オランダの活動家が国王を提訴し、国王の権限を縮小するよう求める (ユーロニュース2022/12/15)

要約・翻訳:編集部

euronews
https://www.euronews.com/my-europe/2022/12/15/dutch-activists-sue-the-king-and-ask-for-his-powers-to-be-reduced

<オランダの活動家が、法制度における国王の役割がヨーロッパの人権条約に反しているとして、国王を法廷に引きずり出した>

反王制団体であるRepubliekは、オランダ国は、裁判官の任命や判決の承認など、国王が法制度に関与することを認めるいかなる規定も削除すべきだと主張している。水曜日(2022年12月14日)におこなわれたハーグ地方裁判所の審理で、Republiek代表のEwout Jansenは提訴した。
一方、ウィレム=アレクサンダー国王は本人が出廷しない権利を行使し(活動家グループは、この特権により国王が不当に有利であると考えている)、お抱え弁護士のArnold Croiset van Uchelenに弁護を依頼した。なお、このほかに国が定めた弁護士としてReimer Veldhuisもおり、Veldhuisは、オランダの司法長官でもある。この審理に出席する代わりに国王は、わずか数キロ離れたハーグ中心部のノールデインデ宮殿で、オランダ最高裁判所の新しい裁判官2人の就任宣誓式に出席する方を選択したのである。ちなみに法廷には国王の肖像画が大きく掲げられており、これもRepubliekが廃止を望んでいる習慣の一つである。

国民の信頼への裏切り?

Jansenがユーロニュースに説明したところによると、オランダ政府が主張するような単なる象徴的なものではないと考えられる、司法手続き上の18の問題点を、彼の仲間はリストアップしているということだ。

新型コロナ感染症の流行時にウィレム=アレクサンダーが緊急措置に署名するのが遅れたのは、王の役割が単なる象徴的なものから、いかにかけ離れているかを示すものだとJansenは主張する。立法過程に近い2人の匿名の通告者によると、国王が決定を下すのに手間取り、患者が急増する中、政府と国内の医療サービスを窮地に陥れたのだという。Jansenは言う。

国王は検討のため2週間ほど時間をくれと言った。だがこの時は緊急事態で、すぐにロックダウンを実施する必要があった。それで政府には非常にストレスがかかる結果になった。我々は、このことが、国が主張するような象徴的な問題ではないと考えている。ほとんどの場合に象徴的であることは認めざるを得ないが、時にはそうでないこともあるのは明らかだ。

オランダ国王は2020年に2度、パンデミック時の行動で非難を浴びていた。最初は8月、マキシマ女王とギリシャを旅行中にソーシャル・ディスタンスの規則を破っているところを写真に撮られたときだった。同年10月にもギリシャに渡航したが、オランダの多くの人々が、国が部分的に封鎖されている中で王族がレジャーを楽しむのは不公平だと感じ、旅行を中断せざるを得なかった。ウィレム=アレクサンダーはマキシマとともにビデオで謝罪し、「(国民の)信頼を裏切ったことは痛恨の極みだ」と述べた。しかしながら、スペインで休暇中に新型コロナに感染したベルギーの王子のように、他の王族が対策を無視したことでペナルティを受ける中、オランダ王室は2件とも制裁を受けなかった。
オランダは、ヨーロッパに残る最後の王国の一つであり、王は法的に不可侵、つまりいかなる国家機関からも責任を問われることがない。政治的な問題では、法律や決定の共同署名人として、実際、議会の前で責任を問われるのは閣僚たちである。今回のRepubliekが起こした裁判のような場合、裁判官は国王に質問することはできず、その代理人である弁護士にだけ質問ができるのである。

「結局は人間」

Jansenは、過去の他の例においても、君主の判断が主観的で変わりやすいという事実を指摘する。

第二次世界大戦後、オランダはナチス・ドイツの協力者や戦犯を多数起訴し、中には死刑になった者もいた。しかしユリアナ女王は、だんだんと死刑執行に消極的になり、終身刑に減刑するようになった。Jansenは、このことが次のような矛盾を生んだと考える。すなわち、下っ端のナチ協力者は裁判期間が短かったため死刑になり、裁判が複雑で長引いた上層部のナチ協力者は死刑を免れたという矛盾である。Jansenは次のように説明する。

初めから無理な要求だった。政府は一方ではドイツに協力した者を死刑に処し、他方では、オランダ国民の怒りをかわし、かつ全員を死刑にしないために、判決の後で女王が彼らを赦免するのが最善だと考えていた。だが女王はこれを拒否し、彼らは銃殺(死刑)になった。ところがその後、1970年代には、女王はナチ協力者の死刑は間違っていると考え、署名することを拒否するようになった。どちらの場合(戦後すぐの死刑も70年代の減刑)も、国全体の感情を表わしていたと思う。

ただし、早く結審した事件は、犯罪の責任が軽い人たちに関するものであることが判明している。だから結局、一番ひどいことをした人が生きていて、関わり方の少ない人が撃たれた(死刑になった)のだ。

今日からみれば、この時の国王の決定は民意を反映していたと言えるかもしれない。だが国王が主観的な法の読みを許されたことは確かである。「国王は人間なのだ」とJansenは指摘する。オランダの国王は自ら裁判官として行動するため、司法手続きに影響を及ぼす可能性があり、しかも、その判断が有権者の意思を反映するとは限らないのだ。

最近のオランダ国王の人気は?

一方、活動家からは、オランダ人の間で王室の人気が低下しているとの主張がなされている。

Republiekは2020年に訴訟を発表し、わずか数日のクラウドファンディングで訴訟費用35,000ユーロを調達した。「王室を批判する人が増え、王室を支持する人が減っているのが分かる」と、同団体のFloris Müller議長は水曜日の記者会見で述べた。

スタティスタが2022年4月に行った世論調査では58%のオランダ国民が、共和制になるよりも王政を選ぶという項目を選択し、王政の維持を望んでいることを示した。その後、Republiekが委託したIpsosの調査では王室支持派はさらに少なく、51%にとどまる可能性があると、公共放送NOSは10月1日付で報道している。調査会社TNS NIPOのデータによれば、1960年代以降、オランダでは85~90%の人が王国の存続に賛成していたというから、長年にわたる王室への圧倒的な支持に比べれば、これは大きな落ち込みと言える。

しかしながら、Republiekの訴訟は、国王の称号を剥奪したり、国から王室をなくしたりすることを求めるものではない。水曜日の審理と2023年3月8日の判決は、司法制度に対する国王の影響力を最小化するか、あるいは完全に取り除くことを目的としているのだ。

JansenによるとRepubliekは、必要であれば、ストラスブールの欧州人権裁判所に提訴する用意もあるという。彼は述べる。「これは、国王が人気があるとかないとかいう問題ではない。国王は最高裁判所ではない、ということが重要なのだ。」

 

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