武蔵野版『不祥事隠し』独自捜査シリーズ(その5)

42,733,100円へと横領額倍増の奇怪な展開

2000.3.3

2000.2.14.一部訂正。訂正の理由:刑事法廷で検事が「追起訴」について、書類には2人だったものを、1人の名前しか読み上げなかったためで、業務上横領の起訴に至った被害者の数を、市当局に確かめた結果、4を5と訂正したもの。

武蔵野市の『新語登録?』「単純横領?」とは何ぞや

 この不祥事件の新聞報道は、これで3度目。最新は、2000.2.9.発行部数の順に紹介すると、読売、朝日、毎日、産経、東京、の各紙の武蔵野欄に載り、これで3度目の被害金額変更となった。まさに複雑怪奇と言う他ない。最初は2000万円、次が170万円、そして、4200万円である。これだけでも十二分に珍しい事件報道の例ではあろうが、金額だけではなくて、内容の方の報道も複雑に折れ曲がっている。新しいキーワードは、しかし、用語としては「複雑」ではなくて、その逆の形容の「単純横領」なのである。

 わが浮き世の仮住まいの武蔵野市こと、今の今、2000年2月中旬、空っ風の吹きすさぶ関東平野の一角なればこそ、「関東、関東と申しましても、広うござんす」ってなわけで、「横領、横領と申しましても、色々とござんす」といったところである。俄かに、「単純横領」なる武蔵野市『新語登録』が、幅を利かせ始めたのである。この「新キーワード」の定義を、しっかり飲み込まないと、今後の事件の展開には付いて行けなくなる。

 新聞報道は、その常として、かなりの間違いを含むものであるから、いちいち論評すれば切りがない。この場合は、上記の新しいキーワード、「単純横領」の理解度を示すために、まずは実例として、次の短い記事のみを全文紹介する。これまた混乱の極みなのであるが、これをサラリと一読しただけで矛盾が発見できれば、わが潜称、「自称名探偵」の称号にも値するので、お試しあれ。


『朝日新聞』(2000.2.9)

被害額2倍4200万円余に

元職員の横領事件

武蔵野市

 武蔵野市の土屋正忠市長は8日、市議会全員協議会で、昨年5月に発覚した元市職員による業務上横領事件について、被害額は当初の調べの2倍にあたる42,733,100円にのぼる、と報告した。

 昨年7月、武蔵野署に告訴。今月7日に第3回公判が開かれ、これまでに追起訴を含め、8,836,900円分について業務上横領罪で起訴されている。

 一方、市税務部などで調査したところ、市の領収書があるのに税金が納入されていないなどの被害がさらにあることがわかったという。

 土屋市長は「単純横領は起訴に至らなかったようだが、こちらも市の被害額と認識している。何年かかろうと、被告に支払わせたい」と話した。


 本シリ-ズ(その4)にも記した通り、本年、2000年2月8日(火)午前10時から、武蔵野市の市議会本会議場で、武蔵野市議会の「全員協議会」が開かれることになった。その前日、2月7日(月)15時30分には、本来の「不祥事」こと「元職員の横領事件」の第3回公判が、東京地裁八王子支部で開かれた。この2つの日程が連動していることは当然の成り行きだが、そのどちらも、実に、実に、奇々怪々の展開と相成った。

 上記の朝日新聞の記事は、それらの経過を要約したものだが、その奇々怪々さゆえに、たったこれだけの短い文章の中でも用語の理解が混乱し、矛盾を来している。要は、「横領」「業務上横領」「単純横領」の区別、峻別にある。「(市長が)業務上横領事件について、被害額は当初の調べの2倍にあたる42,733,100円にのぼる、と報告した」というのは、間違いなのである。「業務上横領」の金額は、42,733,100円ではないのである。

