Racak(ラチャク)村「虐殺報道」検証(11)

ユーゴ戦争:報道批判特集 / コソボ Racak検証

『リベラション』(1999.1.22)

1999.6.25

1999.6.19.mail再録。

 この『リベラション』記事には、「ル・モンドのシャトレ記者」の名も出てきますが、前日の日付の『ル・モンド』記事(本シリーズ10)とは、別の角度からの検証になっています。特に興味深いのは、冒頭部分です。「村民虐殺」の一方的な発表をした全欧安保協力機構(OSCE)が、「最初の判定」で、「殺戮現場の修正が行われた」としていると言うのです。しかも、「残る一部はセルビア治安部隊と交戦中に死んだと見られる」と言うのですから、そう言わざるを得ない状況、たとえば制服の着用などの事情が考えられます。

 さまざまに食い違う情報の有様は、まさに『藪の中』(映画では黒沢明監督『羅生門』)の世界です。自称名探偵こと私の推理は、別途、分かりやすく展開する予定です。

 では、以下、抄訳:萩谷良(翻訳業)さんの日本語訳をお届けします。

『リベラション』(1999.1.22)

殺戮のあと場所を移された遺体

 OSCEの専門家の検査で出された最初の判定では、ラチャクでは殺戮と同時に殺戮現場の修正が行われたとされる。約40人の死者のうち、一部は銃口を突きつけられて射殺されており、一部は逃げようとして撃たれ、残る一部はセルビア治安部隊と交戦中に死んだと見られる。

 より詳しく言うと、遺体のうち2体は家の中で発見された。それは、銃口を突きつけられた状態で撃たれており、火薬の跡、血痕、脳の断片などからみて、死後に移動されてはいない。別の3体は、家の外だが、村の範囲内で見つかっており、45歳の男性1名と、60~70歳の男性2名で、45歳の男性は胸部に被弾している。

 高齢者のうち1人は頭部に打撃を受けている。また片脚が、1~2メートルの距離から大口径の火器で撃たれたために、砕かれている。首のない死体も見つかっており、これは、高齢の男性だが、首を切られたのかは判定できない。OSCEの別の筋によると、死後に切られたと見られるという。

 20人ほどの男性が死んでいた丘の上で、検査官は、顎に被弾して死亡した27歳の男性の死体を発見。これは叔父が確認した。弾丸は頭部を貫通していた。膝に負傷しており、射撃される前に這って進んだと見られる。

 15人のグループも見つかっているが、検査官はこの中の一人一人を別に検査する時間がなかった。

 一部の遺体は、移動されて、溝に投げ込まれたものである。全員が頭部に至近距離から被弾しており、ほとんどがそれが原因で死亡している。2体だけ、既に死亡していて、死後に被弾した遺体があった。これら15人とも、手に弾丸を受けており、撃たれたとき反射的に顔を防ぐ動作をしたことを示していると見られる。

 中で2体は、溝でも、他の遺体より低いところに見つかった。1体は、頭部に大口径の火器の弾丸を受けていた。OSCEの初期の判定によれば、家で見つかった遺体と溝で見つかった遺体はほぼ全員が至近距離から被弾している。一部の遺体は溝に投げ込まれた。ラチャク村の上手で見つかった犠牲者は、生存者の証言によれば、セルビア兵士に標的として選ばれ、100~150メートルの距離から撃たれ、みな逃げようとしたという。

 ル・モンドのシャトレ記者は、戦闘終了後の16時45分にラチャクに着いている。彼がそこで出会ったのは主に米国人の記者(observateur)である。彼は、「村には一切死体の痕跡はなかった」と言っているが、米国人たちは1体は見たと言っている。彼は米国記者と議論した。米国記者たちは、その日に起きたことを理解しようとしていて、民間人の死者に援助をしようとしていた。

 米国人が住民の証言にもとづいてシャトレ記者に語ったところでは、「20人ほどの男性が検挙されて警察へ連れていかれた」。シャトレ記者は、死体の見つかった溝から直線距離にして100~200メートルのところまで接近したが、現場の地形や位置関係と夕闇のため、何も見えなかった。17時、彼は村を出たが、45分後に戻ってきて、米国人記者と一緒に民間人の負傷者を退避させるため、短時間村にとどまった。このとき夜になった。人々は、行方の知れなくなった男達がすでに殺されていたことを、まだ知らないかもしれない。事件の実態は、今後の法医学鑑定にまつほかない。

 フィンランドの医師団が昨日プリシュティナに到着したが、ユーゴ政府当局によりコソボ入りが遅れている。医師団長のヘレナ・ランタによれば、医師団は、セルビア人と白ロシアの医師に検屍を遅らせることを要請したのに、逆に早められてしまったという。

以上。


Racak検証(12):『ワシントン・ポスト』(1999.1.28)記事
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