以下は、JCA-NETが加盟しているAPC(進歩的コミュニケーション協会)が国連人権委員会に提出したレポートの日本語訳です。

https://www.apc.org/sites/default/files/APC_7amleh_5666_A_HRC_47_NGO.pdf
人権理事会
第47回セッション
2021年6月21日~7月9日
議題7

パレスチナおよびその他の被占領アラブ地域における人権状況

一般協議資格を有する非政府組織である進歩的コミュニケーション協会が提出
した書面による声明
事務総長は、経済社会理事会決議1996/31に基づいて回付された以下の書面に
よる声明を受理した。
[2021年5月31日]
2021年5月のパレスチナ人に対するデジタル権利侵害の劇的な増加

Association for Progressive Communications(APC)と7amleh - The Arab
Center for Social Media Advancementは、人権理事会第47回会合に先立ち、
2021年のイスラエルによるガザ地区への攻撃、イスラエルの混合都市のパレス
チナ人、東エルサレムのパレスチナ人への強制退去の間に、パレスチナ人に対
するデジタル権利侵害が劇的に増加していることについて、重大な懸念を表明
するために、この声明を提出する。

2021年5月、私たちは、コンテンツの削除、アカウントの停止、サービスの機
能制限などの形で、オンライン上のパレスチナ人の政治的言論の検閲が500件
以上を記録し、パレスチナ人に対するヘイトスピーチや扇動も40件以上記録し
た。パレスチナ人やアラブ人の政治的言論へのこうした検閲パターンが、すで
に現場で起きている人権侵害を悪化させてることになっている。

検閲について

2021年5月の初めから、パレスチナ人と人権活動家は、占領されているパレス
チナの一部、東エルサレムのSheikh Jarrah地区のパレスチナ人を強制的に追
い出すというイスラエル最高裁判決に反対するデモを行ってきた。(注1)ソー
シャルメディアを通じて、Sheikh Jarrahの家族や人権活動家は、この判決に
対する抗議活動を展開してきたイスラエル国内のパレスチナ人、占領地のパレ
スチナ人、そして国際的な支援者から注目を集めてきた。平和的な抗議活動が
イスラエル警察の横暴にさらされると、(注2) パレスチナ人はFacebook、
Instagram、Twitter、TikTokで、声明、嘆願書、手紙、ビデオ、インフォグラ
フィックなどを発表し、これらの人権侵害を記録し、非難してきた。(注3 ) 5
月6日以降、ソーシャルメディア企業は、パレスチナ政府や市民社会のパート
ナー、ユーザー自身に対して、企業のポリシーの実施の変更を通知することな
く、プラットフォームからパレスチナのコンテンツを削除し始めた。

7amlehは、5月6日から18日の間に、パレスチナ人の権利を侵害している500件
の事例を、ソーシャルメディアのチャンネルを通じて、パートナーや同盟国、
一般市民の支援を得て、e-formを使って記録した。報告された事例にはさまざ
まなソーシャルメディアが含まれており、インスタグラムで250件(50%)、
フェイスブックで179件(35%)、ツイッターで55件(11%)、TikTokで4件
(1%)となっている(注4)。

Instagramでは、報告された事例のうち45%がストーリーの削除、14%がアカ
ウントの制限、12%がアカウントの閉鎖、11%がコンテンツの削除、4%がア
クセス回数の抑制だった。これらの削除のうち46%以上は、削除についての事
前の警告やユーザーへの通知なしに行われた。5月7日、Instagramは、技術的
な問題がこれらの違反の大部分の原因であるとツイートした。しかし、その後
も毎日大量の報告が寄せられている。実際、報告の68%は、Instagramのツイー
トの日付以降に寄せられたものだった。(注5)

