『電波メディアの神話』(6-1)

第二部 「多元化」メディアを支配する巨大企業

電網木村書店 Web無料公開 2005.4.7

第五章 「打って返し」をくう「公平原則」信奉者 1

テレヴィ全国ネットワークを買収

 現在の日本で、メディアなり、放送なり、公平原則なりの議論をすすめるにあたっての決定的な前提条件は、アメション・ザアマス型議論の大衆欺瞞を徹底的にあばきつくすことである。

 そこで本章のテーマは、いかにもアメリカの実情につうじているかのようなくちぶりで「アメリカでは公平原則廃止云々」とかたる論者たちが、いかにアメリカの実情を知らないか、もしくはある程度知りながら決定的に重要な問題点にきづかないのか、または、もしかすると知りつつかくしているかという、日本のマスコミ研究界のおどろくべき実情の告発になる。

「公平原則廃止」には、すでにのべたような「規制緩和」という前駆症状があった。

「規制緩和」政策を推進したレーガン政権の二期目の一九八五年から八六年にかけて、アメリカのテレヴィ三大ネットワーク、NBC、CBS、ABCが一斉に買収されるという、放送の歴史はじまって以来の重大な変化がおきた。そのありさまは、昨年(九三年)春に日本語訳がでた大著『巨大メディアの攻防』に、壮大な黙示録としてえがきだされている。

 NBCは、親会社のRCAごと、GE(ジェネラル・エレクトリック)に買収された。GEは、IBM、エクソン(石油)につぐアメリカおよび世界で第三位、総合電気メーカーとしては世界最大の巨大企業グループであり、同時に軍需会社でもある。当時はレーガン大統領の目玉戦略、スターウォーズ、かつては第二次大戦中に原爆を完成したマンハッタン計画を受注していた。会長のウェルチは「ニュートロン(中性子爆弾)・ジャック」という物騒な異名をもつ猛烈型経営者である。IBMをおいこしてGEを世界一の企業にすることを最大の目標とし、NBCにたいしてもつよい直接的な権限を発揮する。

 CBSは、投機会社に買収された。CBSの株を二五パーセント買いしめて役員会にのりこみ、たくみな戦術で社長としての最高権限をにぎるにいたったティッシュは、ホテル・チェーン経営で成功したのち、評判のわるいやり方で企業のっとりをつづけていた。ふだんは「主義主張にからずらわる人間ではない」が、「イスラエル国家の存続問題」は唯一の例外」だった。CBS株買収に「異常ともいえる」ほど「熱中」した際には、「大 ニューヨーク・ユダヤ人連合前会長」の立場と関係づける言動をしめした。ニュウズウィークはその当時、ティッシュの前任のCBS社長、ワイマンが、「ティッシュは熱烈なイスラエル支持者なので、そのためにCBSニュースの独立した報道を傷つけるのではないかと心配していると無造作に発言した」と報道した。ワイマンは発言を否定したが、別に記事の訂正や謝罪をもとめてはいない。

 ティッシュがCBSの実権をにぎるにいたった経過に関しては、湾岸戦争勃発のちょうど一ヵ月前にあたる一九九〇年一二月一七日に日本語訳がでた『ニュース帝国の苦悩/CBSに何が起こったか』にもかなりくわしくえがかれている。原題の直訳は『だれがCBSをころしたか?/アメリカ随一のニュウズ・ネットワークの堕落』である。ただし、原題および日本語訳の題のように、この本の記述はCBSのニュウズ部門を中心としている。ティッシュがユダヤ系で「熱烈なイスラエル支持者」だったことにはふれていない。

 なお、カーター政権の国防長官だったハロルド・ブラウンも当時のCBSの役員だった。私は拙著『湾岸報道に偽りあり』や『週刊金曜日』(94・1・14)の掲載記事「誰が水鳥を殺したか」などで、アメリカが一九八〇年からイラクを仮想敵国とする湾岸戦争の準備をはじめていた証拠の議会記録の存在を指摘した。ブラウンは、そのときに国防長官として最初の予算請求をした責任者だった。つまりブラウンはすくなくとも、湾岸戦争の準備がすすんでいることを熟知しながら、CBSの重役会に出席していたことになる。

 ABCは、多角経営のメディア会社に買収された。テレヴィ、ラディオ、新聞、雑誌、ケイブルテレヴィなどで成功したキャピタル・シティズのマーフィー会長には、とりたてて特徴はない。だがマーフィーはABC買収にあたって、ABCを設立した長老、ゴールデンソンの協力をえていた。長老は自ら指名した後継者と不仲になり、かわりの人材をもとめていた。

 そこで、このABCを設立した長老、ゴールデンソンのみもとにも注目する必要がある。アメリカの新聞、雑誌、映画などのメディアの所有者に、いわゆる「ユダヤ系」がおおいことは周知の事実である。日本人の読者の場合、前述の三大ネットワークの買収のなかで、最後に紹介したABCだけは、軍需会社とも「ユダヤ系」とも関係ないと思う方もいるだろう。だがアメリカ人ならば、ABCの長老のゴールデンソンの名前を聞いただけで、「ユダヤ系」と判断できるのだ。

 ジョンソン大統領のスピーチライターをつとめたこともあるアメリカの国際ジャーナリスト、グレース・ハルセルは、著書の『[湾岸戦争]1年後の真実/尻尾(ユダヤ)が犬(アメリカ)を振り回す』の第五章「報道管制に喜々として応じたマスコミ-ユダヤ人脈と新聞・雑誌ジャーナリズム」および第六章「『戦争を石鹸なみに売りまくった』テレビ-『連続ドラマ』を解説した『中東専門家』」で、そういう実状をくわしくのべている。

 ハルセルの記述によれば、ABCのゴールデンソンだけではなく、NBCを設立したサーノフ将軍も、CBS設立の中心で最終的にはティッシュと手を組んだペイリーも、「親イスラエル派のユダヤ系」であった。

 テレヴィ三大ネットワークは、新聞などのほかのメディアと強く結びついている。湾岸と縁の深い石油会社も、三社それぞれの有力な株主であり、重役をおくりこんでいる。湾岸危機から湾岸戦争にむけての開戦支持、親イスラエルかつ反アラブ的な報道操作は当然の結果だった。


(2)大手メディアによる「無視」という方法の隠蔽機能