それら弁論は全体として、イスラエルによってなされている行為が集団殺害に当たるものとしておりますし、非常に控えめな表現を選んでもパレスチナ人がジェノサイドの危機に遭っているとの警告を発しています。南アフリカの請求による手続が開始されて以降、アラブ連盟や57ヵ国のイスラーム協力機構を含めて今日までに13か国(170)と各方面の専門家たち(171)が、本件への支持を表明しています。このことは、南アフリカによる仮保全措置請求には見込みがあることを示しています。
12. 仮保全措置の提示を得るために、南アフリカが求めているジェノサイド条約上の権利とその保護は、まさに同条約の目的そのものと合致します。裁判所に提出した資料に基づき、本件で問題となっているイスラエルの行為は、少なくとも、集団殺害としての性格を有すると判断するに足るものです。ンガトゥビ氏が詳しく説明した通り、特段の集団殺害の意図があることは、イスラエル政府高官や軍人がガザのパレスチナ人に向けて発した声明が証明するところであり、少なくとも、集団殺害として性格付けられると見込まれます。この少なくとも「見込まれる」集団殺害の意図は、ガザのパレスチナ人に対する一連の行為からも演繹可能です。繰り返しますが、非常に小さく見積もっても、イスラエルがジェノサイドやその共同謀議、直接かつ公然のジェノサイドの扇動、ジェノサイドの未遂や共犯について防止も処罰もしていないと見込まれます。さらに、南アフリカには、その統治権の範囲内で、ジェノサイドを実行したり関与しようとしたりしている者、直接または公然とジェノサイドを扇動する者に対して、効果的な働きかけをするためのあらゆる合理的手段を講じて、ジェノサイドを防止する義務があることも明らかです。そこで、次のことを明言いたします:南アフリカが負う義務は、ガザのパレスチナ人を保護する、また集団殺害行為の犠牲にならないという彼らの絶対的権利を保護する必要性を基礎としています。
13. イスラエルを相手方とする申立ては疑いの余地のないほど深刻ではありますが、集団殺害の意図の存在が提出された資料から推論できる唯一の見込みのある判定であるのかを、仮保全措置を決定する前の段階でICJは判断する必要はありません(172)。このことをICJは本案審理において判断することになるでしょう。
14. さらに、南アフリカは、ハマースを壊滅させようというイスラエルの意図や行為にかかわらず、ガザのパレスチナ人全体またはその一部に対するイスラエルの集団殺害の意図は排除されないことを強調してきました。加害者の行動の背後にある動機を示す証拠をもってしても、構成要件である集団殺害の意図をイスラエルが有していたという判断から免れることはできません(173)。さらに、ジェノサイドの根本的特徴として、ジェノサイドとそれに関連する犯罪行為は、一般国際法上の強行規範(ユス・コーゲンス)としての性格を有しています。ゆえに、いかなる例外も留保も認められません(174)。これは、戦時・平時を問わず、常に、いかなる場所でも、絶対的な性格を有しています。
15. さらに、本件で争点となっている行為がジェノサイド以外の犯罪でもありうることを理由に、集団殺害の意図があったと見込まれるとの推論を排除すべきではありません。国連事務総長も述べているように、ジェノサイドの禁止は、人道に対する罪や戦争犯罪の防止と「本質的に結び付いて」います。これらの犯罪は、別個の事件としてではなく、「むしろある状況下で同時に起こることが多く、結果として、これらの犯罪のいずれかを防止しようとすれば、ほとんどの場合、他の犯罪も対象に含むことになる(175)」のです。さらに、国連国際法委員会(ILC)の国家責任条文に書かれている通り、「ジェノサイドという違法行為は、一般にそれら自体が国際法上違法な一連の行為にから構成され(176)」ています。

