『電波メディアの神話』(10-2)

電波メディアの国家支配は許されるか?……
マルチメディア時代のメディア開放宣言

電網木村書店 Web無料公開 2005.4.15

[資料2]椿・前テレ朝長証人喚問の主な内容

 一九九三年十月二十五日、衆院政治改革調査特別委員会が椿貞良・前テレビ朝日報道局長に対して行った証人尋問と証言の主な内容は次の通り。

 石井一委員長 九月二十一日の日本民間放送連盟の第六回放送番組調査会に出席し発言したと聞いている。放送番組調査会とはどういうものか。

 椿貞良・前テレビ朝日報道局長 まず最初に民放の放送番組調査会で私が行った不必要、不用意、不適正な発言が、皆様にご迷惑をおかけしたことを心からおわびする。

 放送番組調査会というのは、民間放送の主要な局の編成責任者が集まり、自由な立場で放送について意見を述べ、議論をする会だと受け取っている。その会で話したことが外部にそのまま漏れると、白由な発言、討議が阻害されるわけで、そういう意味で今回は極めて残念だ。

 あそこで申し上げたのは、テレビの力が最近ものすごく強くなっているわけで、やはり視聴者の求めるものを正しく報道しなくてはならないという姿勢で話をした。テレビ朝日の選挙報道はそういう意味で成績が良かったものだから、ある点、自負というか、おごりというものが先にあって、ああいうような常識を欠いた、不適切で脱線的な暴言をしたと思う。その点をまずおわびする。

 委員長 テレビ朝日においては、表現の自由、報道の自由と政治的公平・公正との関係について、どのような方針の下に番組の制作を行い、第四十回総選挙はどのような姿勢で報道したのか。報道局長という立場にあったあなた自身はどのような姿勢で臨んだか。報道の姿勢について、報道局内において何らかの指示、または示唆をしたことがあるか。

 椿氏 テレビ朝日は、公正な報道、政治的に中立な報道を行うことを前提として免許をいただいている。そういう意味で、テレビ朝日がその大原則をたがえて放送することはない。今回の衆院選の報道においても、その大原則を曲げて放送したことはない。曲げて放送するようにとか、そういうような指示を報道局長から出したことはまったくない。番組を制作するシステムからも、そういうことはない。今回の選挙報道に関し、もちろん公正、中立であることを大原則に、きちんと正確に敏速に報道を行おうということは、報道局員に対し言った。それ以外のことは何も言っていない。「五五年体制を突き崩すためにテレビ朝日はやった」とか、「反自民党政権を作るために選挙報道を行った」とかいう言い方は、現実を見て、結果的にまるで自分の手柄であるかのごとく発言した、明らかなフライングの発言だった。

 委員長 今回の発言で、放送の公平、公正に対する信頼が損なわれるのではないか。

 椿氏 私の発言で、放送の信頼性が損なわれるような事態が起きたことを反省している。今回のことで、報道の自由に不当な介入が行われないことを心から期待する。

 谷垣禎一氏(自民) 調査会の議事録では、「自民党の守旧派という方々のズレと言いますか、バカさ加減というのはあきれ返るほどうれしかった」と述べ、当時の梶山静六幹事長、佐藤孝行総務会長を「時代劇の悪代官」や「腹黒い商人」と言っているが、個人的に梶山さん、佐藤さんに会ったことはあるか。

 椿氏 例えば記者会見の場とか、国会とかで会ったことはある。

 谷垣氏 そういう時に「悪徳代官顔」とか「腹黒商人風」とか、認識していたのか。

 椿氏 梶山さん、佐藤さんに関する私の発言というか、受け取った気持ちは、公党の最高首脳の方々に対しては極めて不用意な、不注意な考え方だと思う。

 谷垣氏 不用意かどうかでなく、そういう認識を持っているかどうかだ。

 椿氏 そういう認識は持っていない。ただ、選挙期間中に、私どもではなしに、他のすべてのテレビ局が出した映像を見て、そういうような印象を持ったということを申し上げた。

 谷垣氏 具体的に梶山さんと佐藤さんがどういうことを話しているということと切り離して、無関係に一つのイメージを伝えるために映像を使ったのか。

 椿氏 私がそういう映像を意図して使えとか、指示したことはない。そういう映像をテレビ朝日だけではなしに、NHKも含めてすべての報道局があの時期、テレビの画面でバンバン出したわけで、その映像を見て、私はそういう印象を持った、と言った。

 谷垣氏 報道は事実を伝えることではないのか。あなたはイメージを国民に伝えるのが報道だと思っているのではないか。

 椿氏 テレビ朝日だけがあの時期、ああいう映像を優れて出したとは思わない。それが意図的なメッセージになったとか、メッセージを意図したとかいうことは全くない。連日起こっている事象をテレビのカメラが撮り、それを視聴者に提供したということだ。

