反FGM基金 (4/6)

反FGM基金プロジェクト報告


2013年度反FGM基金交付団体
リベリアWOSI(Women Solidarity, Inc)


「農村地域における反FGM・リプロダクティブヘルス・HIV/AIDS教育」

プロジェクトの柱は、モンセラード郡トディ地区の地域住民に対しFGMの弊害について啓発することである。
FGMは、HIV/AIDS(エイズ)のまん延や女性・少女のリプロダクティブヘルスに深く関わる。トディ地区に住む民族は、主にクペレで、その他バッサも少数いるが、ともにFGMの慣習がある。プロジェクトは、2014年1月に開始し、6月に終了した。

まず、利害関係者(地域代表者、宗教指導者、専門家、女性、若者など)を集めたワークショップを2回開いた。女性の健康、人権、文化慣習の分野における専門家を招き、FGMと関連する問題について基本的な情報を参加者に伝えた。グループディスカッションも行い、「FGMを終わらせるために必要な戦略」「HIV/AIDSの感染を防ぐ方法」「女性の性と生殖に関する健康と権利を尊重するには」といった事柄について討論した。
その後、14人から成る「反FGM推進委員会」が2つ組織され、啓発活動を続けていけるよう訓練が行われた。啓発資料も作成、配布した。実際に活動に参加したのは84人(女性54人、男性30人)だったが、間接的には少なくとも3000人の住民が恩恵を受けた。

~プロジェクト実施準備~
2014年1月20日
モンロビアのWOSI事務所にて準備ミーティングを開き、プロジェクト内容や計画の実施について確認。プロジェクトマネージャー、地域のまとめ役、会計補佐の3人から成るプロジェクト運営チームを作った。

2014年1月28~30日
プロジェクトマネージャーと地域のまとめ役が、トディ地区にある2か所のプロジェクト実施地域(トディ村およびカルト村)を訪問し、地元のリーダー、女性と若者のリーダーたちと面会した。最後に、プロジェクトで中心的な役割を果たす人物を選抜し、参加者の動員や啓発メッセージについても取りまとめ、プロジェクト実施の最終準備が整った。この準備段階において啓発資料となる冊子、ポスター、バナー、Tシャツを制作し、後日これらを配布した。(写真は「私のからだ、私の権利」と書かれたFGM廃絶を訴えるポスター)





~ワークショップ(2014年2月15日・27日)~
利害関係者を集めたワークショップを2か所で開催した。ワークショップのテーマは、FGMの弊害、HIV/AIDSや女性・少女のリプロダクティブヘルスとの関連について。トディにある5つの地域から、合計70人(女性40人、男性30人)の参加があった。リベリア全国伝統協議会、内務省、厚生省からもそれぞれ代表が参加した。各ワークショップでの進行役は、厚生省および独立人権委員会の経験豊富な専門家が担当した。ディスカッションは2つのテーマについて行われた。ひとつ目は「FGMが女性と少女に与える影響について」。進行役は厚生省の「若者の性と生殖に関する健康教育」調整官(女性)で、FGMがもたらす様々な影響やそれがHIV/AIDSを拡大させる可能性について話をした。
また、FGMが引き起こす痛み、出血、ショック、感染症、敗血症、排尿障害、妊産婦死亡、不妊などについての説明も加えた。そのうえで参加者に対し、こうした弊害について真剣に考えるよう、そして少女たちにはFGMを受けさせないようにと訴えた。ふたつ目のテーマは、「FGMをはじめとする有害な伝統的慣習が女児の発達にもたらす人権問題」で、独立人権委員会の人権監視官(男性)が進行を務めた。
「子どもの権利に関する条約」「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」「女性の権利に関するアフリカ連合議定書」といった条約、さらにはリベリア憲法の条文について解説した。強制的な成人儀礼、若年強制結婚、教育を受けさせないこと、拷問、差別といった事柄が、FGMによる人権侵害にあたると指摘した。それぞれのディスカッション終了後には質疑応答があり、参加者の理解がより深まった。その後、参加者は小さなグループに分かれ、ワークショップで学んだことを確認し、それを自分たちの地域でどのように広めてFGM廃絶キャンペーンを進めていくのかについて話し合った。
(写真は、FGM廃絶のスローガンが書かれたTシャツを着てワークショップに参加した女性たち)





~「反FGM推進委員会」訓練(2014年6月下旬)~
2日間にわたり「反FGM推進委員会」メンバーの訓練を行った。メンバーは、先のワークショップ参加者から選ばれた。訓練を担当したのは保健および人権分野の専門家で、参加者は効果的な啓発活動について学ぶことができた。まず、リベリア国連ミッションの人権オフィサー(女性)が、FGMのようなデリケートな人権問題について議論を行う場合の有効な戦略を参加者に教えた。
劇や対話を通して問題を伝える、といった具体的な方法も挙げられた。次に、厚生省の地区保健担当官(男性)が、FGMがもたらす短期的長期的な健康上の問題について講義した。また、文化的慣習としてのFGMが引き起こす健康問題について、いかに住民に効果的に話をするかといった点にも触れた。最後に、参加者がチーム分けされ、男女のメンバーから成る2つの「反FGM推進委員会」が結成された。

~プロジェクトの成果~
ワークショップには70人もの参加があり、また2つの「反FGM推進委員会」を組織することができた。これによって、FGMについて公に討論できるようになり、廃絶を求める人々の増加が期待できる。ある地域では、「反FGM推進委員会」主催の集会に参加者を動員するのに、村長とともに秘密結社“サンデ・ソサエティ”の切除者も協力した。集会にはサンデ・ソサエティのメンバーでない参加者もおり、これはプロジェクト実施前には考えられないことだった。[注:FGMは主にサンデ・ソサエティにおいて行われる。]
さらに、トディ地区では、FGMに対する人々の考え方や態度が徐々に変わりつつあり、FGMの犠牲者が減少しつつある。例えば、FGMを受けていない女性や少女に対する差別が減り、仲間外れにされることなく暮せるようになってきている。また、少女がFGMを強制的に受けさせられるのを恐れて、家から逃げ出すこともなくなった。(写真は、ワークショップについて知らせるバナー)




~ワークショップ参加者からの提案~
・FGMの弊害についての啓発活動を引き続き行う。
・切除者に対し、FGM施術以外の技能を訓練する機会を提供する。
・サンデ・ソサエティのあり方を変えるべき。FGMを止めて、別の良い伝統を尊重することに力を入れるようにする。
・政府は、女性と子どもに有害な慣習を止めるよう真剣に取り組む必要がある。

~プロジェクト実施における問題点と今後の展望~
リベリアではFGMはタブー視され、公に話すことができない風潮にあったので、特に昔気質の住民をプロジェクトに参加させるのは難しく、想像以上に時間と労力がかかった。「反FGM推進委員会」を作るにあたっては、具体的な計画がスムーズに運ばず、また参加への動機づけと報酬が不十分で、軌道に乗るまで大変だった。さらに、交通料金の急騰に加えて、劣悪な道路状況がスタッフの移動を困難にさせ、プロジェクト実施スケジュールに大きく影響した。今後は、トディ地区にある他の地域でも反FGMの啓発と教育活動を実施していきたいと考えている。特に学校内外で若者、少女や切除者に対してのプロジェクトに力を入れたいと計画しているところである。

―ニュースレター69号掲載記事より抜粋―




反FGM基金プロジェクト報告


2014年度反FGM基金交付団体
リベリアWOSI(Women Solidarity, Inc)


