連載:元共産党「二重秘密党員」の遺言(その22)

鬼よ笑え、20世紀をソ連と「結社の自由」興亡史として理論化の構想

2000.12.24.入力。WEB雑誌憎まれ愚痴連載

 時の経つのは実に早いもので、10月11日に、新宿歌舞伎町ロフトプラスワンにて、国労争議についての激論の企画者兼司会者としての出演をしてから、2ヶ月以上も過ぎてしまった。最早、年末である。しかも、私が好きでも無いのに元号よりもましだから仕方なしに使っている耶蘇教の暦によれば、この年末は、20世紀の終わりであるどころか千年紀の終わりでもある。広くは宇宙規模、狭くとも地球規模の20世紀論、歴史論が溢れる折から、本シリーズでも、そのような視点で、今年の最後の遺言を綴りつつ、来年に備えることとする。まずは、身近な資料を紹介する。

 本シリーズ(その20)記載のごとく、ロフトプラスワンでは、インターネット空間から入手した「さざ波通信」の国労争議に関する日本共産党中央批判文書を配付し、司会としての開会の言葉の冒頭で、個人所有の小型ヴィデオカメラとパソコンが、既成の中央集権的組織に風穴を開け始めたことが、私の企画の動機であると述べた。その激論を受けてか否か、下記の状況を伝える通信が送られてきた。


先週末『しんぶん赤旗』による『さざ波通信』攻撃について(トピックスより再録)

 10月20日付『しんぶん赤旗』は、2面の下のほうの囲み記事で、われわれ『さざ波通信』について、次のようにはじめて正式の見解を掲載した。


「さざ波通信」と称するインターネット上のホームページにおける、党攻撃について

 さいきん、インターネットの「さざ波通信」と称するホームページを見た人から、「とても党員の意見とは思えない」「党としての見解を、きちんと公表する必要があるのではないか」などの意見が寄せられています。

 この「さざ波通信」なるものは、「現役の日本共産党員によって運営」されていると称していますが、その実態は、日本共産党に敵対する立場に立つものです。今回の日本共産党大会についても、大会議案が発表される前から「決議案はほぼ間違いなく、この間の不破指導部の右傾化路線を全面的に正当化し、その路線のいっそうの推進をうたうものとなる」「すべての良心的党員が、悔いを残さぬよう全力をあげて不破指導部の路線に対する闘いを遂行することを心から訴え」る、とよびかけ、特別の欄までつくっています。

 このようなホームページが、日本共産党への攻撃、内部からのかく乱を目的としたものであることは明らかです。日本共産党員がそこに意見を発表することは、たとえ善意からであっても、けっきょく彼らの党攻撃の目的に手を貸すことにならざるをません。

 なお、「さざ波通信」はホームページ開設当初から、ニセ「左翼」集団の一つ「日本革命的共産主義者同盟」の発行する新聞に、「多くの方々からのアクセスと参加」をよびかける「投稿」をのせています。


 以上が全文であるが、まずもって、私たちは、わが党の不破指導部に対して厳しい批判(攻撃?)をしているのはたしかであるが、共産党全体に対して攻撃をしたことはない。逆に私たちは、不破指導部による変質策動から、わが党を守ろうとしているのである。

 さらに、末尾で思わせぶりに「ニセ「左翼」集団の一つ「日本革命的共産主義者同盟」の発行する新聞に、「多くの方々からのアクセスと参加」をよびかける「投稿」をのせています」などと書かれているが、これは読者を迷わす詐術である。ここで名指しされている新聞はおそらく『かけはし』のことを指していると思われるが、私たちは、そこに投稿などしていない。『かけはし』編集部が、インターネット上で発見した私たちのサイトのことを機関紙上で紹介する際に、誤って「投稿」として紹介したというのが事実である。実際、そこで紹介されている文章は、私たちのサイトのトップページにある文章そのままである。私たちは、『かけはし』紙上で、誤った紹介のされ方をしているのを知って、ただちに『かけはし』編集部にメールを出して抗議し、訂正を申し入れている。この申し入れは受け入れられ、後の号で訂正が出されている。

 読者になにやら恐ろしげな印象だけを与えることを目的にした末尾のこの文章は、理屈や事実で持って争うとせず、恐怖心を掻き立てることで大衆から切り離そうとする卑劣な手法であり、まさに、支配層がこれまで共産党それ自身に対して繰り返し用いてきた手法とまったく同じであることを、ここで言い添えておく。(S・T)


『正論』(2001.1)「インターネットが共産党を滅ぼす」批判

 上記の10月20日付『しんぶん赤旗』記事とは逆に、私は、「さざ波通信」を見て、「とても党員の意見とは思えない」などとは思わなかった。むしろ、自分が党員だった当時に何度も聞いた活動的な党員の発言と同じであって、同じ悩みが続いているな、と感じた。「とても党員の意見とは思えない」などと感じる党員は、世間を知らない怠け者の官僚主義者か、自分の頭で考えることをしない狂信者であろう。そういう連中しか残らなくなったから、若者に見放され、さりとて根本的な建て直しはできず、規約改正などの彌縫策を講じているのである。