 谷垣氏 議事録に「『今度の選挙はやっぱし梶山幹事長が率いる自民党を敗北させないとこれはいけませんな』ということを、ほんとは冗談なしで局内で話し合った。もちろんこういうことは編成局長には申し上げてはありません」というくだりがあるが、「編成局長には申し上げてない」という意味は何か。

 椿氏 その真意は、私の発言が余りにも荒唐無稽(こうとうむけい)な暴言だから、そんなことでテレビ朝日(の放送)が行われているわけではないから、そういう意味で、全く恥ずかしい話で編成局長には申し上げていなかった、というふうに発言したのだと思う。

 谷垣氏 「報道局の政経のデスクとか編集担当者とも話をした」というが、具体的にはだれか。

 椿氏 具体的な名前をこの場で言うことは差し控えさせていただく。

 谷垣氏 七月十三日の「ニュースステーション」で朝日新聞の和田俊編集委員が「政権交代の可能性が少しでも出る方向に行くとよいのですがねえ」と言った。それにすぐたたみかけて久米宏さんが「投票に行きましょう」と言った。これについてどう考えるか。

 椿氏 そのくだりは私は記憶はない。「ニユースステーション」の番組について、毎日の会議に出席したことも一度もない。

 町村信孝氏(自民) 放送番組調査会で「公平であることをタブーとして挑戦していかないとだめだ」と発言しているが、認めるか。

 椿氏 議事録にある発言はしている。タブーということばを、間違って使っていることは、ここで併せて訂正させてほしい。

 町村氏 「今度の選挙は、梶山幹事長が率いる自民党を敗北させないといけませんな」と言っているが、これは放送法に違反するのではないか。

 椿氏 その通りやれば違反になる。

 町村氏 「五五年体制を突き崩さないとだめなんだ、とまなじりをけっして作っていった」としているが、これは違反しないか。

 椿氏 それは当時、私が考えていたこと。局にそういうことを放送せよとか指示したり示唆したことはない。信念で考えたことは放送法に違反しないと思う。

 町村氏 反自民連立政権の手助けになるような話をして、放送をまとめるのは違反では。椿氏当時の政治状況をみて、個人としてそういう考えをもっていたのは事実だが、私が局員にそういうことを指示・示唆したことはない。

 町村氏 久米宏氏は「この九年間、テレビ朝日から圧力、指導、示唆はなかった」と言っているが、どう受けとめるか。

 椿氏 「ニュースステーション」がこういう報道をしていこうというのは枠組みが決まっているわけだから、その枠組みから久米氏の発言が外れることはない。

 町村氏 もし、外れたらどうか。

 椿氏 個人的な見解である、といって発言することはあるが、久米氏の発言が外れたことはない。

 町村氏 小沢一郎氏のけじめを棚上げするようなことを言っているが、小沢氏とはいつごろから交遊が始まり、どの程度親しいのか。

 椿氏 私は小沢一郎さんと交遊関係はない。個人的に会ったことはない。

 町村氏 私どもが知っている限り、(椿氏は)小沢氏と複数回会っているとあえて申し上げる。金丸さん、小沢さんはいずれも郵政省と関係が深い。あなたの上司と一体となって、会社のため、けじめ問題を棚上げしたという指摘もある。テレビ朝日も会社としてその意図において、放送法、公職選挙法に違反している疑いが非常にある。本件関係者に、当委員会あるいは関係委員会に来てもらって議論を深めたい。

 矢島恒夫氏(共産) 放送番組調査会で「五五年体制を突き崩す」と話したのは、、放送の公正と真実からみて重大な問題だと思うが、どう考えるか。

 椿氏 ここ二、三年、ヨーロッパで歴史的な大きな事件が起きた。日本も、埒外(らちがい)に置かれるものではないというのが当時の私の認識だ。その認識は持っていたが、それをもとにしてそういう報道をするようにという命令、示唆は全くしたことはない。

 矢島氏 局内で関係者と話し合ったとか、「そういう形で私どもの報道はまとめていた」と発言している。このことが公正と真実の点からみて重大な問題だと考えていないか。

 椿氏 本当にまとめていたとすれば、それは重大なことだが、まとめていたという事実はない。

 矢島氏 「共産党に対して公正な時間を与えようとか公正は機会を与えることはかえってフェアネスでなくなる」と発言しているが、共産党に対して偏見を持っているのではないか。椿氏偏見は持っていない。

(『朝日新聞』一九九三年十月二十六日付より)


[資料3]放送法[抄]