 手元の安物辞書の「横領」の説明は、「他人・公共のものを不法に自分のものとすること。『公金…』」となっている。この頭に「業務上」が付くと法律用語となり、いわゆる「高官」の汚職事件で顕著なごとく、「職務権限」があったか、なかったか、が問われる仕掛けになっている。この法的な仕掛け自体は実に怪しい「法網潜り」の典型なのだが、「高官」を助ける法律屋の仕掛けは、建て前だけはご立派な「法の下での平等」の原則により、当然、下々にも及ぶ。そこで武蔵野市長は、この怪しげな法的仕掛けの「職務権限」を、巧妙にか、切羽詰まってか、ともかく利用し尽くしているのである。

 武蔵野市当局の説明では、この事件の「横領」には、「業務上横領」と「単純横領」の2種類があるということになっている。上記の朝日新聞記事は、市の説明の用語を、そのまま使っているが、その区別が混乱している。取材した記者には、記事の見出しと本文に出てくる「横領」「業務上横領」「単純横領」の区別が分からないので、混乱してしまったのだろうか。それとも、取材記者の原稿を短くしたデスクが間違えたのだろうか。

 ともかく、記事の見出しと本文を引用しながら矛盾を説明すると、見出しには間違いはない。「被害額2倍4200万円余」は、確かに、「横領事件」全体の被害総額なのである。だが本文では、「8,836,900円分について業務上横領罪で起訴」なのだから、現在までのところ、「業務上横領」として起訴された被害金額は、42,733,100円ではなくくて、8,836,900円なのである。では、これを総額から差し引いた残りの金額が「単純横領」なのかというと、それも違うのである。この内訳が、またもや、「業務上横領」と「単純横領」に分かれる「予定」なのである。というのは、まだ「業務上横領」の「追起訴」が予定されているからなのである。ああ、ややこしいのである。

なぜ「単純横領」に用語を統一したのか?

 さて、「単純横領」という表現は法律用語ではない。本来の刑法の法律用語では「詐欺」に当たる行為なのである。従来の市長の説明では、この部分を、「業務上横領ではなくて詐欺」とか、「単純横領または詐欺」と言っていた。それを今度は「単純横領」だけに統一したのである。その用語の統一が、いかにも公式の表現であるかのように格式ばって浮上した状況は、いささか異常であった。「単純横領」だけとする表現方法は、2月8日の「全員協議会」に提出された武蔵野市当局作成の資料と、それを基にした市長の経過報告で出現したものである。何とも、唐突極まる事態なのであるが、この統一用語の選択にも、何やら、「単純」どころか、いかにも「複雑」な背景事情が匂うのである。

 上記の記事の引用だけで初歩的な問題点を指摘して置くと、「全員協議会」の冒頭に行われた市長の経過説明の内、「単純横領……も市の被害額と認識している」という部分が、決定的な重要性を孕んでいるのである。

 つまり、「業務上横領」に当たる部分については、当時は実際に納税課員だったので「職務権限」を持つ被告に滞納分の一部を渡したのだから、その一部についての「納付」は終了していることになる。被害者は市である。ところが、「詐欺」となると、滞納者の市民が、納税課から保険年金課に配転されたために滞納徴収の「職務権限」が無くなった元職員に、騙された「だけ」になり、法的な意味での「納付」は終了していないことになる。被害を訴えることができるのは、市当局ではなくて、騙された個人の市民となる。事実、市は、この部分については、「武蔵野警察署と相談の上」、告訴していない。形式的には「市は関係ない」「滞納額はそのまま」とも言えるのだが、ところがどっこい、そうは言わないのである。市の「欠損」として処理し、「何年かかろうと、被告に支払わせたい」と言ったのである。ここが、いわゆる「グレー・ゾーン」なのである。実に怪しい暗闇なのである。市議会でも、この部分の「告訴」「告発」が、典型的な堂々巡りの議論になっている。ああ、ややこしい、のではあるが、上記の市長発言の意味と、さらに詳しい「背景事情」の手掛かり、推測については、本シリーズの次回に回す。

ケロリ早口の検事オネエチャン、まだ「追起訴」あり?