「地域コミュニティにおけるFGM廃絶」

プロジェクトの目標は前回(2013年度反FGM基金)と同様、モンセラード郡トディ地区(Todee District)において、地域住民にFGMの弊害について啓発し、その廃絶を促すことである。トディ地区はFGMが広く行われている地域の一つで、実施率は60%、タイプ2のFGMが主流である。この地に暮らす主な民族は、クペレ(Kpelle)とバッサ(Bassa)で、ともにFGMを伝統として受け継いでいる。今回のプロジェクト対象地域は、トディ地区の3つのコミュニティである。特に力を入れたのは、若者(主に少女)と切除者を対象にした対話集会やセミナーで、直接的には若者と切除者をはじめ68名の利害関係者が、間接的には2000名の地域住民が恩恵を受けた。

~プロジェクト実施準備(2015年1月22日・23日)~
モンロビアのWOSI事務所で準備ミーティングを開き、プロジェクト内容や実施計画などについて確認した。プロジェクトマネージャー、地域のまとめ役、プロジェクトアシスタントの3人から成るプロジェクト運営チームが結成され、プロジェクト実施の監視役として、プログラムオフィサー、WOSI諮問委員会副委員長、2名の地域代表者が選出された。

~実施地域訪問および会合(2015年1月26日・2月13日)~
2名のスタッフが現地を訪問し、地域集会を開いた。地域のリーダーや関係者にプロジェクト内容を説明し、地域住民がプロジェクトに参加することが確約された。その場で、プロジェクトで中心的な役割を担う2名が地域リーダーにより選出された。啓発資料に使うメッセージについても話し合った。2回の会合に合計13名の地元関係者が参加した。

~資料製作・配布(2015年2月16~20日)~
啓発資料として、Tシャツ(72枚)、バナー(2枚)、ポスター(40枚)、ステッカー(90枚)を製作・配布した。それぞれに、反FGMと女児教育の必要性についてのメッセージを載せ、WOSIとWAAFのロゴマークも付けた。

~地域啓発対話集会(2015年2月28日)~
トディ地区のニャン村にあるニャン公立学校で、「女児に教育を―家族に誇りを」と題した地域啓発対話集会を開催。トディ地区警察本部長をはじめとする地域の有力な関係者が招かれ、ディスカッションや質疑応答が繰り広げられた。参加者は合計20名で、内訳は男性の伝統的指導者10名、切除者10名だった。集会が始まる前には、厚生省の担当者がエボラ出血熱についての啓発を行い、予防について参加者に注意を促した。
第一回目のディスカッションは、「健康・社会・人権におけるFGMの影響および女児への教育がもたらす変化」がテーマだった。進行役となったNATPAH(女性と子どもの健康に影響を与える伝統的慣習に関する全国協会)の代表で、経験豊富な人権と医療の専門家でもあるフィリス・キンバ(女性)は、「それぞれの社会には文化や伝統的慣習が欠かせないが、そうした慣習の中には有害なものもあり、それらは人々が幸福な人生を送るためには廃止するべきものである」と主張した。さらに、女児への教育そしてFGMを受けさせないことが重要である点について、参加者と討論を重ねた。FGMがもたらす悪影響や、それがいかに人権を侵害するものかといった点についても、国内および国際法を例に説明した。
第二回目のディスカッションでは、内務省文化長官のウィリアム・ジャラ(男性)が進行役で、「有害な伝統的慣習を廃止するための政府戦略」がテーマとなった。まず、有益な伝統を守り、有害な慣習をやめるために政府が現在取り組んでいる対策について述べられた。例えば、秘密結社“サンデ・ソサエティ”の活動を制限する試みが挙げられた。[注:FGMは主にサンデ・ソサエティにおいて行われる。] 政府は、以前から「伝統的リーダー」を自称するサンデ・ソサエティをはじめとする秘密結社の存在を問題視していたという。2014年6月には、あらゆる形態の強制的成人儀礼を非難し、こうした秘密結社の活動を90日間停止する命令が出された。ジャラ長官は、「世界は進展しており、人々は政府の方針やWOSIのような組織が進める活動に従い、良い文化を守り、有害なものを廃絶するべきである」と参加者に訴えた。
それぞれのディスカッション終了後には質疑応答の時間が設けられ、参加者の理解がより深まった。最後には、6人のメンバーから成る「反FGM推進委員会」が作られた。また、地域関係者を代表して警察本部長が、今回の対話集会開催についての感謝を述べ、今後も地域住民がこのような啓発事業に参加できるよう要請した。



~若者向け啓発セミナー(2015年4月24日)~
ニャン村のキリスト教会で、若者に向けた反FGM啓発セミナーを開催した。トディ地区の3地域から30名の若者(主に少女で学生や学校に通っていない14~24歳)が集まり、進行役の話に熱心に耳を傾け、ディスカッションにも積極的に参加した。一般的にFGMを受ける年齢は、5歳から14歳の間と言われており、ここに参加した少女たちはほとんどFGMをすでに受けている。
まず、独立国家人権委員会のジープレイ・ウィリアムズ(男性)が、「女性と少女の人生に影響を与える伝統的慣習と人権」について進行役を務めた。参加者とともに、関連する有害な伝統的慣習をリストアップすると、「若年強制婚」「女性は男性に従属するという信念」「少女に学校教育は不要とする考え」「FGMやDVなどのジェンダーに基づく暴力」などが挙がった。進行役からは、これらの慣習に関連する人権について記載した国際法や国内法の条文が紹介された。さらに、少女が教育を受ける権利、紛争やFGMなどの暴力から保護される権利などについても説明があった。教育を受けることは権利であり、教育こそが有害な伝統的慣習を打ち破る促進剤になるのだと、強く参加者に訴えかけられた。
別のディスカッションでは、厚生省家族保健課所属の看護師であるロープ・シャーマン(女性)が進行役となり、「女性と少女の生殖および社会権に関してFGMがもたらす影響」について、またエボラウイルス病の予防についても話をした。この中で、FGMが健康や精神面、また社会的にもたらす悪影響について詳しく説明した。FGMによってHIVエイズや性感染症がまん延する可能性についても触れ、有害な慣習が長年にわたって女性や少女の健康や人生に、また地域全体にどれほど影響を及ぼすのか、熱心に説いた。最後に、女性と若者がともに立ち上がって、FGMや若年婚に「ノー」を突き付けなければならないと訴えた。

~反FGM推進委員会向けの復習・ブレーンストーミング(2015年6月13日)~
ニャン公立学校にて、「反FGM地域グループ」を対象としたワークショップを開いた。既存の2つの「反FGM推進委員会」、新規の「反FGM推進委員会」から18名が参加した。
これまでの地域活動について、その進展や問題点、今後の対策などについて、独立国家人権委員会のジープレイ・ウィリアムズとWOSI事務局長マリアン・デアが進行役となって検討が行われた。また、この機会を利用して、トディ地区エボラ対策本部によるエボラ予防の啓発講座も開かれた。活動の成果として、「FGMについて反感を持たずに公に話ができるようになった」「反FGMキャンペーンに有力な関係者が参加した」「活動実施地域でFGMが減少した」といった点が挙げられた。しかしながら、農村地域で人々がFGMについて意識を変えるには、より一層の啓発キャンペーン、そして少女たちに自信と勇気をつけることが最重要であると、参加者たちは主張した。最後にグループの代表者が、WOSIとWAAFにお礼を述べ、FGMについての意識変化は時間と労力がかなりかかるものだと念を押した。

