反FGM基金 (5/6)

反FGM基金プロジェクト報告


2016年度反FGM基金交付団体
リベリアWOSI(Women Solidarity, Inc)


「ズワー地域における反FGM啓発活動」プロジェクト報告

プロジェクト実施地域は、首都モンロビアから30キロほど離れたマーギビ郡(Margibi County)マムバカバ地区(Mamba Kaba District)のズワー地域(Zewhorr community)である。同地域の人口は3,000~3,500人(マムバカバ地区全人口の約7%)で、FGMの実施率も高い。プロジェクトの目的は、地域住民がFGM廃絶に積極的に取り組めるよう、FGMや女性に対する暴力について啓発することである。教材の制作・配布、対象を絞った3回のワークショップ開催、「反FGM推進委員会」設立を柱として、地域住民の参加を呼びかけた。

プロジェクト実施準備(2017年4月13日)
モンロビアのWOSI本部事務所にて準備会合を開き、スタッフに今回のプロジェクトの詳細が伝えられた。プロジェクトマネージャーと地域のまとめ役が二人一組となってプロジェクトを推進し、プログラムオフィサーと諮問委員会メンバーの一人はモニタリングを行うことになった。

実施地域訪問・会合(2017年5月16日)
プロジェクトマネージャーと地域のまとめ役がズワー地域を訪れ、地域リーダー、女性および若者グループとの会合を持った。プロジェクトの内容、実施方法、期待される結果などについて詳細な説明を行った。この訪問とプロジェクト計画は快く受け入れられ、女性と若者グループのリーダーが実行チームとなり、長老のリーダーはモニタリングに力を貸してくれることになった。会合には地域から21人が参加した。

教材の制作・配布
ワークショップの告知を載せたバナー2枚、Tシャツ75枚、ステッカー80枚を制作した。それぞれにFGM廃絶のメッセージと共にWOSIとWAAFのロゴを付け、Tシャツとステッカーはワークショップ参加者や地域の人々に配布した。



男性を対象にしたワークショップのバナーを掲げる参加者





女性を対象にしたワークショップのバナーを掲げる参加者


対話型啓発ワークショップ(2017年5月・6月)
切除者を含む女性、若者、男性それぞれを対象に同じ内容のワークショップを各1回、合計3回開催した。ワークショップではまず、参加者に対し、プロジェクトマネージャーからその趣旨やWAAFの支援により開催されていることが説明された。次に、講師兼進行役として、厚生省登録の正看護師であるオニケ・フリーマンと人権活動家のタンバ・ジョンソンの二人が紹介された。
フリーマン氏は、「FGMがもたらす健康被害」というテーマで、FGMとは何か、それによってどのような弊害があるのか、といった点について詳しく話をした。直接的な合併症としては大量出血や破傷風など、長期的には慢性生殖器感染症、HIVエイズ感染、フィスチュラ(ろうこう)など具体的な例を挙げ、死に至ることもある危険な行為であると訴えた。そして、健康および性と生殖にもたらす深刻な影響を考えると、FGMは医学的に見て許されるものではないと強調した。「FGMがいかに害をもたらすか理解いただけましたか。女性や少女、そして社会全体のためにこの慣習を止めるよう協力してください」と締めくくった。
ジョンソン氏からは、「FGMによる人権侵害」について話があった。女性や子どもの人権に関して拠り所となる国際あるいは地域条約文書として、「子どもの権利条約(CRC)」「女性差別撤廃条約(CEDAW)」「アフリカにおける人および人民の権利および女性の権利に関するアフリカ憲章議定書」が挙げられた。そして、女性と少女の人権を侵害するFGMは拷問に等しく、身体的完全性やリプロダクティブヘルス、神から与えられたあらゆる権利を侵害するものであると、説明された。

各スピーチの後には質疑応答があり、講師と参加者の間で盛んなやり取りがみられた。多くの参加者が、これまで疑問に感じていたことが明らかになったと話した。その後、参加者はグループに分かれて、自由に意見交換を行った。今後自分たちはどのように啓発活動に関わるのか、ここで得た知識をどのように地域に広めるのか、率直な意見が出された。最後にグループの代表が意見をまとめて発表した。こうしたフリーディスカッションによって、参加者の学びがより深いものになった。
ワークショップは全3回行われたが、どれも終始気さくで和やかな雰囲気の中で、実り多いものとなった。参加者は合計87名(25~60歳の女性リーダー29名、18~30歳の若者31名、25~60歳の男性27名)で、地域内にある17の町と村から集まった。ワークショップ終了後、「反FGM推進委員会」メンバーへの立候補者を募った。当初は10人を予定していたが、17町村から各1名が選ばれ、「ズワー地域反FGM推進委員会」が設立された。



ワークショップの様子



「反FGM推進委員会」訓練ワークショップ(2017年6月)
17名(女性11名、男性6名)の「反FGM推進委員会」メンバーを対象に訓練ワークショップを開いた。ジェンダー・子ども・社会保護省のロベット・シエ、「全国人権擁護プラットフォーム」のアダマ・デンプスターの2名が講師を務めた。
メンバーが今後地域ボランティアとして、人権に関する事柄、特にFGMという伝統に関わるデリケートな問題をどのように扱えばいいのか、その心構えと具体的な手法が伝えられた。対話型ディスカッションやロールプレイを通して、「地域住民へのアプローチ方法」「すべきこと・してはいけないこと」などについて訓練が行われた。終了後、参加者からは感謝とFGM廃絶のために全力を尽くすという決意が述べられた。

モニタリング
WOSIのプログラムオフィサーや地元の長老リーダーらが、対話型啓発ワークショップおよび「反FGM推進委員会」訓練ワークショップに参加し、モニタリングを行った。また、プロジェクトはすべて公開し、関心があれば誰でも進行状況を知ることができた。こうしたモニタリングは、プロジェクトを計画通り確実に実施する上で欠かせなかった。

地域からの反応
プロジェクトの直接受益者は、対話型啓発ワークショップに参加した87名だったが、地域住民少なくとも2,000名に間接的な恩恵が及んだ。各回の対話型啓発ワークショップ終了時には、参加者から感想が述べられた。男性向けワークショップでは、ある町長から「女性と少女の人権について勉強できてよかった。人から、あるいはラジオで聞いたことはあっても詳しくは知らなかったので、ここで理解できたことはありがたい。今後もこのようなプロジェクトを続けて、より多くの地域住民に正しい知識を届けてほしい」と感謝と要望があった。
女性向けワークショップでも、「WOSIとWAAFの皆さんに感謝する。男性の参加があったこともありがたい。女性の人権に関しては、妻や娘の言うことに耳を貸さず、手を差し伸べないのはまさに男性なのだから。私も今回一緒に参加した友人も、ここで得た知識を他の人々に伝えていきたい。WOSIの皆さんがいつもここにいたらより良い成果が期待できる」との声があった。また、ある女性リーダーは「FGMの危険について啓発する一方で、FGMを止めた切除者への職業訓練が必要だ」と訴えた。

