集会報告:東京都公立福生病院 透析中止死亡事件を問う
〜これは治療法の選択ではありません。死への誘導ではないでしょうか?〜【11月23日(土)】

 11月23日にエルおおさかで討論集会を開催しました。
 今集会は、10月17日に提訴された民事裁判の報告とともに、なぜこの事件が起こったのかを深めようと企画しました。
 47名の参加で会場はいっぱいでした。皆さん真剣なまなざしで聞き入っておられました。

     会場の様子

T. 10/17福生病院事件民事裁判提訴報告(冠木弁護士)
  • カルテ開示されたことで、訴状はカルテから抽出した事実をもとに構成されている。そのため、医師の説明内容、看護ケア、患者・家族の訴えが明らかになった。以下、重要な点を簡単にまとめた。
  1. 事実経過を訴状にそって報告
    • 患者は5~6年前から透析を受けていた。
    • 2018年8月9日にシャントが閉塞。福生病院を紹介される。 福生病院での説明「血液透析は治療ではない。腎不全というものによる死期を遠ざけているに過ぎない。また、多くの犠牲もつきものであるため、最も大切なのは自己意志である。今後も透析を継続して延命を図るのであれば新規アクセス造設を行うが、透析の継続を望まないのであれば、手術は行う必要はない。その際、2~3週間程度の寿命となることが予想できる。繰り返すが、どうするかの選択は本人意志である。」その後、患者は透析離脱に同意した。
      その後、原告である夫も2つの選択の説明を受けた。しかし、以前も中断したことがあったが、再開するようになったので、そのときも気が変わって透析するだろうと思って承諾した。2人で「透析離脱すると死ぬけどいいのか」というような話合いは全くなされていない。
    • 8月14日苦しい状態になって入院。
      11:00 透析離脱について「自分で決めた。だけど、こんなに苦しくなるとは思わなかった。撤回するならしたい。でも無理なのもわかっている。」家族:本人が苦しいから治療(テシオカテーテル)をやって楽にしてほしい。
      医師より説明:「薬で苦しくないようにしていきます」
    • 8月15日 夫が胃潰瘍で出血。緊急入院して手術。夫は「妻の透析をできるようにしてください」と頼んだ。医師は「わかった」「わかった」という返事をした。
    • 8月16日 
      2:00~7:30までの間 「あー苦しい。痛い」「を連発。酸素飽和度も低下。3リットルの酸素投与のみ。
      9:45 看護師は、本人より「こんなに苦しいなら透析した方がよい。撤回する」と混乱しながら話したことを医師に伝えた。酸素8リットルに増量の指示。
      11:45 長男と次男へ説明。意識が清明であった時の本人の意思を尊重することを伝えた。
      夫への説明、了承を得たと記載があるが、夫は「つらいのがとれてまた透析したいと言ったらお願いします」と述べた。
      14:00 鎮静剤を開始、17:11死亡された。

  2. 裁判の論点について報告
    1. 医師が治療行為の中止を提案し、中止したことの違法性
      透析離脱=死を医師から提案している。医師の役割である、患者へ生きる意欲をもてるような説得がされていない。この医師は「透析は治療ではない」とも言っている。とりわけ、透析再開を何度も訴えたにもかかわらず、無視して、助けなかった。
    2. 「透析離脱」の同意に際して、撤回できる説明をしなかったことが説明義務違反
      透析離脱証明書には、撤回できるという記載がない。患者は「撤回するならしたい。でも無理なのもわかっている」と明確に言っている。
    3. 医師の道徳・倫理規範が問題になる。

  3. 原告の夫からのメッセージ紹介
    妻が息苦しさから福生病院に入院したとき、亡くなるとは思っていなかった。入院すれば助けてくれると思っていた。死に方が不自然で腑に落ちない。…本人が苦しんでいるのに治療する気配がなかったのはなぜか?知りたいと思い裁判を起こすことを決心した。
    ・・・「とうたすかかか」(16日7時50分)と何度もスマホにメッセージが入っていた。見たとき涙が止まらなかった。 と、切々たる思いを紹介しました。

  4. 情報公開請求により、@透析に対して使用している説明書と同意書 A血液透析マニュアルが開示されたと補足説明がされた。

U.「死に向かって進む「本人意思尊重」列車を止めるために私たちができることは何か」
3つのポイントにそって本質は何かを考え、まとめとして以下の報告を行った。(下のリンクのPDF参照)
  1. 「本人意思」は死に向かうときだけ「尊重」されている
  2. 「終末期」の概念が、勝手に乱用され、歪曲・拡大されている
  3. 死に向かう「本人意思」に、「尊重」はおかしい。死にたい気持ちに秘められた訳は、社会の矛盾から生じている
  4. 死に向かう「本人意思」は個人的な「自己責任」ではなく、社会の問題である

