Adila Hassimさんの弁論

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(日本語仮訳PDF)

(裁判長: 次にアディラ・ハシームさんに発言を求めます。ハシームさん、ご発言ください。)
(ハシーム [Adila Hassim] 氏、登壇)
[訳注: ハシーム氏は、イスラエルによる爆撃、強制移住(避難)、封鎖による生活物資・支援物資の搬入妨害、といった“ジェノサイド行為”を、報道や国連の報告をもとにビジュアルを交えて列挙しています。]
(ジェノサイド行為)
1. ありがとうございます。裁判長閣下、列席判事各位、こうして非常に重要な意味のある事件について南アフリカを代表して発言できることを光栄に思います。この事件はジェノサイド条約の前文に表現されているように人類が共有する人道主義のまさに根幹を表現するものなのです。
2. ここで私は、国際司法裁判所規程第41条に従って暫定措置の緊急要請に至ったジェノサイド行為について国際法廷へ申し述べる任務をあずかっています。南アフリカはイスラエルがジェノサイドと定義されている行為の一部を行い、ジェノサイド条約第2条に違反したと主張します。その行為はジェノサイドと推認できる全体的行動パターンを示しています。
(全般)
3. それらの行為を広範な文脈の中に位置づけてみましょう。ガザ地区はイスラエルが1967年以降占領を続けている2か所のパレスチナの領土のひとつです。ガザはご覧にいれている地図のように細長い形状で、面積はおよそ365平方キロメートルです(12)。イスラエルは空域、水域、陸上の検問所、給水、電力、通信設備、ガザ地区民間インフラを現在にいたるまで掌握し(13)、その他の主要な政府機能も掌握しています(14)。すでに大臣がご報告しているように、陸上と海上とでガザの出入域を禁止しており、イスラエルは2か所の検問所だけを開いています(15)。ガザは世界でも有数の人口密度の高い地域で、およそ230万のパレスチナ人の生活拠点ですが、そのほぼ半数は子どもたちです。
4. これまでの96日間、イスラエルはガザに対して、通常兵器による近代戦としてはもっとも激しい爆撃のひとつと言われる攻撃を続けています(16)。ガザのパレスチナ人は空から、陸から、海からのイスラエルよる爆弾で殺されています(17)。
5. さらにイスラエルによる封鎖が続いているため、パレスチナの街が破壊されているため、パレスチナ人全体に届くべき支援が不足しているため、また爆撃されるために支援が配分不能になっているため、パレスチナ人は飢餓、脱水、あるいは病気による差し迫った死の危険にもさらされています。イスラエルによって、生命のための必需品が入手不能になっているのです(18)。
6. 本日、暫定措置段階において国際法廷がガンビア対ミヤンマー事件で示した判断に従えば、イスラエルの行為がジェノサイドを構成するかについて国際法廷は最終的に判示する必要がありません。判示する必要があるのはただ“訴えられている行為の少なくとも一部がジェノサイド条約の規定に合うものであるか”に限定されます(19)。南アフリカが示した告発にある進行中のジェノサイド行為を精査すれば、少なくとも一部の行為は、あるいはすべての行為は、ジェノサイド条約の規定を満足することが明白です。
7. これらの行為は南アフリカが提出した要請文書で詳細に記載され、さらにしばしば国連も含めた信頼できる情報源で確認されています。従って、それらをすべてここで口述することは不要であり不可能でもあるのです。ジェノサイド行為のパターンを示すためにはそれらの行為の一部をここで強調しておくことにします。依拠している国連による数値は2024年1月9日現在の最新情報です。
8. 南アフリカの口頭弁論の中では一部に映像と音声を使ってそのような事実をお示しします。裁判長閣下、私たちはそのような情報を必要とされる場合に限定したうえで、節度をもって、パレスチナの人びとへの敬意とともにお示しするものです。
9. この前提に基づき、これからイスラエルがどのようにジェノサイド条約の第2条(a)、第2条(b)、第2条(c)、および第2条(d)に違反しているかを順に説明します。