課題と成果
プロジェクトは大きな問題もなく順調に進んだが、コンピュータとカメラの故障により報告書の提出が大幅に遅れた。故障した機器から報告書や写真のデータを取り出すのにかなりの時間と労力を費やした。今後の新しいプロジェクトに関しては資金が不足しており、実施のタイミングが遅れるとFGM廃止に前向きになっている地域住民の気持ちがしぼんでしまわないか心配である。また、元切除者に対しては、代替職業を提供する必要がある。代わりの仕事がなくては、切除者がFGMを放棄するのは難しい。
FGMが女性と少女の健康と人権に与える負の影響について、地域住民に理解が広まったのは大きな成果だった。「反FGM推進委員会」メンバーも積極的に活動し、住民の間にFGM廃絶の機運が高まった。実際に地域におけるFGMは減少している。プロジェクト実施以前は、秘密結社“サンデ・ソサエティ”により少なくとも年に2回FGMの儀式が執り行われていた。だが、その後2018年末まで“サンデ・ソサエティ”の目立った活動はあまり見られず、FGM実施件数は減っている。

今後に向けて
地域の人々から終始好意的に受け入れられ、FGM廃絶に向けて拍車がかかった点で、今回のプロジェクトは成功だったと言える。WAAFの皆さんには支援はもとより、報告書が遅れてご迷惑をおかけしたが、我慢強く付き合ってくださり感謝している。今後FGMが地域で完全に廃絶されるまで、さらにキャンペーンを続けていきたいと考えている。また、元切除者に対する職業訓練にも取り組みたい。

―ニュースレター82号掲載―


反FGM基金プロジェクト報告


2017年度反FGM基金交付団体
タンザニアWOWAP(Women Wake Up)


「対話と演劇を通したFGM廃絶キャンペーン」プロジェクト報告

プロジェクト実施地域は、昨年度と同じくタンザニア中央に位置するシンギダ州シンギダ・ルーラル県(Singida rural district)のムサンゲ区(Msange ward)である。ムサンゲ区は面積136 km²で、4つの村(ムサンゲ、セフンガ、エンデシュ、マンギダ)から構成される。前回の対象地域はムサンゲ村だったが、今回はエンデシュ村で実施した。
2015~2016年の人口保健調査によると、タンザニア全体のFGM実施率(15~49歳女性)は10%である。1996年調査時の18%と比べれば減少傾向にあるが、農村部ではこの実施率は2倍以上になる。州別で見るとマニャラ州58%、ドドマ州47%など、かなり高い地域もある。シンギダ州の実施率は31%である。ムサンゲ区は、シンギダ州の中でも特に実施率が高いことが知られている。FGMの対象となるのは、主に5歳以下の女児である。切除者は、年齢が低いほうが秘密裏に行うことができると考えている。
プロジェクトの目的は、地域住民、宗教指導者、伝統的指導者、行政官などすべての人々にFGMに関する知識を広め、この慣習をなくすことにある。具体的には、対象グループによる討論会、世代間対話集会、演劇を通して啓発キャンペーンを展開した。また、報道関係者にも参加を要請し、メディアを通じて情報を拡散した。

対象グループによる討論会(2018年5月10日)
参加者は30名(女性10名、男性20名)で、州および県の社会福祉行政官、区および村の行政官、村議会議長、小村議会議長、教師、農民、報道関係者が集まった。最初にフィルム上映を行った。アニメフィルム“The True Story of Ghati and Rhobi(ガティとロビのお話)”*に加え、アニメではないがFGMをテーマにしたものを数本上映した。参加者はフィルムを鑑賞しながら、それぞれのストーリーに照らして、自分の状況を客観的にとらえることができたようだ。続く討論会では、地域が抱える次のような問題点が指摘された。
まず、地域住民はFGMがもたらす影響についてあまり知らない。また、FGM禁止法についても理解していない。子どもの権利を守る点においては、家族、地域、保健専門家、行政に至るまで、全員の責任感が欠如している。さらに、禁止法があるにもかかわらず、警察の力が弱い。地域住民に向けた啓発プロジェクトを行うNGOには資金力がない。こうした問題すべてに取り組むことができれば、地域におけるFGM廃絶が格段に推進されることだろう。
FGMについて理解を促す点で、フィルム上映は非常に有益な手段だった。娯楽の要素が参加者の心を開き、討論会はより実り多いものになった。社会的地位に関係なく、参加者全員が率直に意見を交換することができた。アニメフィルムに関しては、討論会だけでなく、教師や関係者に配布して学校や職場などでも上映したため、合計2,000名ほどが見たと思われる。



対象グループによる討論会で趣旨を説明するWOWAPスタッフ


世代間対話集会(2018年8月2日)
参加者は30名(女性9名、男性21名)で、職業は「対象グループによる討論会」と同じ。FGMは秘密裏に行われており、違う年代や性別の人々がそれについて話し合うことはタブーとされている。この集会は、さまざまな人々が堂々と自由に討論する機会となった。
対話を通して、地域の状況を考慮に入れたFGM廃絶の手法を探ることができた。FGMが秘密裏に行われ、通報されない主な要因として、地元の行政官と地域住民のつながりが薄い点が指摘された。また、地域では母親が主体となって、夫に知らせずにFGMを娘に受けさせているという。そのため、自分の娘が切除されたことを親戚や友人から聞いて初めて知る男性もいる。FGMがいかに子どもを傷つけるか、女性に向けたさらなる啓発が必要である。それによって、女性たち自身が自分の家庭からFGMを止めることができる。

ある有力者の男性は、女性が勝手に赤ん坊にFGMを施してしまう状況について、「世帯主である夫の了解を得ない妻に責任がある」と話した。行政がクリニックで子どもを定期的に検査し、女児がFGMを受けていれば、その母親を起訴できるようにするべきだと主張した。続けて「女性が決定権を握ることは男性の沽券にかかわる。行政がその能力を発揮して対策を立てないのはおかしい」と感情を高ぶらせ訴えた。
行政官に責任感が欠けている点は、他の参加者からの意見でも明らかになった。行政関係者の中には、FGMを支持する民族の出身で、自分たちが信じるこの慣習を継続するよう住民に働きかけている者たちもいるという。また、子どもを守るべき立場にありながら、切除者につけこんで口止め料を要求し、違法行為を見逃す行政官がいることも指摘された。

演劇(2018年11月24日)
参加者は160名(女性90名、男性70名)で、宗教指導者や伝統的指導者も参加した。フィルム上映と同じように、娯楽を通して人々を啓発する上で、演劇や歌は大いに役立つ。今回は、村人が集まる広場で歌や芝居を上演し、FGM廃絶の必要性を誰にでもわかりやすく伝えることができた。「FGMを受けた女性は、出産時に大量出血で死んでしまうこともある」「FGMを受けさせられたことで親を恨み、トラウマに苦しめられる女性や少女もいる」「FGMとレイプという人権侵害から女性と子どもは守られる権利がある」といったメッセージが訴えられた。
上演後には、WOWAPスタッフがFGM禁止法などについて話し、参加者からの質問にも詳しく回答した。参加者は歌や芝居を楽しみつつ、質疑応答を通してFGMについての知識を深めることができたことを喜んでいた。



劇団の女性たちが歌によってFGMの問題を訴える(1)




劇団の女性たちが歌によってFGMの問題を訴える(2)




FGMについて話すWOWAPスタッフ。一番右は区行政官、その隣は村議会議長


プロジェクト成果と課題
今回のプロジェクトは、行政からも地域住民からもすぐに受け入れられ、問題なく進められた。多くの住民が参加し、FGM廃絶を直接訴えることができた。住民に情報を伝えるうえで、行政官の参加もプロジェクトの成功に欠かせなかった。行政関係者と強い協力関係を築けたことに加え、WOWAPの活動が中央政府にも認められ、全国展開するプロジェクトを計画することになった。また、メディアからの注目度も上がった。フィルムや演劇は地域住民にとって非常に受け入れやすいことから、今後も重点的に利用していきたい。
地域では、子どもに対する暴力を禁止する法律についてあまり知られておらず、そうした法律を知らしめることも重要だと痛感した。地域でWOWAPと共に活動できるピア・エデュケーター(仲間の代表)やパラリーガルとなる人材を育成することも必要である。法律だけではなく、HIVエイズやジェンダーに基づく暴力について住民の理解度は低い。FGMに関しては、伝統的な信念がその廃絶を阻んでいる面もある。より多くの人々に向けて啓発活動を展開したいが、資金不足のためままならない。政府からの支援も限定的である。

