オンライン申請システムの不備が、なりすましの原因?

 7月8日に容疑者が逮捕された石川県能登町の一人10万円の特別定額給付金のなりすまし事件は、依然としてどのような事件なのか、明らかになっていません。マイナンバーを所管する総務省も、オンライン申請システムを担当する内閣府も、地元自治体も、今のところ事件を広報していません。捜査中とはいえ、原因がわからない状態でオンライン申請を続けていいのでしょうか。
  すでに100を超える市区町村が早く給付するために 、郵送申請より手間のかかるオンライン申請を中止・停止しました。高市総務大臣は7月10日の記者会見で、特別定額給付金は予算や総世帯数の8割以上で給付が完了したと述べています。オンライン申請はもう止めるべきです。

●なりすまし事件の経過

 地元の北陸中日新聞や北國新聞の報道によれば、マイナンバーカードのなりすまし取得ではなく、オンライン申請の仕組みに原因がある可能性が出てきました。不確実な情報も混じっていますが、報道をもとに経過を追ってみると、

▼名古屋市に住む容疑者(50歳、男性)が、自分のマイナンバーカードを使って被害にあった石川県能登町の世帯主分の給付金10万円をオンラインで申請。
 その際、受給先を名古屋市の容疑者の住所に変更。給付金は5月中に容疑者の口座に振り込まれた。
 世帯主は、自身のマイナンバーカードを作っていなかった。 また世帯主は容疑者と同姓同名だった。

図は2020年7月10日
北陸中日新聞朝刊より

▼被害にあった世帯主男性は5月に、自身をふくめ家族5人分の給付金計50万円を能登町に郵送申請したが、申請書類に不備があり町は申請書を返送した。
 しかしすでに容疑者が郵便局に転居届を出していたため、申請書は容疑者宅に転送されたとみられる。
 世帯主男性はいつまでも給付金が振り込まれないため能登町に確認したところ、すでに別の振込先に支給されていたことが判明し、事件が発覚した。

▼容疑者は、不正に入手した世帯主男性名義の給付金申請書を、振込先口座などの情報を書き換えて、名古屋市内から能登町に郵送。6月1日に世帯主男性分をのぞく世帯員4人分の給付金40万円を申請し、自身の口座に振り込ませた。
 容疑者の逮捕容疑は、この40万円の詐欺と有印私文書偽造・行使。8日に逮捕され、9日に金沢地検に送致されている。名古屋市内のATMの防犯カメラの現金を引き出す映像で容疑者がわかった。
 オンライン申請の10万円についても、容疑者が詐取した疑いで捜査中。ただ容疑者は「覚えがない」と否認。

▼能登町は5月1日からオンライン申請受付を開始。郵送申請書は 5月15日に発送し、 受付期間は5月18日~8月17日。5月中旬から給付開始。給付対象7510世帯のうち、オンライン申請は7月9日現在97世帯。
 能登町は、世帯主男性に5人分50万円を給付した。

●急ごしらえのオンライン申請がトラブルの原因

 特別定額給付金のオンライン申請受付システムは、内閣府が運営するマイナポータルの「ぴったりサービス」の機能を使っています。

総務省・内閣府 オンライン申請方法 PCverより

 「ぴったりサービス」は、 市町村のサービスの検索やオンライン申請を行うマイナポータルの機能です。もともとは「子育てワンストップサービス」として児童手当・保育・ひとり親支援(児童扶養手当)・母子保健(妊娠届出・予防接種)の電子申請のために作られました。
 サービスの検索はマイナンバーカードがなくても可能ですが、オンライン申請のためには電子証明書を内蔵したマイナンバーカードと暗証番号によりアクセスする必要があります。

 子育てワンストップサービスは 証明書等のコンビニ交付とともに 、マイナンバーカード利用の普及策として期待されていました。しかし自治体の事務とうまくフィット せず、利用は広がっていません。
  開始2年が経過した2019年12月末時点で電子申請を実施している市区町村は、児童手当が71.4%、保育が39.8%、ひとり親支援が21.0%、母子保健が38.0%という状況です(「マイナンバー概要資料」令和2年5月版49頁)。2019年6月4日に決定された「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」には、これ以上の普及は難しいと思ったのか、子育てワンストップもコンビニ交付も記載がありません。

「マイナンバー概要資料」令和2年5月版 46頁より抜粋
(内閣官房番号制度推進室・ 内閣府大臣官房番号制度担当室)

  「ぴったりサービス」の利用自治体も2019年12月末時点で935団体、未利用が806団体と、利用は半数を少し超えた程度でした。その状態で2020年4月20日に一人10万円の特別定額給付金が決まり、短期間で5月1日からのオンライン申請のために「ぴったりサービス」を全市区町村で利用可能にしたという無理が、トラブルの背景にあります。そのため内閣府番号制度担当室によれば、5月3日から6月15日までに51件の修正をし続ける事態になっています(下表は主な改善内容)。

(「月刊J-LIS」(ぎょうせい)2020年7月号 13頁 内閣府番号制度担当室作成の表)

 政府は 7月17日決定の「骨太の方針2020」で 、オンライン申請の失敗で行政デジタル化の立ち遅れが明らかになったと危機感を募らせ、1年を集中改革期間としてオンライン化を前提とする政策システムへの転換などデジタル化を進めるとしていますが、このような普及ありきの前のめりのやり方がトラブルを招いているのです。

●「ぴったりサービス」のオンライン申請の仕組み

 「ぴったりサービス」による電子申請では、マイナポータルで申請した情報を自治体に伝えるため、自治体間などで行政文書を暗号化してやりとりする「LGWAN」やインターネットや専用線を使用するなど様々な 接続方式があり、自治体ごとに選択して整備しています。

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子育てワンストップサービス実現に向けた地方公共団体向けガイドライン」 6頁
(子育てワンストップサービス推進チーム平成28年12月22日)
「 被災者支援制度におけるマイナポータルの活用に関するガイドライン 」7頁
( 内閣府(防災担当) 平成31年3月 )

 今回の特別定額給付金のオンライン申請受付では、未接続自治体も一斉に利用可能にするため、国が接続サービス提供事業者と包括接続契約を締結して、自治体は受付データ取得端末の用意とネットワーク設定のみでオンライン申請できるようにしたとのことです( 「月刊J-LIS」2020年7月号12頁 )

●早急な事実と原因の解明と公表を

 今回のなりすまし事件では、どうして容疑者が自分のマイナンバーカードを使って他人のオンライン申請ができたのか、まだ明らかでありません。容疑者は被害にあった世帯主と面識はなく、石川県内の居住歴も勤務歴もないそうです。申請入力に必要な、被害にあった男性の住所などの個人情報をどのようにして入手したのかも不明です。

 能登町はオンライン申請時に、世帯全員の名前、生年月日、住所、性別、添付書類などを住民登録と照合して複数の職員で確認しており、どういう方法でチェックをすり抜けたのかわかっていません。そのため今後は申請時に申請者に電話連絡や振込通知を送付するなどの再発防止策を検討しているとのことですが、給付金サギが横行している中で、電話連絡には危険もあります。

 政府はあらゆる行政手続きを原則オンライン化することを目指していますが、今回の事件はオンライン申請の落とし穴を示しています。まずはこのような事例が発生したことを政府の責任で早急に周知するとともに、デメリットしかないオンライン申請を中止し、なにが起きたのかを市民にわかりやすく公表すべきです。

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