米軍用地強制使用裁決申請事件

同  明渡裁決申請事件

  意見書(三)


 [目次


第七 嘉手納飛行場

 一 はじめに

 那覇防衛施設局長は、一九九六年(平成八年)三月二九日、嘉手納飛行場(以下「嘉手納基地」という)に係る三四筆の土地につき、権利取得裁決申請及び明渡裁決の申立てを行なった(以下「本件各裁決申請」という)。

 反戦地主・一坪反戦地主は、本件各裁決申請の問題点・違法性につき、一一回の公開審理を通じて全面的に主張・立証を行なった。特に、第七回公開審理及び第八回公開審理における左記の反戦地主・一坪反戦地主等の意見陳述は、圧巻であった。

 これらの意見陳述によって、嘉手納基地の全貌が戦後初めて公の場で明るみに出たと言っても過言ではない。嘉手納基地は全面的に裁かれたのである。

 反戦地主・一坪反戦地主の本件各裁決申請についての主張は要約すれば、次のとおりである。

 1 そもそも、米軍による嘉手納基地の建設は国際法違反であり(ハーグ陸戦法規四六条)、日本政府は復帰にあたり違法状態を解消すべきであったのにこれを怠り、復帰後は違憲な「公用地暫定使用法」「地籍明確化法」「米軍用地特別措置法」により強制使用を継続してきたのであるから、本件各裁決申請は申請権濫用としていずれも却下すべきである。

 2 本件各強制使用手続を基礎づける安保条約第六条憲法違反であるから、本件各裁決申請はいずれも却下すべきである。

 3 本件各強制使用手続を基礎づける米軍用地特別措置法は憲法違反であるから、本件各裁決申請はいずれも却下すべきである。

 4 本件各使用認定には、憲法二九条三項、同一項に違反する重大かつ明白な違法があるから、本件各裁決申請はいずれも却下すべきである。

 5 そもそも、地籍不明地は強制使用の対象にならず、仮に強制使用の対象になるとしても眞榮城玄徳、有銘政夫の所有地として裁決申請されている土地五筆については特定がなされていないものとして却下すべきである。

 6 そもそも、米軍の嘉手納基地の使用は、「極東」(安保条約第六条)の範囲を逸脱しているので、本件各使用認定には米軍用地特別措置法第三条に反する重大かつ明白な違法がある。したがって本件各裁決申請はいずれも却下すべきである。

 7 本件各裁決申請の対象土地の使用実態を見れば、米軍用地特別措置法第三条の規定する「適正且つ合理的」の要件が満たされていないにもかかわらず使用認定がなされた土地が存在する。そのような明白かつ重大な誤りによって使用認定がなされた土地の裁決申請は却下すべきである(この主張の対象土地一七筆がどこかということについては、後に述べる)。

 8 本件各裁決申請書に添付された土地調書の実測平面図の中には、平成六年七月から九月の間に実際に測量がなされなかったものが存在する。にもかかわらず防衛施設局長が平成六年七月から九月の間に測量をしたと虚偽の説明をした土地の裁決申請は却下すべきである(この主張の対象土地一一筆がどこかということについては、本年二月二〇日付「意見書 」参照)。

 9 本件各裁決申請書に添付された土地調書の実測平面図は、すべて本件各使用認定前に作成されたものであるから、本件各裁決申請はいずれも却下すべきである。

 10 本件各裁決申請書に添付された土地調書の作成に際し、防衛施設局長は反戦地主・一坪反戦地主の現地立会を拒否する違法を犯したのであるから、本件各裁決申請はいずれも却下すべきである。

 11 沖縄市字森根角石西原一九一番等合計九筆の土地の土地調書・物件調書には異議が付されているにもかかわらず防衛施設局長は立証を怠った。したがって同九筆の土地の裁決申請は却下すべきである(九筆の対象土地がどこかということについては本年二月二〇日付「意見書(一)」参照)。

 12 防衛施設局長は、一九九五年(平成七年)三月二四日に一坪反戦地主の使用認定に関する「意見書」を受領しなかった。したがって、防衛施設局長の一坪反戦地主所有土地の使用認定申請、ひいては内閣総理大臣の使用認定には重大かつ明白な違法が存在するから、一坪反戦地主所有土地(嘉手納町字東野理原三五〇、同三八一)の裁決申請は却下すべきである。

