『9.11事件の真相と背景』(8)

「テロ」か? 自作自演の戦争挑発謀略か?
アメリカ=イスラエル=世界支配構想の核心を突く

電網木村書店 Web無料公開 2006.2.2

第5章 「極右」イスラエルを支える
アメリカのユダヤ人・ロビー

 9・11事件以後、電網はもとより、一般の大手メディアにも、アメリカ、イスラエル、ユダヤのキーワードが、一連のつながりを持って頻繁に登場するようになった。

 湾岸戦争以来、この関係に取り組んできた私は、いささかの皮肉を込めて、この状況を9・11事件の「最大の歴史的成果」と評価している。

米メディアのユダヤ人支配は米国内外の常識の発言が9・11事件で公然化

 その状況を象徴的に示した事件に関連して、私は、以下の題名の通信を発した。

http://www.jca.apc.org/~altmedka/akuukan-02-01-148.html
『亜空間通信』148号(2002・1・21)
【テレ朝攻撃は藪蛇/米メディアのユダヤ人支配は米国内外の常識の発言が公然化】

 この通信で「テレ朝攻撃」と記した事件については、テレビ朝日の親会社が発行する『朝日新聞』に、以下のような短い記事が載った。

『朝日新聞』(2001・10・19)
ユダヤ系団体/テレ朝に抗議/解説者発言「不当」

 【ロサンゼルス17日=伊藤千尋】 米ロサンゼルスに本部を置くユダヤ系団体、サイモン・ウィーゼンタール・センターは17日、テレビ朝日の番組のニュース解説でユダヤ人に関して不当な発言があったとして、同局の川村晃司・元カイロ支局長の更迭と会社としての謝罪を求めた。

 同センターによると、川村氏は米国での炭疽菌事件について、「ユダヤ人が狙われた。彼らが米国のメディアを支配しているためだ」という趣旨の発言をしたが、これは偏見に基づく誤りだと指摘している。同センターによると、初期の炭疽菌の被害者にユダヤ人はいないという。

 川村氏はテレビ朝日の「スーパーモーニング」コメンテーター。同局はこの文書 を17日に受け取った。「現在精査しており、真撃に対応したい」とコメントしている。[後略]

 この朝日記事の文中の「サイモン・ウィーゼンタール・センター」は、私も関係した『マルコポーロ』廃刊事件の際、やはり、実に強引な斬り込み部隊の役割を演じたのであるが、今度は逆に、私が「藪蛇」と評価する結果となった。

 この件では、海外での英語報道もあり、同時期に「NHK解説主幹」長谷川浩さんの突然の不審な死亡事件が起きたので、両事件をあわせて、イランの『テヘラン・タイムズ』(2001・10・24)が、以下の拙訳の部分を含む英文記事を発表するに至った。

http://www.jca.apc.org/~altmedka/akuukan-01-10-61.html
『亜空間通信』61号(2001・10・24)
【イラン紙がシオニストのテレビ朝日脅迫に加えてNHK解説主幹の「殺害」を批判】

 その他の展開としては、日本の共同通信が、日本のNHKのテレヴィの上級のコメンテーターで、米国の9月11日の攻撃を調査していた長谷川浩(55)が、東京において未知の攻撃者によって殺害されたと報道した。[後略]

 文中の「共同通信」が配信した英文を確認するために、私は、何度か電話したのだが、長谷川浩さんの死亡の報道をしたことを認めはするものの、「未知の攻撃者によって殺害された」という主旨の部分が入っていたかどうかについては、確答を得られなかった。

 「あの」NHKはもとより、共同通信の対応も怪しかった。経過の細部は、以下の連載記事に入っているので、興味があれば御覧頂きたい。

http://www.jca.apc.org/~altmedka/TVasahi-NHK.html
「シオニストによるテレビ朝日解説者更迭の脅迫事実とNHK解説主幹『殺害』疑惑」

 私が「テレ朝攻撃は藪蛇」と評価したのは、私の古巣でもある民間放送の労組の連合体、民放労連が肝煎りのメディア総合研究所が発行する『放送レポート』174号(2001・1)に、以下の部分を含む記事が掲載されたからである。

