ユーゴ空爆の背景 利権と歴史と謀略と侵略とメディアの嘘と(36)

ユーゴ戦争:報道批判特集

訪米報告(2):KLA sag(ゴロツキ)か、
NATO & G7 sagか?

1999.8.13 WEB雑誌『憎まれ愚痴』33号掲載

1999.8.10.mail再録。

 1999.7.31.ニューヨーク市で開かれた独立国際戦争犯罪法廷では、NATOが実質的に手を組んだKLA(コソボ解放軍)のことを、実にアッサリと、KLA sag(ゴロツキ)と呼び捨てにしていました。この、CIAがらみの麻薬密輸で武器を仕入れる方式の傭兵部隊について、日本では、あまりハッキリとした批判報道は見掛けませんが、KLA sag(ゴロツキ)は、実態に則した表現に違いありません。しかし、元・中国からの引き揚げ者の子供、元・敗戦国、現・アメリカの末っ子州の住民としては、この表現には、どうも馴染み切れませんでした。物悲しくなるのです。

 日本も、国内の被差別者、幕末の侵略による沖縄県民、朝鮮人、台湾人、中国人などなどを、侵略の先兵に使ってきました。今も、その構造の後遺症が続いています。この方式は、近代のヨーロッパ列強の世界制覇の際にも共通していました。そういう相も変わらぬ歴史の視点から、アルバニア人とセルビア人の抗争なるものを見る時、同じ歴史を繰り返す侵略の真の主体、NATO、そして、その経済的土台としてのG7の一員としての日本に対してこそ、私は、sag(ゴロツキ)と怒鳴りつけたくなるのです。

 以下、アルバニアの現状について、これまた、ご苦労ながらも、実は、新たなる経済侵略の先兵として現地取材している日本経済新聞(戦争中は特派員を送らず)の特派員による最新記事を紹介します。


欧州最貧国アルバニア

『日本経済新聞』(1999.8.9)

「地球カレントアイ」(GLOBAL CURRENT)

【本誌編集部注】:数字はアラビア数字に変換し、かつ、近未来戦慄のY2K問題にも鑑み、91年を1991年などと加筆した。以下の[ ]内も本誌編集部注。

〈深〉〈断〉〈層〉

汚職体質根深く治安・基盤に課題

救いは労働コスト

バルカン安定のカギ握る

[地図]:アルバニアの主な開発計画
「産業道路建設」[ユ-ゴスラヴィア連邦コソボ州を通過してマケドニアに至る]
「水力発電計画」「港湾開発」「観光開発」
[写真説明]:
1.ティラナの公園内に建てられたレストランどショッピング街は取り壊された
2.政府の汚職体質への批判が高まっている(腐敗ぶりを皮肉った雑誌の表紙)

[以下、本文]

 ユーゴスラビア・コソボ紛争終結に伴いバルカン諸国の復興が動き出す中で、欧州最貧国のアルバニアがあえいでいる。根深い汚職体質、治安の悪さ、皆無に等しい産業基盤など復興論議の前に処理すべき課題があまりにも多いためだ。同国が立ち直らない限り、バルカン半島の安定は困難と言われるだけに、先進各国も全面支援する考えだが、復興への道のりは果てしなく遠い。

「おつりは渡せない」。7月14日、アルバニアの首都ティラナの空港で入国税を払った時、政府職員はこうはねつけた。入国税は29ドル。50ドル札を渡した。次の入国者が29ドルちょうどを払うのを見届けてから抗議すると、20ドルだけそろりと差し出した。

 ディラナ中心部に入ると、広大な公園内にレストランや小売店が立ち並んでいた。「以前は緑豊かな美しい公園だった」と地元ジヤーナリスト。キオスクと呼ばれるこの建物は、4~5年前から政府に2~300ドルのわいろを払っで建てられ始めたという。今や市民生活に不可欠な最大のショッピングセンターだ。

無秩序な市場化

 政府の現場職員や政府系機関の窓口に何か頼めば、必ずといっていいほどわいろを求められる汚職体質……。鎖国政策を続けていた共産主義独裁政権が1991年に崩壊し、経済ルールが全くない中で市場化が始まったことが背景にあるが「他の途上国や旧共産諸国と比べでも飛び抜けてひどい」(欧州委員会のキャステラクノシ・アルバニア駐在副代表)。このため、地元企業がなかなか育たず、外資系企業は投資に慎重だ。