 13 防衛施設局長は、一坪反戦地主に対しては一切の任意交渉をせずに本件裁決申請に及んでおり、そのような裁決申請は違法であるから、一坪反戦地主所有土地(嘉手納町字東野理原三五〇、同三八一)の裁決申請は却下すべきである。

 右に述べた一三点の却下事由については、いずれも一一回の公開審理を通じて反戦地主・一坪反戦地主が繰り返し主張・立証してきたものである。また一九九八年二月二〇日付「意見書(一)」で詳論されているものも存在する。

 したがって、本稿では、公開審理における反戦地主・一坪反戦地主の主張を補充し、明確にするために、右の5、6、7に関連する以下の点に絞って論ずることにする。

 (1)眞榮城玄徳・有銘政夫関係の地籍不明地問題について

 (2)嘉手納基地の使用が「極東」の範囲を逸脱していることについて

 (3)本件各土地の使用状況と「適正且つ合理的」要件の不存在について

 二 眞榮城玄徳・有銘政夫関係の地籍不明地問題について

 過去の米軍用地強制使用事件に関する沖縄県収用委員会の公開審理において不十分な審理しかなされなかった問題の典型が地籍不明地問題であった。

 有銘政夫は、次のように述べている。

 「過去の収用委員会の公開審理記録を読めば明らかのように、私たちが釈明を求めれば必要なしと退け、具体的事実を示して回答を求めれば、この場は論議の場ではないと言って発言を封じ、一度たりとも実質審理が行なわれないまま、真相が闇に葬られた」(第八回「公開審理記録」四二頁)

 今回の公開審理においては、従前と異なり、短時間ではあったが、十分な実質審理がなされた。嘉手納基地関係においては、眞榮城玄徳有銘政夫河内謙策が第八回公開審理において意見陳述を行なった。

 眞榮城玄徳と有銘政夫の主張は、そもそも地籍不明地が米軍用地特別措置法土地収用法に基づく強制使用の対象にならないということを前提に、仮に強制使用の対象になるとしても、同人らのケースにおいては、裁決申請した土地が特定していないとして却下すべきである、という内容であった(第八回「公開審理記録」二九頁以下参照)。

 そもそも地籍不明地が強制使用の対象になるかという問題については、代理人河内謙策が第八回公開審理において、代理人吉田健一が第一一回公開審理において述べたとおりであり、本年二月二〇日付「意見書(一)」でも詳論されているところである。したがって、ここでは繰り返さない。

 ここでは、眞榮城玄徳、有銘政夫及び両名の代理人である河内謙策が第八回公開審理において述べた「仮に地籍不明地が強制使用の対象になるとしても同人らのケースにおいては、裁決申請した土地が特定していないとして却下すべきである」という主張に対する防衛施設局長の反論(平成九年一二月一日付「沖縄県の区域内における位置境界不明地域内の各筆の土地の位置境界の明確化等に関する特別措置法に基づく位置境界明確化の手続が完了していない地域に所在する裁決申請土地の位置境界の特定について」と題する書面)を検討してみることにしよう(なお、旧平安常次所有地関係については、現所有者である反戦地主・一坪反戦地主が眞榮城玄徳らと同趣旨の主張をしていないので、検討を割愛する)。

 まず、右の文書を一読して明らかなことは、眞榮城玄徳らが一九四七年の土地所有権申請書に基づいて作成された一九四八年の地図をもとにこの問題を論じ、一九四八年の地図と実測平面図・現況地籍照合図の違いを具体的に明らかにしているにもかかわらず、防衛施設局長の反論文書がこの点については何ら具体的に反論をせず、眞榮城玄徳らに「不利と思われる事実」を列挙することで点数を稼ごうとしていることである。これでは反論になっていないと言わざるを得ない。

 防衛施設局長が列挙する眞榮城玄徳らに「不利と思われる事実」の第一は、眞榮城玄徳らが反戦地主会の方針に従って現地確認書に押印を拒否しているということである。眞榮城玄徳らが反戦地主会の方針に従うかどうかは同人らの内心の自由に属する問題であり、防衛施設局長がとやかく問題にする性質のことではない。防衛施設局長は、今回の裁決申請において眞榮城玄徳ら個人を相手にしているのであり、反戦地主会を相手にしているのではない。防衛施設局長の言動は、自らの前近代的人権感覚を証明しているものと言えよう。

 第二に防衛施設局長が列挙する眞榮城玄徳らに「不利と思われる事実」は、一九八〇年(昭和五五年)一二月二六日に那覇防衛施設局と違憲共闘会議・平安常次の間で「地籍明確化作業の過程において土地の復元が可能になった地主への補償に関する確認書」が締結されているということである。

