子どもたちに関する事件【事例】



注 :
被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
980725 いじめ自殺 2001.9.9 2002.2.2. 2002.12.9 2006.2.25 2007.9.24 2008.3.22更新
1998/7/25 神奈川県横浜市港南区で、神奈川県立野庭高校の小森香澄さん(高1・15)が、吹奏楽部でのいじめを苦に自宅で首吊り自殺。7/27 午後9時5分死亡。
遺 書 なし。
経 緯 1998/4/7 香澄さんは野庭高校に入学して、吹奏学部に入部。中学まで演奏してきたドラムではなく、新たにトロンボーンを始めた。

4/半ば頃から、クラスも部活も同じ女子生徒3人から仲間はずれにされはじめる。
3人のうち1人から自宅に頻繁に電話が入る。母親が内容を尋ねると「部活の連絡網」と答えていた。

4/下旬頃から、同級生の女子生徒2人に練習で仲間はずれにされたり、別の女子生徒に「あんたがいたら大会に行けない」などと言われたりするようになった。
食欲がなくなり、練習を休んだり、学校を遅刻するようになった。

5/ 学校を休む日が多くなった。

5/16 担任でもあり吹奏楽部の顧問でもあるN教師に30〜40分相談。

6 香澄さんが両親に、「学校でいじめにあって悩んでいる」と打ち明け、登校しない日もあった。

6/12 アトピー性皮膚炎がひどくなり、本人の希望でメンタルクリニックを受診する。

6/17 両親は香澄さんを本人の了解をとって、市青少年相談センターに連れていく。
計4回(6/17、6/23、7/15、7/24)、カウンセリングを受けさせた。精神科で「うつ状態」と診断。

6/23 高校に行って、N担任と吹奏楽部指揮者H氏に診断書を提出、顧問団のT教師にも事情を説明し、改善を求めた。クラス替えを要望するが、「約束はできない」と言われる。

6/14 吹奏楽部の1年生保護者親睦会で、いじめがあることを報告。家庭での心の教育をいま一度見直す必要のあることを言われる。

6/26 香澄さんの承諾を得て、加害生徒3人のうちのA子の自宅を訪ね、診断書を見せた後、香澄さんが最近いじめられていることを話すが、知らないと言われる。

7/ 香澄さんは学校に行かず、中学校の友だちの家に泊まったりしていた。

7/10頃 香澄さんは学校は休んでいたが、部活だけはやりたがったので、3時間以上授業を欠席すると部活には出られないという申し合わせが吹奏楽部にはあったが、部活に出ることの許可をとる。 

7/15 香澄さんはカッターナイフを持って暴れた。午後から予約日だった青少年相談センターに行く。

7/18 香澄さんは終業式のあと、N担任が休んでいたため、事情を知っているT教師に「J先生とA子さんを沈めたい」などと話した。そのことを母親はT教師からの電話で知る。

7/21 コンビニの帰り道、香澄さんは母親に、「優しい心が一番大切だよ。その心を持っていないあの子たちの方が可哀想なんだ」と話した。

7/23 吹奏楽部のコンクールに出場。

7/24 (夏休みの部活に対して)「怖くて学校に行けない」と言って学校を休み、午後から青少年相談センターにのみ行く。

夜、香澄さんと母親、香澄さんの友人の3人が指揮者のH氏の自宅を訪ね、相談。
母親が、「香澄が思い悩んでいたことをやっと自分の口から言ってくれたんです」と言って、香澄さんの言葉を書き取ったメモを見せた。
メモには、「文句があったら後からじゃなく、話し合いの最中にいいな」「あくびをするのは緊張感が足りないからだと言われる」「口調がきつい」などと書かれていた。
また、香澄さんのPHSには、香澄さんに対してきつい口調で注意するBさんの声が録音されていた。

寝る前に、「明日こそ絶対に学校行くから起こして」と明るく言っていた。

1998/7/25 朝7時に起きて香澄さんは制服に着替えるが、学校には行けなかった。午後になって、父親と一緒に家を出るが
、「こわい」と言って学校に行くことができず、途中から父親におぶってもらって引き返す。
その後、自宅のトイレのドアノブに制服のネクタイをかけて自殺をはかり、脳死状態に。

