『本多勝一"噂の真相"』 同時進行版(その12)

裁判長を不機嫌にした本多流「罵倒」擁護論

1999.3.19

 1999年3月17日、午後4時10分から5時丁度までの50分間にわたって、第4回(反訴の方は第2回)口頭弁論が、東京地裁721号法廷で開かれた。すでに本連載の初めに記したように、裁判長が積極的に「議論を」という日本では珍しい法廷の試みでもあり、当日は特に、疋田被告(反訴原告)の代理人、梓沢弁護士が、立ち上がるや否や、「傍聴人にも聞いてほしい」とか、「この法廷の傍聴人は外へ広げる人々」とか言って、ものかきがノートを広げて取材する法廷を大いに意識する面白い展開になった。

 傍聴人は、24名であり、36の座席数には満たないが、丁度良い感じの埋まり方で、その内の約3分の1がノートを広げていた。ただし、司法記者クラブ所属の不勉強なサラリーマンは、事件審理の途中には来ない習性だから、先にも述べたように、記者専用席になることが多い一番前の一番左の最上席には、私が陣取って、ゆったりと被告(反訴原告)側の席を見渡していた。

 効果音も加わった。梓沢弁護士が、「3万5千円の根拠を示せ」と芝居掛かって2度もテーブルを叩くと、裁判長が制止する間もなく、岩瀬側代理人の渡辺弁護士が即座に、「テーブルなんか叩くなよ」と大声で注意するなど、爆笑シーンも交え、内容も豊富だった。次回は3カ月も先の6月16日(水)11時から(721号法廷)となったので、それまでに、わが連載は今回を含めて13回もある。だから、今回の法廷の状況に関しては、何回かに分けて、課題別に詳しく報じ、かつ徹底的に論じ来たり、論じ去ることにする。

 今回は、本多勝一代理人の高見沢弁護士による本多流「罵倒」擁護論、特に、「売春婦よりも下等な、人類最低の、真の意味で卑しい職業の連中」に関わる「詭弁」と、それらに対する裁判長の不機嫌な意見開陳を特集する。裁判長の不機嫌とは、一種の中間判決の様相を呈するので、それを最初に要約する。

 まず簡単に言うと、高見沢弁護士は、『日本を駄目にした百人の文化人』とかいう本を持ち出して、めくりながら、かのブラック落語家風の論客、佐高信が、猪瀬直樹を「みみず」呼ばわりしていることなどを論拠に、「ジャーナリスト同士、言論人同士の罵倒合戦を、お互いに言論で争うべきであって、法廷に訴えるべきではない」と主張した。これに対して、裁判長は不機嫌になって、「言論の自由の問題」「何を言っても構わないということか」という意見を開陳したのである。

 そこで、説明の都合上、まずは、事件の概要に関する本連載の記述を再録する。

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『ヴューズ』(97.1)「正義を売る商店・朝日新聞株式会社の正体」第1章「リクルートの『接待旅行』」を執筆した岩瀬達哉は、その仕返しに本多勝一から、「捏造記事」「パパラッチ」「講談社の飼い主にカネで雇われた番犬・狂犬の類」「売春婦よりも下等な、人類最低の、真の意味で卑しい職業の連中」「人間のクズ」「カス」などと言いたい放題の罵詈雑言を浴び、それらを名誉毀損で訴えた

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 高見沢弁護士は、まず、以上の主要な罵倒の内、「売春婦よりも下等な、人類最低の、真の意味で卑しい職業の連中」について、「岩瀬さんを売春婦と言ったのではない」、「売春婦を卑しいと言ったのでもない」「世間一般に卑しいとされる売春婦よりも」と言ったのだという屁理屈を捏ねたのである。

 私は、唖然とした。私は、高見沢と個人的な会話を交わしたことはあるものの、良く考えてみると、実際の闘争現場で顔を見たことはなかった。市民派弁護士とは言っても、ピンからキリまである。非常に程度の低い「三百代言」並みのも沢山いる。どうやら、雇主の都合に合わせ何でもかんでも、しゃべりまくるだけの程度なのかもしれないので、これからは、眉に唾をたっぷり付けて見ることにする。

 というのは、この「売春婦」に関しては、すでに本多勝一自身のごまかしが始まっていたのである。しかも、そのために、私の上記引用部分に関して、某インターネット・オタクから、実に下らない絡まれ方をされたばかりだったのである。

[以下、mailについては氏名など一部を1999.3.24.改訂]