V.「医療が成長戦略の柱に」をテーマに安倍政権の医療政策を批判した
 安倍政権発足から医療の切り捨てが加速していること、官邸と経済界主導で、社会保障政策が決定され、公的社会保障が解体に進んでいることを指摘。
 「本人意思の尊重」といいながら治療をあきらめる方向に誘導される危険のあるACPが診療報酬に組み込まれたことで、現場でも医療の切り捨てが進む危険を指摘。
どのように反対世論を作っていくか、現場でどう取り組むかが問われていると提起した。
 政策と今事件との直接的関係があるかの質問が会場からあった。それに対して「政策と直接的関係はないが、医療切り捨て政策の大きな動きの一つとしてこの事件は表れている」と回答。また、会場からは「近年は終末期に医療をしないことが『終末期医療』だ。人工呼吸器、胃瘻、人工透析がターゲットになっている」との発言もあった。

W.会場からの発言
  • 透析治療を受けておられる患者さん:透析が治療ではないと言われると悲しい。医師と看護師が一丸となって透析してくれている。みんなで社会を支えてくれているのはよくわかっている。わけ隔てなく生きていけるように、皆さんで声を上げよう。
  • 難病患者さん:透析が治療でないなら、他の難病の治療もそうなっていくのではないか
  • 車椅子での参加者:障がい者は健康でないと思われている。どんな姿でもみんなが自分らしく生きることのできる社会を。

X.透析医学会への声明「透析中止要件を緩和・拡大して救命を打ち切らないでください!」を提起
 裁判の報告の後に弁護士から提案されました。
 透析医学会は、この事件のあと、福生病院のカルテも見たにもかかわらず妥当と判断している。本人が離脱の撤回を言っていることには触れずに、妥当としているのは事実誤認である。
その上で、ガイドラインで中止の要件を見直そうとしていることはいけないと、批判すべきである。
 今までは中止の要件が@透析治療自体がかえって危険な場合A癌などの合併症で全身状態が極めて不良な場合であるが、さらに広げようとしている。
 これによって、多くの患者が死ぬことになる。それは認められない。

集会の終わりに、弁護士から、
 裁判だけに終わらせたくない。政策全体の現れで意識の中に入っている。切り捨ての雰囲気の中でこの事件はある。医師は反省していないし、看護師も頑張ったと思っている。
 私たちは小さな力だが、不条理に対しておかしい、といおう。力で潰そうとしても潰されたり、消えるものでもない。と締めくくった。
 集会後の運営委員会で、透析医学会宛に内容証明で送ることを決定した。



集会案内【11月23日(土)】
 透析中止死亡事件を問う

〜これは治療法の選択の問題ではありません。死への誘導ではないでしょうか?〜

日時:2019年11月23日(土)13時30分〜16時30分(開場13時15分)
場所:エルおおさか 南館10階 101号室
(資料代500円)


集会報告:いまなぜ「終末期」及び「事前指示書普及」なのか【3月9日(土)】



会場の様子


 参加者31名
 集会直前の3月7日に驚愕する生病院透析中止事件」の報道がありました。
 集会冒頭では、代表の冠木弁護士から「あまりにもひどい。病院と厚労省に対して、緊急で抗議声明を出そう」と呼びかけがありました。
 この事件は、集会で取り上げている「終末期」とみなされた透析が必要な患者さんに対して、@十分な治療の選択肢を提示することなく、A透析の中止を意思確認書に同意させ、Bその後透析をしてほしいと本人がいっているにもかかわらずC鎮静剤を投与しD翌日死亡させたことで、大きな問題として報道されました。(決議参照(PDF形式))

 集会では、福生病院事件が氷山の一角であり、厚労省が出したガイドラインや、事前指示書が普及する中で現場では、医療の切り捨てが進行していることに事例を示しながら警鐘を鳴らしました。

スライド参照(PDF形式)