Facebookでは、ユーザーから以下のような違反行為の報告があった。アカウン
トの制限が37%、コンテンツの削除・消去が31%、アカウントの停止が23%、
認証の削除、アカウントへの警告、特定の投稿への警告、グループやページの
制限、ハッキングの試み、アクセスの抑制、ハッシュタグの非表示、投稿のシェ
アボタンの非表示などの理由が9%。Facebookは、47%のケースで削除の理由
を提示していなかった。(注6)

Twitterでは、7amlehが55件の違反行為を記録しており、そのうち91%がアカ
ウントの停止、9%がアカウントの制限、ツイートの失敗、機能の制限などだっ
た。これらのケースの96%において、ユーザーは、Twitter社が行った措置の
理由を受け取ることができていなかった。しかし、これらの措置に対する
7amlehの訴えに対して、Twitter社は、7amlehが提出したケースの89%に積極
的に対応し、削除されたアカウントやコンテンツのほとんどにアクセス権を回
復させた。

ソーシャルメディア・プラットフォーム上のパレスチナ人や人権擁護団体のコ
ンテンツの削除は、イスラエルのサイバーユニットや、イスラエル政府、政府
支援のNGOが使うブリゲード技術を使って、ソーシャルメディア企業にコンテ
ンツを自主的かつ積極的に報告するというイスラエルの取り組みの結果でもあ
る。(注7)

これらの事例の多くは、イスラエル法務省のサイバーユニットが、2015年以降、
市民やイスラエルの占領下で生活する人々が知らないうちに、法的手続きを経
ずにコンテンツやアカウントを削除したり制限したりするために、ソーシャル
メディア企業に数千件の報告を行っていることと関連すると考えられる。(注
8)5月13日、イスラエルのベニー・ガンツ法務大臣兼国防大臣は、ソーシャル
メディア企業と会談し、「暴力を扇動したり、偽情報を流したりする」パレス
チナのコンテンツを削除し、政府のサイバービューローからの訴えに迅速に対
応し、検閲をさらに強化したするよう求めた。(注9)

10年以上にわたり、Facebookはイスラエル政府と密接な関係を持ち(注10)、イ
スラエルオフィスに不平等なリソースを提供してきた。イスラエルオフィスに
は人口900万人に対して国別の担当者が配置されているが、中東や北アフリカ
の人々は2億2千万人以上の人口と25カ国に対して一握りの担当者しかいない。
(注11) Facebookの透明性報告書によると、2020年にFacebookはイスラエル法
務省のサイバーユニットが行った削除要請の81%に対応した。(注12)

さらに、今回の調査期間中にFacebookがコンテンツを制限するために使用した
ツールを調査したところ、Facebookは、ミャンマー、スリランカ、米国の選挙
期間中など、表現の自由に悪影響を及ぼすことが知られている同様の危機的状
況で用いられた一連の緊急措置を実施したのではないかと考えられる。(注13)
これらの措置は、Facebookのコミュニティガイドラインに違反する可能性のあ
るコンテンツを検出して削除する閾値を著しく高めることが含まれており、不
公平に適用された場合、人々の情報へのアクセスや人権を行使する能力、権利
侵害を非難して記録する能力への深刻な脅威となる可能性がある。

暴力の扇動

7amlehは、5月6日から17日にかけて、WhatsAppとTelegramの両方で、アラブ人
やパレスチナ人に対する暴力や扇動を行う組織的なグループを調査した。アラ
ブ人やパレスチナ人への殺害、焼き討ち、直接の暴行目的で、アラブ人やパレ
スチナ人に対する暴力を扇動するコンテンツが40件以上記録された。(注14)

私たちのモニタリングによると、これらのグループは、暴力の扇動だけでなく、
ハイファ、アクレ、ヤッファ、リイドなどの一部の都市では、実際にパレスチ
ナ人への攻撃への動員、組織化に利用されている。私たちは、これらのグルー
プを通じてパレスチナ人への攻撃を組織し、グループのメンバーが攻撃の犠牲
者の写真を共有して、他のメンバーに同様の攻撃を行うように促した事例を記
録した。(注15)