地域住民からの提言
FGM廃絶を推し進めるために何が必要か、どのような対策が求められるか、プロジェクトに参加した地域の人々からは次のような意見が上がった。
・学校におけるFGM啓発に力を入れるべき。FGMが行われたら、それを生徒が通報することによって、自分や姉妹を守ることができる。
・学校に「反FGMクラブ」を作る。
・住民の中からピア・エデュケーターを育て、日常的にFGMについて目を光らせる。
・公共の場でフィルム上映会を開催し、多くの人々が参加できるようにする。
・FGM禁止法について住民に周知する。法律を守り、FGMが行われた場合には通報する義務について理解を促す。

最後に
シンギダ州では、ジェンダーに基づく暴力が頻繁に見られる。このような社会の中で、根強くFGMが続けられているのである。ムサンゲ区では主に5歳以下の幼児がFGMの対象になっているが、その傷は生涯にわたり残るものである。今回も限られた地域でしかプロジェクトを展開できなかったが、WOWAPはこの有害な慣習から女児を守るために今後も先頭に立ち、FGM廃絶キャンペーンを展開していくつもりである。現在最も必要なのは、十分な資金と地域で活動できる人材である。

*[The True Story of Ghati and Rhobi(日本語タイトル:ガティとロビのお話)]
反FGM団体であるイギリスのFORWARDとタンザニアのChildren’s Dignity Forum (CDF)が協同で制作した5分程度のアニメで、スワヒリ語版と英語版がある。FGMから逃れるために家出をした二人の少女が、伯母さんの力を借りて救出され、それがきっかけで村全体でFGMを止めるという実話に基づくアニメ。WAAFは日本語字幕を製作した(日本語字幕付きの映像はWAAFホームページ上で公開している)。 

―ニュースレター82号掲載―


反FGM基金プロジェクト報告


2018年度反FGM基金交付団体
ガーナCDI(Care Development Initiative)


「有害な伝統的慣習(FGM)による少女の学校教育中断を防止する」プロジェクト中間報告

今回のプロジェクトはアッパーイースト州ボク西郡のゼビラにおいて、CDIが初めて行うFGM廃絶に向けた啓発活動である。最初に開いた関係者会議、その一月後の女子生徒と家族を対象にした代替職業訓練について、以下に報告する。

関係者会議(2019年5月9日)
参加者は、保健専門家、議員、警察、NGO関係者、教育関係者、若者など30名。そのうち女性は12名(34~51歳)、男性は18名(45~56歳)だった。
最初にCDI会長のJane Yeribuがあいさつに立った。FGMが少女の健康にとってどれほど危険か、そのために学校を中途退学したり、家出をする少女がいることについて指摘した。家出をするのはFGMから逃れるだけでなく、FGMを受けた後で強制的に結婚させられるのを避けるためである。時には自分の父親よりも年上の男性との結婚を強いられるケースもある。家を出て都会に逃げた少女たちは、荷物運びの仕事をするが路上生活を余儀なくされ、その多くがレイプ被害にあうという。その対策として、いくつかの学校でサッカーや識字教育プログラムを導入した結果、女子生徒が高等学校に進学するようになったケースを高く評価したが、こうした対応だけではFGM廃絶には至らないとした。最後にWAAFに感謝の気持ちを述べて話を終えた。
CDIプログラムオフィサーのChilala Osmanもまた、WAAFの協力を得られた喜びとともに関係者には今回のプロジェクトを継続させるため真剣に取り組むよう訴えた。「少女たちは家庭や地域の未来を背負っており、宗教や階級にかかわらず全関係者は彼女たちが幸福に生きられる環境を整える責任がある」と締めくくった。

地域の伝統評議会に提案する以下の提言が満場一致で決められた。
・娘にFGMを強制する親がいたら警察に通報すること。
・学校において、女子生徒は男子生徒と同等の機会を与えられること。
・女子生徒が数日間登校しない場合、教師はその生徒の所在について確かめるべく家庭訪問をする必要がある。
・学校において、女子生徒が部活動に参加するよう促すこと。
・家庭において、親子が性について自由に話し合う必要がある。

会議終了後、上記の提言が確実に実行されるようガーナ教育委員会およびPTAを補佐するために、5名(男性3名、女性2名)から成る委員会が発足した。



関係者会議の参加者たち




プロジェクトについて知らせるポスター(右下に「スポンサー」としてWAAF – Japanとある)


女子生徒とその家族に向けた代替職業訓練(2019年6月11日)
結婚の条件となるFGMが、家族を経済的に支えている。FGMを受けた少女はその後結婚させられるが、その際に娘の家族には婚資として現金や家畜が与えられるからである。FGMに頼ることなく家計を支える方法について、さらにFGMが成人女性になるための必要な儀式ではないことを学ぶ機会としてこの訓練を実施した。
参加者たちは最初に、女性生殖器について主任保健師のBeatrice Atiyoreから講義を受けた。外性器の働きについて、図を用いた詳細な解説があった。FGMが施されていると、出産時には外陰部が伸縮しないため死産になる確率が高い。また、クリトリスは大切な性感帯であり、この部分が切除されていると性的喜びを得ることもできない。

講義を聴きながら何人かの女性参加者たちは、苦痛の表情を浮かべ静かに涙を流した。みんなFGMの犠牲者だ。そのうちの一人、Mariama Issahは、「結婚してからオーガズムを感じたことはなく、子ども3人を産んだがみな病院で帝王切開で出産した」と語った。地域で、ろう孔[フィスチュラ:腟と膀胱、腟と直腸の間に穴が開いてつながってしまう疾病]にかかった女性のほとんどは、その原因はFGMだという。郡保健局管理チームによる統計では、医療機関で出産する女性の26%がろう孔を患っている。Beatrice Atiyoreは憂慮すべき状況だと指摘した。

次に、マイクロファイナンス(小規模金融、少額融資)のコンサルタントによる代替職業に関する説明が行われた。パン作り、小商い、石けん作り、動物の飼育、ホロホロ鳥の飼育といった具体的な事業が提案され、基礎的な簿記の練習も実施された。NGOによるマイクロファイナンスの資金提供を視野に、少額資金の管理方法についての講義もあった。参加者は皆、娘たちを傷つける時代遅れの慣習に頼るよりも、自分たちの手で収入を得るほうがより多くの利益を得られると実感した。何人かの参加者は、「技能を身に着けて、将来的には事業を始めたい」と話した。実際に、事業を立て上げるための回転資金を援助してほしいと願い出た者も多かった。



代替職業訓練で話を聞く参加者




代替職業訓練に参加した少女(WAAFの名前が入ったシャツを着ている)






―ニュースレター83号掲載―


反FGM基金プロジェクト報告


2018年度反FGM基金交付団体
ガーナCDI(Care Development Initiative)


