Political Criminology

死刑廃止の世界的動向

「地域共闘」2009年7月


最近、日本の死刑をめぐる動きはかなり厳しい。死刑の執行数が2008年に15人と、1976年以来の二桁を記録したほか、2006年と2007年はともに死刑判決の確定が20件を超えるなど、死刑多用という傾向があらわになっている。

このような日本の動きを目の当たりにしていると意外に感じられるかもしれないが、現在、世界的には、死刑制度は明らかに退潮傾向にある。国連総会は、死刑の全面的な執行停止を求める決議を二年連続で採択し、ヨーロッパ諸国や中南米各国はほぼすべて廃止国である。中国、中東諸国、米国といった「死刑大国」とされる国ぐにでも、死刑の適用をめぐって鋭い意見の対立がおこり、死刑の適用への慎重姿勢が際立ってきている。

2009年6月末現在で、死刑を全面的に廃止した国は94カ国、通常犯罪について廃止した国が10カ国に上る。これに10年以上死刑の執行をしないという事実上の死刑廃止国35カ国を加えた139カ国が、死刑を法律上、事実上廃止した国とされる。死刑を存置している58カ国と比べれば、世界の3分の2の国が死刑を廃止していることになる。さらに、存置国の中でも、実際に死刑を執行した国は2008年で25カ国に過ぎず、世界で死刑を用いている国は圧倒的少数でしかない。

そうした死刑存置国の中でも、実際の死刑の適用、執行は特定の国、地域に集中している。2008年の最大の死刑大国は中国であり、処刑者数は1718人超で全体のおよそ4分の3を占めている。346人超のイランが2位、ついで102人超のサウジアラビア。米国は37人で第4位だが、州ごとに著しい違いが見られ、実はほとんどの死刑適用、処刑はテキサス州に集中している。そして日本は、北朝鮮と並んで上位10国に数えられる死刑大国のひとつである。

最近の死刑廃止に向けた状況としては、米国、ニューメキシコ州での死刑廃止がある。リチャードソン知事は、議会を通過した死刑廃止法案について全世界からの意見を集めた。その結果、死刑という制度が人の命を奪うことは許されないとして、法案を有効化するための署名に踏み切った。アフリカのトーゴでも、6月に法律上死刑が廃止され、全面廃止国となった。

大量処刑国である中国では、2007年に手続きが変更され、すべての死刑判決について人民最高法院での再審査が義務化された。そのため、統計が公開されていないので確認は難しいものの、死刑適用数、処刑数の大幅な減少があったといわれる。また、義務的な再審査手続きによりそれまで行われていた裁判集会直後の即決処刑も実施できなくなった。

死刑の適用数や処刑数は、実はその国の犯罪情勢とはほとんど結びついていない。むしろ政治的な意思によって数が左右される影響のほうが大きい。死刑を多用する意思を持つ国は、しばしば復讐を求める世論の存在を強調する。社会の閉塞を打ち破って改革に向かおうとする意思もまた、復讐という隘路の中に追い込められていく。世界の趨勢に逆らって、あえて死刑を頂点とする厳罰化政策をひた走っている日本社会は、そういう状況に陥っている数少ない国である。

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