~参加者の反応~
年配者よりも若者のほうが、FGM廃絶キャンペーンを支持している。ほとんどの若者は、FGMは時代遅れの慣習であり、新しい世代にはふさわしくないと考えている。また、健康面を考慮して施術方法を変えることを希望する人や、年配者の中には伝統として断固続けるべきと主張する人もいた。存続を望む人々は、FGM廃絶キャンペーンは自分たちの伝統を取り上げようとする白人の意向で行われていると考えている。
地域集会に参加した「反FGM地域グループ」の女性メンバーは、次のように述べた。「FGM廃絶キャンペーンに加わったのは、この慣習が自分たちにとって悪いものだから。サンデ・ソサエティに送られた私はすぐに結婚させられ、子どもを育て、収入も支援もなく苦労の連続です。FGMを受けていない少女は学校に行き、今も人生を謳歌しています。両親が私の将来ではなく、伝統を重んじたためにこうなったのです。伝統を守りたい祖母や親戚がいくら主張しても、地域リーダーは少女がFGMを強いられないよう保証するべきです」
また、別の女性は、「説明を受けて、FGMが女性と少女の健康に有害であることは理解できました。それであれば、政府が医療従事者を派遣して、FGM施術の際に起こる危険を回避するようにすればいいのでは。伝統であるFGMを根絶するのは、簡単でないと思います」と話した。さらに、FGM廃絶キャンペーンを支持する地域のリーダーは、長年続く慣習について人々の考えや態度を変えるには、根気強い活動が必要だと述べた。

~プロジェクト実施における問題点~
エボラ出血熱の流行が、リベリア国内における日常生活に深刻な影響を及ぼした。自由に動くことがままならず、集会や地域活動などが制限された。そのため、プロジェクトの実施計画や日程が大幅に崩れた。学校が閉鎖となり、プロジェクトに学生を参加させることも難しくなった。国内事情が大きく変わり、交通費や通信費が上昇したため、プロジェクト参加者や進行役を頼んだ専門家を動員する点でも問題を抱えた。しかし、地域リーダー、内務省や厚生省の協力を得て、プロジェクトを成功裏に収めることができた。

~プロジェクトの影響と今後の展望~
FGM廃絶キャンペーンは着実に成果を上げており、トディ地区の住民はFGMについて意識が変わってきている。若者たちはFGMに「ノー」を言うようになり、親は娘をFGMのためにサンデ・ソサエティに送るより、学校教育を優先させるようになってきている。実際にサンデ・ソサエティがFGMを行う機会は、主要地域では少なくとも年に2回はあったが、近頃では年に1回あるかないかである。
WOSIは今後もトディ地区でFGM廃絶キャンペーンを続ける意向である。FGMが実施されたのならそれを記録・報告し、元切除者に向けた支援も行いたい。元切除者の中には、自分が単にFGMをやめるだけでなく、他の仲間にもFGMをやめるよう呼びかける人もいる。そして皆、新たな収入源を必要としている。また、別のFGM実施地域で、若者や有力な地域関係者を対象にした啓発活動も続ける予定である。                 
  
<これは、前年度(2013年度反FGM基金)プロジェクトの第二弾として実施されたものです。>

―ニュースレター72号掲載―




反FGM基金プロジェクト報告


2015年度反FGM基金交付団体
リベリアWOSI(Women Solidarity, Inc)


「トディ地区におけるFGMを取り巻く状況についての監視」

2013年度および2014年度に引き続き、モンセラード郡のトディ地区(Todee District)において、主にFGMについての監視(モニタリング)を行うプロジェクトを実施した。トディ地区の人口は約34,000人で、プロジェクト実施期間は2016年4月~8月。

~プロジェクト実施準備(2016年4月20日)~
モンロビアのWOSI事務所にて準備会合。スタッフ6名、理事1名が参加した。事務局長から今回のWAAF支援によるプロジェクトの概要が伝えられた。プロジェクトマネージャーも紹介され、彼女からあらためてプロジェクトの目的、戦略、実施計画について詳細な説明がされた。

~実施地域訪問および会合(2016年5月7~8日)~
プロジェクトマネージャーとスタッフ1名がトディ地区を訪れ、地域リーダー15名およびWOSIのボランティア9名と3回の会合を開いた。それぞれの会合では、プロジェクトについての詳細な説明に加え、地域リーダーとWOSIボランティアの役割と重要性にも言及した。地域リーダーたちからは、トディ地区におけるWOSIの一貫した反FGM活動を心から歓迎し、プロジェクトを全面的に支援するという声が挙がった。日程、会場、訓練ワークショップの参加者人数などについても確認した。(写真は、女性参加者に説明するWOSI事務局長)



~訓練ワークショップ(2016年5月15~17日)~
トディ地区のサキィ村にあるサキィ村小学校で、人権侵害の監視・報告についての訓練ワークショップを開催した。参加者は合計23人(男性14人、女性9人)。WOSIの地域活動家と地域リーダーたちを集めたこのワークショップは、まずWOSI事務局長マリアン・デアとトディ地区のデビッド・ジョンソン行政長官による挨拶から始まった。
進行役を務めたのは、リベリア弁護士人権協会のジェローム・ヴァジャコリ弁護士、リベリア女性NGO事務局の人権活動家ミアッタ・トーマス、WOSIプログラムオフィサーのC.マキンス・パジボ。議題は、人権の本質、その監視や報告の仕方などについてだった。さらに、FGMについての監視方法とチェックリストを確認し、参加者が監視者や通報者など異なった役を演じるロールプレイを行い、今回学んだ知識や手法を再確認した。最後に、カナカナ村、ニャン村、グベノ村、サキィ村から各1名、計4人の監視者(30~43歳の男女各2名)が選出され、残りの参加者は彼らのサポート役を務めることが決まった。
参加者を代表して、ニャン村から選ばれた監視者で反FGM地域活動家のエゼキエル・カンダカイが、WOSIとその支援団体であるWAAFに感謝を述べ、「この訓練ワークショップで得られた貴重な知識や技能を生かすには実践あるのみです。私たちの住むトディ地区のコミュニティから始めていきましょう」と参加者を鼓舞した。また、内務省のママ・シア特殊文化長官からは参加者に対し、「FGMのような文化に関わる慣習については、慎重に節度ある対応を心がけ、事実に基づく監視をしてほしい」という要望が出された。そして、「この監視プロジェクトによって、各関係者たちの責任や適切な行動も注視されるようになります。ともにしっかりと手を携え、この有害な伝統的慣習に終止符を打ちましょう」と締めくくった。

~FGMの監視(2016年5月20日~8月19日)~
4名の監視者は各地域で3か月間の監視・報告活動を続けた。監視者にはチェックリストや文房具の入ったキットが与えられ、毎月報告書を作成・提出することが義務づけられた。この3か月間を通しては、FGMが実施されたケースはなかったが、3件のレイプ、2件の若年結婚が報告された。これらのケースに関しては、毎月の定例会議、また記者会見でも報告された。

~定例会議(2016年6月~9月)~
監視報告の結果を受けて関係者を集めた定例会議が開かれた。6月25日にニャン村で、7月24日にサキィ村で、8月22日にカナカナ村で、9月24日にグベノ村で、計4回行われた。
参加者は合計で43名だった(男性25名、女性18名)。定例会議の目的は、報告されたケースについて話し合うだけでなく、必要な対策を講じることでもあった。今回はFGMの報告はなかったので、FGM以外の人権侵害について取り上げられた。例えば、8月に報告された41歳の男が12歳の少女をレイプしたケースでは、会議で取り上げられたことにより地域の活動家から情報が入り、逃げていた犯人の逮捕に結びついた。
さらに、FGMの現状について話し合う会議が別に4回開かれ、女性、男性、若者、専門家など合計40名(女性21名、男性19名)が参加した。全ての会議で確認されたのは、廃絶キャンペーンによってFGM実施率は減少しているものの、FGM禁止法と継続的な啓発活動は必要不可欠であるという点だった。サキィ村の女性地域リーダーは、「自分たちはFGMをしていなくても、近隣で行われているのなら、この慣習から自由になったとは言えない。啓発活動を継続することが重要だ」と話した。また、若者リーダーの一人は、「FGM実施率が減少したとしても、FGM禁止法ができれば少女たちはさらに安心できる。政府に法律の制定を求めたい」と訴えた。全会議を通してリラックスした自由な雰囲気の中、活発な意見交換を行うことができた。(写真は、カナカナ村の定例会議で話す若者リーダー)



