反FGM基金 (6/6)

反FGM基金プロジェクト報告


2021年度反FGM交付団体 ラパラーブル(La Palabre)

「FGMに関する意識向上」プロジェクト報告

ラパラーブル(La Palabre)は、2006年2月14日にベルギーで設立され、同年7月にラパラーブルセネガルが設立された。当団体は、人権を擁護し、社会的弱者、特に少女、女性、子どもの発展に寄与することを目的としている。ラパラーブルは、教育と訓練を重要視し、あらゆる形態の不平等、暴力、人種差別に反対している。特にFGM、児童婚、強制結婚、名誉に関わる暴力など、女性と子どもの健康に有害な影響を与えるあらゆる伝統的慣習に異議を唱えている。
2020年~2021年、コロナウイルスの蔓延中に暴力は劇的に増加し、減少傾向にあったように見えたFGMを含む多くの伝統的な有害慣習が本格的に再開された。
このような背景から、ラパラーブルはWAAFからの資金提供を受け、学生や、FGMが行われている村の人々を対象に、ラジオ番組、2つの学校と2つの村でのプロジェクトを行った。プロジェクトはセネガルのティエス市内とその近辺で実施された。

活動1:クールシンバラジャワラ村での啓発活動 
プロジェクト実施前に、村の中心人物である村長、副村長、長老の代表を表敬訪問した。そして、2022年6月15日に、村の女性や若者の意識を高めるために再び訪れることを彼らから許可され、祝福された。






コミュニティリーダーは、FGM問題についてのトレーニングを受けたファシリテーターとして登壇し、村に住むバンバラ族のFGMの歴史を教えてくれた。
彼女は、自分たちの村で最も一般的に行われているFGMについて話した。それは、クリトリスを切除し、小陰唇と大陰唇を全摘するものだ。その結果、社会レベルでは、このハンディキャップのために、女性は他の民族と結婚せず、村の中でしか結婚しなくなり、不感症とみられるようになった。
ある助産師は、「出産を控えた女性の多くは、出産時に苦しんでいる」と話してくれた。彼女自身が切除されたからこそ、事実を知った上で話している。
ある女性から切除の体験談があった。「20年以上前のことだが、施術師が来た日、勉強しようと思っていた私を、両親が学校に迎えに来て、施術師に引き渡そうとした。その日、先生は私を親に引き渡すことを拒否し、親を糾弾するぞと脅した。私は逃げられてとても嬉しかった。しかし夕方、家に帰ると、家に施術師の女性がいて、姉やおばさんたちが私を切除するように押さえつけた。私はあざができ、何の希望もなくなった。恥ずかしくて学校にも戻りたくなかった」
村では、女性たちはFGMが性的、社会政治的、経済的なレベルでもたらす影響について認識するようになった。女性たちは、この村の素晴らしい自発性を賛美し、自らの経験を語るようになったのだ。コミュニティ・アクションのフォローアップのために連絡先を交換した。
女性たちは、ヘルスセンターと分娩台の支援を求めている。確かに、雨季に雨が降ると、出産に来た女性の上に水が流れ、女性や新生児の命が危険にさらされることがある。

活動2:ムバンバラ村での啓発活動 
この啓発活動は、6月19日に、貯蓄信用村協会(AND GUEUM SA BOPP)の会長の自宅で行われたものである。
今回のFGMに関する講演は、非常にレベルが高く、科学的で実りの多いものだった。FGMをよりよく定義するために、女性の体験と質疑応答に基づいて行われたため、参加型の講演となった。ファシリテーターの助産師は、FGMの定義について、クリトリス切除、摘出、陰部縫合の概念を明快にしてくれた。
講演では、これらの慣習の背景にある社会的な理由について説明した。女性の生殖能力を高めるため、女性の純潔を確保するため。つまりは女性の性欲を抑えるため、言うならば結婚の貞操を守り、少女の処女を結婚まで守るため、思春期から女性への通過儀礼としての役割、文化・宗教的伝統を守るため(FGMがイスラム教や先祖から課せられたものと考える人もいる)、医療行為の一形態としての役割(民族によっては、クリトリスが病気の元と考えている人もいる)のためとされている。
彼女は最後に医学的な視点からのFGMの影響(痛み、出血、尿を出すときに熱くなる、B型肝炎やHIV/AIDSなどの血液感染症のリスク〔集団的切除の際に鋭利な器具を使用するため〕、繰り返す尿路感染症、不妊症、フィスチュラ)を示し講義を終えた。健康に関わる技術者として、彼女は医学的な影響を強く主張した。この講演によって、後に先進的な女性特有の病気に関する医療施設の連絡先を交換することができた。村の女性たちは、勤務先であるティエス市の地域病院へ訪問することを約束した。

