ユーゴ空爆の背景 利権と歴史と謀略と侵略とメディアの嘘と(14)

ユーゴ戦争:報道批判特集

コソボ難民支援で税金2億ドルの行方?

1999.5.28 WEB雑誌『憎まれ愚痴』22号掲載

1999.5.26.mail再録。

 確か4月末に、「コソボ難民支援(NGO支援)」で日本政府が2億ドルの拠出を決め、それが、「NGO支援」であるという主旨の記事を見ましたが、どうやらまた切抜きを忘れたようです。

 2億ドルは約240億円です。皆さんのような普通の程度の貧乏人には実感が湧かないでしょうが、私ぐらいの本当の貧乏人になると、お芝居で5億円の発泡スチロール模型を作ったことがあるので、大体の検討が付きます。1万円札にすると4畳半の部屋の半分ぐらいになります。それでも、湾岸戦争の拠出額の内、国会の議決を経た90億ドルの45分の1でしかないのですが、今や経済崩壊の状況ゆえ、ぜひとも使途の明細を知りたいところです。

 ところが、「兄はカラン屋」、とワープロ一発変換では出てしまうのですが、ラディオで講談を聞いて育ち、高校で漢文が必修科目だった私の場合、「豈図らんや」(あにはからんや……「意外なことには」の意味)という表現は、最大の驚きの絶叫なのです。

 はい、もう一度、絶叫!

 豈図らんや!

 何と、驚くべきことには、私が知っているNGOの難民支援組織には間違いなしに、ビタ一文、渡らないのです。実際に何度もユーゴで支援活動をしてきた組織から、「クロアチア側の支援活動には出ても、セルビア側に出た実績はない。今度も、アルバニアやマセドニアなどの外国での活動にしか出ないだろう」という実情を訴えられました。

 まずは、5月11日、新宿歌舞伎町のディベイト酒場ロフトプラスワンで、ヴェトナム戦争以来、難民支援活動をしてきたというパネラーから、「現場にはまだ一銭も届いていない」「外務省との折衝は大変」「セルビア側に入ると言うと大騒ぎ」「日本では難民支援は敵味方なしの原則が理解されていない」などの実情告発を聞きました。

 5月23日、アジア記者クラブの例会でも、難民支援に関して、同じような問題点の指摘があり、2次会では、ヴォランティアの支援者から、ベオグラードには、この9年間続いた紛争で、7回も難民になった不運この上ない「セルビア人」がいるという話を聞きました。

 実は、それ以前にも、カンプチアPKO出兵問題で知り合ったNGOの仲間から、日本政府が、やっとNGOを意識し出したものの、外務省は「良いNGO」と「悪いNGO」を区分けして、差別しているという話を聞いていました。もちろん、「良い」とか「悪い」とか、テレヴィ番組の「良男、悪男、普通男」シリーズではあるまいし、証拠が残るような「へま」をする役所ではありません。きっと、大奥風の陰湿な差別をしているのでしょう。

 以後、だんだんと気になり出して、しかし、調べる時間もないままに過ぎていたら、日経に下記の記事が出ました。これをネタに電話で確かめた「裏の事情」を先回りして記すと、外務省の記者会見発表ではなくて、日経の独自取材による記事でした。しかし、さらに先回りして指摘すると、その次に紹介する外務省の「支援方針」、及び、実情に比べると、まるで手放しの楽観的な記事になっています。「独自取材」ではあっても、おそらく実情の全体像を調べずに、ごく一部の外務省公認の「NGOグループ」(下記の記事より)の情報だけを頼りにして、結果的には、いわゆる発表報道をしていることになります。


日経1999.5.24.