(保護されるべき権利:南アフリカ/対世的義務)
16. 裁判長閣下、列席判事各位、南アフリカの主張は、このように、第一にはジェノサイド条約の締約国として、ジェノサイドを防止し処罰するために行動する自らの義務に関わるものです。請求の中で、南アフリカは「条約の締約国としてジェノサイドを防止する自らの義務を認識している(177)」と強調しています。現にICJも「ジェノサイドを非難することと、そのような憎むべき犯罪から人類を解放するために求められる行動の双方が、普遍的性格を有する(178)」ことを承認してきました。ジェノサイドの禁止は「明らかに、国際法上の強行規範(ユス・コーゲンス)(179)」ですから、ジェノサイド条約の下で、国家がジェノサイド行為を防止しようとするのは不可欠なことです。
17. さらに、ジェノサイド条約の「特別の性格(180)」から、被申立国は、パレスチナ人だけでなく南アフリカを含むジェノサイド条約の全ての締約国に対して、この義務を負っています。
18. このことはICJも繰り返してきましたし、最近ではガンビア事件判決の中で、以下のように述べています:
「ジェノサイド条約の全締約国は、ジェノサイド行為を防止し、万一それが起きた場合に、その当事者は免責されないという共通利益を有している。この共通利益とは、どの締約国も、他の全ての締約国に対して、条約上の義務を負うことを意味する(181)。」
19. 同様に、ICJが何度も述べてきたように、「このような条約においては、締約国は自らにとっての利益を有しているのではありません。全ての締約国は、条約の崇高な目的の達成という共通利益のみを有しており、このことこそ、条約の存在理由であります(182)。」
20. したがって、「ジェノサイド条約のどの締約国も、特に影響を受けた国でなくても、対世的義務違反を解明し、それを終了させる責務にもとづき、他の締約国の責任を追及することができる(183)」との判断が導かれたのです。これにより、南アフリカは[締約国の]集団的権利と個別の権利とを主張しています(184)。
21. ゆえに、ジェノサイド条約の下で南アフリカがイスラエルの責任を追及できることは、疑いありません。ジェノサイド条約の締約国として「共通利益」に含まれる南アフリカの利益に基づき、南アフリカは、この条約の遵守を確保する資格を有しています。

(他の事件との比較)
22. 説明している通り、イスラエル軍の手によってガザで引き起こされている事件は、驚くほど前代未聞のものです。しかし本手続においてICJに問われていること、すなわち集団殺害行為を一度停止させることは、残念なことに決して新しい出来事ではありません。ジェノサイドに関して言えば、ICJは、次のような類似の事態で、仮保全措置を命じています。すなわち、ガンビア事件では、本件と同じく、ジェノサイド条約に基づく対世的権利を根拠として、仮保全措置が請求されました。またジェノサイドに関してICJは、ボスニア事件(185)やウクライナ事件(186)でも、同様の判断を示しています。さらに最近では、拷問等禁止条約に関しても、ICJが締約国の権利の対世的性格を承認するようになっています(187)。
23. 南アフリカは、本件において、ガザのパレスチナ人の権利が、仮保全措置に関するICJ規程第41条に基づき、まさにICJがその顕著な力によって保護するに値することを敬意を以て主張します。ガンビア事件で、「ジェノサイド条約の下で保護される集団の権利と、それに対応する締約国の義務、そして他の締約国に条約の遵守を求める締約国としての権利との間に、相互に連関関係がある」と判示したように、ICJは本件でもそう判断せずにはいられないはずです(188)。

(ICJ規程41条との適合性-パレスチナ人と南アフリカの権利-条約上の権利)
24. よって、南アフリカの請求は、当裁判所規程第41条に適合し、「この後、いずれの当事者に帰属するかを判断することになる権利を仮保全措置によって保護する(189)」というICJの権限行使とから構成されるものです。南アフリカはICJに対し、決定的な保護する権限を行使するよう要求します。この要求は自らの明確な権利と、国際社会全体に対して負っている崇高な義務に基づいています(190)。
25. ICJが1つまたは複数の仮保全措置を決定するためには、保護しようとしている権利と求められている仮保全措置との間に連関がなければなりません(191)。請求の中で南アフリカが主張している権利と要求している仮保全措置との間には明らかにそのような連関が存在し、その仮保全措置は本件の主題となる権利と直接結び付いています。よって、ここで請求する仮保全措置は「最終的にこの後ICJが下す判決の基礎(192)」となる権利を保護するものなのです。
26. 本手続の争点となっている権利は、確かに「少なくとも見込みがあり」、ジェノサイド条約第1条がジェノサイドの防止と処罰の義務を締約国に課し、それによって集団やその一部をジェノサイドから保護しようとしていることに鑑みれば、条約の「あり得る解釈に基づく」ものです。
27. ジェノサイド条約は、締約国と人間の集団の双方を保護するように作られています。条約に違反する行為がある場合、保護を受けることは、侵害を受けた人民や対象となる集団の基本的権利であります。ガザのパレスチナ人の基本的権利は、ICJのいかなる本案判決でも、主題となるでしょう。
28. 裁判長閣下、列席判事各位、今ここに述べたこと以外の判断がなされれば、パレスチナ人は他の集団と異なる扱いでよいだけでなく、保護するに値しないとも主張することになります。そうなれば、ICJにとっても、その権限を不当に制限し、膨大な先例に背を向け、ジェノサイド条約の中核にある権利の侵害に対して目を閉ざすことになるでしょう。そして、その権利の侵害は今まさに、私が弁論を終えようとするこの時も、ガザで起きていることなのです。
 裁判長閣下、次にニ・グラーレー弁護士をここに招き、さらなる裁量殺害の行為や回復不可能な被害のリスク、そして緊急性について述べることを要請します。ご清聴ありがとうございました。
(裁判長: デュ・プレシー教授、ありがとうございます。)

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