「有害な伝統的慣習(FGM)による少女の学校教育中断を防止する」プロジェクト最終報告

伝統的指導者に向けたワークショップ(2019年8月23日)
ボク西郡の集落に住む伝統的指導者21人および女性指導者(Magazias/queen mothers)19人が参加した。慣習にのっとり、まずは女性指導者たちが男性陣に敬意を表し、互いにあいさつを交わした。
開催にあたってCDI会長のJane Yeribuがあいさつに立ち、文化や伝統の守り人である伝統的指導者たちがこうしたワークショップに参加することは非常に重要であると述べた。その後、進行役となった厚生省のAtim Agampeが、女性生殖器の図解を用いながらFGMが女性と少女の健康に与える影響について説明した。

参加者たちはグループに分かれ、なぜ少女たちが教育を中断され、有害な伝統的慣習の犠牲になるのかについて自由に話し合った。ディスカッションの中心になった議題は、少女のモラルについてであった。ワークショップの最後に、家族の中で少女も平等な立場にあることを参加者たちに分かってもらった。彼女たちに教育の機会が与えられること、FGMを受けさせないこと、年の離れた男性に嫁がせないことについても理解を促した。
参加者たちは全員、定期的に行われる地域集会(durbar)でFGMをやめるよう人々に伝えることに賛同を表明した。この地域集会には、伝統的指導者や地域リーダーをはじめ、多くの住民が義務ではなく、自主的に参加する。その機会を利用して、情報を拡散することは非常に有効である。



Azuwera村にて伝統的指導者たちが集まったワークショップ


少女たちによるグループ討論(2019年12月15日)
16~20歳の高校生を含む若い女性たち10人が参加した。彼女たちはFGMを受けていないが、これから受ける可能性はある。
まず、自分たちの地域でFGMがどのように行われているのか、FGMをやめるために必要なことは何か、といった点についてディスカッションが行われた。現在の状況として、FGM廃絶に向けた取り組みはあるが、いまだにこの慣習は続けられていると指摘された。FGMを行う人々は、廃絶を求める声には耳を貸さず、トーゴとの国境付近で密かにこの慣習を続けているという。

かつて音楽や踊りが披露される中で公に行われたFGMの儀式はもう過去のもの、という指摘もあった。現在、少女たちは「親戚を訪ねる」といった口実で密かに連れ出され、FGMを受けさせられる。娘にFGMを受けさせたい親は、村や町から離れた自分たちの農場で隠れてFGMを行うよう切除者に依頼する実態も明らかになった。参加者たちからは、FGM実施者を処罰する厳しい対策が必要だという声が上がった。
FGMが続いている背景には社会的な圧力があり、そのために短期間でこの慣習を廃絶することは難しい点も承知しているという。参加者たちは、FGMは女性としての人生や教育の機会を壊すものであるとして、私たちCDIにどんなことをしてでもFGM実施者を捕まえる対策を取ってほしいと訴えた。

最後に、FGMを防ぐために以下の取り組みが提案された。
・FGM廃絶のメッセージを地域に浸透させるためにより多くの啓発活動が必要。
・切除者はFGMを生業にしているので、FGMをやめるためにシアバター生産、綿糸紡績、農業など、別の仕事を得て経済的に力をつけるべき。
・地域で演劇の上演を通して、FGMが子どもたち、家族、そして国全体に与える壊滅的な影響を伝える。
・ 性のあり方を自分で決めることができるよう、学校において男子生徒および女子生徒に向けたより多くの性教育が必要。
・情報を早く拡散するために、高齢者を含めすべての年代における仲間教育が必要。



少女たちによるグループ討論の様子


ワークショップに参加した指導者たちへの聞き取り(2019年12月20日)
指導者たち何人かに、FGMに関連する質問をした。まず、地域でFGMが行われる理由については、「FGMは祖先によって始まったもので、それを守ると約束して現在に至っている」「FGMを行うよう教えられてきたので、今も続けている」「我々の伝統であり、すべての少女は結婚準備のためにこれを受けなければならない」など、伝統を守るために続けているという回答が多かった。その一方で、「将来の夫が性行為をしやすいよう膣の通りをよくする方法だから」という意見もあった。
出産や女性の健康については、「自分の二人の娘は帝王切開で出産した」「地域では3人の女性が失禁に悩んでいる」といった問題が指摘された。結婚生活に影響を及ぼすケースもあり、「6人の女性が『臭い匂いがする』という理由で夫に追い出された」「最初の妻が『臭い』とわかると、別の女性と結婚した男性たちがいる」といった実情も明らかになった。膣からの匂いに関して、彼らの娘はその原因を知っているのかという問に対しては、「彼女たちは原因がわからないと言う」とのことだった。
最後に、今回の啓発ワークショップに参加した感想として、「これからは誰にもFGMを受けさせない」「FGMが少女や女性の健康にこれほど有害だとは知らなかった」「少女の親たちにはFGMではなく、学校に行かせて地域で役に立つ人間になるよう教育することを勧める」といった意見が出された。

―ニュースレター85号掲載―


反FGM基金プロジェクト報告


2018年度反FGM基金交付団体
タンザニアWOWAP(Women Wake Up)


「対話と演劇を通したFGM廃絶キャンペーン」プロジェクト報告

プロジェクト実施地域は、昨年、一昨年と同じくタンザニア中央に位置するシンギダ州シンギダ・ルーラル県(Singida rural district)のムサンゲ区(Msange ward)である。ムサンゲ区は面積136 km²で、4つの村(ムサンゲ、セフンガ、エンデシュ、マンギダ)から構成される。対象地域は、2016年のムサンゲ村、2017年のエンデシュ村に続き、今回はマンギダ村(Mangida)である。村の人口は3,116人。首都のドドマからムサンゲ区までは約300キロメートル離れている。当初はセフンガ村(Sefunga)での実施を予定していたが、現地で予期せぬ政治問題が発生し、行政当局からの勧めでマンギダ村に変更した。

2015~2016年の人口保健調査によると、タンザニア全体のFGM実施率(15~49歳女性)は10%だが、地域によってかなり差がある。州別で見ると高い順に、マニャラ州58%、ドドマ州47%、アルーシャ州41%、マラ州32%、シンギダ州31%となる。これらの州はそれぞれ隣り合っている。最近の傾向として、FGMを受ける年齢が下がってきており(1歳以下が全体の35%)、FGM禁止法があるため赤ん坊のうちに秘密裏に行われるケースが多くみられる。
プロジェクトは昨年と同じく、対象グループによる討論会、世代間対話集会、演劇を中心に実施した。昨年と特に違うのは、対象グループ討論会の参加者を地元の中学生女子および男子生徒に絞ったことである。生徒たちは演劇や詩の朗読にも積極的に関わった。

対象グループによる討論会(2019年6月14日)
参加者は、マダセンガ中学校生徒クラブのメンバー41名(男子16名、女子25名)である。このクラブは、校内でFGM廃絶キャンペーンを促進するために教師たちの協力を得てWOWAPが設立したものだ。まず、FGMが行われる背景について話し合われ、今後この問題により積極的に取り組むことが合意された。
マンギダ村に住む親たちは、FGMという時代遅れの慣習がどんなに危険なものなのかわかっていない。生徒たちもまた、児童保護や子どもの権利、自分たちの人生に与えるFGMの影響についての知識があまりないことが明らかになった。今回の討論会は、生徒たちに児童保護やFGMの危険性について理解を促し、啓発するいい機会となった。新たな知識を得て、生徒たちには自信がついたようだ。FGMについて親や学校、関係者に対して、今後どのようなアプローチをとるべきかについても理解が深まった。この生徒クラブの存在を通して、生徒たちの意識が変わることが大いに期待される。