活動3 : ティエスのマリクシ高校での啓発活動 
2022年6月22日、私たちは学生たちと共にFGMに関する啓蒙活動を実施した。朝9時から部屋にメッセージを掲示し、音響システムを設置した。校長から意識改革を評価され、充実した一日となった。理系の最優秀女子の表彰と偶然に重なったため、予想以上に多くの生徒が動員された。






初めにコーディネーターからラパラーブルと当プロジェクトの経済援助を行なっているWAAFについて、団体の略称の意味を英語に続いてフランス語に翻訳して紹介した。その中で、コーディネーターから生徒たちに対して授業のように参加型でFGMの定義を行った。「FGMは、女性の外性器の全部または一部を切除するすべての外科的介入を含む」






生徒たちによるこの定義の後、看護師がFGMの原因と結果、つまり社会文化的、民族的な由来について話した。彼女は、FGMがもたらす医学的な影響について、時には犠牲者として死に至ることもあることを強調した。学生たちはこの啓発活動を高く評価し、2022年から2023年にかけて、優秀な学生をFGM廃絶に向けたアンバサダーとして任命することを提案した。

活動4:パルセルアセニ校での青少年への啓蒙活動 
コーディネーターは、WAAFおよびプロジェクトについて紹介し、啓発活動の進捗状況について報告した。若者たちはFGMについて感化され、FGMについて自分たちの経験や知っていることを話してくれた。






ギニアのプルという集落で教師をしていた男性は、適切でない切除施術によって、1人の生徒を失った。切除から2日後に教室に戻った少女は、授業中に出血し始め、呼び出された両親の前で学校当局に避難させられ、数日後に切除の大量出血のため息を引き取った。
進行役は特定の民族がFGMを行うに至った社会的側面を強調した。この点については、ラパラーブルの若者の中にも、女子の健康に非常に有害な伝統的慣習の言い訳だと考え反論している者もいる。






活動5 : Sud FMでのラジオ放送 
この活動では、FGM問題の専門家を招き、ジャーナリストの質問に答えてもらうことで、リスナーに対するFGMの啓蒙と、プロジェクト実施団体のラパラーブルおよびドナーであるWAAFの紹介を行った。
ラパラーブルとWAAFに関しては、プロジェクトマネージャーによって紹介された。ラパラーブルにとって、WAAFのようにFGMを実践しているコミュニティでの啓発活動を積極的に支援しているパートナーを得たことは、とても良い機会だと語っている。
番組は、現地の言葉であるウォロフ語で、時にはフランス語を交えながら相互性を持った会話形式で行われた。記者の話が脱線しないように、プロジェクトマネージャーが質問を作成した。質問と回答の一部は以下の通り。

質問:法律はあるか?FGMを禁止する法律は、一般に知られているか?
回答:セネガルにはFGMを禁止する法律が存在するが、国民にはほとんど知られていない。
質問:FGMを禁止するために、地域社会は何ができるか?
回答:地域社会は、FGMに関する法律を普及させながら、若い世代への啓発を続けることができる。
質問:FGMを糾弾した場合、誰が民事訴訟を起こせるのか?
回答:事実の証拠があれば、誰でも民事訴訟を起こすことができる。セネガルでは、このような行為で家族から被害を受けた女性が糾弾されることはない。
質問:潜在的なFGM被害者のケアを改善するために何ができるか?
回答:FGMの被害者のケアはとても良いことで、ラパラーブルのような団体は、すでに被害者の受け入れ・宿泊センターを通じてこの分野で活動しているが、このような悪い事態を止めるために若い世代の意識改革に力を入れた方が良いだろう。
質問:セネガルにおけるFGMと統計の現状は?
回答:ラパラーブルのようにこのテーマ(FGM)での活動をするNGOや、トスタン(Tostan)やその他の団体の活動は、FGMの原因と結果についての認識を高めることで成り立っている。1997年から現在までの統計では、6,959のコミュニティがFGMを放棄し、66のコミュニティがFGM放棄の宣言を書面にしている。

活動結果および提言
このプロジェクトのおかげで、170人(村人や学生)、Sud FMラジオのプログラムを通じて1,000人以上の人々に認知してもらうことができた。
提言としては、1)若い世代への啓発を継続する、2)FGMを禁止する法律を普及させる、3)ラジオ番組を複製化する、4)11月と12月に教育現場での啓発を開始する、5)別プロジェクトで他校をターゲットにする、といった点が挙げられた。
この5つの活動を可能にしたWAAFの資金援助に感謝する。