官民で難民キャンプ

コソボ支援
NGOと連携
政府、人的貢献に着手

 政府はユーゴスラビアのコソボ難民対策を巡って日本の非政府組織(NGO)を資金面で全面的に支援する形で、難民を受け入れているアルバニアに複数の難民キヤンプを設営する方針を固めた。コソボ問題で日本が難民キャンプを設営するのは初めて。資金は政府が拠出している国連の基金などから充て、施設の建設・運営や物資の配給などの実際の活動は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が日本の複数のNGOに一括して委託する。政府は先に難民支援として総額2億ドルの資金援助を決めたが、キャンプの設営によって遅れている人的貢献にも踏み出す。

 政府はこれまで危険が伴う紛争地域への人的貢献には慎重な態度をとり、資金面での協力に重点を置いていた。背景には「人的派遣は手続きに時間がかかり、豊富な経験を持った職員も少ない」(外務省幹部)などの理由もある。ただ多額の支援をしても「人的な協力が伴わないと日本の顔が見えにくい」との声もあがっており、政府もNGOと連携し「顔のみえる支援」に取り組むことにした。

 難民キャンプの設営を予定しているのは、アルバニアの都市ドウラス。現地調査にあたったNGOグループによると、難民収容施設として改修可能で使われていない国営のホテルや工場が8ヵ所あり、すべて使用できれば合計約2方人の難民が収容可能になるという。日本の複数のNGOグループが、便所や下水道の整備、食糧配布、医療などにあたり、それぞれの専門分野を生かして活動する。

 既に数ヵ所の工場についてはNGO側とアルバニア側との間で使用のための契約が完了。今後、残る施設についても正式に契約したうえで、国連の「人間の安全保障基金」の中から百万ドル(約1億2千万円)を上限に活動資金を充てるほか、草の根無償資金協力(1件当たり1千万円が上限)やNGO事業補助金制度(1千5百万円を上限に事業費の4分の3を補助)など組み合わせ支援する方針。今月末にも設営に取り掛かる。


 以上のように、「NGOと連携」とか、「政府、人的貢献に着手」とかの見出し、「日本の非政府組織(NGO)を資金面で全面的に支援する」「政府は先に難民支援として総額2億ドルの資金援助を決めた」という記事内容を読めば、「総額2億ドル」が「全部」、NGOの活動支援に使われるかのようにも思えます。

 ところが、次の記者会見資料を詳細に読み、実際に難民支援で苦労している仲間に聞くと、「聞いて極楽、見て地獄」ほどの違いがあるのです。なお、以下の「記事資料」は電話1本で獲得しました。ただし、外務省は遅れていて、E-mailにはしてくれず、ファックスですから文字が崩れて、私の未教育安物スキャナーで読み取ると、ほとんど化け文字で、半分は打ち直しとなりました。ああ、その労賃分の税金、返せ!


記事資料(4)K275

平成11年4月30日
外務大臣官房報道課

コソボ難民支援(NGO支援)について

 わが国政府は4月30日、コソボ難民支援活動を行うわが国NGOを支援するため、当面、次の措置をとることを決定した。

1. NGO事業補助金の交付に関しては、1件当たり1,500万円を限度として、総事業費の4分の3まで補助することとし、1団体が複数の事業につき申請することも可能とした。なお、新たに難民支援活動を行おうとする団体については、事業計画を見た上で検討することとした。

  また、既に現地で難民支援活動を行っている団体に対しては概算払いも可能とした。

2. 草の根無償資金協力に関しては、1件当たり1,000万円を限度として、要請時点において現地で活動を行っている団体を対象に、資機材の購入、施設の建設等に必要な経費(渡航費、滞在費は対象外)を支援することとした。

  同協力の申請について、通常は、活動の現場を管轄するわが国在外公館(コソボ周辺国であれば在オ一ストリア大使館)が窓口となるが、今回のコソボ難民支援活動については、外務本省(窓口は難民支援室)を通じた申請も受け付けることとした。

  なお、1団体が複数の事業につき申請することも可能である。

3. 人間の安全保障基金に関しては、NGOが国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の実施機関(Implementing Partner)となること等を条件に、わが国が国連に拠出している「人間の安全保障基金」からUNHCRに拠出し、これをわが国NGOのために使用するよう要請することによって支援することとした。この場合、これまでカバーされていなかったプロジェクト運営経費等も含め支援することが可能であり、他の支援スキーム等を組み合わせる形で有効に活用されることが期待される。