~月例記者会見(2016年5月~8月)~
5月から8月まで月1回(トディ地区とモンロビアで各2回)、計4回記者会見を開いた。毎回冒頭で、WOSI事務局長とプロジェクトマネージャーが監視報告の内容とプロジェクト進捗状況を発表し、その後記者団からの質問に答えた。地元をはじめ全国のジャーナリスト計23名が集まり、会見で得られた情報は地元放送2局および全国放送1局でラジオ放送された。(写真は、記者会見でデータを確認する「女性民主ラジオ」ジャーナリスト)



~プロジェクト成果と今後の展望~
訓練ワークショップ、定例会議、記者会見などは、内部監視チームによって逐一モニタリングされた。プロジェクトが確実に実行されるうえで、このモニタリングの果たした役割は大きかった。また、一般にも公開されたので、誰でも活動をフォローすることができた。プロジェクトに直接参加したのは、地域リーダー、若者、女性、ジャーナリストなど合計101名だったが、間接的な受益者は3000名ほどになる。
WAAFの支援による反FGMプロジェクトは今回で3回目である。トディ地区におけるFGM実施率は、大幅に減少していることが分かった。プロジェクトを通して、変わらないと思われていた慣習や人々の態度を変えることができたのである。
今回は、5月から8月の4か月間でFGMが実施された形跡は認められなかったが、別の時期に監視プロジェクトを行ったとしたらどうだったろうか。伝統的にFGMは年末に多く行われるが、FGMを強制しない親が増えていることから、この時期にプロジェクトを行ったとしても結果はそれほど大きく違わないと考える。
全体としてプロジェクトは大成功だった。FGM廃絶に関する人々の意識変化や、関係者による的確な対策をさらに推し進めることができた。また、FGMだけでなく女性に対する暴力全般(レイプ、若年結婚、DVなど)の存在も明らかになり、その対策を訴えることもできた。今後は、トディ地区での監視を引き続き行いながら、別の地域でも反FGMキャンペーンを広げていきたいと考えている。また、元切除者が別の仕事で収入を得られるよう技能訓練を行うプロジェクトも計画している。

―ニュースレター76号掲載―



反FGM基金プロジェクト報告


2014年度反FGM基金交付団体
ウガンダREACH


「カプチョルワの元切除者に経済力をつけるプロジェクト」

プロジェクト実施地域は、ウガンダのカプチョルワ県(Kapchorwa District)である。ウガンダのFGM実施率は国全体で見ると低いが、民族によって大きな違いがある。例えばポコット(Pokot)のコミュニティでは95%にも上り、カプチョルワに住むサビン(Sabiny)の人々では約50%と推定される。カプチョルワはウガンダ東部エルゴン山北麓の県で、首都カンパラの東北約274kmにあり、南東はケニア国境と接している。
団体名の“REACH”は、Reproductive Educative And Community Health Programme(リプロダクティブ、教育及び地域保健プログラム)の略称で、もともとはFGM廃絶のためにウガンダ政府とUNFPAが協力する中で1996年に開始されたプロジェクトの名称だった。その活動が継続され2007年にNGO組織となり、現在に至っている。2007年度の反FGM基金で行われたプロジェクトは、カプチョルワで行われた「若者に向けたFGMと若年結婚についてのラジオ放送による啓発」だった(NL48・49・50・51号に報告記事掲載)。
今回のプロジェクトは2015年12月に終了するはずだったが、選挙の時期と重なり、国内が政情不安に陥ったため変更を余儀なくされた。結局2015年には計画の半分ほどしか進まず、1年半後に再開することになった。また当初計画していた、元切除者に建築用レンガの作り方を教えるプログラムは、対象に若者を加え、元切除者には野菜栽培について教えるプログラムも実施した。

1)元切除者に向けた教育プログラム(2015年4月~5月)
カプチョルワ県カプタンヤ郡ツンボビ地区にある9村から、元切除者10人が参加した。まず事業計画、簿記、貯蓄、資金繰りといった経営に関する基礎知識について、次に実践的な野菜栽培について講習会を行った。さらに、今後FGM廃絶運動のパートナーとなるための訓練も実施された。6月16日の「アフリカ子どもの日」には、参加者全員が地元の小学校でFGM廃絶宣言を行った。



伝統の踊りを披露する元切除者たち。大きな葉は未来の希望を表す。




REACH代表のベアトリス・チェランガト(中央)と二人の元切除者





訓練を終えた元切除者たちを囲んで


2)レンガ(ブロック)製造に関するプログラム(2015年5月~6月)
レンガ製造機*を購入し(購入代金は1,538米ドル)、元切除者および10人の若者に向けてレンガの製造と販売方法について訓練した。参加者が最初に作ったいくつかのレンガは、屋外で乾湿試験を行ったところ割れてしまった。2度目に作ったものは、室内で長く乾燥させることにした。元切除者は未亡人が大半で、貧しい暮らしをしている。特に住宅事情は悪いため、今回製造したレンガを自分たちの家の建て替えや増強に使うようにする。さらにレンガ販売によって収入が見込める。また、元切除者たちが設立した村の貯蓄貸付組合が使う小さな金庫も購入した。

*通常レンガは、粘土や石などを混ぜて成型し、窯などで焼き固めて作る。この方法では、かなりの時間と労力がかかるうえ、品質も不安定であり、燃料となる木材の伐採も問題であった。そこで近年は、砂や土、水、少量のセメントなどを混ぜたものを人力で圧縮し、焼かずにレンガを製造する機械が使われている。今回購入した機械がそれである。



レンガ製造機の使い方を学ぶ参加者




完成したレンガを見せるトレーナー。これらを乾燥させて使う。




金庫を参加者に渡すチェランガト代表と首席行政官


3)モニタリング/フォローアップ(2015年2月~12月/2017年4月~6月)
プロジェクトマネージャーをはじめとするスタッフが、元切除者の住む9つの村をそれぞれ訪ねた。訓練を受けた元切除者は全員、自宅で苗床を作り、種まきの準備を整えることができた。野菜が育ち、収穫が多く見こまれるのであれば、自家製の天日干し機を使い保存食として蓄えることができる。視察は合計10回行った。

課題と成果
長い間FGMの施術で生計を立ててきた元切除者たちは当初、野菜栽培などの地道な仕事には興味を示さなかった。より楽に稼げる方法を期待していたようだが、私たちは小さな仕事で自立する必要性を説いた。また、若い参加者に比べて高齢の女性たちは、新しい技能の習得には馴染めず、プロジェクトから離脱してしまうケースも考えられる。教育プログラムを延長する必要性を感じている。若者や中高年の参加者は皆、今回のようなプロジェクトの重要性を理解し、参加できたことを喜んでいた。
2016年2月の大統領および国民議会総選挙に先立ち、2015年5月からさまざまな選挙キャンペーンが始まった。選挙後、カプチョルワ県の中央警察署が武装集団に襲撃され、死亡者が出る事件が起こった。地域の治安は非常に不安定になり、捜査にも予想以上の時間を要した。そのため、プロジェクトを一時中断せざるを得なくなった。
新たな試みとして、今回のプロジェクトに参加した女性たちによって、貯蓄貸付組合が作られた。「FGMに代わる仕事で家計所得を増やし貯蓄をする」という生活を根付かせるうえで、この組合が設立された意義は大きい。貯蓄貸付組合は、行政の人々にも紹介され、行政が行う関連する活動に参加を呼びかけられた。
REACHでは、今後もラジオのトークショーや地域対話集会、能力開発スタディツアーなどを通して、女性に向けた各種のFGM廃絶教育プログラムを実施していく計画である。