私たちは、パレスチナ人やアラブ人への暴力を扇動するユーザーやグループの
一部を市民社会やソーシャルメディア企業に報告し、WhatsAppやTelegramによっ
てグループやユーザーの一部を削除させることに成功した。とはいえ、同様の
コンテンツは依然としてネットワーク上に存在しており、特にソーシャルメディ
ア企業は、パレスチナ人に向けられたヘイトスピーチや扇動を、現地の状況を
考慮したり、パレスチナの市民社会への貢献を含めた形で積極的に監視してい
ない。

この問題は、ソーシャルメディア企業がパレスチナ人の政治的な言論やコンテ
ンツを過剰に規制し続けていることで、表現の自由や集会の自由などの権利が
侵害されていることで、さらに悪化している。

パレスチナ人がイスラエル軍や入植者、民間人から受けている人権侵害を記録
したコンテンツに対するソーシャルメディア企業の監視・検閲の強さと、同じ
プラットフォーム上でヘブライ語で投稿されたアラブ人やパレスチナ人に対す
る人種差別や扇動、ヘイトスピーチの監視が不十分であることに、私たちは大
きな格差があることを強調したい。私たちの調査では、ヘブライ語で書かれた
アラブ人やパレスチナ人に関する出版物の10件に1件の割合で、アラブ人やパ
レスチナ人に対する暴力や暴力的な言説が含まれていた。これは2019年から16
%増加している16。

結論

パレスチナ人のコンテンツや政治的言論に恣意的かつ無差別にフラグを立てる
ソーシャルメディア企業の差別的なポリシーやアルゴリズムの結果、パレスチ
ナ人の人権やデジタル上の権利は深刻な脅威に直面しており、最終的にはパレ
スチナ人が享受するだけでなく、人権侵害を記録する能力を著しくかつ危険に
制限している。さらに、一部のソーシャルメディア企業とイスラエル政府との
間の直接的で監視されない関係は、パレスチナ人や人権擁護者の本質的な人権
を侵害することを可能にしている。さらに、パレスチナ人やアラビア語のコン
テンツが過剰に規制される一方で、ヘブライ語での反パレスチナ的扇動やヘイ
トスピーチはほとんど精査されていないというパターンが、ほとんどのソーシャ
ルメディアプラットフォームで続いていることも、この状況を悪化させている。

推奨事項

国連HRC。

- パレスチナ人に対する人権侵害、特に表現の自由やプライバシーの権利など
の基本的な権利の行使に課せられた制限に対する説明責任を促進すること。

- イスラエル政府に対し、イスラエル・サイバー・ユニットの活動と「トロー
ル軍」の使用について透明性をもたせるよう圧力をかけ、このユニットの活
動が、国際法と規範に違反するパレスチナ被占領地の人々の人権を侵害しな
いことを確保すること。

- ソーシャルメディア企業との間で交わされた契約について、イスラエルが透
明性と独立した監視を確保するという正式の約束をするよう提言すること。

- 企業に対し、「ビジネスと人権に関する国連指導原則」に概説されている国
際的な人権義務に従って、コンテンツを制限または削除するためのポリシー
が、公平かつ透明性のある方法で実施されるように奨励し、関与すること。
また、理事会は、加盟国が自国内でこれらの指導原則を推進し、尊重するこ
とを保証するよう求める。具体的には

-- 企業は、ユーザーが情報にアクセスし、表現の自由を行使する権利を保護
するために、制限や削除を可能な限り迅速かつ透明性を持って通知すべきで
ある。これらの通知は、企業がとった措置を明記し、政府やビジネスパート
ナーが制限を要求したのかどうか、あるいは命令したかのかどうかを示すべ
きである。

-- 企業は、政府の要請に対する自社の回答を公開し、法的に認められている
範囲で、自社の内部審査プロセスの性質と範囲を説明すべきだ。企業は、
影響を受けるユーザーに懸念や苦情を表明するための適切な手段を提供し、
すべての異議申し立ての要求に迅速に対応すべきである。違法なコンテン
ツの削除は、そのコンテンツが違法であると明確に判断され、裁判所の命
令が出された場合にのみ行われるべきである。

