『電波メディアの神話』(6-10)

第二部 「多元化」メディアを支配する巨大企業

電網木村書店 Web無料公開 2005.4.7

第五章 「打って返し」をくう「公平原則」信奉者 10

「市場の魔術」によるドンデンがえしの結果を予測か

 さて、オーレッタの評価によると、ファウラーが「望んだのは、政府が道を譲り、勝者と敗者を市場に決めさせることであった」。「市場の魔術」という論法をこのむファウラーの主張では、テレヴィはもう一つの家庭用品、「映像つきのトースター」にすぎない。

 ところでこの「ワシントンの弁護士」ファウラーの登場は、「放送業界とも関係が深かった」からでもあろうが、それ以上の背景があっても不思議ではない。ハッキリいうと、既存の放送業界トップだけではなくて、それを買収した側との関係である。なぜなら、ファウラー氏がこのんだ「市場の魔術」は、むしろ、買収する側に有利にはたらいたからだ。

 先にも紹介したリポート「大型買収の続いた一年/米テレビ界異変の背景」には、アメリカで三大ネットワークが一斉に買収されはじめた時期に、なぜ全米各地でテレヴィ局買収がさかんになったかという理由が、つぎのように要約されている。

 「いわゆるニューメディアの脅威がかつて言われたほどのものでないことがはっきりしつうあるということも、多くの人々の目を既存のテレビ局に向けさせる大きな要因になっている」

 つまり当時はたしかに、ケイブルテレヴィや二四時間ニュースのCNNにはさみ撃ちされて、既存のテレヴィ局もネットワーク会社も経営がくるしくなっていた。だが、のっとりのプロは逆に、将来性をみこして買いにでたのだ。

 結果はというと、最近の経済専門紙には、「米CATV視聴率低下/85年以来初、4大ネット微増」(日経産業93・11・17)というニューヨーク発の記事がある。「4大ネット」というのは「FOX・ブロードカスティング」がくわわったからだ。さらに、「十月末にパラマウント・コミュニケーションズ、今月初めにはタイム・ワーナーが全米ネットワーク事業に参入する意向を明らかにしたばかり。競争相手の出現で、四大ネットが番組内容をさらに充実させれば視聴率巻き返しが続くだろうと関係者は予想している」とある。

 さて、地上波による既存のネットワークに将来性がないとしたら、だれが大金を投じて参入しようとするだろうか。あたらしいネットワークは、すべてハリウッドの映画資本とむすびついている。日本でも現在、ソフト製作パワーの有無がなやみの種となっている。放送業界はいま、あたらしい変貌期をむかえつつある。しかも、「公平原則廃止」の条件のもとで、である。このドンデンがえしの結果は、はたして、買収のプロの予測の範囲外だったのだろうか。これから日本でも進行するであろう「規制緩和」と放送業界の再編の影響を考えるためにも、アメリカの実情の研究はかかせないだろう。


(11)多国籍巨大企業が演出するメディアの魔女の祭典