―ニュースレター79号掲載―




反FGM基金プロジェクト報告


2014年度反FGM基金交付団体
タンザニアWOWAP (Women Wake Up)


「対話を通したFGM廃絶キャンペーン」

プロジェクト実施地域であるシンギダ州(Singida Region)イクンギ県(Ikungi District)のセプカ郡(Sepuka Division)では、FGMがいまだに多く行われている。タンザニア全体のFGM実施率は15%だが、2010年の人口保健調査によるとシンギダ州の実施率は51%だった。現在でも、乳児を含む女児(生後8日~10歳)に行われてる。セプカ郡に住む主な民族グループはニャツル(Nyaturu)で、FGMの主導権を握っているのは女性(特に祖母)である。通常、妻は夫に相談せず、義母と一緒に娘を切除者のもとへ連れて行くという。
今回のプロジェクトでは、対象グループによる討論会、演劇上演、世代間の対話集会、地域全体の対話集会を開催した。対象グループによる討論会および世代間の対話集会には、合計60人が参加した。参加者は、地方政府の代表、伝統的指導者、宗教指導者、医療専門家、元切除者、地域の人々などだった。その後、これらの参加者と劇団が協力して、住民に地域対話集会に参加するよう呼びかけた。地域対話集会の参加者は1000人にも上った。

まず、2015年1月27日セプカ郡セプカ区において、対象グループによる討論会を開催した。この日、当プロジェクトがWAAFの支援によるものであることを紹介した。同日、FGM廃絶に向けた地域の役割をテーマにした劇を上演した。2015年3月4日には、セプカ区ムスンギア村で、世代間における対話集会を行った。性別、年齢別にグループを分け、それぞれからFGMについての異なる認識や意見を出してもらった。さらに、地域においてこの有害な慣習を根絶するためにはどのようにすればいいのか、参加者の考えを尋ねた。
地域対話集会は、2015年5月11日に開催した。セプカ区の村々から地域指導者や反FGM団体を含め、多くの人々が集まった。まず対話のきっかけとなるようFGMについての劇が上演された。演劇に関しては、地域で有名な劇団に協力を求めた。劇団員は若者が中心で、政府が開催するイベントなどに参加者を集めるためのパフォーマンスを主に行っている。


地域対話集会で催された劇を見る参加者


地域対話集会で上演されたのは、「FGMから少女を守る若者の役割」をテーマにしたものだった。あらすじは、次のようなものだ。一人の少女が学校の休みに、父親に内緒でFGMを受けるために祖母の家に連れて行かれる。祖母の家には他に16歳と17歳の孫が住んでおり、学校でFGMについて教えられていた。このとき彼らは、近所の人々が招かれたり、伝統的なアルコール飲料が準備されていることから、FGMが行われるのではないかと察知し、すぐに警察に連絡する。やがて警察官がやってきて、FGMの準備をしていた大人たちを逮捕し、少女は救われる。また別のストーリーでは、FGMを受けた少女が出血多量で死んでしまう場面もあった。
FGMに関して、参加者はあまり正しい知識を持っていなかったが、最終的にはこの慣習がもたらす有害な影響について理解した。また、FGMがどのように行われているのか、具体的に説明した参加者もあった。例えば、「釘を使ってクリトリスを切る」「祖父母の家に連れて行ってFGMを行う」「病気を治すためにFGMを行う」「乳児に施すFGMではソーダ灰が使われる」といった話が出た。
討論会や対話集会に参加した人々は皆、宗教や文化的見解にとらわれずに、率直な意見を出し合った。FGMは宗教上の教えであるという主張に関しては、宗教指導者からそれを否定する意見が述べられた。年齢や性別の異なるさまざまな人々が公な場で話をしたことは、コミュニティや行政にとっても有益な機会となった。自由闊達な雰囲気のなか、賛否両論さまざまな意見が出された。その中からいくつかを紹介する。

<FGM廃絶に賛成>
・FGMは、少女に悪い影響を与えることから社会に受け入れられないと思う。自分の経験から言うと、切除を受けた少女は、自分の体の大切な部分が取られてしまったとわかると、生涯にわたって精神面でも苦しむことになる。〔討論会に参加した女性〕
・タンザニアの憲法では人権を尊重することが明記されており、FGMはこれに完全に反するものだ。〔セプカ村議長〕
・FGMをなくすのは口で言うほど簡単ではないが、行政や市民組織、さまざまな人々が一丸となって取り組む必要がある。〔宗教指導者〕
・FGMを少女に受けさせようとしている人を見つけたら、すぐに知らせてほしい。当局は、いつでも対処できる体制になっている。この討論会の後に私の携帯番号をお知らせする。〔地域行政官〕
・仲間同士で教え合うこと(ピアエデュケーション)によって、同世代に知識が行きわたるようにすることが大切だと思う。大きな集会や公の場では、自分の意見をうまく言えない人もいる。〔世代間対話集会に参加した若者〕

<FGM廃絶に反対>
・生まれた時からFGMは行われていて、みんなで祝ったものだった。政府やあなたたちWOWAPが言うような問題は何も起きていない。なぜ、今になって問題視するのか。FGMを受けた高齢の女性たちは、みんな無事に生きているではないか。〔伝統的指導者〕
・FGMの儀式では、少女たちに道徳教育も行っている。これで少女は売春婦にならずに済む。また、我々の文化では、若者は両親や年長者の前でFGMについて話してはならない。〔討論会参加者〕
・イスラムの教えでは、女性は男性の前でFGMについての話をしてはならない。コーランにはFGMを行うよう書かれている。〔討論会参加者〕


グループディスカッションに参加した女性たち


今回のプロジェクトを通じて、参加者から賛同が得られた点を挙げる。まず、啓発や教育の面に関しては、宗教や文化の観点を抜きにして、FGMについてオープンに話し合う必要性である。大きな影響力をもつ宗教指導者や伝統的指導者が、FGM廃絶の先頭に立ち、町の中心だけでなく農村部にも啓発が広く行きわたるようにする。地域のあらゆる集会(教会、スポーツイベントなど)を利用して、FGMについての知識を広める。学校では、FGMの影響に関する教育に力をいれ、仲間同士の教育(ピアエデュケーション)を優先させる。地方自治体職員を対象にしたFGMについてのセミナーを開くなど、行政を積極的に参加させる。また、法律の知識に乏しい地域住民に向けた法律相談も必要である。
次に、専門分野における協力体制についても同意がなされた。例えば、警察は「ジェンダーに基づく暴力」対策を講じ、FGM実施者を厳格に取り締まる必要がある。医療専門家は、保健所を訪れる女児により注意を払う。メディアは影響力が大きいことから、その活用が望まれる。さらに、プロジェクトの進展具合がわかるよう、その反響を地域に伝えることも参加者から求められた。切除者が行う新しい手法を見逃さないこと、女性が秘密裏にFGMを行うことについて男性が知ることも必要であるとされた。
今後活動を進めるにあたっては、次のような多くの課題が残る。まず、FGMは伝統的に文化として行われてきたため、それが女性と女児に与える悪影響について、正しく理解している人々は少ないという点である。行政はFGM廃絶に乗り出しているが、特にFGMを秘密裏に行っている地域ではあまり支持が得られていない。また、FGM廃絶に反対する人々も多い。伝統的慣習のほうが重んじられ、FGM廃絶運動が阻害される傾向にある。FGMについての学校教育が十分でないこと、地域におけるFGMの啓発に関して政府からの支援が不足していることも挙げられる。