WOWAPスタッフから討論会の説明を受ける参加者


演劇と詩の朗読(2019年11月20日)
90名ほどの住民(男性35名、女性55名)を集め、女性の演劇グループ“ンゴマ”とマダセンガ中学校の生徒たちによるパフォーマンスが上演された。マダセンガ中学校では、マンギダ村の人々にFGMについての情報を伝えるためのクラブが創設されている。今回はこのクラブのメンバーが詩を朗読した。どれもFGMについての啓発とその廃絶を訴える内容で、村の人々に向けて情報を広める上で非常に効果的だった。地域全体がFGMの影響や有害性を認識し、一丸となって廃絶に取り組む意欲を促すことになった。
シンギダ州の地域行政官もあいさつに立ち、行政も地域におけるFGM廃絶に取り組んでおり、それには住民の理解と参加が欠かせないと話した。そして、親や保護者として、少女や児童の尊厳を守る務めを果たしてほしいと訴えた。WOWAPスタッフからは、地域のどこかでFGMが行われていると察知したらすぐに警察や行政に知らせてほしいと呼びかけた。



女性演劇グループによる歌




マダセンガ中学校生徒による演劇




マダセンガ中学校生徒による詩の朗読


世代間対話集会(2019年11月21日)
行政官、宗教指導者、伝統的指導者、教師など総勢30名(男性19名、女性11名)が参加し、FGMが行われている背景やその影響、廃絶への取り組みなどについて話し合った。「主に伝統的指導者と母親たちがFGMを継続させているのではないか」「貧しい家庭環境もある。娘はFGMを受けていないと結婚できない。結婚できなければ、持参金が入らない。持参金で家計が潤うことを期待している親は、娘には何としてもFGMを受けさせたい」といった実情が指摘された。行政官たちは、FGMについて啓発するための市民集会に地域の人々を招くことを約束した。



世代間対話集会の様子


プロジェクト成果と課題
成果として挙げられる点はまず、行政官や意思決定者たちによるFGM廃絶への取り組みがムサンゲ区全体で増えたことである。FGM廃絶に関わる利害関係者がFGMについての知識を増やし、WOWAPと行政スタッフとの信頼関係や協力体制も強化された。学校においては生徒クラブを通して、FGMについての啓発が他の生徒たちに今後浸透することが期待される。FGM廃絶のメッセージを歌や演劇で伝ようと奮闘した生徒たちの熱意には感動した。すべてのプログラムを通して、地域住民が積極的に参加したことはありがたかった。

今回はあらためて、行政スタッフと協力することで、プロジェクトが効果的に実施できることが確認できた。歌や演劇などを用いたFGM廃絶キャンペーンは非常に有用であることも再確認した。子どもたちがFGMの危険性について十分に理解していれば、自分も友達の身も守ることができる。法を守る善良な市民という自覚を持つうえで、FGMに関する法律の知識も非常に重要である。また、今後は廃絶キャンペーンの告知をするうえで、Tシャツ、ポスター、チラシが役に立つのではと思われた。

一方、課題も多く残った。切除者に関しては、貧しい中でFGMに代わる収入源がない彼女たちをFGM廃絶キャンペーンに巻き込むのは難しいと実感した。地域の女性たちはFGMのことを公にしてはいけないと教え込まれているので、FGMが行われていてもほとんどの場合は通報されない。予算面で制限があるため、こうした人々への啓発キャンペーンがなかなか進まない。また、奥地のプロジェクト実施地域に出向く交通手段が少なく、スタッフの移動にも苦労した。さらに今回は、プロジェクト実施期間中に地方選挙が行われたため、行政官など政府関係者の参加が難しくなり、当初の日程が大幅に遅れた。



「WAAFの支援による活動」と伝える地元紙


地域住民からの提言
FGM廃絶に向けて今後どのような対策が必要か、参加した地域の人々から以下の提言があった。
・反FGM活動に携わる生徒たちには、他の生徒たちに情報を伝えるうえで役に立つ教材やリーフレットなどを提供する。
・シンギダ州の全学校に生徒クラブを設立する。
・同様のプロジェクトを他の地域でも実施する。
・「女性と子どもに対する暴力を廃絶する国家行動計画」の委員会メンバーたちは、FGMのような暴力から女性と子どもを守るうえでの知識が不足している。メンバーたちがその役割を十分果たせるよう訓練する必要がある。
・FGMに関連する法律や法に基づく適切な手続きについて地域住民の知識を高める。

最後に
FGMやジェンダーに基づく暴力を禁止する特定の法律が施行されることを目指して、WOWAPは今後も関連機関と協力しながら活動を続けていくつもりである。一番の問題は、プロジェクト実施地域が奥地に分散しているにもかかわらず、自分たちの車がないため移動が困難なことである。FGMはシンギダ州全土で広く行われており、同様のキャンペーンを展開するためにパートナー団体にはさらなる資金援助をお願いしたい。

―ニュースレター85号掲載―


反FGM基金プロジェクト報告


2019年度反FGM基金交付団体
IACシエラレオネ国内委員会(IACSL)


「カンビア(Kambia)における有害な伝統的慣習の廃止」プロジェクト中間報告

このプロジェクトでは対象者別に4回のワークショップを行う予定だが、そのうちの1回が6月に終了した。以下にその報告をまとめる。

2020年6月10日、カンビア地区において主に切除者や儀式に関わる人々を対象にワークショップを開催した。女性35名(25~45歳)、男性15名(30~50歳)の合計50名が、マグバマ、ソンコリンバ、ククナの3地域から参加した。
午前11時にキリスト教とイスラム教の祈りで始まり、続いて参加者とIACSL代表が自己紹介した。ワークショップでは2つのトピック、「子どもの権利」と「文化と伝統」を取り上げた。これら2つを選んだのは、主にFGMの儀式を執り行う人々に正しい情報を伝えたかったからである。FGMやその他の有害な伝統的慣習がいかに女性や少女に悪影響を及ぼすのか、参加者に十分理解してもらうことを主眼に置いた。

子どもの権利-「2007子どもの権利法」におけるFGM
第一部では、社会福祉・ジェンダー・子ども省のAlice Banguraが、シエラレオネにおける18歳未満の少女を保護する法的枠組みについて話をした。「2007子どもの権利法」では、FGMという言葉は使われていないが、「女性器のあらゆる部分の切除」と定義されている。そして、子どもの心身に重大な害をもたらす文化的慣習をはじめとする拷問や虐待の禁止が明記されている。18歳未満の少女にFGMの儀式を行うのは、「2007子どもの権利法」に背くれっきとした犯罪である、と強調された。
Banguraはまた、少女たちをFGMから守るために、切除者を監視する仕組みに着手する予定だと話した。地方議会と協力して、「2007子どもの権利法」が順守されるよう努めるという。最後に、「少女たちは将来の地域リーダーとなる存在で、その人権を大切に守る必要があります。幼いころに人権が侵害される経験をすれば、人生の長きにわたり負の影響を受けるからです」と締めくくった。
休憩を挟んで第二部では、参加者が2つのグループに分かれ、35分ほどグループ討論を行った。その後、質疑応答の時間となった。参加者からは、「未成年者がFGMを望んだら親はどうすればいいのか」「18歳以上の女性がFGMの儀式を拒絶した場合はどうなるのか」といった質問が出された。Banguraは、どのような法律もFGMを禁止しており、未成年者の場合は法律を破れば親の責任になると答えた。また、成人女性の場合は、自分の意思が尊重される権利があり、誰もその権利を侵害することはできないと話した。