 「米国民の3%、イスラエル本国より100万人も多い700万人の在米ユダヤ人が、米国の政治、経済ばかりでなく米メディアの世界にも大きな影響力を持っていることは、米国内外の常識となっている」

 この部分を含む記事の題名は「テロ・戦争とジャーナリズム」であり、執筆者は、新聞労連副委員長、新聞労連新聞研究所長などの労組役員歴も有し、業界では元・共同通信編集主幹、現・民放連(民放の業者団体)放送番組調査委員会の委員長の原寿雄さんである。

 なお、以上の「在米ユダヤ人」の人口を「700万人」とする部分に関してのみ一言すると、イスラエルの人口は500万人を超えたばかりである。在米ユダヤ人は米国の総人口の4%に近づいており、総人口を2億6000万人とすると1000万人ほどのはずだから、この数字は100万人ではなく500万人が妥当であろう。「在米ユダヤ人」というのは国籍はアメリカ人なので、公式統計はない。1300万人説もあるが、詳細は要調査である。彼らが動かせる資産総数は、さらに驚嘆すべき超巨額のはずである。

 原寿雄さんは、問題となった「テレ朝コメンテーター川村発言」について、「ジャーナリストの一つの見方として合理性があったというべきである」としている。こういう発言が公然化するに至ったのである。私としては、「今昔の感」ありなのである。

 しかも、この事件そのものは、テレ朝の一応の謝罪と、川村コメンテーターの「事情説明」と「遺憾」発言で収まった。川村コメンテーターは、「アメリカのメディアがユダヤ人に支配されている」と「アルカイダが考えている」という主旨で説明したのだが、言葉が足りなかったとして、「遺憾」の意を表明し、それ以上の追撃はなかったのである。

 以上のごとく確かに、日本におけるユダヤ人や、イスラエルとかに関する認識は、急速に深まったが、なにごとに関しても、中途半端、半可通という現象が付き物である。

アメリカのユダヤ人・ロビーの歴史と抜群の力量

 9・11事件発生直後には、イスラエルのシャロン首相とホワイトハウスの間の不協和音が、日本国内でも、いささかは報道された。アメリカとイギリスのユダヤ人社会が大揺れに揺れているとの情報も飛び交った。

 ところが、その後、「ユダヤ人社会の大揺れ」は、複雑な経過を経て、沈静し、今、イスラエルは、前記の「スターン・インテル(カナダ)」発情報そのままの「パレスチナのアラビア人に対する大規模な軍事的猛襲」を実行に移している。この経過の背後には、抜群の力量を持つアメリカのユダヤ人・ロビーが潜んでいるのである。

 一部には、ブッシュ政権とイスラエルまたはユダヤ人との間の反目関係を大袈裟に解釈し、アメリカの民主党と共和党とでは、ユダヤ人に対する対応が違うのだなどと、いかにも特ダネのように報じる向きがあるが、これこそ「半可通」の典型に他ならない。アングロサクソン系統とユダヤ人との間の「不協和音」は、今に始まったことではない。それどころか、ヨーロッパの中世にまで遡る歴史を持っている。単なる一時的な「不協和音」というよりも、共生関係から滲み出す近親憎悪的な相克なのである。しかし、この「近親」同士は、共通の利害に立ち向かう時には必ず手を組むのであり、近年のアメリカの二大政党、共和党も民主党も、もともと似たような政策しか持っていない。わずかな距離の違いだけで、すぐにユダヤ人ロビーの巧みな支配に屈するのである。

 ただし、9・11事件後の上記のような「アメリカとイギリスのユダヤ人社会が大揺れに揺れている」という状況認識には、具体的な根拠となる事実があった。その事実に関する情報は、当時、日本の大手メディアの報道にも、少しは出ていた。発端は、イスラエル首相のシャロンが、アメリカが設定した「敵」の「テロリスト」の中に、パレスチナ関連組織の名が入っていなかったので「激怒」し、これに対して米政権が「不快感」を表明したことにある。しかし、これさえも実は、近親憎悪を孕みながらの幕間狂言、お芝居だったのかもしれないのである。