まとめと提言
最初に開催した討論会に参加した後、FGM廃絶の活動に加わるようになった人々もいる。新聞やインターネットでも今回のプロジェクトが報道され、セプカだけでなく全国的に反FGMのメッセージが伝えられた。また、年齢や性別の違う人々が、それぞれの知識、経験、考えを出しあい、共通する将来の展望につなげていくことができた。こうした人々の間には、文化的に合いいれない面があり、それがコミュニケーションの欠如にもつながっていた。しかし、対話を通してネットワークが作られ、世代間の関係性が改善に向かっている。
特にFGMを秘密裏に行っている農村部における啓発教育は、さらに強化される必要がある。医療専門家は、すべての子どもが定期健康診断を受けるために保健所に来るよう促さなければならない。学校では、全生徒がFGMがもたらす影響について授業を受けるべきである。FGMを秘密裏に行うために、「施術部分にソーダ灰をまぶし、FGMの痕跡を消す」といった新たな手法が報告されている。このような情報を人々に広めることで、FGMの廃絶につなげたい。また、さまざまな利害関係者がネットワークを構築し、自分たちの社会からFGMを完全になくすよう今後も活動を続けたいと考えている。

―ニュースレター72号掲載―


反FGM基金プロジェクト報告


2015年度反FGM基金交付団体
タンザニアWOWAP (Women Wake Up)


「対話を通したFGM廃絶キャンペーン」

プロジェクト実施地域は、2014年度と同じくタンザニア中央に位置するシンギダ州(Singida Region)イクンギ県(Ikungi District)のセプカ郡(Sepuka Division)セプカ区(SepukaWard)である。セプカ区は広大なため、今回は前回行けなかった小さな村々を対象とした。セプカ郡に住む主な民族はニャツル(Nyaturu)で、農業と牧畜を営んでいる。地域では女性に対する暴力が多く報告されており、特にFGMの実施率は高い。FGMは女性の成人儀礼であり、それによって持参金が増えるという。また、ラワラワと呼ばれる病気 [注:現在では軽度の腟および尿路感染症のようなものだと考えられている] がFGMによって治療できると信じられている。
今回のプロジェクトは、前年度と同様に対話集会を中心に行うが、行政や非政府組織のトップに働きかけることに重点を置いた。行政からは小学校、警察、村や区の保健所などの代表者に、また非政府組織からは宗教団体、市民団体、地域グループ、伝統文化グループの代表者に、それぞれ参加を求めた。彼らに正しい情報や知識を伝え、各組織が啓発活動をするようになれば、より多くの地域住民がFGM廃絶に向かうからである。また、住民を集めたり、啓発を進めるうえでラジオや新聞、ソーシャルメディアの役割も重要であることから、メディアにも協力を求めた。

対象グループによる討論会を2回(2016年5月11日および6月23日)、世代間対話集会を1回(2016年9月3日)開催した。セプカ区のムスングア村およびムシミ村にある6地域から行政指導者、伝統的指導者、宗教指導者、地域リーダー、医療専門家、小学校教師、警察、元切除者、地域住民など各回23人、計69人が参加した。
討論会の初日、ムスングア村議長は「昨年もWOWAPが村に来て、FGMについての知識を広めてくれた。おかげで、FGMを廃絶する機運が高まり、村では半年に4件行われていたFGMが1件に減少した。WOWAPとその支援者には大変感謝している。今年もこうして来てくれたからには、今後はFGMは0件となるようにしたい」と挨拶し、参加者から拍手を浴びた。
その後、WOWAPスタッフが進行役となり、討論の方法や手順などについて説明し、参加者はいくつかのグループに分かれて討論を開始した。どうしたらFGMをなくせるのか、その方法はあるのか、こうした点について討論した内容を最後に参加者が発表した。オープンな雰囲気の中で参加者は皆、率直な意見を出し合った。例えば「どこそこの家でFGMが行われた」といった、以前は口にできなかった事柄も話題に上った。また前回同様、FGMをテーマにした劇も上演した。
討論や対話集会で重点を置いたのは、進行役がどのような発言にも耳を傾け、意見を述べた参加者に感謝することであった。そうすることで、参加者が恐れることなく自由に心のうちを話す雰囲気を作ることができた。参加者からは、FGMが行われていることや秘密裏に行っている切除者について知っていても、それを通報する地域住民が少ないことが指摘された。そうしたことは自分たちではなく、行政の役割だと思われているからである。


討論会で進行役を務める女性



討論会で話を聞く参加者


討論会と対話集会で取り上げられた議題は、「セプカの村々でFGMが行われている理由」「FGMの弊害」「FGMに関連する社会的文化的慣習」「ジェンダーとFGMの関係」「FGM廃絶に向けた政府・非政府組織の役割」「FGM廃絶を阻むさまざまな文化・伝統」「FGMを行う新たな方法とその阻止」「FGM廃絶を進める上での主な問題点」「問題の解決方法」「セプカ地域におけるFGM廃絶ネットワークの構築」などである。なお、「FGMを行う新たな方法」とは、禁止法が施行されてから秘密裏に行うようになったFGMの実施方法を指す。具体的には、母親が乳児をこっそり祖母のもとに送りFGMを受けさせ、父親には全く知らされていないケースである。
参加者から出された意見をいくつか紹介する。
・地域ではFGMはコーランに基づくイスラムの教えだと信じられているが、そうではないと積極的に説いてきた。今ではその誤解も解けてきているが、女性に対する暴力はいまだに非常に多く見られる。[ジュマ・ムグヘニ/イスラム教指導者] <写真>


・WOWAPによる啓発キャンペーンによって、私たちも女子生徒にFGMの弊害について教えるようになった。また、親からFGMを受けさせられる場合、その前にどんな兆候があるのかについても教えている。[アミナ・シャバン/小学校教頭] <写真>


・以前村ではFGMが公然と行われていたが、今ではそれをすれば逮捕されると人々は恐れるようになった。あなたたちのようなNGOが来て話をしてくれるのはうれしい。他の長老にも、「FGMは政府によって厳しく禁止されていて、NGOも監視している。村の少女たちをFGMから解放して、十分に教育が受けられるようにしよう」と伝えるつもりだ。[アンドリア・ジフ/伝統的指導者] 

プロジェクト成果と課題
WOWAPによるプロジェクトは、少女を解放するものであると受け止められた。参加者たちは、「自分たちの村では今後もFGM廃絶に向けて政府や関係組織と協力し、FGMが行われた場合は対応策を取る」と約束してくれた。また、地域でFGMについての啓発を進める活動グループもWOWAPによって組織された。
セプカ区では、FGMの実施件数が減少してきている。討論会で進行役を務めた地域社会福祉官は、「シンギダ州の他の農村部と比べて、セプカ区のFGM実施件数は少ないと地域報告書で示されています。WOWAPとWAAFが政府の取り組みに協力してくれたことをうれしく思います」と述べた。メディアでもこのプロジェクトのことが取り上げられ、新聞、ラジオ、ブログ、フェイスブックやツイッターを通して、セプカだけでなく全国向けにも報道された。
一方、FGMのもたらす弊害についての理解は広がってきてはいるが、まだ十分ではないと感た。繰り返し、啓発活動を行う必要がある。政府はセプカ区におけるFGM廃絶に関する予算を確保していない。また、学校教育の現場でもFGMを授業で積極的に取り上げることが課題である。

