ユーゴ戦争:報道批判特集
ユーゴ人道介入の口実「虐殺」デッチ上げ (その7)

(その7) 軍事の経済的土台:石油資本帝国に臆する報道

1999.7~2000.5《特別緊急連載》

1999.8.25.mail再録。

 以下は「訪米報告(2):カスピ石油とユーゴの関係は議論不要」の再録・改題。

 軍事は、『戦争論』(よしりんとやらの下手糞漫画のことではない)の著者、クラウゼヴィッツが念を押しているように、政治の延長であり、その土台が経済です。ところが、この基本常識を無視した国際政治・軍事報道が、余りにも多いのが現状です。しかも、経済は、さらにさらに、グローバルなのです。

 ニューヨークの1999.7.31.「NATOを裁く独立国際戦争犯罪法廷」では、いくつもの旧情報の裏付け及び新情報を得ましたが、とりわけ「一挙に肩の力が抜ける」想いをしたのは、「カスピ海の石油」(Caspian oil)という言葉の、余りにも軽々とした使われ方でした。さすが石油資本帝国の真っ直中、くだくだしい議論などは、まるで不要なのでした。

 前世紀から世界有数、今もなお、ますます埋蔵量豊富情報乱れ飛ぶカスピ海の石油を、南側の反米国家、イランやイラクには絶対に渡さずに、アゼルバイジャン、チェチェン、ダゲスタン経由、黒海を渡ってバルカン半島経由で、途中でしっかり稼ぎながら、ヨーロッパにパイプラインで運ぶ。これが現在進行中の国際戦争の真の経済的土台なのです。早い話が、ユーゴ戦争が停戦になった直後に、チェチェンの北側のダゲスタンのゲリラ掃討作戦が報道され始めました。落ち目の元宗主国、ロシアとしては、最後の石油利権の確保に必死なのです。

 そこで、ここでは訪米報告と銘打ったものの、報告そのものは以上で打ち止めとします。むしろ、その決定的な重要性をメディアが憶して伝えず、結果として一般には知られていないとはいえ、日本国内でも十分に入手可能だった簡単なデータを、ただただ淡々と、並べて置きます。

 以下、まずは、平凡社発行、1988年版『世界大百科事典』より抜粋、整理。

「カスピ海」(Caspian sea):ソ連邦の南にある世界最大の湖で塩湖。面積は日本の本州の1.5倍。別巻の世界地図によると、カスピ海に面するのは、旧ソ連では、トルクメン、カザフ、ダゲスタン、チェチェン、アゼルバイジャン。南側は、ロシア勃興以前には、それらすべてのイスラム教国の宗主国だったイラン。そのイランと西側で国境を接しているのが、やはりイスラム教国のトルコとイラク。

「アゼルバイジャン」(Azerbaidzhan):旧ソ連領の共和国部分以外に、イラン領の部分が東西の2州を構成。[共和国の]工業生産高の主座を占めるのは、[主都]バクー油田地帯の採油、石油精製、etc...。前世紀末、バクーの石油産業は短期間に驚異的発展を遂げた。バクーは、1901年には全世界の産油量の過半を占める国際的な石油の都市となった。ノベリ、ロートシルト(ロスチャイルド)等の国際石油資本が主導し、ロシア資本がこれに続き、アゼルバイジャンの民族資本が最底辺を形成した。

「バクー」(Baku):ソ連有数の産業、文化の中心地の一つ。1804-13のロシア・イラン戦争の間の06年にロシアに併合された。多数の民族からなる石油労働者はロシア帝国の革命運動全体の中で突出した役割を演じた。《バクー・コンミューン》の樹立・崩壊(1918.4-7)、イギリス軍、トルコ軍の占領などの激動を経て、20年4月ソビエト権力を樹立。

「ダゲスタン」(Dagestan):石油、天然ガス、石炭などの鉱物資源、水力資源に富む。

「チェチェン」(Chechen):19世紀末、石油産業が発展。

 最後に、発言に関する限りでは、「地上戦」をも提唱し、NATOの最も戦闘的な一員だった老大国イギリスの、世界でも有数の経済新聞の最近の論調:

『日本経済新聞』(1999.8.23) 海外論調

ロシアの過度の介入は危険

 ロシア政府はダゲスタンでのイスラム勢力の反政府行動に頭を痛めている。隣のチェチェンでの反乱鎮圧失敗を考えると、過度の軍事介入は状況をさらに混乱させる危険がある。

 ダゲスタンはチェチェンに比べると民族の多い地域で、かろうじて統一を保っている。チェチェンはロシア軍撤退後に事実上の独立国となった。

 ダゲスタンの反政府行動を主導しているバサエフ氏はダゲスタンの独立を宣言したが、寄せ集めのイスラム勢力やチェチェンの軍隊を統一するのは難しいだろう。

 ロシア政府はすでに数千人もの兵士をダゲスタンに送り込み、陸空から反乱軍に占拠された村を砲撃している。これはかつてチェチェンを攻撃したときと同じやり方だ。十分な訓練を受けていない兵士が多いロシア軍は、山岳ゲリラの攻撃に手を焼くだろう。

 今度の軍事介入で、エリツィン大統領とプチン新首相の立場の不安定さを助長する恐れがある。軍隊の弱体化というチェチェンで得た教訓を忘れてはならない。

(英、フィナンシヤル・タイムズ=18日付)

 これこそが、まさに虚々実々の石油国際戦争・外交の現実なのです。

 1999.8.26.追記。読者の積極的協力を得て、次回にカスピ海石油に関する雑誌記事のリストを紹介。

 以上で(その7)終わり。次回に続く。

ユーゴ連載(その8)へ
連載:ユーゴ人道介入の口実「虐殺」デッチ上げ一括リンクへ
週刊『憎まれ愚痴』35号の目次へ