『電波メディアの神話』(7-3)

第三部 マルチメディアの「仮想経済空間
(バーチャル・エコノミー)」

電網木村書店 Web無料公開 2005.4.15

第七章 日米会談決裂の陰にひそむ国際電波通信謀略 3

奇怪な日本経済新聞のスクープと郵政大臣発表

 日本国内では正月早々、「地上波テレビを有線化/光ファイバー通信網利用」(日経94・1・6)というスクープ記事がメディア界をおそった。実際には最近の日経が得意とするスクープの典型で、政財界の一部が意図的にうちあげた世論偵察アドバルーン、兼、株価操作による政治資金づくり協力などの日頃からの噂のくさみがプンプンにおうリーク記事。発言した個人名は不明。電気通信審議会という組織名だけ。郵政大臣の諮問機関である電気通信審議会が「三月にまとめる答申」(その後、「急激な情勢の変化」を理由に答申予定を五月末に延期)でつぎのように「提言する」というのだ。

 「今は無線電波で家庭に流しているNHKや民放のテレビ放送(地上波テレビ)を、二〇一〇年以降は次世代通信網を使った有線方式に順次切り換える」

 簡単化すると、「NHKや民放のテレビ放送を有線方式に切り換える」ということだ。「地上波テレビの仕組みと有線化のイメージ」という図解もそえられていて、非常にわかりやすい。だが実はこれ、放送業界はもとより、視聴者にとってまさに寝耳に水の大事件だ。無線のテレヴィ放送がなくなれば、ヤレヤレ、これでやっとくらないテレヴィと縁が切れたとサッパリする人もいるだろうが、たいていは結局、有線化契約を実質的に「強制」されてしまうのだ。当然の結果として問題の日経記事でさえも、そのしめくくりに、「無線方式が主流だったテレビ事業に大きな変容を迫るもので、論議を呼びそうだ」とつけくわえざるをえなかったのである。

 NTTの計画自体にも無理がある。当初の二〇一五年達成を二〇一〇年へと五年も前倒しにしているのだ。しかも、その前倒しの理由がふるっている。電気通信審議会の試算日経93・12・31)によると、つぎのような事態がせまっているのだ。

 「日本の総人口は二〇一〇年にピーク(約一億三千万人)を迎え、高齢者(六十五歳以上)一人当りの生産年齢人口(十五~六十四歳)も現在の約半分の三人を切る見通しだ。生産年齢層に租税負担などの点で余裕がなくなってからでは、整備は難しいとの声が多い」。

 さてさて一方では、このような年齢別人口比率の変化予測をもとに、年金の支給開始年齢を六〇歳から六五歳に引き上げる計画がすすんでいる。つまり、この両方の計画を直線でむすぶと、老後のための年金の積み立てさえ困難な庶民のフトコロをさかさまにふってでも、光ファイバ通信網の建設資金をまきあげようとする企みだということにもなる。

 光ファイバー網とマルチメディア機器の問題は、郵政省と通産省のなわばりあらそいをはらんでいる。通産省も郵政省に対抗して、「マルチメディア産業育成」を「新しい社会資本整備の柱」に位置づけ、全国数カ所に「マルチメディア支援センター」を設置する方針だ。この種の公費助成があるとしても、こちらも所詮、税金からのまわり道である。庶民のフトコロをにツケがまわってくるしかけにしかすぎない。


(4)郵政省に免許権をにぎられた腰ぬけ大手メディア