 話を2月7日に戻すと、第3回公判では、前回に予告された「追起訴」が行われ、「業務上横領」の金額が6,773,000円の追加となった。起訴に至った部分の被害者は合計4人、8,836,900円となる。また、前回、第2回公判の最後には「追起訴」の予告があったものの、同時に、第3回公判で「追起訴を終える」としていたのに、さらに次回、第4回公判でも「追起訴をする」となった。

 そげな恐ろしいことを、ケロリとした面持ちで、サラサラと、しゃべりまくるのは、若くて丸まっちい検事のオネエチャンなのだが、とてもとても早口で、わが傍聴なら超々ベテランのオジサンとしては、「甚だ失礼とは存じますが、早口で聞き取れませんのですが……」などと、超々丁寧な言葉使いで、一丁、かましたろうかな……、などとは思ったものの、相手は子供の年頃、特に決定的な重要性はない部分なので、黙って手帳にメモしていた。

 公判終了後、廊下で被告代理人に愚痴ったところ、彼もニヤニヤ、「あれは傍聴者無視ですね」などと言う。しかし、さすがは弁護士、餌場の事情には詳しくて、「法廷に出た検事は下っ端で、上席の、(やはりオネエチャンの)女性の検事が作った書類を読み上げているだけなのだ」と言う。いやはや、何とも、近頃流行の司法「流れ作業システム」も、ここまで来ると、劇画そこ退けである。

「小出し」抗議の被告代理人に廊下で質問する納税課長

 話を、いったん法廷に戻すと、H被告の代理人のH弁護士は、当然、「まだ追起訴あり」に抗議した。「小出し」「被告も苦痛」「何時終わるのか」、などと食い下がった。これまた若くて、今年は早めに流行の花粉症らしくて、グジュグジュやってる秀才風の男性の裁判官も、遠慮がちに一言し、一応、検事オネエチャンに「次回で追起訴を終える予定」と、言わせた。だが、まるで誠意の感じられない機械的な返答振りだったから、「予定は未定にて決定にあらず」とか、まったく予測の限りではない。

 次回の第4回公判は、4月10日(月)15時30分から16時30分の1時間と決まり、「追起訴」「論告」「弁論」を一気に終える「予定」となった。

 公判終了後の廊下では、傍聴者からH弁護士への質問が相次いだ。特に傑作なのは、毎回熱心に傍聴している武蔵野市税務部納税課の課長が、「まだ、これ以上出てくるのでしょうか?」と心配気に聞いたことである。H被告が、まだ、すべての犯行を告白していないのではないかと、心配しているらしいのである。ところが、翌日の武蔵野市の市議会「全員協議会」では、市当局側が、市長、税務部長、ご当人の納税課長の3人とも、揃いも揃って、全員、胸を張って、「すべて調査しました。これで全部です」と答弁しているのである。ああ、危ういかな。

守秘義務(地方公務員法・地方税法)を盾に取る攻防

 2月8日の武蔵野市議会の全員協議会では、A4判の『元市職員による横領事件資料』と題する「平成12年2月8日/全員協議会資料」が議員に配布された。傍聴者にも「貸出用」のハンコ付きのコピーが渡された。

 まず簡単に論評すれば、ギリギリ最低限の「情報公開」が、1999.5.17.と称されてきた「事件発覚」から、何と、9か月も経って、しかも、この間の議会での堂々巡りの紛糾の果てに、やっとこさ、実現したのである。ここに至るまでの土屋市長の「隠蔽工作」の武器は、お得意の「プライバシ-!」に加えて、「公務員の守秘義務!」、さらには、「税法上の守秘義務は、さらに厳しいのであります!」となっていた。別途、関係の条文を紹介するが、確かに、地方公務員法の方は単に「職務上知り得た秘密を漏らしてはならない」だけなのに、地方税法では「漏らし、又は窃用した場合においては、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」となっている。

 しかし、地方公務員法の方が基本的には優先するのであり、そちらでは、「法令による証人、鑑定人となり、職務上の秘密に属する事項を発表する場合においては、任命権者……の許可を受けなければならない」とあり、さらに、「(この)許可は法律に特別の定がある場合を除く外、拒むことはできない」となっている。つまり、この「事件」の場合のように、関係者が「証人、鑑定人」になる必要が生じた場合には、「職務上の秘密に属する事項を発表する」べきなのであって、その許可を、「任命権者」、この場合には市長が、「拒むことはできない」のである。

A,B,C,D,E,F.各氏の個別被害金額はなぜ秘密か?

