『電波メディアの神話』(5-5)

第二部 「多元化」メディアを支配する巨大企業

電網木村書店 Web無料公開 2005.4.6

第五章 「打って返し」をくう「公平原則」信奉者 5

古今東西、勝利の秘訣は敵の本陣を衝く基本戦略

 たとえばクラウゼウィッツの『戦争論』の直接的な執筆動機は、フランスの独裁者ナポレオンの打倒にあった。そこでは、野戦におけるフランス軍の撃破と同時に、目標は首都パリの占領にありという基本戦略の強調に、最大の力点がおかれていた。日本の大阪城攻めの例をひくまでもなく、古今東西、戦争の勝利の秘訣はつねに、糧道をたち、敵方の士気をくじき、敵の本陣をつき、敵の大将の首級をあげることにあり、そこへむけて全兵力を集中する基本戦略と戦術の確立にある。

 椿舌禍事件は、放送独占の堤防に開いたアリの穴である。この穴をどうふさぐか、それともおしひろげて、放送独占の堤防を決壊させるか、はたまた、逆にあたらしい欺瞞の堤防のゼネコン型建設をゆるしてしまうのか。ハンパでない理論の有無と、日本の言論人と市民の実践的力量が問われている。

 たとえば本来、各政党政派が対立してあらそう選挙の場合、「不偏不党」の立場をまもって報道するなどということは、ことばのごまかしにしかすぎない。当面のところ、「各政党及び立候補者に電波を提供して、討論方式で思想信条、政策を開陳させる」(中央公論93・12)という諸井薫の提案などは、「不偏不党」の虚構の城のからめ手にせまる実践的な運動の突破口として、真剣な検討にあたいするのではないだろうか。

 その際、くどいようだが、視聴率のひくい、しかも一般庶民の家庭にはとどかない衛星放送などではなく、NHKを中心とする既存の地上波の時間的分割、ならびに内容編集の自由の確保が必須条件である。


(6)情報不足の危険な物真似論議に「ちょっとまった!」