JCA-NETは、12月17日に開催した総会において下記の決議を採択しました。

携帯電話GPSを利用した被疑者の位置確認情報取得に反対する
JCA-NET会員総会決議
2011年12月17日

総務省は、11月2日、改定「個人情報保護に関するガイドライン」を公布・施行した。今回の改正では、ガイドライン26条を改訂し、第26条第3項において、捜査機関が携帯端末など電波を用いて通信を行う端末のGPS機能による携帯電話の位置情報の取得を可能とした。個人の位置情報は、プライバシーの権利に属するものであり、通信機能を用いた捜査機関による個人の位置情報取得は、憲法が保障する通信の秘密に抵触し、通信インフラが個人の行動の監視に利用される危険性にさらすものであり、ガイドライン第26条第3項の削除を求めるものである。

理由

(1)ガイドライン第 4条では、「電気通信サービスを提供するため必要な場合に限り個人情報を取得するもの」とし、思想、信条及び宗教、人種、門地、身体・精神障害、犯罪歴、病歴その他の社会的差別の原因となるおそれのある事項の個人情報取得を禁じている。今回の改訂は、第4条に明らかに抵触する。ガイドラインは、第26条第3項の規定が4条と相反することを自覚しながらも、それでもなお通信事業者による捜査機関への協力を義務化している。しかし、4条およびその根拠となっている電気通信事業法と憲法が保障しているプライバシーの権利と思想信条の自由、言論表現の自由を制約するに足る論拠はなにひとつ示されていない。

(2)ガイドラインという法律でもない文書によって、憲法が保障する市民的自由とプライバシーの権利を侵害するような規定を設けること自体を私たちはみとめることはできない。

(3)対象となるGPSの取得に事実上の制限がない。マスコミの報道では、被疑者の位置情報取得を目的としているとされているが、第26条第3項にはそうした限定はない。さらに、報道されているように「被疑者」に限定されたとする場合であっても、そもそも「被疑者」の法的な明確な定義はなく、捜査機関が捜査対象としている者であれば、誰でも対象となる危険性がある。

(4)ガイドラインでは裁判所の令状が必要条件とされているが、この令状が「検証令状」であるということに問題がある。検証令状は通信を対象としたものではないが、これを通信を利用した対象者情報の取得へと拡大されたことである。しかも捜索・差押さえ令状などと比較して事後報告の規定がなく、不服申し立てができない。裁判所の令状発付が捜査機関に有利になさてきた経緯もふまえると、令状による捜査機関の人権侵害的な位置情報の利用を抑制する効果は期待できない。

(参考)

第26条 電気通信事業者は、利用者の同意がある場合、裁判官の発付した令状に従う場合その他の違法性阻却事由がある場合を除いては、位置情報(移動体端末を所持する者の位置を示す情報であって、発信者情報でないものをいう。以下同じ。)を他人に提供しないものとする。
2 電気通信事業者が、位置情報を加入者又はその指示する者に通知するサービスを提供し、又は第三者に提供させる場合には、利用者の権利が不当に侵害されることを防止するため必要な措置を講ずるものとする。
3 電気通信事業者は、第4条の規定にかかわらず、捜査機関からの要請により位置情報の取得を求められた場合において、当該位置情報が取得されていることを利用者が知ることができるときであって、裁判官の発付した令状に従うときに限り、当該位置情報を取得するものとする。