―ニュースレター92号掲載―


反FGM基金プロジェクト報告


2021年度反FGM交付団体
タンザニアWOWAP(Women Wake Up)


「シンギダ州でFGM廃絶を通してジェンダーに基づく暴力に取り組む」プロジェクト報告

タンザニアでは1998年にFGM禁止法が施行されたものの、特に農村部を中心にいまだにこの慣習が続けられており、その弊害についてもあまり知られていない。また、最近の傾向として、FGMを受ける年齢が低くなっている(1歳以下が全体の35%)。そのため、農村部での啓発が特に重要である。

プロジェクトについて
プロジェクト実施地域は、タンザニア中央に位置するシンギダ州シンギダ・ルーラル県(Singida Rural District)のムティンコ区(Mtinko ward)ムティンコ村(Mtinko village)である。ムティンコ区の人口は24,535人(男性12,080人、女性12,455人)、ムティンコ村は6,568人(男性3,177人、女性3,481人)で、WOWAPの拠点でもある首都ドドマからムティンコ村までは266㎞離れている。プロジェクトの目的はここでFGM廃絶について啓発することである。
村では市場が毎月開かれており、さまざまな物品が販売され、朝から晩まで1日中多くの人でにぎわう。2022年6月5日、7月16日、8月27日、9月24日の各日に開かれた市場で街頭キャンペーンを展開した。WOWAPスタッフ2名、行政官4名、地域リーダー2名が市場に出向き、人々にFGMに関する正しい知識を伝え、その廃絶を訴えた。ときには音楽を流しながらマイクを通してFGM廃絶をアピールし、その場にいる人々にも発言してもらった。





シンギダ州地域福祉担当の行政官




地域の人たちと話をする行政官


また、ポスター200部、リーフレット100部を制作し、情報を拡散した。市場で配布したただけなく、役所、保健所、公共施設などにも貼りだした。ポスターやリーフレットを制作する上で注意した点は、わかりやすいメッセージでイラストを多用することであった。スワヒリ語、英語の2種類を用意した。





リーフレットを読む男性たち




リーフレットを読む若い女性と少女たち




リーフレットを読む年長の女性たち




役所に貼られたポスター


参加者の発言から
・伝統的リーダー
(「伝統的リーダーは正当な理由もなくFGMを支持している」という別の参加者の意見に対して)FGMは女性の性欲を減退させる。そのため女性にとっては、家族の世話により専念できるのでFGMは必要不可欠なものである。



FGMを支持すると話す伝統的リーダー


・地域の男性
自分の住む地域では、女性が主体となってFGMを行っている。妻は夫に相談することなく、親戚の女性たちと示し合わせて秘密裏に娘にFGMを受けさせている。

・地域の女性
FGMを受けたせいで、性行為に喜びを感じたことはない。こんなつらい経験を子どもたちにさせるべきではない。FGMを廃絶するためには女性たちが関わることが重要だ。被害者としてその苦しみを証言できるのだから。



自分の経験を元にFGM廃絶を訴える女性



成果と課題
二村の市場で、老若男女合わせて1,200名ほどの人々にFGMについての正しい情報を伝えることができた。参加者の発言を通して、地域住民の反応を直接知ることもできた。また、WOWAPと行政との協力関係が強化した。
家庭では妻が夫に無断で幼い娘にFGMを行うという証言があった。その一方で、FGMの弊害を熟知している女性たちこそが、この慣習から子どもたちを守るべきという意見も出された。議論に加わった若者からは、「FGMを受けた女性の身体は元に戻すことができるのか」という質問を受けた。これに対しては「被害者には精神面でのサポートしかできない」と回答した。

課題としては、1)FGMは女児が幼いうちに密かに行われるので、警察は犯人を突き止めることが難しい、2)WOWAPは自分たちの車を持っていないので、遠隔地で行うプロジェクトの実施が難しい、3)FGM廃絶キャンペーンが必要な地域をすべて網羅するには資金が足りない、といった点が挙げられる。
市場という場所柄、地域住民が積極的に参加できたことは大変良かった。今回の街頭キャンペーンを見聞きした人たちは、自分たちの得た知識や情報を地域で広めることなるだろう。シンギダ・ルーラル県にはFGMの正しい情報を必要とする村がまだ多くあるので、同様のプロジェクトをさらに拡大したいと考えている。