(一連のジェノサイド行為)
(第2条(a)、ガザ地区でのパレスチナ人殺害)
10. イスラエルが犯したジェノサイド行為の第1は、ガザでのパレスチナ人大量殺害であり、ジェノサイド条約第2条(a)に違反します。
11. 国連事務総長が5週間前に、イスラエルの殺戮は大規模であり“ガザに安全な場所がまったくない”と報告しています(20)。今日ここで口述しているときまでの3か月間にわたる持続的な攻撃によって、イスラエル軍は23,210人のパレスチナ人を殺害し(21)、そのうち少なくとも70%は女性または子どもであると信じられています(22)。7000人ほどのパレスチナ人は行方不明となっており、がれきの下で亡くなったとされています(23)。
(ここから写真を示す)
12. ガザのパレスチナ人はどこへ行っても絶え間ない爆撃にさらされています。家にいても殺されます。避難しようとした場所で殺されます。病院で、学校で、モスクで、教会で、家族のために食料や水を探しに出て、殺されるのです。避難しそこなうと殺されます。避難した場所でも、あるいはイスラエルが宣言した“安全経路”に沿って避難している間にも、殺されます(24)。
(写真表示ここまで)
13. 遺体で発見された人は集団墓地に埋葬されますが、殺戮がたいへん大規模でだれの遺体かわからないことも多いのです(25)。
14. 10月7日に続く3週間でイスラエルは毎週6000個の爆弾を投下しました(26)。少なくともそのうち200回はパレスチナ南部の“安全”と指定されている地域に1トン爆弾を投下しています(27)。そのような爆弾は北部地域でも使われ、北部の避難所をいくつも完全に破壊しました(28)。1トン爆弾は通常兵器として最大級、かつ最も破壊力の大きい爆弾です(29)。このような爆弾が地上標的に向けて殺人用ジェット戦闘機から、世界有数の力をもつ軍によって投下されたのです。
15. イスラエルは、“比類のない、前例のない”数の民間人を殺害してきましたが(30)、しかも爆弾1個ごとに失われる民間人の生命を完全に予測した上での行為です(31)。
16. 2人以上の家族を失ったパレスチナ人世帯が1800以上に及ぶだけでなく(32)、多世代で暮らしていた何百もの家族が全滅させられました(33)。ひとり残らず、母親も、父親も、子どもたち兄弟姉妹も、祖父母たち、叔母たち、従兄弟たち --- しばしば全員が一撃で殺されてしまいました。
17. このような殺害はパレスチナ人の命脈を破壊するものに他なりません。意図的に実行されているのです。ひとりも残さず、乳児さえも残さずに(34)。ガザでパレスチナ人の子どもが大規模に殺されている状態をを見て、国連の高官らは“子どもたちの墓場”と表現しました(35)。これらの行為は、南アフリカが要請書面で述べているように、ガザを破壊する意図をもってまさにガザを破壊しているのであり、いかなる法的正当化も、人道上の正当化ももちろんのこと、まったく及ばないものです。

(第2条(b)、ガザ地区のパレスチナ人に精神的および身体的傷害を惹き起こす)
18. ジェノサイド行為の第2は、南アフリカが要請書面で示したように、イスラエルがガザ地区のパレスチナ人に身体的および精神的傷害を惹き起こしており、これはジェノサイド条約第2条(b)に違反します。
19. イスラエルによる攻撃のため、60,000人近いパレスチナ人が傷害または重傷を負っており(36)、その大半は、これもまた、女性と子どもたちです(37)。医療体制が完全に崩壊している中でのできごとです。これについてはあとでまた触れます。さらに、子どもたちを含む多くの民間人が拘束され、目隠しをされ、服を脱ぐように強制され、トラックに乗せられ、どこかに連れ去られました(38)。パレスチナ人が受けた身体的・精神的被害は否定のしようがありません。

