2019年12月19日 透析中止要件を緩和・拡大して 救命を打ち切らないでください! 〒113−0033 東京都文京区本郷2−38−21 アラミドビル2階 一般社団法人日本透析医学会   理事長 中 元 秀 友 殿           大阪市北区西天満1丁目9番13号              パークビル中之島501号             冠木克彦法律事務所気付           尊厳死法いらない連絡会            代表 弁護士 冠 木 克 彦  私達は、先日「透析中止死亡事件を問う」をテーマに集会を持ち、本件の重大性を認識し、以下の要請を日本透析医学会に送ることを決議した。            記 1.貴学会は、公立福生病院において2018年8月16日血液透析中止による死亡事件が発生した事をうけて、2019年5月31日「日本透析医学会ステートメント」を発表され、その中で、「本症例では患者さんの血液透析終了の意思は固く、透析終了の真摯な意思は明らかであったとの事です」と事実関係を認定して、「患者さんが自ら血液透析終了の意思を表明しており、その意思が尊重されてよい事案であると判断しました」と述べておられます。しかし、カルテも調査された上での判断であれば、患者は明確に、「こんなに苦しいなら透析した方がよい。撤回する」と明言しており、「血液透析終了の意思」を撤回していますから、医師は即座に透析を再開して救命する義務を有していた点は全く無視し、同病院を擁護しています。   貴学会はこの決定的な事実誤認の上で、   「そこで、これまでの経過と合わせて、日本透析医学会では、従前の提言にSDM及びACP並びに終末期でない患者さんの意思決定プロセスなどを追加して改訂すべき時期に来ていると判断しました。先例が少ない領域ですが、今回、標準的なプロセスを示すことを目的として、意思決定プロセスを公表すべく『透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言作成委員会』(委員長:岡田一義理事、副委員長:倉賀野隆裕理事、酒井謙理事、土谷健理事)を立ち上げ、新たな提言を今年度中(令和2年3月末)に作成することを予定しています。」 と述べています。 2.公立福生病院事件における担当医師は、透析患者に対して、「血液透析は治療ではない。腎不全というものによる死期を遠ざけているにすぎない」と述べ、あたかも「あなたは本当は死んでいるんだよ」と思い込ませて、生きる意欲や希望を減少させたうえで透析離脱を提案しています。本来医師は、患者に対して、救命に向かって希望と勇気を与えて、心身ともに生命力をよみがえらせることができる職業であるからこそ、人の尊敬と信頼を得ることができます。   しかるに、貴学会は、上記担当医師の言動を批判せず擁護したうえで、ガイドラインの改訂を行うということは、上記担当医師の考え方を了承したうえで出されるわけですから、患者の生命にとっては危険な事態を予測せざるをえません。貴学会は、透析中止は患者自らの「自由意思」「自己決定」に基づくのであるから問題はないといわれるかも知れません。   しかし、この問題はそう単純ではありません。日常生活は誰もが「自己決定」で行動していますが、それをわざわざ「自由意思」だ「自己決定」だとはいいません。問題になるのは、透析治療を中止するか、しないか、などの重要でかつ「他の人」に影響の及ぶ「ある人」の行動が問題となる時に、その「ある人」が自分の意思で決定したとなると「他の人」には責任は及ばない、そういう場面で登場し、その実体は、強い者、大きい者には責任が及ばないように「善良なる弱い人」を説得したり誘導したりして「その気にさせて」自己の意思という外形をとって決定させるという、目に見えにくい形をとった強制であることに注意しなければなりません。   貴学会が透析中止要件を緩和・拡大したガイドラインを作成し、各病院の医師がそれにしたがって、どんどん患者にすすめたとすると、本来助けられるべき生命が切り捨てられる結果をもたらすことになりましょう。   医師の最高道徳倫理といわれる「ヒポクラテスの誓い」は、要約すると「医師は自分の能力のかぎり、患者のために尽くすべきで決して害を与えてはならない」といわれるように、医師は、透析患者が透析離脱という危険な処置を強く望んでも、患者の生命を救うことに全力を挙げて、まずは、その患者に生きる希望を与えて救命の努力をするのが第一の責務と考えます。 以上、長く述べましたが、貴学会が最近の低劣な「死なせる医療」や「早く死なせる措置」などに陥ることなく、医師の矜恃を緊持されて対処されることを強く望む次第です。 以上