7/27 死亡。
いじめの態様 強い口調で言う。背中を手で叩いたり、肩をきつく叩いたりする。
アトピーのある香澄さんに対して、「あんたの顔はきたない」「汚い顔を直してから学校に来な」「汚い顔。見せるな」と言う。
髪型を変えると、「似合わないことすんな」と言われる。
吹奏楽部の練習中、「あんたがいると、コンクールに勝てない」と言われる。
全く無視されたかと思うと、ストーカーのようにつきまとわれた。
加害生徒 クラスも部活も同じ女子生徒3人。

香澄さんが亡くなった直後は、吹奏楽部の部長に泣きながら電話をし、「香澄さんを傷つけた」「でも、死ぬとは思わなかった」と話していたが、その後、「いじめなんてなかった」「香澄さんの思い過ごしだ」といじめを否定するようになった。

香澄さんが亡くなって3年。その間、加害生徒からは一度も謝罪がない。
被害者の変化 入学から2週間を過ぎた頃から、食事の量が減る。頭やお腹が痛くなる。
4月下旬から、
遅刻が多くなり、学校を欠席するようになった。アトピー性皮膚炎がひどくなった。うつ状態になる。
授業中、ノートも取らず、上の空の様子がみられる。

いじめられても、部活はやめなかった。
親の認知と対応 娘の様子を心配し、学校には12回にわたり相談に行った。
7月に入ってからは、学校に行かせようと仕向けないようにしていた。
担任の対応 母親からの相談に、担任は「あの子たちが集まると強くてね」などと話していたが、母親の「お願いします」の言葉に「わかりました」と頷いていた。

6/16 香澄さんの母親の要請を受けて保護者面談のときに、A子の母親に、「香澄さんを迎えに行かないよう」指導。

香澄さんが亡くなって数日後に担任教師は、3人の加害生徒に対して直接
指導は一度も行っていなかったことを打ち明けた。

9/1 始業式のあと、香澄さんのクラスで担任は、「いろいろあったけど、これからみんなで頑張ろう」と言ったのみだという。
周囲の対応 香澄さんの先輩の何人かが、香澄さんと同じパートの女子部員とのかかわりを心配して、顧問や指揮者に相談していた。
学校・ほかの対応 学校側は、両親が12回にわたり説明しに行ったにもかかわらず対応策を取らず、香澄さんの自殺後も、両親の質問に「いじめとは認識していない」と回答。

7/31 学校側は「喪に服するために8月半ばのコンクールへの出場を辞退する」とし、吹奏楽部の活動停止の話をしていると吹奏楽部父母会の会長から聞き、遺族は学校に出向き、「それは香澄の遺志に反する。ぜひ出場してほしい」と話す。
また、遺族は
(1)香澄が大好きだった吹奏楽部を学校も守ってあげてほしい。
(2)いじめていた3人が、自分たちのやったことをしっかり認識できるように指導してほしい。
(3)今後このようなことが起きないように学校がなにをするのかを教えてほしい。
と要望。質問書を提出。回答を文書で要求。

8/16 校長は、加害生徒への「個人に対する指導はできない」「個人の責任追及は人権侵害」「人権侵害になるのでクラスの調査もできない」「学校は警察でも裁判所でもないので、誰が良いか悪いか指導をしてはいけない立場です」「顧問や校長の責任になってしまう」と発言。

1998/8/12 校長が小森さん宅を来訪し、「訴訟を起こす気持ちはありますか」と尋ねた。(遺族は、「私たちの望みは謙虚に反省し、改善への努力をしてもらうことだけ」と答えた。)

9/1 始業式の時に校長は、香澄さんが命を断ったこと、悩みがあったら友だちや先生に相談すること、他人の身になって行動することなどを6分間話して終わる。
学校の調査 学校側は生徒に対して、聞き取り調査と作文指導を行ったが、内容については、「生徒のプライバシーに関わるものを公開すれば教師との信頼関係が揺らぐ」として遺族には公開しない。
事故報告書 1998/10/1付けで提出
市の情報開示の動き 2000/10/25 両親は、「娘がなぜ死ななければならなかったのか。娘の心の軌跡をたどりたい」として、市個人情報保護条例に基づいて、市青少年相談センターでの相談内容の開示を請求。