 この時の私の想定と、その後の結果は、次の情報に要約されている。

http://www.jca.apc.org/~altmedka/akuukan-01-10-41.html
『亜空間通信』41号(2001・10・14)その後の若干の増補版
【シャロン暴言紛糾を背景にユダヤ人指導者は分裂を避けてブッシュ政策後押し】

 私は、これより先に、今回の事件以後のアメリカの政策に関して、シャロンとホワイトハウスの諍いを紹介したが、その裏舞台を覗くのに絶好の「アメリカのユダヤ人社会」の論評が現われたのである。

 この経過の核心は、これまでにも何度か発揮されたユダヤ人社会または政治的シオニスト組織の二枚腰の強味であり、しかもその中心が実はイスラエルにではなく、アメリカにあることを如実に示している。以下、拙訳『偽イスラエル政治神話』の中から「アメリカのイスラエル=シオニスト・ロビー」の一節を紹介して、その実力のほどを示す。

 アメリカのシオニストが、いかに強力なものであるかを如実に示すのは、すでに1942年、ニューヨークのビルトモア・ホテルで作成されていた過激な内諾の憲章による決定である。その決定とは、世界シオニスト機構イギリス代表のロスチャイルド家当主に、1917年当時のイギリス外務大臣バルフォアが約束した“パレスチナの内部のユダヤ人の郷里”[homeland]を、その主旨のような、イギリスまたはアメリカの保護下における土地の買収による緩やかな植民としてではなくて、「ユダヤ人の主権国家」(Etat)の創設として通用させることだった。[後略]

極右シオニストの奸智のほどに驚きを新たにすべき事態の進展

 以下は、2001年10月8日付のアメリカのユダヤ人社会の新聞に載ったニューヨーク発記事の拙訳である。

 私は、これを非常に重要な記事と判断しているので、あえて全文を再録する。記事の題名は「分裂の議論を拒絶し、ユダヤ人の指導者たちはブッシュの政策を後押し」である。この記事を掲載していた電網宝庫のURLと名称は以下であるが、電網宝庫そのものは存在し続けているものの、記事は、NEW YORK, Oct. 8 (JTA)の書き出しで、すでに1年以上前のものなので、現在は出てこない。右のわが通信には、当時取り込んだ英文記事の全文が掲載されている。

http://www.jewish.com/jta/
Jewish Community Online - Jewish Telegraphic Agency

[以下、全文の拙訳を再録]

 ニューヨーク、10月8日(JTA)テロリズムに対しての米国が率いる戦いの開始に当たって、アメリカのユダヤ人の指導者は、ワシントンの後押しに回った。

 それと同時に、イスラエルの利益が棚上げにされるかもしれないという不安は、沈静しているようである。

 9月11日からの1週間、アメリカ政府は、テロリズムのすべてを根絶する幅広い目標を最初から目指すと、かえって結果的にはより狭い同盟の結成に終わると判断し、ウサマ・ビンラディンと彼のアルカイダ・テロリスト・ネットワークを追及する狭い目標による発端の方が、幅広い国際的同盟の結成の確立につながるとする現実的政治方程式に従って行動したようである。

 アフガニスタンに対する日曜日の最初の空爆に向けるエンジン全開の準備段階では、政府の進路をめぐる二つの世間周知の騒ぎが起こり、ユダヤ人とイスラエルが異議を唱え、おそらくアメリカのユダヤ人の内部で分裂が起きているとの憶測を生んだ。

 多くのイスラエル人とアメリカのユダヤ人の指導者たちは、ブッシュ政府がイスラエルとパレスチナの新しい平和交渉の取り持ちの開始と、パレスチナ国家支持の宣言を準備していたとの報道が渦巻く最中、不意討ちを食わされたと感じていた。