文化と伝統
ここでは、IACシエラレオネのAlfred Daviesが進行を務めた。まず、「文化、伝統とは何か」と、参加者に質問を投げかけた。さまざまな回答が出されたが、FGMを擁護する声も多かった。教員養成大学3年の女子学生は、「伝統は世代を超えて受け継がれる信念や行動様式で、文化とはある時期ある社会における特性」と答えた。さらに「文化と伝統にはどのようなものがあるか」という問いには参加者から、民族衣装、食べ物、踊り、FGMという回答が挙げられた。Daviesは、若年婚をそれらに加えた。ここで昼食休憩となった。
再開後、「なぜFGMを行うのか」と参加者に問うと、「伝統を重んじるため」「女性の道徳心を保つため」「処女を守るため」「女性を清潔にするため」「女性をおとなしくさせるため」「宗教的義務」「女性が結婚しやすいように」といった回答があった。
さらに、悪い文化や伝統について聞くと、参加者からは「双子や大頭の子どもを捨てる行為」がまず挙げられた。これは、30年ほど前まで見られた風習で、こうした子どもは悪魔とみなされていたのだった。「FGM」が挙げられると、激しい論戦となった。しばらくの議論の後、FGMが悪い文化だと考えるかと問うと、驚いたことに半数ほどの参加者から手が上がった。そこで、FGM賛成派と反対派に参加者を分けて、グループ討論を行い、その後各グループの代表がそれぞれの主張を発表することにした。

FGM賛成派の意見
このグループの代表は、地元の市場で婦人会会長を務めるIsmatu Kamaraである。婦人会会長は市場で働く女性たちのトップで、仕事だけでなく冠婚葬祭など生活全般を取り仕切っている。発表されたのは以下の意見である。
1)FGMは我々の文化・伝統で、先祖代々続けてきたものなので、捨て去ることはできない。
2)FGMを執り行う際には、男性の干渉なしに女性同士が交流し、意思決定ができる貴重な機会である。
3)FGMは女性に尊厳を与えるもので、成人儀礼として欠かせない。
4)少女や若い女性の乱交を防ぐことができる。
5)FGMを行わないと神様の罰が当たる。



メインホールに集まった参加者


FGM反対派の意見
反対派を代表したのはカンビア公立病院に勤める看護師のIsatu Dumbuyaで、以下の意見を述べた。 
1)FGMの儀式にはお金がかかる。文化や伝統だからと貧しい中から金銭や食物を提供するのは、資源の無駄である。特に食うや食わずの生活(未亡人やシングルマザーを含む)の中で、文化の名のもとにFGMを行うのは意味がない。
2)FGMは文化や伝統の名のもとに女性の人権が踏みにじられる行為で、生涯続く痛みを伴う拷問だ。
3)FGMを受ける多くの少女は処女ではなく、避妊具も簡単に手に入るので、「処女を守る」意味はない。
4)本来の成人儀礼は、何年もかけて大人の女性になるために少女たちを教育するものだが、今ではFGM、お金、踊り、音楽などお祭り騒ぎばかりに関心が寄せられている。



別室で行われたグループ討論


ワークショップ終了前には、主にFGM反対派の参加者から私たちに次の提言があった。
・こうしたワークショップに若者をもっと参加させるべき。
・FGM廃絶運動には男性が加わる必要がある。男性は文化・伝統の守り手であり、地域における意思決定者であり、絶対的な権力を持つ。FGMの儀式を行う際にも男性の許可がいる。
・FGM廃絶運動を盛り上げるには、地域住民全員の参加が必要だが、その参加を促す努力が足りない。
・FGMを廃絶したいのであれば、FGM施術を止めると決意した切除者たちに対して、代わりの仕事を始める資金や農作物を育てるための道具や肥料などを提供するべき。
・こうしたワークショップを地域レベルで毎月実施したら、より成果が上がる。

最後に参加者を代表して、地域の若者代表も務めるIsatu Dumbuyaが感謝の言葉を述べた。

[コロナ感染を防ぐために、参加者には手洗いの奨励とホール入り口でのアルコール消毒を実施した。しかし、ほとんどの参加者(特に若者と男性)は「エボラ出血熱(2014~15年)のような多くの感染者が見当たらず、海外旅行もしていないので心配ない」として、マスクも着用していなかった。]

―ニュースレター86号掲載―


反FGM基金プロジェクト報告


2019年度反FGM基金交付団体
IACシエラレオネ国内委員会(IACSL)


「カンビア(Kambia)における有害な伝統的慣習の廃止」プロジェクト最終報告

対象者や内容を異にした4回のワークショップのうち、切除者や儀式に関わる人々向けのものはすでに昨年6月に終了している(NL86号に掲載)。残り3回についてここに報告する。

宗教指導者を中心にしたワークショップ(2020年9月7日)
国内では主にイスラム教とキリスト教が信仰されているが、北部州のカンビア地区においてはイスラム教徒が圧倒的に多い。両宗教ともそれぞれの教徒に対して、FGMを止めるよう説くことがあり、宗教指導者への信頼は厚い。このワークショップの目的は、地域の代表者が正しい知識を身につけ、FGMやその他の有害な慣習についてより多くの人々に啓発できるよう訓練することである。
参加者は25歳から40歳の男女30名(男性14名、女性16名)で、イスラム教徒が14名、キリスト教徒が16名だった。地域の代表者として、学校長、教師、市場で働く女性の代表、オートバイ運転手の代表、地域の長などさまざまな人々が集まった。まずイスラム教、キリスト教それぞれの専門家が講義を行った。

イスラム教指導者のOsman Kamaraは、FGMを真っ向から否定し、聖なるコーランはこの慣習を禁止していると主張した。また、シエラレオネではイスラム教徒とキリスト教徒が共存しているだけでなく、異教徒間の結婚も問題ないと付け加えた。イスラム教ではFGMが正当化される場合があることも指摘された。確かに男子割礼はスンナ(預言者ムハンマドの教えと行為)とされるが、FGMも同様と考える根拠はない。男性の割礼が間違って女性にも適用されてしまっているのだ。コーランにはFGMを示唆する節は一つもなく、反対にこの慣習を非難する節が多く見られるという。FGMは女児に肉体的危害を与え、身体の完全性を侵害するもので、イスラム法およびイスラム教は男児の割礼のみを認めている。
続けて、キリスト教と聖書の教義について宗教教育学を教える大学教員のAndrew Samuelsが講義を行った。FGMはキリスト教とは関係がなく、聖書にも記載はない。ユダヤ教では男子割礼は認めるものの、FGMは許されておらず、旧約聖書もFGMには言及していないという。Samuelsによれば、伝統的指導者たちは地域の文化や伝統的な信念に基づいてFGMを続けており、FGMの儀式を行うことによって長年にわたり報酬を得ている。さらに、FGMが行われている背景については、家族の名誉を守るため、貞淑な妻になるため、女性器を清めるためといった点を挙げた。宗教、特にイスラム教がFGMと結びつけられていることは大きな間違いであり、宗教指導者はFGMと宗教を切り離すという大事な役割を担っていると強調した。FGMがもたらす身体的精神的な悪影響についても言及があった。

質疑応答の後で、参加者たちから以下の提言が出された。
・イスラム教とキリスト教がネットワークを作り、それぞれの宗教で指導者がFGM廃絶に向けて人々を説得し、必要に応じて知識や情報を共有できるようにする。
・今回のようなワークショップを少なくとも年に4回、カンビア地区の全地域で開催する。
・地元の権力者にも参加してもらいたい。こうした人々もイスラム教徒かキリスト教徒であり、また伝統を守る担い手であるから。