 地籍明確化作業の過程において、眞榮城玄徳が土地を所有する石根原の地域においても、有銘政夫が土地を所有する伊森原の地域においても、いわゆる「登記もれ土地」(所有権認定申告がなされなかった土地)が明らかになった。しかし、防衛施設局は、このような「登記もれ土地」については、両地域が未認証地域であることを理由に、「登記もれ土地」についての軍用地料を支払わなかった。そこで、違憲共闘会議が「登記もれ土地」の位置や境界・形状が確定しなくても軍用地料を支払うべきだとしてその支払を請求し、その結果、確認書が締結されたのである。

 右の経過から明らかなように、眞榮城玄徳も、有銘政夫も「登記もれ土地」の存在自体については承認しているものの、地域内におけるその位置や境界・形状についてまで承認していない。「登記もれ土地」の位置や境界・形状について眞榮城玄徳や有銘政夫が承認しているという証拠があるというのなら、防衛施設局長は、ぜひ提出して頂きたい。

 また、眞榮城玄徳らの実測平面図に「仮」の表示のなされている土地があるが、その土地が「登記もれ土地」で昔からそこに存在していたというのなら、防衛施設局長は、その証拠を提出して頂きたい。それは不可能であろう。

 したがって、防衛施設局長が、確認書を根拠に「反射的に自己の土地の位置、境界については動かないものとなる」という論理は飛躍であり、こじつけ以外の何物でもない。 第三に防衛施設局長が列挙する眞榮城玄徳らに「不利と思われる事実」は、眞榮城玄徳らが沖縄県収用委員会の裁決に基づく補償金を「受領」しているということである。

 しかし、眞榮城玄徳らが地籍不明地の強制使用は許されないと過去一貫して収用委員会において主張してきたことは明白な事実であり、収用委員会の使用裁決について那覇地方裁判所に訴を提起してその取消しを求めているものであるから、補償金の「受領」が本件申請土地が特定していることに結びつくものではない。

 第四に防衛施設局長が列挙する眞榮城玄徳らに「不利と思われる事実」は、眞榮城玄徳が土地を所有する石根原の地域においても、有銘政夫が土地を所有する伊森原の地域においても、他の土地所有者が現地確認書に押印済みだということである。

 しかし右のいわゆる「10−9=1」の論理は、全く成立しない。

 1 他の土地所有者の土地がすべて未認証土地であり、その位置・境界がすべて決まっていないのにもかかわらず、あたかも決まっているかのように述べて、残っている土地がお前のものだというのは無茶苦茶な論理としか言いようがない。

 2 他の土地所有者の押印の真意を歪曲している。沖縄の地籍明確化作業の実態が集団和解であるということは、公知の事実である。したがって、少なからぬ土地所有者の押印した真意は、「ここが本当に自分の土地かどうかわからないが、皆がこの案でいくなら、自分もこの土地を自分の土地にすることに異存はない」という趣旨である。「9」の意思がすべて「この土地は自分の土地であり、境界も間違いがない」というのであれば、防衛施設局長は立証すればよい。それは不可能であろう。

 3 防衛施設局長の論理は、集団和解案を和解案に同意していない者に強制するものであるが、和解を拒否している者に対して和解案を強制できないことは、法律の常識に属する。

 4 そもそも土地の位置・境界を確定することは、民事訴訟の判決によるか、地籍明確化作業の成果の認証作業を経るしかない。民事訴訟の判決にもよらず、地籍明確化作業の認証作業も経ないで、土地の位置・境界が確定するはずがないのである。防衛施設局長の論理は黒を白と言いくるめるもので、法の大原則を破る誠に「勇気」ある主張と言えよう。

 以上より、防衛施設局長らが列挙する眞榮城玄徳らに「不利と思われる事実」は、すべて防衛施設局長の主張を根拠づけるものでないことが明らかになった。

 地籍不明地問題についての防衛施設局長の論理の破綻は明白である。

 三 嘉手納基地の使用が「極東」の範囲を逸脱していることについて

 米軍用地特別措置法第三条は、内閣総理大臣の使用認定の要件として、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合」をあげているが、同文言が「安保条約違反の駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合」を含むと解釈することは、いかなる奇弁をもってしても不可能なことである。