―ニュースレター93号掲載―


反FGM基金プロジェクト報告


2022年度反FGM交付団体
タンザニアWOWAP(Women Wake Up)


「シンギダ州でFGM廃絶を通してジェンダーに基づく暴力に取り組む」プロジェクト報告

昨年度実施したプロジェクト(NL93号に報告掲載)が効果的であったことから、同様のものを別の地域で行うことにした。プロジェクトの目的は、女性と少女の健康や人権について啓発し、古い伝統に縛られている人々の意識を変え、FGMを廃絶するために行動を起こすよう促すことである。
実施地域は、タンザニア中央に位置するシンギダ州のムシシ区(Msisi Ward)ンクワエ(Nkwae)村である。村の人口は12,915人(男性6,400人、女性6,515人)で総世帯数は2,592世帯。FGM実施率は51%と推計される。WOWAPの拠点でもある首都ドドマから同村までは300㎞弱離れている。当初、ンクワエとムディダ(Mudida)の二村を予定していたが、FGMの実施率がより高く、啓発があまり行き渡っていないと思われるンクワエ村だけに絞って実施することにした。今回の経験をもとに、次回以降ムディダ村でのプロジェクトを検討したいと考えている。

2023年6月22日と10月3日の各日、それぞれ2カ所、合計4カ所の市場で街頭キャンペーンを行った。WOWAPスタッフ2名と地域の行政官2名が市場に出向き、マイクを握り、人々にFGMの問題とその廃絶を訴えた。村で毎月定期的に開催される市場には、遠方に住む人々もやってくるので、キャンペーンをするのにはまたとない機会となる。
今回は、村の地域リーダーや宗教指導者も含め、おおよそ男性250名、女性200名、合計450名ほどの村人たちに情報を拡散することができた。一方的に情報を伝えただけではなく、集まった人々は質問をしたり、自分の経験談を話したり、FGM廃絶に向けた提言を行ったりもした。また、新たにポスター200部、リーフレット100部を制作し、配布した。さらに、SNSを通してもFGM廃絶を訴えた。


女性たちにポスターを配る行政官



配布されたポスターを見入る若い母親


参加者からの質問
・FGMが行われていると知ったら、どこに通報すればいいのか。
・FGMはタンザニアの他地域でも行われているのか。
・政府はFGMについて通報した者を保護してくれるのか。
・大半の人々がFGM廃絶に反対した場合はどうすればいいのか。
・男子の割礼もやめるべきなのか。

参加者の経験談
・地域ではFGMがもたらす危険について知らない人が多い。
・女性が主導して、女児にFGMを受けさせている。

参加者からの提言
・各世帯に向けたキャンペーンを行う。
・FGM実施者を公表して、罰する。
・病院が少女を検査して、FGMが施されているとわかったら両親を逮捕する。


地域福祉担当の行政官による訴え



「若者が先頭に立ちFGMにノーと言おう」と訴える若い男性


成果と課題
地域の人々は自分たちの日常生活に直接関係しない啓発集会にわざわざ出向くことはないので、市場でのキャンペーンは非常に効果的だった。自分の見解を述べた人々の多くに、FGM廃絶に対する前向きな姿勢が見られた。公の場で若者が文化の問題について話をしたことは良かった。また、当日あまり積極的に耳を傾けなかった人や現場に来られなかった人にも、ポスターやリーフレットを通して、情報を届けることができた。
今回のプロジェクトを通して、FGMが続けられている背景にはその危険性についての知識が欠けていることがわかった。地域の人々は、伝統的指導者や地元の有力者を信頼しており、それが伝統としてのFGMを守ることにつながっている。FGM禁止法があっても、人々がFGMに対する姿勢を変えようとしない限り、何の役にも立たないことも垣間見えた。
伝統を頑なに信じている場合、人々が外部からの知識を受け入れることは難しい。外の世界と触れることがなければ、自分の考えを一変させる新しい知恵を得る機会はない。こうした地域の事情をどのように変えるかが一つの課題だ。また、協力を仰ぐ行政官の日程が変更になり、当初9月に実施する予定が10月に延期されてしまった。行政官は役所の仕事を優先させるため、彼らが忙しい時期にはしばしばこうした事態になる。さらに、物価高で当初の予算でプロジェクトを実行するのが難しくなった。
FGMが長く地元に浸透している慣習であることから、さらに多くの地域における意識啓発が必要だ。FGM廃絶に向けて、正しい情報を広める努力が一層求められると感じた。

―ニュースレター95号掲載―

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