まとめと提言
セプカ区で行われているFGMの背景には、男性優位社会で女性が差別的な扱いを受けている状況がある。その中で、身体的暴力(たたかれる、やけどを負わせる、FGMを強制する)、性的暴力(FGMやレイプ)、精神的暴力(侮辱的言動など)、経済的暴力(経済的な決定権を与えない)といった女性に対する暴力が根深く残っている。今後も啓発キャンペーンが必要であり、特にFGMを秘密裏に行っている地域では、関係者はそれぞれの立場で子どもの権利を守る義務がある。政府は、FGMをはじめとする女性と子どもに影響を与えるすべての有害な伝統的慣習に取り組む計画を立て、十分な予算をねん出する必要がある。最後に、WAAFの支援に心から感謝したい。WOWAPはこれからも、FGMや女性に対する暴力を根絶するための活動に全力を挙げる。

―ニュースレター76号掲載―


反FGM基金プロジェクト報告


2016年度反FGM基金交付団体
タンザニアWOWAP (Women Wake Up)


「対話を通したFGM廃絶キャンペーン」

プロジェクト地域は、タンザニア中央に位置するシンギダ州シンギダ・ルーラル県(Singida rural district)のムサンゲ区(Msange ward)である。2014年度および2015年度の反FGM基金で、シンギダ州イクンギ県で同様のプロジェクトを実施したところ、啓発キャンペーンが功を奏し、地域におけるFGM実施率が減少した。そこで今回は、シンギダ州の中でも特に実施率が高いムサンゲ区を対象にした。
ムサンゲでは、少女はFGMを受けて初めて一人前の女性になったと認められる。これを受けなければ結婚はできない。こうした文化や信念が根付く地域で、女性たちはFGMによって長年苦しめられてきた。FGMは女性や少女の健康に悪影響を与えるだけでなく、個々人のからだに対する権利を侵害し、尊厳を傷つける行為である。同地域で啓発キャンペーンを展開し、FGMを止めるように仕向けることが、このプロジェクトの焦点である。具体的には、対象グループによる討論会、世代間対話集会、フィルム上映、メディアの参加という手法で行った。

■対象グループによる討論会(2017年5月3日・7月20日)
行政や非政府組織の代表者といった影響力をもつ人々を集め、討論会を2回開いた。合計46名が参加したが、政府関係者のほとんどが男性であることから、その内訳は男性35名、女性11名だった。区および村の行政官、村議会議長、小村議会議長、宗教指導者、伝統的指導者、警察官、教師、保健専門家、地域開発専門官などが参加した。
こうした各分野の代表者は、FGM廃絶を進める啓発キャンペーンにおいてそれぞれ異なる役割を果たす。地域の安全確保を担う行政は、FGMなどの女性に対する暴力についても、警察に委ねる前にまずは自分たちで問題に対処する必要がある。宗教指導者や伝統的指導者は、人々の考えや信念を改める上で欠かせない存在である。また、子どもたちのそばにいる親、保護者、女性や子どもの問題に取り組む専門家は、日ごろから彼らを注意深く見守る義務がある。
討論会ではパワーポイントを使いながら、FGMが行われている背景について話し合われた。参加者はグループ分けされ、一人一人に発言の機会が与えられた。問題提起、質疑、応答を通し、最終的に全員の意見をまとめるという方法で進められた。この慣習がいまだに続いている理由として、地域に根付く文化や信条、そしてFGMが女性や少女に与える影響について知られていないことが挙げられた。全員一致で賛成したのは、「FGMを廃絶するには法律を施行するだけでは不十分で、地域における教育が鍵を握っている」という点であった。「人々がFGMがいかに危険であるかを十分理解して初めて、本気でこの慣習を止めることができる」と結論付けられた。
また、アニメフィルム“The True Story of Ghati and Rhobi(ガティとロビのお話)”*も鑑賞した。これは、FGMから逃れるために家出をした二人の少女が、伯母さんの力を借りて救出され、それがきっかけで村全体でFGMを止めるという実話に基づくアニメだ。参加者は、ムサンゲの状況と比べながら、感想を述べ合った。「少女たちを助ける伯母さんのような存在が自分たちの地域には欠けている」という意見が目立った。
ムサンゲの住民は自ら先頭に立って少女たちを救う意志がなく、親や保護者はFGM廃絶キャンペーンを担うのは行政だと考えている。一方の行政は、それはNGOがする仕事だとみなしている。だからこそ、関係者それぞれが自分たちの役割を理解し、お互いに緊密に協力し合えば、FGMは根絶できるのである。


FGMについて説明するシュクラニ・ムバゴ州社会福祉官



FGMに関する従来の見解を述べる伝統的指導者



意見を述べるアングリカン教会(聖公会)の指導者


■世代間対話集会(2017年9月19日)
行政官、宗教指導者、伝統的指導者、教師などに加え、親や若者を含めた地域住民が参加し、FGMについての話し合いができるよう世代間対話集会を開いた。男性18名、女性5名、合計で23名が参加した。WOWAPのスタッフが進行を務め、FGM廃絶を進めるにはこうした世代間の対話を続け、年齢や考え方の違う人々が見解を述べ合うことが重要であると訴えた。プログラムは、対象グループによる討論会と同じ内容で進められた。
参加者からは、FGMが秘密裏に行われている点が指摘された。家庭内でも、特に母親や祖母が切除者(Ngaribas)と共謀し、父親に知らせずに娘にFGMを施して、表ざたにならないケースがあるという。また、加害者が起訴されないように家族が行政職員に賄賂を渡すことがあり、政府の責任放棄であると非難された。こうしたことが、住民がFGM廃絶に積極的に取り組む意欲をそぎ、政治不信につながっている原因だと指摘された。結論として、女性の意識改革を促すこと、また行政関係者が自分たちの役割と責任を改めて自覚し、真摯に住民の声に耳を傾けることが強く求められた。


世代間対話集会の参加者



対話集会で開会あいさつをするムサンゲ区の行政官


■プロジェクト成果と課題
参加者は皆活発に発言し、FGM廃絶キャンペーンに積極的に関わろうとする熱意が見られた。FGMについて人々がオープンに話ができたことは、廃絶に向けての大きな一歩となった。このプロジェクトについてはメディアでも取り上げられ、インターネットに掲載された関連ブログへの反響も大きかった。広く情報を伝える上で、メディアの力は非常に大きいと再確認した。
地域の人々は芸能への関心が高く、例えば伝統的な太鼓演奏などが上演できれば、より多くの人々を集められると感じた。各関係者にとっては、住民の理解と支援が不可欠である。そのためには、住民集会を頻繁に開き、情報を拡散する必要がある。WOWAPとしても、より多くの人々に向けて啓発を行いたいが、資金不足により限定的なものにならざるを得ない。
行政職員はFGM廃絶を進める意志はあるものの、法律の適用についての知識が欠けているため、そうした点を訓練する必要がある。一方で、意志だけでなく、能力や資金も不足している関係者もいる。この地域ではFGMを乳幼児に施すケースが多く、その子どもが病院や診療所で診察を受けない限り、証拠を見つけることは難しい。

■提言
・啓発ポスターを貼ったり、住民に冊子を配るなどして、正しい情報を広める。冊子は勉強会や集会に持参するように促す。
・代表的なグループを対象に訓練を行い、彼らが中心となって地域全体の啓発を進める。
・学校に通っていない子どもたちにも情報が行き渡るようにする。
・今後のキャンペーンでは、より多くの参加者を集められるよう劇を上演する。
・行政がFGMに対処するには、正しい知識と適切な能力が欠かせない。政府関係者に向けた、法律とその手続きに関する訓練を早急に実施する。
・公立病院・診療所で、女児がFGMを受けていないかどうか定期的に検査する。
・小中学校において啓発が進むよう教師の援助で生徒たちが「反FGMクラブ」を作る。
・住民が政治家に働きかけて、学校のカリキュラムにFGM廃絶を組み入れるよう促す。