 そこで、嘉手納基地使用の実態が安保条約違反と言えるかどうかが問題になる。

 反戦地主・一坪反戦地主は、嘉手納基地使用の実態が以下のとおり安保条約第六条の予定している「極東」の範囲を逸脱しているので、安保条約違反であることは明白であると考える。

 そもそも、在日米軍が日本の安全・日本の防衛とは無関係にアメリカの国益を基準に行動する軍隊であるということ、また、「極東」の範囲を逸脱した目的を有しているということはアメリカ政府・軍関係者から再三言明されてきたところである。一九九五年三月に発表された米国防総省の「日米安全保障関係報告書」も、次のように述べている。

 「日本に駐留する米国の陸・海・空軍および海兵隊は、アジア・太平洋におけるわれわれの防衛第一線を支えている。これら部隊は遠くペルシャ湾に至るまでの広範な局地的、あるいは地域的、さらには地域を超えた突発事態に対処できる態勢を整えている。」(邦訳「世界週報」一九九五年四月一日号七一頁)

 嘉手納基地についても、第一八航空団司官ジェフリー・クレーバー准将(当時)は、嘉手納基地機関紙「カデナ・ショーグン」一九九三年九月一〇日号において、次のように述べて嘉手納基地使用の実態が「極東」の範囲を逸脱していることを認めている。

 「われわれは、戦闘機・給油機・空輸機・救護機・ヘリコプター、空中と地上設置のレーダー・システム、加えて、機動と展開を要求される支援、兵站と医療基礎施設の混成部隊を保持している。そして、合衆国の国家利益と西太平洋における地域的同盟諸国の利益にかかわる支援に部隊を動員する。出動し、戦いをして勝利する体制を整えている空の最高のチーム」である(大城朝助「米新戦略に直結する沖縄」『赤旗』評論特集版一九九五年一二月二五日号一五頁より引用)。

 嘉手納基地の使用実態が「極東」の範囲を逸脱していることを最も誰の目にもわかりやすい形で明らかにしたのが湾岸戦争であった。

 第七回公開審理において、「嘉手納基地の歴史と機能」につき意見陳述した大城保英は、県収用委員会に提出した「第七回公開審理意見陳述概要」の中で、次のように述べている。

 「九一年一月一七日に始まった湾岸戦争の『砂漠の嵐』作戦では、一月末段階で五〇万人余の米軍が、ペルシャ湾周辺に集結しました(米国防総省発表)。在日米軍基地からは一万五〇〇〇余人、そのうち沖縄からは八〇〇〇人以上の米兵が中東に出動しました。在沖米軍基地は、湾岸地域への兵員、武器・弾薬、その他の物資等の輸送のために、嘉手納基地をはじめ普天間基地、牧港補給基地、那覇軍港、ホワイト・ビーチ、レッド・ビーチ、天願桟橋などすべての米軍基地が二四時間体制で動きました。

 九〇年八月七日夕方から翌八日にかけて、完全武装の米兵が多数C130輸送機に乗り込んで、嘉手納から中東へ出撃しました。米国防報告によると、この日は『砂漠の楯』作戦の第一段階第一日目と位置づけられています。八月八日にはE3空中早期警戒管制機(AWACS)二機が嘉手納基地から中東へ飛び立って行くのを、私たちは監視行動の中で目撃しました。

 その後も嘉手納基地からの発進は続きます。九月九日には大型輸送機C5ギャラクシーが大量の物資を満載して、相次いで中東へ。九月二八日には嘉手納の909空中給油中隊、第376組織整備中隊が湾岸戦争の任務に参加(『カデナ・ショウグン』報道)。九一年一月一一日には、第一二海兵隊第二砲兵大隊が嘉手納からユナイテッド航空機747やC5ギャラクシーで中東へ(約三四〇人)。この週に二二五〇人〜三三四〇人の兵員が沖縄から中東へ(『星条旗』報道)。

 その他、梅林宏道氏の『情報公開法でとらえた沖縄の米軍基地』によると、空軍からは三五三人の空中給油部隊、八一人の空輸支援関係要員、四四人の第四〇〇弾薬整備部隊員が湾岸に派遣されました。弾薬整備要員は約九八〇〇トンの弾薬を嘉手納から湾岸に運んだと言われています。また、湾岸戦争に協力するために、アメリカ本国やグアムの米軍基地に嘉手納から派遣された兵員もおります。