イスラム教徒の参加者たち




キリスト教徒の参加者たち


女性の権利に関する市民教育ワークショップ(2021年3月1日)
多くの女性や少女が自分たちの権利を侵害されている。市民としての権利や民主的権利についての知識がないために、暴力を受けたり、病気にかかり苦しむ女性たちがいる。このワークショップでは、21~30歳の若者30名(女性12名、男性18名)を対象にした。FGMは人権侵害であることを男女問わず理解し、また特にこの男性優位社会では男性の意識を変えることが重要である。参加者が正しい知識を身につけ、それぞれの地域で社会に変化をもたらすリーダーになることが今回の目的である。
まず、参加者はグループに分かれて「政府の役割」「政府機関」「国民の責務」「民主主義国家における選挙」「民主主義の原則」「法制度」「国会とその機能」「大統領とその権限」「警察、軍隊、刑務所の責務」といったトピックについて話し合った。その結果、自分たちの生活に直結している政府の役割や法制度についてさらに知りたいと関心を深めたようだった。次に、比較的新しい分野である市民教育について、その道の専門家であるJohn Williamsが講義を行った。

市民教育は「投票者教育」と言われることもあり、政治的リテラシー、人権教育、民主主義、平和教育、開発教育といったさまざまな内容を併せ持つ分野である。今回は女性の権利がテーマであることから、講義の中心は人権教育だった。シエラレオネの女性たちはどのような人権問題に直面しているのか。社会的差別、ジェンダーに基づく差別、性的指向に基づく差別、FGMなどが挙げられるが、特に農村部や地方に暮らす女性たちは人権侵害や虐待の被害にあいやすい。
法の下においても女性は平等に扱われるわけではない。慣習法、民法、刑法を問わず、特に結婚や相続に関して女性が差別される場合がある。女性が公正な裁判を受けることは法律で定められているが、裁判長が女性にとって正義に反する判決を下すことがある。例えば、裁判長が法律を都合よく捻じ曲げ、夫側と共謀して、妻と子どもに家から出ていくように命じたり、あるいは夫が勝手に妻を拘束することを認めるといった事態も見られる。
このような恣意的な判決が下されても、知識がないために女性はそれを黙って受け入れる。女性たちは長い間、自分の権利が踏みにじられ、家族の中でないがしろにされてきた。加害者は罰も受けず、好き勝手なことができる。地域においても女性が主導的立場に付くことはなく、常に「主婦」としか見られない。女性は正しい知識を得て、将来的には地域だけでなく、国の中でリーダーシップを発揮し、自分たちの権利について政府に訴える必要がある。最後に「わたしの民は知識がないために滅びる」という聖書の言葉が紹介され、講義は終了した。



グループディスカッション


市民ジャーナリスト育成ワークショップ(2021年3月8日)
カンビア地区にあるソンコリンバ、マグバマ、カンビアタウンの3地域から地元のボランティア記者やボランティア希望の若者を集め、優れた「市民ジャーナリスト」を育成するワークショップを開いた。同地域においては初めての試みで、講義の中心はFGMの弊害についての知識およびFGMをめぐる報道についてであった。20人ほどの男女が集まり、講師はともに地元のラジオ局の幹部であるRachel DumbuyaとMoses Amaraが務めた。開催の目的は以下である。
・ボランティア記者に地域の反FGM啓発における報道の役割について指導する。
・ 市民ジャーナリストをFGMやジェンダーに基づく暴力、有害な伝統的慣習に関する信頼できる情報源として活用し、より説得力をもった地元発信の記事を書けるよう訓練する。
・FGMに関する正しい情報を広めるため、適切な技能を身につけた市民ジャーナリストを育成する。
・FGMについての情報が地域によって偏らないよう、一般の報道機関と市民ジャーナリストが情報を共有し、協力することを学ぶ。

まず、「市民ジャーナリズムとは何か」について講師が説明した。市民ジャーナリズムは「ネットワークジャーナリズム」とも呼ばれ、一般の報道機関に向けては内部告発者として情報を提供する。地元の言葉を理解し、通常ではメディアに届かない声を届けることができるのが強みである。市民ジャーナリストは、Eメール、写真、音声録音を巧みに活用し、情報を収集する。こうした方法で、例えば虐待が行われていればその情報を集め、証拠を提示することが可能になる。FGMや女性に対する虐待を察知したら、証拠を示して通報することで、政府にいち早く適切な対応を取らせることもできる。
市民ジャーナリストの倫理的責任については、一般の報道機関と全く同じであることが強調された。具体的には、真実を偏見なく伝える、自分勝手な解釈をせず市民ジャーナリストと言えどもプロ意識を持つ、取材相手の同意を得る(子どもであれば親の同意が必要)といった点が挙げられた。こういった知識がないと、スマホで同意も得ずに被害者の写真や動画を撮るといった勝手な振る舞いがいかに危険であるか理解できない。

その後、参加者はグループに分かれ、「ジェンダーに基づく暴力の被害にあった女性を取材する」という想定でディスカッションを行った。正しい情報を得るために、取材対象者にはどのような質問をすればいいのか。最も基本的な質問は、「いつ」「どこで」「誰が」「なぜ」といったものだが、「なぜ」については注意が必要だという意見が出された。それは被害者を追い詰め、非難するように聞こえるからだ。結論として、取材に際してはまずは被害者の心情を優先する、取材目標に合致した質問を考える、易しい明瞭な英語で話す、といった点が挙げられた。
最後に参加者たちから感謝の言葉が述べられた。ラジオKolentenのボランティア記者Mohamed Banguraは、こうした訓練は今までに受けたことがなく、自分のキャリアにとってまたとない機会で素晴らしい経験となったと話した。ラジオCatbamiでボランティアをしているMariatuは、女性や少女に関する取材については過去に多くの失敗をしていたので、今回のワークショップでは大いに学ぶことができたという。他の参加者からも「FGMや女性の問題について地域に貢献できる力が付いた」「年に3回はこうしたワークショップを開いてほしい」といった声が聞かれた。



参加者の様子


成果と課題
最後のワークショップが終わった2週間後カンビア地区を再訪して、4名の参加者(男女各2名)に話を聞いたところ、以下の感想や提言が得られた。
・大変勉強になり、参加できたことに感謝している。
・ワークショップで学んだことを生かし、地域でFGMや女性に対する暴力をなくすための自警団が組織された。
・「女性の権利に関する市民教育」には本当に目が開かれた(女性参加者)。
・ワークショップ参加者を増やし、得た知識や情報が地域全体により拡散できればいい。
・FGMを止めた切除者には別の生活手段が必要だ。
・こうした訓練ワークショップを年に複数回実施してほしい。

新型コロナウィルス感染症拡大により、政府は大規模な集会を禁止した。そのため、プロジェクト実施に関して、地域の有力者から協力を得ることが難しかった。また、WAAF以外の支援団体から供与される予定だった資金がコロナ対策に回されたため獲得できず、プロジェクト規模を縮小せざるを得なかった。当初はワークショップ参加者を各50名予定していたが、今回報告したワークショップでは全て参加人数を減らさなければならなかった。

―ニュースレター88号掲載―


反FGM基金プロジェクト報告


2019年度反FGM基金交付団体
エチオピアODWaCE(Organization for the Development of Women and Children-Ethiopia)


