仰天!武蔵野市『民主主義』周遊記(その19)

借金火達磨・巨大政治犯罪都市

割り込み中継:地方議員向けACT寄稿

1999.5.27

 日本全国の地方議員とその支持者の市民を読者対象とする「ACT・市民の政治編集委員会」編集、「アクト新聞社」発行のタブロイド紙、「生活・社会・文化を創るACT(アクト)…市民の政治…」(1999.5.10.&25)に、連載記事を寄稿したので、これまでの本連載と内容的には重複するが、それらのまとめとして、以下、再録する。


 連日の日本経済崩壊、または再生策の報道で「地方自治体の財政危機」に言及する例は多い。肝心要の今、景気対策の伝家の宝刀、カンフル注射の地方公共事業の財源が消滅しているからだ。

 第3セクターの土地開発公社が抱える借金と、その借金で購入したまま半値以下に暴落、塩漬け状態の公共用地の存在についても、一般向け商業紙では時折だが、日経などの経済紙誌では不十分ながら一部報道されている。市民運動も最近、土地開発公社問題に気付き出した。日本経済新聞(99.3.19)社会面には、つぎの記事が載った。

「3セクの未利用地/全国で情報公開請求」
「市民オンブズマン『塩潰け』実態解明へ」

 ……全国の市民オンブズマン62団体が参加する全国市民オンブズマン連絡会議は18日、自治体の第3セクターが事業予定地として購入したまま長期間末利用になっている「塩漬け用地」の実態を明らかにするため、全国一斉に情報公開請求する[中略]。

 士地開発公社が保有する土地の所在地や利用目的、取得価格などの公開を求める。[中略]

「塩漬け用地」は土地の値上がりを見越し先行取得したものの、使い道が決まらないまま放置[後略]……

 だが、この記事で見る限り、この「全国市民オンブズマン連絡会議」の見解と方針には、不十分なところが、いくつかある。

 まずは、根本的な事実関係で

「自治体の第3セクターが事業予定地として購入したまま長期間末利用になっている『塩漬け用地』の実態」と、「公開を求める」対象の「士地開発公社が保有する土地の所在地や利用目的、取得価格など」とが、同じ意味なのか、

 それらの土地が、本当に「事業予定地として購入した」ものなのか、

 さらには「土地の値上がりを見越し先行取得したもの」なのか、などである。

 私が自力で調査した武蔵野市土地開発公社に関する限り、バブルの頂点で取得した膨大な土地の大半は、すでに市が買い戻し、市の財産になっている。だから、現在の「土地開発公社が保有する土地」だけの調査では不十分、片手落ちなのである。すでに自治体の財産になっている「塩漬け」用地も調査すべきである。

 私は、武蔵野市の例からの類推で、全国でも双方を合わせて取得価格で十数兆円の塩漬け用地があると試算している。『週刊東洋経済』(98.11.21)では「13兆円」前後と見ている。一方、日本不動産研究所の発表では「6大都市圏」「商業地の地価はピーク時の21%」(日経99.4.16)に下落している。

 武蔵野市の場合、「塩漬け用地」の大部分は、目的の特定すらせず「代替用地」「諸用地」などの名目で購入しており、名目的にも「事業予定地」とは言えない。

 しかも、ごまかし上手の武蔵野市の土屋市長でさえも、不動産業界では何時暴落するかと危惧されていた時期から、誰の目にも暴落が始まっていた時期に掛けての土地取得を、「土地の値上がりを見越し先行取得したもの」などとは強弁していない。

 事実は、慌てふためいた銀行救済の「失政」でしかなかったのだ。その有様はグラフを作って見ると一目瞭然である。

 自治省発表では、地方自治体の借金総額が一昨年度末で 145兆円に達し、本年3月末の実績集計による昨年度末の総額が160兆円との予想であるが、これには全国に昨年6月1日現在で1538ある土地開発公社の保有土地取得金額、9兆円の大半を占める借金が含まれていない。国家財政の方ではJRの借金も加算しているのだから、これは不都合である。

 当局発表不十分の次の問題は研究論文不在である。私の知る限り、この問題の論文は拙稿(『マスコミ市民』1996.7)のみである。ほとんどすべての研究者が当局発表と新聞記事の切抜きだけに頼る以上、これは当然の帰結である。私は、この種のメディア報道がないと事実上存在しなくなると同様の現象を、「マスコミ・ブラックアウト」と呼ぶ。同じことをアメリカの労働組合関係者は「メディア封鎖」(media blockade)と表現している。