 アメリカのユダヤ人の主要な組織の長たちを束ねる協議会の議長、モーティマー・ザッカーマンが引き合いに出され、彼が、反テロリズム同盟の結成にアラブ諸国を加えようとする政府の方針を、イスラエルに対してのパレスチナ人の過去の長年の暴力に報酬を与える「非常に近視眼的な誤った方針」の意図的な漏洩として描き出しているとされた。

 ザッカーマンは、この言葉に関して後に、彼の発言の前後関係を無視して取り出された誤解だと語った。

 イスラエルのアリエル・シャロン首相は、その時、多くのイスラエル人の危惧を表明し、「我々を犠牲にしてアラブ人を宥める」のを止めよとブッシュ政府に警告し、1938年当時に西側諸国が、より広範囲のヨーロッパの戦争を避けるために、チェコスロバキアを売り渡した悪名高いヒトラーに対する宥和政策を引き合いに出した。

 このシャロンの発言は、外交上の諍いばかりか、ユダヤ人のコミュニティが分裂の様相を週末にかけて広げる状況へと引火し、50人ほどのアメリカのユダヤ人の指導者たちはブッシュを支持する連名の手紙を作成した。

 伝えられるところによると、空襲を前にして週末に、シャロンとホワイトハウスは関係を修復した。

 そしてアメリカが新しい軍事作戦に乗り出した月曜日、ユダヤ人の指導者たちは支持を表明すると同時に、反テロリストの捜査網がビンラディンと彼のネットワークを越えて、いずれはイスラエルの敵であるハマスとヒズボラなどをも含むようになるとの非公式の保証の見込みを、ワシントンから取りつけた。

 大部分のユダヤ人の指導者たちは、アメリカとイスラエルの利益がおおむね一致するとの信念を表明した。

 アメリカのユダヤ人の主要な組織の長たちを束ねる協議会[前出]の執行副議長、マルコム・ホーヘンラインは、「政府の方針に関しては、現在進行中の施策と、その後の世界的なテロリストの全体的な基盤への追及との両方を、ワンショットにはしないことについて、幅広い共通認識と支持を確認する」と、語った。

 「このテロリストの[世界的な]ネットワークの一部への追及に取り組むことによって、アメリカの安全保障や資産擁護と同時に、イスラエルの安全保障を強化することができる」

 ユダヤ人の公共的な組織の全国規模の統率団体、AIPAC〔註 ユダヤ人公共問題[特に外交政策に関する]評議会〕もまた、大統領を支持した。

 この集団の共同理事、マーティン・ラッヘルは、「我々は大統領の方針を支持するし、我々がそのことを公式に発表して語り続けることが重要だ」と、語った。

 ラッヘルは、「これは『静観して見守る』べき性質の問題ではない。我々は、民間人に暴力を振るう者に対しては三振を喫していると語った大統領の言葉に基づいて、彼を支持する」と、語った。

 「これはテロリズムに対する作戦の開始であって、その終結ではまったくない」

 一方、主流の左右を問わず、ワシントンが反テロリズム作戦とパレスチナの問題を連結するかどうかの予想に関する見解は、混迷している。

 多数のアナリストとビンラディン自身を含む中東関係者は、アラブ・イスラエルの紛争を、イスラム世界における反米の憤激の第一ではないにしても、主要な根源の一つとして指摘してきた。

 イスラエル政策フォーラムも同様に、テロリズムに対するブッシュ政府の措置を賞賛しつつ、イスラエルとパレスチナを再び交渉のテーブルに着かせるブッシュの新しい方針を歓迎した。

 ワシントンのイスラエル政策フォーラムの理事、トム・スメーリングは、「アラブ・イスラエルの紛争は、一部の例外を除いて、アメリカの援助によってのみ推進され得る」と語った。

 「深い紛争状態にある関係者はほとんど、第三者の関与なしには紛争から離脱することができない」

 多様な見解の中の反対側には、アメリカのシオニスト機構の議長、モートン・クラインがいて、パレスチナ人の暴力をはね返すためのイスラエルの努力に関して、ブッシュが「重大な損害」を及ぼしたと語った。テロと闘うブッシュの努力に対する彼自身の支持を強調しつつも、クラインは警告した。