「イルガアレムの中学・高校生に向けた反FGM啓発」プロジェクト報告

今回の啓発プロジェクトは2020年4月から9月にかけて実施する予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大により2020年4月には緊急事態宣言が出され、小中学校、高校、大学は同年12月まで休校となった。そのため開始を遅らせ、2021年2月から7月に実施期間を設定しなおした。実施地域は首都アディスアベバから南に400キロ離れたシダマ州イルガアレム(Yirgalem)で、現地にはスタッフ1名が在住し、プロジェクトのコーディネーターを務めた。
まず、必要な手続きとしてイルガアレム郡政府の財政局、女性・子ども・青年局、教育局の各局にプロジェクト実施の許可を申請し、審査が通った後に合意書を取り交わした。財政局は予算の妥当性を審査し、女性・子ども・青年局は内容を吟味し、必要に応じて支援すると申し出た。教育局は対象となる二校(ともに公立のイルガアレム高校およびラスデスタ中学校)に推薦状を送り、プロジェクトが円滑に進むよう取り計らってくれた。

最初の1か月は政府各局との取り決めや学校とのやり取りに費やされ、実際に開始したのは2か月目以降となった。対象は各学校の生徒(10歳から18歳の男女)および教師である。授業が行われない週末に各学校で啓発ワークショップを開き、FGM実施率、FGMを行う理由や誤った通説、FGMが少女の健康や精神に与える影響、FGMに関する法律について取り上げた。講師は地域の文化を熟知した、経験豊富な公衆衛生の専門家二人が担当した。
ワークショップは合計11回、以下の日程で開催した。
・2021年3月21日:イルガアレム高校にて午前は教師向け、午後は生徒向け
・2021年3月22日:ラスデスタ中学校にて午前と午後に生徒向け
・2021年6月5日:イルガアレム高校にて午前と午後に生徒向け
・2021年6月6日:イルガアレム高校にて午前に生徒向け
・2021年7月17日:ラスデスタ中学校にて午前と午後に生徒向け
・2021年7月18日:ラスデスタ中学校にて午前と午後に生徒向け

イルガアレム高校からは教師15名(男性13名、女性2名)、生徒161名(男子35名、女子126名)が、ラスデスタ中学校からは教師14名(男性10名、女性4名)、生徒165名(男子51名、女子114名)が参加した。二校合わせて教師は29名、生徒は326名で、参加者の合計は355名だった。
初日にイルガアレム高校の講堂で開いた教師向けのワークショップには、両校から教師が集まった。イルガアレム郡財政局の職員がまずあいさつに立ち、「多くの対策が取られているが、地域におけるFGM実施率はいまだに高い。今回は教師と生徒に的を絞るという新たな試みで、教師は少女をFGMから守り、生徒の意識を高めるという重要な役割が課せられている。このプロジェクトを通して、少女たちが自分の意志に反するFGMをしっかりと拒否できるようになることを望む。行政として最後まで見守りたい」と述べた。



財政局職員によるあいさつ


その後、ODWaCE事務局長がWAAFの支援について言及し、現地のプロジェクトコーディネーターがプロジェクトの目標や有効性について説明した。講師によるFGMに関する一通りの講義、それに続く質疑応答の後、参加者は学校ごとに2グループに分かれ「行動計画」を作成し代表者がそれを発表した。



グループに分かれて「行動計画」を作成




グループに分かれて「行動計画」を作成


生徒向けのワークショップの内容は教師向けのものと同じだが、より簡単な言葉を使い、わかりやすく、あまり刺激的でないよう心掛けた。また、理解を深めるために質疑応答の時間を増やした。その結果、生徒のFGMについての知識はかなり増えた。



生徒向けワークショップの様子




生徒向けワークショップの様子


7月に全ワークショップが終了した後、あらためて参加者の代表、イルガアレム郡女性・子ども・青年局および教育局の政府職員を招き、今回のプロジェクトを振り返る検討会を開いた。ここでは、まず女性・子ども・青年局職員が招待への感謝を述べ、「実際に女子生徒がFGMの犠牲になっている中で、学校でこうしたワークショップが開かれることは意義深い。FGMは地域全体の問題でもあるので、今後はさらに一丸となってFGMをはじめとする有害な伝統的慣習の廃止に取り組む必要がある」と話した。
検討会に参加した教師は19名(男性14名、女性5名)、生徒は4名(男子3名、女子1名)だった。男子生徒の一人は「以前はFGMについて何も知らなかった。ワークショップに参加して初めて、FGMが少女の生涯に与える影響がわかった。今回自分が得た知識を友人や母親にも伝えた」と話した。また、生物を教える女性教師は、ワークショップ受講後生徒にFGMについて教えており、さらに毎週の部活動でより多くの生徒に向けてFGMについての情報を広めているという。

検討会を通じて、今回のプロジェクトがFGM廃絶に向けた教師と生徒の理解を促すうえで非常に有効であったことがわかった。教師たちにとって今回の体験は警鐘となり、今後も生徒に対する反FGM教育に力を注ぐことが期待される。行政を巻き込むことができたのもよかった。しかし、期間が短いため、全校生徒に向けてワークショップを行うことはできなかった。その他明らかになった課題を以下に挙げる。
・多くの参加者が参加する見返りに日当を期待した。
・予算が足りなかった。
・新型コロナウィルス禍におけるインフレが予算不足に拍車をかけた。
・講師が足りなかった。
・多くの生徒たちがマスクをしていなかった。
日当に関しては、検討会では参加した生徒にノートと問題集を配布した。マスクの着用については、新型コロナウィルス感染症の危険と対策について話をし、参加者全員に関連情報をまとめたパンフレットを配った。

検討会では今後に向けた以下の提言も得られた。
・NGOだけでなく行政を巻き込み、ともにプロジェクトに携わることが重要である。それによって互いの能力を生かし、当事者意識が高まる。資金や人材も有効に使える。
・校内放送やクラブ活動を通して、FGMに関する知識をより多くの生徒に広める。校内放送は主に生徒が担当している。放送時間は毎日の昼食時、休み時間、授業開始前と決まっており、さまざまな情報やお知らせ、音楽などを流している。これを利用する。
・今回のようなワークショップを各地域で開催する。FGMは地域に根付いた慣習なので、草の根活動を通じて地域の人々に直接働きかける必要がある。
・今回のプロジェクト期間は6カ月だったが、これでは短かすぎて両校の生徒全員に十分情報が行き渡ったとは言えない。期間を延ばし、さらに次回は私立学校の生徒も対象にするほうがいい。
・行政、教師、生徒、地域住民、宗教指導者、長老といった各方面の人々から構成される「反FGM委員会」を組織する。

プロジェクト終了後、ODWaCEの現地プロジェクトコーディネーターは、定期的にモニタリングを行っている。毎月両校を訪れ、教師たちと会合を持ち、報告書を作成している。また、ワークショップの効果を把握する目的で、参加した生徒に向けて質問票を配り、回答を集めた。「FGMとは何か」「少女に与える影響」「どのように廃止するか」といった質問に対し、生徒たちは「FGMは有害な慣習であり、少女の人生にさまざまな悪影響を与える」と全員が回答した。「ワークショップに参加できなかった他の生徒や友達、家族にFGMについて伝える」と書いた生徒も多かった。「少女たちがFGMにノーと言えるよう全生徒に向けてプロジェクトを実施してほしい」という意見もかなり見られた。



ラスデスタ中学校の校舎


―ニュースレター89号掲載―

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