2000/11/17 約3週間後、横浜市は市青少年相談センターでの相談内容の文書11枚を開示したが、家族構成と相談に行った日時を除き、香澄さんが相談した部分8枚はすべて黒塗りにした。

横浜市は、非開示の理由を、「相談記録には、相談員の相談相手に対する個人的な印象などが書き込まれる。それを公開することは、相談相手などとの信頼関係を損ねる」「内容を開示すると相談員が正確な記載をしづらくなるなど、業務に支障をきたすおそれがあるため」などと説明。

遺族が市個人情報保護審査会に再度、情報の公開を訴える

市が、遺族に開示請求の取り下げを条件に、制度外の「特例措置」として、相談記録を渡す

2001/1/9 両親は、「不服申し立て」をしても決定まで平均1年以上かかる(横浜市で平均462日、最長3年)ことから、市の条件を受け入れ、相談記録の写しを受け取る。
人権侵害申立 1998/11/10 両親が、いじめについて、人権擁護委員会に人権救済の申し立て。

人権擁護委員会は生徒たちから直接話を聴くということはしていない。

2001/1/15 2年2ヶ月後、横浜弁護士会は同高校に「人権侵害に当たる」とする「警告書」を出した。A4で4枚。

香澄さんの死の原因については、「吹奏楽部の体質」「香澄さんの技術の未熟さ」「母親の対応の甘さ」などの記載が多くなされていた。
(詳細は、
STEP2 いじめや体罰を発見したら の「人権申し立て」について実践例から。を参照)
支援の動き 2001/7/27 「香澄・心と命を支援する会」の名称を縮め「こいしの会」設立(1年で解散)

「窓の外には夢がある 夢のとなりは自然がある 自然の上には空がある 空の上には星がある 星の向こうに未来がある 未来の向こうに愛がある 愛の中には心がある」
香澄さんが9歳の時にパソコンで書いた詩「窓の外には」に、香澄さんが信頼していたOBが曲と歌を付け、東京・嘉悦女子高校のブラスバンドが演奏。しだいに全国に広がっていった。
裁 判 2001/7/23 両親が元同級生3人と、県を相手取り、慰謝料など総額約9700万円の損害賠償を求めて横浜地裁に提訴。

両親は、「担任教諭らは、いじめが深刻な問題だと理解し、適切な措置をとるべきだった」と学校側の安全配慮義務違反を指摘。さらに、「原因について調査し、両親に報告する義務があった」として、調査報告義務にも違反しているとした。

父親は、「言葉や態度のいじめは目に見えないが、心に傷を負い続けることがどれだけダメージになるか、この訴状を通じて訴えたい」と話す。
裁 判
(「生徒の作文」の扱いについて)
学校側が香澄さんの死の直後書かせた「生徒の作文」を裁判で請求。
神奈川県は提出できない理由を3つ上げて拒否している。

1.作文作成の主旨は、
いじめの事実関係を調査する目的にはない。今後の教育指導に役立てるための内部資料として生徒に書かせたもので、主旨が違うから出せない。
2.
生徒との信頼関係のもとに教育効果を得る目的で作文を書かせている。元々、第三者に見せることを想定していない。生徒が安心して書けるような配慮をしなければ今後、作文を書かせることができなくなる。
3.作文は作成した生徒の
プライバシーにかかわることで、勝手に公開できない。

それに対して原告は、いじめ自殺した町田市の前田晶子さんの死後、「作文訴訟」を闘ってきた遺族の陳述書を提出。

地裁は生徒の作文の開示請求を却下。原告側が不服申立をし、高等裁判所で審議。その間、本裁判はストップ。
高裁も、生徒たちのプライバシーや学校との信頼関係を壊すことを理由に非開示。
ただし、生徒本人の同意があるものに関しては、証拠提出するよう裁判所が命じた。

遺族が個別に手紙で連絡をとって、同意書を送ってもらうことのできた生徒が7名。その中には「いじめ」があったという記述もあった。


(詳細は me031109 参照)
判 決 2006/3/28 山本博裁判長は、元同級生のAさんに対して、父親に28万円、母親に28万円の計56万円の支払い命令。神奈川県に対しては、父親に165万円、母親に165万円の計330万円の支払い命令。
判決要旨 元生徒に対しては、
『被告Aの発言は、「アトピーがきたない」「顔が醜い」など香澄の身体的特徴をあげていわれない中傷を加えるものや、「部活に邪魔」など部活動内における香澄の存在価値を否定するもの、さらに病気療養中の香澄に対して「もう仮病は治ったの」と言うなど当時の香澄の心情を顧みずにされたものがあり、上記発言内容はそれ自体香澄に大きな精神的苦痛を与えるものということができる。

