ユーゴ空爆の背景 利権と歴史と謀略と侵略とメディアの嘘と(1)

ユーゴ戦争:報道批判特集

「戦争報道」の政治的位置付け温故知新

1999.3.3 WEB雑誌『憎まれ愚痴』10号掲載

 1999.3.2. 某国にいる日本人の留学生から、修士論文の題材に付いて、個人宛のmailで意見を求められた。私の「多忙」への礼儀正しい配慮が見られる文面だったので、このところ引き続く「ガス室」問題での無礼な愚問との付き合いを拒絶してはいるものの、これは特別扱いとし、下記のように、その抜粋を本誌に掲載する前提で、mailをしたためた。

 以下は、1999.3.3. ひな祭の夕方に送ったmailの一般向け抜粋である。

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木村愛二です。

 拝復。ご質問の「最近のイラク爆撃に関する米英の戦争報道」を「どう思うか」との件について、当面の目的に役立つかどうかと思いますが、一応、私の考え方を、まとめてみました。

 なお、下記のような状況もありますので、論文の提出に当たっては、私から得た情報は、「情報源秘匿」にして置くことを、お勧めします。そうしないと、どこぞから弾が飛んできて、不合格にならないとも限りません。私への義理立ては考える必要はありません。論調も上手に偽装した方が有利でしょう。

 実は、このところ続けざまに、外国(日本を含む)の大学院で修士・博士論文を準備中の学生たちから、わがホームページ検索や名誉教授らの推薦により、湾岸戦争報道批判以来の「戦争報道」関係についての質問を頂き、これはまた、いよいよもって、うっかりしたことは言えなくなったなどと、内心では少し困っていたところです。

 なにしろ私は最近、ホームページでも明らかなように、「偽」イスラエルの「ホロコースト」神殿の「奥殿の神器」こと「ガス室」は嘘だ、パレスチナを奪い取るための謀略だったのだと主張して続けているので、日本各地のお行儀の良い「大学教授」様、様、たちから、デマゴーグだとか、ネオナチだとか、まさに様々な用語で罵倒されたり、嘘付き呼ばわりされたりしています。甚だしきに至っては、今や私学の名門、実はかつて、今は亡き私の叔父で、一族の中では最も無頼の名の高い道楽者が通った同志社大学の渡辺武達教授、様、様、からは、長い長いメールを1度に5通もまとめて、何百人もの会員がいるpmnこと「民衆のメディア連絡会」のメーリングリストに投げ込まれ、その上さらに、ご丁寧にもA5判18枚ギッシリの同文コピーまで、拙宅宛てに、ご送付頂きました。その中では、私について、「まともな学問的訓練を受けていないから仕方がない」などと、まことにもって、ご丁寧至極な、ご診断まで恭けなくしているのです。

 その後、サイバ-界の大先輩から漏れ聞いた懐古談によると、かつて、いわゆる「戦争と平和」問題関係の市民運動家たちが、インターネット以前のパソコン通信の会で、戦後50年の議論をしていた折、いわゆる「右」からの「潜入」による妨害として、長い長いメールを1度に何通もまとめて投げ込む手法が駆使されて、それを受けとるのが嫌で脱会する人が続出し、会が崩壊した経験もあるとのことでした。渡辺武達教授、様、様、は、どうやら、この種の通信の長い経歴をお持ちで、しかも専門研究分野とされているようなので、さては、「敵に学べ」とか、「右」の真似をされたのかな、いや、ご自身の正体が実は「右」なのかな、などと愚考中なのであります。

 さてさて、閑話休題。

 ご質問の件は、私自身が、いずれまとめてみたいと思っていたことでもありす。確かに多忙なのではありますが、それも、当面は特に、自分勝手な実験的Web週刊誌『憎まれ愚痴』発行によるものなので、その内の「時事論評」特集に、お名前や留学先などの情報を伏せる形で再録させて頂くことを前提にして、基本的な考え方を述べてみます。