 「彼[ブッシュ]は、パレスチナ国家の未来像を持つと語ることによって、テロリズムを続けようとするアラブ人の食欲を刺激している。彼は、テロリストを匿うすべての国家を我々が根絶するのだと誓ったが、その次には後ろを向いて、まさにそれらの政権に同盟への参加を求めている。その態度は、彼がイスラエルに対して非常に危険な体制を宥めているというシャロンの嫌疑を証明するものだ」

 それでもなおクラインは、その戦いが最終的にはイスラエルの利益に向けて拡大されることを示唆した。

 「私は、ブッシュの政策が全体としてアメリカとイスラエルのためになるという信頼を失ってはいない」と、彼は語った。

 ビンラディンとタリバンだけを破壊する間、「他の連中に通常通りの所業を続けることを許してしまうならば、我々がテロリズムとの戦いに負けることを意味する。彼[ブッシュ]が、その連中を破壊しなければ、テロリズムは持続することになる」と、彼は語った。[後略]

 幸か不幸か、私の予感は的中した。3か月後、私は、以下に抜粋する通信を発した。

http://www.jca.apc.org/~altmedka/akuukan-01-12-122.html
『亜空間通信』122号(2001・12・13)
【パレスチナ自治区空爆アラファト絶縁宣言にシオニストの奸智再認識し非暴力論】

 以下は、すでに本通信で紹介した情報の要約再録(前出の記事、「分裂の議論を拒絶し、ユダヤ人の指導者たちはブッシュの政策を後押し」のこと)であるが、今、これを読み直すと、極右シオニストの奸智のほどには、驚きを新たにする向きが多い「はず」である。

 別途、2000年秋に、私は、アラブ人記者に対して、暴力主義の日本型典型、日本赤軍英雄視の誤りを指摘し、日本の心情的な支持者に対しても批判を発し、非暴力抵抗への転換を示唆し、以後、何度か歴史的な事例に基づく考察を記したのである。

 その時の予感も、不幸にして適中した。シャロンの軍事挑発に乗って、パレスチナ人が抗議の抵抗を行うと、「テロ!」と糾弾し、石に対して弾丸、弾丸に対してミサイル、戦車、ついには空爆に至ったのである。シャロン戦法は典型的な破落戸の喧嘩の手法である。破落戸を相手にして勝ち目がないのに無駄な抵抗をするのは愚の骨頂である。

 2000年秋は、シャロンが、パレスチナ人が管理権を持つ「神殿」に、武装警官隊を率いて入るという前代未聞の挑発を行い、事実上の内戦が勃発した時期である。

 いわゆるユダヤ人ロビー、またはシオニスト世界機構の政治的な実力のほどに関しては、拙訳『偽イスラエル政治神話』に譲るが、その歴史は複雑に入り組んでいる。

ロスチャイルド家を筆頭とするユダヤ系財閥の歴史と中東への投資

 政治力の基本的な土台は、「地獄の沙汰も金次第」とか、何よりも経済力である。

 以下は旧著『湾岸報道に偽りあり/隠された十数年来の米軍事計画に迫る』の補章、「ストップ・ザ・『極右』イスラエル」からの抜粋と補足説明である。

 「ユダヤ人」のパレスチナへの意識的な移住運動は、すでにベルリン条約[1878年]の直後から始まっている。移住に必要な資金のほとんどは、有名なユダヤ系国際財閥のロスチャイルド家から拠出されていた。ロスチャイルド家の最初の援助は、現地の土地の購入資金であった。つまり、現地には「民なき土地」など存在しないことは、移住した当事者たちにとっても常識であった。[中略]ロスチャイルド家に関する文献は、それだけで図書館をなすといわれるほどであり、ユダヤ系の大富豪特有のヘソ曲りな逸話に満ちているため、ことの真相に迫るのは容易でない。だが、大筋を見ると、陰に隠れた資金援助で最初にパレスチナ移住を促進したのは、ロスチャイルド家にほかならない。[中略]

