清水雅彦『9条改憲:48の論点』

清水雅彦『9条改憲:48の論点』(高文研、2019、1200円)

今年(2022年)7月の参議院選挙の結果、参議院では改憲勢力(自民・公明・維新・国民)は、憲法改正の発議に必要な3分の2(=166議席)を上回る177議席となった。衆議院では昨年(2021年)の総選挙によってすでに改憲勢力は3分の2以上の議席(4分の3にあたる352議席)を占めている。衆議院選挙は昨年(2021年)行われていて、(岸田内閣の閣僚辞任ドミノ等の状況では早急な解散がないともいえないが)当面(2年程度)は国政選挙は行われない公算が強い。野党の方も、憲法審査会の開催を阻止する力量を失っている。そうしたことを考慮すれば、「明文改憲」を実行するには極めて「良好」な状況にあるといえる。

他方で、ロシアの侵攻に始まるウクライナ戦争によって、「国防」への関心がこれまでになく高まっていることを奇禍として、岸田政権は、軍備増強(GDP比2%への倍増)、専守防衛の放棄=敵基地攻撃力(反撃能力)の保有、武器輸出の全面解禁など、未曾有の軍拡を急速に進めつつある。この12月中旬に行われる「防衛3文書」の改悪がその大転換の指針(お墨付き)となる。この改悪は、憲法を変えることのなく、「国のかたち」を平和国家から軍事優先国家へ転換することを意味する。

こうした情勢の中で、「憲法9条」を考えることにはたしてどれほどの意味があるのか、はなはだ心許ない。しかし、薄ぼんやりとフェードアウトしかけている現実の「憲法9条」ではあるが、それの持つ理念の重要性とその射程の奥行きは、繰り返し熟慮するに値する(ただ「9条を守れ!」と叫ぶのではなく)。

本書はそのための平易な入門書であるといっていい。本書は、「憲法の初学者である方にも理解できるよう」「48のQ&A方式」(「見開き」で1項目)で書かれた、9条改憲を目指す自民党の策動に対する徹底的な批判と、そしてそれにどのように対抗していくかの提案で構成されている。各章の表題とQ&Aの一例を紹介すると、「第1章 憲法と平和主義に関する基礎知識」(Q09 憲法9条の下で、日本の平和の現実はどうだったのですか? ➡ A.憲法9条の下での制約もありましたが、形骸化の道を歩んできました)、「第2章 戦争法の問題点とは何か」(Q27 朝鮮と中国の脅威を考えると戦争法が必要なのではないですか? ➡ A.過剰な朝鮮・中国脅威論は「バカ派」の議論であり、戦争法もいりません)、「第3章 9条等改憲の問題点とは何か」(Q42 そもそも改憲をどう考えたらいいのですか? ➡ A.憲法によって縛られる国家権力の側から出てくる改憲論は要注意です)、「第4章 改憲論にどう対抗すべきか」(Q45 日本国憲法の平和主義は世界でどのように位置づけられるのですか? ➡ A.戦争違法化の最先端を行く憲法といえます)。

このWEBへの訪問者には、第4章のQ44だけでもをぜひ読んで欲しい。Q44は「 『平和主義者・天皇』に期待すべきなのでしょうか?」である。著者の清水雅彦氏は、自らを「改憲論者」と位置付ける。憲法の1条から8条を、国民主権を規定する部分を除き、不要(なくすべき)と考えているからだ。そうした彼の回答は、明確であろう。ぜひ本書を手にとって確認して下さい。(鉄火場宏)

カテゴリー: 読書案内 パーマリンク