 まずは最近の実例ですが、 NHKのE-TVが、昨年、1999年末に、12月8日の、いわゆる真珠湾攻撃の記念日に因んで、アメリカのTVニュース報道における「戦争と報道」の実証的な分析を試みました。この番組については、上記『憎まれ愚痴』1,2.号の連載「シオニスト『ガス室』謀略の周辺」に、その資料紹介と私見を掲載しました。担当者に直接聞いたところでは、先達のない実験的な手法だとのことでした。しかし、似たようなことはすでに、市民組織が行っていました。詳しい資料としては、カナダの例(『メディア・リテラシー/マスメディアを読み解く』カナダ・オンタリオ州教育省編、FCT(市民のテレビの会)訳、リベルタ出版、1992)もあり、その関係者は日本にもきています。アメリカでも日本でも、その種の市民運動が続いています。上記の本の訳者代表、鈴木みどりさんは、その後、同志社大学の教授になっています。

 今後の課題としては、そういう「戦争報道」分析の基本的な前提に、まずは、「戦争」そのものの位置付けを、正確にすることが重要だと思います。

 手元の『孫子』の冒頭「計篇」の最初には「孫子曰く、兵者国之大事」とあります。

 今は他の出典を確認する時間がないので、この他は、参考までに記憶で書きます。

 クラウゼヴィッツは、軍事を政治に従属すべきものとして位置付けました。確か、フランスの政治家、タレーランの言葉だったと記憶しますが、「戦争は軍人に任せて置くには重大すぎる」という名句があり、これも記憶ですが、これをもじって、イギリス政界の大物が、「放送は放送人に任せて置くには重大すぎる」と称して、BBCに干渉したという話がありました。

 私が言いたいのは、「戦争」も、「マスメディア」も、「国之大事」なのだと言うことです。特に、マスメディアの位置付けは高まる一方でしょう。

 次の課題は、その「国」そのものの政治的段階の位置付けです。

 私は、拙著『湾岸報道に偽りあり』に、いわゆる「平和運動家」からは反発を受けるのを承知の上で、むしろわざと、元軍人の著書や雑誌記事を引用しました。彼らは、こういう問題の専門家なのです。それこそ「敵に学ぶ」べきなのです。

「第一部」の冒頭では、元陸軍参謀、大橋武夫の『謀略』から、1971 1871年の普仏戦争を例に取って論じた「現代の謀略は国民大衆を狙わなければ」ならないという主旨の部分を引き、さらには最後の結論として、私自身の見解を、つぎのように記しました。


 ところが、国家総力戦といわれる段階になると、自国民を戦争に駆り立て、戦争を継続し拡大するためにも、自国民までを対象とする「謀略」の重要性が急速に増してきた。日本の「鬼畜米英」宣伝などは至極単純な構造である。欧米諸国では、すでに第一次大戦でも公然たる反戦運動が展開されているから、権力者側も世論操作の技術を磨かざるを得ず、自国民や味方の国の国民大衆を狙う「謀略」の手口も複雑に発達した。

 日本は、今回の湾岸戦争では「ミツグ君」でしかなかった。だが、そういうミソッカス的立場にもかかわらず、欧米諸国で中世の宗教戦争以来発達を極めた味方向け「謀略」の対象にされ、歴史上はじめて本格的な洗礼を受けたのである。数々の謀略に目が眩んでしまったのも、無理からぬことだったのかもしれない。

 もちろん日本だけのことではなかったが、「平和のペン」は「謀略」を完全に見破る力量を欠いていた。だから、湾岸戦争を防止できなかったのだが、今からでも遅くはない。この失敗の教訓を可能なかぎり早く整理し、現在の事態にも警告を発しつつ、今後に備えることが肝要であろう。


 ご質問の「米英」は、良い悪いは別として、人類社会の歴史上、最高に発達した資本主義国であり、情報通信に関しても世界の中心的存在です。アメリカは特に「デモクラシー」の旗を翻して、中東の「野蛮な遅れた国」に「正義をもたらす使命感」を、思想的な武器にしています。当然、謀略の面でも最先端を行っています。

 ですから、個々の戦争、戦闘に関する報道が、事実と一致しているかどうかだけでは、その「戦争報道」の評価はできません。むしろ、そうしてはならないと言った方が、的確なのかもしれません。

