ユーゴ空爆の背景 利権と歴史と謀略と侵略とメディアの嘘と(8)

ユーゴ戦争:報道批判特集

Q2:誤爆報道で消えた「民族浄化」?

1999.5.14 WEB雑誌『憎まれ愚痴』20号掲載

mail再録。

 ユーゴ空爆は、まだ続いています。この空爆を正当化した理由は「人道」であり、その根拠は「ユーゴが行っている民族浄化(ethnic cleansing)」でした。今もそうです。

 ところが、この決定的に重要な、国際法をも無視せざるを得ないと称されたキーワード、民族浄化(ethnic cleansing)」が、中国大使館の誤爆報道で「消え失せた」のです。

 というのは少し誇張なのですが、嘘ではないのです。消え失せた場所は、日経新聞の紙面です。

 私が、誤爆発生直後に聞いて録音した米軍放送の中のAPニュースでは、まず最初に担当の局アナウンサーが、クリントン大統領が、誤爆を野蛮(barbaric)とする批判(criticism)を拒絶している(rejecting)と前置きし、次に竜巻被害地帯見舞いの現地同行アナウンサーが、クリントンが、誤爆を悲劇的な間違い(tragic mistake)と呼んだ(called)と解説し、その後に、クリントンの、つぎのような短い肉声録音が挿入されました。

「私は、哀惜(regret)と深い追悼(condolence)のメッセージを、中国の指導者(leaders)と、セルビアの罪なく死んだ人々」(innocent people of Serbia who has perished)に送る。私は、これを憎む(I hate it)」

 前後の事情から判断すれば、最後の「これ(it)」は、誤爆のことなのでしょうが、いわゆる言語明瞭・意味不明瞭。中国の方は「指導者(leaders)」で、セルビアの方は「人々(people)」というのもバランスが悪いのです。また、アナウンサーの解説には、「セルビアの罪なく死んだ人々」の説明がありませんでした。それはそれとして……。

 続いて現地同行アナウンサーが、こう解説しました。

「これが野蛮行為(barbaric act)だという中国の主張(claim)について、クリントンは、何が野蛮かと言えばユーゴの大統領の民族浄化であると強調しました」

 ところが日経(1999.5.5)の紙面の、[空爆継続を強調/米大統領/誤爆は謝罪」の見出しの記事では、単に「野蛮なのはミロソヴィッチ・ユーゴ大統領がやっていることだ」となっているのです。何を「やっている」というのでしょうか

 さて、日本の大手新聞の紙面では、あってもなくてもいいようなキーワード、「民族浄化」について、アメリカの放送では、もう完全に「ホロコースト」と同一視しています。毎日、叫んでいます。連呼しています。つまり、アメリカ人が子供の頃から叩き込まれる人類最悪の犯罪、ヒトラーによるユダヤ人の「民族絶滅を目的とする大量虐殺」(私見では人類史上最大の謀略的大嘘)と同じことを、「最後の共産主義の独裁者」(last communist dictator)が行っているのだという絶叫が、アメリカ中に、そして日本の、世界中の電波空間にまで、米軍放送に乗って谺しています。騙され馴れている人々は、まったく同じ手口の詐欺でも、性懲りもなく、またまた騙されるのです。

 ユーゴには「アメリカの声」(Voice of America)が流れています。反政府派の雑誌には、時刻によって変わる波長が表に記された広告(実物を岩田昌征千葉大学教授が持っていて集会で見せてくれた)が載っているのですから、同じような宣伝がされているに違いありません。それを聞いて逃げ出さないアルバニア人が何人いるのでしょうか。

 ところが、先に送った私のmail,Q1:で一部を紹介した『毎日新聞』(1999.3.31)「記者の目」欄では、現地にいる日本人記者が、「コソボで、アルバニア系住民が主張するような組織的な虐殺が起きていたという印象を私は持てなかった。現場を数多く踏んだ外国人記者でも、コソボ解放軍(KLA)の兵士の遺体は見ても、民間人の遺体を見たという人はあまりいなかった」と書いているのです。

 私は、この記事と、その後の現地情報について、毎日新聞の外信部に直接電話をして、「笠原敏彦記者が書いたことを否定するような情報が、その後に入ったか」と聞くと、いわゆる避難民情報はあるが、職業的な記者による情報はないし、大量の民間人虐殺の写真もないという返事でした。

 ユーゴ政府発表によると、空爆開始以後、5月5日までに、NATOの空爆による死者は約1200人、重傷者は約5000人です。これも本日、いや最早昨日の5月10日の米軍放送によると、これまでは沈黙していた湾岸戦争の英雄、シュワルツコフ将軍が、この作戦を失敗で、ユーゴの再建の援助のためにアメリカ人の税金が大量に使われるであろうと批判したそうです。人の命よりも先に、何でも金額に換算しないと理解できないアメリカの、皆ではないにしても大部分の俗物どもに、改めて吐き気を覚えました。

 最後に、私も「アメリカの声」ならぬ「日本の声」放送の広告を流します。『噂の真相』と『創』に毎号載っている一面広告の丸写しに、その後の予定変更を加えたものです。

 最早本日、1999.5.11.(火)19:00

 新宿歌舞伎町ロフトプラスワンにて、

 出演:西岡昌紀(「ガス室の真実」著者)、宇垣大成(軍事専門家)、岩田昌征(千葉大学教授)、菅原秀(アジア記者クラブ)

 出演者変更に関して助言した手前、私も、かぶりつきの位置に座って、参加します。

 一緒にビールでも飲みながら、激突論争を観戦しませんか。

 以上でQ2:終り。次回に続く。


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