4. また、国連ボランティア計画(UNV)が、UNHCRによるコソボ難民支援活動に参加する日本人ボランティアを募集しており、わが国はUNVへの拠出金から、この派遣費用等を支援することとした。

一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
( 本件記事資料問い合わせ先
 :総合外交政策局国際社会協力部難民支援室
  内線2928番 担当官 山崎事務官
 :欧亜局東欧課 
  内線2716番 担当官 上田事務官
 :無償資金協力課
  内線2962番 担当官 原事務官
 :民間援助支援室
  内線3437番 担当官 小川事務官
 :国連行政課  
  内線3334番 担当官 森川補佐 )


 以上に追加して、外務省の代表電話:03-3580-3311を、一応、お知らせして置きます。ぜひとも、直接、「問い合わせ」て下さい。

 さて、日経の記事の方では、「政府」の「人的貢献に着手」の見出し、記事本文では、「日本の非政府組織(NGO)を資金面で全面的に支援する」となっていました。

 いいですか。ここは一番大事なので繰り返しますが、「全面的に支援」なのです。ところが、外務省が配布した「記事資料」では、「草の根無償資金協力に関して」の「経費」に関してましては、御破算で願いましては、ご丁寧にもカッコ付きで、「(渡航費、滞在費は対象外)」となっているのです。

 きっと、外務省のチョウ優秀な暗記秀才の「外交官試験合格者」の頭の中では、「草の根」の「人的貢献」などをする理解し難い「ゲテモノ」の市民有志たるものは、孫悟空の金斗雲にでも乗って飛び、仙人並に霞を食って生きていける「ウルトラマン」になっているのでしょう。アッと、これも「パーソン」にしないと怒られますかね。

 閑話休題。外務省は、もちろん、「差別などしていない」と言います。あるNGOの話では、外務省は一応、セルビア側の事業についても、申請書だけは受け付けるが、郵政省の管轄の「国際ヴォランティア貯金」の方は、「皆さんの貯金」を根拠にして、申請書すら受け付けてくれないと言うので、早速、電話(代表番号:03-3504-4411.国際ヴォランティア貯金推進室)してみると、涼しい無邪気な声で「そんなことはありません」と答えました。ホームページに申請と決定の数字(だけ!)を入れてあるそうです。でも、そんなもの見る気にもなれません。

 外務省と郵政省の、どちらに対しても私は、毅然として、「最近は、厚生省とか、大蔵省とか、官僚の裁量権とか、……」などとブラック・ユーモラスに語り掛け、「申請、審査、結果」を、すべて即時情報公開せよ、今時、LANとやらで即時情報共有をしないのは役所だけ」などと説示し、ともかく「インターネットに流すから善処されたし」と予告しました。ああ、しんど。

 しかも、しかも、何と、最大の問題点は、おおもとの2億ドルの振り分け方にあったのです。

 外務省に根掘り葉掘り聞くと、2億ドルの内、半分の1億ドルは直接、国連に渡すのです。残りの半分の1億ドルの内、4千万ドルは、アルバニアやマセドニアの両国に渡し、残りの6千万ドルを各種国際支援組織に振り分けて渡します。日本のNGOは、各自、そこに申請して、審査を通れば支援を受けられるという仕組みなのです。外務省は、国連にも各種国際支援組織にも、日本のNGOへの支援「優先」を要請できるとは言うのですが、まさに「隔靴掻痒(靴の革を隔てて痒みを掻く」なのであります。

 そう言えば、そろそろ水虫の季節ですね。そこで重傷の方への、ご忠告。これも病院を頼ったら「薬九層倍」、ボラレルだけです。米酢を大きな容器(塩ビは浸み出すかも、なんて脅かして)に入れて、毎日30分くらい足を漬けていると、最初は熱くなったりしますが、心配はなく、何日かで、すっかり綺麗になりますよ。

 以上。


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