 また、上記資料によれば、嘉手納基地に残った部隊も、色々な後方活動で湾岸戦争を支援しています。嘉手納の補給部隊は二〇〇万ドル相当の科学戦争用の防御装置や軍服などを湾岸へ送り、多くのF15戦闘機の部品が湾岸に送られ、九一年前半までは嘉手納基地で部品不足が生じたと言われています。」

 更に大城保英は、同書面の中で、「マヤゲス号事件で、海兵隊が嘉手納基地からC141輸送機でタイへ出撃(七五年)」、「P3対潜哨戒機部隊がイラン革命、米大使館員の人質事件で、インド洋のディエゴ・ガルシアに派遣される(七九年)」、「イランでの人質救出作戦に特殊作戦部隊のMC130が四機出動、一機は撃墜」、「国連憲章に違反して、米軍独自のイラク攻撃に嘉手納のKC135が参加(九六年)」、「海兵隊員三〇〇名がソマリアへ向けて嘉手納を出発(九二年)」の事実を指摘し、「嘉手納から飛び立った目的地はどれも極東の地域ではありません。これだけを見ただけでも、米軍の行動が日米安保条約にさえも違反していることは明らかです」と締め括っている。

 以上より嘉手納基地の使用実態が、安保条約に違反していることは明白であろう。

 したがって、嘉手納基地関係の三四筆の使用認定は米軍用地特別措置法第三条に違反した重大かつ明白な違法があるので、本件各裁決申請は、いずれも却下すべきである。

 四 本件各土地の使用状況と「適正且つ合理的」要件の不存在について

 米軍用地特別措置法第三条は、内閣総理大臣の使用認定の要件として、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合」と「その土地等を駐留軍の用に供することが適正且つ合理的であるとき」とを規定している。

 では、右の「その土地等を駐留軍の用に供することが適正且つ合理的であるとき」とは、如何なることを言うのか。その解釈が問題となる。

 このことにつき、参考になる一つの裁判例が存在する。いわゆる「アニーパイル劇場事件」の東京地方裁判所の判決である(昭和二九年一月二〇日、判例時報第一九号一七頁)。

 アニーパイル(旧東宝)劇場は、駐留軍軍人の娯楽乃至慰安のため利用されてきたところ、昭和二七年一一月二四日、内閣総理大臣が使用認定をした。そこで東宝株式会社が内閣総理大臣を相手として使用認定の取消を求めたのが本件である。

 裁判所は、「日本国は、行政協定により、合衆国に対し、安全保障条約第一条に掲げる目的の遂行に必要な施設及び区域の使用を許す義務を負担したので、この義務を確実に果たすための国内措置として、駐留軍の用に供する土地等の使用又は収用に関する特別措置法を作ったのである。故に、特別措置法第三条にいう土地等を駐留軍の用に供することが『適正且つ合理的』であるか否かは、その土地等が安全保障条約第一条に掲げる前記目的の遂行に必要な施設または区域といえるか否かということを基準として決しなければならない(また特別措置法による使用又は収用は強制的なものであり、やむを得ない必要があるとしても個人の財産権の侵害が許容される場合であることを考えると、その『適正且つ合理的』というにはおのずから一定の限界があって、無制限に広い解釈をこれに与えることもできぬ、といわねばならぬであろう)。

 人間生活にとって娯楽乃至慰安が必要であることは、いうまでもない。軍人生活にとって娯楽乃至慰安が必要であることも、よくわかる。しかし『軍人には娯楽乃至慰安が必要であるから、駐留軍々人の娯楽乃至慰安のために娯楽乃至慰安の施設を駐留軍の用に供することは適正且つ合理的である。』というような論議は、いささか的を外れている。ここでは軍人一般に何が必要であるか、というようなことは、問題にならず、ただ、駐留軍々人の娯楽乃至慰安のために、娯楽乃至慰安の施設を、駐留軍の用に供することは、安全保障条約第一条に掲げる前記目的の遂行に必要な施設の供与といえるかどうか、ということだけが問題になるからである。」と判示し、本件については、「本件物件を駐留軍のこのような用途に使うことは、特別措置法第三条でいっている『適正且つ合理的』な使用には当たらない、と考える。このような用途は、安全保障条約第一条に掲げる目的、即ち『極東における国際の平和と安全の維持に寄与し、外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するため』という目的から少しはなれるからである。右のような用途でも『適正且つ合理的』といえるとすると、必要な最少限度に止めなければならないはずの、個人の財産権の侵害について、殆んどきりがなくなるからである。」と判断した。