 興味深いことには、日本語版訳者がわざわざ、「ロスチャイルド一族の協力を得て完成した本書は……珍しいもの」として紹介する『ロスチャイルド王国』にさえ、次のような、一読しただけでドキリとする一節があった。

 「彼が買い取った入植地はジュディ、サマリア、ガレリアにわたって点在し、必要あれば、戦略的に拠点として役立つという確認さえとっていた。その時は40年後にやって来た」

 「彼」とは、パレスチナへの移住から現地での企業作りまでの資金援助に一番熱心で、財産を傾けたとさえいわれるパリの当主、エドモン男爵のことである。[中略]

 もともとロスチャイルド財閥の出発点は、ドイツのヘッセンにおける両替屋上がりの「宮廷銀行家」であって、税の徴収、軍需品の調達、戦費の貸しつけなど、なんでもござれ。最後にはフランス革命の嵐の中で、亡命中の王家の財産を管理して、浮き貸しの投機やら、大陸封鎖破りの密輸までこなし、またたく間に巨富を築いたのである。日本の三井財閥が薩摩や長州と結んで成功したのと、まったく同様、いや数倍も上をいく近代史である。

 ロンドンには時の当主の3男ネーサンが銀行を開き、対ナポレオン戦争では、イギリスの軍事財政を金貨の輸送までまかなうという、当時では最大の国際的金融投機に成功した。しかもネーサンは、独自の国際情報網によってワーテルローでの歴史的勝利をいち早く知りながら、わざと証券取引所で債権を投げ売りし、「ネーサンが売り、つまりは敗戦」の耳情報で大量の投げ売りを誘い、値が下がるだけ下がったところで一挙に買い占めて莫大な利益を得たという、証券取引の歴史上最大のエピソードの持ち主だった。[後略]

 以上のように、すでにパリ、即ちフランスの「エドモン男爵」とロンドン、すなわちイギリスの「3男ネーサン」の名が出ているが、ロスチャイルド家は子沢山で、その他にも本家のドイツ、隣のオーストリア、そのまた隣のイタリアにも、兄弟が配置されていた。この5人の兄弟が前記の「独自の国際情報網」を構築し、ナポレオン戦争という近代ヨーロッパの始まりの大戦争を絶好の舞台として、巨富を築いたのである。それは同時に今に繋がる「秘密情報機関」の始まりでもあったのである。

 これが、イスラエルを強力に支持する「政治的シオニスト」の土台なのである。しかも、その後には、ロスチャイルドの縁者で、資金力では上回っていたユダヤ資本、ナチスドイツと事実上の協力関係を結んだヴァルブルグ(英語読みはウォーバーグ)銀行も、のし上がっているから、その総合力たるや、並大抵ではないのである。ヴァルブルグ銀行または財閥の歴史に関しては、最近、日経出版から一族の伝記の訳書が出ている。ただし、原書と照らし合わせると、シオニストと関係する部分が、かなりの分量、省かれている。訳書にはよくあることだが、この場合は、疑問なしとしない。

 もちろん、この種の「権力」は常に暗闇の実働部隊を必需品とする。本書では別途、『マルコポーロ』廃刊事件を仕掛けたサイモン・ウィーゼンタール・センターを「斬り込み部隊」と位置づけた。その他諸々の暴力的な極右集団に至るまでの魑魅魍魎が、ユダヤ資金の周囲に群がっている。

 その影響は当然、日本にも及んでいる。いや、むしろ、彼らは、日本の世論を非常に重視しているのである。ここではあえて名を挙げないが、私は、彼らの圧力で立場を失うことを恐れて口をつぐんでいる中東関係者が多数いることを、直接の接触を通じて熟知している。このような事情は、あらゆる業界に潜んでいるが、中東業界もその例外ではない。むしろ、今の今、状況の険悪化を反映して、国際的な重圧が増大しつつある。その状況が次章で指摘する問題の底辺を成しているのである。


第6章 「イスラエル・CIA説」から逃げた「中東通」の中東蔑視