被告Aの上記発言は香澄に対して機会あるごとに執拗に繰り返されていたものと認められ、
被告Aによる発言が香澄を精神的に追い詰め、耐え難い精神的苦痛を与え、人格的な利益を侵害したものと認めるのが相当であるから、被告Aの上記認定の言動は違法というほかはない。』と認定。

他の2人の生徒に対しては、
『香澄が同一パートにいて技量的にも勝り、かつ、仲が良いBとCに溶け込むことができず、しかも、同被告らが香澄に対し、上位の立場から、きついものの言い方をしてきたことは十分に認めることができ、(中略)香澄が原告美登里に同被告らのことを訴え、原告美登里がそのことにつき何らかの動きをしていることが同被告らの耳に入り、同被告らが香澄に対し、いよいよ攻撃的な言動をしてきたことも認めることができるが、こうした被告B、被告Cの香澄に対する言動が、同年4月以来どのようなものであったかについてはこれを知るべき具体的な証拠はなく、同被告らが意図的に香澄を無視したり、両名の中に入ろうとする香澄をことさらに拒絶し、排除するなどとしてきたとまでは認めることはできない』『B、Cとの関係が香澄にとって大きな精神的苦痛をもたらしたということは前記認定の各事実から明らかであるが、同被告らの行為にはなお不明な点が残り、同被告らの行為を違法と断ずるには足りない』として、請求を認めなかった。

自殺と生徒らの行為の因果関係については、
『香澄は吹奏楽部に多大な期待を抱いて野庭高校に入学したものの、入部してみるとお互いに悪口を言い合うなど本人が期待していた吹奏楽部とは異なることが判明し、期待を裏切られると同時に、内部で初心者は自分ともう一人しかおらず実力の差が表れ、同じトロンボーンパートの同級生で経験者でもある被告B及びCとも実力差があり、それが本人にとって相当な重圧であったことが認められる。そして、被告B及びCとは、香澄にとって厳しいと感じられる口調で物事を言われることもあって親密な関係を築くことができず、また両人の仲が良く自分が中に入りづらいと感じることから疎外感を覚えると同時にいじめられているとの感情を抱くようになり、さらに被告Aからもアトピー性皮膚炎についていわれなき中傷を受けるなどして傷つき、そのような部内の人間関係の苦悩から部活動や授業に参加することが次第に困難になっていったものと考えられる。さらに、香澄は野庭高校吹奏楽部に憧れて入学しただけに部活動を辞める意向はなく、部活動を続けたいとの確固たる信念を持ちながら、他方で期待を裏切られたことや他の部員との実力差による重圧、さらには被告Aらとの確執により、部活動に参加したいのに参加しようとすると頭痛が発症するなどして本人の中で葛藤がある中、折から原告美登里により登校や部活動のコンクールへの参加などについて判断を促され、香澄にとってはそれが心の重荷に感じており、衝動的、突発的にカッターナイフをかざすなど情緒不安定な状況に陥っていたと考えられる。そして香澄は7月23日の地区大会の前から医師に対し、「自分はいない方がいいのではないかと思う」「他人や親を傷つける気持ちは全くなく、自分自身を痛めた方が気持ち的には楽」などと、暗に自殺をほのめかすような発言もしており、そのような情緒不安定な状況は地区大会が終わった後にも変わらず、香澄が自殺する直前においてもそのような状況の中で、電話の録音の準備をするかどうかについて原告らの間で見解が分かれた際、香澄はそのときに自分を取り巻く状況に嫌気がさして耐えられなくなり、衝動的に逃避するつもりで「もういい。」と述べ、トイレに入って自殺を図ったものと考えられる。そうすると、香澄の自殺は様々な要因が重なって招来されたものというべきであって、被告Aの言動と自殺の間に相当因果関係があるとまでは認められない。』として、因果関係を否定。

