『電波メディアの神話』(8-10)

第三部 マルチメディアの「仮想経済空間
(バーチャル・エコノミー)」

電網木村書店 Web無料公開 2005.4.15

第八章 巨大企業とマルチメディアの国際相姦図 10

ゲーム、カラオケ、アダルトまでが茶の間に乱入計画

「ハリウッド再編劇」が巨額化するのは、光ファイバ網だ、マルチメディアだといっても、最大の問題が、それらの設備と技術がはこぶ中身にあるからだ。

 将来の不気味な問題点を典型的に暗示するのは、NHKとセガ・エンタプライゼズの提携であろう。ゲーム業界では任天堂とライバル関係にあるセガ、タイトー、カブコン、コナミなどのゲーム関連企業が、NHKおよびNHK情報ネットワークとともに、「エンターテインメント検討会」(日経94・1・6)を発足させた。ねらいは、現在オモチャ屋でパッケージにして売っているゲームーソフトを、衛星電波や有線をつかって家庭におくる「ゲーム放送」の事業化にあるという。当面の目標は、一九九七年にうちあげる予定の次期放送衛星を利用する放送開始である。

 興味深いことに、この「セガ、衛星放送事業参入へ/NHKと検討組織/BS4使いゲーム番組」という大見出しの記事の直後には、「96年度の受信料引き上げに含み/NHK会長」というベタ記事がつづいていた。その記事のなかほどには「不況の影響で衛星放送の契約が落ち込んでいる」と書かれている。たしかに別の記事の形なのだが、つづけて読む方としては、「公共放送」のNHKが衛星放送の重荷のせいで、ゲーム業界とくまざるをえない状況になったのではなかろうかとかんぐりたくなる。NHKがこれでは、民放の行くすえはおしてしるべしである。ゲームとマルチメディアの関係についての最新情報は専門紙誌にあふれているが、きりがないので省略する。

 ゲーム業界のつぎには、カラオケ業界がひかえている。カラオケはいまや日本が独自性をほこる(?)国際商品となった。「米CATVでカラオケ配信/第一興商・伊藤忠/双方向実験に参加/香港・台湾でも計画」(日経94・4・7)などという大見出しがおどっている。第一興商はカラオケ機器販売の大手だが、ゲームのセガもマルチメディア本格参入にあたって、「カラオケソフトの供給を始める」(94・4・7)ために「専門の事業部を設置」(同)するが、「同業のタイトーがISDNを使い双方向マルチメディアを想定したカラオケ事業で急激にシェアを伸ばしており、セガとの一騎打ちが予想される」(同)といった具合だ。

 経済専門紙のマルチメディア特集にはさらに、アダルト・ヴィデオ業界のマルチメディア向けソフトまでが登場している。しかも、「アダルトでけん引役」を「確信」(日経産業94・1・31)とくるのだ。「AV(音響・映像)の中核的な存在の据え置き型VTRでアダルトビデオが普及の一翼を担ったことは、だれでもが知る常識」(同)だとすれば、アダルト業界が強気になるのも無理はない。一月五日からの四日間、サンフランシスコで開かれたアップルコンピュータの展示会では、和服姿のコンパニオンが商品説明をする日本の「九鬼」(アダルト・ソフト)のコーナーが黒山の人だかり。「様子見のつもりの米国市場だったが、欧州や南米からも供給依頼があった」(同)という。注目をあつめたのは、「操作に合せて画面の人物が動作を変えるインタラクティブ(対話)性を持たせた、なかなかセクシーなソフト」(同)。つまり、多チャンネルで双方向を可能にする光ファイバ通信網むきのソフトであるが、この種のアダルト・ソフトはすでに国内でも二〇社以上が販売をはじめ、累計で二〇億円以上も出荷したという。

 ただし、松下などのハードメーカーは「製品イメージを気にするあまり、アダルトソフトを歓迎するようなそぶりは見せない」(同)。アダルトはあくまでも「かくしだま」なのだ。その後も「マックスワールドエキスポ東京」で「女子高生姿でアダルトソフト売り」したあげく、関係者が「苦々しい思い」(毎日94・2・19)をかたったり、「『アダルト』お断り」(日経産業94・3・28)にしたり、世間の目をごまかすのに苦労しているようだ。

 このような「ゲーム、カラオケ、アダルト」の三点セットと「次世代通信網」の将来の関係の可能性についても、一般紙やテレヴィによる報道や論評はほとんどない。これでは最初から自慢の「双方向」どころの話ではなくて、まったくの「一方通行」のおしつけではなかろうか。


終章 送信者へのコペルニクス的展開の道
(1)自らを組織してこそ本物の電波メディア主権者