 私は、現在、英語のヒアリング訓練を兼ねて、米軍放送のニュースを録音し、自転車に乗る時間をウォ-クマン学習、自称「多忙の隙間産業」に当てています。昔は原語のシャンソンの練習に使っていた時間なので、随分野暮になったなと思いつつ、毎日聞いています。今度のイラク爆撃で、特に注意して聞いた部分は、「飛行禁止区域」に関する説明でした。参考のために自宅で取っている日本経済新聞と比較しますと、日経では、これもったったの一度だけでしたが、国連が決議したものではなくて、米英仏だけで始め、途中で仏が抜けた経過を解説しました。ところが、米軍放送に入ってくるアメリカの各種ラディオ放送の内の一つとして、この説明をした例はなかったのです。

 それとは逆に面白かったのは、ABC のコメンテイター、ポール・ハーヴェイが、アメリカの「中東に対する援助」が、「アメリカが中東から輸入するガソリンの値段」よりも多くなっていると言って、軽い溜め息をついたことでした。アメリカ人は、サダム・フセインやカダフィのような「野蛮な独裁者」が、石油地帯を押さえているから、アメリカ軍を派遣して、「デモクラシー」を輸出しなくてはならないのだと教え込まれてきたのですが、これは経済的には割りの合わない話になるのです。しかし、報道の仕方によっては、この割りに合わない話を聞けば聞くほど、アラブの「テロリスト」へのアメリカ人の怒りが掻き立てられることにもなるのです。

 最も象徴的だったのは、モニカ・スキャンダルの最中に、やはりポール・ハーヴェイが、何度も「Wag the Dog」(これもわがホームページ参照)と合いの手を入れていたのに、イラク爆撃を開始した途端、クリントンの支持率が70%台に跳ね上がったことでした。この両者に関するフランスの報道は、まったく逆だったですから、上記の「国家総力戦」時代における各国の宣伝戦にも、それぞれの特色があるということではないでしょうか。

 以上、「戦争報道」は最も政治的に位置付けられるものであって、その前後関係から総合的に観察すべきだという私見を、具体的な事例に基づいて簡略にまとめてみました。この拙文をも大いに疑って、具体的な事例とその背景についての研究を深め、複雑な状況下における「戦争報道」分析の手法を豊かにして下さることを、お願いします。

 また、そちらの図書館で探して、私が復刻版を持っている下記の本の初版を見られることを、お勧めします。Newstatesmanの記事もそうですが、この種の論評の歴史的研究も面白いのではないでしょうか。

 以下、拙訳『偽イスラエル政治神話』(p.195-196)より。


 人間の脂肪で作った石鹸の場合。

 この物語は、すでに1914-18年の戦争で使い古されたデマ宣伝だった。[1]

訳注1. 拙著『アウシュヴィッツの争点』114頁参照。そこでは、湾岸戦争勃発直後に出たイギリスの雑誌『ニューステイツマン』(91.2.8)の記事を要約紹介したが、1928年初版、イギリスの下院議員、アーサー・ポンソンビーの著書『戦時の虚言』には、当時の『ザ・タイムズ』の記事や下院の議事録を検証した12頁の論文、「死体工場」が収められている。この時は「石鹸」ではなくて、戦死者の死体から取り出した「グリセリン」を、兵器の「潤滑油」に使ったとされていた。この件では、戦後、イギリス下院が、ドイツ首相の主張を受け入れて虚言の経過を認め、政府はドイツに公式謝罪した。「死体工場」の最後に紹介されているアメリカのリッチモンド州の新聞『タイムズ・ディスパッチ』(25.12.6)の記事の締めくくりには、「つぎの戦争では、プロパガンダが、今度の世界大戦が作り出した最高のものよりも、さらに陰険かつ巧妙になるに違いない」とある。


 初版は、下記のようです。

 Falsehood in War-time: Containing an Assortment of Lies Circulated Throughout the Nations During the Great War. Arthur Ponsonby, London, George Allen and Unwin, 1928.

 なお、イラク問題に限らず、そちらにもいるはずのアラブ人の意見を聞いてみるのも、物事をあらゆる角度から観察する意味で役に立つでしょう。私は、こちらで今、アラブ人の留学生の修士論文、博士論文に協力しています。やはり英語の方が便利なようですが、もしも、意見交換をしてみたければ、話してみます。その場合は、mail下さい。

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 以上。


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