 さてさて、やっとこさ「公開」された「事件資料」の被害者の「氏名」は、A,B,C,D,E,F.となっている。「横領額」は42,733,100円。その下に括弧付きで、(8,836,900円)とあり、さらにその下に(注1・2)とある。注1・2は、「第3回公判時点での起訴額」を意味する。

 簡単な問題点は、まず、42,733,100円という被害総額だけで、A,B,C,D,E,F.各氏の個別の被害金額が記されていないことである。実際には刑事公判で、A,B,C,D,E.の5氏に当たると思われる被害者の氏名が、明らかになっており、その5氏の「業務上横領」分の被害金額は8,836,900円として起訴されている。ただし、D,E. 両氏らしき被害者に関しては、「横領期間」が、被告が年金保険課員だった時期にも及んでいるので、「単純横領」の区分に属する金額が残っているようである。

 なお、F氏についての「横領期間」も、D,E.両氏とほぼ同様である。つまり、「業務上横領」の被害も受けているはずである。だから、「業務上横領」分の「追起訴」が全部終了すれば、いくら嫌でも、被害者全員の氏名と、少なくとも「業務上横領」分の個別被害金額は、明らかにならざるを得ないのである。それなのに、なぜ市長は、昔々の朝礼で、「畏れ多くも!」と、突然、しゃっちょこばった校長先生さながら、「プライバシ-!」「公務員の守秘義務!」「税法上の守秘義務は、さらに厳しいのであります!」、などと叫ぶのであろうか。これが不可思議なのである。いや、実は、そんなに不可思議ではなくて、おそらくは、特にE,F.氏らには、「被害者」というよりも、むしろ、それ以前の「高額滞納者」としての不名誉な名前が明るみに出るのを、一日でも遅らせたい事情があるに違いないのである。

 さて、以上により、目下まだ不明な部分は、D,E氏の「単純横領」分と、F氏の個別の被害金額となる。この3氏の残存被害総額は、42,733,100円マイナス8,836,900円のはずだから、33,896,200円のはずである。これを単純に3で割ると、11,298,733円となる。つまり、平均で何と、「1千万円以上!」にもなるのである。

 ああ、「せめて、それぐらいの税金滞納を、一度でもしてみたい!」と思わぬ市民が、どれぐらい、いるのであろうか。

 被害者の6氏の内、これまでの刑事法廷の公判で実名が出ていないのは、どうやら、終りの方のF氏だけであるらしく、しかも、このF氏の被害金額が、比較的に高額であるらしいのである。ああ、やはり、ますます、ややこしいのである。

 そこで、個別の具体的な推測は次回に回すことにして、以上のような簡単な問題点が示唆する重要かつ決定的な「問題点」を指摘して置くと、要するに市当局、いやさ、市長、いやさ、市長を担ぐ自民党他の体制派は、かなりの規模の中小企業主か資産家か、ともかく相当な金持ちの、つまりは「有力者」の、高額な税金滞納、そこに端を発する業務上横領、詐欺に関して、それら市内「有力者」の名前が出ないように、または、名前が出る時期を遅らすめに、必死の防戦を試みてきたらしいのである。しかも、この不祥事が、市長と市議の選挙以前に発覚していたのに、グルもグルの隠蔽工作、「不祥事隠し」に走ったがゆえに、「プライバシ-!」「守秘義務!」と、正義の御旗を振り回しては、この9か月の耐久レースのダンンマリ作戦に終始してきたらしいのである。

以上で(その5)終わり。(その6)に続く。


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