『電波メディアの神話』(03-5)

電波メディアの国家支配は許されるか?……
マルチメディア時代のメディア開放宣言

電網木村書店 Web無料公開 2005.4.1

序章 電波メディア再発見に千載一遇のチャンス 5

「公平原則」撤廃へむけての世論誘導のたくらみ

 たとえば『アエラ』(93・11・1)は「先進国の実験/『公平原則』米国は捨てた」とリポートする。『アエラ』の発行元は朝日新聞だが、朝日新聞本体の論壇(93・10・27)には、アメリカでは「公平原則そのものが廃止されているのである」という趣旨の「一橋大学教授・情報法学」堀部政男の文章がのった。別途アングラ情報によると、朝日新聞の論壇担当者は、最初から公平原則撤廃論者の放送評論家をさがしていた。つまり、積極的に公平原則撤廃の世論を誘導する気らしかった。ほかにも、この種の報道と論評はおおい。だがこの点に関しても、歴史的事実の検証と、電波メディアの本質の分析を欠いた議論は、実際には無意味であり、危険ですらある。「不偏不党」神話を解明せずに、あわてて「公平原則」神話の歯止めをはずせば、結果はあきらかだ。

 たとえば堀部政男の文章には、公平原則撤廃に反対の動きものっていたが、それも素人目には「公平」らしく見える程度のふれ方でしかなく、とくに、撤廃したのちのアメリカでの放送の実状が完全に欠落していた。

 湾岸戦争で露呈したアメリカのメディア状況をわすれてはならない。アメリカ型の現状固定のままの公平原則撤廃(後述)は、日本の体制側にとってもかねてからの懸案だった。朝日バッシングを決行した産経・読売のタカ派連合と自民党郵政族の、もう一つのねらいに、この謀略がひそんでいる可能性は非常にたかい。

 産経・読売はともに、系列放送局への思想的支配強化に熱心である。郵政省の放送行政局長、江川晃正は、事件後の十一月一日の記者会見で、アメリカの事例を引きながら、「放送法に不備な点がある。内部で検討したい」という趣旨の発言をした。江川はまた、火元の産経記事発表の直後にも、放送法違反だの、電波法違反で電波を止められるだのと言いたい放題の上、在京各局の社長宅に電話をいれて調査会の録音テープ提出の圧力をかけたりしている。そののちにも、新生党の社会資本部会でのハイヴィジョン放送ディジタル化云々の発言で世間をさわがして「確信犯」あつかいされ、選挙報道の当落判定ミスで「注意」を検討すると口走って自分が次官から「注意」されたりしている。小役人面の横柄さもはなはだしく、または異常な累犯性の「躁状態」にあると見られるのに、なぜか進退うかがい提出の噂もないところをみると、いわゆる郵政族の庇護下にあるようだ。何をたくらんでいるのか要注意である。

 NHKや大手新聞系列が放送を独占する現体制をそのままにした「公平原則撤廃」は、のちにくわしくのべるように新しい型のカラクリでしかない。しかけは複雑だ。相撲の技でいえば引きおとしをくわないように気をつけて、こちらも二枚腰をきたえる必要がある。朝日系列はすでにテレ朝バッシングの張り手をくらってグラツキ、もろくも引きおとされたのだ。


(03-6)当局発表うのみの「学説公害」オンパレード