 上記のような地開発公社問題に関する当局発表、研究、報道の不十分さには、はっきりとした理由がある。

 情報公開が不十分なのは間違いないが、それ以前に大手メディアの報道姿勢がある。それは発表報道の一語に尽きる。大手メディアの地方部などの日常業務は、自治省や都道府県当局が記者クラブで発表する問題だけを、配布資料から短くまとめて地方面に載せることであって、この場合には発表も資料もなしだから、報道なしとなる。

 担当者は通常、サツ回り修行並の新人、つまり、他の職業経験のない世間知らずの大卒エリートである。はっきり言うと何も分かっていないし、その上に出過ぎたことをする気概もない。無事に勤め上げて「本社、本社」と呼ぶ習慣の中心部に入り込むことしか頭にない。そういう記者に、当局が発表したがらない資料を発掘し、分析し、実態調査せよと望むのは百年河清を待つの愚である。

 もともと、3年前から、私が作成した土地開発公社に関する資料は、地元の全大手メディア支局に渡ったまま、反古同然の扱いとなっている。

 自治体研究論文でも無視され、新聞にもほとんど載らないとなると、中央政界での政治課題になる可能性はなくなる。しかもこの「失政」の責任を負うべき当時の首相の一人は、現在の大蔵大臣、宮沢喜一である。この徒輩に自らの失政を認めての善処を期待するのは愚の骨頂である。突破口は地元からの反撃しかないのだが、これもまた不十分である。

 地元の自治体主権者たる住民と、さらには地方議員には、もう一つ、民主主義は地方からという聞き慣れた掛け声とは裏腹の、長期的かつ決定的問題点の見過ごしに関して警鐘を鳴らす。土地開発公社問題には、地方自治体の民主主義、溯れば住民主権を根本から否定し、ないがしろにするような、意外も意外の法令のカラクリが潜んでいたのである。

 あえて読者諸氏に「驚愕」を求めるが、まず素朴に疑ってほしいのは、なぜ、これだけの高額の支出が、ろくな議論もなしに可能になったのかということなのである。

 武蔵野市の場合、最大で年間予算の40%もの支出が何らの議会の議論もなく実行されていた。形式的には第3セクターが理事会の決定に基づいて銀行からの借金で土地を買うのであるが、土地開発公社の借金はすべて市が返済を保証している。だからこそ喜んで、または手を尽くして銀行が貸し付けを競うのである。

 土地開発公社の設置は公有地の拡大の推進に関する法律(公拡法)に基づくが、その定款を検討すると、実質的に地方自治体の首長の独裁権限下にある。議員参加の評議員会は有名無実である。某経済誌記者の取材内輪話によると野党議員も地元の土地取得に連座している例が多い。私も苦々しい実例を知っている。

 その上、地方自治法施行令別表2に基づく条例に抜け穴があり、土地の取得に関する限り、市町村では5千平米以上でなければ「議会の権限」の潜脱が可能になる。市町村の枠組みが決まったのは20年以上も前のことで、北は宗谷村の原始林と、東京都区部商業地並みの武蔵野市繁華街とを一緒に扱う甚だしい時代錯誤法令なのだが、自治省の担当者に関連資料を請求すると、引っ越しだの倉庫だのと逃げ口上を並べ立て、「地価の変動が激しいので改正を見送っていた」と、まさに言語明瞭・意味不明瞭の典型答弁。

 法律家に聞くと、このような実情に合わなくなった法令の問題点を知りつつ悪用するのは「実質違法行為」と言う。だが、今度は法律家に物申すと、誰も住民訴訟の代理人になる気はないのである。

 最後の問題は政党や議員の役割であるが、私は、多くの市民運動のような突き上げはしない。

 現行の議会制度の下では、政党や議員は票集めに追われ、地方行財政の調査を行う余裕がない。議会制度の抜本改革を目指しつつも、市民個々人が、議員への声援や突き上げの自己満足に終わらずに、自ら最終責任を負う調査、政策立案に取り組むべきである。


 なお、文中の「グラフ」をまだ見ていない方は、つぎをクリックされたい。

➡ 塩漬け用地激増グラフ

以上で(その19)終り。(その20)に続く。


(その20)大手メディアの土地開発公社報道漸進状況
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