 さて、すでに、インターネットの「本多勝一研究会」につては、本誌でも簡単に報じた。この研究会のmailは、一応お互いに断ってから発表しようということになっているので、別途の公開mailによって、その状況を紹介する。引用mailの「若者」は、これが公開mailであるのもかかわらず、私が勝手に個人情報を使ったかのように主張する抗議を各所に送りつけたので、いちいち相手にするのは時間の無駄だかし、個人があいてでないので、匿名とする。30歳台、図書館でコピーした資料をスキャナーで読み込んでは、一日に何通もmailを送る典型的なマニアである。

 以下、主要箇所のみ引用。改行、句読点を一部変更。

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若者:本多発言テキストを正確に引用すること。

(木村氏には原資料にきちんと当たるべきことを申し上げねばなりません)

 くだんの本多氏の「売春婦」発言は、『週刊金曜日』1997年10月3日号に載ったもので、正確なフレーズは「よく卑しい職業の例にあげられる売春婦よりも本質的に下等な、人類最低の、真の意味で卑しい職業の連中である」

 本多氏の文章はいちおう「よく……あげられる」なる一節があって、一応「一般的には売春婦は卑しい職業と言われている(がそれは自分の本意ではない)」と言う程度の意味で言ったんだといういいわけはいえそうです。

 ただし、以前の本多氏の「売春婦」発言にはもっととんでもないものがありました。

「カンボジア革命の一側面」(『潮』1975年10月号277ページ)

プノンペンにいるカンボジア人の多くは、女中だの下男だのといったいわゆる下働きを、それも主として外国人の下働きをつとめるにすぎない存在であった。でなければ売春婦やポン引きのような賎業である。つまり大ざっぱにいえば、プノンペンの町は外国人およびその“下僕”としての国辱的カンボジア人からなっていたと極論することもできた。

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木村:後者は、私の裁判でも書証にしました。前者は、『創』記事の岩瀬訴状解説から取ったもので、それで十分です。私には『週刊金曜日』を図書館で見て時間を無駄にする気は、今後もまったくありません。

 また、[この若者]は、「いいわけはいえそう」としていますが、その国語解釈は間違いだと思います。本勝の文章の「よく・・・・あげられる」は、まったく逆の意味で、世間一般の常識を根拠に決めつける本勝流「虎の威を借る狐」の卑劣な手法です。以上。

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 以上で、マニアは沈黙した。つまり、本多勝一は、以前にも「売春婦やポン引きのような賎業」と書いていて、それに今度は「よく卑しい職業の例にあげられる」という「虎の威を借る狐」の卑劣な手法を加えたのであって、さらに卑劣にも、自分の罪を「世間一般」になすり付けようとして、逃げ惑っているだけのことなのである。その上、実際には、そのような「世間一般」の差別意識を助長したのは、本多勝一らの大手紙ゴロツキ記者たちだったのである。

 この程度の本多勝一流「国語解釈」のごまかしに、どうやら当世流行のフリーター程度の未熟な若者が引っ掛かるのなら、まだ理解できないでもないが、私よりも年齢は少し低そうだが、白髪交じりの中年の「司法試験合格者」の「市民派弁護士」までもが、真に受けてか、それとも弁護料稼ぎのためにやむを得ずにか、ともかく、何人ものプロのものかきのノート風景を横目に見ながら、さらには私までも真っ正面に見ながら、平気でしゃべりまくるというのは、最早、唖然、呆然、愕然、寒心の至りと言う他なかった。

 しかも、最も重要なことは、疋田・本多は、事件当時には朝日新聞の現役記者であり、いわば「功なり名(悪名)遂げた」大物である。今も、朝日新聞の威光を笠に着ているのであって、基本的には大手メディアの立場である。岩瀬は、駆け出しと言っては失礼だろうが、まったくのフリーである。問題の記事の掲載誌の版元、講談社は逃げ腰である。岩瀬は、本多勝一流バッシングに負けたら、業界から追放され兼ねない立場の弱者である。高見沢が論拠にした佐高・猪瀬の罵倒は、同程度の著名フリー同士の「やらせ」に近い「プロレス」ごっこであって、全く比較にはならない。

 こういう立場の違いも分からない「市民派弁護士」とは何ぞや!

 私の目には、この件では裁判長の方が、ずっとましに見えたのである。

 訴訟ということに関しては、次回に詳しく論ずるが、本多勝一自身が文芸春秋『諸君』記事を「名誉毀損」として訴え、昨年、最高裁で敗訴が決定したばかりではないか!

 しかも、その事件の弁護団の内、2人までもが高見沢の隣に座っていたのである。

 以上で(その12)終り。次回に続く。


(その13)言論人同士の「罵倒」訴訟無用論の二枚舌
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