(第2条(c)、身体の一部または全部を破壊する目的をもった生活条件を意図的に特定集団へ課すこと)
20. ジェノサイド行為の第3、第2条(c)に移ります。イスラエルは意図的にガザの人びとに生命を維持できない生活条件を強制し、身体的破壊を画策しています。イスラエルは少なくとも次の4つの手段を用いています。
21. 第1の手段は強制移転です。イスラエルはガザに住むパレスチナ人のおよそ85%に移住を強制しています。強制です。しかしその人びとが逃れて行く先には安全がありません。また住居を離れられない人、移住を拒否した人はすでに殺害されてしまったか、今後自らの家で殺される恐れがたいへん大きい(39)。安全な場所を求めて家族がやむなく移住するため、パレスチナ人の多くは何度も避難を繰り返しています(40)。
22. イスラエルは10月13日に最初の退避命令を出しましたが、対象とされた100万人もの人びとには子どもや、老人や、負傷者や、虚弱な人たちも含まれていました。いくつもの病院にも全員避難を命じました。集中治療室にいる新生児も含まれていました。この命令自体がジェノサイドです。命令は直ちに退避することを命じており、手荷物程度の持ち物しか許されず、避難について人道的援助は提供されず、燃料や水や食料やその他の生活必需品は意図的に遮断されていました。住民全員を殺害しようと計画していることが明らかです(41)。
23. パレスチナ人の多くにとって、このような強制避難は自分の家を離れ、二度と戻れないことが今となっては確実です。イスラエルはパレスチナ人の住居を355,000棟も損壊あるいは破壊したものと推定されます。破壊のため戻る家を失ったパレスチナ人は少なくとも50万人と見込まれます(42)。 国内避難民の人権に関する特別報告者によれば、住居や社会インフラが“徹底的に破壊され、避難したガザの住民が帰還する現実的希望を打ち砕き、イスラエルがパレスチナに対して強制してきた集団的排除の歴史が繰り返されている”のです(43)。イスラエルはこのように破壊した街を再興する責務を負う態度をまったく示していません。
24. それどころかイスラエル軍はこのような破壊を祝ってさえいます。アパートが連なる地域や街の広場を仲間がうれしそうに爆破している様子を兵士たちは撮影しています。がれきの上にイスラエル国旗を掲げています(44)。パレスチナ人の家だったところにイスラエル入植地を建設しようとしています(45)。こうしてパレスチナ人がガザで暮らしていく基盤そのものを、消滅させているのです(46)[CNNの写真(44)を投影]。
25. 第2の手段は、強制退去と並んで、イスラエルは意図的に計画された行為によって広範囲の食料不足・脱水・飢餓を作り出しています。イスラエルの作戦により、ガザの人びとは飢饉の崖に立たされています(47)。“ガザ住民の93%が危機的レベルの栄養不足に直面しており、前例がない”状態なのです(48)。全世界で壊滅的な栄養不足に苦しむ人びとのうち80%以上がガザに住んでいるのです(49)。
26. 専門家たちが、この事態では飢餓と病気とで死亡するガザのパレスチナ人が空爆の死者を上回る危険があると予告(50)しているにもかかかわらず、イスラエルはパレスチナへの人道支援の到達を実質的に妨害しつづけています(51)。イスラエルは十分な支援物資の搬入を拒むだけでなく、爆撃と妨害行為を続ることで物資の配付活動も停止させているのです(52)。
27. わずか3日前の1月8日、緊急に医療物資と必須の燃料とを病院と医療資材供給センターへ届けようと計画されていた複数の国連機関による輸送団はイスラエル当局に移動を拒否されました(53)。12月6日以降、これで輸送団は5回めの拒否に遭遇したことになり、ガザ北部にある5つの病院では生命維持のための医薬品・資材・医療機器の欠乏が続いています(54)。
28. 支援物資を積んだトラックが入域できても、空腹に耐えかねた人びとに取り囲まれてしまいます。支援物資が絶対的に不足しているのです。裁判長閣下、列席判事各位、支援物資のトラックがガザに到着した場面をご覧いただいています。[ビデオ提示14秒間]
29. 第3に、イスラエルは、ガザのパレスチナ人が適切な居所、衣服、あるいは衛生が得られないような状態を意図的に強制しています。衣服、寝具、毛布、その他食料以外の必需品も著しい不足が何週間と続いています(55)。衛生的な水は完全になくなっており、飲用の、洗浄用の、調理用の水は必要量をまったく満たせていません(56)。
30. このことについてWHOはガザの状態を“伝染病の発生率の急上昇が観測されている”と伝えています(57)。5歳未満小児の下痢は衝突開始以後2,000%も上昇しました(58)。対策や治療を行わずに栄養不良と病気が共存すると、致命的悪循環が生じます(59)。
31. ジェノサイド条約第2条(c) に規定するジェノサイド行為の第4は、イスラエルによるガザの医療システムに対する軍事攻撃です。これによって生命の維持が不可能となっています。すでに12月7日には国連の健康に対する権利特別報告者が“ガザ地区の医療インフラは完全に壊滅された”と述べています(60)。
32. ガザでイスラエルの攻撃によって負傷した人に救命医療の機会はありません(61)。ガザの医療システムは、イスラエルによる封鎖と攻撃が何年も続いたためすでに身動きのできない状態でしたが、大幅に負傷者が増加して機能停止に陥っています(62)。