APCは、情報通信技術、人権、男女平等、持続可能な開発の交差点で活動する
グローバル組織であり、メンバーのネットワークでもある。

7amleh - The Arab Center for Social Media Advancementは、パレスチナの
NGOで、パレスチナの市民社会がデジタル・アドボカシーのツールを効果的に
活用できるようにすることを目的としている。

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1 Shakir, O. (2021, 11 May). Jerusalem to
Gaza, Israeli Authorities Reassert Domination. Human Rights
Watch. https://www.hrw.org/news/2021/05/11/jerusalem-gaza-israeli-authorities-…

2 Hasson, N. (2021, 8 May). エルサレムでの衝突。パレスチナ人はどのよう
にしてSheikh Jarrahの背後に結集したのか。
Haaretz. https://www.haaretz.com/israel-news/how-palestinians-put-aside-their-fe…

3 El-Naggar, M., & Yee, V. (2021, 18 May). 'Social Media Is the Mass
Protest': Social Media Is Mass Protest': Solidarity With Palestinians
Grows Online. The New York Times. https://www.nytimes.com/2021/05/18/world/middleeast/palestinians-social…

4 7amleh - The Arab Center for the Advancement of Social
Media. (2021). The Attacks on Palestinian Digital Rights. https://7amleh.org//storage/The%20Attacks%20on%20Palestinian%20Digital%…

5 Ibid.

6 https://t.co/3J9YGyRYdS

7 Adalah - The Legal Center for Arab Minority Rights in Israel. (2017年、9月14日)を参照のこと。イスラエルの「サイバーユニット」は、ソーシャルメディアの
コンテンツを検閲するために違法に運営されている。
https://www.adalah.org/en/content/view/9228

8 7amleh - The Arab Center
for the Advancement of Social Media. (2018, 12 July). 非合法なハッキン
グとデジタル権利侵害に道を開くイスラエルの新サイバー法。
https://7amleh.org/2018/07/12/the-new-israeli-cyber-law-paving-the-way-…

9 The Times of Israel. (2021, 14 May). Gantz は Facebook、TikTok の幹
部にソーシャルメディアでの扇動を取り締まるよう促している。
https://www.timesofisrael.com/liveblog_entry/gantz-urges-facebook-tikto…

10 Associated
Press. (2016, 12 September). Facebookとイスラエル、暴力を扇動する投稿
の監視に取り組む。The
Guardian. https://www.theguardian.com/technology/2016/sep/12/facebook-israelmonit…

11 Mac, R. (2021, 27 May). Facebookの従業員は、会社がイスラム教徒やア
ラブ人に対して偏見を持っていると告発している。Buzzfeed
News. https://www.buzzfeednews.com/article/ryanmac/facebookemployees-bias-ara…

12 https://transparency.fb.com/data/government-data-requests/data-types

13 Dwoskin, E., & De Vynck, G. (2021, 29 May). FacebookのAIは、パレス
チナ人活動家をアメリカの黒人活動家と同じように扱う。それは彼らをブロックする。The Washington Post. https://www.washingtonpost.com/technology/2021/05/28/facebook-palestini…

14 7amleh - The Arab Center for the Advancement of Social Media. (2021). Op. cit.

15 フレンケル、S. (2021, 19 May). イスラエルのパレスチナ人に対する集団暴力は、WhatsApp上のグループによって煽られている。The New York Times. https://www.nytimes.com/2021/05/19/technology/israeli-clashespro-violen…

16 7amleh - The Arab Center for the Advancement of Social Media. (2021). Racism and Incitement Index 2020 (人種差別と扇動のインデックス2020)」
https://7amleh.org/2021/03/08/racism-and-incitement-index-2020-the-incr…