自殺の予見可能性についても、『被告Aが香澄に苦痛を与えた期間はせいぜい2か月程度であり、それほど長期にわたっていないことや被告Aの上記言動からすると、被告Aには香澄が自殺を決意すると予見することは不可能というべきである』として、認めなかった。


学校の責任に関しては、
『公立高校における教員には、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における生徒の安全の確保に配慮すべき義務があり、特に、生徒の生命、身体、精神、財産等に大きな悪影響ないし危害が及ぶおそれがあるようなときには、そのような悪影響ないし危害の現実化を未然に防止するため、その事態に応じた適切な措置を講じる一般的な義務があるというべきである。』

 『(略)香澄は4月下旬ころから、急速に精神的に疲弊し、7月にはそれが頂点に達したとみることができる。そして、香澄が原告美登里や医師、青少年相談センターの相談員、H指揮者、友人に訴えた内容からすれば、吹奏楽部内の人間関係や、被告B、被告C、被告Aの言動等学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における出来事が精神的疲弊の大きな原因になっていたことは明らかであり、かつ、前記認定の香澄のさまざまな訴え、行動、医師の診断、自殺企図からすると、香澄がかかえていた精神的苦悩は非常に大きなものであったことも明らかであるから、香澄にかかわる野庭高校の教員としては、香澄のこのような状態を認識することが可能であれば、香澄の苦悩を取り除くための適切な措置を講ずるべき義務があったというべきである。』

『遅くとも、原告美登里の訴えを聞いた、5月中旬から6月中旬までには香澄の前記のような状態を十分認識し得たというべきである。そうであれば、N教諭及びK教諭は、野庭高校のしかるべき担当者に香澄の問題を伝達し、また、野庭高校は組織として、香澄の問題を取り上げ、香澄の話を受容的に聞いたり助言する、あるいは、被告生徒らの言い分を聞いて助言する、あるいは、生徒全体を相手に注意を喚起する等香澄の苦悩を軽減させるべき措置を講ずる必要があったことになる。
しかし、N教諭、K教諭とも、原告美登里の訴えを聞いても、香澄や原告美登里に対する積極的な働きかけはせず、単に、原告美登里から訴えがあった都度その話を聞く程度に終始し、学校当局に対し、香澄の問題を報告することもせず、したがって、野庭高校全体としても、何ら、組織的な対応をすることなく終始したのである。』

『野庭高校の教員が、5月中旬あるいは6月中旬までに、香澄に関し適切な措置を講じたら、それにより、香澄の苦悩は相当程度軽減されたものと認めるのが相当である。』
として、注意義務違反を認めた

一方、『香澄が自殺にまで至るについては様々な要因があったとみざるを得ないし、野庭高校の教員に香澄の自殺につき予見可能性があったと認めることはできないから、被告県の責任は生前の香澄に精神的苦痛を与えたことに関する損害賠償に限られるというべきである。』として、自殺の予見可能性や教師らの注意義務違反と自殺との因果関係は認めなかった。

また、争点のひとつであった、学校の調査報告義務違反に関しては、
『公立学校の設置者である地方公共団体と在学する生徒の親権者との間には、公法上の在学契約関係が存在し、この在学契約関係の中で、教師らは学校の教育活動及びこれに密接に関連する生活関係において生徒らを指導するのであるから、地方公共団体は、上記法律関係の付随義務として、学校内、あるいは学校外においても学校に何らかの原因があると窺われるような事故が生徒に発生した場合には、その原因などについて調査した上で、必要に応じて、当該生徒又は親権者に報告する義務があるというべきである。もっとも、教育機関たる公立高校においてはその機能に照らし、生徒のプライバシーや健全な成長に慎重に配慮する必要性から、教師ら及び教育委員会が行う調査及びその報告には自ずから限界があり、調査報告義務違反の判断をするにあたり上記の点を考慮する必要がある。』