  • 終末期と最近言われるが、「終末期」の規定も定義もあいまいで、科学的な根拠や判定基準が存在しない漠然としたものである。
  • 事前指示書の具体例
  • 「事前」には「終末期」の具体的な指示は示せない。事前指示の表明は不可能
  • 病院で蘇生処置拒否の同意書を書いていたら、治療の打ち切りに進む危険性の具体例
  • 蘇生処置を拒否していないと転院できない事例
  • 「胃瘻を作ってほしい」という家族の意思も認められない。
  • 「事前指示書」重視ではなく、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)という過程重視の考えが推進されているが、要注意。
  • ACPでは、治療してほしいのに、何度も説得されて、治療をあきらめる「事前指示書」になる現実 等が紹介された。
  • ACPが、高齢者へのバッシングや社会保障費削減政策のイデオロギーと連動して、治療拒否を迫っていること。支援のない人にとっては、治療の選択肢などなく、蘇生処置を拒否するという選択しかない。強制に等しいこと。
  • このような現実が起こっていることを厚労省に訴えること。 が提案されました。
会場からは
  • 大病を患っている。でも、死ぬまで最低限の治療は受けたい。
  • 福生病院の事例で、「楽な方がいい」と患者は答えてしまう。誘導されてしまう。
  • 生命倫理の講義で生徒は、「最後は個人の自由でしょ」という。すべての治療が受けられたうえで選べる自由があるのか?弱者の自由が制限されているというからくりがある。
  • 憲法25条があるから、皆保険制度がある。大事にしないといけない。しかし、続きさえすればどんな制度でもいいという「厚生省のガイドライン」はおかしい。
  • 福生病院の外科医の治療の2つの選択肢の提案しかしないのはおかしい。少なくとも5つの選択肢はあるはず。怖がるとわかっていて首からのカテーテル挿入を提案し、拒否するだろうと考え、後は中止を提案。結局中止=死に誘導している。医師の義務を果たしていない。
等次々と意見が出ました。

後半では、療養型病院で妻を懸命に介護されたFさんの体験が紹介されました。

経過

 15年前に左の脳出血、右半身のマヒとなったが、リハビリで杖歩行ができるようになり、普通に生活を楽しんでいた。ところが、1年前に右の脳出血を発症し、急性期病院で一命をとりとめたが、遷延性意識障害が残った。
本人が「胃瘻NO、人工呼吸器NO」と手帳に書いていたので、悩んだが、胃瘻を作ることにした。
 2か月後に療養型病院に転院。
 入院手続きの時「次に出血したら、植物状態になります。延命措置しますか?」と問われ、本人の希望だから、延命措置はしないと答えてしまう。入院は3か月が限度と言われた。
 それからの入院生活で苦難と苦闘。それは、何よりも看護師がFさんたちを応援し、熱意のない医師とも闘い、助けるための看護に一丸となって取り組んだ熱い思いがあふれてくる闘病生活でした。
印象的ないくつかのエピソードをあげます。
 全く誠意のない対応だった主治医に対して、胃瘻のカロリー増やしてもらうようにお願いしても、聞いてもらえず、 何人もの看護師が要求してくれて医師も指示を変えることになった。
 延命の同意書「しない」からすべて「する」に変えた。
 インフルエンザになって肺炎を併発、医師からは手の打ちようがないと説明されたが、看護師が反乱を起こし、人工呼吸器をつけることを提案。Fさんも同意したこと。それによって酸素濃度も上がった。
 主治医の交代を申請し、理解のある医師になった。新しい主治医は、検査データなど示しながら説明し、「深刻だが全力で治療にあたる」と言ってくれて、安心し納得できた。
 しかし、肺の状態は悪化しており、最期の数日間は人工呼吸器で治療を続けたが、娘さんが到着するのを待つかの如く息を引き取られた。

 お話を聞き終えて
 悲しみもありましたが、心が温まる思いで胸がいっぱいになりました。

 会場から内科医の発言
 Fさんの話で、医療者はどうあるべきかが問われている。最近はなんでも同意を取る傾向にある。患者の思いを引き出せているか?実際はなかなかできていない。
 胃瘻については、負担を家族にかけると選択を狭める。社会資源を活用することも重要。
 福生病院の事例についてコメント
 医師は治療法をすべて開示することになっている。しかし、2つの選択肢で幅を狭めている。うつ病の患者は気持ちを引き出す過程が必要だが、それをせずに最初から限定している。この事件は許せない。

 最後に、集会決議と福生病院への抗議声明を出すことを確認し閉会しました。



討論会案内【3月9日(土)】
 テーマ いまなぜ「終末期」及び「事前指示書普及」なのか

〜医療はあくまで人の命を救うためにあるべきです〜

日時:2019年3月9日(土)13時30分〜16時30分(開場13時15分)
場所:エルおおさか 本館7階 708号室
(資料代500円)


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