■最後に
シンギダ州では女性に対する暴力が非常に根強く残っており、FGMもその一つとしていまだに続けられている。こうした社会的背景にも触れながら、啓発を進める必要がある。今回は、ムサンゲの限られた地域でしかプロジェクトを展開できなかった。今後は十分な資金を得て、実施地域をさらに拡大したいと考えている。また、このようなプロジェクトを地道に続けるために、各地域で活動を担う人材を育てる必要性も感じている。

*The True Story of Ghati and Rhobi(日本語タイトル:ガティとロビのお話)
反FGM団体であるイギリスのFORWARDとタンザニアのChildren’s Dignity Forum (CDF)が協同で制作した5分程度のアニメで、スワヒリ語版と英語版がある。WAAFは日本語字幕を製作した(日本語字幕付きの映像はWAAFホームページ上で公開している)。

―ニュースレター78号掲載―




反FGM基金プロジェクト報告


2015年度反FGM基金交付団体
IACナイジェリア・エド州支部


「イゲェドゥマ地区(Igieduma Community)における草の根活動を通じたFGM廃絶」

2012年度反FGM基金によるプロジェクトは、エド州エグバ地区におけるカッサバ加工だった[報告はNL65・66・67・73号に掲載]。今回はその成功を受けて、エド州イゲェドゥマ地区(Igieduma Community, Edo State)でパームオイル(アブラヤシからとれる油)生産を通したプロジェクトを約2年間(2016年6月~2017年5月)の予定で実施した。先に2016年10月までの中間報告[NL77号に掲載]を送っており、重複する部分もあるが全期間における報告は以下である。

イゲェドゥマはエドの北部に位置し、人口は約3,500人。主な産業は、パームオイル、カッサバおよびヤムイモの生産である。2002年に行われた調査によると、地域のFGM実施率は60%だった。FGMは伝統として深く根付いており、禁止法があるにもかかわらず、多くの女性によって受け継がれている。助産師などの医療専門家がFGMを行う「医療化」のケースはあまり見当たらない。この慣習が継続している背景には、人々の知識不足と貧困がある。娘にFGMを受けさせる親は、現金か物品で報酬を払わなくてはならない。
今回私たちは、気候変動による豪雨、ベニン王即位式、政治的混乱といった出来事があったにもかかわらず、神のご加護によって設定目標以上のものを達成することができた。時間と労力を惜しみなく注いでくれた熱心なスタッフの存在もあり、今後の参考基準になるプロジェクトとなった。

2016年5月の第一回現地訪問では、私たちIACの職員3人が地域リーダーたちを訪ねた。WAAFの「反FGM基金」によって、パームオイル搾油機を提供できると伝え、その設置場所を確保するよう依頼した。地域リーダーたちは、プロジェクト実施地域として選ばれたことをとても喜び、感謝してくれた。
2016年7月まで、さらに2回現地に足を運んだ。6月には、機械を設置する場所を見せてもらった。地域の中心部にあり誰でも利用しやすく、安全な環境で設置に適しているとのことだった。また、訓練セミナーの参加者として、男性10人、女性15人、若者10人を選んだ。セミナーでは、FGMについて、またパームオイル生産と財務管理についての講義を行った。若者10人に対しては、機械の操作方法などの具体的な訓練を行った。
私たちは地域住民の参加が必要不可欠であることを訴え、セミナー会場や事務用品の提供に加え、特に住民の動員についての協力をお願いした。男性、女性、少年、少女など、多くの人々にFGMの危険性を理解してもらい、最終的にはこれを止めるよう啓発するためである。最後の訪問では、村議会議長から集会場が提供され、女性50人、男性40人、若者40人を集め、活発な討論会を開くことができた。
8月と9月は、豪雨のため現地に行けなかった。10月には、ベニン王家第40代の即位式が催され、関連する多くの伝統行事が3か月続いた。また、この時期は地元の知事選挙と重なり、プロジェクトの実施を2017年1月まで延期せざるを得なくなった。

2017年1月、地域住民に向けてFGMについてのセミナーを何回かに分けて行った。セミナーでは、慣習として軽食を提供した。前年に予定していた機械の設置は、2017年2月に完了した。前回のカッサバ加工機と全く違い、設置完了までに4週間を要した。機械は、オイル粉砕機、オイル圧搾機、核殻破砕機、核殻乾燥機、繊維分離機の全5台である。まず、地面を約90cm掘り、各機械を固定するために砂利とセメントを混ぜ合わせたものを流し入れる作業から始めなければならなかった。
2017年3月、小規模経営についてのセミナーを行った。売り上げを記録する際には、現金販売なら緑色、掛け売りなら黄色というように色別の記号を使うよう指導した。4月には、伝統文化の守り手である長老や男性に対し、FGMのもたらす健康被害について講義した。
5月から7月にかけては、主な受益者となる女性50人に向けた訓練セミナーを開いた。15人、15人、20人と3回に分けて、FGMについてだけでなく、具体的なパームオイル生産・販売について講義した。実際に、アブラヤシの果房[果房に多くの果実がなる]を加工場に持ち込み、その後出来上がったパームオイルを販売するため市場に運ぶのも彼女たちの仕事である。また同時期に60人の少女たちを対象に、自尊心の育み方と進路指導についてセミナーを開いた。9月と10月にプロジェクトについて最終的な取り決めを交わし、最終評価を行った。

■パームオイルの生産
パームオイル(赤色)を生産するには、まずアブラヤシの果房を収穫しなければならない(果肉の中心部が核)。太陽の日差しを受けて熟した果実が好ましく、収穫は乾季に手作業で行われる。女性たちは雨期に行うこともあるが、この時期には大量に収穫できない。収穫のために木に登ったり、果実をゆでる作業などは、女性たちにとって危険と隣り合わせである。だが、今回のプロジェクトをきっかけに今では、木登りは男性が行うようになった。

最初の搾油作業には、前回のプロジェクトに続き今回も尽力してくれたリンダ・オサレンレン前IAC広報官を招待し、作業に立ち会ってもらった。

<パームオイルの生産工程>
1)アブラヤシの果房を収穫する。
2)果房から果実をはずす。
3)ドラム缶で果実をゆでる。
4)ゆで上がった果実を粉砕機にかける。 
5)圧搾機で圧力をかけ油を搾る。
6)油を搾った後に残ったものに繊維分離機をかけ、茎部分を取り出す。
7)茎に再度圧力をかけ、油を搾る。
8)抽出した油を煮て、水分を取り除く。こうすることで、油を最長1年間保存できる。


収穫されたアブラヤシの果房



油を煮て水分を取り除く



リンダ・オサレンレン前IAC広報官(右)


<アブラヤシの用途>
1)果実からは調理用のパームオイルが作られる。 
2)葉は、床を掃くほうきの材料となる。
3)核からは、古くから使われているボディクリームができる。
4)茎は、調理用の燃料となる。
5)堅い殻は、家の土台として腐食を防止するために使われる。
6)木は伐採され、屋根板の支えとして用いられる。

今回支援してくださったWAAFの皆さんにあらためて感謝したい。このプロジェクトがしっかりと実を結ぶよう、今後も私たちは力を注いでいく。


―ニュースレター78号掲載―
(住民によるFGM廃絶宣誓書の掲載はここでは割愛しました。)



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