 さて、私は別途、何度か記しているが、資料調査を行う際、いわゆる右か左かの区別はしないことにしている。どちらも間違っている場合が多いし、事実を伝えている場合も双方に少しはあるのである。間違いだらけの記事からさえも、面白い手掛かりを発見することがある。とはいっても、当然、心は二つ以上なれど、身は一つ。すべての情報源を網羅する余力は無い。通常は、武蔵野市の中央図書館で、雑誌記事を点検するのが精一杯である。

「さざ波通信」の件では、いわゆる右の『正論』(2001.1)に、「インターネットが共産党を滅ぼす」と題する記事が載っていた。のぞいてみると、案の定、「さざ波通信」に関する上記の「10月20日付『しんぶん赤旗』」記事を冒頭に配した記事だった。

 筆者の肩書きは「大阪経済大学助教授」である。1961年の生まれだから、まだ39歳かそこら、私の子供の世代である。担当は「マクロ経済学」だが、その目的のために、「共産主義の理論と歴史研究を課題としている」のだそうである。しかし、「マクロ」と大きく出た割には、記事の内容が、せせこましい。羊頭狗肉とまでは言わないが、それに近い。羊頭狗肉とは、店の看板に羊の頭を掲げておいて、犬の肉を売ることだが、それほどの嘘ばかりではない。題名に直結する部分よりも、「歴史研究」に属する中間の項目の方が中身が濃くて、「革命幻想がもたらす党の隠蔽体質」とか「戦後世代に合わない共産主義理論」とかが、中心の犬の肉のアンコになっており、その前後を、「党員のホームページにフタする共産党」とか「指導部の統制を粉砕するインターネット」とかの羊の薄い皮と羊の肉で、くるむ構造になっていた。私としては、期待はずれ、いや、あんまり期待はしていなかったのだが、やはり、失望した

 というのは、私が、このところ考え続けていたのは、マクロなどと、こけ威しにもならない英語の片言で気取ったりはしないが、もっともっと総合的なことだったからである。要約すると、人類史全体を見渡した上で、個人の独立の歴史を睨みながら、いわゆる「党」、法律的には「結社」の歴史と、いわゆる「言論、集会、出版、結社の自由」の歴史と、技術の歴史とを関連付けて、さらには、それら諸々の条件の複雑な裏表の歴史の矛盾と相克の歴史を、具体的事例に基づいて解明し、総合的な研究方法を構築すること、だったのである。いきなり日本共産党という個別の結社に特有の現象を論ずる方法では、最初から、視点を狭めてしまう。世間的には、いわゆる「右からの攻撃」としてしか評価されなくなり、結果として、目糞鼻糞の低水準の議論に陥る可能性が高いのである。簡単に言えば子供の口喧嘩の水準である。

 来年のことを言うと鬼が笑うなどと、子供の頃に覚えた台詞を懐かしく思い出しながら、来年の構想を簡略に述べると、その基本は、すでに6年以上も前の発表の拙著、『電波メディアの神話』の「はしがき」に記した「壮大な知的冒険への旅立ち」の続編となる。6年以上前に私は、「言論の自由の過去・現在・未来の全体をさぐる」ことを意図した。私が類書を超えようと努力した点は、上述のような「技術の歴史」と言論の自由の相互関係の論証であった。しかし、その時期は、まだ、パソコンとマルチメディアの草創期であって、インターネット通信の爆発的な発達までは予測できなかった。私が自分自身の実践を踏まえて語ることができたのは、ヴィデオカメラの段階の個人的な言論の自由の拡大であった。

 結社の自由の要求は本来、個人の自由を踏まえるものでもあったのだが、歴史的な事実は、それを裏切り、左翼権力による個人の言論の自由の抑圧が、20世紀の幾多の悲劇の原因をなした。「真理も極端に至れば誤りとなる」とも言うが、その「真理」そのものが、いわゆる教条であり、不十分だったのであろう。この現実の矛盾の土台をなす言論の技術の所有関係こそが、私の関心事である。集団の所有のはずが、実際には、指導者と称する官僚の独裁的な所有に転じたのである。いわゆる「左」の結社の堕落について、私は、輪転印刷機時代の限界の中での「左翼権力の独裁化」という視点を用意している。ガリ版チラシでは対抗できない程度の組織力と技術力を握った左翼権力が、異論を抱く個人の独立を侵害するという皮肉な現象を、一つの時代の制約の中での悲劇、または喜劇の歴史として、観察するのである。その際、インターネット通信は、拙著『電波メディアの神話』の温故知新の位置付けによると、活字を拾って一人でも新聞や本が発行でき、それが最先端技術だった時代の螺旋的な上昇における再現となる。

以上で(その22)終り。(その23)に続く。


(その23)共産党中央に国鉄闘争「4党合意」拒否の明確化を求める反主流(その2)
『憎まれ愚痴』61号の目次
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