 誠に立派としか言いようがない判決であり、判決から四〇数年を経た現在でも、十分に通用する論理である。

 右の判決は、旧安保条約の時代のものであるから、今日の時点に読み替えれば、米軍用地特別措置法第三条の「適正且つ合理的」の要件は、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和と安全の維持のために必要な施設及び区域」と解されることになろう。

 なお、いわゆる「那覇市軍用地訴訟」において、那覇地方裁判所は、「『適正且つ合理的』であるとは、原告主張のように『適正』と『合理的』とに分断して解釈すべきではなく、両者を併せて、土地等を駐留軍の用に供する必要性が高いこと及び土地等を駐留軍の用に供することによる公共の利益がこれを駐留軍の用に供することによって失われる利益に優っていることの意と解すべきである」と述べている(判例時報一三五一号二九頁)。

 しかし、このような比較衡量論は、一見もっとものようでありながら実は判断の明確性・安定性を欠くものであること、問題になっているのが強制使用対象者の人権であることからすれば、人権にウエイトをおいて限定的な解釈がなされなければならないのにそのような考慮がみられないこと、という重大な欠陥を有する。

 したがって、右のアニーパイル劇場事件判決の解釈が、今日もなお維持されなければならないのである。

 では、本件各使用認定は「適正且つ合理的」の要件を満たしているだろうか。

 反戦地主・一坪反戦地主は、不当にも現地立入りを再三・再四にわたって拒否され続けている。それゆえ、本件各裁決申請対象土地の実際の使用状況を、各「物件調書」記載の「実地の状況」欄で点検すると、以下のように各土地が使用されていることがわかる。これらの使用状況から判断すれば、これらの土地はいずれも「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和と安全の維持のために必要な施設及び区域」と言えないものである。すなわち、米軍用地特別措置法第三条の「適正且つ合理的」の要件を満たさない土地である(なお、必要に応じて、那覇防衛施設局長の平成七年四月一七日付「使用認定申請書」に添付されている「土地等の調書」の「現在の用途」欄に記載されている内容を紹介する)。

[土地の所在・地番]
 [所有者] 
[使用状況]
1
沖縄市字山内唐道原六〇−一 
比嘉康雄
沖縄電力株式会社が使用している架空送電線がある(「使用認定申請書」では「学校用地」となっている)。
2 沖縄市字山内唐道原六〇−二 比嘉康雄 更地(「使用認定申請書」では「学校用地」となっている)。
3 沖縄市字山内西原一一六九 金城 昇 家族住宅、変圧器及びマンホール等がある。
4 沖縄市字山内石迫原一五七六 喜友名朝則 更地(「使用認定申請」では「駐車場敷地」となっている)。
5 沖縄市字森根角石西原一九一 照屋秀伝 住宅、高圧ボックス及び外灯等がある。
6 沖縄市字森根伊森原二七二 有銘政夫 住宅、マンホール等がある。
7 沖縄市字森根石根原三六一−二  眞榮城玄徳 沖縄電力株式会社及び沖縄県企業局の使用する工作物並びに駐車場がある。
8 沖縄市字森根石根原三六二 眞榮城玄徳 沖縄電力株式会社及び沖縄県企業局の使用する工作物並びに貯水タンクがある。
9 沖縄市字森根石根原三八五 眞榮城玄徳 沖縄県企業局の使用する工作物及び駐車場がある。
10 沖縄市字白川白川原三八二−一 高宮城清 沖縄電力株式会社の使用する工作物がある。
11 沖縄市字大工廻大工廻原三二 比嘉昭雄 資材置場がある。
12 沖縄市字大工廻大工廻原三四 比嘉昭雄 更地(「使用認定申請書」では「資材置場敷地」となっている)。
13 嘉手納町字野里南上原九五五 伊礼巳知男 電柱及び電気マンホールがある。
14 北谷町字伊平赤道原八〇四 喜友名朝則 家族住宅がある。
15 北谷町字上勢頭平安山中勢頭原五一 名嘉富子外 更地(「使用認定申請書」で「資材置場敷地」となっている)。
16 北谷町字下勢頭下勢頭原四六一 佐久川政一 家族住宅及び電柱支線がある。
17 北谷町字砂辺加志原五五四 與儀和雄 墓一基がある。
       

 以上により、右一七筆の土地の使用認定には、米軍用地特別措置法第三条に違反する重大かつ明白な違法が存在することが明らかである。

 右一七筆の土地に係る本件各裁決申請は、いずれも却下すべきである。


出典:反戦地主弁護団、テキスト化は仲田。


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