 貧しい国が多いうえに様々な民族が入り乱れ、紛争が絶えないバルカン半島。その中でも、アルバニアは異質だ。昨年11月憲法をようやく制定したが、法律は毎年のように変わる。労働者の平均年収が1000ドルにも満たないため、周辺国への出稼ぎが多いが「犯罪も運んでくる」と周辺国は批判的。イスラム教徒が多数を占めていることもあり、欧州各国はアルバニアと一線を画してきた。

 こうした孤立化ムードがコソボ紛争終結をきっかけに一変した。バルカン半島全体の復興なくして同地域の安定はありえないとの機運が広がり、アルバニアも重要な支援対象国になったためだ。アルバニア政府も汚職構造を変えようと改革に動き出し、七月中旬にキオスクの取り壊しに着手した。しかし、業者が訴訟を起こし、政府が敗訴。改革は簡単に進みそうにない。

訪問を突然中止

 同国最大の貿易都市ドウラス。貿易業者が高関税から逃れるために税関職員にわいろを渡す慣例をなくすのを狙って、政府は5月から申告書に輸入額の記入を義務付け、コーヒーやたばこなどの関税を半分の50%に引き下げた。「こ分2ヵ月の税収は2倍」とコンディ大統領報道官は成果を強調するが、ドゥウラス税関職人は「成功するわけないだろう」と冷ややかだ。

 治安が悪いことも経済発展への障害だ。7月13日にコソボを訪問したコーエン米国防長官はアルバニア訪問を突然取りやめた。コソボ紛争で駐留していた北大西洋条約機構(NATO)軍の大半がコソボ自治州に移動し、治安が一段と悪化したというのが理由だ。

 1997年にねずみ講式投資組織が相次ぎ破たんし、国内総生産(GDP)の半分にあたる10憶ドル以上の被害が発生、市民がほう起した。市民は軍の設備など[ママ。(を襲撃し、)が脱落したと思われる)数百万丁の銃火器を略奪、今も回収されないままだ。アルバニア政府は9月1日に完全撤退する予定のNATO軍に対して、恒久的な駐留を要請。とりあえず、9月中はとどまることになったが、治安維持へのシナリオはまだ描けない。

 産業、金融、情報などのインフラも末整備のままだ。地元銀行が数行あるが、貸し出しできず、金融機能は停止状態にある。ねずみ講式投質破たん以降、だれも銀行を信用せず、預金しようとしない。アルバニア産業界は「企業が資金調達できるように投資ファンドを認可すべきだ」と要請しているが、1997年の破たんに懲りて認可に及び腰。外国銀行も地元企業の融資には慎重だ。

電気や電話も

 電気などエネルギー事情も悪い。国営のエネルギー企業は20~30年前に中国や当時のソ連から技術を導入したものばかりで老朽化が激しい。電話線を引くのに1000ドルのわいろを要求されるため電話も普及率が5%に満たないという。

 難問山積の中で、「アルバニアにも希望はある」とココ・コケドヒマ産業連盟会長は言う。次期欧州委員長のプロディ伊前首相はバルカン諸国との自由貿易圏構想を提唱する。自由貿易圏が出来れば、労働コストの安さがプラスになり、輸出拠点として発展する可能性が出てくる。国民の教育上準も高いという。31歳のマイコ首相に対し「経験が浅いが、真剣に取り組もうとしている」(コケドヒマ会長)との期待もある。

 アルバニアの最終目標は欧州連合(EU)加盟。「日本企業もどんどん投資して、技術移転してほしい」と首相側近のウルチニ情報相は言う。外国企業を誘致するための条件作りが、目標実現のための第1のハードルとなる。

(ティラナで、品田卓)


本誌編集部注:『世界大百科事典』(平凡社、1988)より

「人口259万人。[経済、産業]第2次世界大戦前のアルバニアはヨーロッパでももっとも遅れた農業国であった。戦後は1948年までユーゴスラビア、1948-1960年ソ連、1961-197年中国などの経済援助により、工業化を推進し、国民総生産の半分を工業が占めるようになっている。1951年以降5ヵ年計画を実施し、現在第7次計画(1981-1985)に入っている。第6次計画では、国民所得の成長率が38%、工業生産は41%であった」

 以上。


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