 『香澄の死後、U校長やY教頭は、香澄及び原告美登里と接していたK、N、T各教諭、H指揮者から事情を聴取したこと、吹奏楽部全員に香澄との関わり方に関するテーマについて作文を書かせ
、さらに吹奏楽部顧問が被告生徒らを含めた部員全体から事情を聴取していること、さらに、Y教頭が被告生徒ら宅に架電し、複数回にわたり事情を聴取したこと、その中で、被告生徒らはいずれもいじめに該当する事実は行っていないとして否認し、他に被告生徒らによるいじめを特定するに足りる有力な情報は寄せられなかったこと、原告らが出した2度にわたる質問に対し、学校側としてはいじめの事実を認識することができなかったとして、文書及び口頭で回答したことなどの各事実が認められ、これによれば、被告県は必要な調査報告義務を果たしたというべきである。』

 『原告らは、香澄の所属するクラス生徒から事情を聴取しておらず、被告生徒らからも十分な調査をしていない旨主張するが、本件は原告美登里の相談内容から照らしても吹奏楽部内における問題として捉えられていたこと、クラスの生徒には情報提供を呼びかけており、さらに香澄と仲が良かった生徒のSには作文を書かせていることなどの各事実に照らせば、必ずしもクラス生徒全員から事情を聴取する必要があったとまでは認められず、また被告生徒らからの調査も前記のとおり作文を書かせ、自宅に対する複数回にわたる架電により事情聴取を行っており、その調査に不備があったと認めることはできないから、
学校は必要な調査をし、報告義務を尽くしたというべきである。』
として、学校の調査報告義務違反については認めなかった
裁判2 被告の県と元同級生のAが控訴したことを受けて、原告も東京高裁に控訴。
(他の生徒2人については控訴せず、確定)
和 解 1 2007/2/19 東京高裁の濱野惺裁判長のもと一審被告の元同級生Aさんと和解。

和解条項 (全文)
1 控訴人は、被控訴人らに対し、控訴人の言辞により、心ならずも、亡香澄の心を深く傷つけ、亡香澄を精神的に追いつめてしまったことを陳謝する。
2 当事者双方は、本件に関し事実関係を正確に認識しない第三者から心ない言動等がされたことに遺憾の意を表明し、今後、本和解の趣旨ないし内容と異なるような一切の言動及び行為をせず、互いの名誉を尊重することを誓約する。
3 控訴人は、被控訴人らに対し、平成19年3月30日限り、弔慰金30万円を被控訴人代理人の口座に振り込んで支払う。
4 被控訴人らは、その余の請求を放棄する。
5 当事者双方は、当事者間に本和解条項に定めるほか何ら債権債務の存在しないことを相互に確認する。
6 訴訟費用は、第1、2審を通じ、各自の負担とする。
                                                 以 上

和 解 2 2007年12月21日(金)、東京高裁で被告の県側と正式に和解。

主な和解内容は、
@神奈川県が和解金として440万円を支払う。
A学校全体としての適切な対応をとらなかったことに陳謝し、香澄の苦悩を癒しその心身の状態を改善させることができなかったことについて遺憾の意を表する。
B野庭高校において、平成10年当時、香澄が自殺を図った当日も他の生徒に対し部活でいじめられていると電話で話したという内容について、原告らに一切知らせることがなかったことについて、深く傷ついていること、遺族が真実を知りたいという基本的かつ切実な要求を有していることを理解し、法令の範囲内において、最大限配慮した教育行政を実践することを約束する。
C生徒らに書かせた作文について、これらに含まれる香澄に関する情報を集約した文書(ただし、個人名及び作成者について判別できないようにしたもの)を作成し、一審原告らに公布する。一審原告らは、この文書の内容を口外しないこと及び第三者に開示しないことを約束する。
D神奈川県は、抜本的ないじめ対応策について検討する等、同種事件の発生を棒することに尽力することを約束する。
など。
裁判経過報告 me020629 me020920 me021030 me031109 me040909 me041128 me041205 me050119 me050319 me051020 me051208 意見陳述 me060225 me060404 me060708 me061012 me070224 me071223   参照
参考資料 2000/12/12毎日新聞、2000/12/12読売新聞・夕、2001/1/15毎日新聞、2001/1/24毎日新聞、2001/7/24朝日新聞、「優しい心が一番大切だよ ひとり娘をいじめで亡くして」/小森美登里著/2002.1.23WAVE出版ルポ・沈黙する学校と闘う親たち「いじめ自殺」わが子が死を選んだ理由を知りたい/安宅(あたか)佐知子取材・文/「婦人公論」2001年6月22日号裁判の傍聴
 





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