(第2条(d)、生殖[出生]に関わる暴力)
33. 最後に、国連の女性と少女に対する暴力特別報告者が指摘したように、イスラエルの犯した行為はジェノサイド第2条(d)に規定するジェノサイド行為に該当します。
34. 11月22日に特別報告者は次のように警告しました: “イスラエルがパレスチナ人の女性に、新生児に、乳児に、および小児に行った行為は...ある集団内の出生の停止を目的とする処置を強制する行為を含めた...(ジェノサイド条約の)第2条に規定するジェノサイド行為に該当する可能性がある”(63)。
35. イスラエルは分娩に必須の医療キットを含めた生命維持に必要な援助の実施を妨げており(64)、その中でガザでは毎日180人の妊婦が出産していると推定されます(65)。この180人のうち15%は妊娠または出産に関連した合併症を起こし、通常以上の医療処置が必要になるとWHOでは警告しています(66)。しかしそのような医療処置はまったく提供できません。

(行為パターンが意図をうかがわせる)
36. まとめましょう。裁判長閣下、ここに挙げる行為のすべてが、それぞれ個別に、および、集合的に、イスラエルの行動が計画されたパターンを構成しているもので、ジェノサイドの意図を示しています。次のイスラエルの行為から、その意図は明瞭です。
(1) ガザ地区に居住するパレスチナ人だけを標的にしていること、
(2) 大規模に殺戮を惹き起こす武器の使用、また民間人を標的にした狙撃も行っていること、
(3) パレスチナ人が避難する安全地域を指定しておき、後にそこを爆撃していること、
(4) ガザのパレスチナ人に生活必需品を渡さないこと、すなわち食料、水、医療、燃料、衛生、および通信の欠如、
(5) 住居、学校、モスク、教会、病院といった社会インフラの破壊、および、
(6) 多数の子どもが殺され、負傷させられ、孤児にされていること。
37. ジェノサイドが事前に宣言されることはありません。しかし国際法廷はこれまでの13週間で得られた証拠を精査することができるし、それら証拠はイスラエルによる行為のパターンとそれに関わる意図を疑問の余地なく示しているため、南アフリカが告発しているジェノサイド行為は少なくとも見込みのあるものです。
38. ガンビア対ミヤンマー事件で国際法廷は躊躇することなく暫定措置を命令しました。ミヤンマーがラカイン州内のロヒンギャに対してジェノサイド行為を行ったとの告発を認めたのです(67)。国際法廷がここで対応しているガザの現状は悲しいことにそのときより深刻ですが、ガンビア対ミヤンマー事件と同様に国際法廷による介入にふさわしく、また介入が求められるものです。
(結語)
39. パレスチナ人の生命、財産、尊厳、人格が毎日、不可逆的に失われ続けています。人びとの苦痛を伝えるニュース映像は正視できない域に達しました。この苦痛を止めることができるのは国際法廷だけなのです。暫定措置を発令しなければ残虐行為は続くでしょう。なぜなら、イスラエル防衛軍は少なくとも1年間このような行為を続ける意志を公表しているのです(68)。
40. 国連人道問題担当事務次長が1月5日に伝えた内容を紹介します。
支援物資はいつでもガザへ届けられると思われますか。違います。
トラックが入域するまえに3回も“検査”がある、検問所の混乱と長い行列、持ち込み禁止品のリストは長くなる一方、そもそも検問所は人間相手のものでトラック向きではない...。
別の検問所から入域したトラックは空腹の人びとに取り囲まれて動けなくなった。民間の商業は破壊されてしまった、空爆が続いている、通信は途絶しがち、道路は破損し、トラック列は狙撃され、検問は延々と時間がかかる...。
恐怖のどん底で疲れ果てた人びとが押し込められる土地は狭く小さくなる、どこの避難所もとっくに収容能力をオーバーしている、現場の支援者も家を追われる、殺される...。
この想像を絶する状況はガザの人びとだけでなく、助けようとする人びとにも襲いかかっているのです。
戦いを終結させよ。(69)
41. 裁判長閣下、列席判事各位、イスラエルによるジェノサイド行為について、私からの説明は以上です。ご清聴を感謝するとともに、ヌガイトービ弁護士をここに招き、ジェノサイドの意志について国際法廷へ陳述する指示を請うものです。

(裁判長: ハシームさん、ありがとうございます。次にテンベカ・ヌガイトービさんに発言を求めます。ヌガイトービさん、ご発言ください。)

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